トラッカー、プロジェクター、ロボット、可動するルーター、CESのガジェットについて語ろう

CESが真の意味で「Consumer Electronics Show」(消費者向け電気機器展示会)の略だった時代はとうに過ぎ去った。主催のCTA(全米民生技術協会)は、そのことを小さく表記することであれこれ配慮している。スマートフォンなどが主役だった時代を振り返るには、先日の「10年前のCESベスト」記事がおすすめだ。各社が自社イベントでフラッグシップモデルを発表する傾向が強まり、Mobile World Congress(モバイルワールドコングレス)がCESの勢いを削いできた。

2022年は並行して開催されたイベントで、Samsung(サムソン)の廉価版フラッグシップとOnePlusの最新機種のプレビューが行われた。もちろん、LGとHTCも今回のショーに参加はしていたものの、スマートフォンのゲームからほとんど、あるいは完全に撤退してしまっていたことは状況の改善には良い影響を与えなかった。また、ほんの数年前まではショーで大きな存在感を示していたHuawei(ファーウェイ)も、すぐにはCESに復帰することはないだろう。

こうした空白の多くは「輸送技術」によって埋められた。この10年間で、CESは主要な自動車ショーへと変貌を遂げた。自動車メーカーは、自動運転や車載システムをはじめとして火星のメタバースへのロボットの派遣など、最先端の技術を世界に証明しようとしている。もちろんこのショーのおかげで、Kirsten(カーステン)記者とRebecca(レベッカ)記者は今週とても忙しかった

CESは、かつてのように携帯電話が多くないにもかかわらず、コンシューマーハードウェアの面でも大きなイベントであり続けている。PC、コネクテッドヘルス、スマートホームガジェット、アクセサリー、さらにはロボットの主要な展示会であることに変わりはない。また、業界がどのように進化しているかを知ることができるのも魅力だ。フィットネスを例にとると、ウェアラブルの数は減少しているものの、各社はリング(指輪)のような新しい形状を試している。一方で、Peloton(ペロトン)やMirror(ミラー)のような企業に対抗しようとする企業も急増してる。

画像クレジット:Garmin

ウェアラブル製品の展示はかなり控えめなものではあったが、Garmin(ガーミン)はハイブリッド型スマートウォッチSport(スポート)で注目を集めた。ハイブリッドスマートウォッチは、確かに長年にわたってさまざまな課題を抱えてきたが、Garminはウェアラブルカテゴリーにおいて驚くほど強いブランドであることを証明してきた。そしてVivomove Sport(ビボムーブ・スポート)は、派手なスマートウォッチを敬遠している人にもアピールできるすっきりとしたデザインで、かなり見栄えがする時計だ。

Tile(タイル)やApple(アップル)のAirTag(エアタグ)といった製品の人気を受けて、トラッカーはちょっとしたブームになった。2022年は、Tileが新しいPCパートナーを獲得した。ThinkPad X1(シンクパッドX1)がTileトラッキングに対応し、電源を切った状態でも最大14日間、紛失したノートPCを探すことができるようになった。一方、Targus(ターガス)は、AppleのFind My(探す)サポートを 最新のバックパックに直接組み込んでいる。

画像クレジット:Chipolo

しかし、CARDを発表したことで、Chipolo(チポロ)が一歩先に踏み出した。このデバイスは、クレジットカードよりもわずかに大きく、財布の中に入るようにデザインされていて、Find Myにも対応しているため製品を置き忘れると警告が表示される。現在、私はAirTagを1つ所有しており、鍵に使用している。大人になってから何度も財布を失くしたことがある私にとって、これはもう1つの購入しようと思わせる、かなり説得力のあるユースケースだと思う。

画像クレジット:TP-Link

Devin(デビン)記者は、「もし私が独立して裕福になったら、自宅での仕事のセットアップはどのようになるだろうか」(これは私の言い換えだが)という記事の最後に、AXE11000 Tri-Band Wi-Fi 6E Routerを紹介している。この製品は、ルーターの世界ではかなり異色な存在だ。このシステムには、より強い信号を得るために調整できるモーター付きのアンテナが搭載されている。価格は未定だが、今でも高価なTP-Linkの価格にこの贅沢さを上乗せすることになるだろう。しかし、より速いWi-Fiに値段をつけることができるだろうか?

画像クレジット:Anker

それよりもはるかにリーズナブルな価格で提供されるであろうリモートアクセサリーに拍手を送りたい。とりわけAnker(アンカー)はコストを抑える方法を知っている。220ドル(約2万5400円)で手に入るVideo Bar(ビデオバー)は、一種のオールインワンのウェブカムソリューションだ。これはAIによるピクチャーフレーミング機能を備えた2Kカメラと、内蔵のライトバーとスピーカーを搭載している。高度なスタジオ設備(あるいはOpal[オパール])に取って代わるものではないが、(比較的)安価にホームビデオのレベルアップを図りたい人にとっては、堅実なプラグ・アンド・プレイ・ソリューションと言えるだろう。

画像クレジット:Labrador Systems

今週初めには、ロボットショーとして進化しているCESについての記事を書いた。最大の難点は、家庭用ロボットは、ルンバをはじめとするロボット掃除機以外には、実用的なものがないことだ。しかし、今週Labrador(ラブラドール)のシステムを詳しく見ることができたのは幸いだった。なぜならこのシステムは、特に動きが不自由でありながら独立した生活を模索しているひとたちの、非常に現実的なニーズに対応しているからだ。このシステムは実質的に、家庭用のモバイル・ヘルプ・ハンドだ。

画像クレジット:Asus

楽しく新しい形状が登場しなければCESとはいえないが、2022年のCESでは、折りたたみ式の携帯電話の形状をノートPCにとりいれたAsus Zenbook 17 Fold OLED(エイスース・ゼンブック17・フォールドOLED)が圧倒的な存在感を示している。何よりも驚かされるのは、同社が実際に発売を予定しているということだ。レンダリング画像を最初に見たときに、この製品は単なるコンセプトだと思ったのは私だけではないと思うが、Asusはこのシステムを2022年の第2四半期に発売する予定だ。この写真にどれほど近いものが商品化されるかは、ほどなくわかるだろう。

画像クレジット:Samsung

Samsungは2022年、いつものような五感を刺激するような演出をしなかった。ロボットはなく、特注の洗濯機や格安の電話機などがあったが、楽しいプロジェクターが紛れ込んでいたのが良かった。比較的限定的な魅力しかないものの、各社はプロジェクターを実現しようと努力を続けている。少なくともこのプロジェクターは、小さくて、よくできていて、見た目も良い。ただ価格が900ドル(約10万4000円)であることから、ニッチな分野にとどまる可能性が高い。

画像クレジット:ROBYN BECK/AFP / Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:sako)

マーカー不要、動く物体にもプロジェクションマッピングが可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

今回新たに開発した高速RGB+IRプロジェクター。46×28cmとコンパクト

今回新たに開発した高速RGB+IRプロジェクター。46×28cmとコンパクト

科学技術振興機構は12月2日、マーカーがいらず、動くものにも投影可能なプロジェクションマッピング用高速プロジェクターを開発したと発表した。これは、24bitカラー(RGB)と、目に見えない8bitの赤外線(IR)をそれぞれ同時に投影し、空間センシングと映像の投影を同時に行うというもの。これにより、マーカーを必要としないダイナミックプロジェクションマッピング(DPM)が可能になった。

これは、東京工業大学渡辺義浩准教授東京エレクトロンデバイスの湯浅剛氏、フラウンホーファー応用光学精密機械工学研究所のUwe Lippmann(ウーヴェ・リップマン)氏、ViALUXのPetra Aswendt(ペトロ・アシュエンド)氏からなる日本とドイツの国際産学連携チームによる共同研究。およそ1000fpsという非常に高いフレームレートでRGB方式の24bitカラー画像と、IRによる8bitの不可視画像をそれぞれ同時に制御し、さらに独自開発の光学系システムにより、両画像の同軸位置合わせを行うことで、IR画像を投影し空間センシングしながら、リアルタイムでそれに合わせた画像の投影が行える。

建物などの立体構造物に映像を投影するプロジェクションマッピングでは、対象物の形状を捉え、自然に見えるように映像をその形状に合わせて加工し、投影する必要がある。特に対象物が動いている場合、カメラで対象物の位置や形状を認識し、それに合う形と陰影を持たせた映像をリアルタイムで生成し、相手の位置に合わせて投影することになる。そのため、動く対象物と映像のズレが人の目では感知できないほどの高速で同期させなければならない。これまで、それを実現させるためには、対象物を平面にしたり、対象物にマーカーを取り付ける必要があった。

同研究チームは、3Dセンシングの基本的な手法である、プロジェクターとカメラを組み合わせたシステムを構築し、プロジェクターで空間に投影された既知パターンの反射像をカメラで捉えることにより、マーカーを使わずに空間情報を取得できるようにした。これまで、この手法を用いたダイナミックプロジェクションマッピングでは、センシング用投影とディスプレイ用投影を同時に高速処理しようとすると干渉し合ってしまうという問題があったのだが、同チームはセンシングを目に見えないIRで行うことで、これを克服した。

マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

今回のプロジェクターによる画像投影を行ったトルソー(上)。トルソーにRGB画像とIR画像を同時に投影し、RGB画像のみを撮影したもの(中)。IR画像のみを感知するカメラで撮影したもの(下)

これを実現したのは、縦横に並べた1024×768個の微小な鏡の角度を個別に制御して投影画像を変化させるテキサス・インスツルメンツの「DLP」という技術を用いた投影装置「デジタルマイクロミラーデバイス」だ。RGBとIRの照明光学系を分離して、デジタルマイクロミラーデバイスの反射後に像を統合することで、コンパクトで高輝度の投影が可能になった。

マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

RGB+IR画像を高速で同時に投影するプロジェクターの光学系システム

また、ダイナミックプロジェクションマッピングで重要な処理の高速化においては、デジタルマイクロミラーデバイスの制御と光源の変調を高精度に連携させることで、最大925fpsという高いフレームレートを実現させ、さらに映像データの転送を高速化して、コンピューターからプロジェクターへの映像転送から投影までを、わずか数ミリ秒で行えるようにした。

マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

RGB画像とIR画像を、同プロジェクターを用いてスクリーン上に925fpsで投影している様子。右側のモニター上には、RGB画像のみを捉えるカメラで撮影した投影像(モニター内右)と、IR画像のみを捉えるカメラで撮影した投影像(モニター内左)が表示されている。スクリーンには2種類の画像を投影しているが、IR画像は人間には見えないことから、この不可視の投影像を空間センシングに利用できる

研究チームは、この技術の応用分野として、エンターテインメント、アート、広告といったビジネス分野、拡張現実分野の他、作業支援や医療支援などの幅広い社会実装に着手してゆくとのことだ。

MediumがグラフィックデザインツールのProjectorを買収、経営陣を強化

コンテンツパブリッシングプラットフォームのMediumが、Projectorという小さなスタートアップを買収する。これにともない13人のProjectorチーム全員がMediumにジョインし、Projectorの共同創業者でCEOのTrevor O’Brien(トレボー・オブライエン)氏がMediumの最高製品責任者になる。

Projectorについてご紹介しよう。同社はブラウザベースのグラフィックデザインツールを開発してきた。ポッドキャストのアートワーク、Facebookイベントのロゴ、Instagramのストーリーといったソーシャルの投稿に使うグラフィックスをわずか数回のクリックで作れる。

プロ級のデザインスキルがなくても、Projectorのテンプレートライブラリを利用し、テンプレートの画像とテキストを置き換えて自分のグラフィックスにすることができる。

ProjectorでアニメーションGIFやプレゼンテーションを作るユーザーもいる。他の人と一緒に作業をしたい場合はリアルタイムでコラボレーションできる。完成したら、プレゼンテーションやデザインをリンクで共有する機能もある。

Mediumは買収の条件を明らかにしていないが、Projectorは10万人のユーザーを抱え、3回の資金調達ラウンドで2300万ドル(約26億2000万円)を調達した。Projectorには、Upfront Ventures、Mayfield Fund、Foundry Group、Upside Partnership、Homebrew、Mantis VC 、Van Wickle Venturesが投資した。Mark Suster(マーク・サスター)氏とRishi Garg(リシ・ガルグ)氏がProjectorの経営陣として参加した。

画像クレジット:Medium

Projectorの共同創業者でCEOのオブライエン氏はこれまでにCoda、Twitter、YouTubeでプロダクトチームを率いてきた。同氏がMediumの最高製品責任者になるが、Mediumには今回の買収まで最高製品責任者はいなかった。

Projectorの共同創業者でエンジニアリング担当VPのLuke Millar(ルーク・ミラー)氏は、Mediumのエンジニアリング担当VPになる。

オブライエン氏は「Mediumは、長期的にはProjectorを独立したプロダクトとして運営し続けることはありません。Mediumのコアのプラットフォームに集中し、Projectorのテクノロジーと専門性を活かして世界有数のクリエイターツールと読者のエクスペリエンスを構築します」と述べている。

さらに同氏は「Projectorは、既存のお客様が今後の利用を停止し、停止前に作品を書き出せるようにするために、2022年3月まで運営を続けます」と補足した。

MediumがProjectorの実績を今後活用していけば、ユーザーが自分のMediumサイト、投稿、ニュースレターをカスタマイズするデザイン機能の充実が期待できるだろう。リアルタイムのコラボレーション機能も増えるかもしれない。

Mediumの投稿エディタは多くのコンテンツマネジメントシステムからヒントを得て、すっきりとした直感的なデザインになっている。Mediumが文章だけでなくさまざまなメディアのコンテンツにも同様にデザインを重視したアプローチをとるか、注目される。

画像クレジット:Medium

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(文:Romain Dillet、翻訳:Kaori Koyama)