EUでのデジタル課税やAI、プライバシー保護について競争政策担当委員が欧州議会に回答

次期委員会で二重の役割を担うことになる欧州連合(EU)の競争政策担当委員であるMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は現地時間10月8日、欧州議会の4つの委員会の議員からの3時間におよぶ質疑に応答した。参加した欧州議会議員たちにとってこれは、彼女が立法において果たすべき広範な使命の中の優先順位を聞き出す絶好の機会となった。なぜならこれが、EU全体における今後5年間のデジタル戦略を形作るからだ。

TechCrunchが先月伝えたとおり、 ベステアー氏は次期委員長であるUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)氏から、次期欧州委員会で「Europe fit for the digital age」(デジタル時代に適合した欧州)と呼ばれる新しいポートフォリオを監督する上級副委員長に任命されている。

さらに彼女は、競争政策担当委員という現在の仕事も引き継がなければならない。本日の公聴会で、彼女の任命に関する承認票を持つ議員たちから何度も放たれた質問には「ポートフォリオを統合して利益相反の危険性はないか」というものがあった。

彼女は、ある議員から「そのポートフォリオの中の公平な競争法と産業政策の利益との間に緊張関係があることを認識しているか否か」を問われ、続けて法執行と政策との交錯を避けるためにその中に「チャイニーズウォールを築く」つもりかと尋ねられた。

ベステアー氏は、今回の役職を任命されたとき最初に自分に問うた疑問だと前置きし、「法執行の独立性に交渉の余地はない」との無難な推論を述べた。

「たしかに競争政策委員はこれまで常に合議に基づいていました。競争に関して私たちが下してきたあらゆる判断は合議によるものです」と彼女は答えた。「それを正当化するのは、もちろんすべての判断は必要ならばひとつではなく2つの法的精査の対象になるということです。この仕組みは、直近では2011年に下された2つの判断で承認されています。それは、この仕組みが(中略)私たちの人権を擁護するものであるかどうかの見極めを目的としており、擁護していることが判明しました。従ってこの仕組みは、そのままで望ましい形になっているのです」。

現委員であり次期委員でもある彼女は、その新たな責任に関する広範な質問に的確に対応していった。デジタル課税、プラットフォームの力と規制、グリーン・ニューディール、AIとデータの倫理、デジタルスキルと研究、スモールビジネスの規制と投資といった分野の質問を上手にさばき、さらには、eプライバシーや著作権リフォームといった個別の法律に関する質問にも答えていた。

とくに、気候変動とデジタルトランスフォーメーションは、欧州が抱える最大の難題として彼女の冒頭の発言で取り上げられた。これらに対処するには、協働と公正さを重視する姿勢が必要になると彼女は指摘した。

「欧州には、非常に高い技能を持つ人たちが満ちあふれており、素晴らしいインフラ、公正で効果的な法律があります。私たちの単一市場は、欧州の産業に成長とイノベーションの余地が与え、世界最高の企業活動の場となっています」と彼女は議員たちに向けたピッチの冒頭で話した。「そのため私の誓約は、欧州を中国のように、または米国のようにすることではありません。私の誓約は、欧州をより欧州らしくする手助けをすることです。私たち固有の強さと価値の上に築き上げることで、私たちの社会は、強く、同時にすべての欧州人のための公正な場となります」。

デジタルサービスの信頼を築く

ベステアー氏は冒頭の発言で、就任が承認されたなら、デジタルサービスに信頼を構築するよう努力すると述べた。企業によるデータの収集、利用、共有に関して規制を設け、個人情報が、企業の市場支配力の集中のためではなく、確実に公的な利益のために使われるようにするという。

シリコンバレーはこの提案を無視できないだろう。

「私は、デジタルプラットフォーム、サービス、製品に関する信頼性と安全性のための規則の強化を含むデジタルサービス法に着手します」と彼女は約束した。「また、企業による個人データの収集、利用、共有にも、私たちの社会全体に利益がもたらされるよう規制をかける必要があります」。

「国際的な競争が激化する中、私たちは公平な競技場を整備する必要があります」と彼女は警告した。

しかし公聴会の途中で、プラットフォームの脅威に対する欧州の対応には、横柄な巨大ハイテク企業の分割が含まれるのかという直接の問いに、ベステアー氏は「そのような侵害的介入は最後の手段であり、最初から過激な手段に訴えることがないよう努力する責務がある」と釘を刺した。これは彼女が一般に向けて示した姿勢と同じだ。

「罰金では奇跡は起きないし、罰金では不十分だと言うのはもっともです」と彼女は、その件に関する質問に答えて述べた。別の議員は、巨大ハイテク企業への罰金などは基本的に営業経費に過ぎないと不平を漏らしていた。

続けてベステアー氏は、競争の修復に失敗したために法律の執行が成功しなかった例として、Google AdSenseの独占禁止法問題を引き合いに出した。「私たちが当然のこととして検討すべきは、そうした市場で競争を活性化させるための強力な対策の必要性です」と彼女は言った。「市場は動きを止めてしまいました。あれから2年になります。市場は活性化していません。このようなケースにどう対処すべきか?もっとずっと広範な対策を考えなければいけません」。

「企業を分割するというさらに広範な対策は可能ですが広範囲に影響が及ぶことは避けられません。私の責務は、競争を取り戻すために、できる限り侵害的ではない対策を取ることにあります。その観点に立てば明らかですが、競争法において競争を取り戻すためにもっとやれることはないかを探りたいと私は考えています」。

欧州の競争法執行機関は、「市場の中だけの競争でなく市場のための競争」という新たな現象とベステアー氏が説明する状況、つまり競争に勝った者は誰であれその市場の事実上のルールセッターになる流れの中で、いかにして公正な競争を法律で確実なものにするかを考えなければならなくなる。

透明性と公平性を基にプラットフォームを規制するという点では、欧州の立法府は今年の初めにすでに同意している。だが、そのプラットフォーム・ツー・ビジネス規制はまだ実施されていない。「しかし、それは競争法の執行機関である私たちに向けられた疑問でもあります」とベステアー氏は議員たちに話した。

競争のアプローチを抜本的に改革するより、既存の独占禁止法を、非常に迅速に小回りが利くようにして適用するというのが、彼女が最も伝えたいことのようだ。彼女は、現在係争中のチップメーカーBroadcom(ブロードコム)の一件のために、20年前に施行されて一度も使われたことがなかった暫定措置の埃を払ったところだと話していた。

「これは、現在取り組んでいる問題のスピードアップが最優先であると認識した事実を、見事に反映しています」と彼女は言った。そして「適正な手続きを省略することは決してできないため、法の効力が現れるスピードには限界がありますが、その一方でできるだけ早く動けるようにならなければならないのです」と付け加えた。

プラットフォーム勢力に関して議員たちに見せた彼女の反応は、デジタル市場(データも含まれる可能性がある)、つまりデータを貪るプラットフォームに独占されてしまった市場を即座に解体するというものではなく、厳格な規制を支持するものだった。それはElizabeth Warren(エリザベス・ウォーレン)米上院議員の巨大ハイテク企業の存在そのものを脅威とする考え方と相反する。だが、プラットフォームの観点に立つベステアー氏の好むアプローチは、法的な小さな傷を無数に与えて死に至らしめるというものかもしれない。

「もちろん、どのようなツールが必要かを考えるのは自由です」と彼女は、プラットフォーム勢力の規制手段としての市場再編について話す中でそう述べた。「競争当局が、現在有効な方法では公正な競争への恩恵がないと判断したときには、市場の再編成を試みる別の方法が採用されます。そしてそれらのツールは、損害が出る前に再編成を行うことを目的とするものになるでしょう。権利侵害の発生前なので何者も罰せられませんが、市場がどのように編成されるべきかについて、ほぼすべての命令を直接下すことが可能です」。

目的を持った人工知能

人工知能に関して現委員会は倫理的デザインと適用のための枠組みの構築を進めているが、ベステアー氏は冒頭の発言で、その枠組みの提案を一般公開すると約束した。「人工知能が、人間の判断をないがしろにするのではなく、支援するかたちで倫理的に利用されるように」する目的のため、就任後100日以内に一般公開するという。

それが、いまだ黎明期にあるテクノロジーを今すぐ支配下に置こうとする、あまりに野心的で性急な試みではないのかという疑問をひとりの議員に抱かせた。「大変に野心的です」と彼女は答えた。「そして、いろいろ考えている中に当然のことですが、信頼を築きたいのなら人の意見に耳を傾けろという思いがあります」。

「素晴らしいアイデアがある、それを確実に実行できるとただ言うだけではいけません。人々の意見をよく聞いて、そこで何が正しいアプローチになるかを解明することが重要です。さらに、バランスというものがあります。何か新しいものが生み出されたときは、まさしくあなたが言うように、規制しすぎないように十分に気をつけるべきです」。

「私の場合、この野心を満足させるには、信頼できるAIの作り方に関する評価リストや原則(欧州委員会のHLEG:持続可能な金融についてのハイレベル専門家グループが推奨)を使うためにAIを採り入れている数多くの企業から意見を聞く必要があります。しかし、ある程度、短時間で聞いて回るべきだとも考えます。なぜなら、正しく進めるために多様な人たちの話を聞かなければならないからです。それは、私たちが急いでいることの現れでもあります。私たちはなんとしても、AI戦略をスタートさせ、それらの提案を実現させなければならないのです」。

ベステアー氏は、医療、運輸、気候変動への対処などに使われる技術への応用の可能性を掲げ、欧州は目的を持ったAIを開発して他と差別化をはかり、世界のリーダーになれると指摘した。それは「未来の欧州の価値を高めることにもなる」と彼女は話している。

「倫理的指針もなく世界のリーダーにはなれません」と彼女はAIについて話した。「もしそれを拒否し、世界の他の国々がやっているようにやればよいと、どこで集めてきたかも気にせず、あらゆる人の個人データを溜め込み、有り金残らずそこに投資すればいいという考えなら、私たちは倫理的指針を失います。そして、人に奉仕したいがためにAIを開発している人たちに、敗北することになります。それは別の種類のAI。目的を持ったAIです」。

ベステアー氏が他の委員と協力し戦略的な役割を果たしてきたデジタル課税については、国境を越えてデータや利益が行き交う仕組みを考慮したルールに作り変えるための国際的な合意を取り付けることを目指しているという。しかし合意が得られない場合は、欧州が単独で、しかも早急に、2020年末までに準備を整える。

「びっくりするようなことが起こりうる」と彼女は、EU加盟国同士ですら税制改革の合意を得ることが難しいという話の中で述べた。しかし、欧州委員会では全会一致で数々の税制法案がすでに通過している。「なので実行不可能ではありません。問題はいくつかの非常に重要な法案がまだ通過していないことです」。

「現実的な方法でデジタル課税の国際的な合意が得られると、私は今でも希望を持っています。叶わなかった場合は、欧州式のソリューションを強く提案することになります。私は、欧州式の、あるいは国際的なソリューションを支持すると表明した加盟国に敬意を表しますが、そうした支持がなかったとしても、私たちは税金を納めているすべての事業者の期待に応えるよう、単独でも成し遂げる決意をしています」。

ベステアー氏はまた、EU機能条約116改正の可能性の審議への支持も求めている。これは、EU内の市場の競争による歪みに関連するものだ。税制改革を通過させるには、全会一致ではなく特定多数決を使う。現在EUにおける税制改革の障壁を乗り越えるための有効な戦略だ。

「私たちは何としても、どのような結果になるかを追求し始めるべきです」と彼女はそれに続く質問に答えて言った。「成功することが前提だとは考えていません。重要なのは、私たちには条約が与えてくれたさまざまなツールがあり、必要に応じてそれを使うことです」。

公聴会で彼女は、EUと加盟国による、より戦略的な公的調達の利用法を提唱した。より多くの資金をデジタル研究やビジネスのイノベーションに投入し、共通の利益や優先事項に役立てるためだ。

「これは欧州共通の利益となる重要なプロジェクトに加盟国と協力し合うことを意味します。大学、供給業者、製造業者から、製造業で使用する原材料のリサイクル業者に至るまで、あらゆるバリューチェーンを結合させるのです」と彼女は言う。

「欧州における公共調達は巨額にのぼります」と彼女は付け加えた。「もしそれを使ってソリューションの開発の依頼も自由にできたなら、小さな企業でも手を挙げることができるでしょう。そうして私たちは、社会のあらゆるセクターに適用できる人工知能戦略を描けるようになるのです」。

彼女はまた、欧州の工業戦略は自分たちの単一市場を超える必要があると訴え、圏外に広がる市場への強力なアプローチを呼びかけた。

そして、公的資金で集められたデータの場合、誰でも無料でアクセスできるシステムはあまり好まないことを示唆しているようでもあった。そこに含まれる価値が、すでに豊富なデータを有し市場を独占している巨大企業が、地元の中小企業の負担によってさらに城塞を固めさせる危険性があるからだ。

「私たちの相互連結が強まるほど、互いの依存関係も深まり、相手の決断から影響を受けることも多くなります。欧州は、中国や米国も含む80あまりの国々と手を結ぶ強大な貿易相手です。そのため私たちは、公正でグローバルな競技場を築ける有利な立場にいます。これには、私たちの世界貿易機関(WHO)改革案の推進も含まれます。そして、海外の国有企業や助成金が欧州の公正な競争を阻害しないようにする適切なツールを手に入れることも含まれます」と彼女は言う。

「私たちは、市場の力が何によって構成されているかを見極める必要があります」と、集めたデータ収集の保管容量が、直接の収益につながるか否かは別として、市場での地位にどう影響するかを話し合う中で彼女は続けた。「私たちはそれがどう作用するかについて調査の対象を拡大します。私たちは、いくつかの企業合併事例の調査を通じて、データがイノベーションのための資産として役立つが、同時に参入障壁にもなるなど、多くのことを学びました。適切なデータを持たなければ、人々が本当に求めているサービスを提供できないからです。AIでは、それがますます決定的な条件になります。それをひとたび手に入れたなら、さらに多くを入手できるようになるからです」

「公的資金によって収集し自由に使えるようになる膨大なデータで、何をするかを議論しなければなりません。聖書の言葉ではありませんが、持てるものにはさらに与えられるという状況になってはいけないのです。すでに多くのデータを持っている者は、それを良い方向に利用する能力も技術的な知識も持っています。そして欧州には、驚くほどのデータがあります。私たちが世界に誇るスーパーコンピューターを使えば、そこから何が見えてくるかを想像してみてください。さらに、ガリレオ(測位衛星システム)とコペルニクス(地球観測プログラム)はどうでしょう。これらからのデータも利用できます。農家にとっては、精密な農業経営、農薬の削減、種子の節約など多大な恩恵があります。しかし、自腹で費用を払える人にそれを開放することで、本当にハッピーなのでしょうか?」。

「ここはしっかり議論しなければなりません。大手企業だけに独占させるのではなく、小さな企業にも公平にチャンスが与えられるようにです」

正しいことと間違っていること

公聴会でベステアー氏は、賛否が分かれるEU著作権法改正を支持するか否かも尋ねられた。

彼女は妥協点が見つかることを支持すると答えた。この法律で重要なのはアーティストに相応の報酬が渡るようにすることだが、次期委員会では加盟各国が一貫性を持って実施することも重要であり、断片化を避けるべきだと強調した。

彼女はさらに、他の法律に関連した以前と同じ対立的な議論が再燃する危険性も警告した。

「著作権問題は決着したと考えています。その議論をデジタルサービス法で蒸し返すべきではありません」と彼女は言う。「そうならないように十分に気をつけなければいけません。著作権保持者に確実に報酬が届くようになる時期が遠のいてしまうからです」。

それに続く質問で彼女は、EU加盟国の著作権指令が発せられた際にアップロードフィルター技術から言論の自由を守ることができるかと尋ねられた。これは、改正著作権法が事実上要求していることに反対してプラットフォーム側が展開している議論だ。ベステアー氏は遠回しにこう答えた。「それについては、加盟各国と委員会との間で数多くの議論をやり取りすることになるでしょう。議会もそれを注視します。私たちが確実に、加盟各国で同様に実施されるようにします」。

「著作権指令の採択中に交わされた議論が再燃しないよう、大いに気をつけなければなりません」と彼女は言い足した。「それは極めて重要な議論になるからです。言論の自由と、権利保有者の保護との論争になるからです。ただそれは完全に正当なことです。私たちに基本的な価値があるように、基本的な論争も存在します。なぜならそれは、適正さを維持するために常にバランスとっている必要があるからです」。

ベステアー委員はさらに、eプライバシー規制への支持も求めた。「これをぜひとも通過させることが最優先です」と発言し、改正するための重要な構成要素であることを議員たちに訴えた。

「私が望むのは、単に個々の市民のための非中央集権化に徹することだけではありません」と彼女は付け加えた。「権利は手に入れました。あとはそれに力を持たせることです。権利は持っていても、それをどう行使すればよいかがわからないというフラストレーションを感じます。何ページも何ページも何ページも文章を読まされて、それでもまだ気力が残っていて権利のことを忘れていたら、とにかくサインしてしまいます。そんなのは間違っています。人々に力を与えて自己防衛ができるように、私たちはもっと尽力すべきなのです」。

また、偽情報キャンペーンや政治的介入の経路となるアドテクを利用したマイクロターゲティング、さらにはより広範な、いわゆる監視資本主義の感想も問われた。「アドテックを利用したビジネスモデル全体を攻撃するつもりか?」と彼女はひとりの議員に聞かれた。「マイクロターゲティングのような特定のデータ収集行為を完全に排除するつもりか?」。

少し躊躇したあとベステアー氏は答えた。「監視資本主義から学んだことの中に、私たちはGoogle(グーグル)で検索しているのではなく、グーグルが私たちを検索しているという考え方です。それは、何を買いたいかではなく、何を考えているかに関する、非常にいい考え方を示してくれています。私たちがやるべきことは山ほどあります。私は、これまでにしてきたことに完全に同意しています。素早く物事を片付けないといけないからです。そのため(偽情報に関する)実施規則は、物事を正しく行ううえで、とても重要な出発点になります。そのため私たちは、たくさんのものをその上に作り上げていくことになるでしょう」。

「デジタルサービス法の詳細をどうするべきかは、まだわかりません。急を要するものなので、今持っているものを最大限に活かすことが最も重要だと私は思います。また、私がデジタル市民権と呼んでいるGDPR(一般データ保護規則)を評価するために、各国当局に十分な施行を求め、できれば「ルールに基づいた個人情報保護」(プライバシー・バイ・デザイン)を実現させ、その選択を可能にするために、市場の反応も取り込みます。たとえば、目の前に利用規約を提示してサインを強要するようなやり方とはまったく異なる方法があります。市場の声を聞き入れることも大変に重要だからです」。

「たまたま時間があるときに、この議会のお陰で理解できる文章で書くよう義務付けられたことでさらに恐ろしさが増した利用規約を読んでみて、私自身とても示唆に富むものだと感じました。そして私は何度もありがた迷惑だと感じました。もちろんそれはもうひとつの側面、そう規制です。またそれは、どのような人生を送りたいか、どのような民主主義を手に入れたいかをしっかり考えようとする市民としての私たちのことでもあります。それはデジタルだけの問題ではありません。だから我慢できないのです」。

ベステアー氏は、目の前の喫緊の課題に着手できるよう、予算を通してほしいと議員たちに嘆願した。「私たちは、これらすべてのことを実行に移せるよう、調査の規模を大幅に拡大することを提案しました」と彼女は言う。

「こんなことは言いたくないのですが、何はともあれお金が必要です。計画が必要です」。

イノベーションに投資するための資金が使えることを人々に知ってもらうために、研究者に欧州全体をつなぐネットワークを構築してもらうために、何らかの手が打てるようにしたいのです。そこへ到達するための資金を人々が得られるように。みなさんには、多年次財政枠組みの設定に賛同いただきたく思います。私たちが実現を望んでいるさまざまな案件に関して、欧州の人々が我慢強く待っているわけではありません。それを実行するのはいまこの場所です」。

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(翻訳:金井哲夫)

EU競争政策担当委員の提言「巨大ハイテク企業を分割してはいけない、データアクセスを規制せよ」

巨大ハイテク企業の分割は最後の手段であるべきだ。欧州連合(EU)競争政策担当委員Margrethe Vestager(マグレーテ・ベステアー)氏はそのように提言した。

「企業を分割して私有財産を分割すれば、その影響は広範囲に及ぶため、市場の消費者に大きな恩恵を与える確固たる言い分が必要です。王道のやり方では実現できないものでなければいけません」と、彼女は先週末、SXSWで行われた、RecodeのKara Swisher(カーラス・ウィッシャー)氏とのインタビューで警告を発した。「対象となるのは私有財産です。その企業は、彼らのイノベーションを基に築かれ、投資を受け、成功しているのです」

ベステアー氏は、2014年に欧州委員会で独占禁止法問題を担当するようになってから、数々の大規模な(しばしば高額の罰金を科すなど)介入を行ってきたことから、さらに今でもGoogleに対して際だった捜査を大々的に続けていることから、巨大ハイテク企業が恐れる存在として高評価を得てきた。

しかし、欧米各国の市場の(米国大統領候補と噂される著名な人物を含む)野党政治家たちが、テクノロジーに厳しいとされるこの欧州委員会議員と対立する形になった。彼女は、市場を歪めている巨大ハイテク企業をハンマーで叩き潰すのではなく、データの流れにメスを入れるべきだと主張しているのだ。

「企業を分割するという非常に大胆な提案は、私たち欧州の観点からすれば最後の手段です」と彼女は言う。「今、私たちが取り組んでいるのは、独占禁止法に関わる問題です。独占的地位の乱用、製品の抱き合わせ販売、自己宣伝、他者の妨害などに対して、独占禁止法のアプローチが適切か、それが市場を、独占的地位を乱用する者がなく、小さな企業もフェアに競争できる公正な場所にするかどうかを見るためです。なぜなら、その小さな企業が次なる大物に成長し、消費者に素晴らしいアイデアをもたらす次なる大企業になるかも知れないからです」

彼女はまた、市場の不均衡を是正すると自身が信じる、公正さに焦点を当てた介入の実例として、欧州の主要政治機関の間で先月交わされた、オンラインプラットフォームの透明化に関する規制の合意を挙げた。

巨大ハイテク企業に関連する問題に規制当局が本来集中すべきは、デジタル産業の調査や、市場がどのように運営されているかを詳しく知るための聞き取りなどだと彼女は言う。慎重で入念な調査によって、合理的でデータに基づく捜査方法が形作られるという。

とは言うものの「Googleの分割」には、政治的な宣伝文句としてインパクトがある。

ベステアー氏が独占禁止法問題の担当責任者でいられる期間は間もなく終わる(欧州委員会での任期が今年で終了する)。11月1日でこの部門のトップではなくなると彼女は話している。だが、少なくとも暫定的に、欧州委員会委員長の候補者名簿に名前が残されている。

委員は以前、巨大デジタル企業をコントロールするのか分割するのかという議論の中で、データアクセスを制限するという興味深い選択肢を示している。

そしてすでに、欧州の一部の規制当局はそちらの方向に傾いている。ドイツ連邦カルテル庁(FCO)は先月、Facebookに対して同社のサービスでのデータの使用量を制限する決定を下したと発表した。FCOのこの動きは、FacebookにInstagramやWhatsAppなどの事業部門の分離や売却を強要することなく、データレベルで内部分割させるのと同じ効果があると言われてきた。

そのため、Facebookの創設者Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が、つい先週、その3つのサービスを技術レベルで統合するという大規模な計画を発表したことには、さして驚かなかった。暗号化コンテンツへの切り替えを宣伝しているが、「プライバシー保護」のためにメタデータを統合するという。そこには、製品レベルでの内部のデータの流れを分離してコントロールしようとする規制当局の目論見に対抗するために、帝国を再構築しようという意図が透けて見える。

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大笑いだ。Facebookは、InstagramとWhatsAppとFacebookのすべてのデータを統合するが、暗号化するのはFacebookのメッセージのコンテンツデータだけ(メタデータは含まれない)。それをプライバシーを保護したパッケージとして販売する。宣伝の大傑作だ。メディアは騙される。

現時点で、競争政策担当委員会は、Facebookやその他のソーシャルメディアの公式な調査を発表していないが、当委員会は、ソーシャルメディアの巨人たちのデータの使い方に目を光らせていると、ベステアー氏は話していた。

「私たちは、ソーシャルメディア、つまりFacebookの上空に浮かんでいる感じです。そうした目的にデータをどう使うのか」と彼女は話す。同様に、Amazonの商品データの使い方についても予備調査を行っていると警告した(これもまだ公式な調査ではない)。

競争規制全般において、「論議が本当の意味で活発になってきたのは、よいことです」と彼女は言った。「以前、国会議員たちを訪ねて話をしたとき、競争によって社会はどのような恩恵を受けるのかといった、新しい興味や関心を感じました。なぜなら、公正な競争があれば、私たちは消費者としての役割を果たし、市民に奉仕する市場が作れるからです。市民が市場に奉仕するのではありません」。

Facebookが突然プライバシー「重視」に切り替わったことを、個人的に信用するかどうかを尋ねると、その発表が本当の意味での哲学と方向性の変化を示すものであり、Facebookのビジネス慣行を改善させるものであるなら、いいニュースだろうとベステアー氏は答えた。

しかし、今の時点ではザッカーバーグ氏の言葉を素直には受け取れないと彼女は言う。あれほどの長期間、プライバシーを軽視し続けた歴史を持つ企業が、誠実な方向に舵を切ったなどと信じられるかと強く迫るインタビュアーのウィッシャー氏に対して、彼女は「それを最良の事態だと思えるまでには、長い時間がかかります」と丁重に答えた。

巨大ハイテク企業に少ない税金

インタビューは、巨大ハイテク企業が税金をほんのわずかしか払っていない問題に及んだ。

デジタル産業が従来産業と比べて公平な税を負担できるように、グローバルな税制を再構築することが「急務」だとベステアー氏は話す。EU加盟国同士の合意が不十分であるため、他所から口を挟まれるような委員会の提案に抵抗して、一部の国は独自の基準を前面に出していることを彼女は強調した。

今年、フランスが巨大ハイテク企業に課した税額は「絶対に必要であるが残念だった」とベステアー氏は言っている。

「比較できるように計算すると、デジタル企業の平均税率は9パーセントであり、従来企業の平均税率が23パーセントであることがわかります」と彼女は言う。「しかし、どちらの企業も、資本、優秀な従業員、ときとして同じ消費者を巡って行われる競争で成り立つ同じ市場にいます。従って明らかに不公平です」。

委員が望むのは、現在の不公平な税負担を解消したい思うEU加盟各国からの「圧力」により、「欧州が一丸となった方針」に向けた力が生まれることだ。そのためには、国ごとに異なる税制を早急に改めなければならない。

彼女はまた、欧州は、経済協力開発機構(OECD)にも「そこを押してほしい」と強く願っていると言う。「なぜならOECDは、世界各地の関の高まりを感じているからです。米国側の動きにもです」

税制改革が、巨大ハイテク企業と社会の間の不公平を是正するのがいいのか、それとも規制当局は「次の世紀まで」巨大ハイテク企業に罰金を科し続けるのかとウィッシャー氏は疑問を呈した。

「違法行為があれば罰金を科します。事業を行う際には、税金を払って社会に貢献します。これらは別物であり、確実に、どちらも必要なのです」とベステアー氏は答えた。「しかし、大半の企業は社会貢献をしているのに、一部の企業だけしないというのは許されません。なぜなら、このようなことが続けば、市場での公正を欠き、市民にとっても不公平だからです」

彼女はまた、巨大ハイテク産業の族議員の優位性(プライバシー規制を声高に叫べば、ファンドのコンプライアンスが容易になるので巨大企業には有利になる)についても手短に語った。欧州の一般データ保護規制(GDPR)には「いくつもの区分」があるので、大企業も中小企業もひとくくりに同じ条件を突きつけるわけではないという。

もちろん中小企業は「Googleと同じ義務を負うことはありません」とベステアー氏は話す。

同意と謎めいた利用規約における消費者の権利問題への大きな不満を挙げながら、「そのほうが楽だと感じれば、彼もうまくやれるでしょう」と彼女は付け加えた。

「なぜなら、利用規約に同意したとき、いったい何に同意したのか、私もまだはっきりとわからないからです。『なるほど、私がこれにサインをすれば、私は完全に満足できる』と言える市民であればよかったと思います」

しかし、欧州のプライバシーの権利が意図したとおりに完全に機能するまでには、まだ長い道のりがあることを彼女は認めている。消費者個人が、法で与えられた権利を行使するのは、まだまだ非常に困難だ。

「私は、自分の個人データがあることを知っていますが、その所有権をどのように行使したらよいかはわかりません」と彼女は言う。「イノベーションのために、市場への新規参入企業を支援するために、自分のデータを多くの人に使って欲しいと思ったとき、どのように許可すればいいのか。もしそれが大規模に行えるようになれば、私たちは自分自身を完全に晒すことなく、有用なデータだけを市場にインプットできます」と彼女は話す。

データフローに課税するアイデアや、巨大ハイテク企業に歯止めをかけるその他の方法について尋ねると、自分の個人情報を法人が利用したときに、その人が価値を引き出せるようにする仲介市場がヨーロッパに生まれてきていると、ベステアー氏は話した。これは、データフローに文字通り課税するのではなく、自分から持ち去られた個人情報の価値の一部を、消費者が取り戻すという考え方だ。

「ヨーロッパではまだ誕生期ですが、自分の個人データの所有権が確立された今、いわば自分の情報を金銭に換えられる仲介市場が発展しつつあります。自分のデータを金銭に換えるのは、巨大ハイテク企業ではありません。自分のデータが渡される度合いに応じて、毎月まとまった料金が支払われるようになるかも知れません」と彼女は言う。「これもひとつの好機です」

また彼女は、「膨大な量のデータが市場参入を阻むことがないよう」にする方法を委員会は探っていると話した。つまり、新規参入企業のイノベーションのためのバリアだ。巨大ハイテク企業が蓄積した膨大なデータがAIの研究開発に大いに貢献していることを考えると、そのバリアは重要になる。

もうひとつ興味深い会話があった。ベステアー氏は、音声インターフェイスの利便性が競争上の難しい課題をもたらしたという。その技術は、多くの選択肢を与えない機関銃のようなQ&A形式の対話を用いることで、市場のパワーを自然に集められるからだ。

「本当に唖然とさせられてしまうものに、音声では選択肢がないということがあります」と彼女は言う。音声アシスタントの原動力となる部分は、ユーザーのあらゆる質問に対して、複数の提言をしないように作られているというのだ。「その状態で、音声検索は競争ができるでしょうか?これが市場をどう変えるのか、私たちはそのような市場とどう向き合えばいいのか。解明しなければならない問題です」

ここでも彼女は、選択肢を示さないインターフェイスを改善する有効な道筋として、規制当局は背後のデータの流れに注目していることを告げた。

「私たちは、データへのアクセス方法がどのように市場を変えるかを解明しようとしています」と彼女は言う。「データを抱え込んでいて、イノベーションのためのリソースも抱え込んでいる人が、他人にデータへのアクセスを許すでしょうか。だから、巨大企業にはノベーションが期待できないのです」。

今から10年後のテクノロジーの世界で考えられる最悪の事態とは何かと尋ねられると、彼女は「テクノロジーは揃っていても、社会的に有益な見通しや方向性がない」状態だと答えた。

反対に、議員として最善の未来は「課税と、データアクセスの規制に十分な措置をとり、公正な市場を築く意思を持つこと」だという。

「私たちはまた、テクノロジーの発展に貢献する新しいプレイヤーの登場を見守る必要があります」と彼女は強調した。「なぜなら私たちはこれからも、量子コンピューターで何が起きるのか、ブロックチェーンで何が起きるのかを見守り、それらの技術が実現したときに、みんなの役に立つ新しい利用法は何かを考えてゆく必要があるからです。そこにはたくさんの希望があると、私は思っています。ただし、私たちの民主主義がそれに方向性を与えた場合に限ります。そうして初めて、有益な結果が得られるのです」。

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(翻訳:金井哲夫)