「どう生きたいか?」と徹底的に寄り添う、ポジウィルがキャリアのパーソナル・トレーニングへ舵を切った理由

2020年9月、オンラインキャリアコーチングサービスを提供するポジウィルは、2018年9月より運営していたオンライン相談サービス「そうだんドットミー」の終了を発表した。

30分3980円からキャリアアドアイザーにキャリア相談ができる同サービスは、20代を中心に6000人以上のユーザーが利用。順調に伸びていたものの、代表の金井芽衣氏は「中長期的に徹底的なサポートができず、もどかしさを感じる場面も多くあった」と話す。

同社は10月5日にSTRIVEから1億5000万円の資金調達を実施。今後はもう1つの主軸事業であった「どんな人生を歩んでいきたいか?」を大切に、「生きかた視点」で理想のキャリアを描く キャリアのパーソナル・トレーニング「POSIWILL CAREER」の拡大に注力していくという。

短大から4年制大学への編入、憧れのリクルートでの挫折、起業するもサービスユーザーはたった1人。幾度の困難を乗り越え、新たに舵を切ったポジウィル代表の金井氏に、これまでの歩みとともに今後の事業展開について話を聞いた。

金井芽衣(@meiem326
1990年群馬県生まれ。埼玉純真短期大学を経て、法政大学キャリアデザイン学部に編入し、宮城まり子教授の下、キャリアカウンセリングを習得する。 2013年、リクルートキャリアに新卒入社し、人材紹介部門の法人営業として勤務。 2017年4月に退職し、同年8月にポジウィル株式会社を設立する。

短大から4年制へ編入、キャリアカウンセリングを学びたい一心だった

高校は進学校に入学するも全国大会で優勝しているチアリーディングに熱中し、一切勉強をしなかったという金井氏。「子どもが好きだから」と安易な理由で保育短大に進学する。そこで人生を変える大きな出来事に遭遇した。

「実習先の児童養護施設で虐待やネグレクトに遭う子どもたちに出会い、心が締め付けられました。私自身、両親が離婚しているので他人事には思えなくて。目の前の子どもたちのために自分に何ができるんだろうと考えるようになり、興味を持ったのがキャリアカウンセリングです。子どもたちが家庭環境で苦しまないようにするには、まずは親世代の心や環境に何か働きかけることが必要だと感じました」。

「キャリアカウンセリングについてきちんと勉強したい」という金井氏の強い思いを感じ取った学長から、法政大学キャリアデザイン学部の宮城まり子教授を紹介される。

「まりこ先生の講義を見学したとき、キャリアという学問やまり子先生の生き方や女性としての在り方に感銘を受けて。この人のもとで学びたいと思い、2年生のとき編入試験に挑戦することを決めました」。

編入予備校へ通い短大の単位を取りながら、半年間ひたすら勉強する日々が始まる。「同級生たちが短大生活を謳歌しているなか、スウェット姿で図書館や教室でずっと勉強していました。トータルで1000時間は勉強をしたと思います。当時の記憶がほとんどないくらい、ものすごく必死で。とっても辛かったですが、無事合格することができました」。

宮城まり子教授のもと、キャリア設計や形成など体系的な基礎知識をイチから学び、キャリアカウンセラーの資格も取得。大学3年のときにはリクルートキャリアでインターンを始める。

100人以上にOB訪問をして「リクルートノート」を作成

POSIWILL

「人の転機に携われるリクルートは、まさに憧れの職場でした。ぜったいに働きたい!と思い、インターンに留まらず、元リクルートの人が経営しているバーで働いたり、100人以上にOB訪問をして企業研究を1冊のノートにまとめて人事にメッセージを送り直接アピールしたりしました。ノートを見た人事の方には気持ち悪がられましたが(笑)、行動が実り内定をもらうことができました」。

2013年、新卒でリクルートキャリアの営業職として入社する。「一番大変な部署で働かせてほしい!」と伝え、配属されたのは大阪支社だった。だが、思った以上に成果が出ず、苦しむ日々が続く。同じ部署の3年限定の契約社員に「自分より給料が高いのになぜ成績が悪いのか」と言われたこともあり、存在していることが申し訳なくなったこともあったという。

しかし2年目に新しく着任した上司が結果を出せない金井氏と向き合い、直接指導してくれる機会に恵まれた。上司にすべてのアポやメールの内容を報告し、フィードバックをもらったことで、2年目下期には対前年比で数倍の売り上げを達成することができた。

まず「金井芽衣」を知ってもらい、サービスへの興味につなげた

20代のうちに事業をしたいという思いと、リクルート以上に好きな会社は見つからないだろうという確信から2017年、27歳のときに独立。そうだんドットミーの前身、30分500円でキャリア相談のできるミレニティというサービスを立ち上げた。しかし、サービスローンチを告知したものの、ユーザーは前職時代の後輩、たった一人だった。

「当時、キャリアの相談をいただくことが多かったのでので、キャリア×コーチングの需要は絶対にあると思いました。けれど知り合いの経営者たちから、『個人の影響力がないと、この手のサービスは伸びない』とアドバイスをもらって。たしかに、キャリアという人生の大きな選択をバックグラウンドの知らない人から受けたいとは思わないですよね」。

「だから『金井芽衣』自身をまず知ってもらおうと思い、積極的にメディアに出たりSNSを運用したりして、自分が起業するまでのストーリーを発信するようにしたんです。個人の知名度を上げたおかげで、そうだんドットミーをローンチしたときに初期ユーザーを獲得することができました」。

キャリアに悩みを持つ人は「そもそも何をしたいかわからない」という課題を抱えている

POSIWILL

2019年7月に正式ローンチされたそうだんドットミーは、約100人のキャリアアドバイザーが集まり、最大で6000人ほどの利用があった。

「そうだんドットミーを始めてわかったのは、ユーザーは転職などの目先の悩みだけでなく、『どう生きたらいいかわからない』『自分は何をしたいかわからない』など、根本的な悩みを持つ人が多いということ」。

「そこで立ち上げたのが、単発のキャリア相談で終わらず、中長期的にユーザーに寄り添い伴走するゲキサポ!キャリア(現:POSIWILL CAREER)です」。

ゲキサポ!キャリアは短期集中型のキャリアトレーニングサービス。75日プランでは10回のオンライン面談とチャットで、「やりたいことがわからない」「自分のよさがわからない」など転職を含め漠然としたキャリアの不安を相談することができる。

2019年8月にサービス開始し、1年後の成長率は37倍に。2020年10月にサービス名をPOSIWILL CAREERに変更。そうだんドットミーのクローズにともない、同社の主軸事業になった。

「今まで日本の人材系領域は、狭義の意味合いでの事業が多かったからこそ、私たちは広義の意味での『生き方そのもの』を支援できる会社になりたいなと考えています。目先の給料や肩書きではなく、長期的な視点に立ったキャリア選択ができるようなサービスを提供していきたいです」。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:ポジウィル

オンラインキャリアトレーニングのポジウィルが約1.5億円を調達、事業拡大・採用強化を加速

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オンラインキャリアトレーニングサービス「POSIWILL CAREER」(旧: ゲキサポ!キャリア)運営のポジウィルは10月5日、シリーズAラウンドにおいて約1.5億円の資金調達を発表した。引受先はSTRIVE。今後は、事業拡大・採用強化をさらに加速し「キャリアのパーソナル・トレーニング」の拡大を目指す。

オンラインキャリアトレーニングのポジウィルが約1.5億円を調達、事業拡大・採用強化を加速

2017年8月設立のポジウィルは、「どう生きたいか?でキャリアをきめる。」をブランドスローガンにに、短期集中型キャリアトレーニングサービスとしてPOSIWILL CAREERを展開。

個人に焦点をあて、「転職しようとしている人」ではなく「転職すべきかどうか含めキャリアを考えている」すべての方のパートナーとして、「キャリアのパーソナル・トレーニング」の拡大を目指している。

POSIWILL CAREERでは、75日のプログラム(キャリア実現プラン)を用意し、10回のオンライン面談・チャットサポートを実施。主な利用者は「転職を含め、漠然とキャリアに悩んでいる方」としている。やりたいことが分からない、自分の良さが分からない、自分のキャリア形成の仕方が分からないなど、転職するかどうか以前の課題を解決し、利用者の方のキャリア目標のゴールに向けて伴走する。オンライン完結のサービスであるため、首都圏のみならず地方在住の方も利用しているという。

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カテゴリー: ネットサービス
タグ: ポジウィルPOSIWILL CAREER資金調達日本

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ポジウィルは11月12日、STRIVE(ストライブ)、柳澤安慶氏、ほか個人投資家への第三者割当増資による資金調達を発表した。調達額は非公開。今回調達した資金は、採用やサービス開発、マーケティングとして活用し、事業基盤の強化を図るという。

同社は20178月設立のスタートアップ。転職そのものではなく、その前段階をサポートする点で一般的な転職支援サービスとは異なっている。転職希望者が同社のサービスを有償で利用することで、さまざまなアドバイスを専門家から受けられるのが特徴だ。

具体的には、累計1000人以上の利用実績があるオンライン有料転職相談サービス「そうだんドットミー」と、転職に向けた2カ月集中プログラム「ゲキサポ!転職」の2サービスを運営している。ゲキサポ!転職は、2カ月で税別30万円の費用がかかるが、2019年7月末のリリース以降、すでに100名以上が利用しているとのこと。

一般的な転職サービスは、優秀な人材を確保したい雇用主である法人から、採用が決定した人材の年収の3分1、もしくは月収3カ月ぶんほどの成功報酬を受け取るというのが基本的なマネタイズの仕組みだ。一方ポジウィルは、転職先を見つけるサービスでないため人材紹介業ではない。同社は転職希望者が、どういった仕事に就きたいのか、自分の価値はどこにあるのかといった就職活動の基礎的な部分を徹底的に鍛え直すことに特化している。

就職氷河期を経験している読者にとっては疑問符が3つほど付くサービスだが、現在の20代を取り巻く環境は当時とはまったく異なっている。リクルートキャリア出身でポジウィルの代表を務める金井芽衣氏によると「ゲキサポ!転職は20代のビジネスパーソンをターゲットとしており、若年層の就職活動に必要とされている」と語る。

スマートフォンやタブレット端末が普及した現在では、さまざまな企業に対してエントリーシートを一斉に送信できるほか、ネット企業を中心に積極的な採用活動を進めているので最近は人手不足が常態化している。特にプログラマーやエンジニアはかなりの売り手市場になっている。そして、多くの企業が事業内容だけだなく、社員教育方針、福利厚生などをウェブサイトに詳しく掲載しているため、多くの情報を短時間で集めることもできる。テクノロジーの発達によって、就職や転職を希望する側は情報過多になっているという現状がある。

その結果、「自己分析や明確な動機、会社への情熱がないままに就職が決まり、入社後に違和感を覚えて1年未満で辞めてしまう若者が増えている」と金井氏。「難易度の高い大学に努力して入った学生は特に、過去に必死に頑張ってきた経験があるため、入社後の仕事内容にやりがいや達成感を得られずモチベーションが下がってしまう傾向がある。彼らはもっともっと頑張って仕事をしたいと考えています」と続ける。ゲキサポ!転職はこういったビジネスパーソンに対し、2カ月間集中して自己分析や取り組みたい仕事などを洗い出したうえで、目的を持って転職に臨める環境を作るのが狙いだ。なお、実際の転職活動は転職者個人が進める必要がある。

同社は、転職希望者を入社させることで多額の成功報酬が得られる人材紹介業と一線を画するサービスを目指す。第一の目的は転職の成功ではなく、転職における個人の意向や可能性を転職者本人に深く考えさせること。転職市場で売り物にされないために、20代には少々高額な求職者課金型でサービスを展開しているわけだ。今後は同サービスのモデルを横展開し、子育てや介護などさまざまな悩みを専門家に相談できる有料課金サービスを育てていきたいとしている。

無料で手に入る情報は玉石混交で、その中から正しく役に立つ情報、自分に合った情報を見つけ出すには、結局は知識が経験が重要。有料サービスにすることで、本当に必要な情報に最短でリーチできる同社のサービスモデルの今後の横展開が楽しみだ。