10億ドルを調達できるユニコーン企業がなぜ多様性と包括性を持てないのか

2000年代の初めごろ、Hasbroは」「マイリトルポニー」というオモチャのシリーズを復活させた。ポニービルに暮らすカラフルな生き物たちの中でも、私の一番のお気に入りはユニコーンのポニーだった。ユニコーンのポニーは魔法の生き物で、気まぐれで、珍しい存在だ。私はその珍しい部分に自分を重ねていた。

そのとき私は13歳。数学と科学とコンピューター科学の特別強化プログラムに選抜されたばかりだった。このプログラムには100人の生徒が参加していたが、黒人の女の子は私ともう一人だけだった。しかし、私はラッキーだった。「現世」のポニーたちがユニコーンを受け入れたように、白人とアジア人のクラスメイトも、私に温かく接してくれた。

この先、ハイテク業界で働くようになっても、このままであってほしいと私は願った。

ハイテク業界に多様性がないのは、私が13歳のころから変わっていない。それでも、多様性と包括性をもっと強化すると約束するハイテク企業は増えている。

ではなぜ、その約束がポニービルにつながらないのだろう?

さようならポニービル、現実よこんにちは

6年間、数学と科学とコンピューター科学の特訓コースで徹底的に学んできた私は、MITに進学する準備をほとんど整えていた。多変数微積分は? 大丈夫。学校で自分が一等賞でなくても落ち込まない? 大丈夫。クラスメイトから差別を受ける心配は? それはわからない。

こんなことがあった。大学4年生のとき、新しい医療機器を開発するという活動で、私はその他21人の学生と一緒に行動した。そこではチームメイトの評価が自分の成績に影響を与えるため、ちょっと心配だった。黒人女性に対する偏見で評価が低くなってしまうことを、私は恐れていたのだ。私は、知的だが威圧的でない、自信に満ちているが攻撃的でない、親しみやすいが鬱陶しくない自分でいなければならないと、常にプレッシャーを感じていた。

大半は好意的な評価をもらったが、一人ならず二人のチームメイトから「もっと穏やかに」と言われてしまった。私は他の黒人のクラスメイトの話を聞くまで、孤立した気分になり、気落ちしていた。彼らはチームミーティングから外され、もっともつまらない作業を押しつけられていたそうだ。

こんなことがMITで起ころうとは。多様性と包括性を誇るイノベーションの中心地で。人は差別するものだ。学校は差別を容認している。人々は自分に対する差別を許容することを学ぶ。わかりやすい悪循環だ。学校も企業も、これに対抗するようには作られていない。MITを卒業してからの3年間、「少数派」として扱われることにう私はうんざりしていた。今こそユニコーンを探すときだ。

ユニコーン(名詞) uni·corn | ˈyü-nə-ˌkȯrn

体は白い馬に似て、優美な長いたてがみと尾を持ち、額の中心から螺旋模様の長い角が生えた姿で描かれることが多い空想上の動物。多様性と包括性のあるハイテク企業。

虹の道を辿って

ユニコーン探しは楽ではなかった。Googleで検索すると10億ドル以上の評価額のスタートアップ企業がたくさん出てくる。だが、多様性と包括性のある企業はほとんどない。

ニューヨークの業務用IoTスタートアップであるTembooに惹かれたのは、そのためだ。

  • 有色人種の女性がトップにいるハイテク企業である。
  • エンジニアリングチームには男性と女性が同数在籍している。
  • プログラミングの取っつきやすさと民主化に重点を置いた製品を作っている。
  • 従業員は、さまざまな文化的背景を持つ多様な人々である。
  • とりわけ感心したのは、最初の面接に訪れたとき、強くハグしてくれたこと。そこはニューヨークだ。やたらにハグをする習慣はない。

私が会ったすべての人には、それぞれ独特な背景や興味があった。私が面接を受けたすべての企業のなかで、前の会社で黒人従業員のリソースグループを率いる役職を選んだのはなぜかと聞いてくれたのは、Tembooだけだった。その会社の物理的環境も、他のハイテク企業とは違っていた。マンハッタンのトライベッカ地区の中心地に、独立したオフィスが置かれていたのだ。

この会社に入ろうと決めたとき、私は希望に満ちていた。ここなら、本来の私を尊重して正当に評価してくれるだろうと。

マイリトルポニー・ニューヨーク編

勤め始めてから数カ月間は過去の教訓を活かして、同僚に受け入れられるバージョンの自分で過ごさなければいけないと自分に言い聞かせていた。しかし時間が経つと、TambooではありのままのSarahで十分なんだと感じるようになった。

私の縮れ髪は三つ編みにもアフロにもできるけど、ヘアースタイルは自分の知性の評価には関係がない。業務用IoTのカンファレンスに参加したときなどは、多様性の欠如を大っぴらに批判し、同意の喝采を得た。

たしかに、何度か不当に非難されたと感じたことはある。マイナーなリアリティ番組カボチャ味の食品を溺愛する意味がわからないと。

私はユニコーンを見つけた。そしてそれに満足している。今は、ハイテク産業で働くすべての人に、自分のユニコーンを見つけて欲しいと思っている。そこで、他の人たちにバトンを渡す方法を探る準備を開始した。

男だけのニューヨークビルで立ち往生

ハイテク企業が、多様性と包括性を高めようと従っている方針は、どこもたいてい同じだ。

  1. 人材プールを多様化する。
  2. 従業員のリソースグループのコミュニティを作る。
  3. 業績評価を多様性と包括性の目標に結びつける。
  4. 多様性の欠如を注意する。

中規模のハイテク企業の例を紹介しよう。そこは従業員のリソースグループを改善するための準備をしていた。私はそこに講演者として招かれ、前の会社で黒人従業員のリソースグループを統括していたときの教訓を話した。

たとえば、私のチームは「マイクロアグレッション(自覚なき差別)認知週間」を設けた。これには手応えがあった。翌週の幹部会議で、一人のシニアマネージャーが同僚を呼び止め、彼の話に自覚のない差別的な発言がなかったかを尋ねていた。

しかし私たちは、業績に多様性と包括性を結びつけるという目標を、その会社の求人担当者たちに持たせることはできなかった。彼らは重い責任を負いたがらなかったのだ。それどころか私たちに、多様な才能を惹きつける、もっと別のアイデアはないかと聞いてきた。

もう一人の講演者は、彼女が50歳のときに職場でカミングアウトした経験を話していた。Fortune 500に選ばれた企業の上級管理職として18年間勤めた後、彼女は小さなハイテク企業に転職した。職場の雰囲気はまったく違っていた。そこでは人の性的指向をからかうのは無作法とされ、会社ぐるみでニューヨーク市のプライドパレードに特別な車を作って参加したりもしていた。30年間のキャリアで、彼女はようやく、ありのままの自分で安心して働けるようになったという。

講演会は励ましの言葉で幕を閉じたが、問題は残ったままだ。その会社のある従業員は、差別を避けるためにイギリス風のミドルネームで通していると私に話してくれた。彼は、多様性と包括性の推進責任者だ。

角を生やす方法

ステレオタイプ化、ハラスメント、自覚なき差別といった不当な行為が、ハイテク企業から人材が離れる第一の原因になっている。女性、社会的少数者、LGBTQの従業員が差別の攻撃に耐えてる(Kapor Centerの調査による)。

多様性と包括性のあるハイテク企業は、離職率も低く財務実績もいい。マッキンゼーは、企業の多様性を高めようとする姿勢と財務実績との関係を、20142017に調査しているが、性的多様性でトップ4分の1に入る企業は、下から4分の1の企業と比較して、平均を15〜21%上回る収益性を示す傾向があった。民族と文化の多様性のある企業は、収益性が平均よりも33〜35%高い傾向がある。

多様性と包括性のある企業を作るには、まず個人から手を付けることだ。管理職から新人社員に至るまで、全員が継続的に見直しを行い、先入観を捨てて新しい概念を学ぶ必要がある。

個人的な偏見を見直す。差別的な習慣を捨てる。自分とは異なる人を尊重する方法を学ぶ。

企業は、それを許さないという姿勢を示すことで、職場の差別を減らすことができる。Tembooの文化と行動は素晴らしいお手本だ。ユニコーンは魔法の生き物だが、多様性と包括性のあるハイテク企業は現実に存在する。そこでは、従業員たちに「普通」の考え方を再定義するよう求めている。

【編集部注】著者のSarah McMillian氏は、Tembooのセールス主査。母校のMIT、Complex誌、The Roots誌から多様と包括のリーダーとして認められている。またハイテク企業に多様性と包括性をもたせるためのアドバイスも行っている。

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(翻訳:金井哲夫)