曖昧だから良い? 米国の暗号資産規制がイノベーションを取りこぼさないワケ

曖昧だから良い? 米国の暗号資産規制がイノベーションを取りこぼさないワケ

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編集部注:この原稿は千野剛司氏による寄稿である。千野氏は、暗号資産交換業者(取引所)Kraken(クラーケン)の日本法人クラーケン・ジャパン(関東財務局長第00022号)の代表を務めている。Krakenは、米国において2011年に設立された老舗にあたり、Bitcoin(ビットコイン)を対象とした信用取引(レバレッジ取引)を提供した最初の取引所のひとつとしても知られる。

暗号資産取引所に上場するコインの数は日本の数倍。機関投資家や上場企業による積極的なBitcoin(ビットコイン)投資で今年の強気相場を牽引する。「コンテンツ大国」であるはずの日本よりも先に、アーティストやミュージシャン、スポーツ選手、セレブがデジタルアート販売やバーチャルリアリティ(仮想現実)のインフラ整備を目的としてNFT(ノン・ファンジブル・トークン)のブームを作る。そして、著名電気自動車メーカーCEOが有名なテレビ番組に出演して柴犬がトレードマークの「Dogecoin」(ドージコイン)について語る……。

上記は、2021年に入って米国の暗号資産業界が成し遂げたアチーブメント(実績)の一部です。5月はBitcoinをはじめ暗号資産マーケットは大幅に調整しましたが、米国市場に悲観ムードはあまり見られない印象です。「投機」や「ハッキング」といったネガティブなイメージから脱却できない日本とは雲泥の差で、暗号資産に対する温度差は激しいのは明らかだと思います。

一体なぜなのでしょうか?

もちろん様々な理由が考えられますが、その1つには、暗号資産を含めて新たなイノベーションに対する規制について、日米間で考え方に大きな違いがあるからと考えています。

日本は暗号資産大国だった

驚くことに実は、数年前まで日本は暗号資産のメッカでした。

Bitcoin創設者(または創設グループ)の名前がSatoshi Nakamoto(サトシ・ナカモト)であることに関係しているかどうかは定かではありませんが、Bitcoinの開発者や熱狂的なサポーターが国内外から東京に集まっていました。ニューヨーク・タイムズの記者であるナサニエル・ポッパー氏が2009年~2014年にかけて世界中のBitcoin関係者に直接取材して書いたルポタージュ「デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語」(ISBN:978-4-532-17601-3)では、東京が重要な舞台として登場します。ハッキング事件が起きるまで世界一のBitcoin取引高を誇った取引所Mt.Gox(マウントゴックス)は、東京に拠点を持っていました。実際、2018年頃までは、円建てのBitcoin取引高が全体の50%以上を占めていました。

何を隠そうクラーケンCEOであるJesse Powell(ジェシー・パウエル)も日本に魅了された1人です。当時、ハッキングを受けたMt.Goxを支援するために、たびたび東京を訪れました。

しかし、現在、東京は暗号資産のメッカとはとてもいえなくなってしましました。シェアの半分以上を占めていた円建てのBitcoin取引高は、7%未満まで落ち込みました。Bitcoin投資だけではありません。DeFi(分散型金融)やNFTブーム、ステーブルコインの台頭といった暗号資産の技術が基盤となるイノベーションについていけず、米国から大きく出遅れてしまっています。

イノベーションを定義できるのか? 日米規制の違い

突然ですが、読者の皆さんは、暗号資産やブロックチェーンの領域にかかわらず、今後、どのようなイノベーションが出現して世の中を変えていくのか完璧に予想することができますか?

どんな著名な起業家や経済学者、歴史学者であっても、答えは「NO」だと思います。また、最先端の研究に携わっている人でも、自分の分野以外のイノベーションを予測することは不可能でしょう。

それにもかかわらず、法律でイノベーションの形を厳格に定義して、基本的には、「その定義に合うイノベーションだけを認める」「定義に合わないものは認めない」といった杓子定規な運用をしている国があります。日本です。

消費者保護・マネロン対策の面では評価されている日本の規制

暗号資産の分野に関していえば、日本では、2017年の4月に資金決済法が改正され、暗号資産が法的に定義され、暗号資産を取り扱う事業者は仮想通貨交換業(現在は暗号資産交換業)としての登録が義務付けられました。この暗号資産規制は、日本が世界に先駆けて導入したものであり、導入当初は、事業者に金融機関並みの投資家保護やマネーロンダリング(マネロン)対策(AML)、テロ資金供与対策(CFT)などを求めたことが暗号資産市場に制度的な安定性を与えるものだと、おおむね好意的に評価されていました。

ただし、2014年のMt.Gox事件以降も、日本では2018年のコインチェック事件をはじめとして、巨額暗号資産の流出事件が相次ぎました。そしてこうした事件が起こる度に当局は事業者に対する規制を強化しており、現行の規制水準は、セキュリティに関するものを中心に一部金融機関の水準を上回っているのではないかと思います。

日本の法律と規制は、イノベーションを進めるという観点からは難点が多い

一方で、現状の規制では、暗号資産の商品性や技術的特殊性がほとんど考慮されていないなど課題が多いのも事実です。具体的には、日本では資金決済法で暗号資産の定義がきっちりと決められているため、定義に当てはまらない場合は、たとえイノベーションとして世界を変えるほどのプロダクトであっても、いくら海外で暗号資産として流通していても、日本国内ではそれが認められません。「やって良いこと」を毎回事前に決めてしまう日本の法律と規制は、イノベーションを進めるという観点からは難点が多いのではないかと感じています。

米国では、必要最低限の事項をリトマス試験紙のように判定し、最初から法令でがちがちに縛ることはしない

対照的に米国では、法律は「原則(プリンシプル)ベース」です。新しいイノベーションに基づくサービスが出てきた時、「すでに存在するサービスに該当しないか?」「犯罪に使われないか?」「詐欺ではないか?」「マネーロンダリングに使われないか?」など、必要最低限の事項をリトマス試験紙のように判定し、最初から法令でがちがちに縛ることはしない、というのが基本スタンスです。

例えば、2013年に米連邦捜査局(FBI)はBitcoinを使った決済を導入していたインターネット上の闇サイト「Silk Road」(シルクロード)の創業者を麻薬取引や詐欺、マネロンなどの罪で逮捕・起訴しました。また2019年、ニューヨーク州南部地方検察局は、北朝鮮で開催されたカンファレンスに参加して暗号資産に関する知識を提供したとしてEthereum Foundation(イーサリアム財団)の関係者を逮捕しました。

米国では、上記のように要所要所で取り締まるべきところは厳格に取り締まっていますが、基本的に、個別具体的なプロダクトやサービスレベルでは原理原則を守る限りは見守る方針があるようです。逆に言えば、企業やスタートアップは原理原則を守りながら新たなイノベーションにチャレンジすることが可能となっていると思います。

さらに米国では国レベルでも規制当局の数が多いこともあり、暗号資産の定義はバラバラです。米証券取引委員会(SEC)は「証券」、米商品先物取引委員会(CFTC)は「コモディティ」、米内国歳入庁(IRS)は「財産」と独自に定義づけをしています。現在の暗号資産はいまだ黎明期にあり、暗号資産というイノベーションが今後どのように進化していくのか、その全貌が把握できない中では、この曖昧さや統一感のなさが逆に柔軟性につながっているのではないかと感じています。

イノベーションを取り込む議論を!

暗号資産のイノベーションは、日進月歩ならぬ「秒進分歩」で進んでいます。日本国外では、DeFi(分散型金融)やステーブルコインといった既存金融サービスをブロックチェーン上で実装する動きが活発化しています。

DeFiの例としては、暗号資産の貸借取引(暗号資産を貸出して報酬を得る取引)のプラットフォームがあります。ここでは、暗号資産を貸出して報酬を得たい人と暗号資産を借入れたい人のマッチングばかりか、貸出・借入と報酬の授受も自動化されています。伝統的な金融では、証券会社、短資会社、証券金融会社、証券取引所といったプレイヤーが複雑に絡み合って成立している貸借取引の世界をプログラム上で実現し、さらに仕組みの改善を恒常的に行っている点は、私のような証券業界に長くいた人間からすると驚きに値します。

ステーブルコインは、法定通貨などを裏付けとして、ブロックチェーン上で発行されるもので、日本円や米ドルといった既存の法定通貨にペッグするように設計されています。こうしたステーブルコインの代表例には、テザー(USDT)やUSDC(USDコイン)があり、暗号資産市場で国際取引を行う際に、銀行を用いた国際送金の代替として活発に利用されています。銀行の国際送金は、資金の到着まで数日必要であり、手数料も高額ですが、ステーブルコインはこうした課題をブロックチェーン上で解決しています。

日本の暗号資産に関する法令が立法当時にどこまでイノベーションを意識していたか定かではありませんが、DeFiやステーブルコインの例を出すまでもなく、暗号資産におけるイノベーションは今後も加速度的に進化していくでしょう。

イノベーション、技術革新には不可逆性があります。つまり、一度誕生したら、過去にさかのぼって消すことはできず、それとうまく付き合っていくほかないのです。この点を念頭におくと、日本の暗号資産に関する法令・規制がイノベーションを取り込むという観点において、投資家の利益になっているか、国際競争上不利な状況になっていないか、法的により柔軟な対応は可能かどうかなどなど、議論を進めていく必要があるのではないかと感じています。

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タグ:暗号資産 / 仮想通貨(用語)Ethereum / イーサリアム(製品・サービス)Elon Musk / イーロン・マスク(人物)NFT / 非代替性トークン / クリプトアート(用語)金融庁クラーケン / Kraken(企業・サービス)コインチェック(企業・サービス)Jesse Powell / ジェシー・パウエル(人物)ステーブルコイン(用語)テロ資金供与対策 / CFTDeFi / 分散型金融(用語)Dogecoin(用語)Bitcoin / ビットコイン(用語)ブロックチェーン(用語)Mt.Gox(企業)マネーロンダリング防止 / AML日本(国・地域)

NFTはアーティストとミュージシャンだけでなくマネーロンダリングの分野でも注目を浴びる

暗号資産(仮想通貨)業界に注目するメディアが、あるトレンド追っている。Google(グーグル)検索のデータによれば、NFT(非代替性トークン)に対する関心が高まっており、今ではそれが2017年のICO(イニシャル・コイン・オファリング)のブームに匹敵するレベルに達している。

証券取引委員会がICOの周辺を嗅ぎ回り、ある場合にはマネーロンダリングに使用されていたと判断されるに至ったため、ICOが話題に上ることがなくなったのは記憶に新しい。そして今、トークンを追跡できるNFTでも、悪用される可能性があることをブロックチェーン取引の専門家は感じている。トークンを追跡できるからこそ、可能性があるということだ。

NFTがある意味で、デジタル収集品であることをほとんどの読者はすでにご存じだろう(この話題を避けるのは無理がある)。対象はPDFファイルでもツイートでも、デジタル化されたニューヨーク・タイムズのコラムでも構わない。

同じアイテムのコピーがどれだけ存在するとしても、アイテムに英数字の長い文字列が書きこまれることで編集不可能になる。初期段階から暗号資産に投資してきたVenrock(ヴェンロック)のDavid Pakman(デヴィッド・パクマン)氏の説明によれば、このコードはブロックチェーンにも同時に記録されるので、アイテムの所有者に関して記録が恒久的に残るのだ。PDFやツイート、NYタイムズのコラムなどを他の人がスクリーンショットで保存することは可能でも、そのスクリーンショットをなにかに利用することはできないが、NFT所有者はその収集品をさらに高い価格で売ることが(少なくとも理論的には)可能だ。

現時点でのNFT最高額は、約15日前にデジタルアーティストのMike Winkelmann(マイク・ウィンケルマン)が「Everydays:The First 5000 Days(日常:最初の5000日)」という作品で記録した6900万ドル(約76億円)という驚くべき額だ。これは現在活動中のアーティストのうち、Jeff Koons(ジェフ・クーンズ)とDavid Hockney(デヴィッド・ホックニー)に次ぐ3番目のオークション価格である。Beeple(ビープル)という名前を使うウィンケルマンは今回の取引で、自身が2月にクリプトアート作品を売却した際の660万ドル(約7億3000万円)という記録を塗り替えた。(彼は今週の初めに、別の作品も600万ドル、約6億6500万円で売却した)。このような熱狂の中、ビープル自身はメディアに対して、クリプトアートに「注目が集まっている」が、多くのNFTが「最終的に無価値になる」だろうとも語っている。

これほど大きな金額が絡むため、専門家はNFTが犯罪の温床となることを危惧しているが、それに対する対策はまだ講じられていない。

最も現実的に考えられる問題は、取引をベースとしたマネーロンダリングだ。つまり、取引の決済と見せかけて違法な収益を合法的なもののようにするのだ。アートの世界ではこの点がすでに大きな問題になっているが、NFTは芸術作品に類似しているうえ、現在はその金額が安定していない。

ブロックチェーン分析会社Chainalysis(チェーナリシス)で政府関連業務の責任者を務めるJesse Spiro(ジェッセ・スピロ)氏は、次のように説明する。「(従来の)芸術作品を利用した取引ベースのマネーロンダリングを特定する1つの方法は、(鑑定人に)適正な市場価格を提示してもらい、関係している作品の価格と適正価格を比較することで、請求額が過大または過小である取引、つまり本来の価値に対して値段が高すぎたり低すぎたりする取引を(監視)することでした」。

一例としてNBAのハイライトクリップを取り上げるが、数多くのNFTがさまざまな価格で販売されているのは良いことだ。スピロ氏が指摘するように、この状況ではアイテムの平均価格を計算できるため、不審な取引を見つけやすくなる。

一方で、販売履歴を把握できないケースでは、最終的な価格は「購入者が払いたいと思った額になるので」、違法な取引であるとは「断定できなくなってしまう」。スピロ氏によると「当事者同士が(取引を)成立させてしまえばよいのだ」という。

デジタル資産は他の犯罪にも使われることがあり、NFTにもその可能性がある。暗号資産市場の調査会社Solidus Labs(ソリダス・ラボ)の共同創設者兼CEOであるAsaf Meir(アサフ・メイア)氏は、個人や団体が同じ金融商品を同時に売却・購入する仮装売買や、同一組織内の2つのアカウント間が関係するクロス取引などを例に挙げて指摘する。ある資産の価格について虚偽の記録を作り出し、実際の市場価格を反映させないためにそのような手法が使われる。

どちらの手法もマネーロンダリングを防止する法律では違法であるものの、この行為を取り締まることが従来の方法では特に難しい。「市場では小売が一般的なため、複数のアカウントが手を組んで、複数のアドレスを使ってさまざまなアクションを実行できてしまうことが、暗号資産市場のやっかいな点です。利益を受けるオーナーが、別々の組織や機関のアカウントを使うこともあれば、同じ機関のアカウントを使う場合もあります」とメイア氏はいう。同氏と同社の共同創設者はGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)で出会い、株式の電子取引デスクで働くうち、デジタル資産に対する監視に関する問題が解決されていないことにすぐに気づくようになった。

NFTが違法な送金に利用されるものだとすべての人が考えているわけではないことも、覚えておくべきだろう。NFTマーケットプレイスのDapper Labs(ダッパー・ラボ)にも投資しているパクマン氏は「暗号資産の推進派はこのような問題に気を悪くしていますが、政府はマーケットプレイスや取引所に乗り込み、『商売がしたければ、顧客の個人情報とマネーロンダリング防止に関する法律に従い、顧客全員の身元を確認しろ』ということができます。このようにすると、一定額を超える不審な取引については、書類確認の実施が必要になります」と語る。

この2つの手順を踏むことで、不審な取引が見つかった時に当局がマーケットプレイスや取引所を呼び出し、ユーザーの身元確認を強制しやすくなる。

不審な取引が発生してから取り締まるまでに時間が経過してしまった場合、そのプロセスがどれほど効果的かという疑問も残る。それに対するパクマン氏の回答は「どんな情報でもさかのぼって調査することは可能です。今は目をつけられていなくても、1年後にFBIが追跡し始めるのも簡単です」というものだ。

暗号資産を使ってもっと簡単に多額の資金を移転できるのに、マネーロンダリングに手を染める人たちがわざわざNFTを利用するだろうかという別の疑問もある。ブロックチェーン分析プラットフォームElementus(エレメンタス)の共同創設者兼CEOであるMax Galka(マックス・ガルカ)氏は「NFTはマネーロンダリングにもってこいの媒体にならないと私が考える理由の1つは、二次市場の流動性が低いことです」という。つまり、犯罪者が取引に関係する可能性を下げにくいというわけだ。

以前はDeutsche Bank(ドイツ銀行)とCredit Suisse(クレディ・スイス)で証券トレーダーを務めていたGalka(ガルカ)氏は、犯罪者たちがNFTを使わずに、流動性があって代替性の高い(トークン内に一意の情報が書き込まれない)トークンを分散型取引所で購入するのではないか、とも考えている。その方法を使えば、資金を追跡することは非代替性トークンよりも難しくなる。

「NFTがマネーロンダリングに利用される可能性は確かにありますが、その目的に利用できる資産がブロックチェーンの分野にたくさんあることを考えれば、(NFTをその他の方法と比べた時に)ベストな選択とはならないでしょう」とガルカ氏は語る。

チェーナリシス社のスピロ氏も理論上はこの意見に賛成しているが、NFTの作成と販売が急速に増大しているため、必要なプロセスが整備されていないことが多いと警鐘を鳴らす。

「NFTの大部分はイーサリアムのブロックチェーンで動いています。技術的に追跡可能なのは確かです。NFTを運用している組織はコンプライアンスを順守し、ブロックチェーンの犯罪捜査や分析に協力して、資金の流れを把握できるようにしていることになっています」と同氏は語る。

「取引を追跡でき、ユーザーがトークンを流通紙幣などに交換する時点で(個人情報の)提出が義務付けられており」、法執行機関や規制機関がその取引と違法行為との関連性を確認できるのが理想だと同氏はいう。

現時点ではそのような制度が整っていないことが、Nifty Gateway(ニフティー・ゲートウェイ)2021年3月初めに発生した盗難事件で露呈した。泥棒が高尚な趣味を持っていたなら、同社の顧客は収集品を取り戻すことはできなかったかもしれない。

「現在のところ、NFTに関するコンプライアンスには不明瞭な点があります」とスピロ氏はいう。

「マネーロンダリングの手法が簡単であれはよいというわけではありません。犯罪者たちが探している方法というのは、マネーロンダリングする資金を差し押さえられる可能性が最も小さい方法です。NFTがそれにあたるというわけではありませんが、弱点があれば必ずそこを突いてくるでしょう。犯罪者たちはいつでも目を凝らして抜け穴を探しているのです」とも同氏は付け加えている。

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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:NFTマネーロンダリング暗号資産

画像クレジット:Beeple

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

メルカリのスマホ決済サービス「メルペイ」がマイナンバーカードのJPKIによるリアルタイムの本人確認に対応

メルカリのスマホ決済サービス「メルペイ」がマイナンバーカードによる本人確認に対応メルペイは、フリマアプリ「メルカリ」のスマホ決済サービス「メルペイ」が、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を利用した本人確認に対応したと発表しました。まずiOS版が対応し、Android版は3月中に対応します。

メルペイでは、オンライン上での本人確認機能として、運転免許証などを撮影し、名前や住所などの必要事項を入力することで本人確認が完了する「アプリでかんたん本人確認」を、2019年4月23日から提供しています。

これまでの運転免許証などの撮影に代わり、マイナンバーカードのICチップに格納されている署名用電子証明書をもとに公的個人認証サービスを利用することで、リアルタイムに本人確認を完了できるとしています。

メルカリのスマホ決済サービス「メルペイ」がマイナンバーカードによる本人確認に対応

本人確認操作の流れ。一部の人には、必要に応じて追加の確認を行うため、オンラインでの本人確認が完了しない場合があるとのこと

メルペイによると、スマホ決済サービス事業者として本人確認にマイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を利用するのは今回が初めてとのことです。

(Source:メルペイEngadget日本版より転載)

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LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術に関連する国内外のニュースから、過去1週間分について重要かつこれはという話題をピックアップしていく。今回は2020年12月20日~12月26日の情報から。

ジェーシービー(JCB)LayerXは12月22日、複数企業間をつなぐ次世代「BtoB取引履歴インフラ」に関する共同研究の開始を発表した。共同研究において両社は、プライバシーに配慮した利用者主体の商流情報の流通を実現し、それらを活用した高度なサービスを可能にする新たなデジタルサプライチェーン構築を目指す。

近年、中央銀行デジタル通貨(CBDC。Central Bank Digital Currency)をはじめデジタル通貨による決済プラットフォーム構築に向けた動きが活発化している。これらデジタル通貨に関する試みおよびメリットのひとつに、「様々な機能・ロジックを付加できるお金」という側面があり、こうした新形態のお金は「プログラマブルマネー」と呼ばれている。契約・請求・支払いなど一連のオペレーションのデジタル化・効率化、さらには自動執行が期待される。

これを受け共同研究では、JCBの強みを生かし、地域金融機関、BtoB決済に関わるソリューションプロバイダーなどとの協業も視野に入れ、BtoB取引履歴インフラの新モデルを検討していく。次世代インフラは、オペレーションの効率化に留まらず、業種・業界を超えたサプライチェーンプラットフォームならではの、商流情報を活用した高度なサービスの実現を目指すという。

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始

また、異なる業種・業界間における取引情報の共有においては、ブロックチェーン技術を用い取引情報を記録することで改ざん困難かつ確かなデータ流通が可能になるものの、両社はこれだけでは不十分という。社会実装においては、データ保護・プライバシーの観点から、情報主体(利用者)それぞれが「金融機関など業務上必要のある事業者には開示する」「不必要な事業者には開示しない」など取引情報の閲覧権限を柔軟に設定できるデータコントロールの仕組みが、情報提供者に対して求められる。

さらに与信情報の照会・確認などでは、データを秘匿したままデータ演算を行うといった高度なプライバシー技術を必要とする。

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始今回の共同研究では、TEE(Trusted Execution Environment)を応用しLayerXが開発したソリューション「Anonify」(アノニファイ)とブロックチェーンを組み合わせ、取引情報の秘匿性・信頼性を担保し、利用者による開示情報の取捨選択を実現する。

TEEは、PCやスマートフォンが搭載するプロセッサーのセキュリティ機能にあたり、アプリケーションを安全な実行環境で動作させるための技術。ユーザーであってもアクセス不可能なデータ領域を端末に構築し、アクセス制限をハードウェアレベルで保証する。これにより同環境下では、クラッキングやマルウェアによる攻撃などの脅威を防ぐことができる。

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始Anonifyは、TEEを活用した、ブロックチェーンのプライバシー保護技術。ブロックチェーン外のTEEで取引情報の暗号化や復号を行い、ビジネスロジックを実行することで、ブロックチェーンの性質を活かしながらプライバシーを保護する。複数の企業や組織が共同で利用する共通基盤において、秘匿性と監査性を両立させたアプリケーションを構築可能という。詳細は、ホワイトペーパーAnonify Book(JP)ソースコードをはじめ、LayerXサイトのAnonifyに関するページを確認してほしい。

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始JCBは、デジタルによる取引が増えていく社会の中で、デジタル取引・送金の履歴を蓄積し、必要に応じて取り出して参照できるインフラの必要性が高まると考え、同共同研究に挑む。両社はBtoB決済におけるトランザクションの記録・活用に加えて、デジタル通貨を用いた国内外送金などの金融取引に関するマネーローンダリング(資金洗浄)防止(AML。Anti-Money Laundering)およびテロ資金供与対策(CFT。Counter Financing of Terrorism)強化に向けたトランザクション識別と追跡性担保を可能にするといった、今後は必要不可欠となるインフラへの応用も視野に入れて、研究開発に取り組んでいく。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:Anonifyオープンソース / Open Source(用語)JCBテロ資金供与対策 / CFTプライバシー(用語)ブロックチェーン(用語)マネーロンダリング防止 / AMLLayerX(企業)日本(国・地域)