集英社・少年ジャンプ編集部と新規事業開発部が「マンガテック2020」参加スタートアップを募集

集英社 少年ジャンプ編集部 新規事業開発部 スタートアップ アクセラレータープログラム マンガテック2020

集英社・少年ジャンプ編集部と新規事業開発部は7月21日、新たなマンガビジネス創造を目指す「集英社スタートアップアクセラレータープログラムマンガテック2020」(マンガテック2020)において、スタートアップ企業の募集開始を発表した。募集期間は9月30日23時59分まで。

集英社 少年ジャンプ編集部 新規事業開発部 スタートアップ アクセラレータープログラム マンガテック2020

マンガテック2020は、多くのマンガ作品を送り出してきた集英社が、従来のマンガビジネスにとらわれない斬新な事業アイデアを持つスタートアップとともに、新たなビジネスを生み出すための共創プログラム。もっとマンガの可能性を拡げたい・変えてみたいという、マンガビジネス開拓に熱い想いとアイデアを持つ起業家・スタートアップを募集する。

1次選考(書類選考)、2次選考(選考面談)の実施後、通過者は3次選考「マンガテック選考会」に参加可能となる。同選考会では、アクセラレータープログラムの対象者(5者予定)を選定。メンターの協力のもと「少年ジャンプ」編集部と新規事業開発部が中心となり行う。

また、マンガテック選考会で選出された対象企業に対しては、メンターによる伴走型アドバイス、少年ジャンプ編集部と新規事業開発部の持つマンガビジネスノウハウ、チャネルなどの資産の提供を通じて、事業ステージを進める起業・経営支援を実施する。

アクセラレータープログラムの成果発表は、2021年3月下旬予定。詳細なスケジュールなどは専用サイトで順次公開する。

  • 募集テーマ: 「エンタメ業界を変革するような新規アイデア、ビジネス」。自由な発想で、これまでに思いつかなかった分野・アイデア・テクノロジーとマンガを組み合わせ、新たな価値を生み出せるもの
  • 募集対象: 従来のマンガ、パブリッシングビジネス領域をアップデートできる、常識にとらわれないビジネスへのチャレンジを志す起業家・スタートアップ、新規事業を計画中の起業志望者(個人)。国籍・年齢などは問わないが、同プログラムはすべて日本語で実施される
  • 応募方法: 専用サイトにおいて募集受付
  • 募集期間: 9月30日23時59分まで
  • 賞品・賞金: アクセラレータープログラムへの参加権。副賞として最優秀賞1者「100万円分の事業化支援金」、優秀賞1者「50万円分の事業化支援金」、入賞3者「10万円分の事業化支援金」を用意

少年ジャンプ編集部では、マンガ・キャラクターに関する新しいアプリ・Webサービスの開発案募集について、2017年4月より「少年ジャンプアプリ開発コンテスト」として実施。これまでの入賞企画は、電子コミックマッピングサービス「マワシヨミジャンプ」、マンガアプリ「瞬刊少年ジャンプ」として配信を行った実績がある。

そうした中で、アプリ開発だけではない、新しいマンガビジネスの可能性を感じるようになったという。従来出版ビジネスの範囲では出会えなかったスタートアップや個人から、マンガ、キャラクター、パブリッシング分野に関連するイノベーティブな事業アイデアを広く募集し、共に新たなマンガビジネスを創出、発展させたいとしている。

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週刊少年ジャンプ編集部が新しいアプリ、Webサービスの企画を公募する「少年ジャンプアプリ開発コンテスト」。ジャンプ50周年を記念して2017年に開催が始まった同コンテストは、今年で第3期目となる。なぜ、コミック誌の編集部がアプリ開発コンテストを主催するのか。その狙いや、これからのマンガ業界、マンガアプリへの思いについて、コンテストの担当者に話を聞いた。

新人賞で作家と出会うようにコンテストで優れたアイデアと出会う

今回取材したのは、集英社 週刊少年ジャンプ編集部の細野修平氏と籾山悠太氏。細野氏はジャンプのWeb・アプリ版として展開されている「少年ジャンプ+」編集長を務め、籾山氏も少年ジャンプ+を担当する。

写真左から:集英社 週刊少年ジャンプ編集部 細野修平氏、籾山悠太氏

アプリ開発コンテスト実施のきっかけについて、籾山氏は「ジャンプ+を運営し、デジタル事業に取り組む中で課題を感じており、外から新たに技術やアイデアを借りたいと考えたから」と話す。そこで「週刊少年ジャンプ」刊行50周年を期にコンテストを開催。「ジャンプ50年の歴史を振り返るとともに、新しいこともやっていくという意気込みを、コンテスト開催を通じて訴えたかった」と籾山氏は説明する。

細野氏は「ジャンプ+も当時のマンガ誌や既存のマンガアプリに対する危機感から立ち上がったアプリで、ジャンプとして何がアプリにできるのかを考え、実現しようとしてきた」という。2014年に創刊したジャンプ+のアプリは現在1000万ダウンロード、WAU(週間アクティブユーザー)が250万に達しており、リニューアルなどを行いながら「成長はしている」と細野氏。だが細野氏も籾山氏と同様、「もっとやれることがあるのではないかと感じている」という。

コンテストの第1期では、合計373件の企画応募があった。最優秀賞に輝いたのは、現実のマップ上でマンガを交換できる「マワシヨミジャンプ」。ミライアプリが企画したこのアプリは、ほかのユーザーが地図上に置いた電子版コミックスや「週刊少年ジャンプ」のバックナンバーを拾って読むことができ、置くことで再び誰かが拾うことができる。昔あった、電車の網棚に置き去りになっていたマンガ誌を拾い読みして、また次の誰かに置いていくといった体験を、スマートフォンと位置情報で再現したサービスだ。

マワシヨミジャンプは受賞後、開発が進められ、今年1月にローンチした。「ユーザーからもいい評価を得ている」(細野氏)という。籾山氏によれば「マワシヨミで読まれた作品が、電子書店での売上も上がっていて、読者ももちろん、作家にも喜ばれている」とのこと。細野氏は「新しいマンガと思わぬ出会いがある、という面でよかった。どのストアにアクセスしても同じ、という横並びのアプリが多い中で、マワシヨミジャンプは新しい発想だった」と述べている。

コンテスト第1期入賞作「マワシヨミジャンプ」

「1期目の時点で、思ったよりもよい企画が集まり、想定を超えるアイデアもあった」という細野氏。初回コンテストで手応えを感じた編集部では、昨年も続けて第2期を開催した。第2期では3企画が入賞し、年内リリースに向けて現在開発が進められているという。

細野氏は「編集部にとっては、マンガ新人賞で才能のある新人作家と出会うように、コンテストで優れた開発会社や新しいアイデアとの出会いがあった」と述べている。コンテストはプロダクトや仕様ではなく、企画の段階で募集を行っているが、2次選考以降ではプレゼンテーションがあり、「そこでのコミュニケーションが面白い」と籾山氏も付け加える。「個性、人柄も含めて、コンテストを開催しなければ出会えなかった人たちと出会えた。マンガやジャンプについて、いろいろな意見交換をすることもできた」(籾山氏)

マンガ、アプリに広がる袋小路感を払拭するアイデア求む

ジャンプ編集部では、ジャンプ+のほかにもさまざまなアプリを提供している。『ONE PIECE』や『NARUTO-ナルト-』『銀魂』など人気作の単独公式アプリやジャンプのキャラクターで遊べる「きせかえジャンプ」や「ネコの大喜利寿司」といったファンアプリ、マンガ制作のための作画ツール「ジャンプPAINT by MediBang」や投稿プラットフォーム「ジャンプルーキー!」といった描き手のためのアプリ、海外向けに最新作を即翻訳して月曜に公開する「MANGA Plus by SHUEISHA」など、多様なアプローチでアプリを展開してきた。

「少年ジャンプ+」Webサイト。iOS/Androidアプリも提供されている

籾山氏はしかし「大志を持ってジャンプ+を立ち上げ、5年間、マンガが盛り上がるように運営してきたつもりだけれども、道半ば」と語り、コンテストにかける期待について次のように述べる。

「子どもの頃、月曜にみんながジャンプを読んで話題にしていたような存在感が今あるだろうか。作品でもアプリでも、日本中全員が読んでいるようなものはない。でもみんなスマホは持っている。だからチャンスも大きい。読者や作家のためにも、いろんな人の力を借りたい」(籾山氏)

籾山氏は「インターネットの普及で、読者がマンガに使う時間が減り、新連載の単行本も部数が減っている。YouTubeとマンガとの間でユーザーの取り合いが起きていて、『マンガは読まない』という人も増えている」とマンガ業界全体への危機感を表す。

「多様性が求められる時代だということは分かっている。ただ、ジャンプとして、みんなが国民的作品を楽しみにしていた世界観も大切にしたい。コンテストを開催することで、時代にあらがって、むしろ昔より大きなムーブメントにしたい。(スマホとアプリがあることで)以前より可能性はあると思っている」(籾山氏)

また、籾山氏は「ジャンプの本質は新作が生まれることにある」と述べ、「旧作を読み直すのがマンガアプリのよくある使われ方だったが、新作が生まれるアイデアをコンテストでは求めている。新作がお金になる、作家が新作をかけて稼げる、新作が世界に広まる、といったアイデアを形にすることで、作家や読者をエンパワーしたい」とも話している。

細野氏も「マンガアプリの可能性が袋小路に入りそうな予感」を抱えているという。「マンガがデジタルに変わる、というシフトによる変化がこれ以上膨らまない感じに、漠然と危機感を覚える。新しい出会いによって、全く違う可能性をつかみたい」(細野氏)

さらに細野氏は「ジャンプだけでなくマンガ、アプリ全体に広がる袋小路感を払拭したい。わくわく感やエンタメとしての見せ方、読み方、課金方法など、必ず違うアイデアがあるはず。『アプリで収益が上がればいいのでは』という考え方もあるだろうが、それではつまらない。マンガ界を変えるようなアプリがほしい」と語る。

「このままではマンガが、元気なファンがいるサブカルになりそうでこわい。SNSを通じてバズるマンガもあるが、昔、誰もがその作品なら知っている、というような幅広い人気ではない。マンガアプリ全体のダウンロード数は主要アプリの合計だけでも1億ぐらいある。MAUも大きく、ジャンプ黄金期よりもマンガは読まれているのかもしれない。でも『みんなが』『お金を払って』マンガを読み、『新しいマンガの表現が生まれ続ける』状況になければ、マンガはマイナーになっていくのではないか」(細野氏)

現在開催中のアプリ開発コンテスト第3期では、7月31日まで企画を募集中だ。今年のコンテストでは「ジャンプの枠をぶち破り、マンガのミライを切り開く」というキャッチフレーズを掲げ、ジャンプが抱える作品群などのIP(知的財産)の枠に縛られず、マワシヨミジャンプに匹敵するような斬新なアイデアを求めているという。

「ジャンプは昔から新しいことをやってきた。デジタル漫画賞なんかは早すぎたぐらい。アプリもその新しいことのひとつとしてのチャレンジ」という細野氏。「読み方、読ませ方や、リアルの本棚ではすぐに読みたい本にアクセスできるのに電子書籍だと電子本棚から探せない、といった解決できていない課題はまだまだある。マンガにもっとフォーカスして、特有の課題を解決したい」と話している。

籾山氏からも「ジャンプには人気作を生み出し続けるシステムが完成していたが、システム自体が変化している」と課題感が述べられた。「アプリ、テクノロジーがその変化に関連している。マンガ界にとってアプリ、テクノロジーが重要になりつつある」(籾山氏)

その一例として、読者アンケートの仕組みが挙げられた。ジャンプ編集部では、2000年ごろには高度なアンケートシステムが確立していたが、2000年代後半からスマートフォンにも「面が増えた」ことで変化が起きているという。

「アンケートのほかにも『ジャンプ連載を目指す』という作家たちのための漫画賞や原稿持ち込みの仕組み、マンガの表現方法や、雑誌の発行頻度、紙質、ページ数など、さまざまな面で時代ごとに最善の施策が探られてきた。それが今起きている変化によって、自由になっている。昔の人もいろいろと試行錯誤してやってきたことを、新しい形でチャレンジしていきたい」(籾山氏)

籾山氏は「完成したアプリとしての企画でなく、1つの機能でも、プロフェッショナルなアイデアなら大歓迎」という。

「先ほど挙げた読者アンケートの画期的なシステムとか、月曜の話題になるようなコミュニケーションのあり方とか、アイデアがたくさんあればあるほどいい。読まれ方や広告・課金の方法にしても、最近主流になっている『チケット制』(一定期間待てば無料で1話ずつ読めるが、すぐ読むためには課金が必要なマンガアプリの仕組み)なども、韓国発のシステムが急激に広まったもの。同じように僕らがまだ知らない展開の仕方があるなら、見てみたい」(籾山氏)

細野氏も「アプリそのものではなく、マンガを取り巻くエコシステムの企画でもいい」と話している。細野氏が一例として挙げたのは、直接コンテストとは関係がないが、アプリ向けのマーケティングツールを提供するRepro(リプロ)と少年ジャンプ+が共同で実施した実証実験だ。作品の閲覧数等を分析すると、「3話分の閲覧数があれば、そのマンガが読まれ続けるかどうか分かる」という結果が出たそうだ。この結果は、これまで編集者の間で語られていた経験知とも一致するものだったという。

「マンガ業界以外からの新たなアイデアを待っている。また、アプリ制作者でなく、自由な表現を求める漫画家からのマンガの見せ方・読み方のアイデアもぜひ寄せてもらいたい」(細野氏)

「賞金100万円とは別に、開発資金を最大5000万円まで用意している。創業したばかりのスタートアップであっても、アイデア、技術、熱意があれば、それを実現できるチャンス。ぜひ応募してほしい」(籾山氏)

イラストの描き方を動画で学ぶ「パルミー」が朝日やDeNAなどから数千万円規模の資金調達

palmi_top

イラストやマンガの描き方の動画学習サイト「Palmie(パルミー)」を運営するパルミーがDeNA朝日新聞社Viling Venture Partnersから資金調達を行ったことを発表した。調達金額は非公開だが、関係者らの話によれば数千万円規模の模様。また、2016年6月1に社名をスーパーフラットからパルミーに変更している。

2014年12月にローンチしたパルミーはイラストレーター、漫画家、アニメーターを目指す人向けに絵の描き方が学べる動画を提供している。例えば、下記の動画ではキャラクターの髪の描き方を説明している。

パルミーではPhotoshopやCLIP STUDIO PAINTといったツール別や身体、衣装、背景といった描く対象別に、学習目的に合わせて動画を見つけることができる。また、パルミーの「カリキュラム」からは、数本の学習動画を順序立てたコースを受講することができる。例えば、顔や体の描き方を基本から学べる4つの動画授業をまとめた「初級コース」や盾、鎧といった金属の質感表現が学べる「上級コース」などがある。これらの動画にはユーザーが動画を視聴するだけでなく、手を動かして実際にイラストを作成し、それを提出する「イラレポ」機能がある。動画視聴とイラストの提出の両方を行うことで、コースの完了率が上がっていく仕組みだ。また、提出した「イラレポ」はユーザー同士で「いいね」やコメントを付けたり、あるいはTwitter上でパルミーのハッシュダグを付けて進捗具合を発信したりと、ユーザー間のコミュニケーションが生まれているとパルミーのファウンダーで代表取締役の伊藤貴広氏は言う。これらは全て無料で利用でき、現在掲載している動画本数は170本以上あるそうだ。

講座画面

パルミーの講座画面

2015年12月からは、有料の「プレミアム講座」を提供しているという。これは第一線で活躍するイラストレーターやアニメーターによる生放送の授業だ。受講生は生放送中に先生に質問をしたり、授業によっては添削を依頼することも可能だ。放送は録画されているので、受講日から半年間は授業を繰り返し見ることもできる。90分1コマの授業が4回というのが基本的な講座内容で、見たところ価格は1万円台のものが多い。

DeNAから資金調達を行った理由について、DeNAはゲームやエンタメ事業においてクリエイターとの深い関わりがあるためと伊藤氏は説明する。伊藤氏の前職がDeNAだったというつながりもある。すでにDeNAが提供するアプリ「マンガボックス」にマンガを投稿するインディーズ作家向けにパルミーの動画を提供する取り組みを始めているそうだ。今後もクリエイターの育成面での連携を行っていくと伊藤氏は話す。一方、朝日新聞社とは同社の広いネットワークを介して様々な企業とのアライアンスができることに期待しているという。パルミーは朝日新聞社メディアラボが主催する「朝日新聞アクセラレータープログラム」に採択されていたスタートアップの中の一社なので、朝日新聞社からの出資は順当な話のようだ。

伊藤氏はもともと漫画家を目指していたと話す。だが、伊藤氏の出身の福岡には絵の学校が少なく、東京の美大に進学したという。当時、本の教材などもあったが、地方では本が届くのに何日もかかったり、そもそも本だと絵を学びにくいと感じたという。そういった問題を解決するため、伊藤氏は2014年10月にパルミーを創業し、同年12月からサービスの提供を開始した。これまでに累計で50万人の利用があったと言う。今回の資金調達では主に「プレミアム講座」の販売を軸に事業を成長させていくと話す。また、海外、特にヨーロッパから講座を購入している人も多く、来年後半移行から海外での売上も伸ばしていく計画だと話している。