インターネット上の取り締まり強化を続けるエジプトが暗号化メッセージアプリのSignalをブロック

After subsequent leaks of emails by WikiLeaks and suspected Russian hacks of the Democratic National Convention (DNC) the Clinton campaign is said to advise campaign members to use a messaging app approved by Edward Snowden called Signal. The app uses data encryption to send messages only readable by the designated receiver. (Photo by Jaap Arriens/NurPhoto via Getty Images)

【編集部注】執筆者のFarid Y. Faridはカイロを拠点とするジャーナリスト兼研究者。

暗号化メッセージアプリのSignalが、エジプトで一週間に渡ってブロックされていたが、Signalの親会社であるOpen Whisper Systemsが追加した新たな機能のおかげでサービスは無事復旧した。

これまでに数々の重大な告発を行ってきたEdward Snowdenを含み、活動家の間で人気の暗号化メッセージアプリSignalのユーザーは、先週からサービスに接続できないと報告していた。

エジプトは今年1年を通して言論の取り締まりを段々と強化しており、Signalのブロックは、現政権に対して反対意見を表明している邪魔なオープンジャーナリズムを抑制するための新たな一手でしかない。

「Signalは第三者に連絡先を漏らさずにセキュアなやりとりをするための重要な手段です」とエジプトの有名ブロガーであり、Global Voicesの役員でもあるMohamed ElGoharyは話す。

活動家の中で1番最初にサービス不通の状況をTwitterで報告したのは、ElGoharyだった。

「私が友人にSignal上でメッセージを送ろうとしたところ、『送信できません』という警告が表示され、他の友人も試したのですが結果は同じでした。別のISPを経由してもメッセージは送付できず、VPNを使って初めてメッセージを送ることができました。そのため、私は問題がエジプト国内でだけ起きているのだと考えたんです」とElGoharyはTechCrunchとのインタビューで語った。

iOS、Android、コンピューターの全てで利用可能なSignalは、第三者(例えば政府)がメッセージの内容を見ることができないように、エンドツーエンドの暗号化機能を標準で備えている。このサービスを使うことで情報提供者を保護することができるため、エジプトの活動家やジャーナリストの多くがSignalを利用している

世界中の皆さんへ
昨日からSignalとTelegramはエジプト国内で利用できなくなりました。失われたものは色々とありますが、セキュアな会話ができなくなったのは特に悔やまれます。

エジプトはSignal以外にも、SkypeやWhatappといったVoIPアプリをこれまでにブロックしたことがあるが、このような営利目的のコミュニケーションサービスには、Signalと同じようなレベルの暗号化・プライバシー機能が備わっていない。

エジプト以外の中東諸国や北アフリカ諸国(モロッコなど)も、匿名メッセージサービスのアクセスを制限していたことがあり、トルコは最近起きたロシア大使の暗殺事件を受けて、ソーシャルメディアをブロックしていた。

「このような通信妨害には統一性がなく、その動機もはっきりしません」とカイロにあるAmerican Universityでコミュニケーション論の教授を務め、「The Internet in the Arab World」の著者でもあるRasha Abdullaは話す。彼女自身もSignal利用者で、彼女は同サービスがブロックされていたときもSignalにアクセスすることができた。

エジプトの通信・情報技術省は、Signalをブロックしたという事実を認めても否定してもおらず、TechCrunchからの複数回におよぶ連絡にも応じていない。

Signalを標的とした今回の事件の結果、サンフランシスコを拠点とするOpen Whisper Systemsが「アクセスの検閲」と名付けた、情報セキュリティ上の不安が強まっている。

Open Whisper Systemsは、Signalのアップデート時にドメインフロンティング(domain fronting)と呼ばれる手法を使い、「エジプトとアラブ首長国での検閲回避」を新たな機能として導入した。

「標的のトラフィックをブロックするためには、政府がサービス全体をブロックしなければならないような仕組みをもとに新機能を開発しました。十分な規模のサービスがドメインフロントの役割を担うことで、Sigalをブロックするということを、インターネット全体をブロックするかのように見せることができます」と同社が発行した技術文書には書かれている。

30年間に渡って続いた前大統領ホスニー・ムバーラクの独裁政治が、2011年に起きたアラブの春で覆されたときにも、エジプト当局がインターネットへのアクセスを切断したというのは有名な話だ。

誰か@TEDataEgyptに登録して、このサイト(https://t.co/U7wptEmr4H)にアクセスできるかチェックしてもらえませんか?私だけがアクセスできないとTE Dataは言っているんですが。

「コンテンツをブロックするにしろ、ユーザーの投稿内容を規制するにしろ、インターネット上の自由を奪おうとする動きは、2011年の事件やその数年後に証明された、ソーシャルメディアの力に対抗するための手段に違いありません。オンラインの世界は、これまでになかったような形で、人々が自由に議論を交わして組織をつくるための空間を生み出したんです」とAbdullaは話す。

また、デジタル人権団体のPrivacy Internationalは今年発行したレポートの中で、エジプト国内でアラブの春が盛り上がっていた時期に、政府がイタリア企業のHacking Teamを含む複数のヨーロッパ企業から監視用製品を購入していたと主張している。

Signalのブロックは、表現の自由に対する制限が特に強まっていた時期に発生した。あるFacebookページの管理者は「誤ったニュースを公開していた」ために逮捕され、さらに暴力を扇動しているという理由で、163件のFacebookページが閉鎖に追い込まれた。

アブドルファッターフ・アッ=シーシー大統領のもと、エジプトはインターネット上の取り締まりを強化しており、最近でも物議を醸したFacebookのFree Basicsプログラムを、ユーザーの監視ができないという理由でブロックし、風刺的なポストをFacebook上に投稿した市民を逮捕したほか、Deep Packet Inspectionという技術を使って、エジプト市民のインターネット上での動きを広範に監視しているとの報道までなされている。

27人の命を奪ったイスラム国(IS)によるカイロの教会でのテロ行為が発生した後すぐに、エジプトの各政党は、死刑を含む刑罰が盛り込まれたサイバーセキュリティ関連法を可決するよう国会に再度求めた。

Abdullaは法律の厳しさについて、「残念ながらアラブ社会のほとんどの法律は、規制よりも支配を目的としてつくられています」と説明する。

「さらにこの法案ではISPにも責任が課されるようになっているため、社会の各グループがお互いを監視し合うようになってしまうかもしれません」と彼女は話す。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

金融機関を味方にメッセージアプリのSymphonyが評価額10億ドル超で新たに資金を調達中

String quartet Cello

ウォールストリートにある14の金融機関を投資家・ユーザーに持つ、暗号化メッセージサービスのSymphonyが、新たなラウンドで2億ドルを調達中であることがわかった。調達前の評価額は10億ドルを超えると見られている。既存の投資家に加えて、新たにシンガポール政府が(Temasek、GICを含む)投資部門を通してラウンドに参加する予定だ。Symphonyは調達資金を使って、現存する金融機関向けサービスの内容を拡充すると共に、ヘルスケアなど他分野の顧客獲得も狙っている。

同社は、最近では2015年3月に1億ドルを調達しており、Symphony社内の情報筋によれば、当時の評価額は7億ドルだった。既存の投資家には、Google、Lakestar、Natixis、Societe Generale、UBS、Merus Capitalのほかにも、Bank of America、BlackRock,、Citibank、Deutsche Bank、Goldman Sachs、HSBC、JP Morganを含む14の大手金融機関からなるコンソーシアムが挙げられる。また、これまでにSymphonyは合計1億6600万ドルを調達してきた。

1億2500万ドルから2億ドルの規模に達すると情報筋が伝える今回のラウンドは、既に完全にクローズしているかどうかは分かっていないが、投資ラウンド自体はSymphonyが追加資金を必要として主導したわけではなく、むしろ投資家から同社に声をかけていたようだ。

さらに、ラウンドがはじまってから既にある程度の期間が経っているようだ。今年の10月には、General Atlanticやシンガポール政府などを新たな投資家候補とし、Symphonyが最大1億ドルを調達中だとThe Wall Street Journalが報じており、私たちが入手した情報と内容が一致している。

Symphony自体は、今回のラウンドについて直接コメントを発表しようとしていない(今回も投資家が同社にアプローチしてラウンドが開催されたと噂されている)。

Symphonyの広報担当者は「私たちは追加資金を必要とはしていません。既に現在のオペレーションや将来の成長戦略に必要な資金は確保しています」と話す。それとは別に、同社のCEO兼ファウンダーのDavid Gurleは広報担当者を通じて、ラウンドの存在と評価額が10億ドル以上であったことを認めている。

Symphonyは2014年に、同社の投資家である複数の銀行から成るコンソーシアムが、Perzoと呼ばれるメッセージングサービス企業を買収して「Bloombergキラー」を作ろうとする中で誕生した。ここでのBloombergとは、Bloombergが金融期間向けに製造・ライセンシングしている、メッセージ機能、株価・ニュース機能を備えたオールインワン端末を指している。

各銀行は、誰も必要としていない、もしくは利用していないデータで溢れた高価なBloomberg端末に不満を感じていた。さらに、顧客や関係者とはWhatsAppなど他社のサービスを使ってメッセージのやりとりを行う利用者も増えていた。

Symphonyは、不要な機能を削ぎ落とした、両者の間を埋めるようなプロダクトなのだ。

メッセージ機能を核としつつ、今年に入ってからは新たな主要機能もいくつか追加された。今ではSymphonyを使って、音声通話やビデオ通話ができるほか、Slackなどのアプリのように、ユーザーがニーズに応じてサードパーティーアプリを追加し、機能を拡大できるような仕組みも導入されている。現状のSymphony用マーケットプレースのサイズは小さく、5つのアプリしか登録されていない。その内訳は、Dow Jones、ビジネス向けキュレーションアプリのSelerity、Chart IQ、S&P market intelligence、そしてSelerityに加えてさらなる情報源となるFintech Studiosだ。

極めて携帯性が高い(スマートホン上でも利用できる)上、Symphonyの利用料はBloombergターミナルとくらべてかなり安い。Bloombergターミナルは、端末1台で年間約2万5000ドルほど(バルクで導入するともう少し価格は下がる)のコストがかかるところ、Symphonyはフリーミアムモデルを採用しており、有料プランも1ユーザーあたり月額15ドルで利用できる。

最後に大切な事項として、このプロダクトの鍵は、会社を超えて外部とコミュニケーションをとる必要がある人をターゲットとしつつも、セキュリティや規制ポリシーにはしっかりと準拠しているということだ。「銀行とのコラボレーションの難しさを知っている人であれば、この点だけでSymphonyが偉業を成し遂げたと理解できるでしょう」とある人は語る。

MicrosoftやFacebookといった大手テック企業は、さまざまな分野でSlackのような企業と、職場におけるコミュニケーション・コラボレーションプラットフォームの座を奪い合っている一方、Symphonyはターゲットを絞ることで、彼らとは大きく違ったアプローチをとっている。

これまでのところ、Symphonyは金融機関というひとつの業界にターゲットを絞ってきたが、私たちが聞いたところによれば、長期的には他の業界へも手を伸ばそうとしているようだ。

Symphonyは金融機関のように特定のニーズがある業界を狙っているが、どんな生産性向上ソリューションも、同僚や仕事相手と効率的に話ができるようなチャットサービスを必要としている。同社の次のターゲットはヘルスケア業界だという話を聞いているが、政府から教育、科学まで、Symphonyはさまざまな業界で活躍する可能性を持っている。

追加レポート:Ron Miller

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter