フランスがグーグルに650億円の罰金、記事使用料交渉で命令に従わず

コンテンツ使用対価の支払いに関するメディアとの協議で重大な違反が認められたとして、フランスはGoogle(グーグル)に5億ユーロ(約650億円)の罰金を科した。コンテンツ使用での対価支払いは、著作隣接権をニューススニペットにも拡大したEU新デジタル著作権指令で求められている。

制裁金は、Googleが2020年10月に発表したニュース対価総額10億ドル(約1110億円)の半分を上回り、この規模はかなりのものだ。Googleは自社プラットフォームに表示される「高品質のコンテンツを制作してキュレートする」ためにメディアに対価を支払うと述べていた。

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当時、Googleのそうした動きは、コンテンツを「ショーケース」する幅広い権利をGoogleに与える取引条件を受け入れるようメディアに迫ることで、コンテンツ再使用のためにメディアに対価を支払う法的義務を小さくしようという意図があったようだ。

フランスの監視当局はいま、声高にその慣行に制裁を科した。

ロイターによると5億ユーロという額はGoogleがフランスのメディアに払うとすでに同意した額をかなり上回り、このことも注目に値する。ロイターは2021年2月、Googleが今後3年にわたって7600万ドル(約84億円)を支払うことで121のメディアと契約を交わした、と報じた。

フランスの競争当局は7月13日、メディアの保護されたコンテンツの表示の対価を支払うためにメディアと誠実に協議するようGoogleに命じた2020年4月の決定に関して、同社が数多くの命令に従わなかったとして制裁金5億ユーロを科すと発表した

当初、GoogleはフランスでGoogle Newsに表示していたリンクとともにコンテンツのスニペットの表示を停止することで著作隣接権を回避することを模索した。しかし監視当局は、それは支配的な地位の乱用だととらえ、Googleに対し法律の回避をやめて誠意を持ってコンテンツ再使用の対価を払うためにメディアと交渉するよう命じた。

ただ、Autorité de la Concurrence(フランス競争委員会)はGoogleがこの命令に関して取った対応について快く思っていない。

多くのメディアが、交渉は誠実なものではなかった、Googleは支払いを知らせるのに必須の鍵となる情報を提供しなかった、と競争委員会に苦情を申し立てた。

雑誌出版社組合(SEPM)、出版社団体Alliance de Presse d’Information Générale(APIG)、フランス通信社(AFP)は2020年8〜9月に苦情を申し立て、監視当局による調査が始まった。そして7月13日の重大違反の発表に至った。

もしGoogleが監視当局の命令に反し、2カ月以内にメディアに必要な情報すべてを提供しなければ、1日あたり最大90万ユーロ(約1億2000万円)という罰金を追加で科すこともあり得る。

調査についての詳細を説明するプレスリリースの中で、競争委員会はGoogleが著作隣接権を「別の資産価値をともなわない付随するもの」として組み込むことを求めて、メディアとの協議の中でPublisher Curated Newsと呼ぶ提携のもとに「Showcase」というグローバルの記事ライセンスプロダクトを一方的に押し付けることを模索したと述べた。

競争委員会の調査によると、メディア側は著作権報酬の交渉は拒否されたとして対応することを求めている。

競争委員会はまた、Googleが保護されたニュースコンテンツの表示で発生する収入の範囲に関して、協議の幅を「不当に」狭めたとした。Googleはメディアにニュースコンテンツを表示するGoogle Searchページからの広告収入のみが報酬支払いのレベル決定で考慮される、と伝えていた。

他のGoogleサービスからの収入とコンテンツに関連する非直接的な全収入の排除は著作権法違反であり、先のコンプライアンス命令に反するものだと当局は判断した。

Googleはまた、政治および一般情報証明を持たないコンテンツを排除することで、著作隣接権に関する法律の範囲を「故意に制限した」。この点について監視当局は知的財産に関する基準の「誠意のない」解釈としてとらえた。

そして監視当局は、Googleがサードパーティのメディアによって使用された場合、そのコンテンツに関する支払いから通信社を排除しようと模索したことも確認した。「フランスの議員は通信社を含める必要性についてかなりはっきりとした考えを示してきました」と指摘することで、当局はGoogleのこの試みが2020年4月の命令に従わないものと強調した。

その他には、Googleは「報酬の透明性ある評価」のために「部分的」で「不十分」な情報をメディアに提供しただけだったとも指摘した。さらには、命じた期限のわずか数日前まで情報提供を遅らせ「遅い」とも非難した。

当局の調査は、著作権法で保護されているコンテンツがいかにGoogleのプラットフォームで表示されるかという点での中立の義務に関連する別の命令のコンプライアンス問題を強調している。これについて監視当局は次のように述べている。「Googleが導入した戦略はこのように、メディアにShowcaseサービスの契約条件を受け入れ、保護されたコンテンツの現在の使用に特に関連する交渉を放棄するよう、強く促してきました。これは、提案された条件を受け入れた競合相手より見劣る表示と支払いを行っているという違反に基づく差止命令の対象でした。ゆえに、Googleは保護されたコンテンツを自社のサービスで表示することに交渉が影響しないようにする必要な方策を取ったと主張することはできません」。

別の命令は、著作隣接権のためにメディアに支払った対価を相殺することで支配的な地位の利用をGoogleに模索させないようにするものだった。

これに関して監視当局は、Googleのプラットフォームでの表示のためにShowcaseがメディアにコンテンツのスニペットの制作だけでなく「大量のエキス」と全記事すら求めていると指摘し、このアプローチについても問題視した。

GoogleはShowcaseプログラムの参加を、Subscribe with Google (SwG)という別のサービスとリンクさせていることもわかった。これはGoogleが著作隣接権に関する交渉を、自社の収入につながり得る新しいサービスのサブスクと結びつけられるようにしている。

「極めて深刻な慣行」と糾弾している小見出しの下で、当局はGoogleの「意図的で念入り、かつ組織的な遵守しない戦略、そしてすでに数年にわたって展開している著作隣接権の原則とは「逆の戦略」の継続、そしてEUとフランスの法律に織り込まれた後に「著作隣接権の具体的な範囲をできるだけ最小化することを模索したこと」を非難した。

Googleは、メディアへの支払いを「可能な限り回避あるいは制限する」ための口実としてShowcaseを使い、と同時にサブスクやプレスタイトルなど、さらなる収入確保につながり得るメディアの新たなコンテンツへのアクセスを入手する機会として著作隣接権にかかる交渉を使うことを模索し、コンテンツ対価を国レベルで交渉するメディアの能力をなくすためにグローバル戦略を使うことを検討した、と当局は主張する。

「罰金5億ユーロの制裁は、確認された反則の重大さと、Googleが著作隣接権についての法律の正当な適用をさらに遅らせた行為を考慮しています。これはメディアや通信社のコンテンツの価値をさらに考慮に入れることを目的としています。当局は命令の適切な遂行について非常に神経を尖らせていて、不履行は過料につながります」と競争委員会の委員長Isabelle de Silva(イザベル・デ・シルバ)氏は声明で述べた。

5億ユーロの罰金と、もし当局の指示を無視し続けた場合、その慣行が1日ごとに科せられる罰金につながるという警告は、商業取引の詳細がフランスでは認められないことをGoogleに知らしめている。

「コンプライアンス」の利己的バージョンを形成しようという試みはおそらく当局からのさらなる制裁につながる。これは最近、Googleの広告事業の数多くの相互運用性の要件に適用され(2億6800万ドル、約296億円の罰金を科した)、メディアからの苦情に対処している。

Googleがフランスで著作隣接権問題に関して同意していることは、商業取引で少なくとも他のEUマーケットで達成できるものに対する基準を設けることだろう。EUマーケットでは著作権延長法も適用される。

フランス当局の制裁に関する声明で、Googleは調査の結果に失望を表明し、メディアとの交渉は誠意を持ってあたったと主張した。

「決定に非常に失望しています。当社はプロセス全体を通じて誠実に対応してきました。罰金は当社の合意を図る努力、ニュースがいかにGoogleプラットフォームで機能しているかという現実を無視しています。Googleはこれまでに著作隣接権に関する合意を発表した唯一の企業です。当社はまた、AFPとの合意をまとめるところでもあり、この合意にはグローバルライセンス契約、AFPの出版物の隣接著作権に対する報酬も含まれています」。

Googleは、当局の決定が「主に」2020年5〜9月に行われたフランスでの交渉に関するものであるとも指摘し、同社がそれ以降も「ソリューション」を見つけるためにメディアや通信社と引き続きやり取りしていると主張した。

その例として同社は、Alliance de la Presse d’Information Généraleと結んだ2021年1月のフレームワークエンゲージメントを指摘した。Googleはまた、Le MondeやCourrier International、L’Obs、Le Figaro、Libération、L’Expressなどを含むフランスの他のメディアとの合意も挙げた。

Googleはまた、AFPとのグローバルライセンス提携を結ぶことができるという自信も繰り返し示した。この提携に関してGoogleは、AFPの出版物の隣接著作権の対価も含めたい、と述べた。

フランス競争当局の「フィードバックを考慮し、当社のオファーを適応させる」と話し「当社の目的は変わりません。正式契約で物事を前に進めたいと考えています」と付け加えた。「CPPAPに認められている出版物をカバーすることで、『オンラインプレスサービス』として当社はすでにIPGを超えてメディアや通信社と関わっていて、我々の取り組みを評価する立場の独立したサードパーティを持つという申し入れを繰り返し、これにより事実についての議論をベースとできます」。

Googleが近年フランスで科された主要な罰金には、前述の広告テックの不正使用に関する先月の2億6800万ドル、2020年12月の同意なしのCookie使用に対する1億2000万ドル(約133億円)、2019年12月の不透明で一貫性のない広告ルールに対する1億6600万ドル(約184億円)、2019年1月のプライバシー違反での5700万ドル(約63億円)などがある。

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EU以外ではオーストラリアがこのほど、商業取引条件に同意しなかった場合、メディアのコンテンツ再使用に関してGoogleとFacebookにメディアとの強制仲裁を求める法律を成立させた

いかにパワフルなテックプラットフォームを制御し、インターネットによるデジタル出版への移行で収入面で打撃を受けてきた従来のメディア企業の持続可能性を確かなものにするかに議員たちが取り組むなかで、オーストラリアの法律は世界中からかなり注目された。

たとえば英国の競争・市場当局は、戦略的な市場支配力を使ったプラットフォームの乱用に積極的に競争当局が取り組めるようにするために英政府が前もって規制体制を整えるのに取り組んでいる中で、商業取引条件の交渉がうまくいかなかった場合の強制仲裁というオーストラリアの安全装置を「道理に適った」アプローチと表現した。

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オーストラリアの法律が採択されるのに先立ち、Googleはもし議会がそのまま法案を通せばオーストラリアでのサービスを停止せざるを得ないかもしれいないと警告し、加えてプロダクトの質を下げたりプロダクトを有料としなければならないかもしれないと示唆した。結局、Googleはオーストラリアでのサービス提供をやめなかった。

同社はまた、EUのニュースコンテンツのスニペットをカバーするためのデジタル著作権の拡大計画に対し、積極的なロビー活動を展開した。そして2019年にはニュースに決して支払わないと誓っていた。

それから数年後、コンテンツのライセンスを得るためにメディアに支払う10億ドルを発表した。しかしGoogleの他のジャーナリズムに便乗した広告事業のための最終的な請求書は10億ドルよりも大きな額になるかもしれない。

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タグ:フランスGoogleメディア著作隣接権

画像クレジット:Vincent Isore

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

Voicyとスタディプラスが「大学に特化した」音声配信サービス開始、新潟医療福祉大学が導入

Voicyとスタディプラスが「大学に特化した」音声配信サービス開始、初期導入大学として新潟医療福祉大学が決定

日本初の音声プラットフォーム「Voicy」(ボイシー)を提供するVoicyは6月17日、学習管理SNS「Studyplus」(スタディプラス)などを提供するスタディプラスと提携して大学に特化した音声配信サービスを6月1日から提供開始したと発表した。

Voicyは、2016年にサービスを開始した音声プラットフォーム。著名人による「声のブログ」、4大マスメディアの記事が声で聞ける「メディアチャンネル」、企業の社外報「オウンドメディア」など500以上のチャンネルがあり、ラジオともポッドキャストとも違う音声体験が楽しめる。

これを活かし、スタディプラスと提携することで、大学が発信する音声コンテンツの企画・制作・編集・配信・分析までを統合的に行うというのが、この大学向けプラットフォームだ。管理はVoicyとスタディプラスが行うので、大学側は人的リソースを確保することなく、リスナーの確保やコミュニティー形成といった支援が受けられる。

また新潟医療福祉大学が導入を決定し、「新潟医療福祉大学健康ラジオ617」として大学教員による「健康になれる話」や「ちょっとした健康雑学」といったコンテンツの配信を6月17日から始めている。

Voicyとスタディプラスが「大学に特化した」音声配信サービス開始、初期導入大学として新潟医療福祉大学が決定

今後は、高校生や高校教員、保護者に向けた「大学のブランディング、興味関心の向上、長期的な関係構築を目的とした音声配信」を可能にしてゆくという。

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大手テック企業に対する反トラスト調査の手を強めるドイツ競争規制当局がGoogle News Showcaseの徹底調査開始

ドイツ連邦カルテル庁(ドイツ語表記は「Bundeskartellamt」、英語表記は「Federal Cartel Office」、以下「FCO」)は非常に活発な競争規制当局だ。2021年に入って大手テック企業を規制する新たな力を得たFCOは、時を逸することなく行動しており、最近も3件目となるGoogle(グーグル)の調査を発表したばかりだ。

FCOが競争規制禁止に関して行っている最新の調査は非常に興味深い。なぜなら、調査対象となっているのがGoogle News Showcase(グーグル・ニュース・ショーケース、以下「News Showcase」)だからだ。News ShowcaseはGoogleの比較的新しい製品で、第三者パブリッシャーのコンテンツをキュレーションしたものをGoogle News(およびGoogleのその他のプロパティ)のストーリーパネルで表示するサービスだ。Googleはそのコンテンツに対してライセンス料を支払う。

Googleは2020年、News Showcaseのために世界各地のパブリッシャーとコンテンツのライセンス契約を締結し始めた。Googleはこの契約のために合計10億ドル(約1050億円)を出資すると発表しており、ドイツは同社がこの契約を締結した最初の国々のうちの1つだ。

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しかしながら、パブリッシャーのジャーナリズムに対してライセンス料を支払うという同社の動機はお世辞にも純粋とは言い難い。

Googleはこれまで何年にもわたり、コンテンツをタダで利用しているとしてメディア企業から厳しく告発されてきた。Googleはその度に「コンテンツの利用料は支払わない。なぜならオンラインの情報をまとめるサービスはそういう仕組みだからだ」と言って一歩も譲らなかった。同社はまた、そのようなメディア業界を無視しようとしてGoogle News Initiative(グーグル・ニュース・イニチアチブ)という名のデジタルイノベーション推進基金を作り、少額の助成金を配ったり、ワークショップや製品に関するアドバイスを無料で提供したりして「パブリッシャーのビジネスモデルが苦戦しているのはイノベーションに失敗したからだ」という印象を世間に与え、結果的にGoogleのアドテック事業はライセンス料の支払いを免れて、強圧的な姿勢を示し続けた。

一歩も譲らず、わずかな金しか出そうとしないGoogleのアプローチは長い間、規制当局の動きを食い止めてきたが、ついに「メディア企業のビジネスモデル対オンライン広告の複占」という問題に対する政治的な圧力が高まり、従来型のパブリッシャーと、コンテンツを仲介する大手テック企業との間のパワーバランスを是正しようと、各国の立法当局が動き始めた。

この件で最も有名な事例は、2021年初めにオーストラリア議会がニュースメディアへの支払いを義務づける法案を可決したことだ。

可決される前、同法案の対象とされていたFacebook(フェイスブック)とGoogleは、この法案が可決された場合は、オーストラリアでの全サービス停止や、サービス品質の低下、サービスの有料化などの深刻な結果を招くことになると警告していた。

実際はそのような結果にはならなかったが、同国の議員たちが審議の直前になって「2カ月間の調停期間を設ける」という条項を追加することに同意したことは確かだ。この調停期間内であれば、デジタルプラットフォームを提供するテック企業とパブリッシャーは仲裁人を介することなく自分たちで交渉を行うことができる。

批評家たちは、これではFacebookとGoogleは今後も自社に有利な条件を提示し、市場シェアの大きさを利用してオーストラリアの大手メディア企業が不利になるような契約を締結し続けることができてしまうではないか、という。しかも、外部から監督する者がおらず、そのようにして締結されたコンテンツ提供契約によってメディアの多様性や多数性が促進される保証はないし、ジャーナリズムの質の向上でさえも保証されていない。

EUではオーストラリアよりも早く議会が動き、2019年に著作権の対象範囲をニュースコンテンツのスニペットにも広げるという賛否両論あるEU指令が発効した(ちなみに加盟国による同指令の国内法化期限は6月7日月曜日だった)。

このEU指令をいち早く国内法化した加盟国がフランスだ。2020年にフランス国内でスニペットの表示を停止することによってこの法律からうまく逃れようとしたGoogleに対し、同国の競争規制当局はすばやく行動を起こして、ニュースの再利用料金を支払うように同社に命じた

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フランス規制当局の命令に対し、Googleはさらに曖昧な理由で反論したが、2021年初めに、コンテンツ再利用とNews Showcaseへの加入に対する料金をフランスのパブリッシャーに支払うことに同意した。つまり、法律で定められた支払い(ニュース再利用料)と、自社サービスへのコンテンツ提供ライセンス契約とをバンドリングしたのだ。これによって、法律によって義務づけられた支払いと営利契約とのバランスを把握することが難しくなった。

News Showcaseの問題点は、そのライセンス契約交渉が人知れず行われており、多くの場合は関連する法律が成立する前であるため、完全にGoogleの言いなりで交渉が進められるということだ。つまり、News Showcaseのライセンス契約により、Googleと、デジタル化によってビジネスモデルが壊滅的な影響を受けて収益源の確保に苦しむ従来型パブリッシャーとの間の不均衡なパワーバランスに対する懸念はさらに高まる危険がある。

Googleがいくらかコンテンツ料を支払うと突然申し出たら、その条件の内容に関わらず、交渉に応じるパブリッシャーは多いだろう。さらに、検索市場とコンテンツの発見可能性におけるGoogleの圧倒的な優位性を考えると、Googleの言い値でコンテンツをライセンス提供することに同意しないパブリッシャーは特に、コンテンツの露出を減らされるというリスクを負うことになるだろう(Googleは、例えばNews Showcaseのコンテンツが優先的に表示されるかどうか等の条件に基づいて、特定のメディアプロパティへトラフィックを流すよう調節する力を持っている)。

そのことが競争に及ぼす影響は明白だ。

それでも、FCOがこれほどすばやく行動を起こしてNews Showcaseの調査に踏み切ったのは見事だったと思う。

FCOによると、今回の調査はCorint Media(コリント・メディア)が申し立てた苦情に基づいて行うものであり、Google News Showcaseのサービスを発表されている通りにGoogle検索機能と統合させることが「自己優遇に相当する、あるいは競合する第三者が提供するサービスを妨害する可能性があるかどうか」を調べる予定だという。

FCOはまた、契約に「News Showcaseに加入するパブリッシャーに不利益をもたらす」理不尽な条件が含まれていないかどうか、特に「2021年5月にドイツの連邦議会および連邦参議院により導入された報道機関の付随的著作権の行使を不当に困難にする」ものでないかどうかについても調査する予定だと述べている。この付随的著作権は、EUの改正著作権指令で定められた報道機関の付随的権利を国内法化したものだ。

したがってFCOは、EUの著作権改正によってパブリッシャーが手にした新たな権利の行使を、GoogleがNews Showcaseを使って抑え込もうとしているかどうか、という問題の核心を調査することになる。

FCOはまた「GoogleのNews Showcaseサービスの利用条件がどのように定義されているのか」という点についても調査したいと話している。

GoogleがドイツでNews Showcaseのサービスを開始したのは2020年10月1日だ。開始当初、加入パブリッシャーは20社、対象メディアは50種類だった。現在はその数がもっと増えている。

FCOによると、News Showcaseの「ストーリーパネル」はもともと、Google Newsアプリに統合されていたが、現在はデスクトップ版のGoogle Newsでも見ることができるという。FCOはまた、ストーリーパネルが間もなくGoogle検索結果にも表示されるようになるとGoogleが発表したことにも言及した。それが実現した場合、Googleが欧州の検索市場で圧倒的優位に立っていることを考えると、News Showcaseをめぐる競争の力関係はさらにGoogle有利に傾くだろう。

FCOのAndreas Mundt(アンドレアス・ムント)長官は今回の調査に関する発表について、ある声明の中で次のように述べた。「Googleと協力することはパブリッシャーやニュースプロバイダーにとって魅力的な選択肢になり得るし、消費者に新たな、もしくはより良い情報サービスを提供することにつながる。しかし、そのことが個々のパブリッシャー間において不均衡を生み出す結果にならないように注意する必要がある。加えて、エンドユーザーへのアクセス提供という点でGoogleが優位な立場にあるからといって、パブリッシャーやニュースプロバイダーが提供する競合サービスが市場から締め出される状況になることは防がなければならない。Googleのサービスに加入するコンテンツプロバイダーの権利と義務との間で適切なバランスを確保することが必要だ」。

FCOの行動についてGoogleにTechCrunchがコメントを求めたところ、同社の広報担当者Kay Oberbeck(ケイ・オーバーベック)氏の名で以下のような回答が返ってきた。

News Showcaseは、Googleがジャーナリズムをサポートする数多くの手段のうちの1つであり、すべてのパブリッシャーに利益をもたらす製品と出資に基づくものです。News Showcaseは、ニュースコンテンツのための国際的なライセンシングプログラムです。加入企業は客観的かつ公平な基準に基づいて選出され、加入企業のコンテンツがGoogleの検索結果順位について優遇されることはありません。Googleはドイツの競争規制当局に全面的に協力する姿勢であり、FCOからの問い合わせにいつでも喜んで応じるつもりです。

FCOは今回発表したNews Showcaseの徹底調査とは別に、つい2021年5月、Googleに関する2件の調査を開始したばかりだ。そのうちの1件は、ドイツが大手テック企業を対象として新たに成立させた競争制限に関する改正法のしきい値をGoogleが満たしているかどうかを判定するためのもの、もう1件はGoogleのデータ処理慣行について詳しく調べるものだ。どちらも現在進行中である。

FCOは最近、Amazon(アマゾン)の市場における優位性に関する調査も開始したばかりだ。さらに、Facebook傘下のOculus(オキュラス)の事業に関する最近の調査を拡大することを検討している。Googleと同じく、Facebookの事業についても前述の改正法のしきい値を満たしているかどうかを判断するためだ。

2021年1月に発効したドイツ競争法の改正法により、FCOは、市場の乱用リスクを予防的に制御するため「市場全体における競争に重大な影響を及ぼす」とみなされる大手デジタル企業に対して以前よりも積極的に規制条件を適用する権限を得た。

FCOが大手テック企業に対してこれほど多くの調査を同時進行で行っていることは、FCOが少しの時間も無駄にしたくないと考えていることの現れだ。FCOは、大手プラットフォーム企業が引き起こしている独禁問題に関して、法的な根拠があると判断できたらすぐに予防的介入に踏み切れるように準備しているのである。

FCOはさらに、Facebookの「スーパープロファイリング」に対して先駆的な訴訟を起こしている。この訴訟は、プライバシー侵害を競争制限に関する懸念と結びつけ、大手テック企業によるユーザーのプロファイリングを大幅に制限する可能性がある。この訴訟については、すでに何年も調査と審議が行われてきたが、最近、主要な法的争点の解釈をめぐって欧州司法裁判所に付託された。

関連記事:ドイツ裁判所がフェイスブックに対する「スーパープロファイリング」訴訟を欧州司法裁判所に付託

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Googleドイツ独占禁止法メディアEU

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

世界最大の在庫品目を誇る電子部品通販サイト「Digi-key」がスタートアップ支援サイトを開設

世界最大の在庫品目を誇る電子部品通販サイト「Digi-key」がスタートアップ支援サイトを開設

世界最大の在庫品目を有し、世界各地で事業を展開する電子部品通販サイトDigi-Key Electronics(ディジキー・エレクトロニクス)は、6月7日、スタートアップ企業の成功を支援するマイクロサイト開設と、アメリカのスタートアップ専門誌「STARTUP Magazine」とのパートナーシップで制作された「Startups Survival Guide, 2nd Edition」(スタートアップ企業サバイバルガイド」マニュアル第2版)の公開を発表した(英語での提供)。

Digi-key自身が、もともとアマチュア無線用部品を生産するスタートアップ企業だったことから、その経験と、さらにこれまでに数千社のスタートアップ企業を支援してきた中で蓄積されたリソース、ツール、知識を活用して、コンセプト段階から、試作、製造、サポートに至るまで10のステップに沿ってスタートアップ企業を支えようという活動だ。「その夢の実現を可能にするDigi-keyのコミットメントと献身」を強固にするためだとDigi-keyは話している。

このマイクロサイトは、スタートアップ企業が成功するまでの10ステップ(コンセプト、研究、評価、デザイン、プロトタイピング、資金調達、マーケティング、生産、流通、サポート)を示す「Startup Roadmap」(スタートアップ企業ロードマップ)を中心に構成されている。各ステップでは、アメリカのオープンソース・ハードウェア・メーカーの草分けAdafruit Industries(エイダフルーツ・インダストリーズ)の創設者であり、2018年のForbes誌「テック業界のアメリカ人女性トップ50」にも選ばれたLimor “Ladyada” Fried(リモア・レディーエイダ・フリード)氏が語るスタートアップ体験談の動画も視聴できる。

また、ロードマップの各ステップの完了をサポートするインタラクティブなツール「Roadmap Dashboard」(ロードマップ・ダッシュボード)も用意されている。ここでは、各ステップで有用となるツールやリソースが紹介され、「革新的なトラッキングシステム」も利用できる。たとえば、短時間でコンセプトをまとめることができるツール「Scheme-it」、プリント基板の設計から発注まで行えるツール「PCB Builder」と「DK RED」、そのほか部品表管理ツールや技術フォーラム、さらにDigi-keyを通じて販売が行えるマーケットプレイスなどが用意されている。

Digi-Keyテクニカルマーケティング担当ディレクターのDavid Sandys(デイビッド・サンディス)氏は「Digi-Keyはこれまで数万社のスタートアップ企業と関わってきており、スタートアップ企業の願望や目標実現の妨げとなる一般的な落とし穴や、見えにくい落とし穴をいかに回避するかを学んできました。新しいマイクロサイトとガイドは、こうした障害を克服するための最も優れたリソースのひとつです」と語っている。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:IoT(用語)Adafruit Industries(企業)オープンソース / Open Source(用語)Digi-Key Electronics(企業・サービス)電子工作(用語)メディア(用語)

アップルがアプリ追跡の透明性をユーモラスに表現した「iPhoneのプライバシー|追跡」CMを公開

アップルがアプリ追跡の透明性をユーモラスに表現した「iPhoneのプライバシー | 追跡 」CMを公開

Apple

今年4月末に配信されたiOS 14.5ではアプリトラッキング透明性(App Tracking Transparency/ATT)が導入され、今後アプリが異なるWebやアプリをまたいでユーザーを追跡する際には、ユーザーの明示的な許可を得ることが義務づけられるようになりました。アプリがユーザーのIDFA(広告識別子)を取得する前には、プロンプトを表示してユーザーの許可をもらうことが必須となっています。

これを受けてアップルは、ATTをユーモラスに表現したテレビCM「iPhoneのプライバシー|追跡」の公開を開始しました。

アップルいわく、アプリのトラッキング透明性とは「あなたのデータを、あなた自身がコントロールできる新しい機能」とのこと。それを朝の一杯のコーヒーを買った人の一日を追うかたちで分かりやすく可視化しています。

その人がコーヒーを買ったり店で買い物するたびに後を付いてくる店員(勝手にプライバシーを追跡するアプリの擬人化)が続々と増えていき、気が付けば部屋は追跡者で満員に。そこでiPhoneに「アクティビティを追跡することを許可しますか?」というプロンプトが表示され、「Appにトラッキングしないように要求」をタップすると追跡者がドロンと消えてゆくという流れです。

アップルはプライバシーが基本的人権であり、ユーザーが自分の情報を自分でコントロールできるように製品を設計していると述べています。そうした信念は昨日今日のことではなく、共同創業者スティーブ・ジョブズ氏がCEOだった時代まで遡り長年にわたって追求されてきたものです。4月初めに公開されたプライバシー保護原則やATTに関するデジタルブックでも、ジョブズ氏の「彼らのデータで自分たちが何をしようとしているのか、正確に説明すべきです」との言葉が引用されていました。

かといってアップルは広告一般に反対しているわけではありません。ティム・クックCEOも人々がオンラインで費やす時間が長くなるなかで、デジタル広告が増えていくのは自然な成り行きであると認めていました。その上で「このような詳細なプロフィールの構築(追跡から得た情報に基づいて作ったユーザー属性)をお客様の同意なしに行うことが許されるかどうかです」として、広告関係者には事前にどんな情報を集めるかを知らせ、ユーザーが自らのデータを制御できる権利を尊重するよう呼びかけているしだいです。

iPhoneにATTが導入された直後、米国ユーザーの96%がアプリ追跡を無効にしたとの調査結果もありました。その一方でマーケティング業界団体は一時的にはiOS向けの広告費は減りながらも、いずれはユーザー追跡なしの広告が増えていくという楽観的な見通しも発表しています

無料でアプリやサービスが楽しめる対価として広告が表示されるビジネスモデルはテレビやラジオから引き継がれたものであり、もしも否定してしまえばあらゆるコンテンツが有料になりかねません。

ATTはあくまで異なるWebやアプリをまたいだユーザー追跡に同意を求めるにすぎず、自社アプリやサイト上でのデータ収集は今まで通り続けられるはず。今後はその会社の経済圏内に留まり続けるかぎり行動履歴に基づくパーソナライズド広告が表示され、一歩外に出ればテレビのスイッチを切るように追跡もオフにされる、という新たな行動様式が定着していくのかもしれません。

(Source:Apple(YouTube)Engadget日本版より転載)

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スポーツ報道の現状に挑戦する女性によるスポーツメディアスタートアップGISTが1.1億円を調達

The GISTの共同創業者3人はみなスポーツファンだ。彼女らは2018年、一般にスポーツメディアには多くの満たされざる期待があることに気付いた。それは、男性で占められた伝統的・ステレオタイプのスポーツ観戦者以外の視聴者へ届けることに関することだ。そこで彼女らは新しい種類のスポーツメディア企業を立ち上げた。トロントでの金融サービスという彼女たちの経歴とはまったく異なるキャリアに賭けることにしたわけだ。

2020年の視聴者増加350%という鮮烈な数字をひっさげて、共同創業者であるJacie DeHoop(ジェシー・デュフープ)氏、Ellen Hyslop(エレン・ハイスロップ)氏、Roslyn McLarty(ロスリン・マクラティ)氏は、3GP Capital、JDS Sports、August Group、Even Odds Investments、Bettor Capitalなどの投資家から、初めてとなる100万ドル(約1億1000万ドル)のシード資金を調達した。カナダ事業開発銀行からも35万ドル(約3850万円)の融資が承認された。ベンチャーキャピタルおよび州によるクレジットインセンティブ全体の新規資金の合計は135万ドル(約1億4850万円)になった。

「スポーツ業界では、ご存知かもしれませんが、女性アスリートについて報道されるのは全体の4%未満であり、女性スポーツジャーナリストも全体の14%未満です」と、GISTの財務・オペレーション・成長の責任者でもあるマクラティ氏は説明jした。「これは不思議なことではありませんが、私たちは女性として、伝統的な男性優位のスポーツメディアやスポーツの表現方法とは必ずしも同じ方法を採りません。そのため、コミュニティースポーツが提供できるものに参加するのは難しいと感じていました。同時に、メディア企業が視聴者とより本物の関係を築き、コミュニティーを構築し直す動きが見られ、本当に効果を上げています」

マクラティ氏は、theSkimm、Morning Brew、The Hustleなどの他のメディアベンチャーを、彼女やその共同経営者が見た中でうまく機能した例として挙げる。そのアプローチを、潜在的に未開拓となっている大勢の聴衆と組み合わせ、GISTの創業につなげた。最初はニュースレターだったが、ニュースサイトやポッドキャストなどに発展していった。

「私たちは、カジュアルなファンや女性のファンにとって、スポーツをより身近で、包摂的で、親しみやすく、楽しいものにすることを目的として始めました」とマクラティ氏は言う。「本当に誰にとっても、それは伝統的なスポーツメディアとは異なるものになりました」

筆者はマクラティ氏に、同氏やその共同創業者らが特にメディアビジネスに参入したいと思った理由を尋ねた。彼女らの経歴はトロントのウォール街に相当するベイストリートで築き上げられたことを踏まえてのことだ。同氏は、3人が足場を固めるのに少し時間がかかったと認めた。だが今や同社のビジネスは、新しい、増えつつある視聴者を開拓した。これまでニーズを満たされてこなかった視聴者だ。そのおかげで、広告主とブランドパートナーシップを勝ち取ることもできた。

「私たちは本当に価値のある視聴者を発見したと考えています。ブランドパートナーがスポーツを通じて女性視聴者と交流する方法は全くありませんでした」と同氏は語る。「そこで私たちはニッチな場所を見つけ、さまざまなものを作り上げ、本当に小さく進めて現在の姿に至りました。難しかったのは、現在の状態にもって行くために必要だった視聴者への初期投資でしたが、視聴者数が今の規模に達すれば、新たに視聴者が増えるごとにニュースレターの利益率は明らかに素晴らしいものになります」

GISTのパートナーには、NBA、FanDuel、Red Bull、Adidasなどのブランドが含まれる。2021年の売上高は前年比1000%以上の増加となり、総売上高100万ドル(約1億1000万円)を達成する見込みだ。同社は、コンテンツに関わる新入社員や、営業チームとオペレーションチームの追加の人員を含め、新しい資金をチームの拡大に使うと述べている。

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画像クレジット:Katherine Holland

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

カナダのOMGはニュースレターモデルでローカルニュース存続の危機を救う

地方のニュースは過去20年、散々な状態となっている。インターネットの台頭が新聞やローカルテレビ局による長期にわたるニュースや案内広告の独占を打ち砕き、その一方でFacebook、Nextdoor、Citizenのようなソーシャルネットワークが近所の近況情報で読者の関心をますます集めている。新聞は休刊し、ジャーナリストはごっそりといなくなり、あらゆることがカバーされない「ニュース砂漠」が増えつつある。

と同時に、オンラインメディアで現在、クリエイター革命が進行中だ。特にローカルジャーナリズムにとって適切と思われる斬新な方法では、オーディエンス構築、コミュニティ、そしてサブスクが一体となっている。これらの新しい一連のツールは、空洞の時代を経て最終的にローカルジャーナリズムの再構築を可能にするのだろうか。

Overstory Media Group(省略形は表現力豊かなOMG)は、ソフトウェアツールとビジネスモデルがローカルニュースの方程式を大きく変えたと確信している。カナダのニュースサイトDaily Hiveの元編集長Farhan Mohamed(ファルハーン・モハメド)氏によって共同創業され、現在同氏が率いているOMGは10のローカルニュースブランドを運営し、フルタイム従業員30人を雇用している。同社は持続可能で、あえていうが儲かるアプローチをローカルメディアに提供している。

「子どもだったころ、私は自分の電子メールニュースレターを持っていました」とモハメド氏は回顧した。「私はギャップを目にしました。私の周辺で起こっていることを誰も私に伝えていませんでした」。自力で運営するのがどんなものなのか感触を得るため、同氏はHotmailを通じてニュースレターを出し、やがてローカルジャーナリズムのモダンな世界へと移行した。そして同氏が目にしたのは悲惨なものだった。「ユーザーエクスペリエンスはひどく、ストーリーも最悪でした。普通の人がどうやってこんなことをしているのかさっぱりわかりません」と同氏は話した。

同氏はローカルニュースがコミュニティにとって何を意味するのかという基本とともに初めからやり直すことにチャンスを見出した。「私はニュースやジャーナリズムというより、コミュニティ構築分野の出身です」と語った。読者がこうしたニュース運営の当事者になれる現代のインターネットテクノロジーを使ったモデルがあると感じた。

モハメド氏は最終的にAndrew Wilkinson(アンドリュー・ウィルキンソン)氏とつながった。ウィルキンソン氏は零細のインターネット事業を買収して拡大し、その一方で元々の創業者が手を引けるようにするファンドTiny Capitalを運営している。同氏は、ブリティッシュコロンビア州ビクトリアでの出来事をカバーするCapital Dailyというニュースレター主導型のメディアを創設した。Capital Dailyはかなりの勢いで何万もの購読者を獲得した。数十万人しか住んでいない地域でだ。

モハメド氏とウィルキンソン氏はOMGの設立で力を合わせ、Capital Dailyモデルをより多くの出版媒体に拡大し始めている。2人はテックスタックを中心に据えたPicoを設立した。同社は4月に650万ドル(約7億1000万円)のシードラウンドをクローズしたばかりで、新しいブランドに切り替えるための成長とブランドの筋書きもデザインした。

関連記事:収益化ツールを統合したクリエイター向けCRMのPicoが7.1億円調達

それぞれの新しいブランドの目標は、可能な限り早く収支をトントンにすることだ。「我々はブランドを持続可能なものにするのにどれくらいかかるかについてモデルと予測を持っていて、ブランドに合わせてモデルを微調整しています」とモハメド氏は話した。「おそらく持続可能な状態に持っていくのに12カ月ではなく、10カ月、あるいは9カ月かかります」。同氏の目標は野心的だ。2023年までに50のブランドとジャーナリスト250人を獲得したいと考えている。「100のブランドを獲得できるかもしれないとも思っています」。

OMGは筆者が「筋書き」と名づけたものを持っている一方で、あらゆるブランドがまったく同じものにならないことを理解している。各ブランドがどのように構築されるべきか、どのくらいの頻度で新しい記事が配信される必要があるかについての基礎的なストラクチャは持っているが、各ブランドが獲得した新しいオーディエンスのユニークなニーズに応えるという点でフレキシブルでもある。

ジャーナリストにとって、同社のアピールポイントは安定性と成長へのフォーカスだ。「あなたは編集権限を持っていて、すべきことをするだけです」と同氏は話した。コミュニティの構築とグロースマーケティングに関して「我々はあなたをサポートできます。我々は何がうまくいくか、知っています」。おそらくジャーナリストにとって最も価値あることは、同じ道を歩んでいる他の記者のコミュニティであり、記者はコミュニティや購読者ベースを拡大するにつれ似たような問題に直面している。

OMGはこれまでのところカナダのブランドに特化し、バンクーバーやビクトリア、フレイザー・バレー、カルガリーといった都市をカバーしている一方で、同社のモデルをカナダ外に輸出する機会も手にしている。「米国、東南アジア、欧州の人たちとやり取りしました」とモハメド氏は話す。

明らかに現時点で、ローカルニュースの分析には特定の皮肉がともなう。何十年にもわたる不着火、出版帝国遺産の瓦礫の中での過度に楽観的な成功する夢、といったものだ。しかしOMGは仕掛けを持っていて、今回は少し違うかもしれない。

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タグ:カナダOverstory Media Groupメディア

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nariko Mizoguchi

デジタルコミックのスタートアップ「Madefire」が閉鎖

R.I.P.。Madefireは新しいフォーマットやプラットフォーム向けにコミックを再構築するために、著名なアーティストを採用していたスタートアップだ。

Madefireのウェブサイトに掲載されている通知によると、同社は2021年4月初めに「債権者のための利益の譲渡」(「破産に類似した州レベルの倒産手続き」と説明されている)を行ったとしており、これは米国時間4月29日朝のThe Beatでも報道されていた。その結果、新しい書籍は出版されず、ユーザーは追加で書籍を購入することができなくなり、購入したコンテンツは今月末までにすべてダウンロードすることが推奨されている。

このニュースは、Madefireの技術で作られた他のアプリにも影響を与えている。Archieのコミックアプリも同様に停止しており、出版社は「これが驚きであることは理解していますが、私たちは忠実な顧客へとあらゆる努力をしています」と述べている。具体的には、読者にComixology Unlimitedの1カ月間の無料購読を提供している。(Amazonは2014年にデジタルコミックプラットフォームのComixologyを買収し、その2年後にUnlimited購読サービスを開始した)。

Madefireは出版社がモーションコミックのようなフォーマットを試していた2012年に、最初のサービスを開始した。Madefireはアニメーションやエフェクト、より伝統的な読書体験を組み合わせたタイトルをモーションブックと呼んでいる。

共同創業者兼CEOのBen Wolstenholme(ベン・ウォルステンホルム)氏は当時「モーションコミックは受動的な体験であり、悪いアニメーションと同じような視聴体験であり、映画を見るようなものです」と述べていた。「モーションブックは読書体験であり、読者によってアクティブに制御される。私たちの目標は、iPad用に開発された最高の読書体験になることです」。

Madefireでおそらく最も印象的だったのは、Dave Gibbons(デイブ・ギボンズ)やBill Sienkiewicz(ビル・シンケビッチ)など、立ち上げ前に参加していたアーティストだろう。

最近ではMadefireはSnapchat(スナップチャット)や、経営難に陥っているAR(拡張現実)企業のMagic Leapなど、他の技術プラットフォームとの提携を発表していた。

Crunchbaseによると、MadefireはTrue Ventures、Plus Capital、Kevin Spacey(ケヴィン・スペイシー)氏、Drake(ドレイク)氏などの投資家から1640万ドル(約18億円)の資金を調達していたが、The Beatによるとその総額は「それ以上」だったとのことだ。

関連記事:Magic Leapの新CEOに前マイクロソフト副社長のペギー・ジョンソン氏

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Madefireメディアデジタルコミック

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(文:Anthony Ha、翻訳:塚本直樹 / Twitter

個人向けニュースレターサービスのSubstackが地元ジャーナリストに約1億1000万円の資金提供を発表

Substackをめぐる果てしない議論は、全国的に有名なライターに集中しているように見えるが、このニュースレターのプラットフォームは新しいプログラムを通して、地元の(おそらく有名でない)ジャーナリストを支援すると発表した。

Substack Localは100万ドル(約1億1000万円)規模のプログラムで、地元のニュース出版物を作成する独立系ライターに資金を提供すると説明している。Substack Proプログラムと同様に、同社は最大10万ドル(約1100万円)の前払い金を提供するほか、メンターシップ、健康保険やデザインサービスへの「補助的なアクセス」も提供する。その代わり、Substackは年間サブスクリプション売上の85%を受け取る(その後は通常の10%に戻る)。

応募は4月29日までに締め切られ、審査員団によって選ばれた参加者たちはSubstackの出版物を持つ審査員であるInsightのZeynep Tufekci(ザイネップ・トゥフェクチ)氏、Culture StudyのAnne Helen Petersen(アン・ヘレン・ピーターセン)氏、Second Rough DraftのDick Tofel(ディック・トーフル)氏、The DispatchのマネージングエディターであるRachel Larimore(レイチェル・ラリモア)氏たちによって選出される。

Substackによると、このイニシアチブを通じてニュージーランドのStuffと提携し、国内サービスが行き届いていない地域をカバーする2つの新しい出版物をローンチするという。

Substackに懐疑的な人は、このようなプログラムはポジティブな宣伝をするための簡単な方法だというかもしれない(FacebookGoogleもローカルニュースをサポートするプログラムを発表した)。Substackの場合、プラットフォームがトランスジェンダーの作家たちに大きな進歩をもたらしていると批判された後のことだ。ほんの数日前、同社はDaniel Lavery(ダニエル・レイブリー)氏を含むトランスジェンダーの作家たちと、有利な契約を結んだことを明らかにした。

動機が何であれ、多くの地方紙の閉鎖と苦境によってニュースの砂漠が作られ、より多くの地方ジャーナリズムが必要とされているのは事実だ。希望があるとすれば、それはデジタルに特化した新しい出版物や独立系ジャーナリストからもたらされる可能性が高いと思われる。

「これは助成金プログラムでもなければ、慈善事業を意図したものでもありません」と、Substackはブログ記事で述べている。「私たちの目標は、成長の余地を十分に与える独立したローカルニュースのための、効果的なビジネスモデルを育成することです」

関連記事:Googleがローカルニュースを支援する助成金制度を発足

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(文:Anthony Ha、翻訳:塚本直樹 / Twitter

BuzzFeed Japanとハフポスト日本版が合併、既存ブランドはそれぞれ運営継続

BuzzFeed Japanとハフポスト日本版が合併、既存ブランドはそれぞれ運営継続

BuzzFeed Japanザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン(ハフポスト日本版)は3月31日、合併に合意したと発表した。合併後の名称は「BuzzFeed Japan株式会社」。

同合併は、2020年11月に米BuzzFeedとVerizon Mediaがコンテンツと広告に関する新たな戦略的パートナーシップを構築すると発表し、BuzzFeedがVerizon MediaからHuffPostを買収したことを受けたもの。この取引により、米BuzzFeedは、BuzzFeed Japanとハフポスト日本版の両方の大株主となり、合併により日本市場の2事業体が統合されることとなった。また、その他の株主としてZホールディングスと朝日新聞社が引き続き出資する。

2021年5月1日以降、「ハフポスト日本版」はBuzzFeed傘下で運営される合併会社のバーティカル部門のひとつとなり、既存の「BuzzFeed Japan」「BuzzFeed Japan News」「BuzzFeed Kawaii」「Tasty Japan」の5ブランドは、コンテンツ面ではそれぞれ独立して運営を継続する。「BuzzFeed Japan News」と「ハフポスト日本版」の報道部門は、独立した報道機関として運営を継続する。

両社を合わせたオーディエンスの規模は、BuzzFeed Japanの月間ユニークビジター(UV)数が3500万人以上(2020年12月時点)、HuffPost日本版が2400万人(2020年4月時点)となる。BuzzFeed Japanのオーディエンスは、Z世代とミレニアル世代が中心であるのに対し、ハフポスト日本版は若年層に加え30代から40代の世代が中心という。

今後、既存チームの強みを活かすためバーティカルブランド間でのコラボレーションを行い、国内最大級のデジタルクリエイティブカンパニーとして新しいコンテンツを生み出すとしている。さらに、メディアの枠を超えて、新たなコンテンツフォーマットやデジタルコンテンツによる収益を追求するという。広告パートナーに対しては、今回の統合により、これまでにない幅広いリーチへの機会を提供可能としている。

BuzzFeed Japanは、ヤフー(現Zホールディングス)との合弁により2015年に設立、2016年1月にBuzzFeed日本版を創刊。社会にポジティブなインパクトを生み出すことをめざし、記事や動画、特集など独自のスタイルで、ニュース、カルチャー、エンターテインメントの情報を発信している。

ハフポスト日本版は、朝日新聞社をパートナー企業として2013年5月にスタート。「会話を生み出すメディア」として、SDGs、働き方、ジェンダー平等、ダイバーシティ、育児、中国経済ニュース、アート&カルチャーなどの重点テーマを掲げて記事を発信している。Facebookのフォロワーが32万、Twitterが35万人、SDGs専門のTwitterアカウントのフォロワーが3700人。

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ウェブメディアの収益化をサポートするAutoStream運営のFLUXが10億円を調達

マーケティング効率化SaaSを展開するFLUXは、2021年3月31日、シリーズAで総額10億円の資金調達を実施したことを発表した。主な引受先は既存投資家のDNX VenturesとArchetype Venturesらだ。

FLUXの主力プロダクトは、2019年1月にリリースしたウェブやアプリでメディアを運用するために必要な各種ツールをワンストップで提供する「AutoStream」。主要な機能に広告入札ソリューション、アナリティクス、サイトの視認性向上、ブランドセーフティー管理などがある。

メディアの運営元がAutoStreamを導入するメリットは、サイトの収益化周りの作業が自動化されることとFLUXの代表取締役CEOを務める永井元治氏は話す。

「今まで担当者が手でやっていたことが自動化されます。例えば、これまで担当者は広告表示のために複数の広告事業者と自社メディアとをつないだり、分析のために広告データをエクセルにダウンロードして集計したり、ブランドを守るためにどんな広告がサイトに出るのか1ずつチェックしたりしていました。AutoStreamではこれが全部まとめてできるので担当者の工数が減り、運用が楽になります」。

永井氏は同社のCPOを務める平田慎乃輔氏とFLUXを創業している。平田氏はカカクコムでマネタイズを担当していた経歴を持つ。彼らがFLUXを創業したきっかけは、メディア運営に関わる中でメディアの収益化の面で課題を感じたからと永井氏は話す。

「もともと平田がメディアにいたり、私も複数のメディアの手伝いをしたりする中で、収益化のツールは複雑なものが多いと感じていました。そこを簡単に、パッケージ化して提供できないかと考えたのが始まりです。平田がいたカカクコムのような大きなメディアであれば、専任の担当者を置いて対応できます。ですが、中小規模のメディアになると、人もないし、知見もありません。FLUXはそうした問題を解決するところからスタートしました」。

今では読売新聞やフジテレビといった報道機関をはじめ、400件以上の契約を受注しているそうだ。大手のメディアの場合はすでに類似ソリューションを使っているケースも多いものの、AutoStreamではこれまで社内でやってきた作業がまとめてでき、担当者の負担が減ることなどが評価され、継続利用につながっているという。

今後の展開として、FLUXはAutoStreamの開発を進めるのと並行して、新規事業として立ち上げたメディアや中小企業向けのウェブサイト作成サービス「siteflow」を本格展開する。siteflowの特徴はカスタマイズでき、デザイン性も優れたサイトがノーコードで作れること。今のところsiteflowは「siteflow for Publisher」β版として、メディア向けに提供しているのみだが、4月以降、一般企業向けにもサービスを拡大する予定だ。

FLUXは2018年5月に設立し、2019年11月に2億円を調達している。今回の調達した資金はプロダクトの開発とマーケティング、人材採用に充てるという。

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タグ:FLUXAutoStreamメディア資金調達日本

中国はAlibabaのメディア帝国を解体したいと考えている

Jack Ma(馬雲、ジャック・マー)氏はこれまでの年月の中で、米国のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏と肩を並べるほどのメディアポートフォリオを累積してきた。しかし現在、マー氏のメディア帝国の将来は、この億万長者のメディアへの影響力拡大を恐れる中国政府の標的になっている。

中国当局はAlibabaに対して、同国の世論に対する同社の強力な影響力への懸念から、Albabaのメディア資産の一部を手放すよう命令した。The Wall Street JournalBloombergが、そのニュースソースを挙げて報道している。

Alibabaによるメディア投資は、118年前に香港で創刊された英字新聞South China Morning Postの買収を発表し、厳しい目にさらされた。中国本土では、Alibabaのフィンテック系列のAnt Groupが支援するニューヨーク上場のテクノロジニュースサイト36 Krや、Alibabaと戦略的提携を結んでいる国有のShanghai Media Groupがメディア事業を行っている。

Alibabaがアジアの有力紙South China Morning Postの株式を保有していることに批判や疑問も少なくない。こうした懸念を和らげるために、ジャック・マー氏は報道機関の編集の独立性を約束している

他のメディア取引では、Alibabaは出版物とのデジタルコラボレーションの可能性に焦点を当てることが多い。例えば、同社はデータとクラウドコンピューティングの専門知識を活用して、影響力のある金融メディア複合企業のShanghai Media Groupが金融データプラットフォームを開発するのを支援すると約束している。

Alibabaはまた、中国のTwitterに相当するWeiboや、中国の若者の間で人気の動画サイトBilibili(Alibabaの天敵Tencentを主要株主としている)にかなりの額の出資をするなど、新しいメディア新興企業を模索している。

Weiboは2020年6月にAlibaba役員が起こした不倫事件に関する投稿を大量に削除したとして、批判を浴びた。中国のインターネット規制当局であるCyberspace Administrationは、事件を具体的に指さずに「オンラインコミュニケーションの秩序を妨害した」として非難している

中国政府はすでに、インターネット経済における権力の集中を取り締まる動きを開始している。2020年12月、独占禁止法規制当局はAlibabaとTencentに対して、過去の買収許可を得るための報告を怠ったとして、それぞれ少額の罰金を科した。Alibabaのメディア資産のうち、どれを売却すべきかは不明だ。

関連記事:中国が独禁法違反でアリババとテンセント子会社に罰金処分

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画像クレジット:Wang HE/Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ナイジェリア発のIROKO、2022年にロンドン証券取引所AIMでの上場を計画

ナイジェリアに拠点を置くメディア企業のIROKO(イロコ)が、今後12か月以内にロンドン証券取引所(LSE)のオルタナティブ インベストメント マーケットで株式公開を申請するとみられている。

2011年にJason Njoku(ジェイソン・ンジョク)氏Bastian Gotter(バスチャン・ゴッター)氏によって設立されたイロコは、ナイジェリアの映画産業「ノリウッド」の映画コンテンツを配信し、そのコンテンツ数は世界最大を誇る。

この報道によると、同社は2000万ドル(約21億円)から3000万ドル(約32億円)を調達し、8000万ドル(約84億円)から1億ドル(約105億円)の評価を得ることになるという。 

ンジョク氏は2019年10月に、ロンドン証券取引所またはアフリカ大陸の現地取引所のいずれかで株式公開することになるとほのめかしている。しかし翌年、同社は激動の一年を過ごすことになり、CEOは株式公開のプロセスに関して完全な無言を貫いた。

2020年、同社はビデオオンデマンドサービス「iROKOtv」のアフリカでのユーザー1人当たりの平均収益(ARPU)を7~8ドル(約730円~840円)から20~25ドル(約2100円~2600円)に引き上げる計画を立てていた。最初の4か月間はその目標が達成できそうに思われたが、パンデミックによるロックダウンの恐れがある中、ナイジェリアやその他のアフリカ市場では一般消費財への支出額が減少した。その後、登録者数は70%減少し、5月には同社の従業員の28%が無給休暇を余儀なくされた。しかし、iROKOtvの現地市場の数字とは対称に、ロックダウン中に国際的な加入者数が200%増加し、その結果25~30ドル(約2600円~3200円)のARPUを記録した。

しかし8月、さらなる悲報が同社を襲う。CEOが150人の従業員を解雇すると発表したのだ。ンジョク氏はこの決定の理由として、ナイジェリアの通貨であるナイラの切り下げ、国の放送規制当局による規制の猛攻、アウトバウンドマーケティングチームの縮小を挙げている。

同社は成長を維持するため毎月30万ドル(約3200万円)以上を費やしていたが、アフリカ大陸における事業拡大への取り組みの停止を決め、代わりに米国と英国を中心とした国際市場に焦点を当てた。それが功を成し、年間25ドル(約2600円)から60ドル(約6300円)へと150%の値上げを実現している。ンジョク氏は、この決定によって同社が軌道に乗り、これまでの数年間よりもキャッシュポジションを高めることができたと述べている。 

「アフリカでの成長に費やすコストを劇的に減らしました。私たちはアフリカに集中していましたが、マーケティングやそれを促す何に対しても、結果的には何もできませんでした。そのため、もっと理にかなう市場に集中することにしたのです。当社の国際事業は2020年には有機的に2桁の成長を遂げており、しばらくの間はこの成長が続くと予想しています」と同氏はTechCrunchに語ってくれた。

イロコはアフリカ市場から完全に撤退したわけではなく、ステルスモードに入ったと考えれば良い。過去8年間アフリカで最も強力な独立系SVOD会社の1つとして支配的な地位を築いてきた同社は、アフリカ大陸でのあらゆる改善から必ず恩恵を受けることになるだろう。

とはいえ同社は収益の80%をアフリカ外の国から得ており、海外の取引所での上場が同社の取り組みを強化するために有益になることは間違いない。ナイジェリア証券取引所やその他の現地取引所は、アーリーステージのハイテク企業を上場させた歴史がない。そのため、ンジョク氏にとっては短期的にはロンドン証券取引所の方が理にかなっている。

また、イロコが目指す時価総額は1億ドル(約105億円)程度と一次市場にしては小規模だ。同社がLSEのオルタナティブ インベストメント マーケット(AIM)への上場を選択しているのはこのためだ。LSEのサブマーケットであるAIMは、小資本企業のために特別に作られている。それでも将来的には、英国のスポーツ賭博会社GVC(ジーブイシー)やオンラインファッション小売業者ASOS(エイソス)のように、評価額の成長に応じて主要市場に進出する計画もある。

株式を公開する際、ほとんどの企業はプライベートエクイティの時よりも多くの資金を調達する傾向にある。しかしイロコの場合はそうではない。2016年1月の最後の価格決定ラウンド(シリーズE)で総額約3000万ドル(約32億円)を確保した同社だが、2022年に株式を公開する際にはそれ以下、またはそれと同程度の金額を調達する予定だ。ダウンラウンドのように見えるが、なぜ同社はもっと調達する予定がないのか、ンジョク氏に尋ねてみた。

「これ以上必要ないのです。正直に言うと、1000万ドル(約10億5000万円)から1500万ドル(約16億円)は経営のために使用され、残りは株主のための副次的なものになるでしょう。イロコは未公開企業としての評価額が7000万ドル(約74億円)を超えたことはなかったので、目標の範囲内であればダウンラウンドにはなりません。特に、この間にイロコのために調達した資本金の総額に近い金額でROKをイグジットしたことを考えると、すでに初期投資家と株主に1100万ドル(約12億円)を返却しています。Canal+(キャナル プリュス)によるROKの買収で得た資金はまだ残っており、2023年まで半年ごとに入ってきます」とンジョク氏はいう。

イロコが2019年7月にVivendi(ヴィヴェンディ)傘下のキャナル プリュスにROK Studios(ROKスタジオ)を売却した際、取引条件は非公開のままだった。しかしCEOの発表から買収の見積もりが3000万ドル(約32億円)前後だと推測できる。この取引によって得た収益のおかげで同社は2020年の荒波を乗り越えることができた可能性が高く、2022年のIPO後も同様となる可能性がある。 

イロコと同じく今後2年以内に株式公開を予定しているのは、ナイジェリアに拠点を置く、評価額10億ドル(約1050億円)の決済会社Interswitch(インタースイッチ)だ。しかし2002年に設立されたインタースイッチとは異なり、イロコは設立からわずか10年しか経っていない。10年以内に上場したインターネット企業はJumia(ジュミア)だけで、同社は設立から7年後に上場している。イロコは創業11年目にしてこの偉業を達成させようとしており、株式の18%を保有するンジョク氏は次のステップに進むには十分な時期だと考えている。  

「非上場企業として達成できることは、上場しても同じように達成することができるでしょう。 いつも支えてくださっている会員の皆様にもIPOの機会を提供する予定ですので、会員の皆様にもその価値を享受していただけると思います。常にパイオニアであり、実験的であることを恐れないというのがイロコの特徴です。プロセス全体をオープンソース化していくつもりなので、もし私たちが成功すれば、後に続くアフリカの他の企業も私たちの経験から恩恵を受けることができるでしょう」と、同氏は今後の抱負を語る。 

関連記事:フランス語圏アフリカの消費者向け金融スーパーアプリ構築に力を入れるコートジボアールのDjamo

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タグ:新規上場 アフリカ メディア

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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)

Google検索のオーストラリア撤退警告に対し、マイクロソフトがBingで穴埋めと政府に申し出

Google検索によるオーストラリア撤退警告に対し、マイクロソフトがBingで穴埋めと政府に申し出

現在(2月1日時点)Googleはオーストラリア議会に提出された法案に反発し、現地から検索エンジンサービスを撤退すると警告しています。この事態に対して、マイクロソフトが自社の検索エンジンBingを提供して穴埋めするとオーストラリア政府に申し出た、と報じられています。

この問題の発端は、オーストラリア政府がGoogleやFacebookなど大手テクノロジー各社に対し、ニュースコンテンツを提供する企業にロイヤリティーを支払うよう義務づける法案を提出したことです。要はGoogleの検索結果やFacebookのニュースフィードに国内の出版社や放送局のコンテンツが含まれている場合は、広告収入を分かち合えというわけです。

これに対してGoogleのオーストラリア・ニュージーランド担当マネジングディレクターのメル・シルバ氏は議会公聴会で「実行不可能だ」と語り、法案が成立した場合は「オーストラリアでGoogle検索の提供を止めるしかない」と述べています。つまりGoogleが検索サービス撤退の可能性によりオーストラリア政府を脅している、との見方もあります。

しかし現地メディアのオーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(主にビジネスと金融を扱う全国紙/Ausdroid経由)によれば、MSのサティア・ナデラCEOはオーストラリアのスコット・モリソン首相と直接会談したとのこと。そこで自社のBingによりGoogle検索が撤退した空白を埋められると助言したとの観測が伝えられています。

さらにReutersはモリソン首相がナデラCEOとの会談を認めた上で「Googleが検索エンジンを撤退した場合、Bingでギャップを埋めることができると確信している」との発言を報じており、事実である裏付けが取れています。

その可能性がどれほどかはさておき、モリソン首相はGoogleが撤退をちらつかせても譲歩するつもりはない模様です。「ハッキリさせておきましょう。オーストラリアでは、オーストラリアで可能なことのルールを決めています。それは議会で行われ、政府によって行われます。それがここオーストラリアでの仕事の作法です。オーストラリアで仕事をしたい人は大歓迎ですが、我々は脅しには応じません」と決意の程を語っています。

が、Googleも孤立しているわけではありません。1月15日には米国通商代表部が公式文書で「我々はオーストラリアに対し、指定されたプラットフォームに課せられる潜在的な義務の程度がAUSFTA(米・豪自由貿易協定)と一致しているかどうか検討するよう強く求める」と表明しており、米国政府の後押しを受けている状態です。

標準検索サービスがGoogleがBingに置き換えられた未来には興味深いものがありますが、依然として事態は流動的であり、もしかするとGoogleとオーストラリア政府が電撃的に和解することもありうるのかもしれません。

ともあれ、ライバル企業が大きな市場を手放す可能性があると見るや、すかさず動き出すIT巨人のフットワークの軽さは、日本の企業にとっても学べるところがありそうです。

Engadget日本版より転載)

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メールニュースレターのShopifyを目指すLetterhead

最近、国際ブランド、非営利団体、ローカルニュースパブリッシャーなどで、メールニュースレターを導入する組織が増えている。

あなたの組織がメールに注目しているのはおそらく、この10年で、Facebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、その他の閉鎖されたプラットフォームによって痛い目に遭わされたからだろう。問題は、今使えるツールがあまりにも汎用的か、あるいはマーケター専用に構築されたものであるという点にある。ニュースレターコンテンツ自体から収益を上げたい場合はどうすればよいのだろうか。

Letterhead(レターヘッド)は、メール型SaaS製品の巨大な市場に食い込もうとしている。あらゆるタイプのニュースレタークリエーターたちの収益とコラボレーションの両方のニーズが十分に満たされていないと考えた上での決断だ。同社は、すべての広告販売、有料サブスクリプション、ニュースレターコンテンツ管理を1つのシンプルな製品にまとめた。

ニュースレターおよびその従来の顧客ベースに対するLetterheadの見方は、シリコンバレーの典型的なSaaSスタートアップとは異なっており、非常に興味深い。それには理由がある。実は、Letterheadは、2014年に地元のメディアサイトThe New Tropic(ザ・ニュース・トロピック)を立ち上げることで事業を開始したWhereBy.Us(ウェアーバイ・アス)というマイアミのコミュニティパブリッシャーからスピンアウトする形で生まれた製品だ。メールによるニュースレターの形式にフォーカスしてから、同社はオンラインローカルニュースのパブリッシャーとして成功を収めた。これは極めてまれなケースだ。

画像クレジット:Letterhead

「当初、我々の目的はローカルメディアを作成して、読者に地元の情報を提供し、新世代のローカルニュース読者と関わりを深めてサービスを提供することでした」と共同創業者でCEOのChris Sopher(クリス・ソファー)氏はビデオチャットで話してくれた。「バーやイベント、他にもあらゆるものを開くことを考えていました。そうしたアイデアをすでに機能している仕組みに合わせて余分なものを削ぎ落とした結果、リストの一番上にあったのがメールでした」。

こうしたメールの広告スペースの需要は高かったので、Letterheadは、広告主向けにセルフサービス方式の支払いシステムを構築した。これにより、ニュースレターの執筆者はふさわしい場所に適切な広告を打つことが簡単にできるようになった。

このビジネスモデルとテクノロジーを基盤として、Letterheadは、シアトル、ポートランドオーランドピッツバーグにもニュースレターパブリッシャーを設立したり他社を買収したりして成長を遂げた。その間、ツール自体も改善し続けた。

そして、新たな需要も見出した。

「読者からは『おたくのニュースレター気に入ったよ。どんなツールを使ってるの?』という問い合わせをよくいただきます。既存のさまざまなツールを使ってメールを作成するのは本当に面倒ですから」とソファー氏は説明する。

(筆者の経験では、こうしたメール作成ツールは一般に、Mailchimp(メールチンプ)、Constant Contact(コンスタント・コンタクト)、またはSailthru(セイルスルー)を組み合わせたものになることが多い。これに加えて、WordPress(ワードプレス)などのメインのウェブパブリッシングCMS、Piano(ピアノ)などの別個のサブスクリプションソフトウェア、さまざまな広告管理ツールなどがある)。

「そうした問い合わせに『社内ツールを使っています』とお答えすると、『そうなんですね。そのツールを使いたいのですが』と聞かれるので、『申し訳ありませんが、当社が行っているのはそうしたツール販売ビジネスではないんです』と答えるわけです。それでも問い合わせが多くそのたびにお断りしているうちに、スタッフと『このツールを売る方法を考えるべきだよね』となったわけです。それがLetterhead創業の発端です」。

画像クレジット:Letterhead

現在、ウェアーバイ・アスは、ローカルニュースメディアにとってのどん底の10年間を生き残った数少ない事例の1つとなっている。ソファー氏によると、5つの都市のニュースレターの広告収入は全体として順調で、今年前半のパンデミックによる落ち込みからも回復し、成長を続けているという。

今注目されているのは、Letterheadの各種ツールだ。具体的には、広告システム、新しい有料サブスクリプション機能(メールにペイウォールを追加するといったことができる)、使いやすいテキスト編集機能とテンプレートフォーマット、そしてまもなく登場する分析ツールなどがある。

「スポンサーと広告に対するニーズを最もよく耳にしたので、そこから着手しました」と共同創業者でCOOのRebekah Monson(レベカー・モンソン)氏はメールで答えてくれた。「当社の大きなビジョンは、単一のシンプルな環境でお互いに連係して動くツールとサービスのセットを作成し、すべての収益源を成長させて、結果的にメール以外のビジネスにも手を広げていくというものです。そうしたツールは、従来のメディアパブリッシャーだけでなく、マーケター、非営利団体、大学、職能団体など、自身が関与しているコミュニティとの関係を深め、その関係性から収益を生み出そうとしている人たちからも需要があります」。

メールニュースレターの領域でLetterheadが収益とチームのコラボレーションに重点を置いているのは、Substack(サブスタック)が個々の執筆者を重視しているのや、またLede(リーズ)などの製品がサブスクリプションベースのニュース配信機関向けに設計されているのと同じで、得意分野に特化したサービスを提供しようとしたものだ。

Letterheadは、組織が料金を支払って使う明示的なホスト型ソフトウェアソリューションであり、Ghost(ゴースト)のようなオープンソース型のプロジェクトとは異なる。Shopify(ショッピファイ)がオンラインビジネスの運営を目指す人向けにホワイトラベル型のeコマース機能スイートを提供しているように、Letterheadはニュースレターの基盤となるサービスを提供することを目指している。

SaaSの世界におけるメールソリューションは広範囲に及ぶが、Letterheadは、市場の理解度とその製品デザインを武器に、SaaSメール製品の熾烈な競争を勝ち抜いていけると考えている。

画像クレジット:Letterhead

ソファー氏によると、Letterheadは、今年初めの早期限定リリース以来、広範な顧客と契約を交わしている。たとえば、スタートアップ(Shoot My Travel(シュート・マイ・トラベル))、非営利団体(Vida y Salud(ヴィダ・ワイ・サルード)とRefresh(リフレッシュ))、および政治グループ(OD Action(オー・ディー・アクション))、そしてもちろんローカルニュースパブリッシャー(VTDigger(ヴィー・ティー・ディガー)Choose954(チューズ954)Santa Cruz Local(サンタ・クルズ・ローカル))が顧客として名を連ねている。また、LetterheadはワードプレスのNews Pack(ニュースパック)プログラム(ワードプレス上のパブリッシャー向けプラグインコレクション)のパートナーにもなっている。

「メディアパブリッシングとは常に密接な関係を保っていくつもりですが、パブリッシング以外にも広範なニーズがあります」とソファー氏は説明する。「我々は今、多くの組織がパブリッシングを行っているこの瞬間を目の当たりにしています。どのような話題でも、素晴らしい仕事をするプロのレポーターがいます。ですが、面白く有益なコンテンツを作成するブランド、政府機関、非営利団体、その他の組織が存在しており、周辺にコミュニティを形成していることもおそらく間違いないでしょう。そうしたコミュニティが自らはニュース業界に属しているなどと自認することはありません」。

ソファー氏は、次の点も指摘する。「Letterheadの製品はモジュラー形式になっているため、企業はその機能の一部を他のメールサービスプロバイダーや大半の技術スタックに組み込むことができます」。

「今、小規模の顧客は収益化を犠牲にすることなく、1か所ですべてが揃うシンプルさを求めて当社の製品を選択しています。その一方で、大規模な顧客は、多面的なビジネスを構築したり、どちらかといえば個人や独立系クリエーター向けのツールから脱却したりすべく、当社の製品を彼らの技術スタックの一部に取り込む選択をしています」。

収益化のためのツールが揃ったので、次は、分析ツールと追加のESPツールの開発に取り掛かる予定だとソファー氏は言う。

ウェアーバイ・アスは創業以来、テック企業やメディア企業から500万ドル(約5億2000万円)の資金を調達している。資金を提供しているのは、Knight Foundation(ナイト・ファウンデーション)、Jason Calacanis’ LAUNCH(ジェイソン・カラカニス・ランチ)ファンド、Band of Angels(バンド・オブ・エンジェルズ)、McClatchy(マクラッチー)、そしてRepublic(リパブリック)とSeedInvest(シード・インベスト)経由で参加している数百の小口投資家たちだ。最近では、Brick Capital(ブリック・キャピタル)がリードする資金調達ラウンドが実施された。

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(文:Eric Eldon、翻訳:Dragonfly)

ボストン・グローブ紙が記事内の実名や顔写真の削除を求める人々の要望を検討する委員会設置

The Boston Globe(ボストン・グローブ)紙は、新聞の記事が自分の評判を害していると感じた人が、その記事の更新や匿名化を求めることができる新しいプログラムを開始している。これはEUの「忘れられる権利」を連想させるが、物議を醸す可能性は少ないだろう。同紙の編集部のみに関係することで、コンテンツにとらわれない検索エンジンとは違うからだ。

この「Fresh Start(フレッシュスタート)」と名づけられた取り組みは、レストランの悪いレビューや重大な犯罪の報道を削除するためのものではなく、むしろ、ごく一般的な犯罪事件記事のためのものだ。たとえば「誰々が無秩序な行為で逮捕され、逮捕に抵抗した」と100語程度で書かれた顔写真つきの記事などである。

もちろん、このような記事は、読者に地域の犯罪を知らせるという目的を果たしている。しかし、グローブ紙の編集者であるBrian McGrory(ブライアン・マクグローリー)氏は、次のように指摘する。

短くて比較的重要ではないグローブ紙の記事が、その対象となった一般の人々の未来に影響を与えることは、決して我々の意図ではありませんでした。

刑事司法制度を考えると、これは有色人種に過度な影響を与えているというのが私たちの感覚です。このプログラムの背後にある考え方は、それに対処を始めるというものです。

警察官の偏見による証言が、報道で遺伝的な偏見に変わる。これは深刻な問題であり、米国が何十年にもわたって取り組んできた問題だ。しかし、それはデジタル記録の性質によって悪化している。

応募書類を見る雇用主は、名前や他のいくつかの詳細を検索するだけで、顔写真付きの犯罪記録のような目立った情報を見つけることができる。また、メディアは低所得層の逮捕者についてよく取り上げるが、低所得層者が無罪判決や不起訴処分になったことはほとんど取り上げない。結局、誰もそんな記事をクリックしないからだ。そのため、報道は不完全なものになり、記事に書かれた人にとって潜在的に不利益な情報となることが多い。

検索エンジンのレベルでこれを修正しようとする欧州での試みは、反対と困難に直面している。検索エンジンはそれ自体が索引を作成する情報に関わっているわけではないし、検索エンジンが何を削除するべきか、または削除するべきではないかを決定する立場に置かれるべきではないという意見もあるからだ。さらに、1つの記事が複製されたり、何十回、何千回と引用されたり、インターネットアーカイブのようなサイトにバックアップされたりすることがあるので、タスクは複雑になるだろう。では、どうすればいいのだろうか?

同時に、出版物の削除や内容の変更を求めるよりも、検索エンジンの検索する可能性に制限を求める方が、言論の自由を脅かすものではないことは確かだ。議論は現在も続いている。

グローブ紙のアプローチは、Google(グーグル)に人の記録を「忘れさせる」ほど包括的なものではないが、ずっと単純で反対意見も受けにくい。グローブ紙はもちろん自身の記事に対する編集権を行使しており、問題は情報の一部を消し去ることではなく、そもそもそれがニュース価値のあるものであったかどうかを再検討することだ。

グローブ紙の新しい試みの発表の中で、デジタル版担当のJason Tuohey(ジェイソン・トーヘイ)編集長は次のように述べている。「フレッシュスタート委員会でそんな記事を変更したとしても、我々はなぜ、来週も同じような記事を載せるのか?」

グローブ紙は、記事の更新を求める人々からの嘆願を審査するために10人の委員会を設置した。「更新」であり、決して「削除」されることはない、とつけ加えておくことが重要だ。以前のCleveland Plain Dealer(クリーブランドのプレイン・ディーラー紙)による同様の取り組みでは、人々は裁判所の記録抹消命令を提示する必要があったが、グローブ紙の場合は法的なハードルはない。

フレッシュスタートのチームは、これが複雑なものになるだろうということはすぐに認めている。自動化された要求や詐欺的な要求が確実に押し寄せてくるだろうし、公人はとりあえず要求してみるだろう。出来事や身元を確認するために証拠が必要な場合、それが何であるかについては意見が分かれるだろう。そして最後に達成されるのは、1本の記事、あるいはその1行だけが、変更されることになるだろう。そしてそれは、おそらくインターネット上で散々複製されたりアーカイブされた後のことになる。しかし、これはスタートだ。

1つの新聞だけがこれをやっても大きな効果はないかもしれないが、プログラムが成功すれば、他の新聞社も注目するかもしれない。そして、トーヘイ氏が指摘したように、実際に司法制度がどれほど凋落しているかを知ると、そもそも報道機関の英知が揺らいで見えるようになる。新たに発見した懐疑論を、人々が過去の出来事にも適用したくなるのは当然だろう。

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タグ:メディアプライバシー

画像クレジット:terekhov igor / Shutterstock

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(翻訳:TechCrunch Japan)

韓国NAVERがユーザーがオリジナル作品を10億本以上公開するストーリープラットフォームWhattpadを買収

トロントを拠点として14年の歴史を持つWattpad(ワットパッド)は、VCの支援を受けたソーシャルストーリープラットフォームで、さまざまな分野に進出している。そのWattpadがこのたび韓国のコングロマリットであるNAVER(ネイバー)に6億ドル(約622億6000万円)の現金と株式による取引で、買収されようとしている。

NAVERは、少なくともWattpadの事業の一部を、2004年に立ち上げて2014年に米国に進出した出版プラットフォームWebtoon(ウェブトゥーン)に組み込むことを計画している。Webtoonはユーザーが作成した何千本ものマンガを掲載するプラットフォームで読者の数も多い。NAVERによれば、Webtoonは2020年8月の時点で、月平均6700万人以上のユーザーを数えている。

普通に眺めれば、この取引には意味があるように見える。韓国のPulse News(パルス・ニュース)によれば、そのウェブ漫画のなかには、より広い地域の読者を獲得し、映画にも進出しているものもあるという(記事の最後に挙げたのは「The Secret of Angel』という人気シリーズの予告編だ)。

同様に、もともと電子書籍アプリとしてスタートしたWattpadは、ユーザーがオリジナルの作品を公開し、毎月9000万人以上が作品を読むために訪れる人気の高いプラットフォームへと進化してきた(実際、先週Vergeに掲載された記事によれば、Wattpadは何年もかけて10億本以上のストーリーを掲載し、ユーザーは延べで月に220億分かけて、それらの物語を読んでいるということだ)。

NetflixやAppleをはじめとして、インドネシアのライドシェア大手のGoJekが2019年に立ち上げたGoPlayのようなプラットフォームまでもが、フレッシュなコンテンツを必要としていることを受けて、Webtoonと同様にWattpadもストリーミングメディアに力を入れてきた。(Wattpad Studiosに加えて、Wattpadは2019年に書籍出版部門を立ち上げた)。

WebtoonのCEOであるJun Koo Kim(キム・ジュンク)氏は、プレスリリースの中で、今回の提携は「世界をリードするマルチメディアエンターテインメント企業になるための大きな一歩」であると述べている。

一方、NAVERのSeong-Sook Han(ハン・ソンソク)CEOは、Wattpadの共同創業者であるAllen Lau(アレン・ラウ)氏とIvan Yuen(イワン・ユエン)氏が、買収後も引き続き彼らが築いてきた会社を率いると別のリリースで述べている(NAVERの子会社は東京で開発された人気メッセージングアプリのLINEを運営している)。

今回の買収がWattpadの投資家にとって良い話だったのかどうかについてだが、まあまあであったように思える(それぞれの投資条件を知らなければ、しっかり見定めることは難しいが)。

Wattpaidは長年にわたってアジア、米国、カナダの投資家たちから1億1780万ドル(約122億2000万円)を調達してきたが、直近のラウンドではTencent Holdings、BDC、Globe TelecomのKickstart Ventures、Peterson Group、Canso、Raine Venturesから5100万ドル(約52億9000万円)を調達した。

Pitchbookによれば、2018年に発表されたその最後の取引によって、同社の事後評価額は3億9800万ドル(約412億9000万円)となった。

 

カテゴリー:ネットサービス
タグ:NAVERWhattpad買収韓国メディア

画像クレジット:Wattpad

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(翻訳:sako)

Nielsenが現状に合わせて従来のテレビ放送とデジタル配信の視聴率調査統合を準備

Nielsen(ニールセン)は、テレビ視聴率の調査を、リアルタイムで見る人と、さまざまな配信サービスやデバイスを使ってオンデマンドで見る人とが混在する世界を反映させた方式に刷新する。

同社は長年にわたりテレビ視聴率調査の標準的方式を提供してきたが、テレビがデジタルで視聴できるようになり、物事は大変に細分化されてしまった。そこで、間もなく運用が開始されるNielsen One(ニールセン・ワン)プラットフォームは、他社とそう変わらない新しいデジタル視聴率調査方式を提供するだけではなく、Nielsenの中核的な測定基準を刷新するものとなる。

「私たちの主な目的は、測定方法が複数メディアをまたぐ広告枠買い付けの妨げになっている現状を打開することです」とNielsen視聴率調査ジェネラルマネージャーScott Brown(スコット・ブラウン)氏は話す。

2022年秋にNielsen Oneの運用が開始されると、テレビ番組の視聴に関するNielsenの報告には、昔ながらのかたちでテレビを観ている人の数だけでなく、視聴者の現実の数が反映されるようになる。

さらに、オンライン世界のプログラマティック広告や、同等の広告枠買い付けツールが従来型のリニアなテレビ放送にも広がりつつあることを考えれば、「みんなが同じ広告を見る」という考え方は捨て去るときがきたとブラウン氏はいう。

つまり、このプラットフォームはNielsenのC3とC7という視聴率基準から「離れる」ことを意味する。この基準とは、テレビ番組の広告を、C3は3日間、C7は7日間の放映の間にどれだけの人が見たかを示す値だ。

ブラウン氏によれば、Nielsenは各プラットフォームごとに、何人の人が広告を見たかをきめ細かく調査できるようになるという。「個々の広告に推定視聴者数が示される」ことになり、2024年秋までには従来型測定方法の全廃を目指す。

画像クレジット:Nielsen

またNielsen Oneのスタートにともない、ブラウン氏が「新しいデータバックボーン」と呼ぶものが導入され、Nielsenのクライアントは、同社が報告書で示す数値の元となるデータに、もっと直接的にアクセスできるようになる。

このデータを提示するためには、テレビ視聴率の一般調査員「パネル」の協力に今後も依存することになるが、これからは「本当のクロスプラットフォーム」のデータになる点が違うとブラウン氏は話す。同社は、Amazon(アマゾン)、Hulu(フールー)、Roku(ロク)、Vivio(ビジオ)、Google(グーグル)およびYouTube(ユーチューブ)をすでに利用しているパートナー企業から追加データを引き出すことにしている。

多くのネットワークやメディア企業が独自の配信サービスを立ち上げたり買収したりしているが、誰もがNielsenで視聴率や広告の検証をしたがっているはずだとブラウン氏は示唆する。だが、Netflix(ネットフリックス)やDisney+(ディズニープラス)などの一部のサービスはインセンティブが低い。広告ではなくサブスクリプションのビジネスモデルに依存しているからだ。

「すべての視聴率がわかります」と彼はいう。「しかし私たちに寄り添い、一体となれる企業には、より細かい数値と、より総合的な調査を提供できるようになります」。

私は、オンラインの世界で議論されている大きな問題についても尋ねてみた。Facebook(フェイスブック)は動画を3秒間見たかどうか、Netflixは、番組の「視聴することを選んでいる」人が少なくとも2分間見たかどうかをチェックしているが、実際に何をもって1回のインプレッションと数えるのか?

「はっきり公表できるものとしては、最終的な答えは出ていません」とブラウン氏。だがNielsenでは、2021年にこの問題を細かく整理する作業部会を設ける予定だ。同時に、「1秒単位の解像度で測定」できる技術を構築し、どのようなルールが決められようとも対応できる体制を整える。

「現在の細分化された測定環境では、複数のプラットフォームにまたがるキャンペーンの計画、実施、検証が過度に複雑になり、予測がますます困難になっています」とデジタルエージェンシーEssence(エッセンス)の最高メディア責任者Adam Gerber(アダム・ガーバー)氏は声明の中で述べている。「アドレサブル広告モデルへ移行し、リーチを優先化し、成果をあげるための最適化を行うようになるほど、一貫した単一ソースによる測定ソリューションが必須となります。Nielsenの複数メディアにまたがるこの新しいアプローチは、総合的なキャンペーンを成功させたい広告主が求める信頼性と透明性を届ける重要なステップとなります」。

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画像クレジット:Karunyapas Krueklad / EyeEm / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

欧州向けGoogle News Showcaseが有料記事を無料で読める取り組みを開始

Google News Showcaseの読者はまもなく有料記事を支払いなしで読めるようになる。

これはGoogle(グーグル)が米国時間12月2日にNews Showcaseに関して発表した内容(グーグルのブログ)のひとつだ。News ShowcaseはGoogle Newsの新しいフォーマットとして、グーグルがパブリッシャーに費用(当初発表された金額は10億ドル、約1050億円)を支払ってコンテンツのライセンスを受けるプログラムだ。Google News Showcaseはこれまでのところ、ドイツ、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、フランス、英国、オーストラリアで提供されている。いくつかのケースで、グーグルがこれまでに法律や独占禁止法の問題に直面した市場だ。

グーグルは「News Showcaseユーザーに有料コンテンツへの限定的なアクセス」を提供するために、参加パブリッシャーに対し費用を支払うとしている。ただしユーザーは直接パブリッシャーに登録をする必要はある。これについてグーグルは、パブリッシャーとユーザーの関係を築くことができると述べている(Facebookも有料コンテンツの提供を実験している。こちらはFacebookアカウントをニュースの購読にリンクしている)。

News Showcaseのメインのフォーマットは基本的にストーリーのパネルで、グーグルはパブリッシャーが重要なストーリーを毎日選んで構成できる新しいパネルを導入すると説明している。こうしたパネルが、そのパブリッシャーをフォローしているユーザーに対して表示される。

画像クレジット:Google

また、グーグルはNews Showcaseを読めるデバイスとチャネルを増やす。News ShowcaseはAndroid版のGoogle Newsでサービスを開始したが、iOSでも利用できるようになった。さらにnews.google.comのウェブサイトとDiscoverにも近々拡大する計画だ。さらに、2020年10月のサービス開始以降、パートナー数が倍増してこのプログラムに参加するパブリッシャーが400近くになったことも発表した。新たに加わったパブリッシャーには、フランスのLe Monde(ル・モンド)やCourrier International(クーリエ・アンテルナショナル)、L’Obs(ロブス)、Le Figaro(ル・フィガロ)、Libération(リベラシオン)、L’Express(レクスプレス)、さらにアルゼンチンのPágina12(パヒナ12)、La Gaceta(ラ・ガセタ)、El Día(エル・ディア)などがある。

グーグルは「2020年も終わりに近づき、News Showcaseの発展、そして世界中のパブリッシャーと読者の熱気を目の当たりにして勇気づけられる思いです。我々は今後もフィードバックを重視して取り入れながら機能を拡張しプロダクトを強化して、ニュースパートナーの今後の持続可能性に貢献していきます」と述べている。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Google、Google News、メディア

画像クレジット:David Paul Morris/Bloomberg / Getty Images

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(翻訳:Kaori Koyama)

愚かな考えではなく、やる気に敬意を

米国時間10月22日、メディアはQuibi(クイビ)のニュースにがっついた。我々もそうだった。皆がそうした。むしろ、そうじゃなかった人がいただろうか?およそ20憶ドル(約2100憶円)の資金(そのうち3億5000万ドル(約370憶円)は戻されるが)、スター揃いの経営陣と生産チーム、大金をはたいた広告キャンペーン、そしてRR戦略はどれもが、イカロスの翼を溶かしてくれと太陽にいわんばかりだった。

とんでもない大失敗(今回はQuibiだったが)における我々全員のため息は、「信義誠実に基づいた失敗を、我々は不快なほどに攻撃しているのではないか?」という論理的で興味深い質問に繋がる。Quibiは他のスタートアップとまったく同じ、賭けであり、たまたま失敗してしまった賭けだっただけではないだろうか?A16ZのゼネラルパートナーAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏はツイッターで「へどが出る」と堂々とつぶやき、スタートアップの立ち上げにおける起業家精神あふれる挑戦を賞賛している

これは私にもよく分かる。実際TechCrunchでは全員が分かっている。我々がここで誇れることの1つは、そのやる気に敬意を払っていることだ。スタートアップの立ち上げがどんなに大変かよく知っている。チームとして、我々は毎年実に何千もの創業者を取材している。起業には、時に胸が張り裂けそうなストーリーや完全なトラウマが伴うものだ。そしてたまに、サクセスストーリーも聞くことができる(そう、我々のレポートの大部分は成功に焦点を当てている)。

正直になろう。ほとんどのスタートアップは失敗しているのだ。ほとんどのアイデアは見当違いで、起業家のほとんどは決して成功することはない。これは、スタートアップを立ち上げるな、情熱や夢を追いかけるなという意味ではない。成功した起業家がいれば、我々はその成功について話し、報告し、成功の理由を説明したいと思う。なぜならより多くの起業家の成功は最終的には我々全員にとってプラスであり、この世の中の進展を促すからだ。

だがバッドアイディアが存在することもはっきりさせておこう。そして、違う状況ならもっと分別がある賢い人々が、目に余るほどのひどいアイデアを出し、何十億ドルもの資金を集めることもある。Quibiは、友達や家族からラーメン代程度のお金を集め携帯電話の新しいフォーマットを発明しようとしている、エンターテイメントに熱い思いを寄せる大学中退者のひらめきではなかった。Quibiは現在のアメリカで最もパワフルで影響力のある2人のエグゼクティブが運営していた。彼らはこのプロジェクトに、他の女性創業者達が今年調達した金額の合計よりも多くの金額を調達した

チェン氏は、テック業界における多くの自明のアイデアは、ばかげたアイデアから始まるという重要な点を指摘する。確かにその通りだ!実際、テクノロジーの歴史には、投資家やプレスが、ばかげていると感じたり、構築不可能(「ばかげている」の、より礼儀正しい言い方)と思っていたアイデアの例がたくさんある。

ばかげていると思われるアイデアが、賢いアイデアに変わるのはなぜだろう?理由の1つはばかげたアイデアとして始まったものが、ゆっくりと手直しを繰り返し、非常に優れたアイデアに変わることだ。Facebook(フェイスブック)は、大学構内でクラスメートについてチェックする「フェイスブック」に過ぎなかった。そこで終わっていたら、それまでのその他の多くのソーシャルネットワークと同じように廃れていき、歴史のごみ箱に捨てられていたことだろう。だがZuckerberg(ザッカーバーグ)氏とそのチームは何度も手直しを行った。写真やフィード、メッセージングなどの機能を追加し、成長することを最重要視して、開始当時よりも多くの機能を搭載した製品に仕上げた。

我々はこのパターンをずっと、何度も何度も見てきている。創業者はユーザーからフィードバックを得て、手直しや方向転換を行い、ゆっくりだが確実に、未熟だったかもしれないコンセプトから、ビジネスと消費者の注目を集める今日の激しい市場でもっと戦えるものに移行していくのだ。

Quibiの展開はこうではなかった。あらゆる企業の成長において回避できない困難な状況に対応するための資本を慎重に節約する一方、製品の手直しや、同社が魅力を感じたユーザーや才能を熱心に育てるといった長期的な計画が全くなかった。

我々評論家ももちろんミスはする。だがアナリストはQuibiの警報を発しているかのような紛れもない欠陥のすべてを指摘できないバカではなかった。アナリストは賢かった。彼らは正しかった。もちろん次回は間違う可能性もある。アナリストは予測に自信過剰になるべきではない。しかし同時に、我々は総じて両手を広げ、出されるアイデアすべてを天からの素晴らしい贈り物だと宣言すべきではない。ほとんどのアイデアは本当にばかげているし、我々全員はそれを指摘する権利がある。

だから、やる気に敬意を払おうではないか。プロジェクトを世に出そうと頑張っている、一生懸命な起業家を蹴倒すようなことはやめよう。だが、ばからしいと思うのにそう言うな、ということではない。優秀な起業家は、たとえそれが信じられないほどの毒舌であっても、批判的なフィードバックがスタートアップの成功にとって必要な要素であることは知っている。みんなを褒め称えるということは、誰も褒め称えていないことになる。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Quibi メディア

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(翻訳:Dragonfly)