3Dモデリングカーネルのスタートアップが11億円超を調達、Autodeskの元CEOも支援

私たちのほとんどは、幾何学的モデリングカーネル(またはソリッドモデリングカーネル)が、どのようなものかを知らないが、どんなCADもしくはデザインアプリケーションも、形状を作るためにそれを内部で用いている。それは、CADデザインの数学を行ってくれる、基底にあるインフラストラクチャなのだ。対象に穴を開けたり、線を組み合わせたり、角を削るためには新しい対象の縁の曲線を計算しなければならないが、こうした計算は洗練されたアルゴリズムの支援なしには行いたくないものだ。モデリングカーネルとは、製品モデリングを生み出すための3Dソリッドオブジェクトを定義したり保存したりするための、コアとなる数学関数を集めたライブラリであり、それを使うことで製品モデリングが比較的円滑なものとなる。

興味深いことに、1つのカーネルを構築するためには多大な時間を必要とする(数学者や博士、およびコンピュータ科学者の育成に時間がかかるのはもちろんだが)ために、最後に構築された市販の幾何学カーネルたちは、主に80年代の終わりから90年代の始めにかけて登場したものだ。中でも最も人気があるのは、3D ACISモデラー(ACIS)である。これはSpatial Corporationによって開発され、現在はフランスの3D設計およびエンジニアリングソフトウェア大手DassaultSystèmesが所有している、幾何学的モデリングカーネルである。このカーネルは、CADから3Dアニメーション、そして造船まで、あらゆる業界で使用されている。

もう1つはParasolidだ。これはもともとShape Data Limitedという会社によって開発され、現在はSiemensによって所有されている幾何学的モデリングカーネルだが、3D CGソフトウェア製品に組み込むために、他社にライセンスが行われている。

2002年にAutodeskがACISから枝分かれする形でShapeManagerというカーネルを作り始めたものの(同時期にはPTCのGraniteやDassaultのCGMなどもあった)、何年にもわたってACISとParasolidの2つが実質的に市場を支配していた。このことでDassaultとSiemensは500億ドルにも達する市場を両者で分け合い、そのライセンスを使い手には厄介な条件の下で高価に提供してきた。

だが現在、創業以来独自カーネルの開発に取り組んできた、シアトルに本拠を置く創業4年のDyndriteという会社が、その状況を変えようとしている。同社は、いまや製造用ハードウェアの能力がソフトウェアの能力を追い越していることを指摘しつつ、世界が同社のソフトウェアを必要としているのだと主張している。それは最新の製造、最新のコンピューターアーキテクチャ、そして最新のデザインニーズを意識したカーネルである。

「(他のスタートアップが頭を悩ませてきたものの)大部分は、(巨大な2社の)後追いを追求したことから始まっています。しかし30年の歴史をもつ製品と同じ機能を全て持つものをスタートアップが構築するのはとても難しいことです」と語るのはDyndriteの26歳の創業者兼CEOのハーシ・ギョール(Harshil Goel)氏だ(彼はUCバークレイから1つの数学、2つの機械工学に関連する学位を取得している)。

Dyndriteは「別の方針をとりました」と彼は付け加えた。そのカーネルは3Dプリンティングの新しい世界のために構築されてる。より具体的には、高次ジオメトリを含む、現在あるすべてのジオメトリタイプを表現することが可能だという。またラティス、サポート、スライス生成などの特定の加法的な計算も扱うことができる。ギョール氏によれば、このカーネルを用いることで、数日もしくは数時間かかっていた処理時間を数分に、場合によっては数秒までに削減することができるのだという。

Dyndriteが突破口を開けるかどうかはまだわからない。しかし初期の成果はとても有望なもののように見える。この15人の会社は、GoogleのAI重視の投資ファンドであるGradient Venturesが主導したシリーズAラウンドで、1000万ドル強の資金を調達した(同ファンドはシードファンドでも資金提供を行っている)。このラウンドに参加した他の投資家には、Cota Capitalや、Amplify Ventures、The House Fund、FlexportのCEOであるライアン・ピーターセン(Ryan Petersen)氏、Autodeskの元CEOであるカール・バス(Carl Bass)氏などの初期からの投資家たちも含まれている。バス氏とギョール氏の関係は9年前に遡る古くからのものだ。

彼らが出会ったのはギョール氏がバークレー校の新入生で、バス氏が同大学の学生だったときだが、Engineers Without Borders(国境なき技術者会議)という集まりで他の学生たちと話したのが始まりだった。バス氏に専攻が何かと尋ねられて、ギョール氏は自分が純粋数学を専攻していて、いつもマシン室に入り浸っていると答えた。数年後、ギョール氏はバス氏に作っているもののデモを行った。そのときのバス氏の言葉が「投資したほうがいいよね?」だった。それ以来、彼は自分のメンターなのだと、ギョール氏は語る。ギョール氏は彼と似たようなキャリアを辿ることを熱望し、同じくらい楽しんで過ごしたいと熱望しているのだと言う。「カールは、全てをぶち壊すことで、最悪のエンドユーザーの役割を果たしたいと思っているのです」とギョール氏は笑いながら語った。

現在目指している方向に関しては、Dyndriteは今月初めに業界イベントで、その技術を披露したばかりだ。また同社は、「 開発者協議会 」もローンチした。これはOEMたちがDyndriteのカーネルと加算ツールキットを活用する際に必要となる、ツール、リソース、その他のものを提供するプログラムだ。その開始時のメンバーに含まれているのは、HP、Nvidia、EOS、およびAconity3Dなどだ。

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(翻訳:sako)