自動実験ロボとデータ科学により人の100倍以上の速度でリチウム空気電池の電解液の調合・電池性能評価を実施、充放電サイクル寿命が2倍に

自動実験ロボとデータサイエンスにより人の100倍以上の速度で蓄電池の電解液の調合・電池性能評価を実施、充放電サイクル寿命が2倍に

各種探索手法を用いた際の、発見した電解液性能の経時変化。ランダム探索(黒線)に比べて、局所最適値法(赤線)やベイズ最適化(青線)を用いた場合の方が、より効率的に高性能電解液を発見できる

物質・材料研究機構(NIMS。松田翔一氏、Guillaume Lambard氏、袖山慶太郎氏)は3月23日、リチウム空気電池の電解液材料の材料探索において、独自の電気化学自動実験ロボットと、ベイズ最適化に代表されるデータサイエンス的手法を組み合わせた新しい手法を確立し、充放電サイクル寿命を2倍に向上させる電解液材料の開発に成功したと発表した。次世代蓄電池の開発を加速する、有力な手法になることが期待される。

車載用やスマートグリッド用など、蓄電池の需要が高まっていが、現在多く使われているリチウムイオン電池の性能は限界に達している。そこで革新的な蓄電池のいち早い実現が求められているが、その候補となっているのがエネルギー密度がリチウムイオン電池の2倍から5倍というリチウム空気電池だ。しかし、リチウム空気電池は充放電サイクル寿命が短いことがネックとなり、実用化が進んでいない。そこを改善するには、正極と負極での反応効率が高い電解液材料を開発する必要がある。それには、膨大な数の化合物の候補の選定や組み合わせを行わなければならず、研究者の勘と経験を頼り試行錯誤されているのが現状だ。

電気化学自動実験ロボットの(a)注液部、(b)全体像、(c)電極部

研究チームは、独自に開発した電気化学自動実験ロボットとデータサイエンス的手法を組み合わせて、この問題に取り組んだ。このロボットは、電解液の調合と電池性能評価を人の100倍の速度で行える。そこでアミド系電解液に的を絞り、その弱点である負極の反応効率の低さを解消する電解液の添加剤を探すことにした。添加剤の候補の組み合わせは1000万通り以上あり、そこからランダムに選び出した4320種類のサンプルの負極反応効率を評価した。その結果、86.1%まで反応効率を高める添加剤の組み合わせを発見できた。これに対して、局所最適値法とベイズ最適化といったデータサイエンス的手法を採り入れて探索を効率化すると、最大で92.8%まで反応効率を高める組み合わせが見つかった。この添加剤を導入した電解液を使用すると、リチウム空気電池の充放電サイクル寿命は約2倍に増大した。

この研究は、「試行錯誤的に行われてきた電解液材料の開発に対して、大きなインパクトを与えるもの」だという。またこの手法は、ナトリウムイオン電池やマグネシウム電池などの蓄電池用電解液の材料開発への適用も期待されるとのことだ。

台湾Gogoroが電動バイク用交換式全固体電池パックのプロトタイプ発表、容量はリチウムイオン式の1.47倍

台湾Gogoroが電動バイク用交換式全固体電池パックのプロトタイプ発表、容量はリチウムイオン式の1.47倍

Gogoro

電動スクーターの開発販売とバッテリー交換ステーションの運営している台湾のGogoroが、世界初となる電動二輪用交換式全固体電池を発表しました。現在はまだプロトタイプの段階ですが、Gogoroは「将来的に商用製品に発展させることを楽しみにしている」と述べています。

電気自動車などで使用される大容量の充電式バッテリーは、その容量の大きさからリチウムイオン電池が主流になっていますが、可燃性電解液を使用するため熱や変形などによって発火のリスクが高い問題があります。一方全固体電池は電解液ではなく固体の電解質を使用して電極間を接続するため、先に挙げたリスクが小さく、小型軽量化、高エネルギー密度化できると期待される次世代の充電池です。

Gogoroが同じ台湾のProLogium Technologyとの提携により開発したという全固体電池式(プロトタイプ)は内部にリチウムセラミックを使用したもので、Gogoroの電動スクーター用交換バッテリーパックと互換性を持たせて設計されています。そしてその容量は従来のリチウムイオン式の1.7kWhに対して2.5kWhとされ、1.47倍の容量アップを果たしています。

Gogoroは台湾だけでもすでに1万か所以上のバッテリー交換ステーションを設置しており、45万人を超える人々がサービスを利用しているとのこと。台湾の電動二輪車の95%がGogoroのバッテリー交換システムを使用しており、全体のバッテリー交換回数は累計2億6000万回を超えているとのこと。

まだ試作段階ではあるものの、台湾でこれほどに浸透したシステムで利用可能になれば、より大容量かつ安全、航続距離も伸びるであろう全固体式へのシフトはあっという間に進むものと考えられます。

またバイク向けで実用化・普及すれば、バイクよりも航続距離延長と軽量化の需要が高い電気自動車向け全固体電池の実用化にもGogoroとProLogium Technologyの技術が大きく寄与する可能性もあるかもしれません。

電気自動車向け全固体電池の実用化にはまだ数年の期間が必要と言われており、世界各国の自動車メーカーやベンチャー企業などが材料や内部構造を工夫して最適解となるもの生み出すべく開発競争を繰り広げています。

(Source:GogoroEngadget日本版より転載)

アストンマーティン、Britishvoltと電池セル技術を共同開発

英国の高級車メーカー、アストンマーティンが、リチウムイオン電池技術会社であるBritishvolt(ブリティッシュボルト)と覚書を締結した。両社は、高性能車向けのバッテリーセル技術の開発に向けて協力する。

アストンマーティンは、2025年に同社初のバッテリー式電気自動車を発売する計画で、現行のスポーツカーの1つを直接置き換えることになると見られている。また、2026年までにはすべての新商品ラインに電動パワートレイン(動力伝達装置)の選択肢を提供し、2030年までには中心ラインナップを完全電動化することを目標としている、と同社はいう。

完全電動化へのロードマップはまだ公表されていない。

アストンマーティンとBritishvoltの共同研究開発チームは、特注モジュールとバッテリー管理システムを含むバッテリーパックの設計、開発、量産化を共同で行う。この共同研究開発がどこで行われるのかについての問合せに、両社はまだ回答していないが、現在Britishvoltは、ノーサンバーランド州カンボワにある45GWhのギガプラントに取り組んでいる。同プラントは2027年にフル稼働する予定で、年間45万台の電気自動車用の電池パックを生産できるようになる予定だ。

2022年の1月、Britishvoltはこのプロジェクトのために英国政府から23億ドル(約2642億円)の資金を確保した。この資金を使って、Britishvoltは大量生産を後押しするために、ニッケル含有量の高いバッテリーとエネルギー密度の高い材料の開発に注力することになる。さらに先月には、Britishvoltはコバルト採掘の巨人Glencore(グレンコア)から5400万ドル(約62億円)の投資を受けてシリーズCを開始した。このラウンドでは合計2億6400万ドル(約303億3000万円)の調達が目指されており、その一部は計画中のバッテリー工場と研究開発センターに向けられる予定だ。

Britishvoltは先月、4つの自動車メーカーと契約を結んだことも発表しているが、そのうちの1つは英国の自動車メーカー・ロータスだ。アストンマーチンもその4社のうちの1社である可能性があるが、Britishvoltはそのことについて回答していない。

アストンマーティンは電動化ロードマップの一環として、同社初のプラグインハイブリッドカー「Valhalla(ヴァルハラ)」の納車を2024年初頭までに開始する予定だ。Valhallaに、Britishvoltのバッテリーが搭載されるかどうかについては明言されていない。

画像クレジット:Aston Martin

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:sako)

パナソニック、テスラのEV向け大容量電池を2024年3月までに和歌山で量産開始

Panasonic(パナソニック)は、2024年3月までにTesla(テスラ)の電気自動車向けとなる大容量バッテリーの量産開始を目指している。同社は和歌山工場に同バッテリーの生産設備を建設中で、そこに2つの生産ラインを増設し、構造的な改良を施す計画だ。

この現在も開発が続いている「4680」と呼ばれる新型リチウムイオン電池は、現行の電池の約2倍の大きさで、エネルギー容量は5倍になる見込みだ。1台の車両に必要な電池の本数が減る(これはコスト削減につながり、EVの価格を下げる可能性がある)一方で、一度の充電で走行可能な航続距離を15%以上伸ばすことができるという。

今回のパナソニックの発表は、来年にもこの電池の製造が始まる可能性を示唆した以前の報道と一致する。同社はその生産設備に約800億円を投資すると言われていた。テスラからの要請を受けて、この電池の開発に着手したものの、他の自動車メーカーに4680電池を販売する可能性もある。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者Kris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Getty Images under a Sjoerd van der Wal license.

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(文:Kris Holt、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

韓国EVバッテリーメーカーLG Energy Solutionが上場、時価総額で同国2位に浮上

韓国最大手のEVバッテリーメーカーであるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)は1月27日、成功裏に韓国取引所に上場した。終値で計算した同社の時価総額は118兆1700億ウォン(約11兆2600億円)で、Samsung Electronics(サムスン電子)に次ぐ国内2位の企業となった。

LG Energyの株価は、公募価格の30万ウォン(約2万8716円)を99%上回る59万7000ウォン(約5万7145円)で始まり、取引開始後は25%下落したこともあったが、最終的には68.3%値を上げた。

中国のCATL(寧徳時代新能源科技)に次いで世界2位のEV用バッテリーメーカーである同社は、先週、韓国最大のIPOで12兆8000億ウォン(約1兆2250億円)を調達し、同社の価値は590億ドル(約6兆8000億円)に達した。

セクターアナリストによると、LG EnergyはTesla(テスラ)、General Motors(ゼネラルモーターズ)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)などを顧客とし、世界のEV用バッテリー市場の約23%を占めているとのこと。これに対し、中国のCATLは約35%のシェアでトップだ。また、日本のパナソニックは約13%、中国のBYD(比亜迪)は約7%のシェアをそれぞれ占めている。

LG EnergyはIPOで得た資金をもとに、グローバル市場での生産能力を高める計画だ。また、米国、欧州、中国の自動車メーカーと戦略的パートナーシップを結び、世界の競合他社に対抗していきたいと考えている。

2020年12月にLG Chem(LG化学)からスピンアウトしたLG Energyは、3万人以上の従業員を擁し、EV、モビリティ、ドローン、船舶、ITアプリケーション、電力貯蔵システム(ESS)用のリチウムイオン電池を開発している。上場後、親会社のLG ChemはLG Energyの81.8%の株式を保有することになる。

2021年6月、ソウルに本社を置く同社は、GMのChevrolet Bolt EV(シボレー・ボルトEV)についてバッテリーセルの欠陥により発火の危険性が指摘され、一連のリコールが行われたことを受けて、IPOプロセスを中断していた。

2021年7月に同社は、2025年までに電池材料に52億ドル(約6000億円)を投資する計画を発表した。LG Energyは1月25日、GMと共同で米国に26億ドル(約3000億円)規模のEV用バッテリー工場を建設する計画を発表した。

関連記事:LG化学がEV用バッテリー生産拡大へ向け2025年までに5770億円を投資

画像クレジット:LG Energy Solution

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

韓国EVバッテリーメーカーLG Energy Solutionが上場、時価総額で同国2位に浮上

韓国最大手のEVバッテリーメーカーであるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)は1月27日、成功裏に韓国取引所に上場した。終値で計算した同社の時価総額は118兆1700億ウォン(約11兆2600億円)で、Samsung Electronics(サムスン電子)に次ぐ国内2位の企業となった。

LG Energyの株価は、公募価格の30万ウォン(約2万8716円)を99%上回る59万7000ウォン(約5万7145円)で始まり、取引開始後は25%下落したこともあったが、最終的には68.3%値を上げた。

中国のCATL(寧徳時代新能源科技)に次いで世界2位のEV用バッテリーメーカーである同社は、先週、韓国最大のIPOで12兆8000億ウォン(約1兆2250億円)を調達し、同社の価値は590億ドル(約6兆8000億円)に達した。

セクターアナリストによると、LG EnergyはTesla(テスラ)、General Motors(ゼネラルモーターズ)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)などを顧客とし、世界のEV用バッテリー市場の約23%を占めているとのこと。これに対し、中国のCATLは約35%のシェアでトップだ。また、日本のパナソニックは約13%、中国のBYD(比亜迪)は約7%のシェアをそれぞれ占めている。

LG EnergyはIPOで得た資金をもとに、グローバル市場での生産能力を高める計画だ。また、米国、欧州、中国の自動車メーカーと戦略的パートナーシップを結び、世界の競合他社に対抗していきたいと考えている。

2020年12月にLG Chem(LG化学)からスピンアウトしたLG Energyは、3万人以上の従業員を擁し、EV、モビリティ、ドローン、船舶、ITアプリケーション、電力貯蔵システム(ESS)用のリチウムイオン電池を開発している。上場後、親会社のLG ChemはLG Energyの81.8%の株式を保有することになる。

2021年6月、ソウルに本社を置く同社は、GMのChevrolet Bolt EV(シボレー・ボルトEV)についてバッテリーセルの欠陥により発火の危険性が指摘され、一連のリコールが行われたことを受けて、IPOプロセスを中断していた。

2021年7月に同社は、2025年までに電池材料に52億ドル(約6000億円)を投資する計画を発表した。LG Energyは1月25日、GMと共同で米国に26億ドル(約3000億円)規模のEV用バッテリー工場を建設する計画を発表した。

関連記事:LG化学がEV用バッテリー生産拡大へ向け2025年までに5770億円を投資

画像クレジット:LG Energy Solution

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

5分でフル充電できるEV用急速充電バッテリーのStoreDotがベトナムのVinFast主導で約92億円を調達

イスラエルの次世代バッテリーテクノロジー企業StoreDotは、ベトナムのEVメーカーであるVinFast(ビンファスト)が主導する最新の資金調達ラウンドのファーストクローズを完了した。同社は今回のシリーズDラウンドで、最大8000万ドル(約92億4000万円)を調達する予定だ。

この資金は、StoreDotの研究開発の完了と、同社技術の量産スケールアップに使用される。現在、自動車メーカーに出荷してテストを行っているという。

VinFastは、ベトナムでBMWベースの自動車をライセンスして製造している。シリーズDには他にも、BP VenturesとGolden Energy Global Investmentが参加した。

StoreDotのCEOであるDoron Myersdorf(ドロン・マイヤースドルフ)博士は、次のように述べている。「今回の戦略的な資金調達は自動車、エネルギー、テクノロジーの大手企業が主要な投資家となっており、StoreDot、同社のXFCバッテリー技術、長期的な製品ロードマップ、そしてEVドライバーの航続距離に関する不安を解消するためのワールドクラスの技術とイノベーションに対する大きな信頼の証です」。

StoreDotは、Daimler(ダイムラー)、Samsung(サムスン)、TDK、中国のバッテリー量産メーカーであるEVE Energy(EVEエナジー、恵州億緯鋰能)とのパートナーシップも獲得している。同社の革新的なリチウムイオン電池の設計は、非常に高速な充電が可能であり、わずか数分で車両をゼロ状態からフル充電できるとしている。

同社のXFC(超高速充電)バッテリーは、一般的な黒鉛を使用した負極ではなく、シリコン系の負極を使用しており、エネルギー密度が高く、従来の電池よりも長持ちする可能性がある。

VinFastのPham Thuy Linh(ファム・トゥイ・リン)副社長はこう述べている。「当社は、研究に献身的に取り組み、画期的な技術を持つ企業とパートナーシップを結び、投資することでグローバルな知性をつなげてきました。特に、StoreDotやその独自技術である超高速充電(XFC)などのEVバッテリーには注力しています」。

画像クレジット:StoreDot

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

岡山大学、ナノ立方体ブロックでリチウムイオン電池の充放電時間を大幅に短縮する技術を開発

岡山大学、ナノ立方体ブロックでリチウムイオン電池の充放電時間を大幅に短縮する技術を開発

岡山大学は12月24日、充放電時間を大幅に短縮できる技術を開発したことを発表した。電気自動車の充電が超高速になる次世代電池の開発につながることが期待される。

岡山大学大学院自然科学学域の寺西貴志准教授らによる研究グループは、産総研極限機能材料研究部門の三村憲一主任研究員らの研究グループと共同で、リチウムイオン電池の充放電時間を大幅に短縮することに成功した。リチウムイオン電池の正極材料と電解液の間にリチウムイオンを引き寄せる性質のあるナノサイズの立方体ブロック(ナノキューブ)を適量加えることで、リチウムイオンの出し入れ速度が大幅に速まった。

研究グループはすでに、誘電体からなるナノサイズの粒子を正極材料と電解液の間に導入することで、一定の条件下で誘電体ナノ粒子の表面にリチウムイオンが選択的に吸着し、その表面でリチウムイオンの動きが加速される現象を発見していた。そこでその粒子を、立方体結晶にすることを考えた。高い結晶性を有する単結晶で、サイズが揃ったナノキューブを合成し導入したところ、リチウムイオンの移動が非常に短時間で起こることがわかった。チタン酸バリウムのナノキューブを添加した小型コインセルを使い、3分間の急速充放電試験を行ったところ、従来電池の4.3倍の電気容量が得られたという。

「本研究成果は、リチウムイオン電池の電極と電解液の間にナノキューブを添加剤として少量加えるだけで、電池の充放電速度を劇的に改善できるというものであり、工業的にもその価値は極めて高いものと考えます。究極的には数秒以内での超急速充放電を可能とするような次世代電池の実現に向けて、貢献しうる画期的な研究成果であると考えます」と研究グループは話している。

NIMSとソフトバンク、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級のリチウム空気電池を開発

NIMSとソフトバンク、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級のリチウム空気電池を開発

a:ALCA-SPRINGでの研究により開発したリチウム空気電池用独自材料。b:NIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発したセル作製技術。c:500Wh/kg級のリチウム空気電池の室温での充放電反応を本研究で初めて実験的に確認

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は12月15日、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度(Wh/kg)を大きく上回る500Wh/kg級のリチウム空気電池を開発し、室温での充放電反応を実現したことを発表した。また、サイクル数でも世界最高レベルであることがわかった。NIMSとソフトバンク、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級のリチウム空気電池を開発

リチウム空気電池は、理論上の重量エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の数倍という「究極の二次電池」であり、ドローンやEV、家庭用蓄電池などへの応用が期待されている。しかし現実には、セパレーターや電解液といった電池反応に直接関与しない材料が重量の多くの割合を占めるため、実際にエネルギー密度の高い電池の製作は困難だった。

そこでNIMSは、ソフトバンクと共同で、2018年に「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立し、リチウム空気電池の実用化を目指した研究を続けてきた結果、独自材料の開発に成功。この材料群をリチウム空気電池のセル作製技術に適用したところ、実際にエネルギー密度の高い電池を作ることができた。

今後は、リサイクル寿命の大幅な増加をはかり、リチウム空気電池の早期実現を目指すという。

使用済みリチウムイオン電池から99.99%の超高純度でリチウムを回収する装置を量子科学技術研究開発機構が開発

使用済みリチウムイオン電池から99.99%の超高純度でリチウムを回収する装置を量子科学技術研究開発機構が開発

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研)は12月7日、使用済みのリチウムイオン電池から99.99%という超高純度でリチウムを回収できる装置を開発したことを発表した。リチウムを100%輸入に頼っている日本において、国内資源循環への展望が拓かれる。

電気自動車(EV)の普及により世界中でリチウムの需要が急増し、今後、確保が難しくなることが予想される。2027年から2030年ごろまでに国内における需要に追いつけなくなるとの試算結果もある。現状ではリチウムのリサイクルがもっとも有力な対策となるが、既存技術では高コストとなり難しい。そこで、量研量子エネルギー部門六ヶ所研究所増殖機能材料開発グループの星野毅上席研究員らからなる研究グループは、新開発の高性能イオン伝導体を20枚積層してリチウムを回収する装置を作り、リチウム回収コストの評価を行った。

同機構の方式は、使用済みリチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)して得られたブラックパウダー(電池灰)を水に浸し、その水侵出液50リットルを原液として、表面にリチウム吸着処理を施した高性能イオン伝導体20枚を積層した装置でリチウムを回収するというもの。そこに加える電圧、溶液の温度、流速の最適条件を導き出し、さらにブラックパウダーの中のリチウムが溶け出せる限界まで水侵出液のリチウム濃度を高めて回収速度を向上させたところ、2020年度貿易統計によるリチウムの輸入平均価格(1kgあたり1287円)の半分以下にまで製造原価を下げることができた。

99.99%という超高純度でリチウムを回収できることに加え、水素が発生すること、そして二酸化炭素ガスの吹き込みで電池原料となる炭酸リチウムを生成できるという副産物があることもわかった。これらにより、環境負荷の低い技術としての可能性も示された。

この技術により、これまでコスト面から困難とされてきた車載用大型リチウムイオン電池の工業的リサイクルが可能となる。しかも、リチウムは核融合の燃料ともなるため、核融合の早期実現にも貢献する。さらに今回開発された技術は、そもそものリチウムの供給源である塩湖かん水からのリチウムの回収も可能にする。また、塩湖かん水よりリチウム濃度は下がるものの、海水からのリチウム回収も不可能ではない。同機構は、「海水からのリチウム回収技術確立、すなわち無尽蔵のリチウム資源の確保を目指して研究開発を進めてまいります」と話している。

フォルクスワーゲンがEV生産強化のために3社と新たな提携を締結

Volkswagen(フォルクスワーゲン)が、電気自動車のバッテリーに関わる3つの新しいパートナーシップを締結した。このドイツの自動車メーカーは、2040年までに乗用車、トラック、SUVの全車種をゼロエミッション(排ガスを一切出さない)車に移行させることを目指している。

現地時間12月8日に発表されたこの3つのパートナーシップの提携企業は、素材技術グループのUmicore(ユミコア)、バッテリースペシャリストの24M Technologies (24Mテクノロジーズ)、そしてドイツでリチウム採掘プロジェクトの開設を計画しているVulcan Energy Resources(バルカン・エナジー・リソーシズ)だ。

フォルクスワーゲンとユミコアは合弁会社を起ち上げ、フォルクスワーゲンがドイツのザルツギッターに設立するバッテリーセル工場に、リチウムイオン電池の重要な構成要素である正極材を供給する。この合弁会社の初期生産能力は20ギガワット時だが、2030年までに160ギガワット時にまで拡大することを目指している。

さらにフォルクスワーゲンは、半固体の電極を持つバッテリーを開発している24Mテクノロジーズに出資すると発表した。マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトしたこのバッテリー技術スタートアップ企業によれば、同社の半固体電池は、従来のリチウムイオン電池よりも製造工程を簡素化でき、コストも削減できるという。フォルクスワーゲンは出資額を明らかにしていない。

そしてバルカン・エナジー・リソーシズとのパートナーシップには、両社が「カーボンニュートラル」と表現するドイツ産リチウムの供給に関する拘束力のある契約が含まれている。

両社によると、このカーボンニュートラルなリチウムが得られるのは、バルカン社の塩水(塩湖かん水)からリチウムを採取する技術が、従来の塩湖かん水を蒸発させてリチウムを抽出する方法よりも環境に優しく、再生可能エネルギーを利用した工場で処理されるからだという。

バルカンは、2026年から5年間、フォルクスワーゲンに水酸化リチウムを供給する。

これら3つの提携は、フォルクスワーゲンが電気自動車に300億ユーロ(約3兆9000億円)を投資する計画の一環だ。欧州だけでも、同社は2030年までに6つの巨大バッテリー工場の建設を予定しており、それらすべてを合計した生産能力は、240ギガワット時になる見込みだという。

バッテリーのサプライチェーンを確保するために迅速に動いている大手自動車メーカーは、フォルクスワーゲンだけではない。General Motors(ゼネラルモーターズ)は2021年12月初め、韓国のPOSCO Chemical(ポスコケミカル)と同じように合弁会社を設立し、2024年までにバッテリーの正極材を製造する新工場を北米に建設すると発表した。一方、Stellantis(ステランティス)は11月、バルカンと独自のリチウム供給契約を締結している。

これらの提携は、自動車メーカーの電動化計画が加速していることを示すだけでなく、世界的なバッテリーサプライチェーンを中国から離れたところで再構築することに貢献するという点でも注目される。

Benchmark Mineral Intelligence(ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス)の調べによると、現在はバッテリーの正極材と負極材の大部分が中国で製造されているという。また、現在計画されている200の大規模バッテリー工場のうち、約75%にあたる148の工場が中国に建設される予定であることもわかっている。

画像クレジット:Jens Schlueter / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

数分の1のコストで何日分も電気を蓄えられるというForm Energyのバッテリー、秘密主義な同社CEOがその理由と歩みを語る

現在の数分の1のコストで何日分も電気を蓄えることができる充電池を開発していると語るForm Energy(フォーム・エナジー)は、2017年にひと握りの創業者によって設立されて以来、優良な支援者から3億6000万ドル(約410億9600億円)以上の資金を得ているにもかかわらず、秘密主義に走りすぎていると非難されてきた。

その創業者の1人であるForm EnergyのCEOであるMateo Jaramillo(マテオ・ジャラミロ)氏は、テスラのエネルギー貯蔵グループの創設を主導した人物だ。先に開催されたイベントでジャラミロ氏は、元TechCrunchの記者で現在はCNBCの特派員であるLora Kolodny(ローラ・コロドニー)に、同社が一種の社外秘を貫いてきた理由について話した。ジャラミロ氏はフォーム・エナジーの運営方法について説明した他、テスラでElon Musk(イーロン・マスク)の下で働いた7年以上の期間を振り返り、なかなか厳しい時間であったことを語った。

インタビューの全編は以下から視聴できる。以下は、そのインタビューからの抜粋となる。

なぜ今、再生可能エネルギーの波が押し寄せ、フォーム・エナジーは別としても多くの企業が注目され、投資資金を集めているのか。

現在、世界で最も安価に入手できる電力源は再生可能資源であり、つまり地域にもよりますが、太陽光や風力です。しかし最も安い電気料金を探しているのであれば、現在では再生可能エネルギーになるでしょう。もちろん、再生可能エネルギーは天候によって左右され、天候はある程度しか予測できず、しかも断続的に変化します。つまり完全に再生可能な脱炭素の送電網を実現するためには、関連するすべてのタイムスケールにおいて断続的なエネルギー源を蓄えることができなければならないのです。

そう、太陽は毎晩沈み、毎朝戻ってくるため、その間を繋がなくてはなりません。また、季節や長い期間の気象パターンに関連したギャップについても考える必要があります。再生可能エネルギーは過去15年から20年の間に非常に大きな進歩を遂げたため、現在の普及レベルでは、電力系統の最後の30%から40%について、再生可能エネルギーや発電機を使ってどのように信頼性とコストを提供するかを真剣に考えなければなりません。

画像クレジット:Dani Padgett

ジャラミロ氏は、フォーム・エナジーが採用している鉄空気の技術が、50年近く前に連邦政府機関によって調査されたが(一度も商業化されなかった)、突然エネルギー貯蔵の方法としての意味を持つようになった理由についても言及している。

まず、最も普及している技術は揚水発電です。現在、世界にあるエネルギー貯蔵技術の中では圧倒的に揚水発電が多いのです。ですがその上を行く技術は、もちろんリチウムイオンです。このイベントにいる全員が5つのリチウムイオン電池を持っていると思います。それだけリチウムイオン電池が普及しているということです。

しかし、再生可能エネルギーの普及が進むと、リチウムイオンの能力とは異なるものが必要になってきます。風力、水力、太陽光などの再生可能エネルギーを100%使用するだけでなく、数時間を超える電力供給の中断についても考えなくてはなりません。そのためには、リチウムイオンよりもはるかに安価である必要があります。

(一方)鉄は非常に豊富な金属物質です。地球上で最も多く採掘されている金属です。人間は鉄についてよく知っています。鉄をいじくり回して、鉄にちなんだ名前が付いた時代もありました。そして多くのことがわかりました。そして現在も、もちろん鉄鋼生産の主原料として使用しています。鉄はまた、非常に安価です。どの大陸にも豊富にあり、世界最大級の規模を誇る産業でもあります。そして、これは新しい化学ではないというのはその通りです。フォーム・エナジーは鉄空気を化学的に発明したわけではありません。私たちがやったことは、2つの国立研究所が最初に研究したともいえる化学物質を、50年先の未来に引っ張り出し、現代の技術と方法論、電気化学、腐食、金属工学に関する現代の知識を適用して、40~50年前に存在していた性能を今日において可能なところまで引き上げたのです。つまり、将来のリチウムイオンの10分の1のコストのデバイスに取り組んでいるのです。(つまり)深い脱炭素化、高度な再生可能性、安価で信頼性の高い電力網を実現することができるということです。

「鉄空気電池」とはどういう意味でしょうか。簡単に言えば、電気化学的に鉄を錆びさせ、錆びていない状態に戻すということです。それが私たちのやっていることです。非常に可逆的なプロセスですが、非常に優れたやり方で行わなくてはなりません。

さらにジャラミロ氏は、同社がシステムの効率性について秘密にしてきた理由についても言及した(「秘密にしてきたのだとしたら、それは私たちのやっていることが不必要に誇張されるのを避けようとしてきたからです」)。

彼は、技術がどのように機能するかについてより正確に話してくれた。現在、鉄鋼業界で年間1億トンもの大量生産が行われているブルーベリーサイズの「高純度の」鉄ペレットをフォーム・エナジーがどのように活用しているのかが気になる方は、10分前後の部分をご覧いただきたい。

さらにコロドニーは、テスラで学んだことのうち、フォーム・エナジーで再現しようとしていること、そして自動車メーカーでのキャリアから学んだことのうち、再現したくないことを尋ねた。

私はテスラに約7年半いました。2009年に入社して、2016年末に退社しました。テスラはレッスンの工場です。クルマを作っているともいえますが、実際にやっていることは人々にレッスンを提供することです。その弧の中にいるのはすばらしい場所でした。私が入社したときの社員数は数百人でしたが、私が退社するときには3万人、4万人といった規模になっていました。

私が退職したのは、当時、テスラのエネルギー事業であるPowerwall(パワーウォール)とPowerpack(パワーパック)をすでに立ち上げていたからです。私は結婚しています。妻と私の間には3人の子どもがいます。結婚生活を続けたいですし、子どもたちの人生の一部でありたいと思っています。イーロンと一緒に働いた7年半は、私にとっては十分でした。また、私は意図的にイーロンと良い関係のまま退社したいと思っていましたし、物事は良い方向に向かっていましたので、私にとってはそれで良かったのです。

画像クレジット:Dani Padgett

私は後悔なく退社しましたが、多くのことを学びました。それは一緒に仕事をする人たち、そしてその人たちの質ほど重要なものはないということです。彼らは、取り組んでいる仕事のミッションに対して、可能な限り情熱的にコミットしていなくてはなりません。

もう1つの教訓は、時には人をその人自身から守らなければならないということです。それは転倒する可能性があるからです。美徳も行き過ぎれば悪徳になります。だからこそ、会社にコミットし、ミッションに熱心に取り組んでいる人に求めることには限界があり、限界を置くべきということを認識することが大切です。フォーム・エナジーでは、現在約200名の社員が働いていますが、全員が非常に情熱的で、献身的で、使命感を持っているという文化を作り、かつ家庭などを維持できていることを願います。この2つは相反するものではありません。

画像クレジット:Dani Padgett

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

プジョーやフィアットを傘下に持つStellantisがEV電池材料確保のためリチウム供給契約を締結

Fiat Chrysler Automobiles(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)とフランスの自動車メーカーGroupe PSA(グループPSA)が折半出資で合併して誕生したグローバル企業Stellantis(ステランティス)は、リチウム生産者と拘束力のある契約を締結した。今回の合意は、EVの需要が高まる中、自動車メーカーとサプライヤーの間で相次ぎ行われている取引の1つだ。

Vulcan Energy Resourcesは、ドイツのアッパーラインヴァレー(上部ライン渓谷)にあるブラインプロジェクトからバッテリーグレードの水酸化リチウムを生産する。一般的に、リチウムは岩石を採掘して生産されるか、塩水鉱床から抽出される。どちらも環境面で問題があるが、Vulcanのサイトでは、再生可能な地熱エネルギーを利用してリチウムを抽出する。

また、このプロジェクトでは、使用済みのブラインを閉ループサイクルで再注入するため、生産滓のような残留物は発生しない。ドイツのプロジェクトは、南米などで行われている他のブラインプロジェクトに比べ水や土地の使用量が少ないため、二酸化炭素排出量が少なく、運用コストも低く抑えられる可能性があると、ドイツ・オーストラリアを拠点とする同社はウェブサイトで述べている。

この5年間の供給契約に基づき、Vulcanは2026年からドイツで抽出したリチウムをStellantisに送ることになる。契約期間中、Vulcanは8万1千トンから9万9千トンの水酸化リチウムを自動車メーカーに供給する。両社はこの取引の財務条件を明らかにしていないが、抽出サイトでの商業運転の開始と製品の適格性の両方を条件としている。

今回の契約は、Stellantisが7月に発表した、今後4年間で300億ユーロ(355億ドル、約3兆8480億円)をEVと新しいソフトウェアに充てる徹底的な電動化戦略の一環だ。同社は2025年までに130GWh、2030年までに北米と欧州の5つの工場で約260GWhのバッテリーを製造することを目標としている。

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これは、世界の自動車メーカー各社が、EVバッテリーの主要鉱物であるリチウムのような有限の原材料を確保しようとしていることを示す最新の兆候だ。General Motors(GM、ゼネラルモーターズ)はカリフォルニア州のリチウム抽出プロジェクトに同様の投資を行っており、Tesla(テスラ)はニッケルなどの鉱物について独自の供給契約を結んでいる

一方、Renault(ルノー)は先週、欧州産リチウムを最大3万2千トン供給する契約をVulcanと締結した。

画像クレジット:Stellantis

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Aya Nakazato)

中国が独占するEV用電池の鉄系正極材料製造を目指すMitra Chem

Mitra Chem(ミトラ・ケム)の名称で知られるMitra Future Technologies(ミトラ・フューチャー・テクノロジーズ)は、億万長者の投資家Chamath Palihapitiya(チャマス・パリハピティヤ)氏が創立したSocial Capital Holdings(ソーシャル・キャピタル・ホールディングス)が主導する2000万ドル(約23億円)のシリーズA資金調達を実施した。このスタートアップ企業は、中国以外向けの鉄系正極材料を製造することで、現在、中国が独占している北米のバッテリーサプライチェーン業界を活性化することを目指している。

今回のラウンドには、台湾の億万長者Richard Tsai(リチャード・ツァイ)氏、Fontinalis Partners(フォンティナリス・パートナーズ)、Integrated Energy Materials(インテグレーテッド・エナジー・マテリアルズ)、Earthshot Ventures(アースショット・ベンチャーズ)も参加した。また、かつてTesla(テスラ)でグローバル・サプライ・マネジメントを担当しており、現在はロケット打ち上げ企業のAstra(アストラ)でサプライチェーン担当VPを務めるWill Drewer(ウィル・ドリューリー)氏が、パリハピティヤ氏とともにこのスタートアップの取締役会に加わることになった。

鉄系電池は、特に中国の企業が独占的に製造できる特許を取得していたため、もっぱら中国で主流になっており、欧米ではニッケル系電池が普及していた。しかし、これらの特許が間もなく切れることから、鉄系電池は自動車メーカーにとってますます人気の高い選択肢となりつつある。Tesla(テスラ)は最近、安価な鉄系電池を、全世界向けのModel 3(モデル3)とModel Y(モデルY)に標準搭載することを認めた

自動車メーカーで鉄系電池の採用が進む一方で、問題となっているのが中国の優位性だ。「これは大きなアキレス腱です」と、Mitra Chemの共同設立者兼CEOであるVivas Kumar(ヴィヴァス・クマール)氏は、最近のTechCrunchによるインタビューで語っている。

このサプライチェーンにおけるギャップを埋めるために、同社は中国以外のバッテリーに適用できる鉄系正極材料の製造を計画している。テスラでバッテリーサプライチェーン担当チームに所属していたクマール氏によると、鉄系材料を採用するという決定は、単に地政学的な問題のみならず、特に自動車メーカーが、消費者の幅広いニーズを満たすために、さまざまなモデルのEVを発売することによって、EV用バッテリーに対する市場の需要が高まっていることに応じるためだという。

「バッテリーが自動車に使われている部品の中で最大のものであり、電気自動車の性能を決定する部分でもあることを考えれば、用途別の差別化が必要になるのは時間の問題でした。現在、市場で使用されている単一サイズですべてに合わせる正極材料のソリューションだけでは対応できなくなります」と、クマール氏はいう。

特に、General Motors(ゼネラルモーターズ)やFord(フォード)を含む北米の自動車メーカーが、電池メーカーと提携して電池セル工場を米国内に構えることを次々と発表する中で、米国に垂直的なサプライチェーンのハブを作ることは、ビジネス的にも意味のあることだと同氏は付け加えた。

Mitra Chemは現在、カリフォルニア州マウンテンビューに研究施設を建設中で、2022年半ばまでにプレパイロット生産が可能になる予定だ。同社は共同創業者でスタンフォード大学の材料科学教授であるWill Chueh(ウィル・チュエ)氏が先駆けて開発した機械学習プロセスを採用し、この鉄系正極材料を研究所から生産規模まで、他社よりも早く実現すると述べている。

業界情報会社のBenchmark Mineral Intelligence(ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス)によると、原材料の精製から必須部品の製造、最終的なリチウムイオン電池セルの生産に至るまで、中国はサプライチェーンのすべての段階において、電池業界最大のプレイヤーであるという。

ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスが「リチウムイオン電池の中核を成す部品」と呼ぶ正極や負極などの部品の生産量は、世界の約66%を中国が占めている。また、中国は大規模な電池工場の計画数も最も多く、2030年までに計画されている200施設のうち148施設が中国にあることが、同社の調べで分かった。

クマール氏は、現在の電池サプライチェーンの状況を、歴史的な米国の石油に関する立場に例えながら次のように述べている。

「75年間、米国は石油の純輸入国であり、そのエネルギー面における不利益は、米国の消費者や、時には敵対する他国との関係にも大きな影響を与えてきたことを忘れてはなりません」と、同氏は語る。「今も同じことが起きています。(中略)北米にサプライチェーンのようなものがなく、100%外部に無防備な状態であるということは、過去に石油に関して無防備な状態であったのと同じことになります」。

画像クレジット:ChargePoint

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

東北大学が擬似固体リチウムイオン電池の光造形3Dプリント製造技術を開発、室温・短時間でオンデマンド製造

東北大学が擬似固体リチウムイオン電池の光造形3Dプリント製造技術を開発、様々な基板上に室温・短時間でオンデマンド製造

東北大学は11月11日、インク化した正極、電解質、負極を光造形方式3Dプリンターで成型して固体リチウムイオン電池を製造する方法を開発した。燃えにくい擬似固体電解質膜を室温で、数分間で作れるため、車載用から体内埋め込み用まで、応用の幅が大きく広がる。

東北大学多元物質科学研究所の小林弘明助教と本間格教授らの研究グループが開発した方法は、擬似固体電解質材料となるリチウムイオン伝導性イオン液体と酸化物ナノ粒子の比率を調整し、ゲル状にしたものを紫外線効果樹脂に混ぜ、光造形3Dプリントで成型するというもの。これにより、室温でごく短時間で製造可能な、難燃性の電解質膜が生成できる。正極はコバルト酸リチウム、負極はチタン酸リチウムをそれぞれインク化してプリントする。

室温でプリントできることから、ポリマーなどの熱に弱い基板上にも直接プリントできるため、ウェアラブルデバイスへの応用も可能となる。また3Dプリントで製造できるため、医療用インプラント機器、生体適合性マイクロ電池のような小さなものから、車載用電池や設置型の電源などの大型のものまでオンデマンドで対応できる。

今後は、素材のインク化技術を活かして、マグネシウム蓄電池などの次世代、次々世代の二次電池への応用も期待されるとのことだ。

PETボトルを常温で分解し原料を高純度で回収する方式を産総研が開発、原料化温度を従来の200度以上から常温まで低下

産業技術総合研究所(産総研)は11月8日、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂を常温で効率的に分解し、再利用を可能にする技術の開発を発表した。環境負荷やエネルギーコストが大幅に削減され、ペットボトルから新しい高品質なペットボトルを再生産する道が拓かれる。

PETボトルの再生方法には、熱で溶かして再成形する「マテリアルリサイクル」と、化学的に低分子化合物に分解して新たに製品化する「ケミカルリサイクル」とがある。マテリアルリサイクルは、回収されたPETボトルを分別して熱で溶解するが、不純物が混じり込むことが多く、溶解前の製品と同品質にすることが難しい。また、ケミカルリサイクルでは、一般に大量の薬剤や高温処理が必要であったため、コストも高く環境負荷も大きい。

PETボトルからまたPETボトルを作る「ボトルtoボトル」を実現するには、高純度な原料を高効率で回収できなければならない。それが可能なのはケミカルリサイクルだ。ケミカルリサイクルでは、PET樹脂はテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとに分解される。しかし、この2つの原料は分解時と同じ条件で再び結合してPET樹脂に戻ってしまう。そのため、この2つを反応させないための工夫が必要となる。その反応を止めるには、大量の反応剤を投入する方法と、200度という高熱をかけてエチレングリコールを取り除く方法とがあるが、どちらも非効率だ。

今回、産総研が開発した方式はケミカルリサイクルだが、大量の薬剤も高温処理も必要としない。市販の飲料用PETボトルをフレーク状に粉砕した試料に、メタノール、炭酸ジメチル、アルカリ触媒であるリチウムメトキシドを適切な比率で混合し3時間ほど室温に置くことで90%以上が分解できるというものだ。反応温度を50度にすると、すべてのPETが分解した。この方法では、テレフタル酸ジメチルは簡単な精製によって99%以上が分離できる。また、エチレングリコールは炭酸ジメチルに捕捉され、高い割合で回収ができる。PETボトルを常温で分解し原料を高純度で回収する方式を産総研が開発、原料化温度を従来の200度以上から常温まで低下

分離したテレフタル酸ジメチルはPET樹脂に加工でき、テレフタル酸ジメチルはリチウムイオン電池の電解液などに再利用できる。リチウムメトキシドは反応後は不溶物として沈殿するため、簡単に分離、回収ができる。

今後は、このリサイクル方法の社会実装を目指し、触媒の改良、反応のスケールアップ、PET含有製品への適用可能性を検討するとしている。

GMがより低コストで航続距離の長いEV用バッテリーの開発施設を建設中

General Motors(ゼネラルモーターズ)は、ミシガン州ウォーレンのキャンパスに新しい施設を建設している。その目的は、バッテリーのコストを削減しながら航続距離を伸ばす画期的なセル技術を開発することだ。

GMは米国時間10月5日、このWallace Battery Cell Innovation Center(ウォレス・バッテリー・セル・イノベーション・センター)と呼ばれる施設の建設が始まったことを発表した。同社のグローバル・テクニカル・センターの敷地内に建設中のこの新施設は、2022年の半ばに完成する予定だ。敷地面積は約30万平方フィート(約2万7900平方メートル)だが、必要に応じて当初の面積の少なくとも3倍に拡張することを計画しているという。GMはこの施設に「数億ドル(数百億円)」を投資していると述べるだけで、建設費用については明らかにしなかった。

この施設の名前は、2018年に亡くなったGMの取締役で、同社のバッテリー技術に貢献したBill Wallace(ビル・ウォレス)氏から付けられた。同氏は、Chevrolet(シボレー)ブランドから発売されたプラグインハイブリッド車の「Volt(ヴォルト)」の初代および二代目モデル「Malibu Hybrid(マリブ・ハイブリッド)」、そして電気自動車「Bolt EV(ボルトEV)」のバッテリー・システムを開発したチームを率いていた。ウォレス氏はまた、GMとLG Chem(LG化学)R&D(現在のLG Energy Solution)の関係を築いた人物でもある。

すでにGMは、より安価でエネルギー密度の高いバッテリーの開発に取り組んでいるラボや研究開発施設を持っている。この新しいセンターは、同社の化学・材料サブシステム研究開発ラボやバッテリーシステムラボで行われているさまざまな取り組みをすべて結びつける役目を担う。

GMがこの新設で目指しているのは、1リットルあたり最大1200ワット時のエネルギー密度を持ち、コストを少なくとも60%削減したバッテリーを開発することだ。この目標は野心的であり、高尚だともいえるだろう。そしてこれはGMにとって、ラインナップの全車または大部分を電気自動車に切り替えるという計画を発表している他のすべての自動車メーカーと競争するための、重要なステップであるとも考えられる。

現時点において、GMのEVへの転換戦略の基盤となっているのは、Ultium(ウルティウム)プラットフォームとUltiumリチウムイオン電池だ。2020年に公開されたこの新しい電動車アーキテクチャとバッテリーシステムは、コンパクトカー、商用ピックアップトラック、大型高級SUV、パフォーマンスカーなど、GMのさまざまなブランドで幅広い製品に使われる予定だ。

GMは、このUltiumのバッテリーセルを製造するLGエナジーソリューションズとの合弁会社に、50億ドル(約5570億円)を投資する計画を発表している。両社は、オハイオ州北東部のローズタウン地区にバッテーセルの組立工場を設立し、1100人以上の新規雇用を創出するとともに、テネシー州スプリングヒルにも第二の工場の建設を予定している。

Ultiumバッテリーは、レアアースであるコバルトの使用量を減らし、単一の共通セル設計を採用することで、GMの現行バッテリーよりも小さなスペースで高いエネルギー密度を効率的に構成することができると、同社では述べている。

GMのグローバル製品開発・購買・サプライチェーン担当取締役副社長のDoug Parks(ダグ・パークス)氏によると、新設されるウォレスセンターは、将来的により手頃な価格で航続距離が長いEVの基礎となるバッテリーを製造するというGMの計画の重要な部分を占めることになるという。このような画期的な技術は、間もなく市場に投入されるUltiumバッテリーの世代にはまだ見られない。

ウォレスセンターでは、リチウム金属電池、シリコン電池、固体電池など、新技術の開発を加速させることが期待されている。また、このセンターでは、GMがLGと合弁で運営するローズタウンとスプリングヒルの工場をはじめ、米国内ある非公開の拠点を含むGMのバッテリーセル製造工場で用いることができる生産方法の改善にも力を入れていくという。

さらに特筆すべきは、この新施設では、一般的に携帯機器や研究用に使われる小型のリチウム金属電池セルを超えた、自動車に使用できる大型リチウム金属電池セルのプロトタイプを製造できる能力を持つようになるということだ。これらのセルはGM独自の方式で作られ、初期のUltiumバッテリーで使われるパウチセルの約2倍に相当する1000mm程度の大きさになる可能性があるという。

画像クレジット:GM

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

東北大学がコバルトを使わないリチウムイオン電池の高電圧動作を実証

東北大学がコバルトを使わないリチウムイオン電池の高電圧動作を実証東北大学多元物質科学研究所は、9月27日、コバルトを使わないリチウムイオン電池の正極「LiNi0.5Mn1.5O4」(リチウムニッケルマンガン酸化物:LNMO)の高電圧動作に成功したことを発表した。政治的にもリスクの高いコバルトのサプライチェーンの回避や、5ボルト級リチウムイオン電池、全固体電池の高エネルギー密度化などが期待される。

リチウムイオン電池の電極にはコバルトが使われている。しかし、世界のコバルト鉱石生産量のうち半分以上を、政情不安定なコンゴ民主共和国1国が占めている。また、コバルト冶金の生産は世界の6割以上を中国が占めている。そのため、将来EVの生産量が急増したり、国際情勢が変化したときなどに、コバルトの供給が不安定になる危険性がある。

そこで、東北大学多元物質科学研究所の小林弘明助教、本間格教授らは、コバルトを含まないコバルトフリー正極の技術開発を進めてきた。これまで、スピネル型結晶構造のLNMOが高電圧、高エネルギー密度の正極活物質として期待されていたが、従来のリチウムイオン電池の動作電圧が3.7ボルトなのに対してLNMOは4.7ボルトと高く、そのため電解液の分解などにより充放電サイクルが困難になるという問題があった。そこで小林助教らは、耐電圧性の高いフッ化物固体電解質Li3AlF6を開発し、これを薄膜コーティングしてコアシェル構造正極を作ることで、安定した高電圧動作を実証した。

コーティングしていない正極は、高電圧動作で生じた電解液の分解物が堆積して電気抵抗が増加し劣化したが、コーティングしたものは電解液の分解が抑えられ、高いサイクル特性が示されたという。

これは、5ボルト級のリチウムイオン電池、コバルトフリー正極材料、全固体電池といった「ポストリチウムイオン電池」への応用が期待される。さらに、フッ化物固体電解質のリチウムイオン伝導度を高めることで、「車載電池の本命である全固体電池の高エネルギー密度化」も期待できるとのことだ。

フォードとSKが1.27兆円をかけEVとバッテリーに特化した2つの製造キャンパスを米国に建設

Ford Motor Company(フォード・モーター)とバッテリー製造メーカーのSK Innovation(SKイノベーション)は、114億ドル(約1兆2680億円)をかけてテネシー州とケンタッキー州に巨大工場キャンパスを建設し、バッテリーおよび次世代電動トラックのF-Seriesを製造する。このプロジェクトは1万1000人分の新たな雇用を生む、と両社は述べている。

2つのキャンパスに入る施設は、バッテリーセルの製造とサプライヤーパークへのリサイクルから組み立て工場まで、電気自動車を作るエコシステム全体を網羅するようにデザインされている。Fordは同プロジェクトに70億ドル(約7790億円)を投資しており、同社118年の歴史の中で、単独の製造プロジェクトにおける最大の金額だ。この投資は、Fordが以前発表した2025年までに電動自動車に300億ドル(約3340億円)を投入する計画の一環だ。

同社はさらに今後5年にわたりテキサス州を皮切りに全米でハイテクジョブトレーニングを行うために5億2500万ドル(約580億円)を費やす予定であることも話した。この投資はFordが今後次々と発売する電動およびつながる自動車をサポートする技術者の要請に特化している。

Fordの「メガキャンパス」計画(同社にとって世代で最初の施設)は、Mustang Mach-E(ムスタング・マッハE)、Ford E-Transit cargo van(Eトランシット・カーゴバン)やすでに15万台の予約注文が入っているF-150 Lightning pickup truck(F-150ライトニング・ピックアップ・トラック)など増え続けるEV製品群をサポートすることが目的だ。また、バッテリーのコストを1キロワット時当たり80ドル(約8900円)レベルまで下げる同社の戦略の一部でもある。

「これらの投資のタイミングは非常に重要です。なぜならバッテリー電気自動車への本格的転換はすごそこまで来ているからです」とFordの北米最高執行責任者、Lisa Drake(リサ・ドレイク)氏が米国時間9月27日のメディア会見で語った。「すでにその証拠は業界内に見られますし、今回当社自身の製品発表でも明らかになりました」。

そしてFordはEVの需要に関して強気だ。同社は2030年までにフルサイズピックアップ部門の3分の1が完全電動化すると予測している、とドレーク氏は言った。

画像クレジット:Ford

この日の発表は、Fordの来たるべきF-150 Lightningの生産能力を拡張して年間8万台の全電動トラックを製造するために2億5000万ドル(約280億円)を投入し、450人分の新たな雇用を創成する計画をはじめとする一連の投資計画に続くものだ。新たな資金と雇用はミシガン州、ディアボーンのRouge Electric Vehicle Center(ルージュ電気自動車センター)、Van Dyke Electric Powertrain Center(バンダイク電動パワートレインセンター)、およびRawsonville Components Plant(ローソンビル部品工場)の3カ所に振り分けられるとFordはいう。

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フォードがEV普及に向け、バッテリー原料リサイクル企業のRedwood Materialsと提携

今回の発表は、FordがRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)との提携によって、製造スクラップと終末を迎えたEVのリサイクル、およびバッテリーの原材料を供給するクローズドループシステムを作る計画を発表してから1週間も経っていない。バッテリーやそれを作るための部品の供給を確保することの重要性は、自動車業界にバッテリーセル製造メーカーとの提携を促し、Redwood Materialsのような会社への注目が益々高まっている。

ドレイク氏は提携の詳細として、Redwood Materialsがテネシー州メンフィス近くのいわゆるBlue Oval City(ブルー・オーバル・シティ)キャンパスにリサイクル施設を構える予定であることを付け加えた。

テネシーキャンパス

テネシー州スタントンの56億ドル(約6230億円)をかけるキャンパスは、完成すると面積、人口ともに小さな村に匹敵する。3600エーカー(1457万平方メートル)のキャンパスはクローズドループ製造センターとして作られる。つまり、製造に使用された材料が新しいEVを作るために再利用できるという意味だ。

キャンパスには、SKと提携して運用されるバッテリー製造施設、サプライヤーパーク、および電動Fシリーズトラックに特化した組立工場が作られる予定だ。バッテリー製造施設は43ギガワット時のセル容量を生産する能力をもつ。組立工場は2025年の製造開始時点からカーボンニュートラルになるように設計されている、とFordはいう。

ケンタッキーキャンパス

Fordは、ケンタッキー州中央部グレンデールに位置する同キャンパスに、双子のバッテリー工場を建設する。そこで製造されたバッテリーは、2020年代後半にFordおよびLincoln(リンカーン)の新しい電気自動車製品ラインで使用される。リチウムイオンバッテリーの製造は2025年に開始する予定だ。

この1500エーカー(607万平方メートル)のバッテリーキャンパスを、FordはBlueOvalSK Battery Park(ブルーオーバルSK・バッテリー・パーク)と呼び、約58億ドル(約6450億円)の費用をかけ、5000人を雇用する。双子のバッテリー工場はそれぞれ最大43ギガワット時、合わせて年間86ギガワット時の生産能力がある。テネシー州の第3のバッテリーセル工場を加えて、総容量は最大129ギガワット時になる、とSKの執行副社長兼マーケティング全世界責任者のYoosuk Kim(ユースク・キム)氏は説明した。

全体では100万台の電気自動車を駆動するのに十分な容量だとドレイク氏は言った。

以前Fordは、同社のバッテリー電気自動車の世界計画のためには2030年までに240ギガワット時のバッテリーセル容量が必要だという。これはおよそ工場10カ所分の容量だ。また同社は、北米には140ギガワット時が必要であり、残りをヨーロッパ、中国など他の地域に割り当てるとも語っていた。

画像クレジット:Ford

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nob Takahashi / facebook

フォードがEV普及に向け、バッテリー原料リサイクル企業のRedwood Materialsと提携

Ford Motor(フォード・モーター)は、バッテリー原料リサイクル企業のRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)と提携し、今後大量に投入される電気自動車のためのクローズドループ・システムを構築することにした。この提携では、生産過程で発生する廃棄物や寿命を終えた電気自動車のリサイクルに加え、フォードの電気自動車に使用されるバッテリーの原材料の供給も行うことになる。

2020年発売された「Mustang Mach E(マスタング マックE)」や、間もなく発売されるピックアップトラック「F-150 Lightning(F-150ライトニング)」をはじめ、フォードがそのラインナップに電気自動車を増やしていく中で、今回の提携は結ばれたものだ。電気自動車用のバッテリーやその原料を確保するために、自動車業界は電池メーカーとの提携を進めており、レッドウッド・マテリアルズのような企業に目を向けている。

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フォードだけでも膨大な量のバッテリー供給が必要になる。同社が2030年までに全世界で投入を計画している電気自動車は、合計で少なくとも240ギガワット時以上のバッテリー容量を必要とするという。これはおおよそ工場10カ所分の容量に相当する。フォードは以前、北米だけで140ギガワット時が必要になり、残りは欧州や中国を含む他の地域に割り当てられる分だと述べていた。

フォードの北米地域担当最高執行責任者を務めるLisa Drake(リサ・ドレイク)氏は「寿命を終えた我々の製品においてクローズドループを構築し、その資源をサプライチェーンに再投入することが可能になれば、コスト削減につながります」と、プレス説明会の中で語った。「当然ながら、バッテリーを製造する際に現在使用している多くの原料の輸入依存度を下げることにもつながります。そして、それによって原材料の採掘も減らすことができます。これは今後、私たちがこの分野の規模を拡大していく上で、非常に重要なことです」。

これらすべてが、EVをより安価に、より持続可能なものにすると、ドレイク氏はいう。

レッドウッド・マテリアルズは、バッテリーセルの製造過程で発生する廃棄物や、携帯電話のバッテリー、ノートパソコン、電動工具、モバイルバッテリー、スクーター、電動自転車などの家電製品をリサイクルしている企業だ。Tesla(テスラ)の元CTOであるJB Straubel,(JB・ストラウベル)氏が設立し、率いているこの会社は、ニッケル、コバルト、リチウム、銅などの元素を平均して95%以上回収できるという。

レッドウッドは、これらの廃棄物を処理して、通常は採掘で得られるコバルト、ニッケル、リチウムなどの素材を抽出し、それらを顧客に供給する。現在、その顧客の中には、テスラと共同でネバダ州のGigafactory(ギガファクトリー)を運営しているPanasonic(パナソニック)や、テネシー州にあるEnvision AESC(エンビジョンAESC)のバッテリー工場などが含まれる。レッドウッドはAmazon(アマゾン)とも提携しており、電気自動車などのリチウムイオン電池や事業所から出る電気電子機器廃棄物をリサイクルしている。レッドウッドが初めてパートナーシップを組んだ自動車業界の企業は、2021年3月に提携した電気商用車メーカーのProterra(プロテラ)だった

関連記事:リサイクルのRedwood MaterialsがProterraと提携しEV用バッテリーの原材料を持続可能なかたちで供給

「事前に計画を立て、生産能力や適切な地域で適切な時期に生産することを戦略的に考えないと、現在の世界的な半導体不足に少々似た状況に陥るリスクがあります」と、ストラウベル氏はプレス説明会で語った。

米国時間9月22日に発表されたこのパートナーシップでは、レッドウッド・マテリアルズはまず、フォードと協力して、同自動車会社のバッテリー生産ネットワーク内でリサイクルを設定し、回収された原材料をメーカーに戻してバッテリーに使用する。フォードは具体的な内容を明らかにしていないが、それはおそらく、バッテリーセルのサプライヤーであるSKとの協力を意味していると思われる。

フォードとSKは2021年5月、BlueOvalSK(ブルーオーバルSK)という合弁会社を設立し、2020年代中期から年間約60ギガワット時の駆動用バッテリーセルとアレイモジュールを生産することで合意した。

関連記事:フォードと韓国SK Innovationが米国でのEVバッテリー量産に向け合弁会社BlueOvalSKを発表

レッドウッド・マテリアルズとフォードのパートナーシップの最終的な目標は、製造廃棄物のリサイクルとフォードへの原料供給から、寿命を終えた車両のリサイクルオプションの構築まで、バッテリーのライフサイクル全体に関わることだ。この最後の部分が複雑になるのは、これらのEVがフォードの所有ではなくなるからだ。多くのEVは、廃車になるまでに複数の所有者を経ることになる。

今回の提携が発表される数カ月前に、レッドウッド・マテリアルズは7億7500万ドル(約858億円)以上の資金を調達しているが、その中にはフォードからの5000万ドル(約55億円)が含まれていることが後に明らかになった(同社は当初「7億ドル以上の資金を調達した」と発表していた)。

また、9月に入ってから同社は、事業をバッテリーのリサイクルだけでなく、重要なバッテリー材料の生産にも拡大する計画を明らかにし、そのために米国に100万平方フィートの新工場を建設するとしている。同社はリチウムイオン電池の構成材料となる正極活物質と負極用銅箔を生産したいと考えている。

現在、同社が建設地を探しているこの工場は、おそらく正極材の生産に特化することになるだろう。レッドウッドは、この工場の正極材生産能力を、2025年までに電気自動車100万台分に相当する100ギガワット時まで引き上げるつもりであるという。

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画像クレジット:Ford

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)