XRPエコシステム構築に向けて動き出したリップル

ついにこの時が来た。これまでの銀行・送金サービスへのフォーカスから一転し、リップルがそれ以外の分野へも自社の仮想通貨XRPを活用しようとしているのだ。

仮想通貨の代名詞とも言えるビットコイン、そして開発者から多大な支持を得ているイーサリアムに続き、XRPは世界第三位の仮想通貨だ。Coinmarketcap.comの情報によれば、その時価総額は5/14時点で287億ドルにのぼる。その一方で、これまでに発表されたいくつかのパイロットプロジェクトを除くと、XRPは実世界ではほとんど利用されていない。

しかしそれもすぐに変わるかもしれない。リップルはこの度、新たなイニシアティブ「Xpring(読みは『スプリング』)」を発表した。このイニシアティブの目的は、起業家や彼らのビジネスをXRP(仮想通貨とXRPレジャー)に誘致し、新たなエコシステムを構築すること。リップル自体は引き続き金融ビジネスにフォーカスしながら、投資や補助金、インキュベーションといった手段を使って企業を誘い込み、XRPの普及を図ろうとしているのだ。

同社は自分たちがXRPをコントロールしていないと言い張っている(同社はXRPの総発行量の60%を保有しているため、この点については熱い議論が交わされている)が、どうやら同通貨の発展には常に関心を持っているようだ。そして直近6ヶ月の様子を眺めても、XRPのユースケースの多様化が大きな課題であることは明らかだ。

昨年末から年初にかけて仮想通貨が高騰した際、2万ドル近い最高値を記録したビットコインと共にXRPの価格も急上昇し、ピーク時の時価総額は1280億ドル以上に達したものの、1月後半には価格を大きく戻した。さらに、XRPはこれまで銀行のためのツールと謳われていたが、実際には海外送金サービス目的の顧客しか獲得できておらず、実用性の観点からも避難を浴びていた。

リップルを越えて

そこでリップルは、これまでFacebookでディベロッパー・ネットワークのディレクターを務め、投資会社グレイロック・パートナーズの客員起業家(EIR)でもあったEthan Beardを社内に迎え、今後は彼がXpring、ひいてはリップルの開発者向けプログラムを率いていくことが決まった。

「イニシアティブのゴールは、XRPレジャーとシナジーがあると思われるビジネスをサポートすること」とリップルのビジネス・オペレーション部門のSVPを務めるEric van Mittenburgは語る。「”サポート”にはさまざまな形があり得る。投資、インキュベーション、さらには買収や補助金という可能性さえある。支援先は、リップルのレジャーとXRPを使って、真の意味で顧客の課題を解決できるような実績のある起業家に絞っていく」

さらにvan Mittenburgは、すでに「何年にも渡って」複数の起業家や企業からXRPを使ってビジネスをしたいという誘いを受けてきたが、リップルは金融サービスに特化しているため、具体的な話が出たことはなかったと語った。

また彼は「これまでの活動から勝機を感じており、今が攻め時だと判断した。直近の4〜6か月の間に(Xpringのアイディアが)かなり具体化した」と付け加えた。

2010年のLeWebに登壇したEthan Beard(写真:Adam Tinworth/Flickr

今年に入ってからのリップルの動向を追っていた人にとっては、今回のニュースはそこまで驚きではなかっただろう。

仮想通貨企業の多くが自分たちでファンドを立ち上げる(ファンドではなく企業として資金を調達するか、Ethereum Community Fundのように業界中から広く資金を募るかは別として)なか、リップルは密かに投資に力を入れていたのだ。

まず今年1月、2人のリップル幹部がベイエリアのOmniという企業への2500万ドルの投資に参加し、その後3月にはリップルCEOのBrad Garlinghouseが弊誌の取材に対し、リップルは現在の軸を保ったまま「もちろんXRPをさまざまな方法で活用しようとしている企業ともパートナーシップを結んでいく」だろうと語っていた。

すべてはXpringに絡んだ動きだったのだ。

ジャスティン・ビーバーも参画?

van MittenburgとBeardは、XRPとシナジーがありそうな分野として、トレードファイナンス、ゲーム、バーチャルグッズ、個人情報、不動産、メディア、マイクロペイメントを挙げる。

筆者がリップルはXRPの280億ドルという時価総額を正当化する理由を探しているだけではないのかと尋ねたところ、van Mittenburgは他の仮想通貨に比べればXRPの投機性はかなり低いと答えた。

「すでにXRPのユースケースは存在する。稼働中のブロックチェーンを運営する企業のなかでも、リップルは数少ないエンタープライズ向けのソリューションを提供している1社だ。さらにXRPとXRPレジャーはきっと他の企業にとっても有益なテクノロジーになるはずだと感じている」(van Mittenburg)

また彼は、「XRP以外のブロックチェーンを採用したものの満足していない」プロジェクトもリップルに関心を寄せており、Xpringを活用して”移住先”を探すプロジェクトの取り込みに注力することもできるだろうと付け加えた。ただし、ICO投資やトークンの購入、XRPブロックチェーン上でのICOの開催は考えていないという。

XRPを「近いうちに」マーケットプレイスに追加する予定のOmni以外にも、すでにXpringの支援先として目をつけている企業はいくつかある。ジャスティン・ビーバーのマネージャーとして有名なScooter Braunは、「XRPを使ってアーティストのマネタイズやコンテンツ管理を支援できるような方法を模索している」。

Braunが具体的にどんなアイディアに取り組んでいるのか(ブロックチェーンを使った著作権管理システムやストリーミングサービスの開発に取り組むプロジェクトはすでにいくつも存在する)までは、van MiltenburgとBeardは明言しなかったが、ふたりによれば少なくともBraunは安易に他者のまねをするような人物ではないとのことだ。

Braun自身は「エンターテイメント業界の中ではかなり早い段階でブロックチェーンと触れ合っており、今後に期待している」と定型的な返答をするに留まった。

「今後もXRPのユースケースを拡大していく予定なので、まだこれは始まりに過ぎない」(Braun)

Braunの他にも、現在はリップルのCTOながらも新企業Coilを設立し、マイクロペイメントサービスの立ち上げに取り組んでいるStefan Thomas(近いうちにCTOの座からは退く予定)とのパートナーシップが報じられている。また、XpringはベンチャーキャピタルのBlockchain Capitalに出資しているほか、TechCrunchのファウンダーMichael Arringtonは、最近立ち上げたファンドの資金をすべてXRPで調達した

リップルCEOのBrad Garlinghouseは以前からXRPを活用する企業とのパートナーシップについて語っていた(写真:Christopher Michel/Flickr

エコシステムの構築

ただし、Xpringが今後どのような動きをとるかについては未だハッキリと決まっていないようだ。

Beardは、Facebookのタイムラインやソーシャルグラフの力でSpotify、ZyngaそしてBuzzFeedといったスタートアップが主要テック企業へと進化していったように、次のイノベーションの波はブロックチェーン業界から起きると言う。さらに彼は、XpringとXRPは「新しいビジネスを立ち上げ、業界構造を変える」力を秘めていると考えているようだ。

van Mittenburgは具体的なゴールにはコミットしなかった。

「私たちが目指すのは、XRPレジャーとデジタルアセットのポテンシャルを最大限引き出すこと。リップルを含むさまざまな企業にとってメリットのある、健全で強力なXRPエコシステムを構築していきたい」(van Mittenburg)

提携企業へのインセンティブとして、リップルが提携先にXRPを配布していることはよく知られているが、Braunのような著名なパートナーにどのくらいのインセンティブを供与しているかや、Xpring全体の予算といった数字は明らかになっていない。

この点についてvan Mittenburgは「大きなチャンスがあればアグレッシブに攻めていくつもりだ。投資が必要なプロジェクトには多額の資金を投じることもいとわない」としか語らなかった。

おそらくXpringには多額の資金(XRP)が投じられていることだろう。何百という数の仮想通貨が共存する現在のシステムは持続可能とは言えず、今後は十分な価値を生み出しているものだけが生き残れるようになるはずだ。そういう意味では、リップルが目指す独自のエコシステムの構築は理にかなっている。世界第三位の仮想通貨としてXRPには大きな期待が寄せられているが、年初の大暴落が示す通り、その価値は上昇よりも早く下降する可能性がある。

そのため、リップルのコアとなる金融サービスとは毛色が違うながらも、Xpringはコミュニティの創造、そして最終的にはXRPのユースケース拡大を目指すなかで重要なポイントになってくるだろう。残された疑問は、スタートアップコミュニティがさまざまな投資オプションにどうアプローチしてくるかという点だ。

注:本稿の筆者は少額の仮想通貨を保有している。保有金額はテクノロジーについての理解を深められる程度ではあるものの、人生を変えるほどではない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake