暗黒物質の候補となりうるアクシオンなど未知素粒子を探索する国際共同実験「SAPPHIRES」が始動

広島大学、暗黒物質を探索摺る国際共同実験「SAPPHIRES」を始動

広島大学は、国際共同実験「SAHHPIRES」(サファイアズ)において、2色の強力なレーザーを用いた暗黒物質の探索を始動したことを発表した。目標とするのは、暗黒物質の候補となりうるアクシオンなどの未知の素粒子。波長の異なる強力な2つのレーザー光を真空中で混ぜ合わせることで、未知粒子(アクシオン的粒子)を介した散乱を誘導し、未知粒子を生成、崩壊させるという実験を開始し、その探索結果を公表した。

実験では、真空容器内に波長の異なる2つのレーザー光を照射し光子を衝突させ、そこで起きる未知粒子の生成と崩壊を介した散乱から生じる信号光を観測した。真空容器内に残る原子を排除するために徐々に圧力を下げながら信号光の有無を検証したところ、大気圧の10万分の1以下で残余原子からの寄与が消失し、さらに圧力を下げると信号光が見えなくなった。今回の探索では未知粒子の介在は確認されなかったものの、その結果から、未知粒子の質量と結合に対する棄却領域(反対の仮説が正しくないとされる領域)の提示が可能になったという。

SAHHPIRESは、Search for Axion-like Particles via optical Parametric effects with HighIntensity laseRs in Empty Space(真空中の高強度レーザーによる光学的パラメトリック効果を通じたアクシオン的粒子の探索)の略。拠点はルーマニアのExtreme-Light-Infrastructure原子核部門(ELI-NP)。広島大学大学院先進理工系科学研究科物理学プログラムの本間謙輔准教授らによる研究チームが参加している。ちなみにチタン・サファイアが、高強度レーザーの増幅媒体に使われている。複数の高強度レーザー施設を渡り歩く国際共同研究であるため、この名前が冠されたという。

名古屋市立大学が紫外線を使わない光殺菌技術の開発に成功、人体に害のない可視光線を瞬間的に照射

名古屋市立大学が紫外線を使わない光殺菌技術の開発に成功、人体に安全な可視光線を利用し殺菌

名古屋市立大学は11月24日、人体に有害な紫外線を使わず、可視光線を使った光殺菌技術を開発したと発表した。ウイルスや細菌の殺菌に使われる紫外線ライト(UVC。波長が200~280nmの光)は、人の細胞やタンパク質に強く吸収されるため有害とされている。名古屋市立大学が開発した技術は、人体に害のない可視光線を瞬間的に照射するというものだ。

名古屋市立大学大学院医学研究科細菌学分野の立野一郎講師、長谷川忠男教授、芸術工学研究科の松本貴裕教授らによる研究グループは、瞬間的な可視光パルス照射(ストロボのフラッシュ光のようなイメージ)により、ウイルスや細菌を効率的に殺菌できることを実証した。高輝度の可視光線をナノ秒(10億分の1秒)程度照射すると、小さなウイルスや細菌は瞬間的に300度ほどの温度に達して死滅する。人間の細胞はもっとずっと大きいため、温度はあまり上がらず安全が保たれるという。

この方法は、レーザー物理学の先端的な研究分野で用いられている共鳴励起という手法を、病原性ウイルスや細菌の殺菌手法に取り込んだ、最先端の研究成果としている。名古屋市立大学が紫外線を使わない光殺菌技術の開発に成功、人体に安全な可視光線を利用し殺菌

研究グループは、独自開発した「ナノ秒波長可変パルスレーザー殺菌装置」を使い、溶液に浸した細菌に見立てた金の微粒子にパルスレーザーを照射したところ、金の微粒子は瞬間的に1000度に達して溶解した。しかし溶液の温度は2度程度しか上がらなかった。

名古屋市立大学が紫外線を使わない光殺菌技術の開発に成功、人体に安全な可視光線を利用し殺菌名古屋市立大学が紫外線を使わない光殺菌技術の開発に成功、人体に安全な可視光線を利用し殺菌

今回の研究で用いられた高輝度可視光線のパルスフラッシュ光は、現在のLEDの技術で容易に構築できるという。今後は、LED照明に「パルスフラッシュ殺菌光」を搭載したハイブリッド型照明器具への展開が予想されるとのことだ。病院や一般家庭への普及が期待される。

レーザー核融合の効率化に向け前進、大阪大学が高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマ温度が上昇する現象を世界初観測

レーザー核融合の効率化に向け前進、大阪大学が高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマ温度が上昇する現象を世界で初めて観測

激光XII号レーザー室

大阪大学レーザー科学研究所は、10月14日、高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマが変形するという現象を、世界で初めて実験により観測し、理論とシミュレーションでこの現象の詳細を明らかにしたと発表した。これは、レーザー核融合におけるエネルギー発生の効率化に資すると、同研究所は話している。

核融合では、1億度ほどの超高温でプラズマを閉じ込める必要がある。大阪大学レーザー科学研究所が研究しているレーザー核融合では、100テスラ程度の磁場をプラズマに加えることで核融合反応数が上昇することが、シミュレーションで予測されていた。同時に、磁場が強まるとプラズマの変形が大きくなり、均一な高密度プラズマコアの形成が難しくなるというという負の側面も予測されている。だがこれまで、十分に強力な磁場を実験室で作ることが難しかったため、実証されずにいた。

大阪大学レーザー科学研究所の松尾一輝氏を中心とした、佐野孝好助教、長友英夫准教授、藤岡慎介教授らによる研究チームは、同研究所が所有する国内最大のレーザー装置「激光XII号レーザー」を磁場発生装置「キャパシター・コイル・ターゲット」に当てて強磁場を発生させる手法を用い、実験室内で200テスラの磁場を発生させ、プラズマの挙動を調べた。その結果、周囲への熱エネルギーの損失が抑制され、プラズマの温度が上昇することがわかった。同時に、温度上昇にともないプラズマの変形が大きくなり、熱いプラズマと低温のプラズマが混ざり合う現象が起きることも確認できた。だが同研究所では、この実験結果をもとに、プラズマの保温ができて、それでいて低温高温のプラズマが混ざることのない最適な磁場強度が存在することを、理論モデルから予測している。

さらに、今回確認された磁場によってプラズマが混ざる現象は、宇宙での星雲の崩壊との関連性を示唆しており、宇宙の現象の理解にもつながると期待されている。この研究成果は、フランスの世界最大級のLMJ-PETALレーザー装置における学術枠の実験課題として、日本からの提案としては初めて採択された。またこの研究成果は、10月12日公開の米科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載された。

 

化学コーティングではなくレーザーで表面を氷や錆から保護する技術の商用化を目指すFlite Material Sciences

Dan Cohen(ダン・コーエン)氏は、ソーラーパネルの氷、雪、霜を防ぐコーティングを探していた。その時に同氏はある技術に出会った。その技術は、航空機、ドローンから、医療機器、パイプライン、さらにはヨットに至るまで、広範囲のプロダクトにおいてコストを削減し、環境フットプリントを低減できる可能性を秘めていた。

それをきっかけにコーエン氏は、自身のスタートアップ企業Flite Material Sciencesを設立し、TechCrunchのStartup Battlefieldでデビューした。

ソーラーカンパニーのCTOとして取り組んでいたプロジェクトで、コーエン氏はそれらのソーラーパネルに最適なコーティングを模索していたが、見つけるには至っていなかった。コーティングは、パネルの色の変化、毎年塗布する必要性、有害物質の含有などの課題要素を有していた。その打開案となるものが、ロチェスター大学光学研究所の教授からもたらされた。同教授は、一切コーティングすることなく、氷、雨、雪、霜からパネルや構造物を保護することができると主張していた。

「少し直感と相いれないような気もしましたが、どのようなものか確認してみようと思いました」とコーエン氏。教授はコーエン氏をレーザーによる表面機能化のフィールドに導いた。ガラスやプラスチック、金属に撥水機能をもたせるコーティングの代わりに、レーザーを使って素材をリテクスチャすることで、それ自体が水分をはじくようになるというものだ。この処理はまた、半導体、さらには人間の骨や歯などの多様な表面において、錆や氷を防ぎ、油をはじくことにも効果を発揮する。

コーエン氏は感銘を受け、この技術をすでにライセンスしているソーラーパネルメーカーがあるかどうかを尋ねた。結果、どの企業にも、そしていずれの産業においても、この技術はライセンスされていないことが判明した。

ロチェスター大学はこの技術のライセンス供与に同意し、Flite Materials Scienceは2018年に同技術を商用化すべく誕生した。同スタートアップは最初の1年を、この技術について学び、IPを調査し、プロダクトと市場の適合性を理解することに費やした。また、モントリオールで開催されたTechStarsやCentechなどのアクセラレータープログラムもいくつか経験した。

コーエン氏は現在、この技術を商業規模に拡大し、航空宇宙、生命科学、その他の産業へ適用していくことを目指している。

仕組み

テクスチャ処理は、自然界に存在するものを模倣している。例えば、蓮の葉を見てみよう。その葉は一日中水に浸かっていても完全に乾いているように見える、とコーエン氏は説明する。

「十分な性能を備えた顕微鏡の下で見ると、実際にはその表面はとてもざらざらしていて、非常に微細な突起があることがわかります」と同氏は続けた。「そして、なぜ水がこうした微細な突起構造の表面に留まらないかについての理論が浮上したのです」。

このようなテクスチャを作成しようとした初期の研究では、ガスと化学物質の組み合わせに焦点が当てられていた。ロチェスター大学のChunlei Guo(チャンレイ・グオ)教授が考案したのは、毎秒1000兆パルスにも及ぶ高パルスレートのレーザーを使用して、大量の熱を発生させることなく素材を変換するという斬新な方法だった。

「これは多くのエネルギーを注入しますが、パルスの効果で、彫刻家のような緻密な作用が生み出されます」とコーエン氏は語る。「素材を燃やしてしまうことなく、移動させたり再堆積させたりするのです」。

この最後の点が重要である。Fliteがライセンスし、商用化を計画している技術は、表面を取り去ったり弱めたりするものではない。単にテクスチャを再形成するだけで、金属やプラスチックに水、油、氷をはじく能力が備わるというものだ。

今後の展開

同社は現在、可能な限り多くの顧客検証プロジェクトを実施するために「奔走している」とコーエン氏は語り、これらのプロジェクトは、この技術が特定のプロダクトや産業でどのように機能するかを証明するものだと付け加えた。Flite Material Scienceは数件のプロジェクトを完了しており、さらに多くのプロジェクトが準備されている。

コーエン氏によると、16社ほどの企業が来年中のテスト実施に強い関心を示しており、参加の機会が得られるのを待っている企業は150社あまりに上るという。

Flite Material Sciencesの従業員数は10人に満たないが、コーエン氏は、2021年の第3四半期または第4四半期に資金調達ラウンドが完了した時点で、さらに雇用を増やしたいと考えている。

同社は探究の結果、航空宇宙と防衛分野への進出の足がかりを得た。さらに石油やガス、半導体の分野でも同社は「かなりの仕事をしている」とコーエン氏は語っている。また、自動車やパッケージングでの需要も見込めるとしたうえで、これら2つの産業はユニットエコノミクスが機能するまで待つ必要があるだろう、と言い添えた。

画像クレジット:J. Adam Fenster / University of Rochester

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Dragonfly)

【コラム】レーザー主導の核融合は安全で安価なクリーンエネルギーへの道を開く

核融合発電を実現するという探求が最近飛躍的な前進を見せている。ローレンス・リバモア国立研究所にある国立点火施設(NIF)は、前例のない高い核融合収率の実験結果を発表した。単一のレーザーショットが1.3メガジュールの核融合収率エネルギーを放出する反応を開始させ、核燃焼の伝搬の痕跡を示した。

このマイルストーンに到達したことは、核融合が実際に発電の達成にいかに近づいているかを物語っている。この最新の研究結果は、進捗の急速なペース、特にレーザーが驚異的なスピードで進化していることを実証するものだ。

実際、レーザーは第二次世界大戦以降で最も影響力の強い技術的発明の1つである。機械加工、精密手術、消費者向け電子機器など、実に多様な用途で広く使用されているレーザーは、日常生活に欠かせないものとなっている。しかし、レーザーが正のエネルギー利得で制御された核融合を可能にするという、物理学のエキサイティングかつまったく新しい章の到来を告げていることはほとんど知られていない。

60年におよぶ技術革新の後、現在レーザーはクリーンで高密度、かつ効率的な燃料を開発する喫緊のプロセスをアシストしている。この燃料は、大規模な脱炭素化エネルギー生産を通して世界のエネルギー危機を解決するために必要とされている。レーザーパルスで達成できるピークパワーは、10年ごとに1000倍もの増加を示している。

物理学者たちは最近、1500テラワットの電力を生み出す核融合実験を行った。短時間で、全世界がその瞬間に消費するエネルギーの4〜5倍のエネルギーを生み出した。言い換えれば、私たちはすでに莫大な量の電力を生産できるのである。ただし、点火用レーザーを駆動するのに消費されるエネルギーをオフセットする、大量のエネルギーを生成する必要もある。

レーザーを超えて、ターゲット側でもかなりの進歩が起きている。最近のナノ構造ターゲットの使用は、より効率的なレーザーエネルギーの吸収と燃料点火を実現している。これが可能になったのは数年前のことだが、ここでも技術革新は急勾配を呈しており、年々大きな進展を遂げている。

このような進捗を目の前にして、商業的な核融合の実現を阻んでいるものは何なのかと不思議に思われるかもしれない。

2つの重大な課題が残存している。第1に、これらの要素を統合し、物理的および技術経済的な要件をすべて満たす統合プロセスを構築する必要がある。第2に、そのためには民間および公的機関からの持続可能なレベルの投資が必要である。概して、核融合の分野は痛ましいほどに資金が不足している。核融合の可能性を考えると、特に他のエネルギー技術との比較において、これは衝撃的である。

クリーンエネルギーへの投資は2020年に5000億ドル(約55兆円)を超える金額に達したものの、核融合研究開発への投資はそのほんの一部にすぎない。すでにこの分野で活躍している優秀な科学者は数え切れないほど存在するし、この分野への参入を希望している熱心な学生も大勢いる。もちろん、優れた政府の研究所もある。総じて、研究者と学生は制御核融合の力と可能性を信じている。私たちは、このビジョンを実現するために、彼らの仕事に対する財政的支援を確保すべきであろう。

私たちが今必要としているのは、目の前の機会の有効性を十分に発揮させる公共および民間投資の拡大である。このような投資にはより長い時間軸が存在するかもしれないが、最終的なインパクトは平行していない。今後10年間のうちに正味エネルギーの増加が手の届くところまでくると筆者は考えている。初期のプロトタイプに基づいた商用化は、非常に短期間で行われるだろう。

しかし、そうしたタイムラインは、資金および資源の利用可能性に大きく依存している。風力、太陽光などの代替エネルギー源にかなりの投資が行われているが、核融合を世界のエネルギー方程式の中に位置づけなければならない。これは、臨界的なブレークスルーの瞬間に向かう中で、特に顕著な真実である。

レーザー駆動の核融合が完成され商業化されることで、核融合が既存の理想的でないエネルギー源の多くに取って代わり、最適なエネルギー源となるポテンシャルが生まれる。核融合が正しく行われれば、クリーンで安全かつ安価なエネルギーが均等に供給されるのである。核融合発電所が最終的には、現在なお支配的な従来型発電所や関連する大規模エネルギーインフラのほとんどに置き換わると筆者は確信している。石炭やガスは不要となるであろう。

高収率と低コストをもたらす核融合プロセスの継続的な最適化により、現在の価格をはるかに下回るエネルギー生産が約束される。極限的には、これは無限のエネルギー源に相当する。無限のエネルギーが存在するなら、無限の可能性をも手に入れることができる。これで何が実現するだろうか?過去150年にわたって大気中に放出してきた二酸化炭素を取り除くことで、気候変動が逆転することは確かであると筆者は予見している。

核融合技術によって強化された未来では、水を脱塩するためにエネルギーを使うこともでき、乾燥地帯や砂漠地帯に多大なインパクトをもたらす無制限な水資源を作り出すことができる。総合的に見て、核融合は、破壊的で汚染されたエネルギー源や関連インフラに依存することなく、持続可能でクリーンな社会を維持し、より良い社会を可能にするものである。

SLAC国立加速器研究所、ローレンス・リバモア国立研究所および国立点火施設での長年にわたる献身的な研究を通じて、筆者は、最初の慣性閉じ込め核融合実験に立ち合い、その統制を担うという光栄に浴した。すばらしいものの種が植えられ、根付いていくのを目にした。人類のエンパワーメントと進歩に向けてレーザー技術の成果が収穫されることに、かつてないほどの興奮を覚えている。

同僚の科学者や学生たちが、核融合をタンジビリティの領域からリアリティの領域へと移行させることに取り組んでいるが、これにはある程度の信頼と支援が求められてくる。世界的な舞台において大いに必要とされ、より歓迎されるエネルギー代替品を提供することに対して、今日の小規模な投資は多大なインパクトを及ぼしかねない。

筆者は楽観主義と科学の側に賭けている。そして他の人々もそうする勇気を持ってくれることを願っている。

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画像クレジット:MickeyCZ / Getty Images

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(文:Siegfried Glenzer、翻訳:Dragonfly)