Firehawk Aerospaceは安全で低コストなハイブリッドエンジン用燃料でロケット革命を目指す

SpaceX(スペースエックス)をはじめとする商用ロケット打ち上げ市場の各企業は、宇宙の経済に変革をもたらし、小型衛星起業家の時代を切り拓いたものの、実際に使われているロケットエンジンの技術は、50年前にNASAが初めて宇宙に進出したときからそう進歩していない。

CEOのWill Edwards (ウィル・エドワーズ)氏と会長兼最高科学責任者であるRon Jones(ロン・ジョーンズ)氏が創設した新しいスタートアップFirehawk Aerospace(ファイヤーホーク・エアロスペース)は、安定した費用対効果の高いハイブリッドロケット燃料でそれを変えようとしている。彼らは、これまでのハイブリッド燃料用エンジンの製造にともなう困難や制約を、積層造形法(工業規模の3Dプリンター)で克服したいと考えている。

固体燃料と液体酸化剤を組み合わせるハイブリッドロケットは、それ自体がそう新しいものではないが、パフォーマンス指標や最大推力の面で、常に大きな制約に悩まされてきた。長期にわたってロケット燃料と航空宇宙構造物の研究に携わり、先端複合材料エンジニアでもあるジョーンズ氏は、以前からエンジン技術に興味を抱き、その利点を活かしつつ、さらに安全性とコストにも配慮しながら過去のハイブリッドエンジンの設計における制約を克服する方法を考えてきた。

ジョーンズ氏は高校から大学を通して物理学と工学が大好きだったが、結局、海軍に入隊して飛行士となり、その後ようやく航空宇宙産業に落ち着くことができた。その一方で、彼は黎明期のインターネットを活用し、ロケット工学への情熱を深めていた。特にハイブリッドエンジン技術を研究したり、世界の専門家たちと意見交換を行っていた。

「最終的に、私は2つのコンセプトを合体させることを思いつきました」とジョーンズ氏はインタビューで話した。「1つは、燃料が間違っていたという点。これまで使われていた燃料は、弾性が高すぎます。圧力をかけると、燃料はその影響を受けてしまいます。薄くなるに従って強度が低下し、基本的にバラバラになってしまい燃料の多くが無駄になります。そこで私は、構造的に非常に強いポリマーに切り替えました。もう1つは、型に入れて成形するやり方は利口ではないという点です。私はそれを、積層造形法に変更しました」。

材料を少しずつ時間をかけて重ねることで構造を作り上げていく積層造形法であれば、液状の燃料を型に流し込んで固めるモールド方式では不可能だったことができる。例えば、内部構造を非常に細かく意図したとおりに作ることも可能だ。家庭用の3Dプリンターを見たことがある人なら、大きなモデルを作るときに内部を格子状にして強度を高め、表面を支える技法をご存知だろう。それが、固形ロケット燃料のペレットの潜在能力を解き放つ鍵となった。

「積層造形法を使うことで、私はこれまで誰もやらなかったことができるようになりました。それこそが、モールド方式では不可能だった高度に設計された内部構造を構築する方法です」と彼はいう。「その内部構造を採用したことで、ロケットエンジンの性能が大幅に向上しました。信頼性だけでなく安全性も大きく高まりました。それは、私が目指していた最も重要な特性です」。

Firehawkは現在、ロケット燃料の3Dプリントに関連した5つの特許を取得し、すでに32基のエンジンを使った燃焼試験を推力200ポンド(約90kg)と500ポンド(約230kg)の2種類で実施し、設計の有効性を実証している。また同スタートアップは、推力5000ポンド(約2.3トン)のエンジンにも取り組んでいる。これは、Rocket Lab(ロケット・ラボ)のElectron(エレクトロン)ロケット第2段の推力とほぼ同じだ。2020年末に、燃焼試験に建設中の施設でテストを開始する予定だ。

前述のとおり、現在すでに運用を行っているロケット打ち上げ企業は、ずっと旧式の、それでもいまだに効率的なロケット技術を採用している。ならば、新種のハイブリッドエンジンなど使う必要がどこにあるのか?いろいろあるが、特に注目すべき理由は効率性と安全性だ。

Firehawkの燃料は、保管も輸送も取り扱いもずっと安全にできる。燃料と酸化剤を別々にしている限り、偶発的な発火事故の心配がないからだ。また毒性もない。この燃料は「環境に優しい」排気しか出さないとFirehawkは話している。大型ロケット用の既存のロケット燃料を安全に取り扱うには、大量の特殊な手順や安全策を講じる必要がある。作業員の訓練も欠かせないため、その分、時間と費用がかさむ。

しかもFirehawkでは、特注設計のエンジンを4カ月から6カ月で提供できるという。既存技術に基づいて新しいロケットエンジンを開発しようとすれば、通常は5年から7年はかかる。この時間的節約で、大きなコストを数億ドル(数百億円)単位でさらに減らすことができる。つまり、世代ごとの研究開発初期費用を回収しようとロケットの運用寿命を延ばす必要がなくなり、より新しくより優れたロケットの試作を、より短期間で繰り返せるようになるということだ。

この燃料は、長期間の保管と輸送に耐えられる。また、飛行中の停止と再点火も可能だ。これらが意味するのは、長期にわたる複雑なミッションも、これまでに比べてずっと低予算で遂行できるようになるということだ。当然のことながら、この可能性が民間企業と政府機関の両方の顧客の強い関心に火を点けたとCEOのエドワーズ氏は述べていた。

2020年の初め、Firehawk Aerospaceは200万ドル(約2億1000万円)のシードラウンドをクローズした。これにはVictorum Capital、Achieve Capital、Harlow Capital Managementが参加している。現在は人員増強を目指し、特に未来のロケット推進技術の仕事に高い関心を持つ意欲あるエンジニアを求めている。さらに、複数の潜在パートナーとの提携話を進めつつ、この技術の商品化に関するいくつもの申し出にも対応しているとのことだ。

カテゴリー:宇宙

タグ:Firehawk Aerospace 3Dプリント

画像クレジット:Firehawk Aerospace

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(翻訳:金井哲夫)

Relativity Spaceは3Dプリントとクラウドベースのソフトウェアで新型コロナの嵐をやり過ごす

他のどの業界とも同様に宇宙関連の若いスタートアップや企業でも、新型コロナウイルス危機の煽りを受けてレイオフが相次いでいる。しかし、Relativity Space(レラティビティー・スペース)は、なんとかレイオフを回避できた。それどころか、世界的パンデミックにも負けず、新規に従業員を雇用している。RelativityのCEOで創設者のTim Ellis(ティム・エリス)氏は、大型3Dプリントと、クラウドベースのツールとテクノロジーの導入にフォーカスしたことが、会社を苦境に追い込まなかった大きな要因だと話している。

Relativityが間もなく完成させるロケットは、エンジンから胴体、さらにはその中間にあるものまで、ほとんどが3Dプリント部品で構成されるため、基本的にほぼ途切れることなくプロトタイプの製造を進めることができた。Relativityは、航空宇宙と防衛に携わる企業の例に漏れず、必要不可欠な事業と認知されているのだが、相当早い時期から新型コロナウイルスの潜在的な危険性に対処し、従業員の健康と安全を確保すべく手を打ってきたとエリス氏は言う。米国でこの病気が問題視され始めた3月9日、公式な規制や自宅待機の要請が出される以前に、Relativityでは早くも従業員に自宅勤務を勧めていた。

「それができたのは、一部には私たちの自動プリント技術のおかげです。工場にはごくごくわずかな人間しかいませんが、それでもプリンターを動かし続けることができます」とエリス氏はインタビューで話してくれた。「現に今はたった1人で数台のプリンターを見ていますが、実際にプリントが行われています。文字通りワンマン運転です。その一方、この2週間ほどの間に、会社の業務の大半を自宅で処理できるようにしました」。

たった1人の現場担当者で工場全体を管理できる能力は、現在の状況において、競争上、非常に大きな強みであり、同時に従業員の健康と安全を大切に守る方策でもある。エリス氏によると、同社はすでに複数の地域で業務を行っているという。ケープ・カナベラルとフロリダに加えて、ミシシッピ州のジョン・C・ステニス宇宙センターとロサンゼルス本社だ。Relativityではまた、米国内の離れた場所からも数名の従業員がテレワークしている。同社は早くから、全員が一箇所に集まらなくてもデザインや開発が行えるように体制を整えていたのだ。

「私たちはワークフローを円滑にするために、独自のソフトウェアツールを開発しました。それが大変に優れています」とエリス氏。「しかも、ITAR(国際武器取引規制)と複数の暗号プロトコルに準拠しつつクラウドに深く対応した企業ということだけでも、本当に有利なのです」。

自社開発のソフトウェアとクラウドベースのツールに集中したことに加え、エリス氏は、一番新しい資金調達ラウンド 、 2019年10月にクローズした1億4000万ドル(約152億円) のタイミングも、新型コロナウイルス危機への備えに貢献したと考えている。Relativityはレイオフを回避し、新たな求人も開始しただけではない。パートタイムも含め、全従業員に給与を全額支給し続けている。これはすべて、今思えば先を見通したビジネスモデルのおかげなのだが、現在の国際的ビジネス状況におけるこの目覚ましい優位性は、実際のところ単に幸運の賜物だとエリス氏は言う。それでもこれまでのRelativityの回復力は、一部には新型コロナウイルスのパンデミックに起因する大きな永続的変化の現れだと彼は信じている。

「それによって本当に変わるもの【中略】は、国際的なサプライチェーンへのアプローチです」と彼は言う。「もっと多くのものを米国内で生産して、サプライチェーンの過度なグローバル化への依存を減らそうという圧力が高まると思います。私たちがずっと3Dプリンターを使ってきたのは、そのためでもあります。それは、ごくわずかな作業員で、今のような状況下でもロケットの第1段が作れてしまう自動化のテクノロジーというだけではありません。サプライチェーンに関して言えば、限られた数の供給業者と、いくつもの製造方法からなる簡素なサプライチェーンを持つことで、供給業者やサプライチェーンの停止による大打撃を大幅に減らせるのです」。

新型コロナウイルス危機が、2021年に最初の3Dプリントロケットを飛ばすという予定を含めた打ち上げスケジュール全体に、どこまで影響を与えるかはまるで予測できないが、テレワークと社会的隔離指示に難なく添える製造ラインで多くの業務がこなせるとエリス氏は期待している。ジョン・C・ステニス宇宙センターのエンジン試験場といった提携施設が閉鎖されれば、確かに打撃にはなる。だがRelativityの回復力は、この危機的状況が去ったあかつきには、あらゆる種類の製造業の模範となるだろう。

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:金井哲夫)

小型ロケット打ち上げスタートアップFireflyがロケット産業大手Aerojet Rocketdyneと提携

Firefly Aerospace(ファイヤーフライ・エアロスペース)は、Aerojet Rocketdyne(エアロ・ロケットダイン)と手を組むことになった。これは、小規模な新規参入の宇宙スタートアップが経験豊富な伝統的ヘビー級企業と提携するという理想的なかたちだ。Firefly2013年に設立され、小型衛星用の打ち上げ機Alpha(アルファ)を市場に送り出すために、これまでに216万ドル(約2億3500万円)を調達している。

同社は、決定的な意味を持つ最初の打ち上げを、来年の2月から3月の間に予定し準備を進めていると、同社の創設者でCEOのTom Markusic(トム・マルクシック)博士は、今年ワシントンD.C.で開催された国際宇宙会議で発表。同社の成長に関する近況と、FireflyとAerojetとの新しい提携話について語った。

Firefly Aerospaceの創業者でCEOのトム・マルクシック氏

マルクシック氏は、Aerojetのスペースビジネス部門上級副社長であるJim Maser(ジム・メイザー)氏と同席し、AerojetがFireflyに、Beta(ベータ)というわかりやすい名称の次世代打ち上げ機にエンジンを供給すること、その本格的な開発はアルファの打ち上げ後に始まること、そして定期的な商用サービスを開始することを説明してくれた。

ベータは中型の打ち上げ機で、アルファに比べて積載容量が大きく最大積載重量は8.5トンとなる。アルファはFireflyの最初のロケットで、1トンの衛星を軌道に打ち上げることができる。「Fireflyはそのサイズを需要はあるが供給が足りていないスイートスポットに特定した」とマルクシック氏は話していた。

その中間領域は、あまり活用されていない部分でもある。その比較的大きなペイロードを軌道に載せるには大きなエンジンが必要になるからだ。彼らはその解決策を探し回り、AerojetのAR-1エンジンを見つけた。推力50万ポンド(2200キロニュートン)という完璧なソリューションだった。

マルクシック氏とメイザー氏は、一般論として、この業界に参入したばかりのスタートアップや若い企業は、Aerojetのような老舗企業にとって最重要パートナーになると力説していた。Aerojetは1942年に設立され以来、ロケットおよびミサイル業界で貢献してきた。

Fireflyのアルファ打ち上げ機。

「早く動くことも、失敗することもオーケーですが、他者の失敗や、自分自身の失敗を繰り返したくはありません」とマルクシック氏は、経験豊富な企業と提携する利点を述べた。「この提携はエンジン供給の合意に留まらず、より広範囲な恩恵をFireflyにもたらす」とマルクシック氏は話している。

「Aerojetは、宇宙空間のための素晴らしい推進装置を揃えています。例えばXR-5です」とマルクシック氏。「これは5kw(キロワット)のホールスラスターで、私たちのOTV(軌道間輸送機)にも、地球と月との間での大規模なミッションに使用する高度なOTVにも使えます。さらに彼らは、他のステージでも利用できる、飛行実績のある提案中の化学スラスターも数多く保有しています」。

プリバーナーの試験を行うAerojetのAR-1エンジン

Fireflyは、軌道間輸送機を使って、より高度な打ち上げ能力を提供することを計画している。その野心は、打ち上げ機を超えて宇宙空間での製造にまでおよんでいる。それは同社にとって大変に魅力的な事業だマルクシック氏は言う。なぜなら、打ち上げコストを削減する究極の方法は打ち上げコストの必要性を丸ごとなくすことだからだ。Fireflyの最終目標は、その方法を問わずたくさんの商用人工衛星を軌道に載せることだ。そこには山ほどのチャンスがある。しかし現在のところ、同社の最大のチャレンジは目の前にあるもっとも重要なゴールに集中することだとマルクシック氏。

「我が社と同じように宇宙を目指す企業は、少なくとも100社はあります」と彼は言う。「今は、その夢を語る大勢の人たちの中に私たちも紛れています。私は、この会社を通じて、そうした空論家の集団から一刻も早く抜け出て、実際に宇宙で宇宙船を飛ばしているエリート集団に加われるよう精力を傾けています」。

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(翻訳:金井哲夫)

HyperSciencesは超音速ドリル技術で宇宙飛行の「大逆転」を目指す

Eron Muskがトンネルを掘りながら、地球の遙か上空を飛びたいと考えているのは偶然ではない。HyperSciencesに聞けば、宇宙へ行く最良の方法は、ドリル技術を逆にして先端を上に向けることだと話してくれる。それは、一般にロケットだと思われている大きな筒の上に小さなペイロードが載っかったやつを推進するための、巨大で高価な燃料タンクの「段」を取り去ることを意味する。

今月、同社は準軌道飛行を成功させ、その冒険の旅を大きく前進させた。これは、NASAの助成金で行われた研究の第一段階を締めくくるものであり、概念実証のための打ち上げを2回成功させ、同社のラム加速と化学燃焼のワンツーパンチを見せつけた。

HyperSciencesは、ニューメキシコ州トゥルース・オア・コンシクエンシーズから1時間という人里離れた商業用宇宙港スペースポート・アメリカの打ち上げ場で、いくつもの高高度試験を行い、アイデアの実現に取り組んでいる。同社は1.5フィート(約45センチ)から9フィート(約274センチ)を超えるものまで「さまざまな発射体」を打ち上げた。HyperSciencesは、テキサス大学の航空宇宙研究グループとパートナーシップを組み、市販の電子部品を使ってシステムを製作している。

「私たちは600Gから1000G(つまり地球の重力の600倍から1000倍)でペイロードを打ち上げることを目標にしていましたが、それが達成できました」とHyperSciencesの上級顧問Raymond Kaminskiは話す。「ペイロードが感じる衝撃は、市販の電子製品(携帯電話など)を床に落としたときと同じ程度のものです」。Kaminskiは、エンジニアとして国際宇宙ステーションの仕事に就いていたNASAを離れ、しばらくスタートアップの世界へ転向していたが、その後、HyperSciencesで航空宇宙の世界に戻ってきた。

1.5フィートのシステムを打ち上げれば、NASAの目的を満たすには十分だったが、彼らは誰が見ても驚く長さ9フィート、直径18インチ(約46センチ)の発射体も試している。「私たちは9フィートのやつを打ち上げます。もう誰も否定できないでしょう」とKaminskiは言っていた。

面白いことにすべての始まりは、HyperSciencesの創設者でCEOのMark Russellが、深い深い穴をいくつもあけた後のことだった。Russellは、Jeff Bezosの宇宙事業Blue Originでカプセル開発の指揮を執っていたが、家業の採掘事業に加わるためにBlue Originを去った。彼はBlue Originの10人目の社員だった。Russellには、採掘と掘削の経験があった。そこから、岩を砕き穴を掘るために化学薬品を詰め込む筒を長くすれば、宇宙へ行けるのではないかと思いついたのだ。

「筒と発射体を用意する。先端を尖らせて、筒には天然ガスと空気を詰める」とRussellは説明してくれた。「それは、サーファーが波に乗るように、衝撃波に乗るんです」

彼らは、もっと手早く、安く、ずっと効率的に宇宙に物資を打ち上げることができると信じている。しかしそれには、プロセスを根底から考え直さなければならない。SpaceXの再利用型の第一段ロケットが宇宙飛行の潮流を変えたのに対して、HyperSciencesの技術は新発見に過ぎない。ただ、彼らの展望、つまり推進力としての超音速技術をスケールアップさせれば、宇宙に物資を送るという複雑で危険性の高いビジネスに応用できる。

超音速推進システムは、発射体を少なくとも音の5倍の速度で打ち上げることができる。つまりそれはマッハ5以上のスピードであり、1秒で1マイル(約1.6キロメートル)以上進むことができる。現在話題になっている超音速技術のほとんどは、防衛技術に関するものだ。高度なミサイル防衛システムもかいくぐったり、迎撃される間もなく目標を攻撃できる高速なミサイルなどだ。しかし、航空宇宙と地熱は、また別の興味深い大きな分野でもある。

昨年12月、ワシントンポスト紙が伝えたところによると、現在、ロケット推進式の兵器から超音速兵器へ移行する計画は、防衛政策において優先順位が「第一位、第二位、第三位」だという。米国防総省の2019年度予算のうち20億ドル(約2220億円)が超音速計画に割り当てられていて、それはほぼ3年連続で前年比を上回っている。「政府が欲しいと言ったときにその技術を開発し始めるのでは遅すぎます」とKaminski。「後追いになってしまいます」

そうしたチャンスはあるものの、HyperSciencesは兵器の世界への参入を熱望しているわけではない。「私たちはプラットフォーム型超音速企業です。兵器開発業者ではありません」とHyperSciencesのメンバーはTechCrunchに話してくれた。「武器商人になるつもりはありません。HyperSciencesは、世界をより良くすることに専念しているのです」

そのためHyperSciencesは、武器以外の超音速利用に針路を向けている。同社は、同社が利用しているラム加速技術の応用では先駆者であり、そこで発明された技術の独占権を持つワシントン大学の研究所室に資金援助をしている。

Shellから10億ドル(約1110億円)の出資を受けた地熱事業で、HyperSciencesは、彼らが呼ぶところの「Common Engine」(共通エンジン)を開発できた。地熱が溜まっている深度まで穴を掘ることができ、星に向けて物資を打ち上げることもできる超音速プラットフォームだ。「HyperSciencesとは、まずは地球を本当に理解することなのです」と、掘削から学んだ教訓を飛行計画に応用できる相互互換システムのひとつの利点を指して、Russellは言った。

「私たちのHyperDrone技術は、NASAの新しい吸気式超音速エンジンのテストや、世界の各地を1時間から2時間で結ぶ次世代の超音速または極超音速飛行機を開発したい航空機メーカーの役に立ちます」とHyperSciencesのメンバーは説明してくれた。「現在は、実験のためだけに大型飛行機にロケットを載せる必要があります。私たちは、地上に設置した管の先でそれが行えます」

買収に興味を示しているとの噂もあるHyperSciencesだが、今のところは堅実で実践的な航空宇宙業界ではまずあり得ない、通常とは違う風変わりなクラウドファンディング・モデルを追求している。同社は現在、SeedInvestのキャンペーン中で、適格投資家以外の小規模な投資家による最低1000ドルからというじつに少額な投資を、夢の実現のために募っている。この記事を書いている時点では、2000人近くの比較的小規模な投資家から500万ドル(約5億5500万円)が集まっていた。

「SpaceXのシードラウンドは、大手のベンチャー投資企業から受けています」とRussellは言う。「どこから入れるでしょう? 巨大な業界です。普通なら一般人は絶対に投資に参加できません」

Russellは、HyperSciencesの事業を柔軟な形にしておきたいと考えている。そして、ベンチャー投資家に頼れば、会社の目標を絞るように強要されるに違いないと恐れている。Shellとの関係はあるものの、その石油とエネルギーの巨大企業は彼らの株式は一切持っていないと、HyperSciencesは即座に答えてくれた。業界固有の契約の間を渡り歩きながら、クラウドファンディングで資金を得て、HyperSciencesはそのプラットフォームを並行して適用させる道を追求し続けたいと願っているのだ。

「宇宙飛行の次なるアーキテクチャーでは、全般的に超音速を使うことになります」とRussellは話す。「私たちはまさに、宇宙飛行の流れを変えるアイデアから、これをスタートさせました。ロケットの第一段と、できれば第二段を省略し、すべてのエネルギーを地上に置く……間違いなく宇宙飛行の流れが変わります」

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(翻訳:金井哲夫)

イーロン・マスク、Starshipロケットの完成品を披露

イラストや製造中の写真でさんざんじらしたあと、Elon Muskはようやく完成したStarshipロケットを披露した。

[Starshipのテスト飛行用ロケットがテキサス州のSpaceX打ち上げ施設で完成した。これは実物の写真でとり完成予想図ではない]

見ての通り、Satarshipテストロケットは外皮にステンレス鋼を使用しており、一部の人々を困惑させた。たしかにステンレスは非常に頑丈だが、カーボンファイバーやアルミニウム、チタンなどの最新ロケット材料と比べて重い。しかしMuskは、ステンレス鋼の極端な温度、特に高熱に対する耐久性はこのタイプのロケットにより適していると 主張した

Starshipロケットは以前BFRと呼ばれていたもので、SpaceXの長期計画の中で需要な位置を占める。FalconやFalcon Heavyに代わる主要打ち上げロケットになることを目的としており、多数の大気圏再突入(すなわち、多数の高熱体験)が予定されている。

このテストモデルは現在テキサス州ボカチカにあり、3月に準衛星軌道VTOL(垂直離着陸機)テストが予定されている。衛星軌道バージョンは、これよりも背が高く厚い外皮とスムーズなカーブのノーズ部分からなり2020年に打ち上げが予定されている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

SpaceXがドローン船を使ったFalcon 9ロケットの回収に成功

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SpaceXは土曜日に行われたFalcon 9の打ち上げで、ロケットの1段目を回収することに成功した。これで今までに回収したロケットの数は7台になったほか、「Just Read The Instructions」と名付けられたドローン船でのロケット回収は今回が初だった。回収の様子はロケットに取り付けられたカメラにも収められており、着陸までのプロセス全体を映像で見ることができる。

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SpaceXが初めてドローン船を利用して、洋上でFalcon 9の一段目を回収したのは昨年4月8日のことだった。そして最後にドローン船での回収を行ったのが同年8月で、その後9月1日に件の爆発事故が起きた。これまで5度の回収を成功させた無人で航行するドローン船は、海の状況にあわせて動き、ロケットとやりとりをしながら着陸場所まで向かうようになっている。

宇宙飛行のコスト削減というSpaceXのミッションにおいて、ロケットの回収は大きな鍵を握っており、最終的にはこれが人間の惑星への移住というもっと大きなゴールに繋がると考えられている。現在SpaceXは打ち上げ一回あたりにかかる料金を約6000万ドルに設定しており、これは同じように商業宇宙飛行を行っている他社の水準と比べるとかなり低いが、その結果SpaceXのマージンもかなり薄い。

回収したFalcon 9の一段目を複数のミッションで利用できれば、宇宙に何かを送り届ける度に全く新しいロケットをつくる必要がなくなるので、SpaceXの利益が大幅に増えることになる。同社はまだ回収済みのFalcon 9の一段目を再利用していないが、回収プロセスの効果を最大化するために機体の調査は行っている。そして本日SpaceXは、”近いうちに”回収したロケットを使った初めてのミッションを行う予定だと語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Moon Expressが2000万ドルを調達、月面着陸に向けて本格始動

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Google Lunar X-Prizeに参加中のMoon Expressは、シリーズB1で2000万ドルを調達し、月への処女航海に必要な資金が揃ったと発表した。今回の調達資金を含め、Moon Expressはこれまでに合計4500万ドル以上を、個人やVCのFounders Fund、Collaborative FundさらにはAutodeskなど民間から調達している。

2016年7月に、Moon Expressは民間企業として初めて月への渡航許可を手に入れた。同社は宇宙船MX-1Eを2017年中に月へと飛ばそうとしており、同時にX-Prizeの賞金2000万ドルの獲得を狙っている。

「ついに月への発射に必要なリソースが整いました。私たちのゴールは、地球の社会・経済圏を大部分が未開拓のまま残った8番目の大陸である月へと広げ、学生や科学者、宇宙機関、営利団体のために低価格で月の探索や開発ができるようにすることです」Moon Express 共同ファウンダー兼CEO Bob Richards

Moon Expressが月面への軟着陸を成功させれば、これは民間企業としては初めて、歴史上4番目の偉業達成となる。これまでに月面軟着陸を成功させたのは、全てアメリカ、旧ソ連、ロシアの政府系巨大組織だった。

もちろんこのタイトルを獲得するために、Moon ExpressはイスラエルのSpaceILやインドのTeam Indus(日本チームのHAKUTOが観測機で相乗り)、そしてさまざまな国の組織から成るSynergy Moonといった他のX-Prize参加者を打ち負かさなければならない。それぞれのチームはコンテストへの残留条件として、ロケットの打ち上げ契約をX-Prizeに見せて承認を得なければならなかった。

そして参加者で一番早く月面を500メートル移動し、高画質の動画と画像を地球に送ることができたチームには2000万ドル、2位のチームには500万ドルがおくられる。

おそらくX-Prizeの要件の中で1番厳しいと思われるのが期日だ。賞金を獲得するためには、全ての課題を2017年中に完了させなければならないのだ。ちなみにX-Prize Foundationは、既に一度期日を延ばしている

Google Lunar X-Prizeが特にユニークなのは、参加者が必要資金の90%を民間から集めなければならないと言う点だ。理論的はこの条件によって、利益を重視したビジネスプランが集まり、月に関連したビジネスの発展が加速することになる。

またMoon Expressは、衛星の打ち上げを行っているRocket Lab USAとロケット5台分の契約を結んだ。設立間もないRocket Lab USAは、同社の実験的な宇宙船Electron(Moon ExpressのMX-1Eを月まで運ぶロケットと同じもの)をまだ実際に飛ばせていないが、初めての打ち上げが今月末に予定されている。そして全て計画どおり進めば、Moon Expressの宇宙船は今年中に月へと向かうことになる。

Rocket LabのElectron初打ち上げは今週末を予定。一方NASA VCLSミッションは彼らにとって6回目の打ち上げにあたる予定で今年中に実施される計画。

(編集部注)その後本ツイートには、Rocket Labから「今月はテストを行いませんが、打ち上げ実験には確実に近づいています」という連絡があったと付け加えられている。

複数台のロケットを手に入れること、何か問題が起きてもMoon Expressは複数回チャレンジすることができる。計画では、Rocket Lab USAのElectronがMX-1Eを地球の軌道まで運び、そこでMX-1Eをロケットから切り離し、それ以降はMX-1Eが機体に取り付けられたロケットエンジンを使って月まで移動していく。

そして4日間におよぶ移動の後、MX-1Eは月面に着陸する予定だ。他のチームは探査機を使って500メートルの移動という条件を達成しようとしているが、Moon ExpressはMX-1Eのスラスターを使って500メートル先の地点まで機体を”跳ね”させようとしている。

Moon Express lander on moon

X-Prizeの結果はどうあれ、Moon Expressは月に行くことを何らかのビジネスと繋げようとしている。彼らはいくつもの月面でのロボットミッションを計画しているほか、長期的にはロケットの燃料に変えられる月の水など、月の資源を調査・調達しようとしている。

「月には1兆ドル分の貴重な資源が存在すると分かっており、今後私たちは急成長しているテクノロジーを使って、これまで超大国しかなし得なかったことを起業家ができるようにし、全ての人類のために月の資源を開放するチャンスを掴めるかもしれません」

なお4500万ドルの民間資金は、Moon Expressのオペレーションや製品のテスト・開発、打ち上げ費用などにあてられる予定だ。また同社は既にフロリダ州のケープカナベラル(Cape Canaveral)宇宙ロケット打ち上げ基地17、18のリノベーションに着手しており、今年中の打ち上げに向けて宇宙船のテストやオペレーションがこちらで行われる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

民間企業の宇宙レース激化―ボーイングCEOが「SpaceXより先に火星に着く」と宣言

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競争は進歩の源だ。ボーイングのCEO、Dennis Muilenburgが人間を火星に送り込むレースでSpaceXに勝つことを宣言したのは素晴らしい。

Bloombergによれば、Muilenburgば火曜日、シカゴで開催されたカンファレンスで「火星に足を踏み入れる最初の人類はボーイングのロケットを使っているものと確信している」と語った。

ボーイングはスペース・ローンチ・システム(Space Launch System)と呼ばれる大重量打ち上げシステムを開発中だ。これはTechCrunchでも紹介したSpacecXの惑星間輸送システム(Interplanetary Transport System)とほぼ同様の目標を狙っている。先週開催された宇宙開発に関するコンベンションでSpaceXのCEO、イーロン・マスクはキーノート講演を行い、この惑星間システムについて詳しく説明した。

ボーイングとSpaceXはすでにNASAからの衛星打ち上げの契約獲得でビジネス的に激しい競争関係にある。ボーイングがSpaceXに対抗して有人火星探査計画に力を入れているのはこうした現実のライバル関係を反映したものだろう。ボーイングでは早ければ2030年代後半に火星の有人探査を実現する計画であり、これにはNASAの資金援助を受けて600億ドルの開発費用がかかるとみている。

これに対してマスクの計画によれば、火星の植民が実現する時代にはSpaceXの1人あたり費用は20万ドルという実現可能な額になっているという。火星プロジェクトの資金は企業、公的組織から広く集められる(マスク自身も投資する)としている。

単なるマーケティング上の効果を狙った発言ではなく、ボーイングが実際にSpaceXと競争する計画であるなら、こうした競争関係はプロジェクトを前進させる効果が期待できよう。その結果、火星有人探査が単なる夢から現実の目的になっていくことを期待したい。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

SpaceXのFalcon 9、爆発の原因はヘリウムタンクの亀裂か

spacex

SpaceX社は、9月1日のFalcon 9ロケットの爆発を引き起こした原因の可能性についていくつかの答を得たようだ。ロケットは、発射台上で発射前準備を行っている最中に爆発した。負傷者はいなかったが、SpaceX社は原因の特定に苦労していて、これまでにほんの僅かの情報しか公表されていなかった。

本日、SpaceX社の更新されたブログ記事では、SpaceX、FAA、NASAそして空軍によろ合同調査の結果、第二段ロケットの液体酸素タンクの一部であり液体燃料ロケットの設計の重要な部分である、極低温ヘリウムシステムに起きた亀裂が、おそらく原因であろうと指摘している。これが意味することは、1つには、このエラーは、2015年のCRS-7 Falcon 9が上昇中に爆発した例とは関係していないということである(SpaceX社の発表による)。

これは良いニュースである。発射システム自身を除けば、LC-40(問題の発射台)は爆発全体からは相対的に影響を受けていないように見えるからである。SpaceX社によれば、発射台自身の制御システムと同様に、近くの支援施設や建物は「そのまま」で「良い動作状態」に保たれているということである。

一方、SpaceX社はまた、そのホーソン工場本社における製造および生産チームや施設が調査の結果「無罪放免となった」と語っている。これは、新しいロケットとコンポーネントの生産に向けて、ビジネスが通常通り継続されることを意味している。

調査チームは、上述したヘリウムシステムを原因として特定したが、亀裂が始まった原因を調査する必要はまだ残されている。SpaceX社は、打ち上げ業務に戻る時期を11月と予想していると述べているが、調査の結論はまだ保留中である。

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(翻訳:Sako)