導入企業1万社超え、無料から使えるEC企業向け在庫管理SaaS「ロジクラ」が1.2億円調達

ニューレボのメンバー。前列右から2人目が代表取締役の長浜佑樹氏

EC事業者向け在庫管理SaaS「ロジクラ」を開発するニューレボは1月15日、ジェネシアベンチャーズ、マネックスベンチャーズ、オリエントコーポレーション(以下オリコ)、SGインキュベートより総額1.2億円を調達したことを明らかにした。

ニューレボではこれまで2016年9月にF Ventures、2017年8月にDGインキュベーション、2017年12月にジェネシアベンチャーズから資金調達を実施。今回はそれに続くシリーズAラウンドでの調達になる。

今後はセールスやマーケティング、開発体制の強化に向けて人材採用に投資をするほか、在庫データを活用した新たな事業にも力を入れていく計画。株主のオリコと組んで金融商品の開発に取り組むほか、在庫売買のマーケットプレイスの構築や他社との連携なども進める方針だという。

フリーミアムモデルへの転換で導入企業数は1万社を突破

ニューレボが手がけるロジクラはEC事業者の在庫管理業務を効率化するSaaS型のプロダクトだ。

商品の入荷から在庫管理、受注、出荷に至るまでの工程をオンライン上で管理することが可能。バーコードラベルの発行、宅配送り状の作成、受注データを用いた納品書の作成、iPhoneのカメラ機能を用いた入出荷検品、ロケーション管理などの機能も備える。

特に商品の在庫管理や入出荷検品については、担当者が”Excel”や“紙で出力した注文リスト”を使って実施しているケースがまだまだ多いそう。その結果として単純に作業工数がかかるだけでなく、入力ミスや確認ミスによる誤出荷・送り忘れなどにも繋がり、事業者にとって大きな課題となってきた。

もちろん在庫管理システムを始めとした解決策はすでに存在するが、価格や使い勝手の面がネックになりいまだにアナログな手法を選んでいる事業者も少なくないようだ。たとえば入出荷検品にはハンディターミナルが使われることが一般的だが、一台あたり約30万円するため導入コストは安くない。

その点ロジクラではフリーミアムモデルを採用し、基本となる在庫管理や入出荷管理機能は無料で提供(拠点数やユーザー数の制限あり)。iPhoneを使ったピッキング機能は月額1.5万円のスタンダードプランからの提供にはなるが、カメラを用いてバーコードを読み取ることにより“ハンディターミナル無しで”検品作業をスムーズに実施できる仕組みを構築した。

2019年末の時点で導入企業は1万社を突破。ニューレボ代表取締役の長浜佑樹氏によると当初は有料モデルのみで展開していたが、キャッシュアウトの危機を迎えたこともあり2018年11月に思いきってフリーミアムモデルへと転換したところ、そこから一気にユーザーが増えたそうだ。

現時点では有料で使っているユーザーは1万社のうちの一部にすぎないが、ビジネスモデルを変えて以降は次第に有料化も進み売り上げが拡大してきているとのこと。以前は年商1億円未満の小規模な事業者の利用が多かったものの、現在は1億円〜10億円ほどの中堅企業にも導入が進み始め、単価も上がっているという。

昨年は受注管理システム「ネクストエンジン」やECプラットフォーム「Shopify」とのAPI連携にも力を入れ、ユーザーの使い勝手を向上させるべく機能改善を続けてきた。ユーザーからの要望に合わせて、賞味期限管理機能やロット管理機能なども新たに搭載していく予定だ。

今回の資金調達もそれらの取り組みを加速させるためのもの。開発体制を強化して機能面のアップデートを図るほか、ビジネスサイドの体制強化およびマーケティングへの投資を通じて新規ユーザーの獲得とともに有料プランのユーザー増加を目指していく。長浜氏も1万社を超える既存ユーザーの中から、どれだけの企業に有料で使ってもらえるかが1つのポイントだと話していた。

在庫データを軸に需要予測や金融商品の展開へ

また今後の展開としては「物流郡戦略」として他社とも連携しながら新たな事業や取り組みを展開していく計画だという。

具体的には上述したネクストエンジンなどの例と同じく、API連携を含めて他社と上手く組みながらロジクラの利便性を高めていくほか、蓄積した在庫データを軸に「需要予測」「金融商品」「在庫売買のマーケットプレイス」といった試みも進める。

需要予測については以前から長浜氏が言及していたもので、小売企業にとって大きな課題である“過剰在庫”の削減が大きな目的。これまでは担当者の勘や経験を頼りに行なっていたが、そこに在庫データをAIで分析した需要予測を取り入れ、さまざまな企業がその恩恵を受けられるようにパッケージとして提供していきたいという。

「需要予測としてよくあるのは特定企業の過去のデータと外部データを掛け合わせてその企業にカスタマイズしたアルゴリズムを提供するというもの。一方で自分たちが目指しているものは、複数企業の特定商品の売れ行きなどの実データを活用して、別の企業に対してその商品の売れ行きなどを予測するもの。これはロジクラがフリーミアムでデータを集めているからこそできる予測の仕組みだと考えている」(長浜氏)

金融商品やマーケットプレイスは、過剰在庫の削減とは別の角度から事業者の成長を支援する意味合いが強い。金融商品については今回株主として参画したオリコと業務提携を締結。まずはロジクラユーザーへオリコのローンなどを提供するところからスタートし、ゆくゆくは入出荷データなどを活用した新サービスを共同開発していく予定だ。

データとテクノロジーを活用した新しい融資の仕組み(オルタナティブレンディングと呼ばれたりもする)は近年国内外でも増えつつある。たとえば国内ではマネーフォワードがクラウド会計データや銀行などの明細データを用いたオンライン融資事業を展開しているが、こういった事業が各領域で増えていく可能性はあるだろう。

「本当は借りられる力があるものの、既存の金融機関では融資を断られてしまっているような事業者に新しい機会を提供できるようなサービスを作っていく」(長浜氏)ことが目標とのこと。ゆくゆくは動産担保融資なども検討していくようだ。

もう1つの在庫売買マーケットプレイスはロジクラユーザー間で在庫を売買できる場所を想定している。ロジクラ上からスムーズに出品できる仕様により、手間なく使えることが特徴。従来はかなり安い価格で処分していた在庫を少しでも高い値段で販売でき、仕入れる側はお得な価格で購入できるプラットフォームを作っていきたいという。

「自分たちのミッションは『在庫データを活用し、企業の成長を支援する』こと。ロジクラを通じて蓄積してきた在庫データを用いて、過剰在庫の削減はもちろん、新しい成長支援手段の実現や売上拡大にも貢献できるように事業を広げていきたい」(長浜氏)

AIによる需要予測で過剰在庫の削減へ、物流スタートアップのニューレボが5000万円を調達

通販事業者向けのクラウド在庫管理システム「ロジクラ」を提供するニューレボ(New Revo.)は12月20日、ジェネシア・ベンチャーズを引受先とする第三者割当増資により総額5000万円を調達したことを明らかにした。

同社はこれまでにも2016年9月にF Venturesから、2017年8月にDGインキュベーションから資金を調達。今回新たに調達した資金をもとに、データ収集や機械学習の精度向上・体制強化を進め、AIを用いた需要予測機能などプロダクトの拡張を進める。

通販事業者の負担となる入出荷作業をシステムで効率化

ロジクラは商品の入荷から在庫管理、出荷までを一気通貫で管理できるシステム。バーコードやラベルの発行、在庫管理、通販サイトの受注取り込み、納品書の作成といった一連の物流業務をクラウド上で完結できることが特徴だ。

ニューレボ代表取締役社長の長浜佑樹氏によると、通販事業者が在庫管理や発送を行う現場では未だに紙やFAXを中心としたやりとりや、目視での検品作業などアナログな部分が多いそう。それが生産を低下させる原因になっているという。

「中小のEC事業者では自社で商品の出荷まで行っているところが多い。他の業務もある中で注文データと目の前の商品があっているかなど逐一目視でチェックするのは負担になる。加えて送り状の記入なども毎回手書きでやっているのが現状。このようなアナログな作業をデジタル化することで生産性を上げたい」(長浜氏)

なんでも通販事業者によっては、全体の60%以上が検品作業など入出荷に関する業務に使われているという。その点は長浜氏自身も学生時代に倉庫業務のアルバイトを経験していて、同じ課題を感じていたそうだ。

ロジクラでは商品のバーコードをスマホで読み取りクラウド上で管理することで、目視で行っていた際に起こり得る検品作業のミスや無駄な時間の削減など、入出荷業務をスムーズにする。目標は「現場の入出荷作業の時間を80%削減する」ことだ。

サービス自体は11月上旬から事前登録ユーザーの募集を始めたところ。すでに約50社から問い合わせがあり、これからテスト版の運用を実際に始めていくフェーズだという。

蓄積したデータをもとにAIで需要予測、過剰在庫の削減へ

ニューレボ代表取締役社長の長浜佑樹氏

現在のロジクラでは上述したようなクラウド在庫管理機能のみを提供しているが、目指しているところはもう一歩先。蓄積された在庫データなどを解析することで、在庫の需要予測までできるシステムだ。

ニューレボが内閣府の資料をもとに計算したところ、国内の中小企業の倉庫には売れずに眠っている「過剰在庫」が54兆円ほど存在しているという。また平成28年には過剰在庫がキャッシュフローを圧迫し1週間に1社のペースで企業が倒産するなど、過剰在庫が大きな問題となってきた。

「過剰在庫が発生する原因のひとつは、発注担当者が自分の経験や勘で発注してしまうこと。欠品を恐れて必要以上に発注してしまった結果、在庫が増えてキャッシュを回収できないという状況に陥ってしまう。1番の問題はデータに基づいた需要予測ができていないことにあると考えた」(長浜氏)

そこでロジクラでは在庫管理システム上に蓄積された在庫・販売データと、景気動向や天気など外部のデータを組み合わせて解析。企業ごとに最適化された需要予測ができる機能を構築する計画だ。

「完全に過剰在庫をなくすことは難しいが、予測と出荷実績のばらつきを抑えることはできる。需要予測機能を使った場合の在庫の削減目標は30%。それだけでも大きなインパクトがある」(長浜氏)

ニューレボでは今回の資金調達を機に、統計解析や機械学習をはじめとしたAI技術を保有する人材の採用を強化する。2019年度までに各企業に最適化された需要予測機能を提供することが直近の目標だ。また長期的には在庫データをもとにした在庫売買のプラットフォームや在庫を担保にしたレンディングなど、「在庫データ」ビジネスの展開も検討していくという。

ニューレボの創業は2016年の8月。代表の長浜氏が学生時代にシリコンバレーでUberに出会ったことが起業のきっかけだ。自身がアルバイトなどで交通や物流領域の仕事をしてきたこともあり、当初は食品や日用品の即日配送アプリ「FASTMRT(ファストマート)」を運営。そこからより物流業界の大きな課題に着目する形で、在庫管理を効率化するロジクラを始めている。