アマゾンはなぜ家庭用ロボット「Astro」を作ったのか

iRobotのCEOはかつて筆者にいたずらっぽくこう言った。「掃除機のセールスマンになって初めて私はロボット技術者として成功した」と。いいセリフだし、ロボット業界の根本的な真実をさらけだしてもいる。ロボットは難しく、家庭用ロボットはさまざまな意味でさらに難しいのだ。

ルンバなどのロボット掃除機が収めた大成功を超える術を誰も解き明かしていないのは、挑戦していないからではない。これまで、主にAnkiJiboなどスタートアップに分類される企業が取り組んできたし、珍しい例外としてはBoschが作ったKuriもある。ところが米国時間9月28日、Amazon(アマゾン)がこの問題に莫大なリソースを投入していることを明らかにした。

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単にリソースを投入しているというだけではない。Amazonは同社初のロボット「Astro」を発表した。この製品はAmazonのDay One Editionプログラムの1つとして市場に第一歩を踏み出す。以前に同社はKickstarterやIndiegogoのように顧客が予約注文に投票できるこのプログラムを活用していた。新しいロボットには、アニメ「宇宙家族ジェットソン」の犬、The White Stripesのデビューアルバムに収録されている曲、ヒューストンのプロ野球チームと同じ名前が付けられ、2021年中に限定発売される。Day One Editionプログラムで発売された製品には小型プリンタやスマート鳩時計などがあったが、Astroはこのプログラムの中では飛び抜けて野心的なデバイスだ。999ドル(約11万円)と、このプログラムの中では最も高価でもある。

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ただしこの価格は早期購入者に限られる。Amazonの報道資料には以下のように書かれている。

Astroの価格は1,449.99ドル(約16万円)ですが、Day 1 Editionsプログラムの一環として999.99ドル(約11万円)の早期購入価格で提供します。Ring Protect Proの6カ月間無料試用が付属します。

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発売時点のこのロボットには、主に3つの機能がある。

  1. ホームセキュリティ
  2. 大切な人の見守り
  3. 家でのAlexa体験のモバイルバージョン

Amazonはおよそ4年前からロボットに取り組み始め、社内のさまざまな部門を活用して完全に実現可能なホームロボットを開発した。

AmazonのバイスプレジデントであるCharlie Tritschler(チャーリー・トリッシュラー)氏はTechCrunchに対し「AI、コンピュータビジョン、処理能力について話し合い、そこで挙がったトピックの1つがロボットでした。消費者が利用できるようにするためにロボットはどう変化しているのでしょうか。我々にはもちろんフルフィルメントセンターでロボットを利用してきた経験は大いにありますが、家にいる消費者に利便性や安心を提供するために何ができるかを考えたのです。そこから考え始め、最終的には『ねえ、これから5年後か10年後に家にロボットがいないと思う人がいる?』ということになりました」と語った。

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2012年にKiva Systemsを買収したことから始まったAmazon Roboticsが、コンシューマチームのアイデアに共鳴した。しかしAmazonのそれまでのロボット技術は業務用で、最短の時間で荷物を配送することに主眼が置かれている。最終的に同社はAstroのコンポーネントをゼロから作らざるを得なかった。その中には最も注目すべきものとして、家の中のマップを作り移動するために使われるSLAM(Simultaneous Localization And Mapping、自己位置推定と環境地図作成の同時実行)システムがある。

SLAMシステムは複雑な仕事を引き受けているだけでなく(これはiRobotが10年間かけて改良してきたことだ)、現在Amazonが有しているロボットテクノロジーをも考えると、筆者はこれには特に驚いた。Amazonは2019年に完全自律型倉庫用カートのスタートアップであるCanvasを買収した。しかしAmazonはこの新しいSLAMシステムはゼロから開発したもので、ロボット関連スタートアップの買収を検討したものの最終的にはAstroを作るための買収はしなかったと主張している。ただし、Ringのセキュリティ監視や、Alexaとホーム関連テクノロジーといった社内の技術は、Amazonのスマートアシスタントとなるこのロボットに組み込まれている。

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筆者は発表の前週にAstroに触れる機会があり、このロボットはちょっと二重人格っぽいと感じた。このロボットのメインの人格は、R2-D2やBB-8、Wall-Eのようなものと表現するのが最も適切だ。顔は、実際には画面、あるいはタブレットと言えるもので、太い小文字のo(オー)が2つ並んでいるような極限までシンプルな目が表示されている。この目が時折まばたいたり動いたりするが、Ankiがピクサーやドリームワークスのアニメーターだった人材を雇って作ったCozmoほど表情豊かではない。

ときどき電子音が鳴って、前述したスター・ウォーズのR2-D2やBB-8をさらに思い起こさせる。ロボットに「Astro」と呼びかけることができるが、もっと直接的に会話をしたいときはどこかの段階で音声アシスタントでおなじみの「Alexa」と話しかける必要がある。

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Astroの10インチタッチスクリーンの顔はちょっとした人格を表現することに加え、標準的なEcho Showのディスプレイとしても機能するので、動画を見たりビデオ通話をしたりスマートホームのコントロールをしたりすることができる。画面は自動で動くが、見やすいように手で60度傾けられる。この画面はAmazonの新しい顔認証であるVisual IDにも対応し、Astroは相手に合わせたやりとりをする。

スピーカーも2つ搭載されている。ロボット自体は驚くほど静かだ(ロボット掃除機ではないですからね)。Amazonが筆者に語ったところによると、実は家の中を動いていることがわかるように電気自動車のような音を付ける必要があったという。ただし車輪の向きを変えて方向転換をするときにはサーボ音が鳴る。

後方のスペースには4.4ポンド(約2キロ)まで物を積むことができる(オプションのカップホルダーがある)。内部にはUSB-Cポートがあり、携帯の充電に使える。Astro自体はルンバのようなドックを使用し、バッテリーが空の状態から1時間未満でフル充電される。

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当然のことながら、多数のセンサーが搭載されている。例えば土台部分には近接センサーがある。カメラは2つ組み込まれている。顔である画面のベゼルには5メガピクセルのRGBカメラがあり、もう1つは驚くこと間違いなしだが頭の上から飛び出してくる。飛び出してくる方の12メガピクセルのRGBと赤外線のカメラは、ライブストリーミングのためのものだ。このカメラの土台は伸縮式で4フィート(約120センチ)の高さまで伸び、ロボットが周囲をよく見るための潜望鏡のような役割を果たす。

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筆者はロボットや制作チームと1時間ほど一緒に過ごした結果、このチームが作ったものにかなり心をひかれた。もちろんどれほどの人がこれを所有することに関心を持つかはまったく別の問題だ。AmazonはAstroを「数千の」家庭でテストし、曲がり角で止まってしまうなどの不具合を解決したという。Day Oneプログラムはパブリックベータというよりは製品に対する顧客の関心を測定する手段だ。

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トリッシュラー氏は次のように述べている。「私は、これは我々が取り組んでいるロボットシリーズの第1号だと思っています。これは招待制のみのプログラムです。家庭などいろいろな場所での難しさはあると思いますが、Astroを手に入れた人々がすばらしい体験をしてくれるよう願っています。長期的に消費者向けロボットを考えると、もちろんさまざまな価格帯や機能があり、その1つとしてわかりやすく主力となる製品が欲しいところです。しかしAstroは、我々が価値を作り出そうと開発当初から取り組んできたことを再確認し、我々のしてきたことが消費者にとって意味があると確かめる出発点としては良いものだと思います。2021年中にこの製品の出荷を開始し、フィードバックが寄せられることに期待しています」。

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(文:Brian Heater、翻訳:Kaori Koyama)

ゲームやチャットを通じて新しい言語を学べるソーシャルロボ


言語学習で一番重要なのはなんといっても繰り返し練習することだ。ここで紹介する愉快なロボットは、この過程を楽しくし言語学習を助ける。TechCrunchのCatherine Shu(キャサリン・シュー)が開発元であるEMYS共同創業者のJan Kędzierski(ヤン・カジールスキ)氏にインタビューした。

EMYSはソーシャルロボットで、ゲームやチャットを通じて新しい言語を学ぶ手助けをする。ロボットは子供たちに親しみやすく表情を読み取りやすいデザインとなっており、ジェスチャーとタッチに反応する。カジールスキ氏はポーランドの大学ですでに10年近くソーシャルロボットを開発してきたためテクノロジーとノウハウは十分にあった。現在子どもたちが新しい言語を学習する手法は効率的とはいえない。そこでソーシャルロボットの商用化を目指す際、この分野は非常に大きくかつ有望な市場だと考えたという。

EMYSは3歳から7歳までの子供たちをターゲットにしている。ビデオの2:00前後でデモされているようにロボットはゲームを通じて楽しく言語を教えることができる。当面ヨーロッパと中国の市場を考えているが、これらはまったく異なった性格の市場なのでソフトウェアからマーケティングまでそれぞれに適したアプローチが必要だという。

中国では両親が子供たちの外国語習得にかける熱意は高い。欧米では子供たちは多数の科目を学ばねばならず宿題も出るため外国語学習に当てるられる時間が少ない。カジールスキ氏は「欧米向けではゲーム性を高めるなどの工夫をする」と語った。ビジネスとしてはきわめて初期の段階だが、ユーザビリティを最優先していくという。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

Boston Dynamicsの四足ロボが病院内を闊歩、新型コロナの遠隔医療で活躍

この2週間、Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)のロボットであるSpot(スポット)は、地元のBrigham and Women’s Hospital(ブリガム・アンド・ウィメンズ病院)の廊下を歩きまわっている。遠隔医療は会社の初期の主要製品リストには載っていなかったが、Boston Dynamicsは新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが生活のすべてを奪う存在になったことで方向転換した多くのテック企業に仲間入りした。

同社によると、3月初め以来同社のテクノロジーを遠隔医療に利用できないかという問い合わせが複数の病院から寄せられたという。

「Boston Dynamicsの下に届いた働きかけや、命を守る個人防護具(PPE)の世界的欠乏を踏まえ、当社はこの数週間に病院からの要望の理解を深め、当社のSpotロボットを使ったモバイルロボティック医療の開発に注力してきた」と同社は書いている。「その結果生まれたのが、緊急医療テントや駐車場などの特殊環境下で、パンデミックに対応する現場スタッフを支援する歩行型ロボットだった」。

iPadと双方向無線を搭載したSpotはモバイル遠隔会議システムとして利用されており、感染力の強いウイルスを拡散するリスクを負うことなく医師が患者を診察することができる。これは比較的簡単な仕事であり、多くのロボティック会社が積極的に取組んでいる分野だ。

多くの医療施設にとっては価格の壁があるものの、Spotの四足歩行は車輪システムがアクセスできない場所にロボットが訪れる可能性を開く。モジュール化されていることで、将来別の作業を遂行できる可能性を常に秘めている。Boston Dynamicsは、体温、呼吸数、脈拍、酸素飽和度などの生体信号を検知するシステムを搭載する検討を進めていると言っている。

将来は、ロボットに紫外線照射器を背負わせてモバイル消毒ステーションにすることもできるかもしれない。

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

無人カフェロボが丸の内・新東京ビルで実証実験開始、アプリから事前注文で待ち時間なくコーヒー受け取り

“カフェロボット”と聞いてどんなものを思い浮かべるだろう。多くの人は「Cafe X」のようにアーム型のロボットが自動でコーヒーを提供してくれるシーンや、おもてなしスキルを持ったロボットが丁寧に接客してくれる場面をイメージするかもしれない。

日本のNew Innovationsも無人カフェロボットを手がけるスタートアップの1社なのだけど、同社が開発する「root C」の見た目はどちらかというとロボットというより自動販売機に近い。エンタメ要素やイベント要素の強い「サービスロボット」的なものではなく、ユーザーが日常的に使えるように機能面や体験面をより重視した設計を選んだ結果がこのデザインだ。

ユーザーはロボットと連動した専用アプリを使えば、事前に自分の好みのコーヒーをオーダーして決済を済ませ、待ち時間なしにサクッとテイクアウトできる。価格は300円とコンビニコーヒーよりは少し高いかもしれないけれど、味や提供スピードの速さにはこだわった。

そんなroot Cが3月24日より東京・丸の内の新東京ビルに登場する。今回は三菱地所の協力のもとで行う実証実験という形で、4月6日までの約2週間に渡ってビルのB1Fと8Fの2箇所にロボットが設置される。

root Cのコーヒーを楽しみたい場合、ユーザーはまず専用アプリから「受け取り場所(今回はB1Fか8F)」「飲みたいコーヒーの種類」「受け取り時間」を選び、クレジットカードを使って事前決済をする。あとは指定した時間にロボットの元へ行くだけ。アプリでロッカーの番号を確認して自分のコーヒーを受け取れば完了だ。

味は「すっきりフルーティ」と「プレミアムスイート」の2つのフレーバーが用意されていて、それぞれホットとアイス、普通と濃いめの合計8タイプから好みのものを注文する。料金は一律300円だ。

3月24日〜4月6日までの実証実験期間中は平日7時30分〜19時の間で営業(24日のみ午後開始)。営業時間内であれば10分ごとに受け取り時間を細かく設定できる。

開発元のNew Innovationsにとって今回の実証実験は昨年8月に大阪・なんばで実施したものに続いて2回目となる。

前回はロボットの設置運営など基盤部分を検証することが主な目的だったこともあり、アプリはなく現地に行ってから自販機のように注文するスタイルだった。

そのためNew Innovations代表取締役の中尾渓人氏によると「アンケート結果を見ても味についてはかなり満足度が高かった一方で、全体の体験を踏まえると300円だとコスト的に見合わないという声もあった」という。

一方で今回はモバイルアプリによってコーヒーを受け取るまでの体験がデジタル化され、ハードウェア側にも大幅なアップデートが施された。20個の受け取り口を備えたロッカー風のデザインに変わり、一度に複数人が受け取れる仕様に変更。需要予測AIも実装し、込み合う時間帯でもなるべくスムーズにコーヒーを提供できる仕組みを作った。

「コーヒーを受け取るまでの体験をオンラインに乗せることで、いかに提供価値を上げていけるかがポイントだ。また今回も味にはかなりこだわっていて、特徴が出やすいものを2種類選んで提供する」

「将来的には、ひとりひとりが自分に合ったコーヒーと出会える体験を提供したい。(通常のカフェとコスト構造などが異なるため)あまり万人受けしないようなものも提供しやすいのが自分たちの1つの特徴。数十種類のコーヒーを用意した上で、過去のデータなどを元に個々に合いそうなものをいくつかレコメンドし、1番気に入ったものをスムーズに購入できるような体験を実現していきたい」(中尾氏)

“下膳ロボ”で飲食店の片付けを自動化、Google出身エンジニア創業のスマイルロボティクスが資金調達

人手不足の深刻な飲食店の課題をロボットやテクノロジーで解決する——最近はこの領域に取り組むテックカンパニーが増えてきた。

たとえば過去に何度か取り上げたコネクテッドロボティクスは“たこ焼きロボ”を含む調理ロボットを開発するスタートアップ。ほかにも調理や食器洗い、接客(無人カフェなど)といったように、それぞれの工程において作業を支援したり自動化するプロダクトが国内でも登場している。

今回紹介するスマイルロボティクスもその1社だ。同社が現在開発しているのは食後の食器を自動で回収してきてくれる“下膳ロボット”。アームを搭載して片付けを完全自動化しようというプロダクトはまだ世の中に存在しておらず、その実用化を目指している。

そんなスマイルロボティクスは1月30日、ANRIとディープコアより総額4500万円の資金調達を実施したことを明らかにした。今後ロボットの研究開発を加速させるために人材採用を強化するほか、複数の飲食店にてロボット導入の実証実験を進めていく計画だ。

テーブルまで移動してきてロボットがアームで食器を回収

スマイルロボティクスが手がけるプロダクトについては、実物を見てもらうのが手っ取り早いだろう。以下はプロトタイプのデモ動画だ。

あくまで開発段階のものではあるけれど、実現しようとしているのは動画のように「テーブルまで移動してきて食器をアームで回収し、バックヤードまで運んでくれるロボット」。スマイルロボティクス代表取締役の小倉崇氏の話では回収した食器をシンクにつける、もしくは食洗機にセットするところまでも視野には入れているという。

アームの付いていないロボットであればすでに存在するが、アーム付きとなると技術的な難易度も上がる。特にネックになるのが「認識技術と安全性の部分」(小倉氏)だ。

人が食事を終えた後の食卓は食器の位置や状態もバラバラ。その状況を正しく認識して適切に回収作業を行うのは、単純な作業を自動化することに比べて難しい。またお客さんの近くをロボットが移動していくわけなので、安全性も担保しなければならない。

スマイルロボティクスではディープラーニングをベースにしたAI認識技術や3Dセンサーといったテクノロジーをフル活用しつつ、多様な環境で動かすことができ、なおかつ安全にスピーディーに片付けを行うロボットの開発を目指している。

JSK出身、元SCHAFTのエンジニア達が挑む下膳の自動化

小倉氏はロボットの研究開発で有名な東京大学の情報システム工学研究室(JSK)出身だ。その後トヨタを経て、2014年に二足歩行ロボットを手がけるSCHAFTに加わった。同社は前年にGoogleに買収されていたので、Alphabet傘下のX(旧Google X)内でロボット開発を続けていた。

そのSCHAFTプロジェクトが2018年に解散したこともあり、自身で事業を立ち上げるべく2019年にGoogleを退職。同年6月にスマイルロボティクスを設立している。

ちなみに創業後すぐにジョインした椛澤光隆氏と小林一也氏もJSK出身で元SCHAFTのメンバー。スマイルロボティクスはバリバリのロボットエンジニア集団というわけだ。

スマイルロボティクスのメンバー(前列)と投資家であるANRIとディープコアのメンバー(後列)。前列左から小林一也氏、小倉崇氏、椛澤光隆氏。最前列は開発中のプロトタイプ

下膳をロボットで完全自動化すると聞くとロマンを感じるけれど、最初は小倉氏の「自宅の食卓の片付けが大変なので、自動化させたい」という個人的なペインがきっかけ。前職時代から自宅に作業ロボットを置いて片付けを効率化する実験もやっていたという。

「いざ起業すると決めた時にあれを本格的にやりたいなと思ったが、(価格などの面で)家庭向けに販売するのは難しい。それならB2Bはどうかと思い調査やヒアリングをしたところ、興味を示してくれる企業が複数いたので可能性を感じた」(小倉氏)

起業当初はカフェの業務自動化やラーメンを自動で作る機械など、周囲のニーズを参考にいろいろなロボットを作ってみることから始めたそう。ただそれらは比較的簡単に作れてしまうものも多く、自分たちではやらないことを決めた。

「ビジネスが得意な人たちが容易に参入できる領域では不利なので、技術的に難易度が高くないことは自分たちのチームでやるべきではないなと。その点、アーム付きの移動するロボットを作り一般の人もいる場所へ導入していくというのは、ものすごくチャレンジング。自分が知る限りはまだ誰も実現していないからこそ、自分たちの強みを活かせる」

「また個人的にはロボットを工場から身近なものへどんどん近づけたいという思いをずっと持っていた。飲食では普通の人が入ってこない調理場は工場に近く、その調理場とお客さんをつなぐ下膳はちょうど中間的な位置付けで自分のやりたいことにも合致する。従来は調理場にこもりがちだったロボットを、もう一歩、人がいるところへ進出させていきたい」(小倉氏)

複数の飲食チェーンから引き合い、今後は実証実験へ

飲食店の業務を「キッチン」と「ホール」に分けた場合、キッチンの中でも調理や盛り付けの工程にはすでにいくつものプレイヤーが参入している。加えて小倉氏によると「ロボット技術というよりは調理器具に近く、自分たちの専門からは少し外れるイメージ」だという。

一方でホールに関しては、飲食店に話を聞くと「接客にはこだわりがありできれば人の手でやりたい」という声も多かった。そんな中で自動化に対する反応が1番良かったのが下膳だ。

「どの飲食店も人手不足に困っている反面、自動化したり、セルフにしたりすることに抵抗がある業務も多い。ただ下膳に関しては基本的に人がやっても大きな付加価値を出しづらい領域。そこに人手をかけるよりは、自動化することで他の仕事にもっと人の力を使いたいというニーズがあることがわかってきた」(小倉氏)

特に1店舗当たり10人ほどが働いている中規模〜大規模な飲食店は相性がいいと考えているそう。人手不足な上に今後新規の採用が難しくなる中で、下膳を自動化することによって業務負担を減らしたいというニーズは大きい。国内に約60万店ある飲食店のうちだいたい20%は10人以上が働いてる店舗であり、まずはここがメインのターゲットになりそうだ。

現在すでに数十〜数百店舗を持つ大手ファミレスチェーンやファストフード店、寿司チェーン、ラーメンチェーン、大手介護施設などと話を進めている状況で、今後実証実験に取り組む予定。1番早いところでは5月ごろのスタートを目処に検討しているという。

面白いのは飲食チェーンが多い中で介護施設も含まれていること。介護施設でも入居者の状態に合わせた食事を提供しているが、できれば下膳よりも食事のサポートやコミュニケーションにスタッフの時間を使いたいという思いがある。下膳の自動化ニーズは必ずしも飲食店に限ったものではないのかもしれない。

とはいえ、現時点ではまだまだプロトタイプを開発しているフェーズ。まずは今回調達した資金を人材採用の強化とロボットの開発に投資し、プロダクトをアップグレードした上で実証実験に取り組んでいく。

小倉氏は笑いながら「もしかしたらいつの間にかアームがなくなっているかもしれない」と話していたけれど、それは冗談としてもプロダクトの仕様やターゲットとする顧、具体的な価格などは現時点でカチッと固めすぎず現場のニーズを確かめながら柔軟に対応していく方針だ。

「ロボットはどこまでいってもハードウェアから離れらないので、本当に高品質なものを作るためにはハードウェアを自分たちで押さえる必要があると思っている。時間はかかるかもしれないが、将来的にはAppleみたいにハードウェアとソフトウェアがものすごい強い結合をすることで、めちゃくちゃ品質の高いものを生み出すようなチャレンジをしていきたい」(小倉氏)

宇宙飛行士の作業をロボットで代替し作業コスト100分の1以下へ、GITAIが約4.5億円調達

1時間で約500万円(5万ドル)——。これは1人の宇宙飛行士が1時間宇宙で作業を行う際に発生すると言われているおおよそのコストだ。

ここ数年、世界的に宇宙開発の競争が加熱するに伴い宇宙での作業ニーズが高まっている。国際宇宙ステーション(ISS)の商業化が検討されているほか、米国民間企業を中心に宇宙ホテルや商用宇宙ステーションの建設が進められていることからも、今後さらにその需要は急増していく可能性が高い。

その際にネックになるのが冒頭でも触れた宇宙飛行士のコストや安全面のリスク。今回はこの課題に対して「地上から遠隔操作できる宇宙用作業代替ロボット」というアプローチによって作業コストを100分の1に下げる挑戦をしているスタートアップ・GITAIを紹介したい。

同社は8月20日、Spiral Ventures Japan、DBJ Capital、J-Power、500 Startups Japan(現Coral Capital)より総額で410万ドル(約4億5千万円)の資金調達を実施したことを明らかにした。

GITAIは2016年9月にエンジェルラウンドでSkyland Venturesから約1500万円、2017年12月にシードラウンドでANRIと500 Startups Japanから約1.4億円を調達していて、今回はそれに続くシリーズAラウンドという位置付け。

調達した資金はGITAIロボットの開発費用として活用するほか、2020年末に予定するISSへの実証実験機の打ち上げ費用に使う計画だ。

なお本ラウンドは6月末に実施したものであり、GITAI創業者兼CEOの中ノ瀬翔氏によると年内を目処に追加調達も検討しているとのこと。その場合はトータルで最大10億円規模となる見込みだという。

宇宙飛行士の「運用メンテナンス」の多くは代替できる

GITAIはユーザーがVR端末やグリップを装着することで、離れた場所にあるロボット(アバター)を自分の身体のように制御できる「テレプレゼンスロボット」を開発するスタートアップだ。

360度カメラを搭載したロボットの視界がディスプレイ越しに共有されるほか、ロボットの腕の動きや触覚の一部もグリップを通じて共有することが可能。前回「フレームレートと解像度を維持しながらユーザーとロボット感の遅延を抑える低遅延通信技術」を1つの特徴と紹介したが、最新の6号機ではそれに加えてデータ削減・圧縮技術や負荷低減技術を始め、専門性の高いメンバーが各分野の技術を結集させた高性能なロボットとしてパワーアップしている。

宇宙ステーションの限定的なネットワーク環境を前提に、スイッチ操作や工具操作、柔軟物操作など従来のロボットでは難しかった汎用的な作業を1台のロボットで実施できるレベルに至っているそう。このロボットをまずはISSへと送り込み、地球にいるオペレーターが遠隔制御することで宇宙飛行士が担ってきた汎用的な作業を代替しようというのがGITAIの取り組みだ。

「宇宙飛行士のコストの8割以上が交通費。つまりロケットの1回あたり打ち上げコスト×打ち上げ回数でここがほとんどを占める。(宇宙放射線の影響があるため)だいたい3ヶ月に1回くらいの頻度で地球と宇宙を人が行き来しているほか、その倍くらいの頻度で補給物資が送られている」(中ノ瀬氏)

この一部がロボットに変わるとどうなるか。まず宇宙ステーションに送り込むのが人からロボットに変わるだけで、安全の審査や訓練などが不要になり1回あたりの打ち上げコストを大きく抑えられる。加えてロボットの耐久性があることが条件にはなるが、放射線の影響も受けないので地球と宇宙の間を行き来する回数を減らせるのはもちろん、物資の補給回数も減らせるため全体の打ち上げ回数自体も削減できる。

生身の宇宙飛行士であれば1日に作業できる時間は約6.5時間と限られるが、ロボットであればオペレーターを交代制にすれば24時間働き続けることも可能。これらの組み合わせによって宇宙での作業コストを100分の1以下まで減らせるという。

もちろんこれはGITAIロボットが宇宙飛行士の作業を代替できることが前提だ。

「実は極めて重要な宇宙飛行士の作業時間の内、だいたい8割くらいの時間が掃除を始めとした『運用メンテナンス』に費やされている。その多くは人間じゃないとできない作業ではなくロボットでも代替できるもの。これが進めば科学実験や広報など、宇宙飛行士が人間にしかできない仕事にもっと多くの時間を使えるようにもなる」(中ノ瀬氏)

GITAIでは2018年12月にJAXAと共同研究契約を締結し、GITAIロボットによる宇宙飛行士の作業代替実験に取り組んできた。3月時点で主要作業18個のうち72%(13個)は代替に成功したと紹介したが、現在は部分的にではあるものの18個全てを代替できるようになった。

「現時点では人間が1分でできる作業をこなすのに3〜10分かかるようなものもあり、実用化できる段階までには達していない。少なくともそれを3分以内に、なおかつ100回やれば100回成功する精度まで上げていくことが必要だ」(中ノ瀬氏)

今は1秒間の遅延が発生しても人間が遠隔から制御した方がスムーズな作業が多いため、動作の約9割を遠隔から操作し、残りを自律化して対応しているそう。中ノ瀬氏の話では遠隔制御と自律化のハイブリッドが最もパフォーマンスが上がると考えていて、本番環境では半分くらいの作業を自律化することを見据えている。

量産化ではなく高単価一点物、人件費よりも交通費に着目

GITAIはもともと中ノ瀬氏の個人プロジェクトを法人化したものだ。最初から宇宙領域にフォーカスしていた訳ではなく、マーケットリサーチやユーザーヒアリングを進める中で「最もビジネスとして成立するチャンスがあると考え宇宙領域に絞った」(中ノ瀬氏)という。

技術的な観点では今の段階で性能の高い汎用的なロボットを実現するのは難しく、ましてや完全自律型となると世間で期待されているようなことはまだ全然できていない。それでもコストは数千万円規模になり量産化のハードルはものすごく高い。そのレベルではビジネスとして成立しないが、オペレーターが裏側いる『半遠隔・半自律型』であれば性能が上がり解決策として機能すると考え、このテーマでに取り組み始めた」(中ノ瀬氏)

その上で領域を絞るにあたり中ノ瀬氏が着目したのが「交通費」だ。ロボット企業の中にはロボットを人件費削減のソリューションとして期待するケースも多いが、性能が低く単価の高いロボットが今の段階で人を置き換えられる可能性は低い。むしろ交通費が非常に高い業界や、人間が行くにはとても危ない領域にロボットを持ち込めば人間が行く必要がなくなり、ビジネスになると考えたそうだ。

合わせて「量産化はしない」ことを決断。量産化を目指せば結局性能が下がってしまい、量産機のコストも数千万円規模になるのでビジネスとして成り立ちにくい。そうではなく高単価一点物で成り立つ領域に定めることにした。

「それらの条件に唯一合致したのが宇宙。もともと交通費が何百億とかかっているので、仮にロボットが1台1億円しても十分成立する。特に宇宙ステーションが民営化されていく流れがあり、民間の宇宙ステーションも増えている状況だったので、まずここに絞って半遠隔のロボットを投入すれば技術的にもビジネス的にも実現できると確信を持った」(中ノ瀬氏)

GITAIには今年の3月にSCHAFTの創業者で元CEOの中西雄飛氏が新たにCOOとして加わった。中西氏は同社をGoogleに売却後も継続して二足歩行ロボットの実用化に向けたプロジェクトに携わっていた人物。2018年末でSCHAFTはGoogle社内で解散となったが、新たなチャレンジの場としてGITAIを選んだ。

「中西自身もSCHAFTで自分たちと同じ結論にたどり着いた。彼はGoogle内で大規模な予算と優秀なメンバーとともに完全自律型の量産機の実現を目指したが、現在の技術水準では実用化に至らなかった経緯がある。でも裏にオペレーターがいてもよく、高単価一点物の領域であれば解決策になりうる。ちょうどタイミングが合ってオフィスに遊びに来てもらった時にGITAIの構想やチームに共感してもらい、一緒にチャレンジすることになった」(中ノ瀬氏)

中ノ瀬氏が「各領域に詳しい世界クラスのメンバーが集まっていて、チームの総合力の高さは1番の強み」と話すように、9人のフルタイムメンバーのうち6名は博士号の取得者。そのうち5名は東京大学情報システム工学研究室(JSK)の出身で、各自が磨いてきた技術を持ち寄り1台のロボット開発に取り組んでいる。

2023年を目処にISS内でサービスイン目指す

今後GITAIでは2020年末にISSへの実証実験機打ち上げを予定しているほか、2023年を目処にISS内での汎用作業代替ロボットサービスのリリースも計画中。まずは宇宙機関からスタートし、徐々に民間の宇宙ステーションにもターゲットを広げていく戦略だ。

「ビジネスモデルとしてはロボットを売るわけではなく、ロボットによる作業代行サービスを宇宙で提供する。1時間で500万円かかっていた作業を1時間50万円で実現するイメージだ。初期の顧客層はNASAを中心とした宇宙機関。宇宙飛行士の単純作業に多額の税金がかかっているので、それを民間にアウトソースする流れ自体はすでにある。まずはそこをロボットで代替していく」(中ノ瀬氏)

実用化に向けては「1秒遅延環境での自律化の推進」「無重力環境下でも動くための『脚』の開発」「2年間現地で働けるレベルの耐久性の実現」などクリアしなければならない課題も残っていて、引き続きプロダクトの改良を進めていくという。

宇宙市場は30兆円を超える巨大なマーケットであり、宇宙ステーションの中に限らず事業を拡大できるポテンシャルも大きい。GITAIでも宇宙ステーションの検査・修理、小型衛星の燃料補給、デブリ回収などの作業を代替するロボットや月面基地建設ロボットなど、宇宙領域での横展開も視野に入れているようだ。

「今宇宙では汎用的な作業ができるようなロボットが求めらているが、そこで必要とされるのはロボット技術者。自分たちの特徴はそこに強みを持つメンバーが中心となって開発していること。自分たちがやろうとしているのは地上の汎用的なロボット技術を宇宙に持っていくことであり、そういった観点から見るとやれることはたくさんあると感じている」(中ノ瀬氏)

針の頭に載るLiDAR開発のVoyant Photonicsが約4億円超を調達

LiDAR(Light Detection and Ranging、光による検知と測距)は、ロボットや自律運転車が周囲の世界を認識するのに欠かせない装置だが、レーザーやセンサーは大変にかさばる。しかし、Voyant Photonics(ボヤント・フォトニクス)の場合は違う。彼らは、文字通り針の頭の上にバランスよく載ってしまうほどのLiDARシステムを開発した。

科学的な解説の前に、これがなぜ重要なのかを説明しておこう。LiDARは、車が中距離の物体を検知する方法として使われる。長距離になるとレーダーが、至近距離になれば超音波センサーがより有利だが、1メートルから数十メートルの範囲ではLiDARが便利になる。

残念なことに、現在最もコンパクトなLiDARでも、まだ握りこぶしほどの大きさがあり、市販車両に搭載できる製品は、それよりも大きくなる。超小型のLiDARユニットを車の四隅に、あるいは室内に配置できれば、車の内外の詳しい位置データが取得できるようになる。消費電力もわずかで済み、車のアウトラインやデザインを損なうこともない(それがために、LiDARを利用できる無数の産業に普及せずにいる)。

翻訳記事:光速で変化するLiDER業界:スタートアップCEOたちの展望(未訳)

LiDARは、1本のレーザーを1秒間に何度も扇状に照射して、その反射を正確に測定することで周囲の物体までの距離を継続的に監視するというアイデアから始まった。しかし、レーザーの角度を変えるメカニズムは大きくて遅く、エラーも多い。そこで、新進の企業では、別の方式を試すところもある。一度に領域全体にレーザーを照射するもの(フラッシュLiDAR)や、複雑な電子的特性を持つ構造体(メタマテリアル)でビームを操作するものなどだ。

そこにぜひとも加わってほしい技術に、シリコンフォトニクスがある。基本的には、ひとつの多目的チップで光を操るというものだ。これを使えば、たとえば、論理ゲートの電気信号を、超高速で熱を持たない処理に置き換えることができる。Voyantはまさに、LiDARにシリコンフォトニクスの技術を適用したパイオニアなのだ。

以前は、チップベースのフォトニクスで、光導体(光を発したり方向を変えたりする素子)の表面からレーザーのようなビームを安定的に照射しようとすると、込み入った場所で光が自分自身と干渉してしまい、照射角度もパワーも小さくなってしまった。

Voyantの「光学フェーズドアレイ」では、チップ内を通過する光の位相を慎重に変更することで、その問題を回避している。その結果、可動部品を一切使わず、周囲の環境に強力な非可視光線を広い角度で高速に照射できるようになった。しかもその光線は、指の先に載るほどまでに小さなチップから発せられる。

「とても小さいので、これは実現技術です」と、Voyantの共同創設者であるSteven Miller(スティーブン・ミラー)氏は言う。「私たちは1立方cmのサイズを考えています。世の中には、ソフトボール大のLiDARは搭載できない電子機器がたくさんあります。ドローンなどの重量が大きく関わってくるものや、腕の先に部品を組み込まなければならないロボットなどを想像してみてください」

彼らのことを、ほんの数年、他より研究が進んでいると思い込んでいるだけの、どこの馬の骨とも知れない連中だと思わないでほしい。ミラー氏と共同創設者のChris Phare(クリス・フェアー)氏は、コロンビア大学Lipsonナノフォトニクス・グループの出身だ。

「その研究室で、シリコン・フォトニクスが発明されました」とフェアー氏は話す。「私たちはみな、物理学とデバイスレベルの機器に深く精通しています。だから私たちは、LiDARを一歩下がって客観的に眺め、これを実現させるために、どこを直し改善すべきかを考えることができました」。

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彼らが実現した進歩は、正直言って私の専門外なので、あまり詳しくは解説できない。ただ、干渉の問題を解決し、周波数変調連続波技術の採用により、距離だけでなく速度も測定できるようになった(これはBlackmoreも行っている)ということは言える。ともかく、チップから光を放ち動かすという彼ら独自のアプローチは、小型化を実現しただけでなく、トランスミッターとレシーバーを一体化し、性能も高めることにもなった。このサイズにしては高性能、という意味ではない。彼らは、普通に高性能なのだと主張している。

「小型のLiDARは性能が劣るという誤解があります」とフェアー氏は言う。「私たちが採用しているシリコン・フォトニックのアーキテクチャにより、非常に高感度のレシーバーをチップに搭載できました。従来の光学技術では組み立てが難しかったでしょう。そのため私たちは、この微小なパッケージに、部品を追加したり外来の部品を使ったりすることなく、高性能なLiDARを組み込むことができました。一般的なLiDARと張り合える性能を達成できると、私たちは信じています。しかも、ずっと小型です」。

テストベッド上のチップベースのLiDAR(左上からファイバー入力、配線端子、移相器、回折格子エミッター)

このチップは、他のフォトニクス・チップと同じく、通常の方法で製造できる。これは、研究段階から製品化へ移るときに大きな利点となる。

今回のファーストラウンドの投資で、同社は規模を拡大し、この技術を研究室から外へ持ち出してエンジニアや開発者の手に届ける予定だ。正確な仕様、サイズ、消費電力などは、用途や使用する産業によって異なるため、Voyantは他分野の人たちからの意見を聞いて決めることになる。

自動車業界(ミラー氏によると「LiDARを作っている企業がなく、そこに参入を目指している企業もないので、かなり大口の利用者になります」とのこと)だけでなく、彼らはさまざまなパートナー候補者と話を進めている。

今のステージでは、9桁の資金を調達するような他企業に圧倒されそうだが、Voyantには、今ある何物とも違うまったく新しいものを作り上げたという強みがある。その製品は、InnovizやLuminarの人気の高い大きなLiDARと肩を並べて、安心して共存できる。

「私たちは、ドローン、ロボティクス、もしかしたら拡張現実といった、さまざまな分野の大手企業に話を持ちかけるつもりです。これにいちばん興味を示してくれる分野を探したいのです」とフェアー氏。「私たちは、一部屋分の大きさのコンピューターがチップサイズになったときと同じ、革命を目の当たりにしています」

Voyantが調達した430万ドル(約4億6500万円)は、Contour Venture Partners、LDV Capital、DARPAによる投資だ。当然、彼らはこのようなものに興味を持っているはずだ。

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(翻訳:金井哲夫)

複雑な地形も群で突き進む「ありんこ」ロボット

SpotやAtlasといったロボットの敏捷性には目を奪われるが、一体では汎用性は低いものの適応性の高い集団として活動できる超小型のシンプルなロボットにも、それなりにメリットがある。この「Tribot」(トライボット)は、アリをモデルに開発され、本物のアリと同じように、障害物をチームワークで乗り越えることができる。

スイス連邦工学大学ローザンヌ校(EPFL)と大阪大学によって開発されたTribotは、超小型、軽量でシンプルなロボットで、アリと言うより尺取り虫のような動きをする。しかし、必要とあらば障害物をジャンプで跳び越えることもできる。このロボット本体とシステムは、歩行と跳躍を使い分け、(他のアリと同様)探検アリ、働きアリ、リーダーアリの役割を流動的に担うアギトアリをモデルにしている。個々のロボットはそれほどインテリジェントではないが、集団としてコントロールされることで、知的な能力を発揮する。

集団行動の例として、複雑な地形のある地点から別の地点に渡る場合が考えられる。探検アリが先を行き、障害物を探知し、その位置と大きさを残りのメンバーに伝える。するとリーダーは、働きアリ部隊を送り出し、障害物の除去を行わせる。除去できないときは、探検アリはジャンプして障害物を跳び越えようと試みる。それに成功したなら、遠隔測定情報を後方のメンバーに伝え、全員が同じように跳び越えられるようにする。

飛べ!Tribot、飛べー!

現時点では、こうした行動はとてもゆっくりだ。下の動画を見ればわかるが、ほとんどのアクションは16倍速になっている。だが、速度はそれほど重要ではない。Squishy Roboticsのロボットと同じく、適応性と、簡単に展開できることに主眼が置かれているのだ。

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Tribotは、ひとつの重量がわずか10gで、基本的にプリント基盤にちょっとしたメカニズムと滑り止めを加えただけの構造なので簡単に大量生産ができる。論文によれば「擬似二次元メタマテリアルのサンドウィッチ」だそうだ。1台あたりのコストが1ドルほどならば、目標地域に数十台から数百台を投下でき、1時間から2時間ほどで状況を判断し、測量を行い、例えば放射線や高熱を発している場所を探し回るといった活動が行える。

もう少し速く動けたなら、同じロジックでデザインを改良すれば、キッチンやダイニングに群で現れて、パン屑を掃除したり、皿を所定の場所に運んだりできるだろう。余談だが、SF作家のレイ・ブラッドベリは、火星年代記(The Martian Chronicles)シリーズの「優しく雨ぞ降りしきる」(There Will Come Soft Rains)の中で、これを「電気ネズミ」とかなんとか呼んでいた。彼の作品のなかでも大好きな話だ。なので私はいつもそこに目を光らせている。

群での活動を基本としたロボットには、不具合が起きたときに致命的な事態に至らないという利点がある。ひとつのロボットが故障しても、群は維持され、すぐに別のロボットで補填できるからだ。

「大量に製造して展開できるので、多少の『被害』があってもミッションの遂行には影響しません」と、EPFLでこのロボットのデザインに携わるJamie Paikは話している。「彼らはその独自の集合的知性によって、未知の環境への高い適応性を示します。そのため、ミッションによっては、大型の、よりパワフルなロボットよりも高い性能を示します」。

ここでひとつの疑問が湧く。小さなロボットが集まって1台の超高性能なロボットを構成するというのはあり得るのか?(これはどちらかと言えば、そもそもコンストラクティコンとデバステーターから発生した哲学的な疑問だ。いろいろな意味で、トランスフォーマーは時代を先取りしている)。

Tribotはまだプロトタイプだが、すでに、他の「集団」タイプのロボットシステムと比較して大きな進歩がある。開発チームは、その進歩についてネイチャー誌に論文を掲載している。

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(翻訳:金井哲夫)

味覚を検知する実験用ロボットアーム

人間には味覚があり、それがかなり特別な能力だということとを知っているだろうか?それも特別ではなくなった。カリフォルニア大学デービス校とカーネギーメロン大学の研究者は、特定の化学物質を検出できるように遺伝子組換えされたバクテリアを用いて、ものの「味」がわかるソフトロボットハンドを開発した。

ロボットが備える「バイオセンシング・モジュール」は、IPTGと呼ばれる化学物質の存在を、タンパク質を生成することによって検出する遺伝子組換え大腸菌菌株を使って作られている。IPTGが検出されるとロボットに組み込まれた光検出回路を作動する。ロボットはその信号を使って水槽の中に化学物質が存在するかどうかがわかるので、物質が完全に拡散消失すると、それを検出して物体(ここではボール)を水に入れても安全であることを知る。

研究者らは「バイオハイブリッド・ボット」と彼らが呼ぶ有機物融合部品を使ってロボットを作っている。現在検出できる物質は1種類だけなので、できることに限りがある。また、長時間のうち起きる濃度のわずかな変化を読み取ることも課題のひとつだ。

それでも研究者たちは、長時間一定の大きさと構造を保って存在できる微生物群(たとえば、人間の大腸に存在する消化に不可欠な微生物群)を作るという課題が克服できれば、もっといろいろなことができると期待している。例えば、ロボットが化学物質を検出するだけでなく、ポリマーを作って自己修復したり、バイオエネルギーを生成して他の動力源に頼ることなくロボットを動かすことも可能になる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

風力タービンのブレード上を這って目に見えないキズを探すロボ

風力タービンはクリーンな電力を供給する優れた発電装置だが、その見るからに単純な(でっかいやつが回るだけの)構造とは裏腹に、一般の機械と同じように摩耗する複雑なシステムであり、最悪、大事故を引き起こす恐れもある。そこで、Sandia National Labsの研究者たちは、タービンの巨大なブレードを自動的に検査し、グリーンパワーのインフラを健全に保つロボットを開発した。

風の流れからエネルギーを集めようと聳え立つ巨大なタワー群は、普段は車で通りかかったときにちょっとだけ目にする存在だ。しかしそれは、厳しい天候、極端に変化する気温、そして(周囲でもっとも背の高いものであるため)必然的に落雷にも絶えながら長年立ち続けなければならない。それに通常の摩耗や破損も加わるため、どうしても定期的な検査が必要になる。

しかし、検査は困難であると同時に、表面的なものに終わる恐れがある。そのブレードは、一体の製造物としては地上最大級だ。さらにそれは、洋上など、人里離れた交通の便の悪い場所に建てられることが多い。

「ブレードは、その寿命を迎えるまでの10億回の負荷サイクルの間、落雷、雹、雨、湿気などの自然の力に晒されます。しかし、外して作業場に持ち込んでメンテナンスするこというわけにはいきません」と、SandiaのJoshua Paquetteはニュースリリースの中で述べている。つまり、検査員がタービンまで足を運んで検査するしかないのだが、タワーは数十メートルの高さに及ぶこともあり、危険な場所に設置されていることもある。

関連記事:風力タービンを掃除して人の命を救うAeronsの巨大ドローン(未訳)

クレーンを使うという手もある。ブレードを下に向けて、そこを検査担当者が懸垂下降しながら調べることも可能だ。それでも、検査は肉眼に頼らざるを得ない。

「目で見るだけでは、表面の傷しか発見できません。それに、目視できる傷が表面にあるということは、損傷の程度が深刻なレベルにまで進んでいるとも考えられます」とPaquette氏は言う。

もっと入念に、深いところまで検査する必要があることは明らかだ。そこで彼らは、International Climbing MachinesとDophitechをパートナーに迎えて動き出した。その結果生まれたのが、この這うように進むロボットだ。これはブレードの表面に張り付き、ゆっくりながらしっかりと移動し、視覚映像と超音波映像を記録する。

視認検査では表面のひび割れや擦り傷を確認するのだが、超音波はブレードの奥の層にまで到達し、表面に傷が現るずっと以前の段階で内部の損傷を発見できる。これを芝刈り機のように、左右に、そして上下に移動させながら、ほぼ自動的に行う。

現時点では、その動きは非常に遅く、人間の監督を必要とする。だがそれは、研究室から生まれ出たばかりのロボットだからだ。近い将来には、数台のロボットを現場に持って行き、ブレード1枚につき1台を配置して、数時間後、あるいは数時間後に回収して問題箇所を確認し、精密検査やスキャンを行えるようになる。タービンに常駐して、定期的にブレードの上を動き回り検査をするようになるかも知れない。

ドローンを使う方法も研究されている。橋やモニュメントなど、人が行うには危険すぎる場所ではすでにこの万能飛行機を使った検査が行われているので、自然な流れだろう。

検査ドローンには高解像度カメラと赤外線センサーが搭載され、ブレード内の熱の変化を検知する。太陽の熱がブレードの素材に浸透する過程で、内部に損傷があれば熱の伝わり方に不規則な部分が現れる。そこを見つけるという考え方だ。

こうしたシステムの自動化が進めば、こんな展開も期待できる。ドローンがタービンの状態を素早く調査し、精密検査が必要なタワーがあれば報告する。それを受けて、タービンに常駐しているロボットが出動して検査を行う。その間、人間の調査チームが現地に向かい、問題部分にどのような修理が必要かを詳しく検討する。これなら、命や手足を危険に晒すことがない。

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(翻訳:金井哲夫)

NASAのロボット飛行士が宇宙で初の一歩を踏み出す

米国時間6月20日、NASAバージョンのコンパニオンキューブ(海外のゲーム「Portal」のキャラクター)が、初めて宇宙での「一歩」を踏み出し、国際宇宙ステーション(ISS)内の無重力空間で自ら回転する能力を示した。”Bumble”と呼ばれるそのロボットは、ISS内の宇宙飛行士と協力して働くためにNASAが開発したAstrobeeロボットの一つで、宇宙を単独で飛んだはじめてのロボットだ。

Bumbleの初飛行は、航空ショウで歓声の上がるようなものではない。ロボットが一歩前進して少し回転しただけだ。しかし、ロボットの推進システムが正しく動き、調整されていることを確認するための重要な基本動作だ。最終的にロボットは無人で動作し、基本的な保守作業や実験の補助を行う計画なので、気難しい人間宇宙飛行士と自由に空間を共有する前に、意図通り動作することを確認しておく必要がある。

Astrobeeシリーズには現在3体のロボットがいる。BmbleとHoney(これもISSにいる)、および予定通り行けば7月に次の補給ミッションに参加するQueenだ。いずれもカメラを搭載して人間が行う実験の様子を記録するほか、ロボット同士が協力して実験器具を移動することもある。充電のためにドッキングステーションに入ったり、小さなロボットアームで何かにぶら下がったり、ものを掴んだりすることもできる。

Bumble blinks!

この一辺30 cmの立方体ロボットは、NASAのエイムズ研究センターで開発された。フルに機能するようになれば、宇宙飛行士の作業を軽減し、人間にしかできないことに集中させられるはずだ。地球を周回するISSでは、実験、研究することが山ほどある。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Facebookがロボットを学習させるための本物そっくりな仮想の家を提供

AIを搭載したロボットが家の中で人の手伝いをするためには、ロボットは人間の環境で歩き回るための経験を数多く積まなければならない。それにはシミュレーター、つまり本物の家とまったく同じに見えて、同じように機能する視覚的世界が最適な訓練場となる。そこでFacebookは、現在最も先進的と言える、そうしたシステムを開発した。

その名は「Habitat」。Facebookのこのオープンソースのシミュレーターは、数カ月前に軽く紹介されていたが、米国時間6月15日に、CVPR(米電気電子技術者協会コンピュータービジョンおよびパターン認識に関する会議)にシステムに関する論文が提出されたことにともない、完全な内容が公表された。

現実世界を歩き回り単純な作業をさせるだけでも、ロボットを教育するには膨大な時間を要する。そのため、物理的空間で実際のロボットを動かす方法は現実性に欠ける。ある地点から別の地点へもっとも効率的に移動する方法や、引き出しの取っ手を掴んで引っ張り出す方法などを、実際に何度も繰り返し学ばせようとすれば、数百時間、実時間にして何年もかかってしまうだろう。

関連記事:WTFはコンピュータービジョンなのか?(未訳)

そうではなく、ロボットのAIを現実の家に相当する仮想環境に置く方法がある。結果として、基本的に、その3D世界を構築するコンピューターの最大の演算速度でもって超高速に訓練を重ねることができる。つまり、何百何千時間を要する訓練が、コンピューターの高速な処理速度により数分で完了するということだ。

Habitat自体は仮想世界ではなく、むしろシミュレーション環境を構築するプラットフォームだ。既存のシステムや環境(SUNCG、MatterPort3D、Gibsonなど)との互換性があり、利用者が現実世界の何百倍もの速度で効率的に訓練を実行できるよう最適化されている。

しかしFacebookは、仮想世界の最先端をさらに一歩進めたいとも考えている。そして作り出したのが「Replica」だ。これはHabitatのためのデータベースで、キッチン、浴室、ドア、長椅子が置かれたリビングルームなど、家全体を構成するあらゆる部屋の写実的なモデルが保管されている。FacebookのReality Labsが、現実環境の写真撮影と深度マッピングという血の滲むような作業の末に完成させた。

  1. habitat3

  2. replica1

  3. replica2

そこに再現された世界は非常に精細ではあるが、一部にノイズが見られる。とくに天井や手の届かない場所に多い。それはおそらく、AIビジョン・エージェントの動作には関係のない天井や部屋の遠い角などは、細かく再現する必要がないためだろう。椅子やテーブル、廊下を規定する壁などの形状のほうが、ずっと重要だ。

しかし、もっと重要なことは、開発チームが3Dデータに無数の注釈を加えたことだ。3D環境をただキャプチャーすれば済むというものではない。オブジェクトやサーフェイスには、一貫性のある完全なラベルを付ける必要がある。長椅子も、ただの長椅子ではなく、グレーの長椅子で青いクッションが複数置かれている長椅子という具合にだ。エージェントのロジックに応じて、それが「柔らかい」のか、「ラグの上に置かれている」のか「テレビの横」にあるのかなどの情報が必要になったり、ならなかったりする。

HabitatとReplicaは、意味論的ラベルごとにひとつの色で示される。

だが、こうしたラベル付けをしたお陰で、環境の柔軟度が高まり、包括的なAPIと作業言語は、「キッチンへ行きテーブルの上の花瓶の色を教えろ」といった複雑な複数の段階を含む問題をエージェントに与えることが可能になる。

結局のところ、このような支援は、たとえば家の中を自由に歩き回れない障害者を補助するなど、人の助けになることが想定されているが、それにはある程度の機転が利く必要がある。HabitatとReplicaは、そうした機転を養う手助けをするものであり、エージェントに必要な訓練をさせるためのものだ。

以上のような進歩があったとは言え、Habitatは完全に現実的なシミュレーター環境に至るまでの小さな一歩を踏み出したに過ぎない。ひとつには、エージェント自身が現実に即して再現されない点がある。ロボットの身長は高いものもあれば低いものもある。車輪で走行するのか脚で歩くのか、深度カメラを装備しているのかRGBなのか、さまざまだ。不変のロジックはある。たとえば、長椅子からキッチンまでの距離はロボットのサイズが違っても変化しない。しかし、変化するロジックもある。小型のロボットはテーブルの下を潜れるが、テーブルの上に何があるかを見ることができない。

Habitatは、さまざまな仮想ビジョンシステムで物を見る。

さらに、Replicaや、それに類するその他あまたの3D世界では、視覚化されたシーンの中に写実的に環境が描画されるのだが、これらは、物理法則やインタラクティブ性という意味においては、ほぼまったく機能しない。寝室へ行ってタンスの上から2番目の引き出しを見つけるように指示はできるが、引き出しを開けさせることはできない。実際には引き出しは存在しないからだ。そのようにラベル付けされた絵があるだけだ。動かしたり触れたりはできない。

見た目よりも物理法則に力を入れたシミュレーターもある。「THOR」などは、AIに引き出しを開けるといった実作業を教えるためのものだ。これは、一から教えようとすると驚くほど難しい作業になる。私は、THORの開発者2人にHabitatのことを聞いてみた。彼らは、AIが移動や観察を学ぶための非常に写実的な環境を提供するプラットフォームとして、Habitatを口を揃えて称賛した。しかし、とりわけインタラクティブ性が欠如しているために、学べることに限界があるとも指摘していた。

だが、どちらも必要であることは明らかであり、今のところ、それぞれが互いに代わりを務めることはできない。シミュレーターは、物理法則的にリアルになるか、見た目にリアルになるかのいずれかなのだ。両方は無理だ。しかし、Facebookも他のAI研究室も、それを目指して頑張っていることに間違いない。

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(翻訳:金井哲夫)

DJIが教育用戦闘ロボット「S1」を発売

つい1カ月足らず前、DJIOsmo Actionを発売して、ジンバルとドローンの世界から手を広げ、この新しい アクションカメラによってGoProを射程圏内に捉えた。そして今度はさらに新しいカテゴリーに挑戦する。教育用戦闘ロボットだ。

RoboMaster S1は一見畑違いにも思えるが、ロボティクスはDJIのDNAの一部であると同社はすかさず指摘した。ファウンダーでCEOのFrank Wang氏は、大学でロボティクスを学び、最近では中国でRoboMasterという戦闘ロボット競技会を毎年開催している。

S1は、同社のMavicシリーズと同じく消費者向けに焦点を絞った商品だ。教育分野に初めて本格参入する商品でもあり、46の部品を組み立てる必要がある。さらに価値を発揮させるためにはコーディングも学習しなくてはならない。

S1(DJI曰く、Step 1の省略形)の対象年齢は14歳以上で、実際非常に魅力的なロボットだ。4つの車輪がついていて、時速8マイル(13km)で走ることができる(ハックすればもっと速くなるらしい)。上部には戦車を思わせる回転可能な砲塔を備え、毒性のないゲル弾を発射する。散らからない戦いのために赤外線砲も用意されている。

センサーを31個搭載し戦闘中に撃たれたことを検出する。操縦者は専用アプリを使って車載カメラ経由の一人称視点でロボットを操作する。また画像認識を利用して障害物を検知したり他のS1ロボットから信号を受け取ることもできる。

ロボットには6種類の認識機能がある。フォローモード(他のS1ロボットを追いかける)、ジェスチャー認識、S1認識、拍手(音声)認識、線の追尾、および目印を使って移動するためのマーカー認識だ。ユーザーはアプリ経由でロボットを手動で操作することもできる。

ハードウェアのカスタマイズはあまりできないが、後部にパルス幅変調(PWM)ポートを6基備えているので、上級者はサードパーティー製ハードウェアを追加してロボットを強化できるだろう。ソフトウェアに関しては、Scratch 3.0またはPythonを利用して、「撃たれたら後方転回」(後方から撃たれたときに砲台を後ろに向ける)などの機能をプログラムできる。

ロボットは本日から購入可能で、価格は499ドル(日本では6万4800円)。また同社は標準PlayMoreキットも発売し、予備バッテリーとコントローラーにたくさんの砲弾ビーズが入っている。こちらは来月から出荷予定だ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Flying STARは地上を走り空を飛ぶ小さな変身ドローンだ

災害救助などの場面を考えると地上走行と飛行が同時にできるデバイスがあれば便利だということは明らかだ。しかし従来のドローンは走るか飛ぶかどちらかしかできないのが普通だった。そこでどちらもできるFlying STARが登場した。メカニズムは呆れるほど簡単なので「今までこれを誰も考えつかなかったのはなぜだ?」と思う読者もいるかもしれない。

イスラエルのベングリオン大学の研究者が考案したFlying STARは、飛行・折り畳み・自動走行ロボットだ。アイディアはローターも車輪も回転するという初歩的な事実に気づいた結果生まれたという。それなら両者を兼用させる手だてがあるのではないか?

実現までにはいくつもの困難があったが、David Zarroukが率いるチームは現代の軽量、強力なドローン部品の助けを借りて空陸ハイブリッドの実現に向けて努力を重ねた。その結果、必要なときには一般のドローンのように空を飛び、着陸した後、ローターを載せた4本のアームを下に曲げ、動力を車輪に伝えて地上を走り出すロボットが完成した。

もちろんドローンの下部に車輪を取り付けてもよかったわけだが、ベングリオン大学のチームのアイディアのほうがいくつも点で優れていた。まず第一に、ローターを駆動するモーターがそのまま車輪を駆動するのでメカニズムがはるかにシンプルで効率的だ。もちろん車輪駆動の場合にはローターの場合よりモーターの回転数を低くする必要があった。しかしアームを下向きに曲げる方式はホイールベースと地上最低高を大きくし、安定性と走破性をアップさせる。不整地を走行する場合に非常に有利になる。

下のビデオでFSTARが空を飛び、着陸し、トランスフォーマーのようにアームを動かして地上走行モードに変身するところを観察できる。これはモントリオールで開幕するIEEEのロボティクスとオーテメーションに関するコンベンション向けに用意された。

Flying STARはごくわずかのエネルギー消費量で毎秒2.43メートル走行し、障害物を乗り越えたり階段を上ったりできる。そしてもちろん空を飛べる。開発チームのリーダー、Zarroukはプレスリリースで以下のように述べている。

我々は地上を走り空を飛ぶこのタイプのロボットについて、利用範囲を広げるために大型版、ミニ版を開発する計画だ。またアルゴリズムの改善とスピード、コストの削減にも取り組んでいく。

見てのとおり、現在はプロトタイプでプロダクト化するまでには数多くの作業が必要だろう。しかし実用化されれば撮影やパッケージ配送などの一般的商業用途に加えて農業用、災害救援用、軍・警察用としても利用できるはずだ。

【Japan編集部追記】地上走行中もデバイスのローターは回転しているので車輪とローターで動力を切り替えることはしていないようだ。正面から見た映像ではローター下部にモーターが設置され、ギアトレーンで回転数を落として車輪に動力を伝えている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

ウォルマートがAI活用大型スーパーをオープン、Amazon Goとは別戦略

米国時間4月25日、Walmart(ウォルマート)はニューヨーク州レビットタウンに「スーパーマーケットの未来形」をオープンした。この店舗はAIカメラ、対話的商品陳列など次世代テクノロジーの実験場となる。コンセプトはインテリジェントリテールラボ、頭文字でIRLだという。

このスーパーはWalmartが展開する生鮮食品、日用品に特化したネイバーフッドマーケットの1つで、取り扱うアイテムは3万点と発表されている。新テクノロジーを現実の店舗環境でテストできる規模だ。

Amazonの次世代コンビニと同様、Walmart IRL店も天井に多数のカメラが設置されている。Amazonの新コンビニの目玉はキャッシャーレスチェックアウトで、ユーザーは欲しいものを棚から取り出して店を出れば購入が完了する。一方、新しいWalmart IRL店は売り場面積4645平方メートル、スタッフも100人以上の大型スーパーだ。

またWalmart店舗の天井のAIカメラは、Amazon Goのように消費者が何を購入したかをモニターするためではない。IRLには従来どおり支払いのためのチェックアウトカウンターがある。IRLのカメラは在庫管理の効率化が目的だ。例えば肉が売り切れそうだったら冷蔵室から補充しなければならない。一部の生鮮食品は一定時間を過ぎれば売り場から回収する必要がある。

いつ、どこで、どんなアイテムを補充ないし回収しなければならないかを正確に知ってこのプロセスの効率化することがAI利用の狙いだ。食品の鮮度管理の徹底やアイテムの欠品の防止は同時に消費者にも大きなメリットとなる。

しかしこれを実現するのは簡単ではなかった。Walmartによれば、IRLでは非常に高度なAIテクノロジーが用いられているという。まずシステムは棚のアイテムを正しく認識しなければならない(牛ひき肉500gと合い挽き1kgを確実に見分ける必要がある)。次に陳列棚の商品量と季節、時間帯によって予想される需要量を比較する。

現在売り場スタッフは担当の棚を常に見回ってアイテムの残量を監視し、補充のタイミングを見極めている。これに対してAIストアでは、朝、売り場のドアが開く前に補充のタイミングと量を知ることができる。

カメラその他のセンサーは毎秒1.6TBのデータを吐き出す。2TBのハードディスクが1秒ちょっとでフルになってしまうほどの量だ。つまりデータの処理はローカルで実行しなければならない。
カメラとサーバーの列というのは一般ユーザーを気後れさせる組み合わせだが、Walmartでは「データは1週間以内に消去される」としている。

上の写真はIRLストアのデータセンターだ。青い照明に照らされたサーバー群は消費者から見える場所にレイアウトされている。店内のインフォメーションセンターなどのコーナーでは消費者にAIを説明している。

あるコーナーではAIがユーザーを撮影して姿勢を推測してみせる。これらはすべて新テクノロジーを少しでも親しみしやすいものにしようという努力だ。

IRLのCEOであるMike Hanrahan氏は「IRLの新テクノロジーとWalmartの50年以上の店舗運営経験を組み合わせれば、カスマーにも店舗側にも非常に有益な非常に改善が得られる」という。

WalmartはAIを効率化のために用いることに力を入れており、CEOは(遠回しに)Amazon Goとの重点の違いを語った。

「ピカピカの要素をならべて人目を引こうとするのはわれわれの目的ではない。そういう人目を引く要素は長期的な視点から役に立たず、顧客にも我々にも有益とは言えない場合が多い」という。

Walmart IRLストアが店舗のキャッシャーレス化ではなく、ひき肉パックの在庫補充や欠品の防止というような地味な分野にAIテクノロジーを利用する理由はここにあるようだ。効率化によって浮いた人員をチェックアウトカウンターの稼働の拡大に回せば消費者にとって大きなメリットとなる。

 WalmartではBosa Nova Roboticsの他のロボットを大量に導入したときと同様、「新テクノロジーは人間を代替するものではなく、機械ができる仕事から従業員を解放して顧客との対話に振り向けるものだ」としている。しかし長期的に見れば、効率的な店舗運営に必要な人員は減っていくはずだ。

IRLのコンセプトはグループ内の先進テクノロジー開発インキュベーター、 Store No8によるものだ。このチームは店舗運営に新テクノロジーを適用する試みをいくつか実行してきた。2017年には個人向けショッピングサービス、Code Eightをニューヨークで実験した。今年に入ってからはショッピング体験を強化するVRツアーをスタートさせている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

まるで本物の魚のように泳ぐロボット「MIRO-5」が日本上陸、開発は韓国スタートアップ

韓国ロボティクススタートアップのAIROが開発した魚型ロボット「MIRO-5」が日本で販売開始する。

MIRO-5は手のひらサイズのロボットフィッシュで、船のようにスクリューで動くのではなく、まるで本物の魚のように体をくねらせて泳ぐのが特徴だ。本体にはレーザーセンサー4個と自動遊泳アルゴリズムが搭載されていて、前方と左右、上下の障害物を避けながら遊泳する。2000mAhのバッテリーも搭載されていて、連続8時間の遊泳が可能だ。また、専用のAindroidアプリを使えば、自分でMIRO-5をコントロールすることも可能だ(iOSアプリは2019年5月以降にリリース予定)。

日本での販売を手がけるのは、IoTショールームの「+Style(プラススタイル)」。発売開始は5月20日で、予約受付はこちらのWebページで本日より開始する。価格は6万4800円と決して安いとは言えないが、「どうせ飼うなら未来を先取りした魚を」と考えるTechCrunch Japan読者はチェックしてみてほしい。

MITのリサイクルロボットは「触覚」で材料を識別する

RoCycleは、もちろん「Recycling Robot」の略で、MITのCSAIL(コンピュータ科学・人工知能研究所)が発表した最新技術だ。このピック&プレイス・ロボットは独自にセンサーを組み合わせることで、物体の材質の違いを識別してリサイクル処理の前に分別する。

Rethink RoboticsのBaxterをベースに作られたこのシステムは、テフロン製ロボットハンドと物体の大きさと硬さに基づいて材質を識別する内蔵センサーからなっている。ただし、まだ完璧ではない。

仕組みは以下のとおりだ。

ロボットハンドがまず内蔵の「歪センサー」を使って物体の大きさを推定し、次に2つの圧力センサーを使って物体をつかむために必要な力を測定する。これらの数値と、さまざまな材質の物体の大きさと硬さに基づく較正データを利用することで、物体がどんな物質からできているかを推定する(触覚センサーには導電性もあるので、電気信号の変化から金属も識別できる)。

同大学は、静止した物体の識別では85%の精度を得られたと言っている。この数字は、物体がベルトコンベアーなどの上を動いているときは63%へと大きく低下する(この方がこのシステムが使われるであろう現実世界のシナリオに近い)。誤認識の大部分は、アルミニウムやスチール製の缶に貼られている紙が原因だ。

研究チームはセンサーを増やして改善しようとしている。また、このテクノロジーは既存のシステム、たとえば磁石を使って金属を選別したり、視覚情報で材質を識別するシステムと組み合わせて利用することもできる。CSAILは、今後の実験で視覚情報システムと組み合わせる計画だ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

宇宙ロボットで人間が行う作業の72%を代替、テレプレゼンスロボのGITAIがJAXAと共同研究

宇宙空間での作業用に遠隔操作ロボットを開発するGITAIは3月25日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同研究契約を締結し、国際宇宙ステーション「きぼう」の日本実験棟模擬フィールドにおいて、GITAIロボットによる宇宙飛行士の作業代替実験を実施したと発表した。

GITAIが開発するのは、宇宙で作業コストを従来の10分の1にすることを目的に開発された作業ロボット。VR端末を使い、遠隔で操作する「テレプレゼンスロボット」だ。GITAIが今回の実験で使用したロボット(6号機)は、宇宙ステーションの限定的なネットワーク環境を前提に、これまでのロボットでは困難だったスイッチ操作、工具操作、柔軟物操作、負荷の高い作業などを1台でこなせる性能をもつという。

実験の結果、GITAIロボットはこれまで人間が行っていた作業の72%を代替することに成功。GITAIとJAXAの共同研究契約は今年度末を期限としており、両社は今後も協力して技術検討と実証実験を行うという。

GITAIは2016年7月の設立。CEOの中ノ瀬翔氏は2013年にインドで起業し、同社を売却した経験を持つ連続起業家だ。同社は2016年9月にSkyland Venturesから1500万円を調達。2017年12月にはANRIと500 Startups Japanから1億4000万円を調達している。

Amazonが自社製配達ロボットをテスト中

Amazonが配達ロボットを採用するのはもちろん時間の問題だった。世間の注目は倉庫の物流管理に集まっていたが、同社には何年も前からロボティクス部門がある。そして今日(米国時間1/23)、Scoutのベールが剥がされた。

この6輪ロボットは、すでに世界中の歩道をテスト走行しているいくつかの配達ロボットとよく似ている。しかし、これはAmazonの社内で開発されたようだ。同社の発表によると、大きさはビーチ用のクーラーボックス程度で、人が歩くくらいの速さで走行する。

ボットのパイロットテストは、ワシントン州シアトルのあるキング郡に隣接するスノホミッシュ郡で行われる。同社としては、ふだん静かな近隣を巡回する小さな青いロボットに住民が困惑する前に告知したかったことは間違いない。さらにはしゃれた音楽の入った広告まで作って怖がる必要がないことを人々に訴えている。

パイロットプログラムは6台のScoutでスタートする。ロボットは無人で目的地に到着するように作られているが、これらの初期モデルにはAmazon社員が同行してすべてが計画通りに進むことを確認する。AmazonがScoutをもっと広く展開することになれば、いずれはUPS、FedEx、USPSなどの運送会社の「ラストワンマイル」を補完することができるかもしれない。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

ジャケットを着るだけでロボットのプログラムを可能にするWandelbotsが77億円を調達

産業用ロボットは、2020年までに2000億ドル(約22兆7000億円)相当の規模に成長する勢いだ。産業用ロボットには、自動機械の限界を押し広げ、既存技術を打ち壊す人工知能の革新的な利用という、他の最先端分野と共通する側面がある。だが、ひとつだけ大きく異なるのは、どのロボットメーカーも独自のソフトウエアやオペレーティング・システムを使っているため、ロボットのプログラムが大変に難しく、時間も費用もかかるという点だ。

ドイツのスタートアップWandelbots(ドイツ語の「変化」ち「ロボット」をかけ合わせた造語)は、その問題を回避する革新的な方法を考え出した。独自開発のソフトウエアを使い、数十個のセンサーを内蔵したジャケットを着ることで、業界に普及している12のメーカーの、ほぼすべてのロボットに動きを教えられるというものだ。

「どのロボットにも同じ方法で動きが教えられる、共通の言語を提供しています」と、CEOのChristian Piechnickはインタビューに答えている。基本的には、それぞれのソフトウエアがどのように作られているかを解析して、Linuxのような、すべてに共通する基盤を作ったというわけだ。

フォルクスワーゲン、インフィニオン、ミデア(美的集団)との大きな契約を獲得したこのドレスデンのスタートアップは、600万ユーロ(約7億7400万円)の資金を調達した。次のレベルへの成長と中国進出に打って出るためのシリーズA投資だ。これは、Paua VenturesEQT Ventures、その他の名前を明かさない以前からの投資家から提供された(昨年のDisrupt Battlefieldで最終選考に残ったころ、まだ起業前だった同社はシード投資を受けていた)。

Pauraは、革新的なソフトウエア企業を支援してきた実績があり(Stripeにも投資している)、EQTは、未公開株式投資会社とつながり、これを自己資本全体をかける勢いの戦略的投資と位置づけている。

GeorgPüschel、Maria Piechnick、Sebastian Werner、Jan Falkenberg、Giang Nguyenとともに大学で同じ研究を行い、彼らと共同でWandelbotsを設立したPiechnickは、産業用ロボットのプログラムには、通常3カ月ほどの期間がかかり、専門のシステム管理者を雇うなど、ロボットの価格の他に多額の費用が必要となると話している。

Wandelbotsのジャケットを着れば、技術的な知識のない人でも、この作業を10分で行えるようになる。コストも10分の1だ。

「激しく変化する自動化業界で競争力のある製品を提供するには、生産と製造プロセスの自動化の分野のコストを低減し、作業速度を大幅に高める必要があります」とVolkswagen Sachsen GmbHの新交通および革新部門の責任者Marco Weißは声明の中で話している。「Wandelbotsの技術は、自動化に多大な可能性をもたらします。Wandelbotsの製品を使えば、ロボットの設置から調整まで、プログラミングの知識が限られている人間でも、驚くほど早く行えます」

現時点では、Wandelbotsの主眼はロボットアームのプログラミングに置かれている。Amazonその他の企業の倉庫で物品を運んでいる移動機械ではない。つまり、産業ロボットのこの2つの形態間の競争という観点からすると、今のところこれらが激しくぶつかり合う可能性はないということだ。

しかし、Amazonは倉庫以外にも活動の領域を広げようとしている。たとえば、食料品の注文に応じて、コンピュータービジョンとロボットアームが状態のいい果物や野菜を選別して箱に詰めるといった仕事だ。

Amazonなどの企業から発生した革新的技術は、ロボットメーカーにプレッシャーを与えることもある。しかし、Piechnickは、これまでほとんど影響は見られなかったし、今後も(彼の会社のように、利便性を高める技術を持つ企業にチャンスが与えられることは)少ないだろうと話す。

「ロボット用のオペレーティング・システムを作る試みは何度も行われてきましたが、その都度、失敗しています」と彼は言う。「ロボットには、リアルタイムのコンピューティングや、安全の問題、その他無数の要素があり、求められているものがまったく異なるからです。稼働中のロボットは、スマートフォンよりもずっと複雑な存在なのです」と彼は話し、さらに、Wandelbotsが発明した技術が、現在、大量に特許申請中であることを明かした。それは、ロボットに行動を教えるためのソフトウエアであり、何をどのように教えるかによってロボットの機能性を高めることができるというものだ(ジャケット以外の方法も現れるかも知れない)。

人工知能が平凡な事務作業を肩代わりするなど、ロボットによる仕事の自動化を進める他の企業と同様、Piechnickも、彼が作るものや、ロボットの普及が人の仕事を奪うことがないように気をつけている。排除するのではなく、その人に別の仕事を与えることで、ビジネスの視野が広がり、これまで人間にはなし得なかったような仕事が可能になるという。

「私たちが関わってきた企業で、人をロボットに置き換えたところはひとつもありません」と彼は話す。それは、機械を、よりよい機械に置き換えるだけのことだという。「作業効率が上がり、コストが下がれば、有能な人間を、より重要な仕事に割り当てることができます」

現在、Wandelbotsの契約相手は大企業ばかりだが、ゆくゆくはスモールビジネスをターゲットにしたいと彼は考えている。

「これまで、中小企業にはロボットは投資利益率が悪すぎました」と彼は言う。「私たちの技術が、それを変えます」

「Wandelbotsは、産業ロボットの訓練と利用に革新をもたらし、大量に普及させる要の企業になります」とPaua Venturesの共同経営者Georg Stockingerは声明の中で述べている。「この数年間で、ロボットのハードウエアの価格は急激に低下してきました。あとは、Wandelbotsが産業の自動化に残された障壁を取り払うだけです。簡単で素早い導入と訓練。この2つの要素が、次なる産業革命の波を引き起こす、ものすごい嵐になりあす」