Beewiseのロボット巣箱が世界のミツバチを救う?

ここに残念な統計がある。毎年、ミツバチのコロニー(蜂群)の約30%が消滅しているというのだ。科学者たちは、世界のミツバチの個体群における破壊的な継続的傾向を言い表すために「蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder、CCD)」という言葉を作った。その原因は特定されていない。しかし、専門家の間では、生息地の破壊や殺虫剤など、多くの人為的な原因が指摘されている。

そこで、ミツバチの個体数を回復させるために人間ができることはないだろうか、という疑問が浮かび上がってくる。2018年にイスラエルで設立されたBeewise(ビーワイズ)というスタートアップ企業は、ロボットによる解決策を提供している。同社は、外に設置して一種の自動養蜂場として機能するように設計された箱を製作した。太陽光発電装置を備えたこの箱は、蜂の巣を監視し、気温制御と自動収穫を行う。ペットの侵入といった問題が起きないように監視する一方で、内部の環境を調節して入居者の群れ行動を防ぐように設計されている。

画像クレジット:Beewise

現在、Beewiseは同製品を月額400ドル(約4万9000円)のRaaS料金+初期配送・設定料2000ドル(約24万円)で養蜂家に提供している。これには24のコロニーと継続的なメンテナンスが含まれる。その見返りとして、この技術は収穫量の向上や、周囲の農作物の受粉といった利益を約束し、さらにうまくいけば、問題となっているミツバチの個体数減少に対しても正味の利益をもたらす。

同社は今週、8000万ドル(約9億8000万円)のシリーズC資金調達を実施したことを発表した。Insight Partners(インサイト・パートナーズ)が主導し、Fortissimo Capital(フォルティシモ・キャピタル)、Corner Ventures(コーナー・ベンチャーズ)、lool ventures(ロール・ベンチャーズ)、Atooro Fund(アトゥーロ・ファンド)、Meitav Dash Investmentsが(メイタフ・ダッシュ・インベストメント)が参加した今回のラウンドにより、このアグリテック企業がこれまでに調達した資金の総額は、1億2000万ドル(約147億円)を超えた。

「ミツバチを救い、蜂群崩壊という流れを逆転させようとする私たちの献身、粘り強さ、情熱を理解してくれるすばらしい投資家たちからシリーズCの支援を受けられることに、Beewiseのチームは感激しています」と、Saar Safra(サアー・サフラ)CEOは声明で述べている。「この数カ月だけでも、米国では数千の注文がありました。今回の資金調達により、Beewiseは製造を拡大して市場の大きな需要に応え、さらなる製品の改良を行い、受粉の環境をさらに改善することが可能になります」。

画像クレジット:Beewise

今回、同社は資金調達のニュースとともに、その「Beehome(ビーホーム)」と呼ばれるシステムの新バージョンも公開した。新しい筐体は従来のものより32%小さく、20%軽くなっており、より迅速な収穫と、改良された給餌・暖房システムを特徴としている。

画像クレジット:Beewise

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ボストン・ダイナミクスが物流用ロボットStretchの販売予約受け付けを開始

Stretchはこれまで、Spotほどには注目されてこなかった。当然といえば当然なのだが。というのも、1つにはBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)が数十年にわたる研究開発を経て、初めて商品化したロボットではなかったからだ。また、人目につかないところで箱を移動させるなど、舞台裏で活躍することを想定して設計されているからでもある。有名なSpotは、Hyundai(現代自動車)傘下のロボットメーカーBoston Dynamicsにとって、世間の注目を集め、ちょっとした論争を巻き起こす一種のブランドアンバサダー的な存在となっている。

同社のHandleプロジェクトから生まれたStretchは、ここ数カ月で限られた顧客に試験的に使用されている。同社はまた、1月にDHLと1500万ドル(約18億円)相当という大規模なロボット購入契約を締結した。その他、衣料品チェーンのGapやH&Mも初期の顧客だ。

3月30日、このシステムの販売が始まった。2023年か2024年まで納品されないので、予約受付中といった方が正確かもしれない。予想通り、同社はこの新型ロボットへの関心の主な要因として、現在進行中の労働問題を挙げている。

画像クレジット:Boston Dynamics

「人手不足とサプライチェーンの混乱は、モノの流れを維持するための課題を生み出し続けています」と、CEOのRobert Playter(ロバート・プレイター)は話す。「Stretchは物流業務をより効率的かつ予測可能なものにし、倉庫内で最も身体的負荷の大きな作業を担うことで安全性を向上させることができます。当社のアーリーアダプターの顧客の多くは、すでにこのロボットの大規模な導入を決定しており、Stretchが間もなくより広範囲に活用され、小売業者や物流会社が継続的に急増する商品需要に対応できるようになることを期待しています」。

これらのシステムが世界で活躍するのを見るのは興味深い。これまで私たちは主に、制御された環境下でのBoston Dynamicsの動画を見てきた。Stretchは厳しい競争に直面している。企業がAmazon(アマゾン)の巨大な自動化軍団に対抗するための足がかりを探す中で、倉庫や物流は近年ロボティクスで最も注目されている分野の1つとなっている。直近では、そうした企業は雇用のギャップを埋めるのに役立つシステムを探している。

画像クレジット:Boston Dynamics

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(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

小学生向け競プロ「ゼロワングランドスラム2021年度大会」公式キットに採用、「ユカイなピコハンロボットキット」発売

小学生向け競プロ「ゼロワングランドスラム2021年度大会」公式キットに採用された「ユカイなピコハンロボットキット」発売開始

「ロボティクスで、世界をユカイに。」を掲げ、コミュニケーションロボットなどの開発販売を行うユカイ工学は3月30日、ピコピコハンマーを振り下ろす楽しいロボット「ユカイなピコハンロボットキット」の販売を開始した。価格は9900円(税込)。小学生向け競プロ「ゼロワングランドスラム2021年度大会」公式キットに採用された「ユカイなピコハンロボットキット」発売開始

「ユカイなピコハンロボットキット」概要

  • 価格:9900円(税込)
  • 完成ロボットサイズ:W250×D150×H200mm
  • 完成ロボット重量:約260g(電源を含まず)
  • 内容物:ピコピコハンマー(1個)、本体フレームパーツ(16種。計17個)、タイヤ(2個)、回転モーター(2個)、角度モーター(1個)、ココロキット+(1個)、スイッチ(1個)、コネクター(3個)、腕シート(4枚)、カプセル(2個)、結束バンド(長4+短20)、両面テープ(6枚)、ねじ(長6+短3)、ドライバー(1本)、目シール(1枚)、Welcome Guide(1枚)
  • 電源:単4乾電池3本(電池は別売)

ピコハンロボットは、ユカイ工学の教育向けの製品やプログラミング環境を提供する「Kurikit」(クリキット)シリーズから発売される。簡単に組み立てることができ、特別な専門知識がなくともロボットを動かすソフトウェア開発に挑戦できる。小学生を対象とした競技プログラミング大会「ゼロワングランドスラム2021年度大会」の公式競技用ロボットに採用されたものだ。

小学生向け競プロ「ゼロワングランドスラム2021年度大会」公式キットに採用された「ユカイなピコハンロボットキット」発売開始

組み立て後は、タブレットのリモコン画面で操作できる。本体前面には何かが当たるとカウントされるセンサーがあるため、これを利用すれば2台のロボットで対戦して得点を競うことができる。

小学生向け競プロ「ゼロワングランドスラム2021年度大会」公式キットに採用された「ユカイなピコハンロボットキット」発売開始

リモコン操作のほかに、Scratch 3.0(スクラッチ)互換のソフトウェアをロボット専用にカスタマイズしたビジュアルプログラミング環境でプログラムすることもできる。ハードウェアだけでなく、ロボット制御のソフトウェア開発も体験できるということだ。

小学生向け競プロ「ゼロワングランドスラム2021年度大会」公式キットに採用された「ユカイなピコハンロボットキット」発売開始

今回のピコハンロボットの原型は、高専ロボコン出身エンジニアの和田義久氏が開発したものだ。ユカイ工学が毎年実施している学生インターンプログラムに2016年に参加した和田氏は、そこで100円ショップで買える素材でロボットを作ってバトルするという課題に挑んだ。そのとき製作されたものをベースに、ハードウェアエンジニアの高岡亜輝氏が設計した。ビジュアルに関わるデザインはデザイナーの水落裕氏が担当。和田氏はこれを「自分が一番作りたかったロボット」だと話す。「ゼロから創造するのは得意ではないけれど、ロボットやプログラミングに興味がある」という子どもたちに向けたものだという。

小学生向け競プロ「ゼロワングランドスラム2021年度大会」公式キットに採用された「ユカイなピコハンロボットキット」発売開始

左が原型。中央が開発途中のもの。右が製品版

経産省、ロボットを導入しやすい「ロボットフレンドリーな環境」実現を目指す取組みで惣菜盛り付けロボの実用化開始

経産省、ロボットを導入しやすい「ロボットフレンドリーな環境」実現を目指す取組みで惣菜盛り付けロボの実用化開始

RT Corporation

経済産業省は、官民一体の取り組みとしてロボットフレンドリーな環境の構築を目指し、惣菜工場への惣菜盛り付けロボットの配備を開始したと発表しました。

経産省のリリースによると「人手不足やコロナ禍の影響により、今後の日本社会における自動化、無人化、非接触へのニーズはますます高まって」いることを背景に、2019年より「ロボットを導入しやすい“ロボットフレンドリーな環境”の実現に向けた取組」を進めてきたとのこと。

とくに食品製造の分野ではいまだ人手のかかる作業が多くを占めており、なかでも惣菜の製造現場、特にパックなどへの盛り付けの工程における人手が多く必要とされているため、これをいかに自動化するかが課題となっています。

今回の発表ではロボット実装モデル構築推進タスクフォース(TF)のメンバーである一般社団法人日本惣菜協会が指揮をとり、マックスバリュ東海、イチビキ、ヒライ、藤本食品、グルメデリカ、デリカスイト、ニッセーデリカの7社に惣菜盛付ロボットやシフト計算最適化システムなどを開発導入したことが報告されました。

Japan Ready-made Meal Association
なかでも絵面的に興味が引かれるのは、イチビキ、ヒライ、藤本食品に導入された(株)アールティの惣菜盛り付けロボット「Foodly」で、本体ボックスの上に人の上半身が生えたような、まるでケンタウロスのような風体が非常にわかりやすい未来的デザイン。この形状は単にステレオタイプなロボットを作ったからではなく、比較的小柄な人型とすることで生身の従業員が立つ製造ラインに並んで配備することができ、人と人の間に配置すればソーシャルディスタンスの目安としても有効です。

さらに人用の作業着を着せられるため本体の汚れを最小限に抑えられ、清掃の手間を省略できます。両手は複数種類のトングを付け替えて使用でき、まるで人間のように惣菜をつまんではトレイに乗せていくことが可能。髪の毛もなく喋ることもないので、惣菜への異物混入の可能性も大きく減らせるとメーカーは説明しています。

その他の盛り付けロボットやシフト管理システムの導入も、惣菜製造現場の煩雑な作業の軽減、人手不足の解消に役立つことが期待されるもので、経済産業省はこのような成果を他のTF関係者にも共有し、中小企業を含めた多くの惣菜製造現場にも導入可能な低価格な盛付ロボットの開発を進めていくと述べています。

(Source:METI(経済産業省)Japan Ready-made Meal Association。Coverage:RT CorporationEngadget日本版より転載)

HarvestXが1.5億円調達、植物工場での実証実験に向け開発加速―実証結果踏まえた製品バージョンのベータリリースも計画

HarvestXが1.5億円調達、植物工場での実証実験に向け開発加速―実証結果踏まえた製品バージョンのベータリリースも計画

農業用ロボットを手がけるHarvestXは3月30日、総額1億5000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、ANRI 4号投資事業有限責任組合(ANRI)、オープンイノベーション推進 1号投資事業有限責任組合(東京大学協創プラットフォーム。東大IPC)、DEEPCORE TOKYO 2号投資事業有限責任組合(ディープコア)。

レタスなどの葉物類の植物工場が展開を広げる一方、イチゴのような果実類の生産にはハチ・ハエを媒介とした虫媒受粉または人の手による授粉が必要で、収量の不安定さ、高コスト、ハチの短いサイクルでの使い捨てが課題となっているという。そこでHarvestXは、ハチに代わるロボットを活用した授粉技術の開発に取り組み、世界で初めてロボットによるイチゴの授粉の実証に成功した。社内の研究施設「HarvestX Lab」内で実証試験機「XV-1」「XV-2」による授粉の実証実験を実施しており、ハチや人間を超える精度での授粉を行えるそうだ。

また現在は、HarvestX Labに植物工場と同等の栽培設備を導入し、植物工場事業会社での授粉ロボットおよびソフトウェアシステムの実証実験に向けたプロトタイプの開発を進めているという。

調達した資金により、パートナーである植物工場事業会社との実証実験に向けたハードウェア・ソフトウェアの開発、および実際の植物工場での実証実験を通じてオペレーションの検証やさらなる授粉精度の向上を進める。さらに、その実証実験の結果を踏まえた製品バージョンのベータリリースを計画している。

さらに、日本初の取り組みとして徳山工業高等専門学校提携。高専内に事業所を開設し、授粉・収穫用ロボットの共同研究を行う。

Sarcos Roboticsが遠隔操作可能な移動式マニピュレーションシステムのRE2を約124億円で買収すると発表

ユタ州に本拠を置くSarcos Robotics(サーコス・ロボティクス)が、同じロボット工学の会社であるRE2を買収する計画を、米国時間3月28日朝に発表した。買収額は1億ドル(約124億円)で、現金3000万ドル(約37億円)とSarcosの株式7000万ドル(約87億円)の混合で支払われる。同社によると、3000万ドルは手持ちの現金で支払うという。これは2021年、同社がSPACを通じて株式公開を決定したことから得たものであることは間違いない。

ピッツバーグに本社を置くRE2は、遠隔操作可能な移動式マニピュレーションシステムでよく知られているが、これは将来の親会社が得意とする分野の1つである。潜在的な余剰労働力になるにも関わらず、RE2の100人を超える従業員は移行期間中も引き続き在籍することになると、Sarcosは述べている。その中には、CEOのJorgen Pedersen(ヨルゲン・ペダーセン)氏も含まれており、同氏は合併後の新会社のCOOに就任する予定だ。

「RE2のチームは、Sarcosの一員となり、インテリジェントロボットシステムの開発と採用を加速させることを楽しみにしています」と、ペダーセン氏はリリースで述べている。「特に熟練労働者の不足が深刻化している現在、世界中でロボット技術は、複雑で時に危険な作業をともなう労働者の仕事のやり方を変えつつあります。両社が統合することによって、Sarcosはより幅広い顧客層に向けてさまざまなロボットソリューションを提供できるようになります」。

画像クレジット:RE2

現在、産業および防衛(つまり軍事)用途に特化しているSarcosの製品ラインナップは、今回の買収によって拡大することになる。その中には海中や水中での用途や、ロボット産業にとって大きく可能性が開かれている医療市場も含まれる。おそらく、買収完了後には提供する製品の統合が行われるだろうが、Sarcosは今回の移転により、エンジニアリング部門の人数が実質的に2倍になると言及している。

「今回の買収により、補完的かつ相加的な製品群を持つ革新的な企業がSarcosファミリーに加わり、顧客のニーズに対応したより幅広いソリューションを提供できるようになります」と、SarcosのKiva Allgood(キヴァ・オールグッド)CEOは述べている。「また、これによって私たちは、医療や海底など新しい産業へ向けた製品提供の拡大、ロボティクス専門家チームの深化、非構造化環境で使用するAIや機械学習技術の開発推進が可能になります」。

この買収は、第2四半期中に完了する予定だ。

画像クレジット:RE2

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

カーネギーメロン大学発先進「触覚センシング技術」の社会実装を推進するFingerVisionが1億円のシード調達

カーネギーメロン大学発「触覚センシング技術」の社会実装を推進するFingerVisionが1億円のシード調達

FingerVisionは3月23日、シードラウンドとして、第三者割当増資による総額1億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII2号投資事業有限責任組合)。大学発の「視触覚」技術の実用化を通じロボット・機械の適用範囲を広げ、様々な社会課題を解決することを目指しており、調達した資金により経営・開発体制を強化し、触覚センシングデバイスやロボットハンド、業界向けソリューションを実用化するという。

今後、様々な分野においてロボット化・AI化の流れがさらに加速すると予想されるものの、「触覚」の⽋如が実世界におけるロボット・機械の適⽤範囲を限定されているという。そこでFingerVisionは、同社の触覚技術でロボットの⾏動⽣成能⼒を向上させることで、⼈⼿をかけて対応せざるを得なかったタスク(特に過酷・劣悪な労働環境、危険な作業など)をロボットが担えるようにする。

同社は、ロボットの活⽤範囲を広げることについて、社会システムにおける人の役割・ロボットの役割を再定義することにつながると指摘。より良い社会のあり方を実現するための具体的な解決策の1つとして、革新的かつ実用性の高い触覚技術・ロボット技術を提示し続けるとしている。

FingerVisionは、コア技術のコンセプトとして「画像(カメラ)をベースに触覚を再現する」を採用。ロボットハンドなどの指先に搭載することで、触覚(力や滑りの分布など)を知覚できるようになり、あたかも人が「手のひら」の感覚を使って物体を扱うような制御をロボットで実現できるという。

この技術は、カーネギーメロン大学において、同社取締役の⼭⼝明彦氏がロボットAIやAIベースドロボットマニピュレーションの研究を進める中で、食品など従来のロボットが扱うことが難しかった対象物を操作する研究の過程で、Christopher Atkeson教授とともに生み出したものがベースという。基礎的なアルゴリズムなどを研究をしつつ、実用性も強く意識し研究を進めた経緯から、高機能(高分解能・マルチモダリティ)でありながら、経済性に優れる実用性の高さを特徴とするそうだ。

「触覚」センサーとはいいつつも把持対象物を見る(視覚)モダリティも備えた、まったく新しいコンセプトの「視触覚センサー」であり、ロボットと組み合わせたプロセス自動化だけでなく、無限の応用可能性を持つとしている。
カーネギーメロン大学発先進「触覚センシング技術」の社会実装を推進するFingerVisionが1億円のシード調達

自動実験ロボとデータ科学により人の100倍以上の速度でリチウム空気電池の電解液の調合・電池性能評価を実施、充放電サイクル寿命が2倍に

自動実験ロボとデータサイエンスにより人の100倍以上の速度で蓄電池の電解液の調合・電池性能評価を実施、充放電サイクル寿命が2倍に

各種探索手法を用いた際の、発見した電解液性能の経時変化。ランダム探索(黒線)に比べて、局所最適値法(赤線)やベイズ最適化(青線)を用いた場合の方が、より効率的に高性能電解液を発見できる

物質・材料研究機構(NIMS。松田翔一氏、Guillaume Lambard氏、袖山慶太郎氏)は3月23日、リチウム空気電池の電解液材料の材料探索において、独自の電気化学自動実験ロボットと、ベイズ最適化に代表されるデータサイエンス的手法を組み合わせた新しい手法を確立し、充放電サイクル寿命を2倍に向上させる電解液材料の開発に成功したと発表した。次世代蓄電池の開発を加速する、有力な手法になることが期待される。

車載用やスマートグリッド用など、蓄電池の需要が高まっていが、現在多く使われているリチウムイオン電池の性能は限界に達している。そこで革新的な蓄電池のいち早い実現が求められているが、その候補となっているのがエネルギー密度がリチウムイオン電池の2倍から5倍というリチウム空気電池だ。しかし、リチウム空気電池は充放電サイクル寿命が短いことがネックとなり、実用化が進んでいない。そこを改善するには、正極と負極での反応効率が高い電解液材料を開発する必要がある。それには、膨大な数の化合物の候補の選定や組み合わせを行わなければならず、研究者の勘と経験を頼り試行錯誤されているのが現状だ。

電気化学自動実験ロボットの(a)注液部、(b)全体像、(c)電極部

研究チームは、独自に開発した電気化学自動実験ロボットとデータサイエンス的手法を組み合わせて、この問題に取り組んだ。このロボットは、電解液の調合と電池性能評価を人の100倍の速度で行える。そこでアミド系電解液に的を絞り、その弱点である負極の反応効率の低さを解消する電解液の添加剤を探すことにした。添加剤の候補の組み合わせは1000万通り以上あり、そこからランダムに選び出した4320種類のサンプルの負極反応効率を評価した。その結果、86.1%まで反応効率を高める添加剤の組み合わせを発見できた。これに対して、局所最適値法とベイズ最適化といったデータサイエンス的手法を採り入れて探索を効率化すると、最大で92.8%まで反応効率を高める組み合わせが見つかった。この添加剤を導入した電解液を使用すると、リチウム空気電池の充放電サイクル寿命は約2倍に増大した。

この研究は、「試行錯誤的に行われてきた電解液材料の開発に対して、大きなインパクトを与えるもの」だという。またこの手法は、ナトリウムイオン電池やマグネシウム電池などの蓄電池用電解液の材料開発への適用も期待されるとのことだ。

農地をスキャンし、壁を作り、窓を掃除するロボットたち

私のGmail受信箱は、アグリテック(農業技術)の売り込みでいっぱいになり、正直なところ、最後の2通のニュースレターで話題にしたことを少々後悔している(といいつつ、またやっているわけだが)。あれはいつ始まったのだろう?私の住む半球では、ちょうど東海岸時刻午前11時33分に正式に春が訪れたためだ。花は咲き、鳥はさえずり、私たちはみな、どうやってロボットを導入しようか考えている。

そして(おそらくは関連する事実として)World Agri-Tech Innovation Summit(世界農業技術イノベーション・サミット)が今週サンフランシスコで始まったことが、少なくとも部分的には、宣伝メールが大気を埋め尽くす大量の花粉のように増えた理由だろ。別に私は腹を立てているわけでもなんでもない(もしそう聞こえたなら、今私の脳内の半分を占めている花粉のせいだ)。事実、それはこの分野の大きなトレンドへの興味深い洞察を与えてくれた。

以前私は、アグリテックロボティクスが期待されたほど普及していないことに言及し、今も変わっていない。しかしそれは、努力が足りていないからではない。今この分野で最も重要なのは、農作物監視、特に潜在的問題に備えた監視だ。何度も引き合いに出しているが、米国の農業従事者の平均年齢は57.5歳で、日本ではさらに約10歳高い。ここ米国で、約40年間この年齢は上がり続けている。

この話を持ち出す理由は、農業が著しく困難な仕事であり、多くの人々が(少なくとも理論的には)引退を考えている年齢で、彼らは日の出から農地に出ている。伝統的な監視は、日中の多くの時間を独占する退屈な作業だ。そして、正しく行わないと、問題のある場所が実際の問題になる前に見つけることは困難だ。

画像クレジット:Growmark/Solinftec

私が思いつく新しい監視方法は4つ、衛星画像、IoTデバイス、ドローン調査そしてGrowmark(グローマーク)とSolinftec(ソリンフテック)の名前のないデバイスをはじめとするロボティクスだ。農作物監視は、農業にロボットを導入する重要な第一ステップだが、それ以外の果実収穫、除草、耕耘(こううん)などの作業にその機能を組み合わせたいっそう魅力的なモデルもある。これらのデバイスの多くが効率的にレンタルされていることから考えると、農業従事者は費用に見合う最大の価値を求めているのだろう。

さて、今週はずいぶんとたくさん農業の話をしてきた。ロボティクス普及の未来について少し考えてみよう。2021年の終わり頃、私はCMU(カーネギーメロン大学)の新しいディレクターと今後の目標について話した。彼はインタビューの最後をこう締めくくった「工場の現場などに行けばロボットを見ることができるでしょうし、家にはロボット掃除機があるかもしれませんが、私は窓の外を見るとロボットがいるというレベルにしたいと思っています」。

ここでSkyline Robotics(スカイライン・ロボティクス)について少し話そう。最近の記事に書いたように、私は自動化したい仕事リストの上位にビルの窓掃除を置いている。この仕事が比較的危険であることを考えると、ロボット化はかなり進んでいると思っていたが、私の見た数字はそれを反映していなかった。

統計的にみて、世界で最も危険な職業ではないかもしれないが、路上数百メートルの空中に宙ぶらりんになるのは、最も恐ろしい状態の1つではあるだろう。Skylineは2021年遅くにOzmo(オズモ)システムを披露して、何度かマスコミに登場した。具体的には、ロボティック・アームのKuka(クカ)を2台、吊り下げられたプラットフォームに載せたものだ。3月24日、同社は 650万ドル(約7億9000万円)の資金調達を発表し、総調達額は900万ドル(約10億9000万円)に達した。

「このラウンドと初のOzmo展開の成功は、我々の製品とサービスに対する需要が目に見えて投資家に伝わっているだけでなく、Skylineの前に大きなビジネスチャンスがあることを示しています」とCEOのMichael Brown(マイケル・ブラウン)氏は話した。「私たちのチームの信念は、投資家のみなさんのものと一致しています」。

画像クレジット:OTTO

危険な職業と言えば、先週書いたように、フォークリフトも実はかなり危険だ。当然多くの企業がこの作業の自動化を目指しており、カナダ・オンタリオ州拠点のOTTO(オットー)もその1つだ。今週同社は、新しい自動パレットムーバーであるOTTO Lifter(オットー・リフター)を発表した。

Plotlogicの創業者でCEOのAndrew Job(アンドリュー・ジョブ)氏(画像クレジット:Sarah Keayes/The Photo Pitch)

ちなみに、最近同僚のDevin ColdweyがPlotlogic(プロトロジック)の1800万ドル(約21億8000万円)の資金調達について記事を書いている。オーストラリア、ブリスベーン拠点のスタートアップはハイパースペクトルイメージングと呼ばれる手法を用いて、土壌から検出困難な元素を見つける。

CEOのAndrew Job(アンドリュー・ジョブ)氏は次のように話している。

「経済的なメリット、環境維持のメリット、安全性のメリットの3つがあると考えています」とジョブ氏はいう。「より多くの鉱石を処理し、廃棄物を減らすことができるため、より収益性が高くなります。より正確に、より多くの岩石をその場に残し、燃料や温室効果ガスを廃棄物の移動に費やさないようにすることができるのです。そして、それは鉱山での人間の被曝時間も減らします」。

画像クレジット:NVIDIA

今週GTC 2022カンファレンスで、NVIDIAはJetson AGX Orin(ジェットソン・エージーエックス・オーリン)を発表してロボット開発分野への参入を印象づけた。2000ドル(約24万円)の開発キットは、先行機種と比べてコンピューティング・パワーが大幅に強化されている。製品版の発売は第4四半期になる。

オートメーションは、10兆ドル(約1218兆円)の建設産業に今後5年以内に革命を起こす態勢にある。そこで、Rugged Robotics(ラギド・ロボティクス)は、さらなる自動化を目指している。同社は、フィールドプリンターを完全自立型にして24時間運転を可能にすることを発表した。同社のシステムは床に建物のレイアウトを印刷し、作業者に正確な建設位置を教える。

今週同社は940万ドル(約11億円)を調達し、資金総額は約1200万ドル(約14億6000万円)になった。「私たちは建設業界の近代化を目指し、建設業者が毎日苦労している痛点を解決するための実用的なソリューションを構築したいと考えています」と、Derrick Morse(デリック・モーズ)CEOは声明で述べている。「レイアウトは理想的なその出発点であると確信しています。レイアウトは、建設の自動化のための足がかりになります。デジタルと物理の世界の交差点に位置し、大きな問題を解決でき、非常に有意義な方法でロボットを現場に配備することが可能です」。

そうそう、今週お別れする前にこれを言っておかなくてはならない。Open Robotics(オープン・ロボティクス)10歳の誕生日おめでとう。私はまだ、何でも持っているこのRobot Operating System(ROS、ロボット・オペレーティング・システム)管理者に何をプレゼントすればよいかわからないので、ちょっとしたコラムのスペースで我慢してもらおう。

画像クレジット:Skyline Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

建設現場にロボットでレイアウトを描くRugged Roboticsが約11.4億円を調達

我々が最初にRugged Robotics(ラギド・ロボティクス)という会社に注目してから、1年近く経った。ヒューストンに拠点を置くこのスタートアップは、建設現場の床に建物のレイアウトを印刷するロボットを開発し、作業員がどこに建設すればよいか(そしてどこに建設してはいけないか)を知ることができるようにした。同社はこのロボットを「レイアウト・ルンバ」と称している。当時、同社は2019年のシードラウンドで250万ドル(約3億円)を調達していた。

もちろん、それはこの2~3年の間に起きた新型コロナウイルス感染流行にともなう自動化が加速する前のことだ。今、建設業はロボット工学の主要なターゲットになっているようだ。ウイルスの感染流行は起こり、人々は病になる。しかし、建設は決して止まることはないらしい。Ruggedの技術は、現場の人間に取って代わるものではなく、むしろ精度を高めるために設計されたものだ。それでも、同社は自動化への関心の高まりから恩恵を受けているようだ。

画像クレジット:Paul Valle / Rugged

米国時間3月23日、同社はシリーズAラウンドで940万ドル(約11億4000万円)の資金を調達したと発表した。このラウンドはBOLD Capital Partners(ボールド・キャピタル・パートナーズ)とBrick & Mortar Ventures(ブリック&モーター・ベンチャーズ)が主導し、Riot Ventures(ライオット・ベンチャーズ)、Morpheus(モーフィアス)、Embark(エンバーク)、Consigli Construction Company(コンシーリ・コンストラクション・カンパニー)、Suffolk Technologies(サフォーク・テクノロジーズ)が参加した。これにより、同社が現在までに調達した資金の総額は約1200万ドル(約14億6000万円)になった。

「私たちは建設業界の近代化を目指し、建設業者が毎日苦労している痛点を解決するための実用的なソリューションを構築したいと考えています」と、Derrick Morse(デリック・モーズ)CEOは声明で述べている。「レイアウトは理想的なその出発点であると確信しています。レイアウトは、建設の自動化のための足がかりになります。デジタルと物理の世界の交差点に位置し、大きな問題を解決でき、非常に有意義な方法でロボットを現場に配備することが可能です」。

今回調達した資金は、ロボットの配備を加速させるとともに、人材雇用の拡大にも充てられる予定だ。直近では、同社はAuris Health(オーリス・ヘルス)でメカニカル・エンジニアリング部門のディレクターを務めていたMason Markee(メイソン・マーキー)氏を迎え入れた。Rugged Roboticsが参入したフィールドプリンターの分野には、2021年夏に1650万ドル(約20億円)のシリーズA資金を調達したDusty(ダスティ)などの企業がいる。Ruggedは、最小限のセットアップで複数のロボットを同時に操作できるようにする「自己完結型ソリューション」によって、他社との差別化を図ることを目指しているという。

また、同社はより自律性を高める方向にも取り組んでいる。「Rugged Roboticsは、そのエンド・ツー・エンドのシステムをさらに洗練させ、配備を簡素化し、最終的には無人で夜間作業を可能にすることを計画している」と、同社は記している。

画像クレジット:Paul Valle / Rugged

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ロボットアームを使った高層ビル窓ガラス掃除のSkylineが7.9億円調達

自動化する意義がある仕事のリストで、筆者は窓掃除をかなり上位に入れたい。実際、この仕事は汚くて危険なものだ。そして驚くことに、危険手当がそれほど支払われない。何百フィートもの高さで空中にぶら下がるような仕事には、当然支払われるべきものだと思うのだが。

Skyline(スカイライン)は2021年に、高層ビルの側面にある手の届きにくい場所を清掃する(ファサードメンテナンスと呼ばれる)ロボットシステムOzmo(オズモ)を納入して話題になった。このシステムでは、Kukaの産業用ロボットアーム2本が吊り下げられたプラットフォームに据えられている。

清掃するガラスの位置を確認するのにLiDARを使い、作業中はガラスを割らないよう力センサーに頼っている。また、アルゴリズムが組み込まれているため、風が強い状況でも安定したロボットハンドを実現し、最適な清掃経路を1分間に数百回再計算することが可能だという。

ニューヨークを拠点とするSkylineは3月23日「プレシリーズA」と称するラウンドで650万ドル(約7億9000万円)の調達を発表した(正直なところ、こうした資金調達ラウンドのラベルは、これまで持っていた意味を失いつつある)。Skyline Standard Holdingsがこのラウンドをリードし、Skylineの資金調達総額は900万ドル(約10億9000万円)に達した。

「このラウンドと初のOzmo展開の成功は、我々の製品とサービスに対する需要が目に見えて投資家に伝わっているだけでなく、Skylineの前に大きなビジネスチャンスがあることを示しています」とCEOのMichael Brown(マイケル・ブラウン)氏は話した。「私たちのチームの信念は、投資家のみなさんのものと一致しています」。

確かに、ニューヨーク市だけでも数千万枚の窓ガラスが清掃を必要としており、そこにはチャンスがたっぷりある。

画像クレジット:Skyline Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

農作物監視の分野に新しいロボットが参入

最近、自分がアグリテック(農業テック)の記事を多く書いていることに、ふと気づいた。春になったからか、あるいは差し迫る厄介な環境破壊について頻繁に考えるからだろう。

いずれにしても、この分野のロボットは全般に牽引力に欠けることを筆者は憂いている。だから新しい有力なプレイヤーが出てくると、いつもうれしい気持ちになる。

米国時間3月22日〜23日にサンフランシスコでWorld Agri-Tech Innovation Summit 2022が開催されており、ロボットも気になるところだ。米国時間3月22日、このイベントでGrowmarkSolinftecがまだ名前の決まっていないアグリテックのロボットの発売に向けた提携を発表した。このプロダクトは2022年に実地試験が実施され、両社は2023年中の発売を計画し、目指している。

このロボットの機能は、他社の多くのプロダクトと似ている。最近でいうと、Verdantや農業機械大手のJohn Deereが買収している多くのスタートアップなどが、可能性の大きい市場に向けて取り組んでいるプロダクトだ。ロボットは畑を効率よく自律運転で動き回り、農作物の健康や栄養の状態を調べ、害虫や雑草などの問題が発生しそうな範囲を見つける。収集された情報は、対策のために農家に送られる。

SolinftecのCOOであるDaniel Padrão(ダニエル・パドラン)氏は発表の中で「我々のロボットを畑に持ち込み、実用化します。最先端のテクノロジーによって農業のソリューションを構築し持続可能な農業の実践を支援します。Growmarkという革新的なパートナーを得て最初の発売に向けて前進できることを光栄に思い、農家が農業のチャンスをつかめるよう引き続き支援していきます」と述べた。

基本的な機能としては納得できるものだと思う。広大な農地をミクロレベルで監視するのは極めて難しく、多くの場合は問題がある範囲に事前に適切な対処をするのではなく、実際に問題が発生してから見つけることになる。監視にはロボットやドローン、衛星画像などさまざまな方法がある。除草や収穫、耕作などをしながら農作物の監視をするロボットとも競合することになる。

画像クレジット:Growmark/Solinftec

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(文:Brian Heater、翻訳:Kaori Koyama)

Preferred Roboticsが6億円調達、旭化成ホームズと家庭向け自律移動ロボ開発や三井住友銀行と自律移動ロボの決済機能開発

Preferred Roboticsが6億円調達、旭化成ホームズと家庭向け自律移動ロボ開発や三井住友銀行と自律移動ロボの決済機能開発

Preferred Robotics(プリファードロボティクス。PFRobotics)は3月22日、第三者割当増資による約6億円の資金調達を3月18日に実施したと発表した。引受先は、旭化成ホームズ三井住友銀行

調達した資金により、財務基盤の強化、優秀な人材の確保、ロボットの開発および製造のための投資を行う。

同時にPFRoboticsは、親会社Preferred Networks(PFN)と旭化成ホームズが実施した実証研究を引き継ぎ、今後PFRoboticsと旭化成ホームズで家庭向けの自律移動ロボットの共同開発を行う予定。また三井住友銀行とは、自律移動ロボットの決済機能や金融サービス提供機能などの共同開発を目指すとともに、同社のネットワークを活用して、顧客ニーズに基づく新たなロボットを多様な事業者などと共創する。

PFRoboticsは、PFNおよび協業企業との連携を強化し、共同開発および自社開発の自律移動ロボットの販売を年内に開始する計画という。

Preferred Roboticsは、PFN子会社として 2021年11月に設立。PFNと共に掲げるビジョン「すべての人にロボットを」の実現に向け、自律移動ロボットの研究開発を行っている。また同社は、PFNの機械学習・深層学習技術を応用し、様々な用途の自律移動ロボットの製造・販売を目指している。

温室栽培の作物を見守るロボットを開発したIUNU(ユーノウ)が約28.4億円を調達

正直なところ、IUNU(「ユーノウ」と発音)という社名はわかりやすいとは言えない(さらに同社の「LUNA(ルナ)」と呼ばれるロボットの存在が問題を余計に混乱させている)。しかし、このアグリテック企業は堅実な事業に取り組んでおり、シリーズBラウンドで見事な信任を得たばかりだ。米国時間3月16日のニュースでは、シアトルに拠点を置く同社が、2400万ドル(約28億4000万円)の資金を獲得したことが明らかになった。このラウンドは、Lewis & Clark Ventures(ルイス&クラーク・ベンチャーズ)が主導し、S2G Ventures(S2Gベンチャーズ)、Ceres Partners(セレス・パートナーズ)、Astanor Ventures(アスタナー・ベンチャーズ)などが参加した。

IUNUがターゲットにしているのは温室の世界だ。同社のLUNAロボットシステムは、温室の屋根の上を移動し、コンピュータビジョンを使って作物をチェックする。このシステムが問題のある場所や収穫可能な場所を検出できるので、農家は農作物の上を歩いたりしゃがんだりする必要がない。これは農場の規模が大きくなると問題になり始めることだ。

これまで我々が見てきたこの種のシステムは、より大規模な自律型ロボットの一部として、より一般的な農場に展開されるケースが多かった。しかし、確かに温室はこのような技術にとって理に適っている。屋根の上に設置したレールの上を効果的に行き来することができるからだ。

IUNUによると、同社は現在、米国の温室栽培の葉物野菜生産者の4分の1と取引しているという。従業員は現在60名で、この半年間で1.5倍に増加した。今回調達した資金は、グローバルな事業の拡大や、新製品の研究開発を強化するために使われる予定だ。

「今回の投資ラウンドは、機関投資家の当社に対する信頼を反映したものです」と、Adam Greenberg(アダム・グリーンバーグ)CEOはリリースで述べている。「この1年で農作物栽培の自動化に関する話は加速しており、我々はその先頭を走っていることを誇りに思っています」。

この手の技術では常にデータが大きな役割を果たすが、IUNUは現在、既存の展開に基づく「業界最大の生産データセット」を持っていると主張する。このような大きな資産は、作物にとって大きな問題となる前に潜在的な問題を特定するアルゴリズムを作成するために重要だ。

2021年9月、同社は2015年のStartup Battlefield(スタートアップ・バトルフィールド)で優勝したAgrilyst(アグリリスト)、後に社名を変えてArtemis(アルテミス)となったアグリテックのスタートアップ企業を買収し、データ収集能力を強化した。

画像クレジット:IUNU

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ハンバーガー調理ロボットに続き、Miso Roboticsからトルティーヤチップスを調理するロボットが登場

ハンバーガーを調理するロボットアーム「Flippy(フリッピー)」を開発した会社から、トルティーヤチップスを調理するロボットアーム「Chippy(チッピー)」が登場した。Miso Robotics(ミソ・ロボティクス)は米国時間3月16日、ファストフードのメキシコ料理レストランチェーン「Chipotle(チポトレ)」と提携し、トルティーヤチップスを揚げて味付けするシステムを開発すると発表した。もっとも、同社の「Flippy 2(フリッピー2)」が2021年、ファストフードチェーン「White Castle(ホワイト・キャッスル)」のフライドポテトを調理する方法を発見したことを考えれば、それほど大層なこととは思わないが。

この新しいロボット / AIシステムは現在、オレンジ郡にある同チェーンの食品研究所「Cultivate Center(カルティベイト・センター)」でテストされている。2022年後半には、南カリフォルニアのレストランで試験運用を開始する予定だ。その前に展開されたFlippyの時と同様に、Chippyのメーカーはこの試験期間中に、従業員や顧客にとって何が有効で、何が有効でないかを見極めることになるだろう。

このシステムは、バスケットを高温の油槽に浸すだけでなく、塩とライム汁でチップスに味付けもできるように設計されている。Chipotleは、ちょっとしたカオスが、調理に人間らしさを取り戻す鍵になるという。

「誰もがチップスに、ほんの少し塩味が濃い方がいいとか、もう少しライムを効かせて欲しいとか、注文を付けたくなるものです」と、Chipotleの料理担当バイスプレジデントであるNevielle Panthaky(ネヴィール・パンタキー)氏は語る。「当社の料理体験の背後にある人間性を失わないように、私たちはChippyを広範囲に訓練し、当社の現在の製品を反映した、お客様が期待する味の微妙なバリエーションを提供できるようにしています」。

Miso RoboticsのChippyは、ハンバーガー調理ロボットのFlippyと、ソフトドリンクディスペンサーの「Sippy(シッピー)」に加わることになる。この先、給仕ロボットの「Tippy(ティッピー)」や、マリファナ調合ロボット「Trippy(トリッピー)」なども登場するのだろうか?

画像クレジット:Miso Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

フォードが人の助けなしにロボットだけで3Dプリンターを操作することに成功、生産ラインのボトルネックを解決

Ford(フォード)のAdvanced Manufacturing Center(先端技術製造センター)は、異なるサプライヤーの機械同士が同じ言語で会話し、生産ラインの一部を自律的に操作できるようにするインターフェースを開発した。

自動車メーカーは何十年も前から、コスト削減と効率化のために製造工程にロボティクスを取り入れてきた。しかし、フォードの特許出願中のシステムは、ロボットが夜通し人手を介さずに3Dプリンターを操作することで、生産ラインの重要なボトルネックを解決するものだ。

この自律システムは、Carbonの3DプリンターとKUKA製ロボットが初めて同じ言語で会話できるようになり、生産工程に関わる他の機械とのコラボレーションの可能性を限りなく広げる。

これまでこの試みは、パフォーマンスパッケージを装着したMustang Shelby GT500(マスタング シェルビーGT500)スポーツカー用のブレーキラインブラケットなど、少量生産のカスタムカー部品の生産に役立っている。

「この新しいプロセスは、当社の製造施設におけるロボティクスの使い方を変える力を秘めています」と、グローバル製造技術開発ディレクターのJason Ryska(ジェイソン・リスカ)氏は述べている。

サプライヤーであるKUKAの車輪付きロボット「Javier」は、従業員が夜間に帰宅した後も、人間の介入なしに3Dプリンターを継続的に稼働させることができる。Fordによると、ロボットはプリンターのデータから常に学習し続け、自動車メーカーがより高い精度を達成し、誤差を減らすのに役立っているという。

「Fordの先端技術製造センターでは、Javierは完全に1人で3Dプリンターを操作する任務を負っています」とFordは声明の中で述べている。「彼は常に時間を守り、非常に正確な動作をし、充電のために短い休憩を取るだけで、ほぼ1日中働いています」。

通常、異なるサプライヤーの機器は、別々の通信インターフェースを使用しているため、相互作用することができない。Fordのシステムでは、異なるサプライヤーの機器同士が会話し、リアルタイムでコマンドやフィードバックを送ることが可能になる。

Carbon 3DプリンターがJavierに印刷物の準備ができたことを伝えると、Javierはそれを回収し、後で人間のオペレーターが回収できるように置いておく。

Fordは、通信インターフェースとロボットの正確な位置決めを支える技術について、複数の特許を申請している。このプロセスは自律的に行われるが、人間のオペレーターが3Dデザインをプリンターにアップロードし、機械のメンテナンスを行う必要がある。

画像クレジット:Ford

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(文:Jaclyn Trop、翻訳:Den Nakano)

外食産業の労働力不足を狙い配膳ロボットを手がけるBear Roboticsが約96億円調達

数年前からフードロボットのスタートアップ企業を追いかけていて最も興味深いことの1つは、下ごしらえから配達まで、各社が自動化を目指しているさまざまな作業を見ることだ。ベイエリアに拠点を置くBear Robotics(ベア・ロボティクス)は、ロボットをカウンターの前に連れ出そうとしている唯一の企業というわけではないが、近年、最も注目を浴びる企業の1つとなっている。

Bearは、日本でより多くのレストランに同社のシステムを導入しようとするなど、最近の展開で成功を収めている。これには、同社に出資しているSoftBank(ソフトバンク)の後援や、日本では労働力不足が続いているという事情がある。日本は以前から、高齢化社会の中で事業を継続させるための方法としてロボットに注目しており、近年の新型コロナウイルス感染流行がそのニーズを加速させた。一方、米国では、同社はChili’s(チリズ)、Compass Group(コンパス・グループ)、Denny’s(デニーズ)、Marriott(マリオット)、Pepsi(ペプシ)と提携している。

同社のビジネスモデルが、ソフトバンクから多大な信頼を得ていることは間違いない。ソフトバンクは最近、ロボットに対してさらに強気になっており、2020年にはBearのシリーズAを主導した。そして米国時間3月15日、新たな投資家としてIMMが、Cleveland Avenue(クリーブランド・アベニュー)などの既存投資家とともに、同社の8100万ドル(約96億円)のシリーズBを主導するために参入した。この最新のラウンドにより、Bearの資金調達総額は、これまでに約1億1700万ドル(約139億円)に達している。

Bearは、全自動化にははっきりと慎重な姿勢を示している。同社はこれまで、レストランが人間の給仕スタッフに取って代わるのではなく、それを補うための手段として自社を位置づけてきた。これは、同社の機械がロボット・ウェイターというよりも自走型テーブルに近いものであり、A地点からB地点まで注文を載せて運ぶだけという事実が一因であることは間違いないだろう。

「数年前に自分のレストランを始めたことで、私はその難しさを身をもって知りました」と、創業者兼CEOのJohn Ha(ジョン・ハー)氏はリリースで語っている。「そこで私は、レストランの良さを失うことなく、繰り返しの作業を自動化する方法はないものかと考えました。だから私たちはServi(サーヴィ)を作ったのです。これは、お客様、従業員、そして経営者の体験を向上させることを目的としたソリューションです。他の企業が仕事を完全に自動化しようとしている一方で、私たちは毎日この業界を支えている利害関係者のために、仕事の未来を向上させようとしているのです」。

Bearによると、同社のServiロボットは、これまでに総計33万5000マイル(53万9100キロメートル)を移動して、2800万食を配膳してきたとのことだ。

画像クレジット:Bear Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Intuition Roboticsの高齢者ケアコンパニオンロボット「ElliQ」がいよいよ発売開始

鋭いTechCrunch読者なら、我々がIntuition Robotics(イントゥイション・ロボティクス)を5年前から取材していることにすぐに気がつくだろう。遡ること2017年2月の、高齢者ケアロボットのクラウドファンディングキャンペーンからである。それ以来の取材のほとんどは、イスラエルを拠点とする同社がさまざまなラウンドでさらに多くの資金を調達していることについてで、最も重要な質問である「いつ」に答えることはなかった。具体的には、ElliQ(エリキュー)ロボットはいつ販売されるのだろうか?

ようやくプライムタイムの準備が整ったようだ。ロボットを作るのは時間がかかるもので、同社は数年かけてベータテストを行ってきた。Intuitionは、ElliQを米国時間3月15日より正式に販売することを、製品サイトを通じて発表した。2022年のロボット業界がたいていそうであるように、このデバイスはサブスクリプションプラン、いわばRaaS(Robotics as a Service)を通じて提供される。年間契約の場合、初期費用250ドル(約2万9570円)、月額30ドル(約3550円)で利用できる。

高齢者ケアは、日本では長い間ロボティクスの中心的存在だったが、他の地域ではなかなか足場を固めることができなかった。米国では、Labrador Systems(ラブラドールシステムズ)をはじめとするスタートアップが参入しており、Amazon(アマゾン)やGoogle(グーグル)といったスマートホーム機器メーカーも関連機能を自社システムに組み込み始めている。

画像クレジット:Intuition Robotics

ElliQは、惜しまれつつも生産終了したKuri(クリ)やJibo(ジーボ)のような、高齢者ユーザー向けに特化した製品だ。Labradorのように実際に雑用を手伝うのとは異なり、シニア層の参加を持続させるように設計されている。同社によると、平均的なユーザーは1日に20回、合わせて20分ほどこの製品と関わりを持つそうだ。つまり、テレビのようなエンゲージメントレベルではなく、もっと頻繁に、短い時間でチェックインできるように設計されているといえる。

共同設立者でありCEOのDor Skuler(ドール・スクーラー)氏はリリースでこう述べている。「長年の努力の末、ついにこの日がやってきました。パンデミックの間中、私たちは孤独が高齢者層にもたらす破壊的な影響を目の当たりにしました。同時に、ElliQがベータ版ユーザーに信じられないほど役立ち、笑顔をもたらすのも目の当たりにしてきました」。

エクササイズ、Mayo Clinic(メイヨー・クリニック)からの健康情報、家族とのチェックイン、Uber Healthによる交通手段の提供など、デバイスを通じて利用できるコンテンツは多岐にわたる。つまり、普段は1人暮らしでも大丈夫なくらい自立しているが、もう少し手助け・サポートが必要な人のために、サポートとエンゲージメントという2つの要素が用意されているのだ。

画像クレジット:Intuition Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Den Nakano)

前澤友作氏が家庭用ロボット事業に参入、前澤ファンドが家族型ロボ「LOVOT」のGROOVE X株式の過半数を取得

前澤友作氏が家庭用ロボット事業に参入、前澤ファンドが家族型ロボ「LOVOT」のGROOVE X株式の過半数を取得し国内外展開加速

ロボットスタートアップGROOVE Xは3月15日、前澤友作氏率いる前澤ファンドが2022年3月15日時点においてGROOVE X株式の過半数を取得したと発表した。2022年4月5日時点に前澤ファンドがGROOVE X株式の全株式を取得する予定。

GROOVE Xが手がける家族型ロボット「LOVOT」を通じ、前澤氏が家庭用ロボット事業に参入する。また、同社代表取締役社長の林要氏は職務を継続し、前澤氏とともに日本発の世界に誇れる新産業として「LOVOT」事業を推進する。

前澤氏は、「掃除したり仕事したりするロボットではないけれど、こんな時代だからこそ、人をほっこり幸せな気持ちにさせてくれる存在に、大きな可能性を感じています」とコメント。また林氏は、「さらなる飛躍のために、ファッションやアートに造詣の深い前澤さんを株主にお迎えできたことは、大変嬉しく思います。前澤さんの豊富なご経験、人脈、資金力の元で、引き続き日本発の新産業である『LOVOT』を世界に発信し、テクノロジーの平和利用を促進してまいります」と述べている。

1カ月ほどで家を建てる住宅建築ロボットのDiamond Ageが58.6億円を調達

ほんの数カ月前に800万ドル(約9億4000万円)の資金調達行ったばかりのDiamond Age(ダイアモンド・エイジ)が、シリーズAで5000万ドル(約58億6000万円)を追加調達した。3Dプリントとロボット技術を利用して住宅建設を大幅に安くすることで、住宅購入をより手頃なものにするというのが同社のミッションだ。

自らを「フルスタックロボットスタートアップ」と称する同社は、新しい家を建てる際の半分以上の手作業を置き換えるためのツール群を開発している。ロボットという要素を加えることで、これまで9カ月かかっていた住宅建築が、1カ月ほどで可能になるという副次的な効果もある。同社は現在、外装、内装、屋根構造のコンクリートをプリントできる3Dプリントシステムに加えて、26種類のエンドオブアーム型ロボットツール(ロボットアームの末端に装着してさまざまな仕事をこなすアタッチメント)を開発している。

今回の資金調達ラウンドは、科学駆動型イノベーションに注力するPrime Movers Labが主導した。Prime Movers Labは特にエネルギー、交通、インフラ、製造、人間能力拡大、アグテック(アグリテック)などを革新するスタートアップに注目している。シード投資家のAlpaca VC、Dolby Family Ventures、Timber Grove Ventures、Gaingelsは予定以上の投資を行い、Signia Venture Partnersも加わった。創業者たちにとって最も心強いのは、このラウンドの20%が住宅建設業者や土地開発業者であったことだろう。潜在顧客がスタートアップに投資するのは、常に良い兆候だ。

前回の資金調達以来、 Diamond Age は技術を大幅に進歩させ、今では2000平方フィート(約190平方メートル、約56.2坪)の平屋をプリントして建てることができるようになった。それが投資家たちを感心させ、評価額の火種に油を注いだことは間違いない。同社は最初のスケールアップ版システムと、フルスケールの3ベッドルーム+2バスルームの住宅を、予定より4カ月早く11カ月で納入した。このことによって、同社はとある全国規模の住宅メーカーと初めて契約を結んだ。この契約について、創業者たちは今のところ詳細を明らかにしていないが、この発表も近いうちに行われることだろう。

Diamond Ageの共同創業者Jack Oslan(ジャック・オスラン)CEOは次のように語る。「手頃な価格の住宅建設は、世界規模で人々に影響を与えています。初めて家を購入する人の平均年齢が20歳代半ばから30歳代半ばに移行したことで、賃貸物件に対する需要が高まりました。このため『質の高い住宅』を求めて賃貸市場の競争がますます激化しています。次世代の住宅購入者が最初の家に早く住めるようにすることは、住宅のエコシステム全体に貢献することができます」。

Diamond Ageは、ロボットプラットフォームの拡張を継続し、住宅建設に関する初の商業契約を締結するために調達した資金を使用する。同社はすでに規模を2倍に拡大し、さらにエンジニアリングと製作の人材を加える予定だ。これにより、Diamond Ageは住宅メーカーやデベロッパーと提携し、住宅建築をオンデマンド商品化し、住宅購入者が住宅を設計する際に、より多くの選択肢を提供することができるようになる。

Prime Movers LabのジェネラルパートナーであるSuzanne Fletcher(スザンヌ・フレッチャー)氏は「Diamond AgeのFactory in the Field(ファクトリー・イン・ザ・フィールド、現場の工場)システムは、建設現場に自動化をもたらし、住宅建設業界における大規模な労働力不足を補うものです」と述べている。「ジャックと彼のチームは、予定より早く重要なマイルストーンを達成し、分譲住宅の建設方法を変革していましたので、Prime Movers Labが同社のシリーズAを主導することは容易に決断できました」。

画像クレジット:Diamond Age

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)