ワイヤレス戦争を終わらせるための和平案

【編集部注:著者たちについて】Boris TekslerAppleの前元ライセンス担当責任者である。現在は特許ライセンス会社Conversant IPの最高経営責任者である。Joseph Siinoは、Yahooの元知的財産責任者であり、現在はVia Licensingの社長である 。そしてIra BlumbergLenovoのIP担当副社長である 。

私たち3人が、企業の特許戦争で同じ側に立って発言することなど、誰も想像することすらできなかっただろう。だがこの戦争を終わらせるための提言を1つの声としてお届けしたい。

私たちの1人は世界的スマートフォンメーカーの特許責任者である(そして特許ライセンスの濫用に対する有力な批評家でもある)、そして別の1人は以前Appleでラインセンシングの責任者を務め、現在は不実施主体(non-practicing entity:NPE)パテントライセンス会社の責任者を務めている。この会社は製品メーカーたちからの批判の対象になってきた。また第3の人物はライセンスプール企業の経営者であり、特許戦争の両側の企業たちを、その駆け引きや、透明性の欠如、そして訴訟好きな体質で批判してきた。

私たちがここに足並みを揃えたのは、特許所有者と製品メーカーたちが、無限の請求、反対請求、そして非生産的な訴訟に巻き込まれて身動きできなくなっていることを見たことが原因だ。こうした紛争から脱出する方法が見つからない限り、これまでのコストがかかり無駄だったスマートフォン戦争と同じ事態が、将来のワイヤレスコネクテッドカーの世界でも繰り返されることはほぼ間違いないだろう。

製品メーカーたちは、特許権者たちが法外なロイヤルティを要求するために、自分たちを法的に脅迫し、法的費用を使っていると非難している。一方、特許権者たちは、製品メーカーたちが、デバイスに通信やエンターテイメント機器としての価値をもたらしている無線、オーディオ、そしてビデオ機能などの特許に対する、公正な支払いを拒否していると言っている。

実際は、どちらの言い分にも真理が含まれているのだ。ここでの問題は、特許所有者と製品メーカーの両者が、特許ライセンスに対する透明性と公正基準の欠如のために、紛争両陣営がお互いを出し抜こうとする「囚人のジレンマ」に落ち込んでいることなのである。これは、耐えられないほど高額な訴訟となり、両当事者が否定的な結果に苦しむことを確実にするだけだ。

不動産業とは異なり、知的財産権(IP)のライセンスでは、資産の独立した評価(すなわち特許)や、価格の決定方法に関する透明性がほとんどあるいは全く存在していない。また、ほとんどの特許ライセンス契約は機密扱いであるため、類似の特許権に対して他の人が幾ら支払ったかについての情報あるいは比較材料も、ほとんどあるいは全く存在していない。また、買い手と売り手の間での、公正な交渉慣習について、広く受け入れられている基本的なルールも存在していない。

これは、公正、合理的、かつ非差別の条件(FRAND)でライセンス供与されるはずの、標準必須ワイヤレス特許に関して特に当てはまっている。しかし、手におえないほど多数のLTE(4G)セルラー特許群 ―― 実際に6万件以上である ―― が、いかなる独立した評価も受けずに「標準必須」(standards essential)と宣言されてきた中で、何が「公正、合理的」なものなのだろうか?

そう、ご想像の通り、それらの6万件以上の特許は、それぞれ独自の商業的利益を求めている企業たちによって、「標準必須」であると自己宣言されてきたのだ。目の前にあるのはゴールドラッシュである ―― ただし夥しい量の偽の金が、本物の金だとして差し出されているゴールドラッシュなのだ。

こうした状況を憂えて、特許権者と製品メーカー両サイドの、業界リーダーたちと協力している私たち3人が、ワイヤレス特許戦争を終わらせ、より生産的で訴訟の少ない特許ライセンス取引を行うための3つの和平案を提言することにしたのだ。

まず第1に、この手に負えない数の自己本位のワイヤレス特許群を、大部分の専門家たちが、真にスマートフォン端末メーカーにとって必須であると認める2000個以下の特許に絞り込むこと。重複した特許、期限切れの特許、主要経済市場では有効でない特許、そして基地局、インフラストラクチャ、その他の携帯機器メーカとは関係のないイノベーションの特許を除外することで、これを実現することができる。そして独立した、中立的な評価者が、各特許の携帯端末のためのLTE標準との関連性を認定する。

第2に、個別に主観的に決められた特許の価値に基くのではなく、1台の電話機の中のLTE特許総体の価値から客観的に算出された価格に基いて、ロイヤルティの基礎を決定すること。最近の裁判所判決は、平均販売価格が324ドルのスマートフォンの中でのLTE特許分は約20ドルであると評価したが、両者からより透明性の高い価格が提示されれば、市場そのものがLTE特許総体に対して合理的な価格を設定する可能性は高い。そうすればLTE特許全体に占める割合にほぼ比例する形で、ロイヤルティを特許所有者たちに支払うことができる。

そして第3に、価格フレームワークを公開し、全てのライセンシーに一貫した条件を提供するパテントプールなどの、集合的ライセンシングソリューションを積極的に採用することで、より透明性を確保すること。現在の特許ライセンスにおける「囚人のジレンマ」の力学を考えると、1人の特許権者が一方的にその価格戦略を開示して、潜在的ビジネスチャンスをふいにすることは期待できない。しかし、パテントプールなどの集合的なライセンシングアプローチは、誰に対しても透明性によって生じるリスクを低減してくれる。

IP業界紙のIntellectual Asset Managementが最近指摘したように「モバイルのような分野で、特許権者とライセンシーの間に横たわる、長期的かつ高価な紛争によって傷ついた業界の問題の幾つかを、ライセンスの集合的アプローチが解決するのに役立つだろうという意識が高まっている」のである。

私たちの「和平案」は、ワイヤレス特許ライセンシングにおける駆け引きに対する多くのインセンティブと機会を取り除くものである。そして最も重要なのは、将来のコネクテッドカー、自動運転車、IoT(Internet of Things)業界において、コストがかかっていたこれまでのスマートフォン戦争が繰り返されることを、特許権者や製品メーカーたちが避けられるようにするということだ。

いまや、業界における新たな再編の時期なのだ。これからの争いは製品メーカーと特許権者の間で行われるのではなく、特許を公正で透明に行うものと、そういうやり方を行わないものとの間で行われるものとなる。

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(翻訳:sako)

画像クレジット: Archives New Zealand / Flickr under a CC BY 2.0 license.