Pinduoduoのスマート農業コンペ温室で作物の生長を見守る監視装置
2018年、Pinduoduo(拼多多、ピンドゥオドゥオ)は、創設3年目の企業(未訳記事)でありながらNASDAQ上場で16億ドル(約1660億円)を調達(未訳記事)し、投資コミュニティに衝撃を走らせた。中国のオンラインショッピング利用者は、長年市場を独占してきたAlibaba(アリババ)やJD.comに取って代わる新サービスの登場に歓喜した。
しかし、Google(グーグル)の元エンジニアColin Huang(コリン・フアン)が創設したこのスタートアップ企業は、その野心をeコマースの先に据えていた。同社は、中国の農業の近代化と地方経済の活性化を目指す中国政府の要請に応えたのだ。
中国の日常生活は小売り、娯楽、教育、医療に至るまで、さまざまな側面が高度にデジタル化されてきた。しかし、農業だけが取り残されている。2017年後半からのMcKensey(マッケンジー)の報告を見ると、農業は中国で最もデジタル化が遅れている産業であることがわかる。Pinduoduoはこのギャップを好機と考えて、オンラインで果物を売ることから事業を始めた。時が経ち、PinduoduoはAlibaba(アリバナ)と並ぶ総合eコマースプラットフォームに成長した。しかし農業は「創業以来、ずっとPinduoduoの中心的な位置にあります」と、同社上級副社長Andre Zhu(アンドレ・ズー)氏はいう。
「スマート農業への投資は、私たちの事業の延長線上にあり、デジタル包括性を促進するという私たちの目標に沿ったものです」。
独立した部署を置くことはせず、同社はこの農業事業を、全社をあげたそして社会をも捲き込んだ取り組みとしている。その戦略および投資担当チームは、農業のあらゆる段階において、規模拡大のために同社が協力し得るソリューションの特定を主導している。実装段階では、実働部隊の力を借りて、さまざまな地方行政機関と、テクノロジーを試したいと考える伝統的な農家との仲立ちをしている。
「少なくとも下流の流通面、eコマースの農業製品用マーケットプレイスでは、中国は諸外国に比べて比較的進んでいるといえます」とPinduoduoの持続可能性および農業インパクト担当エグゼクティブディレクターXin Yi Lim(シン・イ・リム)氏はTechCrunchのインタビューに応えて話した。
2019年、60万件近い業者が農作物をPinduoduoを通して販売した。それは、1200万件もの農家がその業者に果物や野菜を供給したものと解釈できる。2020年8月、Pinduoduoは、2025年までに年間1450億ドル(約15兆円)相当の農作物を扱うと宣言した。2019年時点では、その額は210億ドル(約2兆1700億円)だった。
「しかし、私たちがさらなる投資を奨励し増やしたいと思っているのは、実は上流部です」とリム氏はいい加えた。
そのためこのeコマースの巨大企業は、農業のライフサイクルを遡る旅を続けている。それはつまり、流通インフラの構築や、農家にマーケティングの知識を与えるなどの事業だ。2019年には、同社のオンラインeコマースビジネス学校が、およを50万の農業経営者に教育を施した。
Duo Duo大学にて、Pinduoduoに店舗を開設し運営する方法を学ぶ雲南省の農家(画像クレジット:Pinduoduo)
生産面では、Pinduoduoは数億人の購買者の購買行動を追跡し、何を植えて、どれほどの値を付けて販売するべきかを農家に教えている。このアプローチは、中間業者のコストを削減するための、同社の大規模な消費者直販戦略に従っている。
Pinduoduoはまた、農家のために農業の専門知識を収集したいとも考えている。同社は2020年、スマート農業コンテストを開催し、人工知能やネット接続機器を活用したイチゴの栽培を競うチームが世界中から参加した。評価はイチゴの甘さ、使用したエネルギーと肥料の量、AI戦略で審査された。優勝者のシステムは、Pinduoduoと雲南省政府との合弁プロジェクトであるAI管理のDuo Duo Farm(デュオデュオ・ファーム、Pinduoduoリリース)で展開され、同eコマースプラットフォームで農家が作物を直販できるようにする。
こうした例は、Pinduoduoの長期にわたる農業ゲームという氷山のほんの一端に過ぎない。この分野に投資(Pinduoduoリリース)する具体的な金額を同社は公表していないが、リム氏はこう話す。「この業界の他のプレイヤーと比較しても、私たちの農業への関与は、間違いなくずっと大局的です」。
同社は、中国国外にも投資のチャンスを探している。国内では、ドローンやセンサーなどに代表されるハードウェアの導入を安価に提供する企業が増えてきたものの、作物モデルや予測に関しては、大型の商業農場が広がる西側諸国に見られるソリューションのほうが成熟度は高いとリム氏は指摘する。
Pinduoduo農家の間でも、アグリテックを受け入れるところはまだ「比較的少ない」。なぜなら、同社のスマート農業の取り組みがまだ初期段階にあるからだ。しかし、eコマースの新参企業であるPinduoduoは、中国のアグリテックを促進するよい立ち位置にあるともいえる。
米国やオーストラリアと違い、中国では小規模農家がほとんどであるため、高度な農業機械を買える余裕がない。需要がなければ、アグリテックのスタートアップは資金調達が難しくなり、顧客を増やして販売価格を下げるための投資もできなくなるとリム氏は説明する。
「Pinduoduoは、すでにアグリテックのスタートアップ企業と幅広い潜在顧客プールとを結び付ける用意ができています。これで、最初の難関が少しでも楽に通過できるようになると思います」とリム氏。
もう1つ、農業にテクノロジーを投入すれば、広大な中国の農村地帯から若い人材が豊かな大都会に流出してしまうのを防ぐこともできる。
「長期的には、私たちは農業をより効率的で楽なものにします。農業という産業の構造を、全体的に変革してしまう可能性もあります。若い人たちが、自分も起業家になれる、このツールを使えば生産をもっとしっかり管理できる、と感じられるようになるでしょう」とリム氏は訴えた。
「いまは農家でなくても、現実的な新事業として農業を考える人も現れる可能性もあります」
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画像クレジット:Pinduoduo
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(翻訳:金井哲夫)