サウジアラビアの現状を見ないことが企業の成功の鍵なのか?

昨日、サウジアラビアのメディアは、Marc Andreessen、Sam Altman、Travis Kalanickといったシリコンバレーの大物が、サウジアラビアが国家計画として進めている5000億ドル(約56兆円)規模のメガシティー・プロジェクトのアドバイザーになっていることを伝えた。このプロジェクトは、未来都市がどのような世界になるか、その模範を示すものだと宣伝されている。

この発表は、1カ月前にプロジェクトへの参加を決めた19人にとって、いろいろな意味で、あまりいいタイミングではなかった。このとき、サウジの反体制派ジャーナリストJamal Khashoggi(ジャマル・カショギ)が1週間以上姿を消していた。そして、先週、イスタンブールのサウジアラビア領事館内で、サウジの王家の命令で殺害されたとトルコ当局者が話したことから、激しい批判が高まっている。彼はその後、骨のこぎりで細切れにされ、建物から持ち出されたとのこと。

想像するだに生々しく心乱される事件だが、注意すべきは、証明されていない点だ。だが、サウジアラビアの諜報機関がKhashoggiに何かをしたとする説が拡散されると(Khashoggiが建物を出たという証拠もない)、サウジアラビアの皇太子Mohammed bin Salman Al Saud(ムハンマド・ビン・サルマーン・アール・サウード)は、世界中の怒りの視線を集めることになった。たしかに、この顧問委員会の発表は、MBSという愛称で知られる皇太子が、アメリカに数多く暮らし、皇太子の実力を疑い始めていた同程度の人数のアメリカ人実力者の友人の心をかき乱すには、よい方法だったのかも知れない。

昨年6月に皇太子に即位し、MBSの名声を追い求める態度が封印されて以来、彼はずっと、批判に対してもライバルに対しても、短気になっていた。そのことを、私たちはもっと早く考えておくべきだった。MBSは、その改革派的な行動から賞賛を受けていた。「宗教指導者に反抗して、女性の自動車の運転、コンサートや映画の解禁など、息を飲むような社会改革を断行した」と、この夏のウォール・ストリート・ジャーナルの意見記事にあった。だが彼は同時に、イエメンに空爆を行い、数千人の一般人を殺害している(これはホワイトハウスが支持しているが、両政党の議員を落胆させた)。

またサウジアラビアは、この夏、女性の権利を求める活動家12名以上を拘束している。カナダ外務省が「深く憂慮している」と、逮捕に対してリヤドに激しい抗議を伝えると、サウジアラビアはカナダ大使を国外追放し、トロントとの航空路線を停止、カナダ在住のサウジ人がカナダの医療を受けることを禁止し、カナダとの数十億ドル規模の新規の貿易と投資を凍結した。さらに、サウジアラビアの奨学金でカナダに留学している学生を、カナダから退去させる計画もある。

その一方でMBSは、昨年、サウジアラビア当局に対して300人以上のビジネスマンと王家の家族を、数カ月間、監禁するように命じた。これは腐敗防止キャンペーンの一環という名目になっている。これにより、押収した1000億ドル(約11兆2000億円)の資産がMBSの支配下に入った。ニューヨーク・タイムズは後にこう報じている。拘留されている中の少なくとも17人は「身体的虐待を受け、1人は死亡したが、首がねじ曲がっているように見えた。体はひどく腫れていて、別の虐待があったことを示していると、遺体を目撃した人は語っていた」

こうした策略がアメリカのメディアで大きく報道されたが、その大騒ぎの1カ月後にMBSはアメリカを訪れ、大歓待を受けた。ドナルド・トランプは彼をホワイトハウスに招待し、両国の友好を深めた。それを国際関係学者たちは、「異常で下品」と評価した。

シリコンバレーのCEOたちも、MBSの春の訪米を歓迎した。そのときMBSは、Googleの共同創設者Sergey BrinとCEOのSundar Picha、Magic LeapのCEO、Rony Abovitz、Virgin Groupの創設者Sir Richard Bransonたちを訪ねている。彼らだけでなく多くの面々が、彼の社会的な進歩性を褒め称えた。彼らが本当に欲しているものは明らかだ。MBSは、サウジアラビアの石油依存度を下げるという野心を持っている。その手段のひとつとして、王国の資金をアメリカ企業に大量につぎ込むという考えがあるのだ。

事実、MBSのその他の振る舞いは、こと金に関する限りでは大きな障害はなかった。TeslaのElon Muskは、この夏のことは問題にしていないSoftbankも、気が咎めている様子がない。孫正義CEOは、Softbankの1000億ドル(約11兆2000億円)という巨大ファンドへの450億ドル(約5兆円)の投資を、MBSにわずか45分で決めさせたと自慢していた。そして先週、MBSは第二のビジョン・ファンドに450億円を投資すると話した。

最近までワシントン・ポストのコラムニストとして活躍していたKhashoggiの不穏な疾走で、こうした計算が狂ったとしても、それを口に出す者はいない。Softbankのビジョン・ファンドの代表者と、Softbankが支援しているおよそ10人の企業創設者に、昨日、コメントを求めたが、答えはなかった。

Softbankから資金を調達している数多くのベンチャー投資家にも、昨日、Softbankについて、また、Khashoggiの疾走がスタートアップの資金調達に対する考え方にどう影響するかについて質問したが、答えてもらえなかった。ビジョン・ファンドからレイターステージの資金を調達した2つのポートフォリオ企業(DoorDashと最近株式公開されたGuardant Health)を見てきたPear VenturesのPejman Nozadだけが、唯一返事をくれた。「技術分野では、シードからプレIPOまで、資本が溢れています。シード資金として50万ドル(約5600万円)を必要とする企業が300万ドル(約3億4000万円)を調達してしまいます。5000万ドル(約56億円)が欲しい企業は5億ドル(約560億円)を調達できます。これが健全なことかどうか、時間だけが知っています」とNozadは電子メールで答えてくれた。

長年、ボストンのFlybridge Capital Partnersでベンチャー投資家を続けてきたJeff Bussgangは、Khashoggiの件には特に触れずにMBSについて尋ねたとき、微妙なニュアンスの返事をくれた。ベンチャー投資家も未公開株式投資会社も、長い間、中東の資金源から資金を調達してきたことを踏まえ、「一般的に、起業家は政治や歴史のことを深く考えるのが好きではなく、資金の出所についても、あまり気にしていない」という。「PLOやイラン」は別として、とのことだ。

さらにBussgangは、電子メールにこう書いている。「そう、すべてのベンチャーキャピタルの金が貧しい未亡人や孤児から集まるのなら素晴らしいことだが、それはあり得ない。その金が公正な資金源からのものなのかを判断するのは、主観的な作業です。スターバックスの資金源は公正でしょうか?」

Bussgangは、フィラデルフィアのスターバックスで起きた事件のことを言っている。店員が警察を呼んだところ、店にいた2人の黒人男性が誤って逮捕されたことがあった。恐ろしいことだが、イエメンで罪のない市民が殺戮されたり、人権活動家を拘留したり、MBSの憂さ晴らしと言われているようなこととは比べ物にならない。

公正を期して言うなら、アメリカやその他の国々の多くの人たちは、Khashoggiが現れてくれることを待ち望んでいる。その可能性は、日を追うごとに低くなっているが、何が起きたかを知らずにいることは、人殺しの暴君ではなく、改革者と手を組みたいと考える多くの人間に最良の結果をもたらすに違いない。ワシントンポストのコラムニストKhashoggiの失踪は誤算だったように見えるが、日が経つにつれて、こんな言い方はなんだが、それは古新聞(過去の話)となる。そして、みんなは仕事に戻れる。

その同じ人たち、そくにシリコンバレーのリーダーたちが、性的多様性に逆行するメモを読んで激怒したという話は、まるで漫画だ。

とは言え、かなり気分が滅入る話だ。

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(翻訳:金井哲夫)

中国配車サービス大手Didi、中東進出へ向けCareemに出資――さらに広がるUber包囲網

中国の配車サービス大手Didi Chuxingは、ヨーロッパ企業への初めての投資から1週間も経たないうちに、さらに勢力を拡大すべく、中東でUberと競合関係にあるユニコーン企業Careemへの出資を発表した。なお具体的な出資額は明らかになっていない。

そう、Didiはまた新たな市場でUberのライバルへの出資を決めたのだ。

今月に入ってから同社は、ヨーロッパ・アフリカでUberと競合関係にあるTaxifyへ投資しており、その他にもアメリカではLyft、インドではOla、南米では99東南アジアではGrabの株主を務めている。さらに昨年中国事業を買い取ったときの契約にもとづき、DidiはUberの株式も保有している。

世界中のいかなる配車サービスにも投資しようという彼らの戦略には納得がいく。将来的に投資先とパートナーシップを結んだり、買収したりしやすくなるだけでなく、Didi(Uberに続きテック企業としては世界第2位の評価額を誇る)は影響力を世界中に広げることでUberにプレッシャーをかけられるのだ。また、これまで中国で4億人ものユーザーを相手にする中で構築してきた専門性やシステムを活用し、Didiは世界中の投資先企業に資金面以外の手助けをすることもできる。

つまり「敵の敵は味方」ということだ。

「私たちが次の段階へと成長しようとする中、Didi Chuxingが最先端のAIテクノロジーや業界の洞察、ノウハウと共に私たちのことをサポートしてくれることになる」とCareem CEOのMudassir Sheikhaは声明の中で語った。「これまでにも長い付き合いのあったDidiとの関係深化によって、Careemはイノベーションと持続可能性を意識しながら、より効率的に成長のチャンスを掴めるようになるだろう」

5年前にドバイで設立された当時のCareemは、Uberの競合としては取るに足らないような存在だったが、そこから強固なビジネスを構築し、今年の6月には自動車大手のダイムラーらから12億ドルの評価額で5億ドルを調達した(2016年12月に同ラウンドの一部の調達を終えたときの評価額は10億ドルだった)。これまでの累計調達額は5億7000万ドル弱におよび、先述の企業以外にも楽天やSaudi Telecom Comapny(STC)などが株主に名を連ねている。

Careemは現在中東・北アフリカ地域の13か国80都市で営業しており、登録ユーザー数は1200万人、ドライバー数は25万人強にのぼると言われている。さらに同社はDidiファミリーの兄のような役割まで担っており、7月にはエジプトのSwvlへ出資した(出資額は不明)

このSwvlへの投資を受けて、Didiは「世界中に広がるコラボレーションの輪が」今では1000都市に広がり、世界の人口の60%をカバーしていると話していた。昨年中国でUberを撤退に追いやったことを考えると、Didiが次にどんな野望を抱いているかは容易に想像できる。

ここでもし、Didiと並んで世界中の配車サービス企業の株式を取得しているソフトバンクがUberに出資するとなると、話は少しややこしくなってくる。先日の報道を受け、昨日ソフトバンクCEOの孫正義氏はUberの株式取得に興味を持っていると認めたが、同時にLyftへの出資も検討していると語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

インドよりも魅力的?――政情不安に負けず成長を続けるMENAのスタートアップ市場

テヘランからドバイへのフライトの所要時間は2時間程度で、これはニューヨーク・シカゴ間のフライトと同じくらいだ。さらにカイロからベイルートへの飛行時間も1時間15分ほど。情勢が安定しているときであれば、ベイルートからシリアのダマスクスまでは車で2時間弱で移動できる。実際に中東・北アフリカ地域(Middle East / North Africa:MENA)を移動してみると、各都市がいかにうまく接続されているかすぐにわかる。しかしお分かりの通り、政情はそのときどきだ。

そして都市間の相互接続以外にも、”中東”に関する報道内容とは裏腹に、MENA全体が現在目まぐるしい成長を遂げている。中には国内の対立に苦しんでいる国も存在するが、空飛ぶ車がなくても彼らの経済は発展しているのだ。

最近Amazonが現地のEC企業Souqを買収し、買収金額は8億ドルに達するとも言われていたことからも、MENAで大型エグジットが実現可能だということが分かる。さらに一般的に言って、MENAの外にいる人たちは同地域の経済成長の度合いを過小評価しがちだ。

MENAを、6つの”湾岸アラブ諸国”+エジプト+レバノン+ヨルダンとすると、そこには潤沢な資産を持った消費者、企業、実業家が存在する。Beco Capitalによれば、1億6000万人に及ぶ同地域の人口のうち、8500万人がインターネットにアクセスでき、5000万人が多額の現金をもった成人のデジタル消費者だという。そしてこれらの数字は、MENAが成長するにつれて増加している。

MENAの人口は世界的に見ても若く、スマートフォンやブロードバンドの普及率も高い。この若くて教養があり、インターネットにアクセスできる5000万人の富裕層に対し、総人口が10億人を超えるインドを見てみると、クレジットカードや自家用車を保有している2000~3000万人の年収は1万2000ドル以下だ。

また、MENAの企業のうち8%しかインターネット上に情報を掲載しておらず(アメリカでは80%)、小売売上におけるネット通販の割合はたった1.5%だ。つまり、同地域にはまだかなりの伸びしろがあるのだ。2020年までには、デジタル市場によってMENAのGDPが950億ドル増加すると予測されており、デジタル市場における1人分の雇用が経済全体では2~4人分の雇用の創出につながると言われている。

Souqの以外にも、ドイツのDelivery Heroが現地のTalabatを買収し、MENAへの進出を狙っていたトルコのYemeksepetiを打ち負かしたほか、”MENAのUber”と言われているCareemは、ユーザーあたりの売上額でUberを上回ると言われている。

MAGNiTTが最近行なった調査でも、MENAのテックエコシステムに関する興味深いデータが明らかになった。同社はMENAに現在3000社以上のスタートアップが存在することを発見し、さらに調達額トップ100社のファウンダーについて詳細な調査を行った。

MAGNiTTによると、昨年のスタートアップへの総投資額は8億7000万ドル強だった。トップ100社はこれまでに14億2000万ドルを調達しており、1社あたりの調達額は50万ドルを超える。

さらにトップ100社のファウンダーは、会社を設立する前に平均で9年間どこかの企業に勤めていたことが分かっている。また、約40%は単独のファウンダーによって設立され、39%が2名の共同ファウンダーによって設立された。ダイバーシティ(多様性)の観点では、順調に事業を行っているファウンダーのうち12%が女性だ。なおEUの数字は15%、アメリカは17%だった。国別で見ると、調達額上位の企業の50%がアラブ首長国連邦で登記されている。

ファウンダーの41%がハーバードやINSEAD、LBSをはじめとする大学でMBAを取得しており、35%が経営コンサルや金融業界での経験を持っている。

またMENA発スタートアップのファウンダーの68%が中東出身で、二重国籍の人も多数いる。出身地を見てみると、トップ100社のファウンダーの38%がレバノンかヨルダン出身でありながら、この2国に本社を置いているスタートアップの割合は16%しかない。これらの数値から、ドバイが中東におけるデラウェア州の役割を担い、本社や開発チームは別の国に置かれているということが分かる。

以上の通り、毎晩目にする”中東”と曖昧に括られた地域に関するニュースとは反対に、データからはMENAが素晴らしいスタートアップエコシステムを構築している様子がうかがえる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Amazonが中東市場に進出―、現地のEC大手Souqを6億5000万ドルで買収

世界制覇に向けて動くAmazonの次の狙いは中東だ。中東市場進出のため、同社が現地のEC企業Souqを6億5000万ドルで買収したとする複数報道内容を、われわれの情報筋が認めた。アラブ世界のAmazonとも言われているSouqは、同地域最大のEC企業だ。契約書のサインの「インクはすでに乾いている」と、Souqに近い情報筋は語っている。

Souqは本件に関するコメントを控えており、同社CEOのRonaldo Mouchawarも、TechCrunchからのメールや電話には応えなかった。

Amazonも同様にコメントを控えており、広報担当者であるTy Rogersからは「Amazonでは噂や推測に基づいた報道に対してのコメントは控えております。ご連絡ありがとうございました」という返事を受け取っただけだ。

中東市場にとっては、今後大きな変化に繋がる可能性のあるニュースだが、買収額は投資家が願っていたほどではなかった。1年前にSouqが2億7500万ドルを調達したときには、10億ドルという評価額がついており、さらに昨年末にも実はSouqとAmazonの間で、Souqの株式の30%をAmazonに売却するという話が進められており、その際の評価額も同じく10億ドルだったのだ。

昨年eBayやUAEの小売企業Majid Al Futtaimとも買収交渉を進めていたSouqは、Amazonとの最初の交渉が決裂してから本日までに、買収額を5〜7億ドルの間で上下させながら、徹底的に議論を進めてきた。そしてようやく両社は、「お互いに飲み込める」金額として、6億5000万ドルでの買収に落ち着いたとある関係者は語る。

買収額はもともとのSouqの評価額よりも低くなってしまったものの、投資家は少なくとも今回の買収によって投資分プラスアルファのお金を回収できそうだ。Crunchbaseの情報を見てみると、SouqはこれまでにBallie GiffordやIFC Venture Capital Group、Jabbar Internet Group、MENA Venture Investments、Naspers、Standard Chartered Bank、Tiger Global Managementらから計4億2500万ドルを調達している。

Amazonは今回の買収によって、現地で既に大規模なオペレーションを行っているSouqの力を使い、これまでサービスを提供していなかった中東市場にすぐに攻勢をかけることができる。

Souqは、CEOのMouchawarがアラビア語のポータルサービスMaktoobのECビジネス以外をYahooに売却した後の2005年頃に誕生した(なお件のポータルサイトは、2014年に起きたYahooの海外事業縮小の一環として閉鎖された)。

現在Souqは、参加ショップ数や販売している商品の数では、中東市場最大のECサイトと言われている。同社のマーケットプレイスには、7万5000件のショップが登録されており、電子機器やファッション、家庭用品、カーアクセサリー(最近追加された)などを含む30以上のカテゴリーで、合計約200万点もの商品が販売されている。

Amazonは今回の買収で、マーケットプレイスだけでなく、Souqのフルフィルメントビジネスも手に入れることになる(物流とフルフィルメントは、地域を問わずAmazonのビジネス拡大において重要なカギを握っている)。さらに両社の契約の中には、Souqのオンライン決済代行サービスPayfortも含まれていると言われており、決済に関する専門技術や、中東市場向けにローカライズされた決済サービスまでAmazonの手にわたる可能性もある。

McKinseyのレポートによれば、中東市場の小売消費額におけるEコマースの割合は現在約2%程しかないが、今後EC市場が成長していく中で、SouqのおかげもありAmazonは重要な役割を担っていくことになるだろう。

盛り上がる中東のEC市場

同地域のEC市場を狙っている企業は他にも存在する。最近誕生した野心あふれるEC企業のNoon.comは、サウジアラビアの公営ファンドとドバイの不動産王Mohamed Alabbar(ドバイ・モールやブルジュ・ハリファ等を所有)から10億ドルを調達した。まだNoon.comはサービスを開始していないものの、地元メディアは「今週中」にNoon.comがローンチされると報じており、これもSouqの身売りに関係していると情報筋は話す。

昨夏の重要な出来事として、Alabbarを中心としたコンソーシアムが物流会社Aramex株式16%を取得した。これにより、Alabbarの所有するEmaar Retail Groupが持つ広大なオフライン店舗網を、デジタル面で補完する存在としてのNoon.comのローンチという、大きなプランのために必要だったインフラが整ったことになる。

Amazonも以前、中東進出に向けた物流パートナーとしてAramexへの興味を示していたと関係者は話しており、AlabbarらによるAramexの株式取得がAmazonにプレッシャーをかけることになった可能性が高い。

さらにAlabbarの動きによって、Noon.comがSouqのビジネスを脅かす存在になったということも、AmazonとSouqが再度交渉のテーブルにつくきっかけとなり、両社の契約を実らせる要因になったとある関係者は語っている。

究極的には、例え希望金額よりも売却額が低かったとはいえ、Amazonへの売却がSouqを前進させる上では最適の選択だったと言える。さらに投資家にとっても、Amazonに比べて経営面で劣るeBayや、オンラインではなくオフラインに強いMajid Al Futtaimより、Amazonの方がパートナーとして優れているだろう。

なおNoon.com以外にも、昨年6700万ドルを調達したWadiや、Rocket Internetの投資先であるNamshiなど、Souqと競合する現地EC企業は存在する。

Souqの買収によって、インドのようにAmazonがこれまで築いてきた近隣地域でのプレゼンスがさらに広がっていくことになる。ちなみに最近Amazonはインドに攻勢をかけ、FlipkartやSnapdealといった企業と戦いを繰り広げている。現在FlipkartとSnapdealは合併交渉を進めていると報じられており、これはAmazonによるインド事業への何十億ドルという投資と、それによる同社の業況の拡大に対する動きのようだ。さらにFlipkartがeBay Indiaを買収しようとしているという噂もある。eBayのインド事業はそこまで大きくはないものの、この話が実現すればインドのEC市場に大きな影響が及ぶだろう(eBayの広報担当者は本件に関して、噂や憶測に対してはコメントを控えていると語った)。

インド進出時に、現地企業を買収せず時間をかけて事業を作り上げていったAmazonの辛抱強いアプローチを考えると、中東市場に素早く進出するための現地企業買収という今回の動きは注目に値する。

これまでAmazonは、ゼロからビジネスを作り上げることをモットーとしていたこともあり、新規市場に進出する際は比較的時間をかけていた(ゆっくりとした拡大方針は、EC事業だけでなくEchoやAlexaといったプロダクトでも採用されており、アメリカでは大成功をおさめている両プロダクトも、海外ではこれまでのところイギリスとドイツにしか進出していない)。

東南アジア進出に向けたAmazonシンガポールのローンチは、当初今年のQ1に予定されていたが、年内のローンチへと計画が延期されたと複数の情報筋は語る。一方同社は、現在オーストラリアでのサービス開始に向けて準備を進めているとも報じられている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ライドシェアリングで新たなユニコーンが誕生:Careemが楽天などから3億5000万ドルを調達

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2016年も残すところあと少しだが、ライドシェアリング業界に誕生したもう1つのユニコーン企業を紹介する時間はまだ残されている。エマージング市場におけるUberのライバル企業Careemは、楽天とSaudi Telecom Company(STC)がリードするラウンドで3億5000万ドルを調達したことを発表し、世界中の脚光をあびることとなった。

今回の資金調達により、ドバイを拠点とするCareemのバリュエーションは10億ドルとなる。STCが発表したところによれば、同社はCareemの発行済株式数の10%を1億ドルで取得するという。

4年前に創業したCareemは現在、11カ国47都市でビジネスを展開しており、そのほとんどがトルコ、パキスタン、北アフリカ諸国など中東の国々だ。同社が「Captains」と呼ぶドライバーの数は15万人にものぼり、すでに600万人のユーザーを獲得している。Crunchbaseによれば、Careemがこれまでに調達した合計金額は7200万ドルであり、今回の調達ラウンド(シーリズD)は同社にとって大きなステップアップだったと言えるだろう。

今回調達した資金は、主にマーケット拡大のための費用に充てられるようだ。先日Careemはトルコへの進出を発表したばかりであるが、その他にも、12月中にパキスタン、サウジアラビア、エジプトの15都市にもビジネスを拡大すると発表している。これにより100万人の雇用を創出することを目指すだけでなく、R&Dにも一定の資金を投下していくとのこと。今年の夏、Careemは中東地域における「交通関連のテクノロジー・インフラストラクチャーを加速する」ための1億ドル規模の研究計画を発表している。

Careemの共同創業者兼CEOであるMudassir Sheikhaは、プレスリリースのなかで「楽天やSTCのような世界クラスの戦略的パートナーをもつことができ、身の引き締まる思いです」とコメントしている。「彼らとのパートナーシップは新しいCareemを支える大きな力となるだけでなく、彼らがもつグローバル・テクノロジー業界におけるリーダーシップとローカルマーケットにおける豊かな経験によって、この地域に住むすべての人々の生活を改善するという私たちの目標にさらに一歩近づくことができました」。

Careemに投下される資金はこの3億5000万ドルだけではない。同社によれば、今回の調達金額はCareemが現在交渉中の5億ドル規模の資金調達の一部でしかない。この資金調達が完了するまでの具体的なタイムフレームは公表されていない。

本調達ラウンドには、UberのライバルであるLyftと南アフリカのCabifyにも出資する楽天と、中東最大の通信企業であるSTCの他にも、Abraaj Group、Al Tayyar Group、Beco Capital、El Sewedy Investments、Endure Capital、Lumia Capital、SQM Frontier、Wamda Capitalなどが参加している。

STCはこれまでにも、STC Ventures(同ファンドはSTCとは独立して運営されており、STCも主要LPの1つとして参加している)を通してCareemの株式をすでに取得している。しかし今回の調達ラウンドは、STC本体が「イノベーティブなデジタル企業への投資戦略」の一環として直接Careemの株式を取得するというものだ。

Uberがビジネスを展開する都市には中東諸国の都市も含まれているが、それだけではなく、同社とこの地域には財政的なつながりもある。Uberは今年6月、サウジアラビア政府が出資するPublic Investment Fund(PIF)から約620億ドルのバリュエーションで35億ドルを調達したと発表している。その当時、中東地域におけるUberドライバーは39万5000人だった。女性による運転が禁止されているサウジアラビアでは、Uberを利用する乗客の約8割が女性だという。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter