気候変動と戦うための測量技術を提供するYard Stick

著者のJesse Klein(ジェシー・クライン)氏は科学、アウトドア、ビジネス分野のジャーナリスト。New Scientist、GreenBiz、The New York Times、WIREDに執筆している。ベイエリアのスタートアップで働いていたこともあり、明日のビジネスが直面する喫緊の課題に精通している。

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世界の気候変動問題を解決する鍵は、我々の足の下にあるかも知れない。土壌には、大気の3倍以上もの炭素吸収能力がある。だが地球上の土壌のおよそ45パーセントが農業に使われており、その農地のほとんどで、持続性のない土地管理慣習により最大30パーセントもの炭素が放出されている。

農地を、盛んに炭素を吸収できる場所に変えるには、農家は耕うんの削減、計画的な被覆作物の導入、輪作の拡大、生物多様性の強化といった再生可能な農業実践法に切り替え、炭素吸収力を管理できるようにする必要がある。とはいえ、計測ができなければ、何事も適切に管理することはできない。そこでYard Stick(ヤード・スティック)の出番となる。

「土壌炭素隔離は、大変に有効な炭素除去技術になり得ます」とYard StickのCEO、Chris Tolles(クリス・トールズ)氏はいう。「ただし、それを測定できる本当に高度な科学とテクノロジーがあればの話です」

再生可能な農業を定量化するのは難しい。土壌中の炭素量の測定も例外ではない。昔ながらの乾式燃焼法は大変な労力を要する。研究者たちは何エーカーもの土地を歩き回りながら土壌サンプルを掘り出し、遠く離れた研究室にそれを郵送する。研究室では、その土を燃やして炭素量を計る。

「見てのとおりの理由から、規模を拡大できません」とトールズ氏。「そうしたボトルネックをなくしてくれる測定技術が必要なのです」。

Yard Stickは、その提供者になりたいと考えている。同社の製品は、片手で扱える土壌用プローブで、その場で炭素量を計ることができる。マサチューセッツを拠点とするこのスタートアップは、米国エネルギー省のエネルギー高等研究計画局からの助成金325万ドル(約3億4400万円)を元手に非営利団体Soil Health Institute(土壌健康研究所)によって創設された。この助成金は、社会性のある技術的ソリューションの市場投入を特に目的としている。

Soil Health Instituteの最高科学責任者Christine Morgan(クリスティン・モーガン)博士、工学および電気エンジニアで炭素除去スタートアップCharm Industrial(チャーム・インダストリアル)の創設者であり元CTOのKevin Meissner(ケビン・マイスナー)氏、ネブラスカ大学助教授のYufeng Ge(ユーフェン・ジー)氏、シドニー大学のAlex McBratney(アレックス・マクブラットニー)氏という4人の土壌専門家がそれぞれの研究と専門知識を合わせて、スペクトル解析、抵抗センサー、機械学習、農業統計を活用し、その場で土壌の炭素量を測定し計算できるプローブを開発した。トールズ氏はこの製品を学界と商業市場に紹介する役割を担っている。

プローブはハンドドリルに装着して使用する。先端に取りつけられたカメラは、可視近赤外分光法を使って有機炭素から反射する特定の光の波長を捕らえられるよう調整されている。抵抗センサーは、地面にプローブをにねじ込む際にかかった力から土壌の密度を割り出す。この2つのインプットに、いくつか複雑なアルゴリズムと統計分析を加えることで、Yard Stickは土中の炭素量を、サンプルを掘り出すこともなく、それを研究所に送るという面倒もなく測定できる。

画像クレジット:Yard Stick

「1つ、サンプルをずっと早く採取できる。2つ、コストは劇的に低い」とトールズ氏。「そしてそれが意味するものが3つ目。私たちのテクノロジーは非常に安価で簡単で、サンプリング密度を劇的に高められるため、炭素貯蔵量のより正確な計測が可能になります」。

Yard Stickは現在、大手食品企業数社と協力して、米国中の農場で再生可能な農業の試験プログラムを実施している。Yard Stickは、農家に直接製品を販売する予定はなく、こうした企業のようなプロジェクト開発業者と提携している。それらのコネクションを利用して、Yard Stickは従来の王道であった土壌の炭素量測定法と同等の信頼性があることを実証し、そのコネクションを通じて農家に製品とサービスを販売したいと考えている。ハードウェアそのものではなく、データ測定サービスを販売するというのが同社の方針だ。

「分光計を所有したいという顧客はいません」とトールズ氏。「めちゃくちゃシンプルなものを作ったとしても、それで何をすればいいのか、わからないでしょう」。

Yard Stickでは人員を派遣して測定を行い、その後、データを意味の通じるかたちにした報告書を、農家やその他利害関係者に送る。料金はエーカーごとに可算される。トールズ氏は、プローブはいずれ、少し訓練するだけで誰にでも使える簡単なものになると予想しているため、従業員の数が律速要因になるとは考えていない。

2022年までに、Yard Stickは、数千台のプローブで20万エーカー(約8万ヘクタール)を測定したいと考えている。

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もっと多くのデータと、同程度に重要な、もっと多くのデータ共有があって、私たちは気候変動を回避する方向へ舵を切ることができる。しかし、データはセンシティブなビジネスであるため、参入が難しい。

「共有を好まない傾向にあるレイターステージの投資家の世界観には、限界があることを認識してほしいのです」とトールズ氏はいう。「そこには実に悲劇的なリスクがあります。情報は大変に価値が高いため、誰もが自分だけのものにしたがります。なので、土壌炭素市場の利益は、ずっと前から情報を独占してきた工業と農業の巨大企業に集中する一方です」。

土壌炭素市場の開放を目指すアーリーステージのスタートアップは、農地ではなく研究所で活動するLaserAg(レーザーアグ)、衛星を使って土壌の健康を遠隔測定するCloudAgronomics(クラウドアグロノミクス)など、他にも数社ある。しかし、Yard Stickの主要なライバルは、炭素貯蓄量の測定も管理もしていないすべての農場だ。トールズ氏によれば、それは全体の99.9パーセントだという。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Yard Stick気候変動農業二酸化炭素

画像クレジット:Yard Stick

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(文:ゲストライター、翻訳:金井哲夫)

イーロン・マスク氏が賞金105億円を出す炭素回収技術XPRIZEコンテストの詳細が明らかに

Elon Musk(イーロン・マスク)氏は先日、気候変動を食い止める一手段として、二酸化炭素を積極的に大気から取り除くことができる二酸化炭素回収(Carbon Capture)の新技術を促進するため、1億ドル(約105億円)を寄付すると世間に知らしめた。2021年1月に同氏がツイートした際にTechCrunchが報じたように、マスク氏の大規模な金銭的インセンティブは、同様の考えを持つ、世界を変えるテクノロジーの開発を目的とした野心的な技術コンテストを主催している非営利団体XPRIZE財団に寄付されることになった。そしてこのほど、XPRIZEとマスク氏はこのコンテストの詳細を新たに発表した

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総額1億ドル(約105億円)の賞金プールが、このコンペティションを通じて授与される。コンペティションは、「大気中や海洋から直接、二酸化炭素を除去し、環境に負担をかけない方法で恒久的に貯留する」ことができるソリューションを模索する。これは野心的な目標であり、地球全体のバランスの中で、炭素という元素の存在にネットネガテイブの影響を与える回収方法を追求するものだ。XPRIZEは、最高15組のファイナリストにそれぞれ100万ドル(約1億1000万円)を授与する予定で、さらに上位3組の受賞者については、大賞受賞者には5000万ドル(約52億6000万円)、2位と3位にはそれぞれ2000万ドル(約21億円)と1000万ドル(約10億5000万円)を授与することを目指している。また、学生チーム参加者のために特別に、それぞれ25万ドル(約2630万円)相当の奨学金も25組分用意されている。

勝利の資格を得るためには、ソリューションは1日あたり1トンの二酸化炭素を抽出することができ、プレゼンテーション時にはスケーリングされた検証済みモデルで実行可能であり、将来的に「ギガトンレベル」にまでスケールアップできる、商業的に実行可能な方法でなければなならない。これらは新技術にとって大きな目標だが、このコンペティションにかかっているものは大きい。マスク氏は、気候変動を人類の存亡に関わる脅威として頻繁に言及しており、炭素回収は気候変動に対抗するための重要な手段の1つだからだ。

大気から抽出した二酸化炭素を利用して新しいタイプの燃料を製造するカナダのCarbon Engineering(カーボンエンジニアリング)や、大気から除去した二酸化炭素を利用して蒸留したカーボンネガティブウォッカのAir Vodkaなど、炭素回収の方法は存在するし、それが新しいスタートアップや新興ビジネスの中心となっているケースもある。ひと握りの企業はこの技術を追求しているものの、問題は、安全かつ副産物が環境に影響を与えない方法で炭素を除去するのは、一般的に非常に高価であるということだ。

新しいXPRIZEのコンペティションは、2004年に行われた1000万ドルの民間宇宙飛行「Ansari XPRIZE(アンサリ・Xプライズ)」が宇宙産業の新時代の発展を牽引したのと同様に、幅広い新興企業の発展に拍車をかけることを目指している。今回のコンテストは米国時間2021年4月22日に正式に開始され、その時点で完全なガイドラインが公開され、登録が開始される。応募者はソリューションを提出するまでに最長4年間の期間が与えられ、コンテストは2025年のアースデイ(4月22日)に終了し、最初のステージの100万ドルの賞金はその18カ月後に分配される。これにより、チームが上位入賞に向け、本格的なデモを構築するために必要な資金が提供されることになる。

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タグ:イーロン・マスク二酸化炭素

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(文:Darrell Etherington、翻訳:TechCrunch Japan)

企業向けにカーボンオフセットAPIを開発するスタートアップが急増中

カーボンオフセットのためのアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)が出てくるのは時間の問題だった。カーボンオフセットとは、企業が世界の再生可能エネルギープロジェクトや炭素隔離プロジェクトに資金援助することで、自社の温室効果ガスの排出量を(紙の上で)相殺する自主制度だ。

eコマースと決済最大手のShopify(ショッピファイ)とStripe(ストライプ)は、すでにサービスとしての排出オフセットを顧客に提供しているが、今や数多くのスタートアップがソフトウェアを使って処理を自動化しようと狙っている。

たとえば Cloverly(クローバリー)は米国南西部の電力・ガス大手Southern Company(サザン・カンパニー)が社内で立ち上げたスタートアップだ。Patch(パッチ)はアパート管理と短期レンタルサービスのSonder(サンダー)出身の2人がスタートした会社だ。さらにはCooler.dev(クーラー・ドット・デブ)、そして森林再生と森林管理に焦点を当てた国際オフセットマーケットプレイスを運営しているPachama(パチャマ)などなど。

これは企業や消費者向けに環境フットプリントの観察と削減を行うサービスを立ち上げる、というアーリーステージ企業の間で起きている新たなムーブメントの一環だ。

Pachamaの場合、APIをビジネスモデルに組み入れるという発想は当初からビジネスプランに織り込み済みだった、と同社の共同ファウンダーであるCEOのDiego Saez-Gil(ディエゴ・サエズ・ギル)氏はいう。

「私たちが顧客としてShopifyに接してから事態は加速しました」とギル氏はいう。「Shopifyはカーボンニュートラルなサービスの提供を望んでいました。私たちはすでにカーボンクレジットをShopifyに売っていましたが、注文を手動で処理していました【略】 これを大規模でやるためにはクレジットの購入を自動化する必要があります」。

Pachamaが巨大ロジスティック会社でカーボンニュートラルなフルフィルメントサービスを提供しているShipbobと契約を結んでから状況が一変した。

PatchやCloverlyのような会社と異なり、Pachamaには自らのオフセットマーケットプレイスを使ってクレジットを提供できるという優位性があるとギル氏は感じている。

「私たちには、プラットフォームを通じて持ち込むあらゆるものについてマーケットプレイスと検証・監視サービスがあります」とGilは語った。

こうした背景によって、提供するオフセットの品質に高い透明性をもたらすことができる。

カーボンオフセットは、気象変動と戦うための有効な、しかし危険をはらむメカニズムであることが証明されている。ほとんどのプロジェクトは再生可能エネルギーや再生された森林、あるいは既存の森林や土地の保存といったかたちでコミュニティに真の利益をもたらしているが、一方では重複計算やカーボッオフセットの価値を水増しした単なる詐欺プロジェクトなどの問題がある。

Bloomberg News(ブルームバーグ・ニュース)のBen Elgin(ベン・エルジン)氏が連載している記事が、問題の広さを指摘しており、そこではThe Nature Conservancyなど信頼されている組織のプロジェクトも取り上げられている。

「これは、純粋な追加性の問題に行きつきます」とギル氏はいう。「プロジェクトに関わるものすべてについての炭素分離あるいは脱炭素の実際の増加は何なのか【略】オフセットの価値を評価するとき、私たちは科学に基づくアプローチと極めて保守的な仮定に沿う必要があります」。

透明性と説明責任はオフセットの開発、監視、管理をする上で極めて重要であり、これらのオフセットが、事業にともなう温室効果ガス排出量を劇的に減らそうとしている企業にとって中心的役割を果たすことを踏まえるとなおさらだ。

そしてオフセットは一時しのぎの措置にすぎない。最終的に企業は、社会にいっそう大きな影響をおよぼす気象変動のリスクを減らすために、一刻も早く自社の事業から炭素排出を取り除く必要がある。

「こんなに多くの会社がカーボンニュートラルなサービスを提供したがっていることを大変うれしく思います。やがて規範となるものであり、企業は顧客が望むからそうすることになります」とギル氏はいう。

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タグ:カーボンオフセット二酸化炭素API

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nob Takahashi / facebook

中国が企業間の炭素排出量取引制度の運用開始、気候変動にポジティブな影響の可能性

中国は現地時間2月1日、全国規模の炭素取引マーケットを立ち上げた。このマーケットが効果的に機能すれば、2021年における温室効果ガスを削減するための最も大きな取り組みになるかもしれない

中国は世界最大の温室効果ガス排出国で、世界の排出量に占める中国の割合は右肩上がりだ。

中国政府は環境への影響を抑えようと取り組んでおり、炭素取引システムのような政策は新テクノロジーの浸透、国内スタートアップや世界中のテック企業の商品やサービスに対する需要増を呼び起こすかもしれない。

米国では一部で、そして欧州では広範に導入されている炭素市場は産業からの炭素排出に価格をつけ、大気から同量の温室効果ガスを取り除くプロジェクトに投資することでそうした炭素排出を相殺するよう企業に促す。

これは2015年のパリ協定の重要な構成要素であるが、議論も呼んでいる。というのも、Carbon Markets Watchの政策担当官Gilles Dufrasne(ジレス・デュフラン)氏が2020年にタイム誌に語ったように、十分に実行され効果的に管理されなければ排出企業の「大きな抜け穴」になり得るからだ。

これは中国には特に当てはまる。中国では腐敗が繰り返されており同国は長い間、環境政策と経済成長の管理を犠牲にしてきた。こうしたことは中国だけではないが、他のどの国(米国を除く)よりも大規模な制度の運用が決定された。

政策の有効性はまた、中国共産党の官僚主義内に存在するヒエラルキーの影響を受ける。ChinaDialogueが指摘したように、中国国家発展改革委員会(NDRC)よりも弱い法的権限を持つ生態環境省によって政策は出された。NDRCは中国全土のマクロ経済政策と同国の主要経済イニシアチブの監督を行っている主要政府機関だ。

世界の温室効果ガスの28%を占めるという最大の排出国である中国ほど、大規模な排出取引マーケットを導入した国は他にない。

全国人民代表大会(NPC)の閉会式で演説する習近平国家主席、2018年3月、中国・北京(画像クレジット:Lintao Zhang/Getty Images)

中国はまず2011年に深セン、上海、北京、広東、天津、湖北、重慶、福建で排出ガス取引システムのテストを開始した。絶対的な排出上限値よりも炭素集約度(GDPユニットあたりの排出)に基づいた排出の上限を設けたシステムを使って政府は電力部門や他の産業でこうしたパイロットの展開を開始した。

2018年の構造改革後に、NDRCの後援の元に起草された計画は生態環境部に投げ渡された。排出上限・取引プログラムの移譲は、ちょうど米国がDonald Trump(ドナルド・トランプ)政権下で気候規制やイニシアチブを捨ててパリ協定から脱退する最中でのものだった。

中国の排出スキームは当初2020年に取引シミュレーションで開始するはずだったが、新型コロナウイルスパンデミックで妨げられ、2021年2月1日の実行まで半年後ろ倒しになった。

差し当たって排出取引は中国の電力産業と約2000の発電所施設をカバーしている。ChinaDialogueによると、これだけで中国の総排出量の30%を占め、今後取引システムはセメントや鉄鋼、アルミニウム、化学、石油・ガスといった重工業にもおよぶ。

当面、政府は無料の排出枠を割り当て、「状況に応じて適切な時期に」オークション枠を開始する。

そうした表現、それから炭素価格が利益と貸し出しリスクにもたらし得る効果について注意喚起している国有企業や金融サービス企業が提起した懸念は、中国政府がまだ産業成長にともなう環境的コストよりも経済的利益を重視していることを示している。

ChinaDialogueが引用したマーケット参加者の調査では、二酸化炭素1トンあたりの価格は41元(約670円)から始まり、2025年には66元(約1070円)に上昇すると予想されている。中国における二酸化炭素の価格は2030年までに77元(約1250円)になると見込まれている。

一方、経済学者Joseph Stiglitz(ジョセフ・スティグリッツ)氏とNicholas Stern(ニコラス・スターン)氏が提唱した炭素価格にかかるコミッションが2017年にできた。両氏はマーケットと価格が行動に影響を与えるとすれば、二酸化炭素は2020年までに40〜80ドル(約4200〜8400円)、2030年までに50〜100ドル(約5200〜1万400円)のレンジになる必要があるとの考えを示した。

そうした価格をつけている国はない。しかし欧州連合はかなり近く、その結果、温室効果ガスを最も削減している。

それでも中国政府の計画には、検証済みの企業レベルの排出量についての公開報告要件が含まれている。そして、もし政府が実際の価格をつけることを決めた場合、マーケットの存在は炭素排出を追跡するための技術を開発しているモニター・管理機器のスタートアップにとって大きな恩恵となり得る。

ChinaDialogueのアナリストは以下のように記している。

カーボンプライシング(炭素の排出量に価格づけを行うこと)の最も困難な部分は往々にして開始時にあります。中国政府が国家の排出量取引制度(ETS)で目標を高く設定すると決めることは可能です。メカニズムが今、動き出し、習国家主席の気候分野における野心による勢いと政治的意思が衰えなければ、加速するかもしれません。数年のうちに、これは上限の低下、多くの部門のカバー、透明性のあるデータ提供、効果的な政府間の調整につながるかもしれません。ETSを縄張りへの脅威としてではなく、政策目標のために大きなコベネフィットをともなう方策としてとらえる必要があるエネルギー・産業当局においては特にそうです。

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タグ:中国二酸化炭素二酸化炭素排出量気候変動

画像クレジット:大杨 / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Jonathan Shiber、翻訳:Nariko Mizoguchi)

イーロン・マスク氏が最高の二酸化炭素回収技術に賞金104億円

Elon Musk(イーロン・マスク)氏は米国時間1月21日、最高の二酸化炭素回収技術に1億ドル(約104億円)を寄附するとツイートした。

マスク氏は最近、Amazon(アマゾン)のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏を超えて世界一のお金持ちになったが、別のツイートで「来週詳細を発表する」と述べただけで、それ以上の説明はない。

【更新】計画に詳しい人物がTechCrunchに語ったところによると、これは技術開発とイノベーションの促進を目的としたコンテストを主催する非営利団体のXprize Foundationと連携するものだという。

最高の炭素回収技術賞に1億ドルを寄付しています。

正式な名称を二酸化炭素貯留(Carbon Capture and Storage、CCS)というこの技術の定義は、その名前のとおりだ。製油所や工場などの廃棄物である二酸化炭素を、その発生源で捉えて保存し、有害な副産物を環境から取り除いて気候変動を緩和する。それは新しい探求ではなく、およそ20年ほど前から、多くの企業によってさまざまな方法が提案されてきた。

CSSは、初期費用が高いことが主な障害となっている。しかしそれでも、炭素の回収と再利用(Carbon Capture and Utilization, CCU)で有望な技術を見つけた企業がいくつか存在する。CSSの「いとこ」のようなその技術は、収集された排出ガスを他のより価値の高い用途に変換する。

LanzaTechが開発した技術は、排出ガスとバクテリアを利用してエタノール燃料を作り出す。使用するバイオリアクターは、製鉄所や工場などからの排出ガスを取り込み、圧縮して液化する。LanzaTechのコア技術は、汚れた排出ガスを好んで食べるバクテリアだ。バクテリアが排出ガスを食べると発酵が生じ、エタノールが生成される。そしてそのエタノールからさまざまな製品を作る。LanzaTechは、多様な製品の生産をそれぞれ別の企業としてスピンオフしている。たとえばLanzaJetと呼ばれるスピンオフは、エタノールをエチレンに変換するといった技術に取り組んでいる。そのエチレンから、瓶を作るためのポリエチレンや、服の繊維になるPEPなどが作られる。

その他にもClimeworksやCarbon Engineeringといった企業もある。

Climeworksはスイスのスタートアップで、ダイレクトな排出ガス回収の技術を目指している。その技術はフィルターを使って空気から二酸化炭素を収集する。集まった二酸化炭素を保存したり、肥料などの他の用途に販売したりする。発泡飲料の泡としても使われる。Carbon Engineeringはカナダの企業で、大気中の二酸化炭素を取り除き、それを処理して強力な石油回収技術や、新しい合成燃料の生産に利用する。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:イーロン・マスク二酸化炭素

画像クレジット:Diego Donamaria / Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

iPodの生みの親トニー・ファデルが語るスタートアップの未来はネット接続性と持続可能性

Tony Fadel(トニー・ファデル)氏はテクノロジー界の「次」を考えずにはいられない。

iPodの生みの親と称され、iPhoneを作り上げ、スマートホームの企業Nest(ネスト)を創設したこの人物は引退を決め込んでいたのだが、どうにも引退が性に合わず、新たなベンチャーFuture Shape(フューチャーシェイプ)を創設した。

そして51歳のデザイナー、エンジニアにして投資家の彼は、コアな協力者たちと3年を費やし、公的および非公開の数々の投資を受けつつ、テクノロジーの未来の姿を模索してきた。ファデル氏の挑戦は、自身の個人的興味(彼は腕時計マニアの情報サイトHodinkeeにも出資している)と、彼が思い描く技術革新の次なる波を追いかけることだ。

「私たちは資金提供できるメンターを自称しています」とファデル氏はこの最新の冒険について語っている。その理念は「本当に難しいことをやろうとしているすべての企業の支援」だ。

ファデル氏とその仲間たちは、将来大きな投資分野になると見込んだ本当に難しい事業をいくつか特定した。それには、すべてのものの電動化、あらゆるもののデジタル接続、バイオマニュファクチュアリングの推進、廃棄物の廃絶などがある。

同社の広報担当者によれば、これらのテーマがFuture Shapeのポートフォリオに含まれる200社を超える企業との活動の、すべてではないまでも一部を突き動かしているという。

ファデル氏の取り組みの中でも、あらゆるものをプログラマブルに電動化するというものがよく知られている。この分野には、ファデル氏が大きく期待を寄せる企業がいくつかある。マイクロLEDを製造するRohinni(ロヒンニ)、デジタルモーターを製造するTurntide(ターンタイド)、ミクロ電子工学用のスイッチを製造するMenlo Micro(メンロー・マイクロ)、冷却用半導体チップセットを製造するPhononic(フォノニック)だ。

こうしたテクノロジーはどれもが、機械工学技術がデジタル化されプログラム可能になってきたこの数十年間の進歩の中で、電球のような大きな関心を集めることがなかったものだ。

ファデル氏は、Apple(アップル)とGoogle(グーグル)に所属していたころから培ってきた製造業界での自身の経験が活かせるFuture Shapeは、これらのテクノロジーを商品化できる独特な立ち位置にあると話す。

「私たちは原子と電子(ソフトウェア)のギャップを埋め、これらのシステムをそこへ適合させます」とファデル氏はいう。

その方針は、ほぼあらゆるものに広がるネット接続性とデジタル化の力を借りた技術開発に当てはまる。

「世界のあらゆる地域に、4Gまたは5Gの接続が拡大します。【略】そして、情報収集ができる安価なセンサーをスマートフォンに搭載し、ソフトウェアやクラウドサービスと統合できるようになります。【略】そこから新しい産業の誕生を可能にするデータが得られるのです」。

低コストのセンサー、バッテリー、電力の普及が拡大すれば、農業から建築までさまざまな新市場に活用可能なデータ収集の機会が増え、金融や保険といったすでにデータ依存度の高い産業が、よりよいサービスを生み出せるようになるとファレル氏は話す。

画像クレジット:Getty Images/Rost-9D

それが、Understory Weather(アンダーストーリー・ウェザー)に同社が投資する理由の1つでもある。気候変動駆動の次世代保険会社とファレル氏が呼ぶ、スマート気象観測所とデータで事業を開始した企業だ。

Future Shapeのポートフォリオには、この他にもファレル氏のバイオマニュファクチュアリングや廃棄物の廃絶に賭ける気持ちを反映した企業がある。Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)の初期投資者でもあるファデル氏は、たとえば代替タンパクを使った代替肉の開発に使われている数々の合成生物学的手法は、代替皮革の製造や現在使われている化学物質に取って代わる新たなバイオプラスティックの開発に発展させることが可能だと考えている。

Future ShapeがMycroWorks(マイクロワークス)に投資したのも、そのためだ。数多くのセレブや業界の支援者も参加して2020年11月にクローズした資金調達では、4000万ドル(約41億円)を集めた。

「バイオマニュファクチュアリングは始まっています。しかも驚異的な速度で始まっています。なぜなら私たちはこの惑星の大きな力、つまり生命を味方に付けているからです」とファレル氏。「市場は、進むべき方向に進めるべきです。そうすれば、みんな追従します。Impossible Foodsがしているように」

さらにファデル氏は、廃棄物の流れに関連するサプライチェーンの見直しという膨大な好機と、循環経済の創造における数多くの好機を見すえている。Sweetgreen(スイートグリーン)に代表されるレストラン産業と、製品のパッケージに革新的なバイオプラスティックを使用する企業がこれに当てはまる。

「もう1つ私たちが注目しているのは廃棄物です。どのように廃棄物を減らし、どのように廃棄物をリサイクルするか。私たちはそこを追究していますが、廃棄物は大きな問題です」とファレル氏は話す。

そこにおける数々のチャンスは、経済研究を行い、企業の二酸化炭素と物質的物理的な副産物の排出に関するライフサイクル分析を実施する企業から成長していく。「地球を掘らずに、廃棄物を採掘する」とファデル氏は、数十億ドル(数千億円)規模の採掘産業に取って代わる可能性を語った。

Future Shapeのポートフォリオに含まれる企業はほとんどがアーリーステージだが、エグジットを果たした企業もいくつかあり、さらに多くの企業がその準備中であるとファデル氏はいう。

「お金のためではありません。私たちは変化のために行っています」とファデル氏。「これを正しく行えば、お金がついて来ます。私の仕事はリミテッドパートナーを説得することではありません。【略】私たちは信念に基づいて活動しているのです」。

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カテゴリー: EnviroTech
タグ:トニー・ファデルFuture Shape持続可能性二酸化炭素

画像クレジット:Getty Images under a Christophe Morin license.

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(翻訳:金井哲夫)

2040年の完全ゼロエミッションを約束するUberが車両の電動化に850億円を投入

ライドシェアサービスの最大手Uber(ウーバー)は、2040年までに完全なゼロエミッションを実現すると約束し、2025年までに契約ドライバーの車を電気自動車に切り替えさせるための専用の予算として8億ドル(約850億円)を確保する計画だ。

Uberによると、事業展開している米国、カナダ、ヨーロッパの各都市での移動を100パーセント電動化する目標を定め、マイクロモビリティー事業の電動化にもさらなる投資を行う予定だという。さらに、企業活動全体から排出される二酸化炭素も含め、2030年までには完全にゼロエミッションにするとUberは話している。

予定通りに進めば、Uberの事業は、パリ協定が目標に定めた2050年より10年前倒しで必要な条件を満たすことになる。

その鍵となるのは、新規と既存事業の拡大を含む4つの取り組みだと同社は声明で説明した。

第1のステップは、米国とカナダの15の都市で開始するUber Green(ウーバー・グリーン)だ。客は、追加料金を支払うことで、電気自動車またはハイブリッド自動車を選んで呼べるようになる。2020年末までには、世界の65の都市で同サービスが導入される。Uber Greenで乗車した利用者は、Uber Rewards(ウーバー・リワード)の獲得ポイントが、通常のUberX(ウーバーエックス)を利用した場合の3倍になると同社は話している。

世界をよりグリーンにするためのUberの第2のステップは、車両を電気自動車に切り替えるための予算8億ドルの確保だ。この切り替えには、グリーンな車両を選択した利用者が支払うサーチャージ1ドル(約106円)と、ロンドンとフランスのクリーンエアー計画のために同社が料金から徴収する資金も活用される。ヨーロッパの都市で営業するドライバーの車の電動化を目的とした15セント(約16円)のサーチャージは、すでに2019年1月から徴収されている。

2018年2月22日木曜日、ニューデリーで開かれたイベントで語るUber Technologies Inc.(ウーバー・テクノロジーズ)のCEO、Dara Khosrowshahi(ダラ・カスロウシャヒ)氏。日本を訪れた間、カスロウシャヒ氏は撤退するとの憶測に反して、特定のアジア市場においても野心は縮小しないと明言した。画像クレジット: Anindito Mukherjee/Bloomberg via Getty Images

米国とカナダのドライバーの意欲を高めるために、Uberは、Uber Greenの利用客が支払いを完了した乗車1回につき50セント(約53円)の手当てをドライバーに支払うことにしている。電気自動車を使っているドライバーには、Uberから直接、別の報酬ももらえる。電気自動車での乗車が完了するごとに、1ドル50セント(約159円)の手当てが上乗せされるのだ。

また、米国とカナダではGMと、ヨーロッパではルノー・日産との提携により、Uberのドライバーは電気自動車を割り引き価格で購入できるという優待制度もある。Avis(エイビス)とも協力して、米国のより多くのドライバーが電気自動車をレンタルできるようにする計画もある。同時にBP(ビーピー)、EVgo(イーブイゴー)、Enel X(エネル・エックス)、EDF(フランス電力)が運営するIzivia(イズビア)、PowerDot(パワードット)といった企業と協力して新しい充電ステーションを増やす予定だと同社は話している。

Uberはまた、ロボットによるバッテリー自動交換のアイデアを復活させ、新しい車両への充電に関する不安を取り除く取り組みも進めている。現在は、独自のバッテリー交換技術を開発するサンフランシスコの若いスタートアップであるAmple(アンプル)と、インドの電気自動車運用企業であるLithium Urban Technologies(リチウム・アーバン・テクノロジーズ)と協力している。

さらに、Uberの既存のマイクロモビリティーネットワークをベースに、Lime(ライム)が提供するバイクとキックスクーターの、このネットワークへの統合を深め、安全性の確認が取れ次第、シェアリング事業を拡大する考えだ。加えて、Journey Planning(旅行プラン)プログラムの機能を拡大して、料金帯、スケジュール、鉄道の駅から、または駅までの経路などが調べられるようにする。アプリで公共交通機関のチケットが買えるサービスは、10の都市で始まっている。さらにUberは、シカゴとシドニーで、行きたい場所までの車と公共交通機関を使った旅行プランが立てられる新機能を公開した。

最後にUberは、2017年から2019年までの米国とカナダでの同社の事業による二酸化炭素排出量を分析した初の気候評価と業績報告を発表した。1人乗車の場合よりも効率が高いという同社が得た結果は当然のものと思える。しかし、平均的な乗車人数の場合よりも排出原単位は高いことも同社は公表している。つまり、自家用車に2人が乗った場合よりも、Uberのドライバーが客を探して走っているときのほうがカーボンフットプリントが多いことを意味している。

電気自動車への移行の勘定を乗客に押しつけるのは、あまりいいやり方とは思えない面もあるが、これらの取り組みはすべて、カーボンフットプリントを減らすための、まだまだ長い道のりを進もうとするUberの前向きな一歩だ。

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タグ:ライドシェア Uber 二酸化炭素 電気自動車

画像クレジット:Drew Angerer / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)