セールスフォースのタブロー買収は大規模だが史上最大ではなかった

160億ドル(約1兆7382億円)というような金額の話をしていると、数の感覚が麻痺してくる。今日(米国時間6/10)Salesforce(セールスフォース)がTableau(タブロー)を157億ドル(約1兆7056億円)で買収した。それが巨大な企業買収であったことは間違いないが、史上最大ではなかった。

2017年に新たしい税法が施行されたとき、大手IT企業は巨額の資金を海外に保管して税を逃れ、一方ではM&Aの波がやってくるだろうと、多くの人々が憶測した。たしかにそれは起こった。

BoxのCEO Aaron Levie氏がTwitterで指摘したように、これは既存の支配的なツールを打ち負かすような最高のツールを開発すれば、マルチビリオン企業を作れることの証明でもある。われわれはこれまでに何度もそれを見てきた。150億ドル(約1.6兆円)企業までいかなくても、マルチビリオンの値札のついた巨大企業がたくさん生まれた。

昨年だけで、10件の買収が行われ総額は870億ドル(約9兆4517億円)に上った。最高金額の称号はRed Hatを340億ドル(3兆6938億円)で買ったIBMが勝ち取ったが、それでさえ史上最大の企業買収ではなかった。そこで本誌は、歴代の巨大企業買収のベストテンを作ることにした。これで、今回の契約の位置づけが感じ取れるかもしれない。

SalesforceがMuleSoftを65億ドル(約7062億円)で買収(2018年)

当時これはSalesforce史上最大の買収であり、今も続いている。それまでも同社は買収を繰り返していたが、その多くは比較的コンパクトなものだった。しかし、なんとしても企業データにアクセスしたい同社はMuleSoftが欲しくなり、そのための費用を払う決断を下した。

MicrosoftがGitHubを75億ドル(約8148億円)で買収(2018年)

ライバルに遅れを取るまいと、Microsoftはちょうど一年前にGitHubを大枚75億ドルで買収した。当時デベロッパー・コミュニティーには心配する向きもあったが、これまでのところMicrosoftはGitHubが独立子会社として活動することを許している。

SAPがQualtricsを80億ドル(約8691億円)で買収(2018年)

SAPは、QualtricsがまさにIPOしようとしていたところに割り込み、断れない条件を提示した。Qualtricsは、顧客満足度を測るツールをSAPにもたらした。それはSAPに欠けていたものであり、大金を払うことに躊躇はなかった。

OracleがNetSuiteを93億ドル(約1兆104億円)で買収(2016年)

OracleがNetSuiteを買収したことは驚きではなかった。当時Oracleはクラウドへの移行を進めていたときであり、すぐれたSaaSツールを必要としていた。NetSuiteは、すぐに使えるパッケージ化されたクラウドサービスをOracleにもたらし、Oracleが喉から手が出るほど欲しかった顧客も一緒についてきた。

Oracle、エンタープライズ向けクラウドサービスのNetSuiteを93億ドルで買収

SalesforceがTableauを157億ドル(約1兆7056億円)で買収(2019年)

ここが今日の案件。Salesforceはふたたびすばやい動きを見せ、巨額を支払ってデータビジュアル化ツールを買い、顧客がSalesforceに限らずどんなデータでもビジュアル的に見られるようにした。さらに言えば、これは昨年のMuleSoft買収を非常にうまく補完するものでもある。

BroadcomがCA Technologiesを189億ドル(約2兆532億円)で買収(2018年)

巨大買収の年の巨額の案件。Broadcomは、半導体メーカーが伝統的ソフトウェア開発・ITサービス会社にこんな金額を払ったことで一部の人々を驚かせた。189億ドルは時価総額の20%に相当した。

MicrosoftがLinkedInを260億ドル(約2兆8246億円)で買収(2016年)

これは当時Salesforceが欲しくてたまらなかった会社だが、Microsoftが財力を生かして勝ち取った。LinkedInの大きな贈り物はデータだった。以来Microsoftはそのデータを製品に変える作業を続けている。

IBMがRed Hatを340億ドル(約3兆6938億円)で買収(2018年)

昨年の終わり近くなってIBMが大きく動き、Red Hatを340億ドルで買収した。IBMは何年も前からハイブリッドクラウドの方式を説いてきたが、Red Hatの買収によってハイブリッドストーリーの説得力がぐっと増した。

DellがEMCを670億ドル(約7兆2789億円)で買収(2016年)

これが全体のトップ。今日の案件をはるかに上回る。この買収は契約締結までにさまざまな障害を超えなくてはならず何ヶ月もニュースに取り上げられた。中でもこの契約に入っていた宝物はVMwareとPivotalで、後者は その後IPOを果たした。この買収のあと、Dell自身も上場した

画像クレジット: Madmaxer / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

直近の取引だけでも500億ドル:企業の今年のショッピングシーズンは既にスタート

ブラックフライデーにはまだ10日ほど早いが、今年の企業のショッピングシーズンは既に始まっている。ここ数ヶ月だけでも私たちは合計500億ドルに及ぶ買収を目撃してきた。その最大のものは、2週間前に340億ドルで行われたIBMによるRed Hatの買収だ。一体何が起きているのだろうか?

全てがそこまで大規模の取引というわけではないが、見慣れない大きな規模の取引が今年は続いている。大きなテック企業たちが、昨年の納税の一部として、海外から送金することが可能になったことで、こうしたことが起きることを預言していた人たちもいた。

今年これまでに見た、数十億ドル規模の取引のいくつかを見てみよう:

需要と供給

大企業は現在その財布の紐を大幅に緩めていて、マーケティングから分析、セキュリティー企業に至るあらゆるものを買収している。彼らはオープンソースと各種の製品を入手しつつあり、クラウドとオンプレミスの橋渡しをする方法を探している。ソフトウェアは沢山あり、そうした取引間にあまり脈絡はみられない。

そうした取引に共通しているのは、そうした買収提案が、単純に拒絶するにはあまりにも巨額であるということだ。こうした企業たちはキャッシュを豊富に持ち、欠けている部分を埋める機会を探し、次々に対象を見つけて行く。

買収価格がこれほどまでに高騰している理由の1つは、買収できる企業の数には限りがあるためだと、Constellation Researchの創業者兼主席アナリストのRay Wangは語っている。彼が見るところ、現在買収対象としてふさわしい企業は、カテゴリーごとに3〜5社ほどしかない。彼はこれを、カテゴリーごとに10-15社の買収対象がいた10年前と比較して語っている。成長可能なスタートアップの数が限られているため、そうした企業を追い求める企業間の競争は激化しているように見える。そうした状況を現金で膨らんだ財布と組み合わせれば、こうした太っ腹な取引が続出するというわけだ。

大企業に買収される企業たちは、その売却を普通に正当化することができる。株主と投資家に報いることができるからだ。また買収する側の大企業は、自分自身で開発するよりもプロダクトロードマップを迅速に進めることができる。買収したチームを、国際マーケットやメガセールスチームに引き合わせることができるのだ。

購入か構築か

それでも、企業は比較的少額の収益に対して、常識外れの大きな金額を使っている。過去3週間の取引では、私たちはIBMが約30億ドルの収益を上げる企業に340億ドルを支払うところを見たし、SAPがわずか4億ドルの収益をあげる企業に80億ドルを支払うのも目撃した。

これは見たところ、確かに払い過ぎのように思える。しかしConstellationのWangは、結局これは最終的には、構築かそれとも購入かという古典的な意思決定に落ち着くのだと言う。SAPはQualtricsと同様の製品を作ることもできた筈だが、単純にそれを買収してSAPの強大なセールスパワーを使うこともできた。「SAPは10万の顧客に売り込むことができます。Qualtricsとの重複は10%しかないのです。数は大切です。そしてそれは新しいプロダクトをマーケットに投入する役に立つことでしょう」とWangはTechCrunchに語った。

Wangは、これが多くの買収の背後にある戦略だと考えているが、それでも買収金額の数字が少々常軌を逸していることは認めている。彼の言うように、こうした数字はかつては3年分の平均収益に対して、3倍程度のものだった。それが今では15から20倍に達しているのだ。こうした数字は正当化することが難しかもしれないが、それは買い手にとっても買われる側にとってもウィン=ウィンであると彼は考えている。もちろん投資家にも大きな利益をもたらすものだ。

これまでのやり方を守る

Red Hat、GitHub、Qualtricsのような例では、買収された企業は大企業の内部で、分離独立したユニットして留まることが多い。少なくとも暫くの間は。それでももし意味があるのなら、大きな企業内での意味のあるクロスオーバーが図られることもある。

しかし、Real Story Groupの創業者兼プリンシパルアナリストのTony Byrneは、こうした大企業はウォールストリートの意見に耳を傾ける傾向があり、顧客は自分たちのお気に入りの製品とサービスに関しては、耳にすることに用心深くなると語る。「最初のプレスリリースで発表される、連続性についての当初の社交辞令を信じることはできません。彼らは何よりもまず、ウォールストリートに耳を傾ける大企業なのです。もし投資家たちに対する説明に合致しない提供物がある場合、それはあまり大切にされることなく、廃棄されたり分離されたりする危機に直面することになります」とByrneは説明した。

また、取引が実際に終了するまでは、2社がどのように上手く合うことになるのかを知ることも難しい。買収する側の企業が、相手が何を持っているのか、そしてどうやってそれを売れば良いのかを知らない場合もある。2つの会社が上手く合わなかったり、創業者たちや主要幹部たちが新しいヒエラルキーにスムースに入り込めないこともある。彼らはそうしたこと全てを事前に把握しようとはしているが、実際にそれがどうなるかを知ることは、いつでも容易だとは限らない。

それにもかかわらず、私たちは尋常ではない高いレベルの巨額買収を目にしていて、おそらくは、さらに多くのケースを目にすることになるだろう。

画像クレジット: Jamie Jones / Getty Images

[原文へ]
(翻訳:sako)

ソフトバンク傘下のARMが米データ分析企業Treasure Dataを6億ドルで買収か

7月30日、ソフトバンクグループ傘下のコンピュータチップ設計企業ARM Holdingsが米国のデータ分析企業Treasure Data(英語サイト。日本のサイトはこちら)を買収することに合意したとBloombergが報じた(英語)。記事によれば、買収金額は約6億ドル(約666億円)。関係者の情報によるもので、ARMおよびTreasure Dataは正式なコメントを発表していない。

Treasure Dataはカリフォルニア州マウンテンビューに本拠を置く、ビッグデータ分析企業。2011年にシリコンバレーでCEO兼共同創業者の芳川裕誠氏らにより設立された。購買履歴やIoTセンサーからの情報分析を行うSaaSプロダクトを提供。自動車、小売、IoT、エンターテインメントなどの業界で利用されている。

ソフトバンクは2016年7月にARM買収の意向を表明し、同年9月に240億ポンド(表明当時のレートで310億ドル)で買収を完了している。今回の買収はARMのIoT分野進出への一環として行われるものとみられている。

ユーザベースが米経済メディアQuartzを買収——NewsPicks事業の海外展開を加速

経済情報の検索プラットフォーム「SPEEDA」と経済情報メディア「NewsPicks」を運営するユーザベースは7月2日、米国のオンライン経済メディアQuartzの全株式を取得し、子会社化することを取締役会で決議した。買収実行日は7月31日を予定している。

買収の対価は合計7500万ドル(約82.5億円)相当のユーザベース株および現金。また加えてQuartzの業績達成割合に応じた条件付対価(アーンアウト対価)がQuartzの出資者であるAtlantic Mediaに支払われる。Quartzの記事(英語)によれば、最終的に総額7500万〜1億1000万ドルが支払われると見られている。

Quartzは2012年に設立された経済メディア。ソーシャル時代、モバイル時代のオンラインメディアとしてサイトやアプリのUI/UX、コンテンツが注目されている。共同創業者のKevin J. Delaney氏とJay Lauf氏はQuartzの共同CEOとして今後も経営を続ける。Quartzは米国版NewsPicksのコンテンツ運営も引き継ぐ。

ユーザベースでは、「モバイルに適したクオリティの高いコンテンツを提供するQuartz社は、当社が北米のみならずグローバル展開を目指す上で最適のパートナーと考えた」と買収決定の理由について説明する。

同社はNewsPicks事業で2023年までに全世界1000万ユーザー(MAU)、有料会員数100万人の“世界で最も影響力のある経済メディア”となることを目指すとしている。2017年にはDow Jonesと合弁会社を設立し、米国市場に進出。2017年11月に立ち上げた米国版NewsPicksでは、DAUの伸びが日本版立ち上げ時の2倍ペースで成長しているという。

ディズニー、フォックスの映画・TV部門買収を正式発表――価格は524億ドル

間もなくエンタテインメント界の巨人2社が1つになる。ウォルト・ディズニー・カンパニーは21世紀フォックスと正式に契約を結んだことを発表した。この契約により、ディズニーはフォックスの映画スタジオ部門とTV事業の大部分を買い取る。支払いには520億ドル以上の価値の株式が充てられる。

ディズニーにはナショジオ・ネットワーク、Star TV、フォックスの映画とテレビのスタジオ、またSkyとHuluの持ち分も取得する。同時に地域スポーツ中継番組放映の権利も得る。この契約でDisneyはHuluの過半数の株主となる。Foxの全国テレビネットワーク、Fox Newsと保有するスポーツ・チャンネルについてはスピンオフして新会社となる。

ディズニーがエンタテインメント・ビジネスで現在のような圧倒的な存在になった理由の一つはCEOのボブ・アイガーによる大型買収にある。アニメーションのピクサー、コミックのマーベル、さらに最近えはルーカスフィルムがディズニーの傘下に加わった。こうした買収により、ディズニーのコンテンツ数は膨大なものとなり、2019年に予定されているディズニーのストリーミング・サービスの開始にむけて強い追い風となっている。ディズニーは自社のオリジナル・コンテンツを自社のストリーミング・サービスにいち早く流すことができる。これはNetflixのビジネスにとって深刻な脅威を与える存在となってきた。

Foxが所有するコンテンツの中にはアバター・シリーズやスターウォーズ・シリーズの記念すべき第一作(エピソード4)が含まれる。

ディズニーはマーベル・コミックを買収したことでスーパーヒーローものでも順調に成功を収めている。その上今回の取引でマーベルが過去にフォックスにライセンスしたX-メンやファンタスティック・フォーも自社に取り戻すことになった。アベンジャーズとX-メンの夢のコラボ映画なども期待できるかもしれない。ディズニーの公式声明の中にはそれを示唆する箇所もある。

今回の合意により、ディズニーはX-メン、ファンタスティック・フォー、デッドプールなどマーベルのスーパーヒーロー全員を一つの屋根の下に戻すことに成功しした。これにより人気のキャラクターとストーリーが複雑にからみあったみのり豊かな世界を創造できるようになるだろう。
【略】

この買収を別の面から見ると、今日までの統計ではディズニーとFoxはアメリカにおける2017年の興行収入でそれぞれ2位と4位のエンタテインメント企業だ。 両社の興行収入を合算するとアメリカ国内の興行収入総額の30%を占めることとなる〔ディズニーはBuena Vistaとして掲載〕。

この数週間、ディズニーのフォックス買収については大量の情報が飛び交っていた。CNBCは「正式発表は今日出るだろう」と報じていた。ディズニーのCEO、ボブ・アイガーは取引が成立したことを報告すると同時に、この契約の一部として同社の会長、CEOに2021年まで留まることを発表した。アイガー自身はこれまで2019年にディズニーを去ることを予定していたという。

ディズニーによれば、この買収が完了するには1年から1年半程度かかるだろうという。今後、反トラスト法を初めと政府の承認をクリアする必要がある。司法省がAT&Tとタイム・ワーナーの合併に待ったをかけたことを考えると、今回の取引も承認が得られるかどうかはまったく予断を許さない。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

AmazonのWhole Foods買収の勝者と敗者――InstacartからSlackまで

Amazon137億ドルをWhole Foods Marketの買収に投じることで、生鮮食料品ビジネスに深く食い込もうとしている。この買収の話自体はAmazonとWhole Foods Market間のものだが、実際に買収が成立すれば、両社以外にもたくさんの企業が影響を受けることになる。

食べ物とテクノロジーの融合はここ数年で活発化し、さまざまなスタートアップが誕生したほか、大手テック企業が食べ物に関連した取り組みを始めたり、逆に大手食品小売企業が次世代の消費者や彼らがどのようにお店を選ぶかを見逃さないためにテクノロジーを利用し始めたりしている。その中でも特に業界への影響力や規模が大きい企業(+それ以外の数社)に関して、Whole Foods MarketのM&Aがどのようなインパクトを与え得るかについて以下に考察を記している。

Instacart

2012年にY Combinatorのアクセラレータープログラムから誕生したこのスタートアップは、まだ宅配サービスを行う生鮮食料品店がほどんど存在しない頃に、商品をアプリ経由で販売・配達するというサービスを開始し、アメリカの食料品配達業界の草分け的な存在となった。自分たちのことをAmazonの競合と捉えているInstacartは、主要都市で大きな利益を上げ、投資家も同社の力を信じている。その証拠に、Instacartはこれまでに約6億7500万ドルを調達しており、同社のバリュエーションは34億ドルにのぼる

そんなInstacartの株主であり食品小売パートナーでもあるのが、他ならぬWhole Foods Marketなのだ。

つまり、AmazonによるWhole Foodsの買収が完了すれば、これまで1番の競合相手だった企業がInstacartの株主になってしまうのだ。問題はAmazonがこの状況にどう対応するかだ。まず、Instacartを完全に買収して競合企業の数を減らすというシナリオが考えられる。さらに、金融投資としてInstacartの株式はそのまま保有しつつ、Whole Foodsの全デリバリー事業をAmazon Primeに移管するというのもあり得るだろう。

Whole FoodsとInstacartの契約期間はあと4年残っており、情報筋によれば今回の買収によって契約内容が変わることはないため、後者はすぐには起きないかもしれない。

そうなると、Instacartが買収のターゲットとなる可能性もあり、CostcoやWalmartのようなAmazonの競合候補であればそれに興味を示すだろう。また、Whole Foodsとの契約がなくなれば、他の食品小売企業から見ても、Instacartはデリバリーパートナーとして魅力的に映ると考えられる。

Instacartの計画について知る情報筋によれば、どうやら市場はその方向に進もうとしているようだ。つまり、最大のライバルを株主の座に座らせておく代わりに、InstacartはAmazonが持つ株式(割合的には1%未満)を買い戻す可能性が高い。

Instacartは今年の終わりまでに、アメリカ国内市場の約80%をカバーするようになる予定で、先週にはPublixやWegmans、Ahold Delhaizeと新規契約や契約内容の拡充を行った。さらに先述の情報筋によれば、Instacartの売上全体に占めるWhole Foods Marketの割合は10%にも満たないというのも注目に値する。

Instacartのこれまでの道のりは決して平坦ではなかった。事業の成長に伴い、不透明な料金体系にフラストレーションを感じていた顧客や配達人やからは数々の反発があり、資金的にも同社にダメージを与えていた。しかし、依然としてInstacartは成長を続けており、Amazonが求めているものよりも大きなものを築いてきた。

Google Shopping

Googleは早くから小売業に進出しようとしており、2013年のGoogle Shopping ExpressのローンチでAmazonと競合することになった。その後同社は食品を主に扱うようになり、それにつれて段々とパートナー企業の数も増えていった。その中の1社がWhole Foodsなのだ。Amazonが親会社になることで、Whol FoodsはGoogleが扱っている商品をAmazonに移動させる可能性がある。

これを受けて、Googleは今後タッグを組む食品小売企業の数を増やしていくことになるのだろうか? また、CostcoやTargetといったパートナーが扱う商品の宅配対象品目を拡大してくのだろうか?

小売業界におけるAmazonの力は年々増してきているように感じられる。そんな中、インターネットと関わりがほとんど(もしくは全く)ないような食料品店にもチャンスが生まれるかもしれない。大型買収とは無縁な小さなお店が、パートナーとしてのWhole Foodsを失い在庫の確保に必死なGoogleで商品を販売できるようになるかもしれないのだ。その一方で、Googleは販売網の拡大を狙う小売店と優位な契約を結べるかもしれない。

Shipt

競合といえば、Instacartがやっていることをもっとうまくできると考えているスタートアップは未だに増え続けている。そんな企業のひとつであるShiptは、今年に入ってから4000万ドルを調達し、まだGoogleやAmazon、Instacartが手を出せていない”非沿岸地域”の顧客を狙っている。

彼らもWhole Foodsとパートナーシップを結んでいるが、Googleのように最終的には同社との協業関係が崩れてしまうかもしれない。また、Whole Foodsからの売上と他のパートナー企業(アメリカ中部の小売大手が名を連ねている)からの売上の割合も気になるところだ。しかし、Amazonの傘下にない小売企業ができるだけ同社から距離を保つために、Shiptとパートナーシップを結びたいと考える可能性も十分にある。というのも、良くも悪くもInstacartはAmazonと資本的な繋がり(たとえAmazonが単なる株主に留まるとしても)を持つことになるのだ。

同じことがStorePowerGrubmarketに関して言える。両社はどちらもInstacartのようなサービスを提供しており、StrePowerは食料品店を、Grubmarketは生産者や農家を対象に、顧客から注文をとったり、商品を配送したりする手助けを行っている。さらに、どちらもこれまでにかなりの金額を外部から調達してきた。

現在Instacartと取引をしている小売企業が、今後Amazonとの関係が複雑化するかもしれないということを受けて、Instacart以外のオプション(パートナーとしても買収対象としても)に気づくようになれば、StorePowerやGrubmarketのような企業に追い風が吹く可能性もある。そうすれば、資金調達時の彼らの交渉力も上がってくるだろう。

Costco

Costcoにはさまざまな手札が揃っている。テクノロジーという意味ではそこまで名が通っていない同社だが、スーパーマーケットチェーンとしては世界第3位(1位:米Walmart、2位:仏Carrefour)で、Amazonに対抗するためのパートナーを求めている。そんな彼らには多くの選択肢が残されている。

Blue Apron、Sunbasketなどの食材宅配企業

Whole Foodsのメインの商品は生鮮食料品だが、同社は加工食品も扱っているため、その中間に位置する食材宅配サービスを始めるのもそこまで難しいことではない。つまり、Whole Foodsの買収で生鮮食料品や加工食品(ミレニアル世代が好むブランドの商品を含む)を扱う店舗網を手に入れることになったAmazonには、Blue Apronのような事業を始めるチャンスがあるのだ。なお、Blue Apronはこのサービスで大成功をおさめ、健全なバランスシートをもってIPOを控えている。AmazonはBlue Apronが既に解決し終えようとしている規模の経済性の問題に対処しなければならないが、その一方で、食材宅配企業にとってメインの市場となる大都市にWhole Foodsが持つ店舗網のきめ細かやかさ(そして各店舗にある新鮮な食材を販売するためのリソース)を無視することはできない。今後どうなるかについてはまだ静観するしかないが、もしもAmazonにその気があれば食材宅配企業にとってはかなりの脅威になるだろう。

Walmart

WalmartにはWhole FoodsとAmazonのニュースに関するコメントを現在求めているところだが、彼らの眼前にもCostcoと同じようにさまざまな可能性が広がっている。TechCrunchライターのSarah Perezが既に指摘している通り、WalmartがAmazonになる前にAmazonはWalmartになりたいと考えている。そして、Walmartは既に食料品のピックアップサービスを提供している一方で、まだ宅配サービスには手を付けていない。

Walmartがこのギャップを埋めるようとしているならば、今回のニュースを受けて、同社は物流のノウハウを持つ企業を買収することになるかもしれない。さらに、顧客層にまでWhole Foods買収の影響がおよぶ可能性もある。Sarahの分析記事でも触れられている通り、AmazonはAmazonプライムで中間〜富裕層の消費者を重点的に攻めている。高級スーパーとして知られるWhole Foods(Whole Paycheckという名前で呼ばれることがあるほど)の買収でその傾向はさらに強まるだろう。そんな中、Walmartが富裕層に対してどのような動きを見せるのかというのはとても気になるところだ。”Amazon効果”を心配する企業が増えることで、Walmartは優位に交渉を進められうようになるかもしれない。

Jana Partners

投資会社Jana Partnersの努力がこの度ようやく報われた。彼らは今年の4月からWhole Foodsにプレッシャーをかけ続けており、遂にAmazonとの話がまとまったのだ。今回の買収はWhole Foodsの株主に大きな利益をもたらし、Jana Partnersも今年に入ってから取得したWhole Foodsの株でかなりのリターンを稼ぎ出した。これを受けて、今後食料品業界で「物言う投資家」の動きが活発化する可能性がある。

Ocado、Bigbasket、Conershop

食料品配達企業の中には各地域に特化したプレイヤーもいるが、一様にAmazonの競合と表現されており、今後Amazonがそのうち何社を買収するのか気になるところだ。Whole Foodsに大金を投じたことで、しばらくの間Amazonは財布の紐は締めることになるかもかもしれない。しかし、だからといって各地で活躍する企業を買収する気が全くないということはないだろうし、買収対象となる企業もAmazonのような大きな枠組みの中で、各種の有用なデータを利用しながら事業を展開する方がうまくいく可能性もある。その一方で、InstacartやPostmates(以下で触れている)のような評価額が彼らにつくかどうかというのはまた別の話だ。

Postmates

現在Postmatesはフードデリバリーサービスを主な事業をとしているが、オンデマンドのデリバリーネットワークというもともとの構想もなくなったわけではない。他のデリバリーネットワークや特定の地域に特化したプレイヤーと同じように、PostmatesはInstacartとの関係性が今後複雑化するであろう小売企業と、より良い関係を築けるようになるかもしれない。InstacartとWhole Foods(Amazonとも読み替えられる)の親密な関係は、他の小売企業にとってはある種の障害となる可能性が高く、これはInstacartの競合企業にとっては喜ばしいことだ。さらに大手小売企業がPostmatesのような企業のことをAmazonに対抗する上での重要なパートナーと捉えることで、彼らの価値自体が高まる可能性もある。

Slack

Amazonはこれまでにも数々の大型買収を行ってきたが、Whole Foodsほどの規模のものはなかった。先述の通り、Whole Foodsの買収が連続大型買収のひとつめということでもない限り、Amazonはしばらくの間M&Aの手を緩めることになることになるだろう。その一方で、先週AmazonがSlackの買収に興味を持っているという噂が浮上した。どうやら結局Slackは別の道を歩むと決めたようで、代わりに5億ドルを調達しようとしていると報じられている。しかし、CiscoがIPO直前のAppDynamicsを買収したように、ギリギリのタイミングで物事が変わることはよくあり、Microsoftも同社には注目しているようだ

いずれにしろ、Slackの値段は公知のものとなり、しかもかなりの高値がついている。もしかしたら、Whole Foodsの買収に大金を費やしたAmazonが買収競争から外れると見た、テック業界とはそこまで関係の深くない企業が急にSlackの買収に乗り出すということもあるかもしれない。これに関しては、これまでに比べてかなりはっきりとした金額が明らかになったということを考慮し、今後の行く末を見守るしかない。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

SoftbankのARM買収完了―240億ポンド(3.3兆円)は英国最大のM&A

2016-09-06-arm-sb

今年のテクノロジー界で最大級―かつイギリス史上最大―の買収が確定した。今日(米国時間9/5)、SoftbankはARM Holdingsの買収手続きを完了したと発表した

ARMはSoftBankが7月に240億ポンド(現在のレートで320億ドル、当時は310億ドル)で買収する意向を示した半導体メーカーだ。この買収によりSoftBankはIoTの世界に向けて大きく飛躍することになる。ARMは9月6日付でロンドン証券取引所(LSE)での上場が廃止となる。SoftbankではARMを今後も独立企業として運営する意向を示している。

今回のニュースは、買収完了のために必要とされる規制当局による承認が得られ、最後の障害が取り払われた直後に発表された。ソフトバンクは買収を発表した声明で次のように述べていた。

「買収契約の条件に従い、SBG〔SoftBank Group〕は発行済、未発行を含めてすべてのARM株式(ただしSBGないしSBG子会社が取得済み株式を除く)を総額で約240億英ポンド(310億USドル、3.3兆日本円相当)のキャッシュで買収する。買収手続きの完了後、9月6日(グリニッチ標準時)をもってARMのロンドン証券取引所への上場は廃止され、公開企業ではなくなる」

Softbankはまた「この買収に伴う財務および営業への影響は手続きの完了を待って行う」とも述べていた。ARMとSoftBankの財務は今日から統合が開始される

これまでSoftBankはモバイル網および固定回線におけるインターネット接続サービスを消費者に提供してきた。しかしニュースが発表された当初からわれわれはARM買収がSoftbankがIoTテクノロジーにおいて飛躍していくための重要なピボット点になると報じてきた

SoftBankのファウンダー、CEO、孫正義は今年初め、それ以前に公表していた引退の意向を取り消したことでテクノロジー界を驚かせた。そしてARM買収が発表された。孫CEOによれば交渉開始から終了までわずか2週間だったという。この買収はある意味でSoftBankという会社が次の時代をどう生き抜いていくかを予め示すものといえるだろう。

この取引について一部では、Softbankは機を見るに敏だったと評している。 Brexit〔イギリスのEU離脱〕によってポンドの為替レートが低落した瞬間にARMをさらったというわけだ。この国民投票では過半数の有権者がイギリスがEUを離脱することに賛成した。これが経済に与えた影響は大きく、英ポンドの為替レートは大きく下がった。

しかし孫CEOはARM買収を発表したプレス・カンファレンスで「Brexitは私の決定に何の影響も与えていない。多くの人々がBrexitについて憂慮している。この国の経済に与える影響は良かれ悪しかれ複雑なのもとなるだろう。…しかし私の投資の決断はBrexitが原因ではない」と述べた。

なるほどSoftBankとARMが買収について交渉していた2週間にポンドの価値は16%下落したが、逆にARMの株価はほぼ同率でアップした。つまり差し引きゼロだった。また考慮すべき経済的要素は他にもあった。この買収に先立ってSoftbankはAlibaba株の一部を売却、同時にフィンランドの有力ゲーム・メーカーSupercellも売却した。SoftBankは90億ドル(1兆円)という巨額の資金を起債によって調達する計画を発表している。孫氏は「これは為替レートの変動に便乗してできることではない」と述べ「もっと早く買収したかったのだが、資金が手元に入ってくるのを待っていたのだ」とジョークを飛ばした

「私は遭難しかけている会社に投資することはない。私はパラダイム・シフトに投資する。…これは私の情熱であり、ビジョンだ」と孫氏は述べた。

事実、Softbankは常にパラダイム ・シフトのまっただ中にいた。孫氏は社員がたった16人だったYahooを通じて「パソコン・インターネット」に投資した。その後はモバイル化に巨額の投資を行った。SoftbankはSprintの買収を始めとして多数のモバイル関連企業を傘下におさめている。そして孫氏の信じるところでは、世界がIoTに向けてシフトしていくのは必然的な流れだという。

ARMはイギリスにおけるテクノロジー企業のサクセス・ストーリーの代表だった。スマートフォン時代の到来の波に乗ってARMのチップ・デザインはppleを始め、世界の有力モバイル・デバイス・メーカーが採用するところとなった。

ARMにとってスマートフォン・ビジネスは依然として重要な柱だ。先月も長年のライバルであるIntelがARMのテクノロジーのライセンスを受けてスマートフォンのプロセッサーを製造すると発表しているのは興味深い。Intelはこれによって自社のスマートフォン向けチップ・ビジネスを大きく加速できると信じている。

しかし将来にむけてさらに重要なのは数年前からARMがビジネスの本質を IoTにシフトさせている点だ。ARMは現在の稼ぎ頭であるモバイル事業がいつかは頭打ちになることを予期していた。

そしてARMの予期通りに事態は推移している。スマートフォンの販売台数の伸びは事実上ゼロになった。世界の多くの市場でスマートフォンの普及は飽和点に近づきつつあり、すでにスマートフォンを所有しているユーザーは簡単に新機種に買い替えなくなった。

なるほど現在でもいわゆる「つながった」デバイスは多数存在する。冷蔵庫や玄関のドアのカギといったダム・デバイスが続々とスマート化され、インターネットにつながるようになった。しかし真のIoT時代の到来はまだこれからだ。ARM(いまやSoftbankだが)はこのパラダイム・シフトをいち早く参入したことにより、同社がスマートフォンで収めたような成功をIoTでも収められると期待している。

Featured Image: a-image/Shutterstock

〔日本版〕原文冒頭のニュースリリースへのリンクは日本からは無効なので相当するウェブページに差し替えてある。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

小さな企業自らが買収に向かうべきシグナルとは

shutterstock_252954871

【編集部注】著者のChelsea Stoner氏はBattery Venturesのジェネラルパートナーである 。

M&Aが、特にソフトウェア企業のものが、ホットである:大手の未公開株式投資会社たちは、2016年の前半だけで270億2200万ドルの価値のある170のソフトウェア企業への投資を現金で行ったし、悩めるYahooはVerizonによって48億ドルで救い上げられ、Microsoftはプロフェッショナル向けネットワーキングサイトのLinkedInを驚きの260億ドルで買収することを発表した。その取引は、マイクロソフトは自社製品を強化するために、レジュメデータをどのように活用するのだろうか、という多くの憶測を呼び起こした。

しかし、ソフトウェアのM&A狂騒曲はその一方で、小さなハイテク企業がその成長を、高度で戦略的なアドオン的買収により、いかに強力に加速できるかという点にも光を当てている。

筆者は中堅テクノロジー企業に焦点を当てたソフトウェア投資家として、このセグメントにいる会社が新しい方向へ成長する必要があることを示すシグナルに気が付いていない多くのビジネスオーナー達に出会った(シグナルに気が付いているMicrosoftの幹部たちとは好対照である)。それは主として、他の会社を買収することによって、自身のプロダクト系列の穴を埋めることができるとか、補完的なプロダクトやサービスを提供することができるという方向への成長である。こうしたシグナルを見出すことには、単なるスマートなリーダーシップ以上の意味がある。そのことにより成長の機会を見出し ‐ そして、より大きな可能性へと長期的に導いていくこともできるのだ。

更には、未公開テクノロジー企業の評価が下降気味の今日は、こうした成長戦略を考える好機なのである。

気にすべきは顧客数増加「率」だ

M&Aを検討する必要を促すであろう1つの目をつぶることのできないシグナルは、月毎の顧客数増加率の変化(正確に言えば負の変化)である。しかし、このシグナルの観察には注意が必要である。新しい顧客が増え続けている限り、増加の現象は大きな問題ではないような気もするが、どうだろう?規模が大きくなるときに、どんな企業にも起きる典型的な現象ではないのだろうか?

時にはそのようなことも起きるだろう。しかし、顧客数増加率の減少はまた、現在の市場を越えて成長をする必要があることを示すシグナルでもあり、少なくとも現在あなたが提供しているプロダクトの再評価を促すものである筈だ。自らに問いかけなければならない:顧客は更に何を求めているのか?顧客は現在、他の場所では何を買っているのか?この問いは、やがて、新しい顧客増加を後押しする方向へとつながるだろう。

会社はサメのようなものだと思うこと:前に進まなければ、おそらく死んでしまう。

私のビジネスにおける経験則によれば、顧客は収入の1〜2%をソフトウェアに費やしている。たとえば顧客Xにおけるその金額が10万ドルで、そのうちの1万ドルをあなたに支払っているとしよう。そこにはあなたが手にしていない9万ドルが存在している。その支出を手に入れる方法を見つけよう。双方にメリットがある話だが、顧客はしばしばワンストップショップの方が仕事が楽だと思う。古い格言である「絞める首は1つに」は真実なのだ。

Brightree*は、参考になる事例である。当初は家庭用医療機器プロバイダーのビジネス管理ソフトウェア会社だった Brightreeは、その提供するプロダクトを拡大するために、C&S Billing Centerを2009年に買収した。C&S Billingが加わったことにより、Brightreeの顧客たちは課金の悩みから解放されただけではなく、加えて熟練したスタッフが関与するアドオンサービスに対しても、Brightreeへ支払いを行うようになった。買収は、Brightreeの全体的な収益を大幅に押し上げた。

しかし、すべての新規提供が単なるオプション追加によるものというわけではない。あなたのブロダクト系列を拡大することにより、近いところにいる買い手に対してあなたの会社を魅力的に見せ、全体の市場が拡大することが起き得るのだ。例えばBrightreeによる別の買収事例をみてみよう。2013年にCareAnywareを買収した事例であるBrightreeと同様にCareAnywareは、クラウドソフトウェアプロバイダーだったが、在宅医療とホスピスという2つの異なる急性期後市場に対して販売を行っていた。医療分野の新しいセグメントに展開することにより、Brightreeは対象とするパイの潜在的な大きさを大幅に増加させた。ResMed (NYSE:RMD)は2016年4月に8億ドルでBrightreeを買収した。

潜在的なM&Aをあなたが考える際に追うべき、もう一つの重要な指標は、製品の平均販売価格が同じままか低下傾向にあるのかということである。もしあなたが顧客のためのより大きな問題解決を狙って、自社を別のサービスと合わせていたならば、おそらくより大きな収入を上げることができたかもしれない。営業担当者と話をすることで、この評価を開始しよう。彼らは繰り返し、どのような質問を受けているのか?何に顧客は夜も眠れぬほど悩んでいるのか?

理学療法士のビジネスを効率的にすることを助けるWebPT*は、数年前にこれらの問いかけをした企業である。彼らの顧客は、オバマケアによる医療費還元率が最終的には治療成績と結びつくことを認識していた。

WebPTは、短期的には患者の治療成績もセラピストの仕事に役立つだろうということを理解しつつ、長期的に顧客の要求を先回りして助ける方法を探していた。そしてWebOutcomesが仲間に加わった。WebPTが2014年11月に買収を行った会社である。当初は治療成績管理のための、ちょっとした機能だと思われたものが、あれよあれよという間に成長し、会社の核となるサービスの1つとなった。

離れようと考えている顧客を観察せよ

最後に、すべての企業は顧客離れをM&Aに向けてのシグナルとして注意深く追跡する必要がある。のぞむらくは、将来の顧客離れにつながるかもしれない、顧客の不満のシグナルにとても早い段階から敏感でいるべきなのだ。

小さなハイテク企業はその成長を、高度で戦略的なアドオン的買収の追求により、強力に加速できる。

おそらくあなたは顧客サポートまたは電子メールを介しての顧客の声を、しばらく聞いていないかもしれない。もしかすると彼らはサービスプランをダウングレードしているかもしれないし、もしくは ‐ ソフトウェアビジネスの場合なら ‐ ソフトウェアの使い方が変化しているかもしれない。それは彼らがあなたの製品に以前ほど依存していないことを示していて、以前ほどは頻繁に使っていないか、以前ほど多くの機能を使っていないことを意味している。これらはいずれも、プラグを抜く(契約を打ち切る)ことを考えている顧客の、初期のシグナルの可能性がある。

しかし顧客離れはまた、もしあなたがスマートな買収に柔軟であれば、より大きな機会に向けてのシグナルともなる。これを、顧客はどこかに移ろうとしているのか、それは何故なのかを考える機会にするのだ。あなたの営業担当者は既にこの情報を持っているかもしれないし、または改めて顧客に率直に尋ねることもできる。

競合他社があなたのランチをつまみ食いしていることに気がついたら、彼らの提供しているものを評価しよう。こうしたことには、いくつかの対抗手段がある;直接相手を買収してしまう、より優れた技術を使って相手を打ち負かす、あるいは、あなたの方の規模が大きくて、新進のあたらしい玩具と競うというのなら、価格やサービスの組み合わせを変えることができる。資金が潤沢ではなくスタートアップは、気の利いた価格設定変更を行うことのできる余裕ある相手との競争に、耐え切れないかもしれない。

巨大なテクノロジープレイヤーでさえ、しばしばアドオンの買収を経て成長する – 特に業界全体が新しいクラウドベースのソフトウェアに移行する際には。実際、あなたの次の成長段階は、超大物との提携を含むものになるかもしれない。

Oracleは、クラウドソフトウェアの重要さを認めていて、人事ソフトウェア会社のTaleo、マーケティングソフトウェア会社のResponsysとEloqua(クラウド内で営業事務を行うソフトウェアを提供する)、そして最近ではOpowerとTexturaなどを戦略的に買収してきた。

同様に、 Salesforceは的を絞った買収を通じて、CRM専業から、クラウドサービスやマーケティングなどの分野へとビジネス領域を拡大した。同社は、ExactTarget*のような電子メールマーケティングプラットフォームや、Desk.comから名前を変えたAssistlyといった企業の買収を通して、より多くの収入を手に入れ、強力なカスタマーサービスサポートを提供できるレベルアップを行った。今年の6月には、Salesforceは小売業者のためのマーケティングプラットフォームであるDemandwareを買収することを発表している

会社はサメのようなものだと思うこと:前に進まなければ、おそらく死んでしまう。マーケットを見て回ることを怖れてはいけない。そして競合他社や補完企業との提携にいつでもオープンでいること。このことを理解し、適度にビジネスに後押しをしてあげれば、あなたは生き残る(survive)だけではなく、繁栄する(thrive)ことになるだろう。  

*で示したのはBattery Venturesのポートフォリオに含まれる企業である。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)