お金を払って新聞を読む人が増えている

Newsboy wearing flat hat holding newspaper and shouting to sell.Megaphone in right hand, and newspapers in left hand.Model is wearing red suspenders.The image was shot with Hasselblad H4D

これからは「新聞業界は死んだ」とは言えないだろう。Nielsen Scarboroughによる最近の調査によれば、アメリカでは1億6900万人の成人が毎月、紙媒体、オンライン、そしてモバイルで新聞を購読しているという。これは全人口の約70%もの数字だ。

昨年11月、新たに13万人がThe New York Timesを購読し始めた ― 月ごとの購読者の伸び率で比べると、これまでの10倍の数字にもなる。The Wall Street Journalの購読者数は300%上昇、LA Timesでは61%、そしてVanity Fairは1日で1万3000人の購読者を獲得している。非営利のWashington Postは新たに60人のライターを雇い入れた。そしてNPRは先日、「Big Newspapers Are Booming(大手新聞社が大いに好調)」と報じていた。

もちろん、これらの新聞社に新たに加わった事業責任者たちの功績は大きい。しかし、何も政治的な要因だけが理由なのではない。あらゆる分野で、読者に支えられたパブリッシャーたちが復活の兆しを見せているのだ。

例えば、テクノロジー業界ではJessica Lessin氏が立ち上げた新進気鋭のThe Informationの好調さが目立つ(The Informationは会員限定のサービスだ)。そして彼らはいま、シリコンバレーで第2の規模のテックレポーター・チームを抱えている。また、毎年100ドルを払ってでもBen Thompson氏のニュースレター、Stratecheryを読みたいと思っている人が何千人もいる。

読者たち、そしてパブリッシャーたちは、なぜ広告ベースのビジネスモデルよりも有料会員制のモデルを好むのだろうか?その理由として挙げられるのはいくつかあるが、オンライン広告業界に漂う不穏な空気がその中でも大きな理由だ。

人間は広告が大嫌いな生き物だ。今年、アメリカでは8000万人以上の人々が広告ブロック機能を使用するといわれ、それによってメディア企業は約1000万ドルの収益を失う見込みだ。「ネイティブ・アド」という言葉を頻繁に聞くようになったが、それでもなおポップアップ広告の勢力は衰えていない。

広告に関しては、メディアが「完全に不干渉」でいることこそが購読者を増やす道だと主張する人々は多い。Googleでさえ、それを実践している ― YouTube Redを例にしてみると、同サイトの広告には狡猾とも言える手口が大いに利用されている。まるで、コンテンツのプロバイダーがクリック製造業者のように感じるほどだ。Ex-politicoのプレジデント、Jim VandeHei氏はそれを「Crap Trap(場当たり的なトラップ)」と呼ぶ。

MediumのEv Williams氏は、同社が社内の人事政策を発表したプログポストでこの問題について触れている:「私たちはこれまで、プロダクトの販売推進とサポート拡充のためにチームを強化してきました。しかし、そのプロダクトとは、良く言っても従来の広告型モデルが少し改善したくらいなもので、私たちが目指す革新的なプロダクトからは程遠いものでした。このモデルをこれ以上推進すれば、私たちは壊れたシステムを拡大するという失敗を犯してしまう可能性があります。たとえ、それがビジネス的には上手くいっていたとしてもです」。当然と言えば当然ではあるが、彼はこの後にサブスクリプション型のプロダクトをこの夏にローンチすると発表している。

広告はヒドいものだ、そして、広告収入は一定しないことで有名だというのは分かった。でも、それ以外に何がこの業界で起こっているのだろうか?

壊れた広告システムにパブリッシャーたちが厳しい目を向け始めたのと同じ頃、有料の会員制サービスに喜んでお金を支払うという新しいタイプの消費者が増えてきた ― SpotifyやNetflix、飲食品の宅配サービスやプロダクティビティ・アプリに料金を支払う消費者がその例だ。サービス内容がタイムリーかつ有益で、消費者に寄り添ったものでありさえすれば、彼らは進んでその対価を支払う。今では、ミレニアル世代の4分の1が毎日のように新聞を購読していると言われている。

「インターネットへのアクセスをもつ人々の数は膨大です。また、多くの少数派の人々が満足のいくサービスを受けていないという現状もあります。アドバタイザーにとって、それらのニッチ市場は小さすぎるからです」とBen Thompson氏は語る。

Adobe、Dollar Shave Club、Weekly Standardなど、会員制のサービスは収益予測をたてやすい。その特色を利用することで、彼らはオーディエンスに寄り添ったサービスや個性的な新機能を生み出している(The New York Timesは、クロスワードパズルのアプリだけで一定の収益をあげている)。また、それにより彼らは「Crap Trap」を避けることもできる。

Jessica Lessin氏がこう語る:「私は今でも、広告に頼らないビジネスを構築するほうがずっと安全だと信じています。そうすることで、読者に提供するバリューに100%集中することができるからです。それこそが、読者に過去よりもよりスマートで、かつ有益な情報を届けることができる唯一の方法なのです」。

もちろん、広告それ自体が無くなることはない。しかし、今後サブスクリプション型のモデルがより普及するにつれて、読者とパブリッシャーとの関係はその双方にメリットを与えることになるだろう。パブリッシャーは会員たちの行動により注目するようになり、スライドショーのようにページを表示することで稼ぐPV数などではなく、例えばユーザーの滞在時間など、より意味のある評価指標を重視するようになるだろう。

「広告は以前としてビジネスには欠かせないものではあるものの、それに対する依存度を下げることはパブリッシャーにとって重要な戦略的目標です」とNewsonomicsのKen Doctor氏は話す。「ハイクオリティなコンテンツやプロダクトを提供することによって読者から得られる収益は、広告収入よりもずっと安定した収益源なのです」。

もちろん、紙媒体の広告で収益を得る時代からデジタルな時代へと移り変わるなか、新聞業界には今も向かい風が吹いている。しかし、スマートなサービスには対価を払う消費者も徐々に増えてきているのも事実だ。健全で、かつ独立したパブリッシャーたちにとって、それは良いニュースなのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter