NVIDIAのGPUで新型コロナ研究中のAIスタートアップElixがアステラス製薬と共同研究開始

AIスタートアップのElixは8月6日、アステラス製薬との共同研究を7月から進めていることを明らかにした。

両社の共同研究は、AIを活用した化合物の薬理活性やその他の特性(ADME、物性、毒性など)の予測、化合物構造の生成、化合物の逆合成解析を目的とするもの。創薬は、さまざまな組み合わせから有効な化合物構造を創り出す必要があるため、時間とコストが非常にかかる事業であり、AIの活用に注目が集まっている分野だ。しかし、特性予測や化合物構造生成のAI研究が進む一方で、化合物の合成可能性についてはまだあまり考慮されていない状況にあるという。

そこで、AIによる特性予測と化合物構造生成に加えて逆合成解析に注力し、合成可能性の高い化合物構造の生成や、より効率の良い合成経路探索に重きを置いて研究を進めていく。Elixによると、2019年10月に創薬・医療系ベンチャーに特化した育成支援プログラムである「Blockbuster Tokyo」に参加したことをきっかけとして、AIを創薬領域に活用する事業に参入を決めたとのこと。

Elixは、AI創薬のほか、マテリアルズ・インフォマティクスとコンピュータービジョン(画像認識)を主力領域として事業を展開しており、新型コロナウイルスの治療薬探索に関する研究(NVIDAブログ記事)なども実施している。同社は、NVIDIA(エヌビディア)がスタートアップの市場参入を支援するプログラム「NVIDIA Inception」のメンバーで、ディープラーニングアルゴリズムの学習と推論に「NVIDIA DGX Station 」を活用している。

合成生物学ツールで創薬を大規模化するOctant、UCLAの研究チームが開発したテクノロジーがベース

Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)が支援するOctant(オクタント)が、ついに公の場に姿を現した。合成生物学用ツールを駆使して創薬の最新トレンドを支える企業だ。製薬業界の視線が高精度医療、つまり遺伝子工学を用いた患者個人に合わせた疾患の治療法の研究に集まる中、Octantは同じ技術を用いて創薬と診断の大規模に取り組んでいる。

同社のテクノロジーは、ヒトゲノムの中の最も一般的な薬物受容体の識別子として機能するよう、DNAを遺伝子操作するというものだ。基本的にそれは、細胞中の各種タンパク質受容体が、さまざまな化学物質にどう反応するかを特定し識別するQRコードを生成する。それは、免疫反応から視覚や嗅覚、ニューロンの発射に至るあらゆる制御、さらにはホルモンの分泌、体内の細胞間の通信の調整を助ける生物学的センサーだ。

「私たちの発見プラットフォームは、化学物質、複数の薬物受容体経路、疾患の相互連絡関係をマッピングし評価するために作られました。それにより、広い範囲のターゲットにわたり、より合理的な方法で複数標的を持つ薬のエンジニアリングが可能になります」と、Octantの共同創設者でCEOのSri Kosuri(スリ・コズリ)氏は声明の中で述べている。

Octantの研究は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でコズリ氏の研究チームが初めて開発したテクノロジーをベースにしている。それは、遺伝子配列の作成コストを、遺伝子ひとつあたり50〜100ドルだったものを、2ドルにまで押し下げた。

「私たちの方法を使えば、どんな研究所でも、独自のDNA配列を作成できます」とコズリ氏は2018年の声明で話している。「これによって初めて、平均的な研究所でも100万ドル(約1億800万円)も投じることなく、1万個の遺伝子をゼロから作れます」。

Octantの創設に参加したのは、コズリ氏の長年の友であり、GoogleDropboxの元幹部でもあるRamsey Homsany(ラムゼイ・ホムサニー)氏だ。ホムサニー氏は、奇遇にも学校で細胞生物学を学んでいた。コズリ氏が研究中のテクノロジーについてほのめかしたとき、2人は会社を設立すべきだと同時に感じた。

「この新しいテクノロジーは、どのバーコードが、作業中のひとつのウェルに収まったどの構成、どの遺伝的変異体、どの経路に対応しているかを知るためのものです」とコズリ氏。「そこで可能になるのは、小分子のスクリーニングです。私たちはそれを、数千のウェルで同時に行えます。そのため私たちは、医薬品開発に欠かせない、科学物質、標的、経路の関係性をマッピングできるのです」。

UCLAに来る以前、コズリ氏は米国の西海岸と東海岸の両方で複数の企業に属し、合成生物学に基づく製品開発にあたっていた経歴がある。2007年、バイオ燃料ブームが起きて間もないころに行っていた研究を通じて、コズリ氏はFlagship Ventures(フラグシップ・ベンチャーズ)と、ハーバード大学を拠点に活動していた著名な合成生物学者George Church(ジョージ・チャーチ)氏と知り合うようになった。コズリ氏はまた、Gen9(ジェンナイン)の科学顧問にも就任した。同社は合成生物学の数十億ドル規模の大手企業Ginkgo Bioworks(ギンゴー・バイオワークス)に買収されている。

「歴史上、最も価値の高い医薬品には複合的な薬剤標的に対応するものがあります。複合薬理学に的を絞ったOctantに説得力があるのは、そのためです」と、Gingko Bioworksの共同創設者でCEOにしてOctantの役員でもあるJason Kelly(ジェイソン・ケリー)氏は声明の中で述べている。「Octantは、その革新的なプラットフォームと独自の生物学的見識のビッグデータを使った創薬の方程式から数多くの幸運を生み出し、コストを低減させてきした。それは同社の社内開発計画と、潜在的なパートナーシップの原動力になっています」。

この新テクノロジーは「製薬会社が、一般的な疾患の治療よりもむしろ、特異的突然変異とつながりのある疾患の標的治療に軸足を移そうという業界の特別な時期と合致した」とホムサニー氏は話す。

「みんな一般的な疾患から離れようとしています」と彼は言う。「大手のプレイヤーが一般的な疾患を見捨てるというのは、私たちにすれば、なんとも合点のいかないことです。そこで私たちは、一企業として、その新しいテクノロジーを、一般的な疾患の治療に応用できないかと考えました」。

大勢が患っている病気から業界が目をそらしたひとつの理由には、薬に頼らずに症状に対処できる新しい治療法の登場がある。一方、具体的な明言は避けたもののOctantの共同創設者たちは、コズリ氏が「代謝領域」と「神経精神病学の領域」の症状と呼ぶものの治療法を追求している。

創薬企業であるOctantは、その研究を支えるための3000万ドル(約32億円)をAndreessen Horowitzを筆頭とする投資家から調達した。「創薬は今でも試行錯誤の世界です。Octantは、合成生物学での高い専門性を生かし、人の細胞をエンジニアリングして、薬剤の分子が生きた細胞内でどう関与し効果を示すかといった複雑な内容を正確に完璧に、リアルタイムで読み出せるようにしました」と、Andreessen Horowitzのジェネラル・パートナーでありOctantの取締役会の役員でもあるJorge Conde(ホーヘ・コンデ)氏は言う。「こうした前代未聞の規模で生物学を探ることで、Octantは薬物標的とそれに対応する非常に厄介な疾病の革新的な治療法の完全なマッピングをシステマチックに行える潜在力を備えたのです」。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

希少疾患の治療法をAIで探るHealxが約61億円を調達

AIを使って希少疾患の新しい治療法を探るスタートアップであるHealx(ヒーレックス)が、シリーズB投資で5600万ドル(約61億円)を調達した。

このラウンドを率いたのは英国ロンドンに拠点を置くベンチャー投資企業Atomico(アトミコ)だ。そこに、 Intel Capital(インテル・キャピタル)、グローバル・ブレイン、btov Partners(ビートゥーヴィー・パートナーズ)が加わった。さらに、 前回投資を行ったBalderton Capital(バルダートン・キャピタル)、Amadeus Capital Partners(アマデウス・キャピタル・パートナーズ)、Jonathan Milner(ジョナサン・ミルナー)氏も参加している。

Healxは、今回調達した資金で同社内に治療法パイプラインを開発し、国際的なRare Treatment Accelerator(希少疾患治療アクセラレーター)プログラムを立ち上げたいと話している。このプログラムは、患者グループと手を組み希少疾患のための創薬の効率化を図るものだ。

さらに、新しい治療法を発見し「24カ月以内に」臨床試験に持ち込む体制を整えることも目指す。現状からすると驚くほどの短期間だ。しかも、希少疾患の多くは、治療法開発の目を向けられることすらない。

「世界には、7000種類の希少疾患があり、4億人が罹患しています(半数は子ども)。その95%には、いまだに認証された治療法がありません」とHealxの共同創設者でCEOのTim Guilliams(ティム・ギリアムズ)氏はTechCrunchに語った。

「新薬の発見と臨床開発の従来モデルでは、費用、スケジュール、有効性の面での負担が膨大です。通常、新薬を市場に送り出すまでには、20〜30億ドルの費用、12〜14年の開発期間、95%の失敗率を負うことになります」。

特に患者数の少ない疾患では、現状のモデルは使えないとギリアムズ氏は言う。新薬の発見と開発にかかるコストが大き過ぎるため、薬の売り上げでは単純に投資の元が取れないからだ。そこでAIを使って既存の医薬品の別の使い道を探るという「抜本的な方向転換」が必要になる。

「認証された医薬品に注目し、AIの能力をうまく使うことで、希少疾患のための治療薬の発見プロセスを、高速で高効率なものにできました」と彼は主張する。「それ以来、私たちは、2025年までに100種類の希少疾患の治療法を臨床試験に持ち込むことを使命にしています」。

もちろん、AI技術を創薬に応用しているのはHealxだけではない。また、AIの使用はそれほどの大冒険でもない。例えば、BenevolentAI(ベネボレント・エーアイ)は数多くの大ニュースで世間を驚かせているが、直近では、評価額の引き下げを行ったと報道された。しかしギリアムズ氏は、Healxのアプローチが、Recursion Pharmaceuticals(リカージョン・ファーマスーティカルズ)や Insilico Medicine(インシリコ・メディシン)といった同業他社とは異なっていると話している。

「私たちの目標とアプローチはまったく違います。私たちは希少な遺伝性疾患に特化していて、世界的な希少疾患の生医学のナレッジグラフを所有しています。さらに私たちは、新しい分子を開発するのではなく、すでに認証されている医薬品の価値を最大限に高めているのです」。

加えてギリアムズ氏は、Healxの技術はデータ駆動型であり「仮説に依存しない」ため、従来型の標的を定めた創薬とは大きく異なるとも話している。「私たちは医薬品の組み合わせを予測し、大変な短期間で臨床に持ち込むことができます。そして私たちは、戦略的パートナーであり疾患の専門家でもある患者グループと密着して作業を進めます」と彼は言い足した。

Healxの共同創設者で、バイアグラの発明者の一人でもあるDavid Brown(デイビッド・ブラウン)博士が、いくつもの医薬品を発明し市場に送り出した人物であることも付け加えておくべきだろう。彼の医薬品は、400億ドル(約4兆3500億円)以上もの利益をもたらした。「そのやり方を私たちは知っています」とギリアムズ氏。

Healxは、その革新的なモデルの正当性をFRAXA Research Foundation(フラクサ研究財団)で立証したと主張している。脆弱X症候群は自閉症の大きな原因のひとつとされる遺伝子異常だが、その治療法で認証されたものはまだひとつもないとのことだ。その状況を、HealxとFRAXAが変えられるかも知れない。まもなく、複数の治療法を組み合わせた臨床試験が開始される。その他の希少疾患の治療法の臨床試験も、2020年後半にはスタートする。

Atomicoのアイリーナ・ハイバス氏

私は、AtomicoのプリンシパルであるIrina Haivas(アイリーナ・ハイバス)氏にも話を聞いた。投資の決め手となったHealxの魅力と、こうした企業を支援する際のリスクについて、Atomicoを代表して話してもらった。創薬とはわらの山から針を探し出すようなものであり、さらにその発見を製品化にまで持っていかなければならない。言い換えれば、未知の要素が非常に多く、市場に送り出すまでに大変な時間がかかるということだ。

「Atomicoを支援すると決めた理由のひとつは、まさに、うまくいけばHealxは希少疾患に苦しむ4億の人たちの人生を劇的に改善できると信じ、その大胆で長期間におよぶ賭けに物怖じしないところでした」と彼女は話してくれた。

「もちろん、そのような野心的な賭けには、ある程度のリスクが伴います。しかし同社の場合、その“途方もない探し物”問題を、これまでのように人が行うよりも、AIでうまく解決できることを示す兆候が、初期のあらゆるサインの中に見られたのです。もちろん、最終的にそれが証明されるのは、治療法が製品化されたときですが」

そうは言いつつ、彼女はHealxのようなスタートアップは、企業の新しいカテゴリーを創出するとも警告している。なぜなら、それは従来型の技術でも、従来型のバイオ製薬でもないからだ。

「投資家の観点からすると、別の枠組みが必要になるでしょう。それに慣れるまでに時間がかかる投資家もいるかもしれません」と元外科医の投資家である彼女は言っていた。

著者:Steve O’Hear

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(翻訳:金井哲夫)

AIで創薬プロセスを改善するAtomwiseが、シリーズAで4500万ドルを調達

深層学習を用いて新薬の発見プロセスを短縮するAtomwiseがシリーズAで4500万ドルを調達した。このラウンドは、Monsanto Growth Ventures、Data Collective(DCVC)、ならびにB Capital Groupによって主導された。Atomwiseに対して初めて投資を行うBaidu Ventures、Tencent、Dolby Family Venturesも参加し、かつて投資していたY Combinator、Khosla Ventures、そしてDFJも再び参加した。

このことにより、2012年に創業したAtomwiseが、これまでに調達した資金は5100万ドル以上となった。同社は、研究者たちが医療用化合物を発見するために費やす金額と時間を削減することを目的としており、今では50以上の分子発見プログラムを持っていると語る。Atomwiseの技術は、より安全でより効果的な農薬を開発するためにも使用されている。

プレス発表で、Monsanto Growth VenturesのパートナーであるKiersten Stead博士は次のように述べている「私たちは目の前にAtomwiseによって示された、素晴らしい結果に基いて投資を決定しました。Atomwiseは、農薬研究開発の重要な分野である作物保護対象に対して、有望な化合物を見つけることができたのです」。

Atomwiseのソフトウェアは、分子シミュレーションを解析し、研究者たちが化合物の合成と試験に費やす時間を短縮する。同社によれば、現在、毎日1000万種類以上の化合物をスクリーニングしていると言う。AtomwiseのAtomNetシステムは、深層学習アルゴリズムを用いて分子を分析し、それらが人間の体内でどのように振る舞うかを予測する。従来の創薬プロセスよりも早い段階で、薬剤としての潜在的効果、毒性と副作用などが予測されるのだ。

AtomwiseのCEOであるAbraham Heifetsは、電子メールでTechCrunchに、同社のビジョンは「世界で最も生産的で多様なライフサイエンス研究グループの一つになり、かつてないほどの規模で活動することです。これは大規模なシリーズAであり、私たちはこの資金を利用して、技術的およびビジネス的に組織を成長させます。最終的には、1日に何億種類もの化合物をシミュレートすることになるでしょう。究極の目標は、新しい治療を緊急に必要としている多くの疾病に対して、より多くの成果を出していくことです」と語った。

Heifetsは「リード最適化(Lead optimization:創薬の最初の段階で薬剤候補の構造を実際に検討すること)は、歴史的にみても創薬パイプラインの中で最もコストのかかるステップでした」と付け加えた。そしてこれらのプロセスの失敗率が如何に高いかということも語った「3分の2のプロジェクトは病院での試験にたどり着くことなく失敗しますし、そこまで行くにも5年半程度の時間がかかるのです」。

Atomwiseが6年前に立ち上げられたとき、その技術はまるでSFか何かのように思えた。しかし、いまや人工知能と機械学習を用いて分子を分析し、創薬プロセスのボトルネックを解決しようとする会社は何社も登場している。他にもRecursion Pharmaceuticals、BenevolentAI、TwoXAR、Cyclica、そしてReverie Labsなどの名を挙げることができる。

Heifetsは、Atomwiseの持つ主なメリットの1つに、作業しているプロジェクトの多さを挙げた。このことによりAIシステムが改善されているという。同社の顧客には、米国の大手製薬会社トップテンのうちの4社(Merck、Monsantoなど)、そして40以上の主要研究大学(ハーバード、デューク、スタンフォード、ベイラー医科大学など)、そしてその他のバイオテック企業などが含まれている。

彼はまた、Atomwiseはその焦点も差別化していると付け加えた。

「創薬には、生物学と化学という2つの異なる問題があります」と彼は言う。「生物学に取り組んでいるなら、あなたはどの疾患タンパク質を標的とするのが最良かを決定しようします。創薬に携わる多くのAI企業がこの標的同定(target identification)の問題に取り組んでいます。標的を選択したら、次は化学の問題に取り掛かることになります。どうすれば、選択した疾患タンパク質に作用する、毒性のない分子を届けることができるのか。Atomwiseはこれらの化学的問題に焦点を当てています。特にAtomwiseは、構造ベースの薬物設計に深層ニューラルネットを使用する方法を発明したのです」。

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(翻訳:sako)

画像クレジット:Atomwise