欧州の半導体法案、スタートアップやスケールアップ企業を対象に最大約2640億円の資金援助へ

欧州連合(EU)の欧州委員会は現地時間2月8日、半導体法案を公表した。2021年秋に予告されていたたこの計画は、半導体生産における地域主権とサプライチェーンの回復力を強化するためのもので、研究開発などの分野を含むEU域内の半導体生産に的を絞った支援パッケージや、この分野の最先端技術に取り組むスタートアップや大企業への資金提供が盛り込まれている。

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法案には、EUの厳しい国家補助規則の緩和も含まれており、加盟国は斬新な「この手のものは初」の半導体工場に財政支援を提供することができるようになる。

法案の包括的目標は、あらゆる種の機械や装置を動かすために現在必要とされているハイテクな半導体に、EUが継続してアクセスできるようにすることだ。

「半導体は、世界の技術競争の中心にあります。もちろん、現代経済の根幹をなすものでもあります」とEU委員長のUrsula von der Leyen(ウルスラ・フォン・デア・ライエン)氏は、法案に関する声明で述べた。EUのパンデミック後の経済回復の遅れは世界的な半導体不足と関連しており、需要が供給を上回っていることが原因だ。

欧州委員会は、世界の半導体生産に占めるEUの割合を、2030年までに現在の9%から2倍以上の20%に引き上げたいと考えている。

欧州委員会は、半導体法が「研究から生産まで」の活発な半導体分野の基礎を築くことを期待していると述べた。一方で、欧州は単独ではやっていけないことも認識しており、同法案は米国や日本など他の半導体生産国との連携を強化することによって、グローバルなサプライチェーンへのアクセスにおける回復力を高めることにも取り組む。それゆえ、フォン・デア・ライエン氏は「バランスの取れた相互依存関係」と語っている(ただし、半導体生産に対する国家支援は、貿易摩擦のリスクをともなうかもしれない)。

資金援助に関しては、EUはすでに、より広範な政策目標(デジタル化、グリーン転換、欧州の研究開発)を支援するために430億ユーロ(約5兆6710億円)超の公的および民間資金を動員しているが、欧州委員会は同法における「Chips for Europe Initiative」のもと、半導体能力支援として110億ユーロ(約1兆4510億円)を「直接提供」する予定だと述べた。これは「2030年まで研究、設計、製造能力における技術リーダーシップ」の資金調達に使われるという。

また、半導体関連のスタートアップのイノベーションのために、欧州のスタートアップの研究開発資金や投資家誘致のための費用を支援する専用の「半導体ファンド」という形で、特別な資金が確保される。

欧州委員会によると、半導体専門の株式投資機関(InvestEUプログラムのもと)も、市場拡大を目指す大企業や中小企業を支援する。

半導体分野のスタートアップや大企業に対する半導体法「支援株式」は20億ユーロ(約2640億円)に達する見込みとのことだ。

投資と生産能力の強化を促すことにより、欧州における半導体供給の安定性を確保するために計画されている枠組みは、高機能ノードやエネルギー効率の高い半導体といった分野での技術革新と投資の促進も目指している。この分野で欧州委員会はスタートアップのイノベーションを促すことも期待している。

半導体法案には、半導体の供給を監視し、需要を推定し、不足を予見するための欧州委員会と加盟国の間の調整メカニズムも含まれている。そして、EUの執行部は加盟国に対し、同法の成立を待つのではなく、調整のための取り組みを直ちに開始するよう促している。

EUの共同立法機関である欧州議会と理事会が、EU法として採択される前に詳細について意見を述べて合意する必要があるため、法案が採択される時期についてはまだ示されていない。

欧州委員会のデジタル戦略担当副委員長Margrethe Vestager(マルグレーテ・ベスタガー)氏は声明で次のようにコメントした。「半導体はグリーンかつデジタルな移行に必要なものであり、欧州の産業の競争力にもつながります。半導体の安全な供給を確保するためには、一国や一企業に依存すべきではありません。欧州がグローバル・バリュー・チェーンの主要な役者としてより強くなるために、研究、イノベーション、設計、生産設備において我々はもっと協力しなければなりません。それは、我々の国際的なパートナーにも利益をもたらすでしょう。将来の供給問題を回避するためにパートナーと協業します」。

また、EUの域内市場担当委員であるThierry Breton(ティエリー・ブルトン)氏は別の声明で「我々の目標は高いものです。2030年までに世界市場シェアを現在の2倍の20%に拡大し、最も洗練されエネルギー効率の高い半導体を欧州で生産するというものです。EU半導体法により、我々は卓越した研究を強化し、研究室から製造工場への移行を支援します」。

「我々は多額の公的資金を動員していて、それはすでに相当額の民間投資を引き寄せています。また、サプライチェーン全体を保護し、現在の半導体不足のように、将来的に経済が打撃を受けるのを避けるために、あらゆる手段を講じています。未来のリード市場に投資し、グローバルなサプライチェーンのバランスを整えることで、欧州の産業が競争力を維持し、質の高い雇用を創出し、増大する世界的需要に対応できるようにします」。

どのような種類の半導体工場が国家補助規則の適用除外となるかなど、法案の詳細については、欧州委員会のQ&Aを参照して欲しい。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

農業助成金の申請支援を起点に金融サービスの巨人を目指すFarmRaise

左からFarmRaise共同ファウンダーでCEOのジェイス・ハフナー氏、プロダクト責任者のアルバート・アベディ氏、COOのサミ・テラティン氏(COO)

何かから始めなくてはならない。Jayse Hafner(ジェイス・ハフナー)氏とSami Tellatin(サミ・テラティン)氏がスタンフォード大学のMBAで出会い、米国の農業をもっと効率的にすれば国のためになりすごいビジネスにもなるという信念を共有したとき、2人は助成金から始めようと決めた。

バージニア州の牛牧場で育ったハフナー氏は、助成金の申請が、たとえ家族の牧場の持続可能な作業慣習を改善するためであってさえ、複雑で時間のかかる手続きであることを身を持って知っていた。一方、テラティン氏は、大学で生物工学を学び、USDA(米国農務省)で3年間農業経済を研究した。彼女もまた、助成金がもっと簡単に手に入れば農業従事者はもっと良い選択ができるはずだと感じていた。

FarmRaise(ファーム・レイズ)は、現在社員12名のカリフォルニア州サンディエゴを拠点とする設立2年の会社だ。2人がパロアルト拠点のPear VCのアクセラレーター・プログラムで知り合ったもう1人の共同ファウンダーであるAlbert Abedi(アルバート・アベディ)氏と力を合わせて以来、会社は目覚ましい進展を遂げてきた。

ハフナー氏によると、同社のプラットフォームにはすでに1万カ所の農場が登録している。それは口コミとちょっとした検索エンジンのマジック、そしてなによりも、Cargill(カーギル)やCorteva(コーテバ、2018年にDuPont[デュポン]をスピンアウト)などの炭素排出量削減目標をもつ農業の巨人と提携して、低炭素排出農業に関連する助成金申請でFarmRaiseの支援を受けるよう農業従事者に薦めてきたおかげだ。

FarmRaiseのプラットフォームでは、農場の詳細な実態を尋ね、FarmRaiseが彼らに代わってさまざまな助成金プログラムに手早く申請できるようにデータを構成する。そこに投資家が加わったことで、さらに勢いが増している。同社はつい最近、720万ドル(約8億2000円)のシードラウンドをSusa Venturesのリードで完了した。

しかし、多くのスタートアップと同じく、非常に広範囲に渡る金融サービス企業を目指しているFarmRaiseにとって、助成金(国も民間も)は出発点に過ぎない、とハフナー氏はいう。農場が十分なデータを渡せば、FarmRaiseは融資、器具の割引購入、さらには節税対策の支援も行うことができる、と同氏は話した。

これらのサービスの多くは第三者を経由して提供され、FarmRaiseは仲介手数料を受け取る仕組みだと彼女はいう。FarmRaiseは車輪の再発明をするつもりはない。しかし、農場が頼りにできる「フルスタック(複数業務に精通した)」のリソースが存在しない理由などない、と彼女は付け加えた。また、多様なサービスを提供することによって、助成金の申請結果を待つ間(6~12カ月かかるものもある)も利用者を満足させることができる。

自分たちにとって助成金は「くさび」だとハフナー氏はいう。「物語の終わりではありません」。

現在FarmRaiseは、人員を追加し、対象となる助成金を増やして、月額料金と獲得した助成金の10%を請求している現行サービスに顧客が確実に満足することに注力している。

正しく手続きを進めることが重要だ。助成金は大きなチャンスだとハフナー氏は言い、理由の1つとして農務省の助成金が「爆発的に増えている」ことを挙げた。

彼女は、新型コロナウイルスの蔓延によるサプライチェーン崩壊に苦しむ農家を支援するために「数百億ドル(数兆円)」規模の資金を配布したトランプ政権の政策を示した。

バイデン政権もFarmRaiseを勇気づけていると感じるとハフナー氏は付け加えた。「重点的な保護基金拡大が見られ、今後倍増する可能性が高いと見ています」。「持続可能な農業は、農家の利益性を高めるだけでなく、炭素排出量を抑制して気候変動対策に寄与します。そこには本当に限りなくたくさんの恩恵があるのです」。

同社のシードラウンドには、他にCendana Capital、Ulu Ventures、Pear、Better Tomorrow Ventures、Incite Ventures、およびFinancial Ventures Studioが参加した。

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nob Takahashi / facebook

留学生の奨学金・助成金プラットフォーム「StudyFree」が約3.4億円調達

StudyFreeの創業者ダーシャ・クロシキナ氏(画像クレジット:StudyFree)

コミュニティ主導のB2C SaaSモデルで、学生と国際的な教育機会を結びつけるStudyFreeは、I2BF Global Ventures、TMT Investments、Techstarsが主導して300万ドル(約3億4000万円)のシード投資ラウンドを行った。また、PandaDocのCEOであるMikita Mikado(ミキタ・ミカド)氏とGoogleの元製品担当ディレクターAndrey Doronichev(アンドレイ・ドロニチェフ)氏が参加している。StudyFreeは現在、合計360万ドル(約4億1000万円)の資金を獲得しています。新たな資金は、コミュニティの新規メンバー獲得、新市場への進出、マーケティング、プラットフォーム開発などに充てられる予定になっている。

2018年11月に創業したStudyFreeは、学生生徒や他校の卒業生の大学や大学院への入学を支援し、奨学金や助成金をリストアップする。同社によると、プラットフォームを利用している国際的な学生生徒は計1030万ドル(約11億7000万円)相当の奨学金や助成金をもらい、米国やカナダ、ヨーロッパ、アジアなどの大学で勉強している。また、奨学金付きの様々な学位のプログラムを30万件以上提供し、9万人の学生が利用している。

StudyFreeのCEOで創業者のDasha Kroshkina(ダーシャ・クロシキナ)氏は「私も小さな町に生まれて国際的に勉強したため、このような機会提供が何よりも重要なことを誰よりもよく知っています。推計では、海外の国際的な教育市場は毎年150万の学生を受け入れています」と述べている。

StudyFreeの主な競争相手は、ユニコーンになったApplyBoardと従来からあるコンサルティングエージェンシーだが、StudyFreeが傑出しているのは学生たちの独立のコミュニティがメンターとして力を貸して入学を助け、外国での勉強の経験を提供していることだ。これらの卒業生たちは、自分が助けられたことのお返しをしたいという気持ちで、新しい学生たちのためのコミュニティイベントやネットワークをホストしている。同社のサービスの収益源は、サブスクリプションだ。

PandaDocのCEOであるミキタ・ミカド氏は、次のように語る。「StudyFreeは国際的な大学入学サービスの先頭に立ち、今やその世界の指導的なエキスパートになっています。過去3年の成功率は98%にも達しています。アドバイスのプロセスを入学志願の全過程を通じてデジタル化したことだけでなく、人的資本とコミュニティをプロダクトの基盤にしたことで、国際的な進学に関するコンサルティングやアドバイスに関する市場を、同社は変えてしまいました」。

クロシキナ氏は、Seedstarsが7年間やってきたグローバルなスタートアップコンペで、初めての女性の優勝者でもあり、またニューヨークのアクセラレータTechstarsやバークリーのSkyYDeckでも選ばれ、Techstarsからは2回投資されている。これまでの投資家には、Acrobator VCやBas Godskaのファンド、東西ヨーロッパに投資しているJoachim Laqueur(ヨアヒム・ラクール)氏、そしてChris Adelsbach(クリス・アデルスバッハ)氏らがいる。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hiroshi Iwatani)

NASAが航空機用電動推進技術の開発で民間2社に助成金2812億円

NASA(米航空宇宙局)は米国企業2社を選び、航空機の電動推進技術の開発を推進する。この技術を2035年までに米国航空戦隊に導入することが目標だ。

選ばれたGE Aviation(ジーイー・アビエーション)とMagnix(マグニクス)の2社は、今後5年間にわたって任務を遂行する。その中には地上および飛行試験デモンストレーション、NASAで電動推進系に焦点を合わせる他のプロジェクトとの協業、データ分析、およびフライトテスト設備などが含まれている。

同局のElectric Powertrain Flight Demonstration(EPFD、電動パワートレイン・フライト・デモンストレーション)プログラムの一環として与えられる金額は合計2億5340万ドル(約282億円)。うち1億7900万ドル(約199億円)がGE Aviationに、7430万ドル(約83億円)がMagniXに渡される。

「GE AviationとMagniXは、統合されたメガワット級のパワートレインシステムのデモンストレーションを地上と飛行両方で実施して、彼らのコンセプト、および将来の電動推進航空機の編成にむけたプロジェクトの利点を検証します」とNASAのEPFDプロジェクトマネージャーであるGaudy Bezos-O’Connor(ガウディ・ベゾス=オコナー)氏は声明で説明した。「このデモンストレーションによって、技術的な障壁と統合リストを見極め除去します。また将来のEAP(電気化航空機推進)システムの標準と規制の開発に必要な情報も提供します」。

EPFDプロジェクトはNASAの上位プログラムで、次世代テクノロジーを実世界で運用可能な航空システムに変えるための研究開発を推進するIntegrated Aviation System(統合航空システム)の一部だ。

電気航空推進システムをてがけている企業はたくさんあるが、その多くは新たなエアタクシー市場を目指していて、飛行時間は短くバッテリー重量は飛行機全体の小さなサイズによる制約を受ける。Devin Coldewey(デビン・コールドウェイ)記者の説明にあるように、必要な上昇力の生成とバッテリー重量は、電気飛行機を遅らせてきた長年の「基本的難題」だ。

おそらくこうした官民連携によってついにはパズルが解かれるだろう。このNASAプロジェクトは、短距離の地域内航空移動、およびナローボディ、単一通路の飛行機の開発を目指している。

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画像クレジット:NASA

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】宇宙探査には助成金の支給と規制が必要だ

1989年、Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏は今日のインターネットが普及を促進したWorld Wide Webを発明した。しかし彼は、多くの人々がこの技術によるメリットを享受することを望んだために、この技術を保護することをよしとしなかった。30年後、インターネットのほとんどの力と多大な利益は、少数のテックビリオネアに独占され、インターネットが生まれた当初約束されていたことのほとんどは実現されていない。

宇宙に関して同じ轍を踏まないためにも、私たちは競争を生み出し、コストの削減を実現するために新規参入者に助成金を支給すべきである。また、宇宙への旅を安全なものにするための規制も必要である。

宇宙は重要である。宇宙は数え切れないほどの仕事と燃料経済を生み出し、また気候変動に対する解決策をもたらす可能性さえある。投資家たちはすでにこの可能性に目を付けている。宇宙産業は、2030年までに 1.4兆ドル(約154兆円)の市場価値を生み出す可能性があるとされているが、彼らはこの宇宙業界の企業に何億ドルもの資金を注ぎ込んでいるのだ。

宇宙は広大で、とても少数のテックビリオネアに独占されるとは思えない。しかし、1989年にはインターネットもそのように考えられていたのだ。私たちはこれをしっかり理解する必要がある。宇宙産業は機械工から宇宙航空エンジニア、マーケティング、情報、物流の労働者まで、世界規模で雇用を生み出し、経済成長を促進する可能性があるためだ。

そのためには競争が必要である。しかし現在は、少数の企業が、世界のためというよりは、その企業の創設者の利益のために事業活動しているという状況だ。

私たちはインターネットで犯した過ちを繰り返してはならないし、介入が必要なほどテクノロジーが乱用されるようになるのを座して待っていてはならない。例えば、ケンブリッジアナリティカのスキャンダルでは、民間のテクノロジー企業が、社会に害を与えること(これは規制当局が保護すべき分野である)をいとわずに自らの利益(これは彼らの株主に対する義務である)のために、非常に危険なソーシャルメディア操作を行った。

宇宙では利害はさらに大きくなるだろう。またそれらは少数の国というのではなく、人類全体に影響を及ぼす。環境に関わる危険があるし(私たちが徹底的な調査を行っているのは「地球」での飛行による二酸化炭素の負荷であって、宇宙飛行ではない)、また宇宙での事故は人命が奪われると同時に、危険な破片が地上に降ってくることにもつながる。

これらの危険は予期できないものではない。Virgin Galacticが初めて死者を出したのは2014年のことだった。Space X の発射は約300人の乗客を乗せた飛行機が 大西洋を横断するのに相当する 二酸化炭素を排出しる。また、2021年始め、中国のロケットからのスペースデブリが無制御の状態でモルジブに 落下したこともあった。

私たちは、こうした事故が、より大規模な形で再び引き起こされる前に行動を開始しなければならない。

宇宙旅行は、1%のごく限られた人々にインスタ映えする瞬間を与えたり、サービスを提供するビリオネアの富を増やす以上のものであることが可能であるし、またそうでなければなるまい。

宇宙産業は、最良のものを最大限の人々に届けられるよう運営されるべきである。これは助成金の支給から始まる。

つまり、私たちは宇宙旅行を他の交通手段と同じように取り扱うべきなのだ。宇宙旅行を経済的に持続可能なものにするには、政府によるある種の介入がほぼ絶対的に必要である。

こうした状況は以前にもあった。飛行機による旅行や高速道路の発達、人件費の上昇で米国の2大鉄道会社が破産に至った時、ニクソン政権が介入しアムトラックを発足させたのだ。

これは、思想的な側面から推進されたものではなく(それとは正反対である)、米国が州間移動による経済的恩恵を得るための決定だった。創設から50年たってもアムトラックは採算が取れていない状態が続くが、それでも他の多くの産業や何百万もの個人や家族が依存する重要な経済的インフラの一部である。

これと同様のやり方を宇宙旅行にも適用する必要がある。Virgin Galacticのチケットは25万ドル(約2750万円)と予測されており、このような超豪華な旅行市場から恩恵を得る個人はほとんどいないだろう(これはごく初歩的な宇宙旅行商品の値段で、Virginの競合他社はこの額の数倍の値段を付けている)。

今宇宙産業に助成金を支給したなら、宇宙産業における競争を促進しながら、宇宙産業の広範な利益をすべて実現することのできるクリティカルマスに到達することができるだろう。

今のうちにこの問題に取り組めば、寡占企業が出現してからなんとかしようと戦うより(これは今米国連邦取引委員会が何十年も遅れてビックテックに行おうとしていることである)ずっと楽に物事が進むだろう

宇宙旅行はビリオネアだけの興奮剤やおもちゃではない。これは物理的にも経済的にも私たちにとって最後のフロンティアなのだ。

これを成功させたいなら、地球上での成功や失敗から学び、それらを宇宙に適用しなければならない。

それは、助成金、支援、規制と安全を意味する。これらは地球上でも重要だが、宇宙では絶対に不可欠なものなのである。

編集部注:執筆者のJoshua Jahani(ジョシュア・ジャハニ)氏は、コーネル大学およびニューヨーク大学の講師。中東・アフリカを専門とする投資銀行ahani and Associatesのボードアドバイザー。

画像クレジット:Vertigo3d / Getty Images

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(文:Joshua Jahani、翻訳:Dragonfly)

ウェブのオープンソースインフラストラクチャの公平化に1.4億円の助成金

オープンソースのソフトウェアは、事実上すべてのオンラインの中核をなしていると言えるだろう。しかし、その大部分は何らかの方法で注意深く維持されている一方で、基礎的な要素が必要とするような精査を受けていないものもある。こうした状況を背景に、米国時間3月3日、130万ドル(約1億4130万円)相当の助成金が発表され、オープンソースのソフトウェアと開発がより公正に、持続可能的に、そして責任を持って行われるようにすることを目指す13のプロジェクトに配分された。

これらの研究プロジェクトでは、オープンソースのデジタルインフラストラクチャーがどのように利用され、維持されているか、あるいはどういった影響を受けているかについて、いくつかの問題を調査する。例えば多くの自治体では、政府のソフトウェアソリューションのニーズの高まりを受けてこの種のインフラに依存しその構築を進めているが、そのプロセスはどうなっているか。どういうアプローチやフレームワークが成功するのか、そしてその根拠は何か、といったことである。

また、大規模なオープンソースプロジェクトに貢献している民間企業が互いに協議することは往々にして少ないものだが、どのように意思疎通して優先順位や依存関係を共有するのか。その状況を改善できる方法はないか、また費用や給付金の面で対処し得ることはあるだろうか。

こうした諸問題は、単一の機関や地方自治体が自発的に取り組むようなものではなく、もちろんその研究にかかる費用はささいなものではない。しかし、専門家チームは2020年、約250のアプリケーションを分類した結果、十分に興味深い(そして新しいアプローチや製品を生み出す可能性が高い)と判断した。

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この助成事業は、Ford Foundation(フォード財団)、Alfred P.Sloan Foundation(アルフレッド・P・スローン財団)、Open Society Foundations(オープン・ソサエティ財団)、Omidyar Network(オミダイア・ネットワーク)、Mozilla Open Source Support Program(モジラ・オープンソース・サポートプログラム)がOpen Collective Foundationと協力して資金を提供し、組織している。

「フリーでオープンソースのインフラストラクチャーのニーズと潜在的なアプリケーションを調査するための資金が不足しています。オープンソースの背景にある公益の問題は見逃されている部分です」とフォード財団で補助金プログラムを率いているMichael Brennan(マイケル・ブレナン)氏はいう。

「財団の理事長であるDarren Walker(ダレン・ウォーカー)氏はかつて『公正な社会は公正なインターネットに依存している』と語っていました。私たちの課題はどうすればそのようなインターネットを構築できるのか、誰もが平等に利用できる公正なインターネットを創造し維持できるのか、ということです。私たちは実際には答えよりも多くの懸案を抱えていますが、そうした懸案事項に対する研究に資金を提供している人はほとんどいません」

適切な懸案事項を見つけることでさえ課題であり、基礎研究においてはこれが期待されている。フィールドでの初期の作業は、実際の行動指針を示唆するべく作業の範囲と一般的な方向性を確立することを目的としており、もどかしいほど汎用的であるか、決定的でないように思われることがある。

「最終的なポートフォリオは、 『客観的に最良』なだけのものではなく、いかにして多様なアプローチやアイデアを模索し、プロジェクトのさまざまな側面に取り組むか、そしてプロジェクトの多岐にわたるグローバルな性質を象徴するかということに帰結しました」とブレナン氏は語った。「2021年は研究と実装の両方の提案を採用しました。この研究が、公平で持続可能なインフラストラクチャの構築につながることを期待しています」

研究概要の全文はこちらから。概略と提案者の名前は以下のとおり。

  • How are COVID data infrastructures created and transformed by builders and maintainers from the open source community?(オープンソースコミュニティのビルダーやメンテナーは、COVIDデータインフラストラクチャをどのように作成し、変革しているか? )– Megan Finn(メーガン・フィン)氏(ワシントン大学、テキサス大学、ノースイースタン大学)
  • How is digital infrastructure a critical response to fight climate change?(気候変動対策において、デジタルインフラストラクチャはどのように重要な役割を果たしているか?) – Narrira Lemos de Souza(ナリラ・レモス・デ・スーザ)氏
  • How do perceptions of unfairness when contributing to an open source project affect the sustainability of critical open source digital infrastructure projects?(オープンソースプロジェクトに貢献する際の不公正の認識は、重要なオープンソースデジタルインフラストラクチャプロジェクトの持続可能性にどのような影響を与えるか?) – Atul Pokharel(アトゥル・ポカレル)氏(ニューヨーク大学)
  • Supporting projects to implement research-informed best practices at the time of need on governance, sustainability, and inclusion.(ガバナンス、持続可能性、包括性に関するニーズが発生した際に研究に基づいたベストプラクティスを実施するプロジェクトの支援。)– Danielle Robinson(ダニエル・ロビンソン)氏(Code for Science & Society)
  • Assessing Partnerships for Municipal Digital Infrastructure.(自治体のデジタルインフラストラクチャのためのパートナーシップの評価。) – Anthony Townsend(アンソニー・タウンゼント)氏(コーネル・テック)
  • Implement recommendations for funders of open source infrastructure with guides, programming, and models.(ガイド、プログラミング、およびモデルを使用した、オープンソースインフラストラクチャの出資者に対する推奨事項の実装。) – Eileen Wagner(アイリーン・ワグナー)氏、Molly Wilson(モリー・ウィルソン)氏、Julia Kloiber(ジュリア・クロイバー)氏、Elisa Lindinger(エリサ・リンディンガー)氏、Georgia Bullen(ジョージア・ブレン)氏(Simply Secure & Superrr)
  • How we can build a “Creative Commons” for API terms of Service, as a contract to automatically read, control and enforce APIs Terms of service between infrastructure and applications?(インフラストラクチャとアプリケーション間のAPI利用規約を自動的に読み込み、制御、施行するための契約として、API利用規約のための「クリエイティブ・コモンズ」をどのように構築するか?) – Mehdi Medjaoui(メフディ・メジャウイ)氏(APIdays、LesMainteneurs、Inno3)
  • Indian case study of governance, implementation, and private sector role of open source infrastructure projects.(オープンソースインフラストラクチャプロジェクトのガバナンス、実装、および民間セクターの役割に関するインドの事例研究。) – Digital Asia Hub
  • Will cross-company visibility into shared free and open source dependencies lead to cross-company collaboration and efforts to sustain shared dependencies?(共有のフリーおよびオープンソースの依存関係を企業間で可視化することは、共有された依存関係を維持するための企業間のコラボレーションと努力につながるだろうか?) – Duane O’Brien(ドウェイン・オブライエン)氏
  • How do open source tools contribute towards creating a multilingual internet?(オープンソースツールは多言語インターネットの構築にどのように貢献するか?) – Anushah Hossain(アヌーシャ・ホセイン )氏(UCバークレー)
  • How digital infrastructure projects could embrace cooperatives as a sustainable model for working.(デジタルインフラストラクチャプロジェクトは協同組合を持続可能な労働モデルとしてどのように取り込むことができるか。) – Jorge Benet(ジョージ・ベネット)氏(Cooperativa Tierra Común)
  • How do technical decision-makers assess the security ramifications of open source software components before adopting them in their projects and where can systemic interventions to the FOSS ecosystem be targeted to collectively improve its security?(技術的な意思決定者は、オープンソースソフトウェアコンポーネントをプロジェクトに導入する前に、そのセキュリティの影響をどのように評価し、FOSSエコシステムへの組織的な介入はそのセキュリティを集合的に改善するためのターゲットとなり得るか?) – Divyank Katira(ディヴィヤンク・カティラ)氏(Centre for Internet & Society in Bangalore)
  • How can African participation in the development, maintenance, and application of the global open source digital infrastructure be enhanced?(グローバルなオープンソースデジタルインフラストラクチャの開発、維持、および適用へのアフリカの参加をどのように強化することができるか?) – Alex Comninos(アレックス・コムニノス)氏(ICTアフリカ、RIAとケープタウン大学の研究)

プロジェクトにはまもなく助成金が支給され、2021年の後半(または準備ができ次第)には主催者が成果を発表できるようなイベントを企画する。ブレナン氏は、資金提供者はプロジェクトに関与せず、研究を自ら保有したり発表したりしないことを言明した。理に合致するところで調整し、サポートを提供するということだ。

また、130万ドルというのも興味深い数字だ。場合によってはそれは微々たるものかもしれない。スタートアップは1、2カ月でその金額を使い果たすこともある。しかし学術的な観点から言えば、10万ドル(約1084万円)というのは、仕事をやり遂げるか、断念するかの違いになり得る。フォード財団をはじめとする支援団体の慈善活動や無償援助活動の一環として、基層への小規模な注入がより良い環境を作り出すことを期待したい。

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カテゴリー:その他
タグ:オープンソース助成金

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

NASAが自律型軌道離脱システムや金星でも使えるバッテリーの研究に補助金

NASA(米航空宇宙局)のSBIRプログラム(中小企業技術革新研究プログラム)は定期的に将来有望な中小企業や研究プログラムに補助金を出している。そしてその補助金が交付されたリストを調べるのは常に興味深い。今回のリストから、特に説得力のあるもの、あるいは宇宙業界のミッションと産業にとって新たな方向を示している1ダースほどの企業と提案を紹介しよう。

残念なことに、現在提供できるのは下記のような短い説明だけだ。補助金対象となった企業や提案は往々にしていくつかの方程式やナプキンの裏に描いた図の他に提示するものがないほど初期段階にある。しかしNASAは目にすると将来有望な取り組みがわかる(SBIR補助金の申し込み方法についてはこちらに案内がある)。

自律型軌道離脱システム

Martian Sky TechnologiesはDecluttering of Earth Orbit to Repurpose for Bespoke Innovative Technologies(DEORBIT)で補助金を獲得している。これは低軌道のための自律的クラッター除去システム構築する取り組みだ。ある決まった量をモニターしながら侵入してきたものを除去し、建設や他のクラフトの占有のためにエリアを開けておくためのものだ。

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超音波の積層造形

3Dプリント、溶接、そして「軌道上サービス、組み立て、製造(OSAM)の新興分野にとって重要なものについて、さまざまなかたちの提案が数多くある。筆者が興味深いと思ったものの1つは、超音波を使っていた。筆者にはそれが奇妙に思えた。というのも明らかに宇宙では超音波が作用するための大気がないからだ(彼らもそれを考えたと想像する)。しかしこの種の反直感的なアプローチは真に新たなアプローチにつながり得る。

ロボットが互いを見守る

OSAMにはおそらく複数のロボットプラットフォームの調整が含まれ、それは地上においても十分難しいものだ。TRAClabsは有用な他のロボットの視点を提供できるところでなくても自律的にロボットを動かすことで「知覚フィードバックを高め、オペレーターの認知負荷を減らす」ための方法に取り組んでいる。シンプルなアイデアで、人間が行う傾向にある方法に適する。もしあなたが実際のタスクを行う人でなければ、あなたは邪魔にならないよう何が起きているかを目にするのに最適の場所に自動的に移動する。

3Dプリントされたホール効果スラスター

ホール効果スラスターは、特定のタイプの宇宙での操作でかなり有用となり得る電気推進の高効率なフォームだ。しかしそれらは特にパワフルではなく、既存の製造テクニックで大きなものを作るのは難しいようだ。Elementum 3Dは新たな積層造形テクニックと、好きなだけ大きなものを作ることを可能にするコバルト鉄の原料を開発することでそれを達成しようとしている。

金星でも使えるバッテリー

金星は魅力的なところだ。しかしその表面は地球で作られた機械にとっては極めて敵対的だ。鍛えられたPerseveranceのような火星ローバーですら数分でダメになり、華氏800度(摂氏426度)では数秒しかもたない。ダメになる数多くの理由のうち1つは機械で使われるバッテリーがオーバーヒートを起こし、おそらく爆発するということだ。TalosTechとデラウェア大学は大気中二酸化炭素を反応材として使うことで高温でも作動する珍しいタイプのバッテリーを手がけている。

ニューロモーフィック低SWaP無線

あなたが宇宙に行くときは重量と体積が重要で、宇宙に行ってからは電力が重要となる。だからこそ、既存のシステムをコンパクトで軽量、電力(低SWaP)代替のものに切り替える動きが常にある。Intellisenseは着信信号を並べ替えて管理するという部分を簡素化・縮小するためにニューロモーフィック(たとえば空想科学的な方法ではなく頭脳のような)コンピューティングを使って無線に取り組んでいる。1グラムでも軽くすることは宇宙船の設計者がどこでも取り組めることであり、パフォーマンスの向上を図れるところでもある。

LiDARで宇宙を安全なものに

AstroboticはNASAの今後数年の惑星間ミッションにおいて頻繁に目にする社名となりつつある。同社の研究部門は、宇宙船とローバーのような車両をLiDARを使ってより賢く安全なものにすべく取り組んでいる。同社の提案の1つが、評価と修理の目的でスパースシーン(例えば広大な宇宙に対して1つの衛星を他の衛星からスキャンするなど)の1つの小さな物体の画像にピンポイントでフォーカスするLiDARシステムだ。もう1つの提案には、惑星の表面上の障害物を特定するのにLiDARと従来の画像手法の両方に適用する深層学習テクニックが含まれる。これに従事しているチームは現在、2023年の月面着陸を目指しているVIPERウォーターハンティングローバーにも取り組んでいる。

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宇宙ファームのモニタリング

Bloomfieldは農業の自動モニタリングを行っているが、軌道上あるいは火星の表面での植物栽培は地上で行うものとやや異なる。同社は、微小重力といった特殊な状況で植物がどのように成長するのかを観察してきた小さな実験ファームのようなControlled Environment Agriculture(環境抑制農業)の拡大を願っている。植物の状態を絶えずモニターするのにマルチスペクトル画像と深層学習分析を使う計画で、宇宙飛行士は毎日ノートに「葉25が大きくなった」などと記録する必要はない。

レゴリスブロック

アルテミス計画(NASAの有人月探査)は月に「滞在する」ために行くというものだが、どうやって滞在するかはまだはっきりとわかっていない。研究者らは必要なものすべてを月に持ち込むことなしにロケットに燃料を補給して打ち上げる方法、そして月面ロケット打ち上げパッドを文字通りブロック1つ1つで建設するExploration Architectureを研究している。この研究は月の粉塵あるいはレゴリス(堆積物)を溶かし、必要なところに置けるよう焼いてブロックにする統合システムを提案している。これを実行するか、地球のブロックを持ち込むかになるが、後者の方はいい選択肢ではない。

その他いくつかの企業や研究機関もレゴリス関連の建設とハンドリングを提案した。これはいくつかあるテーマの1つで、テーマの一部は追求するにはあまりにも小さいものだ。

他にはエウロパ(木製の第2衛星)のような氷の世界を探検するためのテクノロジーというテーマもあった。金星のほぼ逆の氷の惑星は多くの点で「通常の」ローバーにとって致命的で、パワー、センシング、横断のためのアプローチで必要とされる条件が異なる。

NASAは新たなトレンドにオープンで、衛星や宇宙船においてもそうだ。こうした新たな技術の一群の管理は多くの作業を伴い、もしそうした新技術が1つの分散型マシンとして機能するとしたら(これは一般的な考えだ)、しっかりとしたコンピューティングアーキテクチャの支えが必要となる。多くの企業がこれを達成しようと取り組んでいる。

NASAの最新SBIR補助金リストの残り、そしてテクノロジートランスファープログラムのセレクションもこちらの専用サイトで閲覧できる。もし政府の補助金獲得に興味があるのなら、こちらの記事も読んで欲しい。

カテゴリー:宇宙
タグ:NASA補助金金星火星アルテミス計画バッテリーLiDAR

画像クレジット:Space Perspective

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

BadVRは政府の助成金によりベンチャーキャピタルから独立したビジネスを構築

ロサンゼルスに本拠を置き、VRやARなどのXR(エクステンデッドリアリティ)データの可視化に取り組むBadVRは、同社の初期の恩人の1社であるMagic Leapが1000人の雇用を削減しようとし、生き残りを賭けて戦っている(未訳記事)と最初に聞いたとき、動揺はしていなかった。

プラットフォーム上の法人アプリケーションの1つとしてBadVRとMagic Leapの結びつきは広く知られていた。だがBadVRは他の企業に比べ、消費者向けアプリとして様々な企業の中心にいたMagic Leapから離れた位置にいた。

最初のステップは、米政府の給与保護プログラムから資金を調達(未訳記事)し、多額の資本により従業員数を維持することだった。同社は最終的に、米国立科学財団(NSF)から100万ドル(約1億300万円)の助成金のかたちで何とか追加の資金を確保した。

これは同社がNSFから得た2番目の助成金であり、同社が政府からの資金に頼り、ベンチャーキャピタルからの資金調達にあるいくつかの落とし穴を回避する方法の一例だ。

確かにMagic Leapが崩壊の瀬戸際にまで行き着いたとしても、BadVRへの悪影響は限られていたと思われる。BadVRはXRデバイスの法人向けアプリケーションを開発している。

Magic Leapのストーリーが示すのは、企業が何かの実現のためにベンチャーキャピタルを利用する必要はないということだ。実際、設備のコストが下がり、エンジニアリング人材がまだ豊富に存在する国へのアクセスがリモートワークによって自由になるにつれ、倹約志向のスタートアップは政府の資金や企業のイノベーション助成金から必要な資金を得ることができるようになった。

BadVRが調達した350万ドル(約3億6000万円)のほとんどはそうした方法によって獲得した。少なくとも125万ドル(約1億3000万円)は、中小企業技術革新制度の資金支援プログラムを通じて国立科学財団との2つの協力協定のかたちで政府から得たものだ。

Magic Leap Oneのヘッドセット用に開発されたBadVRの気候変動アプリケーションのヘッドセットからのイメージ(画像クレジット:BadVR)

BadVRは、仮想現実(VR)および拡張現実(AR)ツールを使用して、さまざまな政府および商用アプリケーションの地理空間データを可視化する。同社の技術は、5Gネットワ​​ークの計画と展開の加速のために大手通信会社によってすでに利用されている。また公安部門では、同社の技術をファーストレスポンダー(第一対応者)の状況認識改善とトレーニング、人員配置、運用のコスト削減のために使用している。

「社会はデータの力とそれが私たちの日常生活に与える影響に気づき始めました。テクノロジーに関するスキルのレベルや経歴に関係なく、すべての組織がデータに簡単にアクセスできることが非常に重要です」と、BadVRの創業者で最高経営責任者を務めるSuzanne Borders(スザンヌ・ボーダーズ)氏は声明で述べた。

ボーダーズ氏にとって政府の資金を活用する鍵は、適切な事前の計画に尽きる。「資金の獲得には長い時間がかかります」と同氏はいう。「付与される時点ですでに1年は頑張っているでしょう。私たちが得た助成金は約1年前に取得を計画していたことの証です」。

こうした助成金は通常マイルストーンベースであり、BadVRが目標を達成する限り資金はほぼ保証されている。

「NSFは、漸進的な開発の先を考え、また科学と工学のすべての市場と分野にわたり最も創造的で影響力のあるアイデアに資金を提供することにより、未来の技術を支援できることを誇りに思っています」と、NSFの産業イノベーションおよびパートナーシップ部門の部門ディレクターであるAndrea Belz(アンドレア・ベルツ)氏は語る。「私たちが研究の資金支援を行うことにより、あらゆるディープテクノロジーに携わるスタートアップや中小企業は、基礎科学を非常に大きなニーズがある、意味のあるソリューションに発展させることができます」。

BadVRは政府の他のコンペからも追加で非希薄性のキャッシュを得て、新しい性能を素早く開発する機会を提供された。

BadVRの拡張現実地理空間データ環境の画像。ユーザーは環境に関するオーバーレイにより複数のライブデータセットと履歴データセットを可視化できる(画像クレジット:BadVR)

これがBadVRの拡張現実オペレーションセンター(AROC)の推進力になった。AROCはファーストレスポンダーのデータを可視化する新しいメニューだ。同社は米国立標準技術研究所が提示した課題を通じて、モンタナ州ユーレカの消防署との協力により特定の緊急事態のためのプロトタイプを開発することができた。

このようにしてBadVRが開発した初期のプロダクトは進化していった。このプロダクトで企業は、バーチャルリアリティー上に工場や店舗のデジタルツインを作り、さまざまな条件を調べるウォークスルーを実施できる。

BadVRの可視化作業は必ずしもすべての地理空間であるとは限らない。同社はあらゆる種類のデータを取得し、それをデータが見やすい環境に統合することができる。ボーダーズ氏は、同社のサービスが企業のためのあらゆる種類のコラボレーション環境の作成にまで及ぶと考えている。

「このシステムは見ることが重要性をもつものに光を当てます」とボーダーズ氏はいう。「データの可視化エクスペリエンスを仮想化し、没入型の環境へ導入します。そしてエクスペリエンスの中でもコラボレーションの側面を開発しています」。

新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより全米の企業がバーチャルのオペレーションを余儀なくされたため、ボーダーズ氏はこの種の需要があると述べた。同氏の会社が政府の支援を受けて開発するプロダクトは増え続けている。

「リモートコラボレーションツールの需要が高まったためです」とボーダーズ氏はいう。「私たちは人間への関心を幅広く高めてきましたが、リモートコラボレーション機能を備え人々が1つの没入型データエクスペリエンスにより協力できるツールが離陸しつつあります」。

カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:BadVR助成金

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(翻訳:Mizoguchi