インドよりも魅力的?――政情不安に負けず成長を続けるMENAのスタートアップ市場

テヘランからドバイへのフライトの所要時間は2時間程度で、これはニューヨーク・シカゴ間のフライトと同じくらいだ。さらにカイロからベイルートへの飛行時間も1時間15分ほど。情勢が安定しているときであれば、ベイルートからシリアのダマスクスまでは車で2時間弱で移動できる。実際に中東・北アフリカ地域(Middle East / North Africa:MENA)を移動してみると、各都市がいかにうまく接続されているかすぐにわかる。しかしお分かりの通り、政情はそのときどきだ。

そして都市間の相互接続以外にも、”中東”に関する報道内容とは裏腹に、MENA全体が現在目まぐるしい成長を遂げている。中には国内の対立に苦しんでいる国も存在するが、空飛ぶ車がなくても彼らの経済は発展しているのだ。

最近Amazonが現地のEC企業Souqを買収し、買収金額は8億ドルに達するとも言われていたことからも、MENAで大型エグジットが実現可能だということが分かる。さらに一般的に言って、MENAの外にいる人たちは同地域の経済成長の度合いを過小評価しがちだ。

MENAを、6つの”湾岸アラブ諸国”+エジプト+レバノン+ヨルダンとすると、そこには潤沢な資産を持った消費者、企業、実業家が存在する。Beco Capitalによれば、1億6000万人に及ぶ同地域の人口のうち、8500万人がインターネットにアクセスでき、5000万人が多額の現金をもった成人のデジタル消費者だという。そしてこれらの数字は、MENAが成長するにつれて増加している。

MENAの人口は世界的に見ても若く、スマートフォンやブロードバンドの普及率も高い。この若くて教養があり、インターネットにアクセスできる5000万人の富裕層に対し、総人口が10億人を超えるインドを見てみると、クレジットカードや自家用車を保有している2000~3000万人の年収は1万2000ドル以下だ。

また、MENAの企業のうち8%しかインターネット上に情報を掲載しておらず(アメリカでは80%)、小売売上におけるネット通販の割合はたった1.5%だ。つまり、同地域にはまだかなりの伸びしろがあるのだ。2020年までには、デジタル市場によってMENAのGDPが950億ドル増加すると予測されており、デジタル市場における1人分の雇用が経済全体では2~4人分の雇用の創出につながると言われている。

Souqの以外にも、ドイツのDelivery Heroが現地のTalabatを買収し、MENAへの進出を狙っていたトルコのYemeksepetiを打ち負かしたほか、”MENAのUber”と言われているCareemは、ユーザーあたりの売上額でUberを上回ると言われている。

MAGNiTTが最近行なった調査でも、MENAのテックエコシステムに関する興味深いデータが明らかになった。同社はMENAに現在3000社以上のスタートアップが存在することを発見し、さらに調達額トップ100社のファウンダーについて詳細な調査を行った。

MAGNiTTによると、昨年のスタートアップへの総投資額は8億7000万ドル強だった。トップ100社はこれまでに14億2000万ドルを調達しており、1社あたりの調達額は50万ドルを超える。

さらにトップ100社のファウンダーは、会社を設立する前に平均で9年間どこかの企業に勤めていたことが分かっている。また、約40%は単独のファウンダーによって設立され、39%が2名の共同ファウンダーによって設立された。ダイバーシティ(多様性)の観点では、順調に事業を行っているファウンダーのうち12%が女性だ。なおEUの数字は15%、アメリカは17%だった。国別で見ると、調達額上位の企業の50%がアラブ首長国連邦で登記されている。

ファウンダーの41%がハーバードやINSEAD、LBSをはじめとする大学でMBAを取得しており、35%が経営コンサルや金融業界での経験を持っている。

またMENA発スタートアップのファウンダーの68%が中東出身で、二重国籍の人も多数いる。出身地を見てみると、トップ100社のファウンダーの38%がレバノンかヨルダン出身でありながら、この2国に本社を置いているスタートアップの割合は16%しかない。これらの数値から、ドバイが中東におけるデラウェア州の役割を担い、本社や開発チームは別の国に置かれているということが分かる。

以上の通り、毎晩目にする”中東”と曖昧に括られた地域に関するニュースとは反対に、データからはMENAが素晴らしいスタートアップエコシステムを構築している様子がうかがえる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter