日本原子力研究開発機構、原子力施設の耐震安全性を詳細な3Dモデルで解析する手法を標準化して公開

日本原子力研究開発機構、原子力施設の耐震安全性を詳細な3Dモデルで解析する手法を標準化して公開

日本原子力研究開発機構は、原子力施設を3次元モデル化し、地震の揺れに対する影響を詳細に解析する手法を整備。実測データとの比較によりモデル化方法の妥当性を確認し、耐震解析手法の精度向上を実現した。さらに、この手法を標準的な解析要領にまとめ、外部専門家の確認を経て公開したと3月25日に発表した。

原子力施設の3次元モデルを用いた耐震解析には、国際原子力機関(IAEA)が、柏崎刈羽原子力発電所7号機原子炉建屋を対象に2007年の新潟中越地震の実測データを用いて実施した国際ベンチマーク解析「KARISMAベンチマーク解析」があるが、解析者による結果のばらつきが大きく、観測記録との差が大きいという問題がある。そのため、モデル化方法と解析方法を標準化し、耐震安全性の信頼性向上が求められてきた。

同機構の崔炳賢副主任研究員ら研究グループは、3次元詳細モデルによる耐震解析手法に関係する複数の重要因子を特定し、それぞれの詳細モデル化の方法を明確にした。この手法を用いることで、原子力施設の耐震安全性の評価手法の1つである、地震を原因とする確率論的リスク評価に必要な、建屋の局部応答も表現できる。つまり、重要機器や配管が設置されている建屋の床や壁といった局部の振動が再現され、建屋の揺れが精緻化された。これにより、「局部から始まる建屋のより現実的な損傷評価が可能」となり、建屋、機器、配管などの損傷確率を示す地震フラジリティー評価手法の高度化が期待できるという。この解析結果を実際の観測記録と比較したところ、再現性が向上していることが確認され、このモデル化方法の妥当性が明らかになった。

重要機器の設置位置などの建屋の注目部位(床や壁)のフラジリティ評価のイメージ

研究グループは、こうした3次元詳細モデルを用いた耐震解析の手法、考え方、手順、技術的根拠などを取りまとめ、国内初となる標準的な解析要領を整備した。これを利用することで、解析者ごとの解析結果のばらつきが抑えられる。また、プラント公開情報をもとに、この標準的解析要領の手順に沿ったモデル化と解析を行い、解析事例として整備した。そしてこれを適用事例としてまとめ、外部専門家の確認を経て、標準的解析要領とともに公開した。

AIが核融合を操る力を獲得した。でも大丈夫、これは朗報だ

とある研究グループが、核融合研究に使用される高出力のプラズマ流を磁気的に扱う方法をAIに教えた……おっと、慌てないで欲しい。慌てて手にした電磁パルス砲やドライバーはしまい込んでも大丈夫だ。これは間違いなく良い成果で、来るべきロボカリプスで人類に対して使用される恐ろしい武器ではない。

このプロジェクトは、Google(グーグル)のDeepMind(ディープマインド)とローザンヌ工科大学(EPFL)の共同プロジェクトであり、数年前に前者のAI研究者と後者の融合研究者がロンドンのハッカソンで出会ったときに始まった。そのときEPFLのFederico Felici(フェデリコ・フェリーシ)氏は、彼の研究室がトカマクのプラズマ維持に関して抱えていた問題について説明した。

何気ない日常的な愚痴に過ぎない。しかし、それがDeepMindの琴線に触れて、両者は仕事を始めた。

核融合の研究にはさまざまな方法があるが、いずれも数億度という非常に高い温度で形成されるプラズマを利用している。危険そうに聞こえるし、実際にもそうなのだが、トカマクはそれを制御し、内部で起こっている核融合活動の詳細な観察を可能にする1つの方法なのだ。トカマクは基本的にはトーラス(ドーナツ)のような形をしていて、その中を加熱したプラズマが円を描くように移動するが、その経路は磁場によって慎重に制限されている。

誤解のないように言っておくと、これはクリーンなエネルギーを無限に供給するという噂の核融合炉ではない。エネルギーを生産するわけでもないし、もし突然起動したら近くにいてはいけない。これは、不安定だが将来性のあるこれらのプロセスがどのように制御でき、有用な目的にどのように利用できるのかを、テストし観察するための研究ツールなのだ。

特に、スイスプラズマセンターの「可変構成型」トカマクは、単にリング状にプラズマを閉じ込めるだけでなく、研究者がその形状や経路を制御することができる。1秒間に磁気パラメータを何千回も調整して、リングの幅を広げたり、薄くしたり、高密度にしたり、希薄化させたりと、リングの品質に影響を与えるあらゆる要素を調整できる。

画像クレジット:DeepMind & SPC/EPFL

機械の磁場の詳細な設定は、当然ながら事前に決めておかなければならない。設定方法を間違った場合には、大きな損害を被る可能性があるからだ。この設定は、チームが長年にわたって改良してきたトカマクとプラズマの強力なシミュレーターを使って行われる。しかし、フェリーシ氏はEPFLのニュースリリースでこう説明している。「制御システムの各変数の正しい値を決定するには、今でも長時間の計算が必要です。それこそが、DeepMindとの共同研究プロジェクトの出番となる場所なのです」。

このチームは、まず機械学習システムに、ある設定がどのようなプラズマパターンを生み出すかを予測するように学習させ、次に望ましいプラズマパターンから逆算して、それを生み出す設定を特定した(と簡単そうに書いたが、このようなAIアプリケーションにありがちなこととして、実際の実現は相当大変だった)。

米国時間2月16日発行のNature(ネイチャー)に掲載された論文によれば、このアプローチは大成功を収めたという。

今回のアーキテクチャは、高いレベルで指定された制御目標を満たすと同時に、物理的および運用上の制約を満たしているのだ。このアプローチは、問題の仕様記述に対してこれまでにない柔軟性と汎用性があり、新しいプラズマ設定を生み出すための設計工数を大幅に削減できるという:私たちはこのTokamak à Configuration Variable(構成可変型トカマク)を使うことで、従来の細長い形状に加えて、負三角(negative triangularity)や「スノーフレーク」(snowflake)などの高度な形状を含む、多様なプラズマ形状の生成と制御に成功している。

以下にこのモデルが作り出せたさまざまな形状や構成の例を紹介する。

トカマクの「ドーナツ」をスライスした、内部とビームの断面図(画像クレジット:DeepMind & SPC/EPFL)

これは重要な研究だ、なぜならこのようなプラズマを使って実験するには、電力が必要なのはもちろん、非常に多く(数百万単位だ考えて欲しい)の微調整が必要であり 、すべてを手動で構成することはできないからだ。例えばある理論が2つのストリームを必要とし、一方が他方より22%大きい場合、それを生成するための理論的な設定を「従来の」手法(ご想像の通り、これもすでに非常に複雑なデジタルシミュレーションだ)を利用して案出するには、数週間または数カ月かかることがある。しかし、AIはそれに比べるとほんのわずかな時間で良い組み合わせを見つけ出し、その場で解決策を生み出したり、人間の監査役に有力な作業の出発点を与えたりすることができる。

また、安全面でも重要な意味を持つ。というのも、人間は1~2秒の間に異常を封じ込められるような設定を、即興では行えないからだ。しかし、AIならばリアルタイムに設定を変更して損傷を防ぐことができるかもしれない。

DeepMindの研究者であるMartin Riedmiller(マーティン・リードミラー)氏は、これが「初期の段階」であることを認めているが、もちろんそれは科学におけるほぼすべてのAIアプリケーション全体に言えることだ。機械学習は、数え切れないほどの学問分野で、強力で汎用性のあるツールであることが証明されつつある。しかし、優れた科学者のように、彼らはすべての成功を鵜呑みにせず、その先のより自信を持てる結果を待ち望んでいるのだ。

画像クレジット:DeepMind & SPC/EPFL

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(文:Devin Coldewey、翻訳:sako)

京都フュージョニアリング、核融合炉技術の構築に向けシリーズBで13.3億円を獲得

より多くのスタートアップが核技術に参入する中、資金調達が活発になるのは驚くことではない。このたび、日本を拠点としながら海外での事業展開を強化している核融合エネルギーのスタートアップ、京都フュージョニアリング(Kyoto Fusioneering、KF)が、最新のラウンドで13億3000万円の資金を調達した。これにより、同社の累計調達額は16億7000万円となった。

2020年に京都フュージョニアリングは、英国政府が後援する核融合実験炉「STEP(Spherical Tokamak for Energy Production)」の開発をサポートする複数の契約を獲得している。同プロジェクトは2040年までの運転開始を目指しており、KFの将来にとって重要な鍵となりそうだ。

今回のシリーズBラウンドは、既存投資家であるCoral Capitalの支援に加え、大和企業投資、DBJキャピタル、ジャフコ グループ、JGC MIRAI Innovation Fund、JICベンチャー・グロース・インベストメンツを新たな引受先としている。

また、KFは京都銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行から総額7億円のデット調達も実施した。

この資金は、研究の加速と事業の拡大、プラズマ加熱(ジャイロトロン)と熱抽出(ブランケット)のための核融合プラントエンジニアリングの技術開発に使用される。これらの技術は、核融合炉プロジェクトの開発に必要なものだ。

現在、世界7極が参加しているグループ(欧州連合、日本、米国、ロシア、韓国、インド、英国、中国)が国際的なITERプロジェクトを支援している。これは2020年代後半までに、核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクトだ。

米国や中国などでは、国内で独自のプログラムを進めている。日本政府もまた、核融合分野でさまざまな取り組みを行っている。

Coral Capitalの創業パートナー兼CEOのJames Riney(ジェームス・ライニー)氏はこう述べている。「気候変動は人類にとって存亡に関わる脅威ですが、核融合エネルギーの未来が実現すれば、文字通り世界を救う銀の弾丸になるかもしれません。多くのスタートアップが『世界を変えたい』と語るものですが、この会社は本当に変えつつあるのです」。

核融合は多くのことを約束してくれるが、今のところ大きな成果は得られていない。しかし、もし誰かがそれを実現できれば、世界のエネルギーと環境問題の多くを解決できる可能性がある。なぜなら、事実上無限の燃料資源を意味しており、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーを得られるからだ。

画像クレジット:Kyoto Fusioneering

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

米国防総省が小型宇宙船向け原子力推進システムを模索

米国防総省(DoD)の地球外への野望が少し見えてきた。SpaceNews(スペースニューズ)によると、同省は中小規模の宇宙船を想定した民間による原子力推進システムの募集を開始した。DoDは地球軌道外探査ミッションの遂行を目指しており、既存の電動あるいは太陽光宇宙船はこの役割にも小型の船体にも向いていない、と同省の国防イノベーションユニットは語っている。

原子力推進システムは、理想的な「高デルタV」(約10 m/秒)を実現しながら、乾燥重量2000 kg以下の小型化が可能だ。ペイロードに電力を供給するだけでなく、影になっているときに宇宙船を温かく保ち、地上や他の部品への放射線を最小限に抑えることを期待されている。応募の締め切りは9月23日で、契約は最短で60~90日以内に行われる予定だ。

当局はこの要請が便宜的なものであることを認めている。NASAをはじめとする各機関はすでに原子力宇宙船の開発や支援を行っているが、完成はかなり先だ。DoDはプロトタイプを3~5年以内に欲しがっている。このテクノロジーは、短期プロジェクトのために比較的速く原子力推進を実現する暫定策としての意味をもっている。

今回の募集はどんな宇宙船が進行中なのか何もヒントを与えていないが、小型宇宙船に焦点を絞っていることは、控えめな目標の探査機や人工衛星が関与する可能性を示唆している。この強力な有人宇宙旅行で火星に行くことはないだろう。それでも、DoDが現存の宇宙船エンジンの制限に不満で、より強力な設計への早道を求めていることは明らかだ。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Jon Fingas(ジョン・フィンガス)氏はEngadgetのウィークエンドエディター。

画像クレジット:NASA

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(文:Jon Fingas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

Thorium pellets. Pallava Bagla/Corbis via Getty Images

中国政府の科学者は、世界初をうたう、冷却のための水を必要としない実験用原子炉の計画を発表しました。来月にも原子炉は完成し、9月から最初の実験が開始される予定です。中国はこの実験炉での実験がうまくいくならば、早ければ2030年に最初の商業用原子炉を建設する予定。そしてその後は水が必要ない利点を活かして砂漠や平原地域にこの原子炉を置き、さらには「一帯一路」構想に参加する国にも最大30基を建設する予定だとしました。

中国人民政治協商会議(CPPCC)の常任委員、王守軍氏は、CPPCCのウェブサイトに掲載された報告書で「原子力での『進出』はすでに国家戦略であり、原子力の輸出は輸出貿易の最適化と、国内のハイエンドな製造能力を解放するのに役立つ」と述べています。

この構想の原子炉が大量の水を必要としないのは、燃料にウランではなく液体トリウムを使う溶融塩原子炉だからです。この原子炉ではトリウムを液体のフッ化物塩に溶かし込み、600℃以上の温度で原子炉に送り込みます。原子炉の中で高エネルギーの中性子が衝突することでトリウムがウラン233に変化し、核分裂の連鎖反応を開始します。こうしてトリウムと溶融塩の混合物が加熱され、それを2つめの炉室に贈ることで大きなエネルギーを抽出、発電に利用します。

溶融塩は空気に触れれば冷えて固まります。そのため、万が一漏洩があったとしても、核反応は自然におさまり、トリウムが外界に漏れ出ることもほとんどないとのこと。またトリウムはウランに比べて核兵器への転用が難しく、また安価で入手しやすいという点もメリットとされます。

この溶融塩原子炉の試作機を開発した上海応用物理研究所によれば、計画は中国が2060年までにカーボンニュートラルを実現するという目標の一環とのこと。2019年の米調査会社の報告によると、世界の炭素排出量の27%が中国が占めています。これは他の先進国全体を合計しても届かない数値であり、世界からの厳しい目が中国に向けられています。

溶融塩原子炉のアイデアは新しいものではなく、1946年に米空軍の前進組織が超音速ジェット機を開発するときに考えられました。しかし、その後の開発においては溶融塩のあまりの温度に配管が耐えられなかったり、トリウムの反応がウランに比べて弱いことから、結局ウランを添加しないと核分裂反応が持続させられないといった技術的なハードルを解決できず、研究は中止されました。

ちなみに、米国では6月に資産家のビル・ゲイツ氏とウォーレン・バフェット氏が出資する企業が「ナトリウム高速原子炉(SFR)」という新しい原子力発電方式の実証炉をワイオミング州の石炭火力発電所に建設することを発表しています。こちらは仕組み的には日本がかつて研究開発していた高速増殖炉「もんじゅ」の方式を発展させた方式のものとされます。

原子力発電というと、われわれ日本人はどうしても福島の原発事故や、広島・長崎の原爆投下を思い出し、放射能流出が心配になりがちです。化石燃料を使った発電から再エネへの積極的な転換を目指す大きな流れもあるなか、米中という大国が従来より安全とはいえ新たな原子力を開発し、これを推進するなら、その先の世界がどうなっていくのかは気になるところです。

(Source:LIve ScienceEngadget日本版より転載)

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【コラム】核廃棄物のリサイクルはエネルギー革新の最重要手段だ

編集部注:本稿の著者Tristan Abbey(トリスタン・アビー)氏は、Comarus Analytics LLC社長。米国上院エネルギー天然資源委員会の上級政策アドバイザー、および国家安全保障会議の部長を務めた。

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米国のエネルギー・環境政策を語る上で、核廃棄物ほど悩ましいものはない。そう、気候変動は邪悪な問題かもしれないが、一方で膨大な数の苦悩を打ち消す話題が注目を浴びている。

この話題を正面から語るのは難しい。まず、物語の3つの要素から始めよう。

第1に、米国内の原子力発電所は年間約2000トンの核廃棄物(「使用済み燃料」とも)を生み出している。それらは生来の放射能ゆえに、国内のさまざまな場所に、注意深く保管されている。

第2に、これをどうすべきかの責任を負っているのは連邦政府である。実際、原子力発電事業者は核廃棄物基金に400億ドル(約4兆3900億円)以上をつぎ込んでおり、そのおかげで政府は対応が可能になっている。それは、ネバダ州ユッカマウンテンにある「地層処分処理場」に埋めるという考えだったが、政治的に不可能であることが証明された。にもかかわらず、事前調査やヒヤリングなどに 150億ドル(約1兆6470億円)が費やされた。

第3に、エネルギー省の廃棄物管理能力欠如のために、核廃棄物は蓄積される一方である。同省の最新公表データによると、およそ8万トンの使用済み燃料(数百万本の燃料棒を擁する数十万基の燃料集合体)が最終目的地を待っている。

そして、予想外の結末はこれだ。問題の原子力発電事業者らは政府を契約違反で訴え、2013年に勝訴した。毎年何億ドル(何百億円)という賠償金が、一連の和解と判決の一環として米国財務省から支払われている。支払総額は80億ドル(約8780億円)を超えている。

このストーリーが少々どうかしていることに私は気がついている。私は次のようなことを本当に言っているのだろうか?米国政府は核廃棄物を処理するために数十億ドル(数千億円)を集め、次に数億ドル(数百億円)を実現可能性調査に費やしながら埃をかぶらせ、今度はこの失敗のために数十億ドルの上を行く金額を支払っている。そのとおり、そう言っている。

幸い、集められた廃棄物のすべては比較的少ない場所を占めており、一時的保管場所は存在している。行動を起こす緊急な理由がなければ、政策立案者は動かないのが普通だ。

長期的保管場所を見つける試みを続ける一方で、政策立案者はこの「廃棄物」を使用可能な燃料にリサイクルすることを考えるべきだ。実はこれ古くからあるアイデアだ。発電のために消費されるのは核燃料のごく一部でしかない。

再利用推進者らは「再処理」使用済み燃料を使って燃焼後に残ったエネルギーの90%を抽出する原子炉を構想している。批判派たちさえも、リサイクルを支える化学、物理学、および工学は技術的な実現可能であることを認めており、批判の矛先は、経済性の疑問と安全性の潜在リスクに向けられている。

いわゆる第4世代原子炉と呼ばれるものが、あらゆる形とサイズで存在する。その設計は古くからあるが(ある部分は核エネルギーの夜明けにさかのぼる)、政治、経済、および戦略的理由によって軽水炉がこの分野を支配してきた。例えばSouthern Company(サザン・カンパニー)がジョージア州で建設中の2基の従来型加圧水型原子炉は、それぞれ1000MW(1GW)をわずかに超える能力を有しており、これはウェスティングハウスのAP1000設計の標準的な値である。

それに対し、次世代原子炉設計は大きさも容量も数分の一で、さまざまな冷却方法を利用可能だ。オレゴン拠点のNuScale Power(ニュースケール・パワー)の77MW小型モジュール式原子炉、カリフォルニア州サンディエゴ拠点のGeneral Atomics(ゼネラル・アトミックス)の50MWヘリウム冷却高速モジュール式原子炉、カリフォルニア州アラメダ拠点のKairos Power(カイロズ・パワー)の140MW溶融フッ化物塩冷却炉など、企業や政策の目的に合わせてさまざまな構成が可能だ。

多くの第4世代設計が、再生使用済み燃料専用あるいは使用する構成が可能になっている。米国時間6月3日、TerraPower(テラパワー、ビル・ゲイツ氏が出資)、GE Hitachi(日立GE)、ワイオミング州の3者は、ナトリウム冷却高速炉である345MW Natrium設計の実証炉建設に合意した。

Natrium設計は、再生燃料を発電に使用する技術的能力をもっている。すでにカリフォルニア州拠点のOklo(オクロ)は、Idaho National Laboratory(アイダホ国立研究所)とともに、使用済み燃料を使う1.5メガワット「マイクロ原子炉」の運用で合意している。ニューヨーク拠点のElysium Industries(エリシウム・インダストリーズ)による溶融塩炉設計は、自称「優先燃料」として、使用済み核燃料を使用しており、アラバマ州拠点のFlibe Energy(フライブ・エナジー)は、自社のトリウム原子炉設計の廃棄物燃焼能力を宣伝している。

次世代原子炉の成否は、行き詰まり状態にある核廃棄物問題の解決には依存してない。新たな原子炉は使用済み燃料を消費する能力をもってはいるが、必ずしも使わなくてはいけないわけではない。それでも、廃棄物リサイクルを奨励することで経済性を改善できるだろう。

ここでいう「奨励」は「金」を意味している。政策立案者は、再生燃料を使ったほうが、カナダやカザフスタン、オーストラリア、ロシアなどの諸外国から燃料を輸入するより発電所が儲かる仕組みを政府が作る方法を考えるべきだ。

リサイクルを含む次世代核技術に対する政治的支援は、想像以上に奥が深い。2019年、上院はRita Baranwal(リタ・バランワル)博士をエネルギー省(DOE)原子力エネルギー担当次官補に任命した。材料科学の教育を受けた同氏は、すぐリサイクル推進者なった

バイデン新政権は、新型原子炉に対する支援を広く超党派的に継続してきたことに加えて、会計2022年度予算要求ではエネルギー省原子エネルギー部の予算を3億5000万ドル(約384億2000万円)近く増額する提案を出した。提案には原子炉コンセプトの研究開発(3200万ドル[約35億1000万円]増)、燃料リサイクルの研究開発(5900万ドル[約64億8000万円])および新型原子炉実証実験(1200万ドル[約13億2000万円]増)、多目的試験炉の予算3倍増(前年の4500万ドル[約49億2000万円]から1億4500万ドル[約159億2000万円]へ)など具体的な予算増が盛り込まれている。

2021年5月、エネルギー省のエネルギー高度研究計画局(ARPA-E)は、高度原子炉の廃棄物処理「最適化」の研究を支援する4000万ドル(約43億9000万円)の新たなプログラムを発表した。重要なのはこの発表が、現在の核廃棄物ソリューションの欠如が、第4世代原子炉の未来に「難題を突きつけている」ことを明確に表明していることだ。

この議論は、一般にリサイクルが非常に厄介なプロセスであることのリマインダーである。それは化学、機械、エネルギーすべてが集約されたプロセスだ。希少鉱物からPETボトルまで、あらゆるリサイクルは新たな廃棄物も生み出す。現在、連邦および州政府はさまざまな廃棄物のリサイクルに極めて積極的だが、核廃棄物にも同じように関与すべきだ。

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(文:Tristan Abbey、翻訳:Nob Takahashi / facebook