JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

現在、日本の宇宙飛行士7名の平均年齢は51歳。今のままでは月周回ステーション「ゲートウェイ」の搭乗が開始される2025年には、定年退職のために人数は4人となり、月面活動が本格化する2030年には2人に減る。そこでJAXAでは、月面探査などの新たなミッションに備えて、宇宙飛行士を若干名募集することになった。だが今回は、これまでと応募資格が大きく緩和された。

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申し込みには、エントリーシートの入力と健康診断書の提出が必要となる。

募集および選抜の実施概要

  • 採用人数:若干名
  • 募集開始:2021年11月19日
  • 受付期間:2021年12月20日から2022年3月4日まで
  • 選抜結果発表:2023年2月ごろ

応募資格

  • 2021年度末(2022年3月末)の時点で3年以上の実務経験を有すること。ただし、修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の実務経験とみなす
  • 以下の医学的特性を有すること
    身長:149.5〜190.5cm
    視力、遠距離視力:両眼とも矯正視力1.0以上
    色覚:正常(石原式による)
    聴力:正常(背後2メートルの距離で普通の会話可能)

JAXAが宇宙飛行士に求める人物像は要約するとこうなる。

  • 国際共同事業において多様性を尊重しつつ協調性とリーダーシップを発揮できる人
  • 国際宇宙探査ミッションに備えて、適応能力があり、極限環境でも柔軟な思考と着眼点で適時的確な判断ができる人
  • ミッションで得た経験を世界中の人々と共有する表現力や発信力があり、人類の持続的な発展に貢献できる人。

選抜において評価されるポイントは次の8つ。

  • 宇宙飛行士の職務に対して、明確な目的意識と達成意欲の強さ
  • 宇宙飛行士に求められる任務・訓練に耐えうる健康状態
  • STEM分野の知識や論理的思考力、円滑な意思の疎通が図れる英語能力とともに、教育や実務経験等の中で取り組んできたことにおける専門性
  • ミッション遂行能力(自己管理、コミュニケーション、状況認識、リーダーシップ、問題解決、チームワーク、マルチタスクなど)とともに、緊急事態にも迅速かつ的確に対処する能力
  • 業務環境、技術、社会の急速な進歩や変化に適用する身体能力、精神心理的適応性、強靭性を有し、未経験の知識や技量を速やかに習得する能力、未経験の作業に知識や技量を柔軟に活用して対応する能力
  • 日本人としての誇りを持ち、人文科学や社会科学分野を含む広範な素養と知識を有し、異文化、伝統、価値観に敬意を払う国際的なチームの一員にふさわしい態度
  • 自らの体験や成果などを外部に伝える豊かな表現力と発信力
  • 国内外で求められる高いコンプライアンス意識

今回の宇宙飛行士候補者募集に向けて、JAXAでは一般から意見を募った。そこでは、学歴、専門性を問わないでほしい、女性枠を設けてほしい、任期制やクロスアポイントメントなど働き方を多様化してほしい、選考過程を透明化してほしい、落選者への対応がほしいといった意見が寄せられ、これらを反映しつつ、募集の方針は次のように決められた。

  • 学歴、専門は問わない。泳力、自動車運転免許証などは応募資格から除外
  • 募集人数が少ないので女性枠は設けず、女性応募奨励のための広報関連施策を行う
  • 働き方の多様性は、訓練の従事割合がほぼ100%、海外での訓練もあり難しい
  • 選考過程の透明性は、個人情報保護などを考慮しつつ、可能なものは積極的に公開する
  • 落選者へのフィードバックを検討する

JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

選抜は、書類選考、第0次選抜から第3次選抜まで行われる。その中では、英語、一般教養、STEM(理工系)分野の試験、小論文、適正検査、医学検査、面接、資質特性検査など数々の審査が行われる。JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

選抜後の予定

  • JAXA入社、基礎訓練開始:2023年4月
  • JAXA宇宙飛行士の認定: 2024年度末ごろ(2025年3月ごろ)

選抜された宇宙飛行士候補者は、次の流れで訓練を行うようになる。

  • 国内を中心に宇宙飛行士候補者訓練を受け、宇宙飛行士に必要となる科学や技術の知識、ISS「きぼう」システムの概要などを学ぶ。英語、ロシア語も習得する
  • 候補者訓練の修了後、これらの訓練結果の評価によりJAXA宇宙飛行士に認定される
  • ISS計画に参加する日本、米国、ロシア、欧州、カナダの宇宙機関にてISSの各システムとその操作技術などを学ぶ
  • ISS搭乗が決定すれば、ミッション遂行に必要なISS操作手順、実験操作手順などの訓練と、有人輸送機の操作訓練などを行う
  • 米国が提案する国際宇宙探査(アルテミス計画)、有人輸送機(米国新型宇宙船)、ゲートウェイに関連した訓練を行う

宇宙飛行士として予定されている宇宙活動は、以下のようなものだ。

  • 米国商業宇宙船などへの搭乗、 ISSでの滞在(長期)、ISSおよ「きぼう」システムの操作保全、実験研究、船外活動
  • 米国新型宇宙船への搭乗、ゲートウェイでの滞在(短期)、操作保全、実験研究、船外活動
  • 月面着陸船への搭乗、月面での滞在(短期)、月面での実験研究、月面での船外活動

募集説明会が、「JAXA公式YouTubeチャンネル」において、2021年12月1日18:00〜20:20(予定)に行われる(ライブ配信後はアーカイブ配信)。
JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

NASAが女性初の月面歩行を実現する宇宙飛行士を描くARコミック公開、次世代人材の獲得に向けた取り組み

NASAが女性初の月面歩行を実現する宇宙飛行士を描くARコミックを公開、次世代人材の獲得に向けた取り組み
米国では9月25日をコミック本を祝う日”Nationlal Comic Book Day”としてイベントなどが行われていましたが、これに合わせてNASAは、デジタル・インタラクティブ・ノベル「First Woman: NASA’s Promise for Humanity」を公開しました。これは月面探査をする女性宇宙飛行士キャリー・ロドリゲスを描いた架空の物語で、アルテミス計画において、女性で、なおかつ有色人種として、初の月面歩行を実現するという歴史的偉業を達成するというあらすじ。

作品は40ページのコミック版では月への宇宙旅行、着陸、月面探査に使われるNASAの技術が紹介されていて、ブラウザーで読んだり、PDFでダウンロードもできます。また音声バージョンもSoundCloudなどで聴くことが可能です。

そしてモバイルアプリで提供されるデジタル版(Android版iOS版)では、拡張現実(AR)要素を盛り込んだインタラクティブな体験が提供され、読者は実物大であったり3DでOrion宇宙船や月面探索などができるようになります。そのほかにもゲームや動画をプレイまたは視聴したり条件を満たしてバッジを取得したりして楽しめるようになっています。

作品は次の飛行士になる世代に宇宙への興味を持ってもらうことを目的としたもので、NASA宇宙技術ミッション部門のコミュニケーション・ディレクター、デレク・ワン氏は「このグラフィック・ノベルとデジタル・エコシステムは、これまでにない刺激的な方法でNASAの仕事を知っていただくために制作しました。魅力的で親しみやすいコンテンツは幅広い年齢層の宇宙ファンから、STEM教育の新しい方法を探している熱心な教育者まで、誰にでも楽しんでいただける内容になっています」と述べています。

子供向け、と言ってしまえばそれまでかもしれませんが、コンテンツにはNASAの長期的な計画もわかりやすく記されているとのことなので、興味があれば見てみるのも良さそうです(ただしすべて英語です)。なお、NASAはこのコンテンツのスペイン語版も提供する予定とのこと。スペイン語のほうが得意ならそちらをお待ち下さい。

(Source:NASA(1)(2)Engadget日本版より転載)

最初に地球を周回したアメリ人で元上院議員のジョン・グレン、95歳で逝去

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今日(米国時間12/8)、アメリカ人として史上初の地球周回軌道を飛行した元宇宙飛行士のジョン・グレンが亡くなった。95歳だった。グレンは宇宙に行った人間として最年長だった。

グレンは1週間前に体調を崩してオハイオ州立大学のジェームズ癌病院に入院していた。ただし死因がなんであったかはまだ明らかでない。グレンの逝去は大学のプレレスリリースによって確認された

グレンはアメリカ海兵隊の戦闘機パイロットとして第二次大戦と朝鮮戦争を戦った。その後優秀な操縦技術を買われて他の6人のパイロットと共にアメリカの宇宙計画に参加した。7人はマーキュリー・セブンとして知られるようになった。グレンはこのグループの最後の生存者だった。

The seven Mercury astronauts were (from left) Wally Schirra, Alan Shepard, Deke Slayton, Gus Grissom, John Glenn, Gordon Cooper and Scott Carpenter / Image courtesy of NASA

マーキュリー計画の宇宙飛行士。前列右から2人目がジョン・グレン( NASA)

1962年2月20日に5時間におよぶの軌道飛行に成功するとグレンは一躍英雄となった。ジョン・ F. ケネディ大統領はNASA勲功章(Distinguished
Service)を授与した。

36年後、1998年10月29日にグレンは77歳でスペースシャトル・ディスカバリーに搭乗し、宇宙に出た最年長の人物となった。

この2界の宇宙飛行の間の期間、グレンはオハイオ州選出の上院議員に選出され1974年から25年アメリカに尽くした。ディスカバリーでの宇宙飛行の1年後にグレンは上院から引退した。この年、NASAはオハイオ州クリーブランドの研究センターをグレンにちなんでジョン・H. グレン研究センターと改名した。

グレンは歴史的な宇宙飛行の成功と上院議員として長年にわたってアメリカに貢献したことで長く記憶されるだろう。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

データサイエンスとロケットサイエンスが人類を火星へ連れて行く

Laptop computer with red ethernet cable forming a rocket, coming out of the back on a plain background

【編集部注】著者のKapil Kedarは、Alpine Dataのテクニカル・セールス部門のディレクターである。

最近CNNの論説で、オバマ大統領は、火星へ有人ミッション送り込む米国のコミットメントを再確認した。データサイエンス上の課題が複雑すぎると思うだろうか?火星遠征が健康へ与える影響を理解するために行う、データマイニングの難しさを想像して欲しい。

数年にわたる宇宙の滞在で、宇宙飛行士の筋力や肺活量に何が起きるのだろうか?どのくらいの体重なら安全に減らすことができるのだろうか?乗務員の居住スペースのCO2はどの程度であればよいのか?個々の宇宙服の関節の柔軟性を計算するのに必要とされているセンサーの数はいくつだろうか?

人間を「これまで誰も行っていない場所(where no one has gone before)」に送り出すときには、考慮すべき多数の変数があり、そのためにNASAは、将来の火星行きミッションに備えて健康と安全のリスク研究を熱心に行っている。これらのリスクを理解することはとても重要だ、なぜならそれらは旅行計画を行う際に必要となる多くの意思決定にインパクトがあるからだ — それはおよそ全ての項目に及ぶ。乗組員候補をどのように評価するべきかというものから、機器エンジニアリング、ミッションの物流、そして燃料の必要量の決定まで。

賭け金は高いが、NASAは最初の段階から、完璧な分析モデルの開発ではなく、意思決定者が連続的に変化する多くの疑問に分析を使って答えることができるようにするための、データサイエンスプロセスを構築することにより力を注ぐ必要があることに気が付いていた。とはいえ、NASAの分析アプローチから学ぶために、ロケットサイエンスに精通している必要はない。以下に示すのは、これからビッグデータ分析を始めようとしている組織、あるいはビッグデータ分析に行き詰まっている組織に当てはまる、有用なキーポイントである。

複雑にするな

簡単に言えば、データサイエンスはロケットサイエンスのように複雑であってはならない(そこで昔私がやっていたことを知りたい人はいるだろうか?)もちろん、ビッグデータの分析には様々な課題がある、そしてもちろん、どのような洞察を得たいかによって、アプローチも変化する。しかし、状況が必要としていること以上に物事を複雑にする必要はないのだ。

あまりにも頻繁に、多くの組織が、データ分析を行うことに集中すべきときに、ひたすら分析のためのデータ移動の無限のサイクルに落ち込んでいる。ビッグデータは、その定義から明らかなように、その移動は不可能ではないにせよ、大変難しい。Hadoopのような分散ストレージと処理のフレームワークが存在する理由はここにある — クラウド内のデータは、サイロ内のローカルデータよりもはるかにスケーラブルなのだ。

火星行きのプロジェクトでは、見るべきデータに大変多くのレベルが存在する、たとえば前回の宇宙ミッションを完了したScott Kellyのような宇宙飛行士から収集したヘルスデータから、非宇宙飛行士を使った研究や、ヒューストンのJohnson Space CenterにあるHuman Exploration Research Analog(HERA)のような模擬宇宙空間で行われる研究まで。

全てのデータを1箇所で得ることが、重要な最初のステップだ。このためにNASAは、Lockheed Martinを始めとする複数の分析パートナー(例えばAlpine Data)によって開発された、高度分析と情報供給のための共同プラットフォーム(Collaborative Advanced Analytics and Data Sharing platform)を用いて、データをその提供元で分析するために使っている。仕事をするために一々分離した分析環境へデータをダウンロードすることを待つ必要がないので、研究者たちはその時間とエネルギーを、火星行きミッションを計画する際の問い合わせと回答を得る作業に集中できる。

打ち上げは単なる始まりに過ぎない

ロケット打ち上げの成功は、数年にわたる火星へ遠征の最初の1ステップに過ぎない。過去の経験から、NASAはその全行程の間に、多くの問題が発生し、対処を迫られること知っている。同じことが、データ分析プロジェクトにも当てはまる。モデルをデプロイすればプロジェクトが完了するというわけではない。実際には、最も貴重な分析の取り組みは、モデルが継続的に洗練され反復される形で行われる。

データサイエンスはロケットサイエンスのように複雑であってはならない。

科学的方法と同様に、分析を最大限に活用するためには、実験、テスト、失敗からの学び、そして更なる再びテストを必要とする。米航空宇宙局(NASA)は、自由に大容量のデータを照会できるようにしたいと考えていて、これまでの知見に洞察を注ぎ込み新しいモデルを構築できるようにしたいのだ。これが、データサイエンスに関わるこの活動が「振り子」に似ている理由である、前に振り出しながら研究者の洞察を深め、後に戻しながらモデルの定量化、結果評価、そして精細化を行い、そしてまた新たな振りを繰り返すのだ。

持っているデータを使え。持っていれば良いなと思うデータではなく

素早く簡単に分析モデルを洗練することが出来る能力は、データセットは完璧ではないときに、特に貴重なものとなる。(いや実際に、完全データセットなどというものがあるだろうか?)。

NASAにとって、データ上の最大の課題は、宇宙飛行士のサンプルサイズが小さいことである — わずか300人の個人がこれまでにNASAの宇宙飛行士として受け入れられてきた。研究者らは、この小さなサンプルから収集したデータをなんとかマイニングし、外挿を行う必要があるのだ。

例えば、120ポンドの体重を持つ35歳の女性の宇宙での5ヶ月の旅の記録に基づいて、出発時32歳で123ポンドの人に2年間の間に何が起きるかを計算できるだろうか?30歳で118ポンドなら?更には、これまで宇宙飛行士が、赤い惑星に足を踏み出したことはないので、実際に火星に住むことへの健康への影響については何のデータもない(マット・デイモンは除いて)。

しかしNASAは、月へ行った、あるいは国際宇宙ステーションで1年を過ごしてきた宇宙飛行士たちから、何を学ぶことができるのだろう?模擬宇宙環境に住んでいる被験者からのデータが予測モデルに適用されたときに、何が起きるのだろうか?迅速なモデルの展開と洗練を支援する分析ツールを使用すれば、組織は例え重要な情報が欠落している場合でも、より良い予想を行わなければならない洞察を、データから引き出す様々な方法を試し続けることができる。

ブラックボックスを打ち破れ

火星ミッションでは、NASAは納税者の何十億ドルをつぎ込んでいるだけではなく、宇宙飛行士たちの命も預かっている。宇宙飛行士達は科学と探求の名のもとに、彼らの健康と安全をリスクに晒すのだ。

分析の他の消費者と同様に、NASAは結果として得られた提案が信頼できるものであるようにする必要がある、しかし、もしこうした予測が、データサイエンスの専門家だけが扱ったり理解できる「ブラックボックス」ので計算されている場合にはそうした信頼の獲得は難しい。

このようなプロジェクトのためには、データサイエンスの博士号を持たない分析結果の利用者たち(ヘルス研究者、機器エンジニア、その他のミッション計画実施者たち)の力を拡大して、自分自身のデータに対して実際に問い合わせを組み立てて実行できるようにすることが鍵である。これは、ビジネスとITステークホルダーの間の緊密な協力を必要とし、同時に利用と変更が簡単で、必要な人へ洞察を届ける能力を持つツールも必要とする。これがNASAが共同分析プラットフォームを選んだ理由である。このプラットフォームには、火星ミッションで働く科学者と意思決定者たちによって使われているシステムとアプリケーションに直接出力を展開するツールが含まれている。

大規模で複雑なデータセットは、分析の展開に着手しようとするどのような組織に対しても、課題を提起する。しかし、NASAによるデータを最も複雑な旅(火星への遠征)へと結びつけようとする例は、その課題が乗り越えられないものではないということを証明している。適切なツールと、最も重要な一貫性のあるよく計画されたアプローチを使えば、データサイエンスはロケットサイエンスのように困難なものとはならない。

注:Lockheed MartinのInformation Systems & Global Solutionsは、現在Leidos Holdingsの一部である。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)