タカラトミーとJAXAなどが共同開発した変形型月面ロボSORA-Qが月着陸実証機SLIMに搭載決定

タカラトミーとJAXAなどが共同開発した変形型月面ロボSORA-Qが月着陸実証機SLIMに搭載決定

変形型月面ロボット「SORA-Q」。画像中央部分左側が変形前、右側が変形後

タカラトミーは3月15日、JAXAなどと共同開発した超小型変形型月面ロボットが、JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」に搭載され、月面でのデータ取得を行うことになったと発表した。これでこのロボットは、ispace(アイスペース)の月着陸船「HAKUTO-R」による月面探査と合わせて、計2回の月面ミッションを実施することになる。またこれまでのLEV-2という名称に代えて、「SORA-Q」(ソラキュー)という愛称が与えられた。

SORA-Qは、運搬時(変形前)は直径約8cm、重量約250gの球体だが、月面の放出されるとすぐに、走行可能な形態に変形する。球体が左右に開いて車輪となり、中央には前方撮影用カメラがせり上がり、後方には後方撮影用カメラと尻尾のようなスタビライザーが展開される。車軸を偏心させることで、レゴリス(月面の細かい砂)に覆われた傾斜地も乗り越えることができ、転倒しても起き上がれるようになっている。撮影した画像はSORA-Q自身が選別して、ペアで行動するもう1つの小型ロボット「LEV-1」にBluetoothで送られ、着陸船を介さず、そこから直接地球に送信される。

ミッションは、レゴリス上を移動して走行ログを取得して保存すること、着陸機周辺を撮影して画像を保存すること、画像データ、走行ログ、ステータスを「LEV-1」経由で地球に送ることなどとなっている。将来の月面有人自動運転技術や走行技術の検討に必要な月面データを集めることが狙いだ。ミッション実行時間は、1〜2時間が予定されている。

タカラトミーとJAXAなどが共同開発した変形型月面ロボSORA-Qが月着陸実証機SLIMに搭載決定SORA-Qという名前には、宇宙を意味する「宙」(そら)に、Question(問い)、Quest(探求)を表す「Q」をつなげているが、「Q」には「球」の意味もある。運搬時の体積を最小限にでき、着陸の衝撃に耐え、どの角度に放出されても展開できることから、球体が選ばれた。そこから月面活動ができる形態に変形させる技術には、変身ロボットやメカニズムの小型化といったオモチャの開発で蓄積されてきたタカラトミーの知見が活かされている。JAXAと共同で20回以上もの試作を重ねた末、ようやく完成させた。そもそもこのプロジェクトは、JAXAの「宇宙探査イノベーションハブ」共同研究提案公募の枠組みで2016年に開始したものだが、2021年にはソニーグループ同志社大学も参加している。

画像クレジット:
JAXA
タカラトミー
ソニー
同志社大学

学習院大学が全学共通科目「宇宙利用論」を2023年度から開講、宇宙商社Space BDとの産学連携カリキュラム

学習院大学が全学共通科目「宇宙利用論」を2023年度から開講、宇宙商社Space BDとの産学連携カリキュラム

学習院大学は、2023年度より全学部生を対象とした「宇宙利用論」を開講する。これは、日本の宇宙ビジネスの発展を目指す「宇宙商社」Space BDとの産学連携で開発するカリキュラムにより、宇宙ビジネスを牽引する人材を育成するというものだ。

この講座の重要なテーマとしているのが、学習院大学が提供する「文理融合の学びの場」と、Space BDによる「実践の場の提供」だ。学習院大学は、法学部、経済学部、文学部、理学部、国際社会学部の5学部と大学院を1つのキャンパスに集めて異なる分野の学生や研究者が一緒に過ごせる環境を整え、「文理両分野にわたる広義の基礎教育と多様な専門教育を有機的につなげる教育」に力を入れてきた。

一方Space BDは、2018年にJAXAの民間開放案件「国際宇宙ステーション『きぼう』日本実験棟からの超小型衛星放出事業」に選定された後、宇宙ビジネスプランの検討から技術的な運用支援までを提供するとともに、クラーク記念国際高等学校・東京大学と共同で高校生対象「宇宙教育プログラム」を実施するなど、教育分野の活動も行っている。

学習院大学では、2021年に3日間の課外特別授業「宇宙ベンチャー概論」を実施するなど、すでにSpace BDとともに宇宙利用論の開講に向けた取り組みを開始している。2022年度は、カリキュラムの開発を進めつつ、宇宙ベンチャー概論の継続開講に加え、宇宙領域スタートアップ企業での国内研修プログラムを実施する。実際の現場でコミュニケーション、リーダーシップ、意志決定などの数値化できない能力の習得を目指すという。2023年度には宇宙利用論を開講し、国内研修に加えて、海外研修プログラムもスタートさせる予定だ。

打ち上げオペレーションを軸に宇宙事業を近代化するEpsilon3が約3.2億円のシード資金を調達

数億ドル(数百億円)のミッションを抱えているのに、なぜ90年代に作られたソフトウェアを使ってそれを設計し、打ち上げているのだろうか?それは多くの新規宇宙企業が問うている問題であり、Epsilon3(エプシロンスリー)は、こうした企業のオペレーションを、スプレッドシートやWord文書から現代的で協調的な作業プラットフォームへと導く手助けをしようとしている。

TechCrunchは2021年、Epsilon3がデビューしたときに記事にしていた。それ以来同社は、打ち上げオペレーション用のOSをプロトタイプからプロダクトへと移行し、顧客と契約することに熱心に取り組んできており、現在ではその数は数十社になっている。そしてこのたび、プレシードで280万ドル(約3億2000万円)を調達した。

関連記事:ロケット打ち上げ用OSを元SpaceXエンジニアの企業Epsilon3が開発

「2021年は、初期の顧客にMVP(実用最小限の製品)を提供することに尽力していました」とEpsilon3の共同創業者でCEOのLaura Crabtree(ローラ・クラブツリー)氏は語っている。「新規のプラットフォームに乗り出すことをためらう人もいましたが、新しいやり方に適応しようとする意欲が感じられたことは、うれしい驚きでした」。

同社はまた、Y Combinator(Yコンビネーター)の2021年夏のコホートの一環として、自らの適応プロセスにも時間を費やした。

「私は航空宇宙の出身ですので、顧客のことは理解しています」と、SpaceX(スペースX)とNorthrop Grumman(ノースロップ・グラマン)で働いた経験を有するクラブツリー氏は語る。「ビジネスの構築とその運営方法について学ぶために、YCに参加しました。自社が構築したいと考えるものから顧客が必要とするものへと移行し、構築すべきことの優先順位を設定するプロセスを開始することにおいて、YCの支援は大変有益なものでした」。

Epsilon3のプラットフォームは元来、打ち上げや衛星の継続的なオペレーションを行うための近代的手段として意図されていたが、それ以上の用途があることが、初期の顧客からも示されていた。

「このソフトウェアがさまざまな業界で幅広いユースケースを生み出していることに驚いています」と同社のCOOであるMax Mednik(マックス・メドニック)氏はいう。「実際に多くの顧客が、新しいハードウェアや統合、テスト手順のために当社のソフトウェアを使用しています。こうした企業は、チームが成長し、野心的な目標を達成しようとしているときに、WordやConfluence、Wikipediaを使ってもうまくいかないと感じているのです」。

画像クレジット:Epsilon3

「【略】のように、情報へのリンクが付いた巨大なスプレッドシートや、すべてのファイルが保存された共有ドライブ上の巨大なフォルダでなんとかやっていくことはできますし、当社が支援している一部の企業もそのようにしています。しかし、間違いを犯しやすいのです」と同氏は続けた。「何かをテストする際にデータを書き出したり、過去のすべての実行にアクセスしたり、監査履歴を保持したりすることが頻繁にあるような状況では、他のツールはうまく機能しません。同じデータのコピーを何百万も保持することになります。何らかの問題が発生した場合、膨大な時間を失う可能性があります」。

Epsilon3は、テスト中にデータを追跡して記録するライブテレメトリ用のAPIを有しており、等しく堅牢でありながら脆弱さが少ないテスト方法を実現している。また、多重オペレーターのサインオフなどの機能も備えており、これは複数の人がデータポイントやフローをチェックして検証する必要がある航空宇宙や防衛産業では必須の要件といえよう。

他のサービスやプラットフォームを統合することも、ユーザーフレンドリーであるためには重要である。全体として、宇宙関連事業の開発用ソフトウェアプラットフォームであるFirst Resonance(ファースト・レゾナンス)に似ているように聞こえるかもしれない。これらの企業は、軌道上に乗る資産の構築と打ち上げという、長く複雑なプロセスの異なる部分にそれぞれ適合しているため、競争相手ではなく仲間であることは理に適っている。

画像クレジット:Epsilon3

「私たちは(First Resonanceと)データのやり取りについてすでに話をしています」とクラブツリー氏。「彼らは設計とハードウェア部分に、私たちはその後のテストとオペレーションに関わっていますので、ユーザーにそのループバックを提供できればと思っています。他のツールからのデータ統合に向けた足がかりを築きたいと考えており、そこに生まれる大きな付加価値を見据えています」。

「多くの人がより充実した自動化サポート、そしてJiraのようなツールやインフラ、メトリクス、分析用の統合を求めています。当社のAPIの隣にネイティブ統合を構築することで、相互運用が可能になります」とメドニック氏は付け加えた。

同社にはまだやるべきことが数多くあるが、顧客はすでに手に入れているものに喜んでお金を支払っているようである。メドニック氏によると、同社は2021年からARR(年間経常収益)を50倍に拡大し、顧客数も3倍以上になったという。その中にはFirefly(ファイアフライ)、Astrobotic(アストロボティック)、OrbitFab(オービットファブ)、Venus(ヴィーナス)、Gilmour Space(ギルモア・スペース)、Stoke Space(ストーク・スペース)、その他まだ公表されていない企業も含まれている。

像クレジット:Epsilon3

「インフラサイドでは多くのレベルアップがなされました」と同氏は振り返る。「これほど大勢の人たちとテストしたことがあるだろうか、という感じでした。そう、私たちはベストを尽くしました。順調にいったと思います」。

「それ以上のものでしたよ、マックス。成功裏に進んだと思います」とクラブツリー氏は応じた。

「本当に、すばらしい成果が得られました」。

今回の資金調達の焦点は、プロダクトとチームの拡張を継続することに置かれている。同社は当初の3人の創業者チーム(Aaron Sullivan[アーロン・サリバン]氏が共同創業者兼チーフエンジニア)から計21人に成長した。まだ規模は小さいが、このようなスタートアップにとっては「ガレージ」段階をはるかに超えている。

280万ドルのシードラウンドには、プレシード投資家のStage Venture Partners(ステージ・ベンチャー・パートナーズ)とMaC Venture Capital(マック・ベンチャー・キャピタル)の他に、新たな投資家としてLux Capital(ラックス・キャピタル)、Village Global(ヴィレッジ・グローバル)、Y Combinator、Pioneer Fund(パイオニア・ファンド)、Soma Capital(ソマ・キャピタル)、Broom Ventures(ブルーム・ベンチャーズ)が参加した。

画像クレジット:Epsilon3

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

リアルな宇宙の「お宝」も付いているランボルギーニのNFT、2月1日にオークション開始

Lamborghini(ランボルギーニ)は、非代替性トークン(NFT)の分野にスーパーカーを投入する。しかし、NFTコミュニティを代表するようになった、コンピュータ設計された霊長類ベースのTwitterアバターとは異なり、ランボルギーニは暗号資産の提供において物理的世界とデジタル世界の架け橋となっている。

正確には、世界の「外側」だが。

NFT PRO、RM Sotheby’sとの提携の下、ランボルギーニは2月1日から2月4日まで、デジタルとフィジカルがリンクした5組のアートを自社の専用NFTウェブサイトでオークションにかける。

ランボルギーニは、NFTを導入しているNike(ナイキ)、Samsung(サムスン)、その他のテック企業の輪に加わる。例えば、Twitter(ツイッター)では、NFTの所有者が、特別なプロフィール写真の六角形のフレームを使ってお気に入りのNFTを披露することができるようになっている。Reddit(レディット)も最近、ユーザーが自分の作品をプロフィール画像として設定できるようにしてNFTに足を踏み入れた

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他の多くのNFTとは異なり、ランボルギーニのアート作品には、デジタル作品と対になる5つの有形アイテムが用意されている。これらの物理アイテムは、NFTブームが去ったとしても、その価値を持ち続けるはずだ。

ランボルギーニは、共同研究プロジェクトの一環として、2020年に国際宇宙ステーションにカーボンファイバーを送った。そのカーボンファイバーのごく一部を収めた物理的なSpace Keyは、オークションの落札者が手にして自慢できるものになる。

カーボンファイバーは特別なケースに収められ、それぞれQRコードが刻まれている。このQRコードは、刺激的な写真で機械の世界を際立たせる一連の作品で知られるアーティストFabian Oefner(フェビアン・エーフナー)氏が制作したデジタルアート作品に対応する。

デジタル作品は、地球の写真の上に浮かび上がるランボルギーニUltimateが爆発するというものだ。「Space Time Memory」と名付けられたこの作品は、ランボルギーニ車両のパーツの写真1500枚を使っている。宇宙船が地球から飛び立つのを真似てデジタル処理で組み立てられており、宇宙に向かう車両の後ろに小さな機械部品が軌跡を描く。背景の地球は、成層圏まで飛ばした気象観測気球で撮影したものだ。

5つの画像はそれぞれ微妙に異なっている。これらを組み合わせると、動きのある魅力的な画像の連続となる。

つまり、かなりすばらしいGIFに仕上がっている。

画像クレジット:Fabian Oefner/Lamborghini

「私にとって、Space Time Memoryは、人生で作る思い出のアナロジーです」とアーティストたちは声明で述べた。それがどんな意味であれ、とても壮大に見える。少なくとも、漫画のサルのJPEGよりもはるかに興味をそそるものだ。

ランボルギーニのCEOであるStephan Winkelmann(ステファン・ヴィンケルマン)氏はTechCrunchに、自身と同社にとってNFTはコミュニティとその若い精神、そしてデザインだと語った。同氏は、NFTのコミュニティが、少なくともNFTの世界に挑戦するためにランボルギーニに注目していると指摘し「というのも、我々の顧客が非常に革新的で、このようなことを調べていることを知っているからです。だから、彼らは同じように考える人たちと話をしているのです」と述べた。

同社はまた、エーフナー氏からこのプロジェクトの話を持ちかけられた。実際、複数の代理店がNFTの制作を打診してきたという。しかし、このアーティストの存在が、契約に導いたのかもしれない。エーフナー氏側は、2018年からMiuraを含むランボルギーニ車両を使って作品を制作している。エーフナー氏とランボルギーニは売上を折半する予定だ。

ランボルギーニはこの販売を評価し、その結果次第では今後さらにNFTを制作する可能性もある。それでも、ヴィンケルマン氏は、ランボルギーニが性急にNFTに手を出すことはないと強調した。

「我々が持つ最高の価値はブランドなので、非常に慎重に行動しなければなりません」と語った。

NFTがリアルな要素を持つ理由について同氏は、自動車メーカーの世界は非常にフィジカルであり、そのことを決して忘れてはならないと述べた。フィジカルとデジタルの組み合わせが、同氏とランボルギーニの好奇心を引きつけた。

注目を浴びることを好む顧客層によって繁盛しているランボルギーニにとって、NFTのオークションは華やかさも兼ね備えていなければならない。人類の宇宙探査というテーマを継続するために、ランボルギーニのSpace Time Memoryオークションは75時間50分続く予定だ。これは、アポロ11号が地球を離れ、月の軌道に乗るまでに要した時間と同じだ。

もしオークションが成功すれば、ランボルギーニが宇宙や月にアイテムを送り、将来のデジタルアート作品とリンクさせるきっかけになるかもしれない。これを実現するために、同社が将来、月飛行でSpaceX(スペースエックス)と組まないという理由はない。

しかし、3月初旬に7年間の宇宙旋回を終えて月に衝突する見込みのSpaceXのFalcon 9ブースターが注目されなくなるまで、ランボルギーニは待ちたいと思うかもしれない。

NFT、スーパーカー、そして宇宙開発に関していえば、クラッシュは常に悪い言葉だ。

画像クレジット:Lamborghini

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(文:Roberto Baldwin、翻訳:Nariko Mizoguchi

NTT・NTTドコモ・スカパーJSAT・エアバスがHAPS早期実用化の覚書締結、衛星も組み合わせた大規模ネットワーク構想

NTT・NTTドコモ・スカパーJSAT・エアバスがHAPS早期実用化の覚書締結、衛星とHAPSを組み合わせた大規模ネットワーク構想

NTTは1月17日、HAPS早期実用化に向けた研究開発、実証実験などの推進を検討する覚書を、NTTドコモスカパーJSATエアバスとの4社で締結したことを発表した。HAPSの接続性、HAPSを利用した通信システムの有用性の発見、技術やユースケースの開発を4社で進めるという。

HAPSとは、地上約2万mの成層圏を飛行する高高度プラットフォーム(中継基地局)のこと。昨年、NTTとエアバスは、エアバスが所有する高高度無人機「Zepher S」(ゼファーエス)を用いた実証実験を行い、通信サービスの実現可能性をすでに実証している。今回の覚書により4社は、5Gのさらなる高度化と6Gに向けた取り組みとして、空、海、宇宙を含むあらゆる場所への「カバレッジ拡大」を目指す。

さらにこの覚書には、静止軌道衛星(GEO)、低軌道衛星(LEO)も含めた非地上ネットワーク技術を用いたアクセスサービス「宇宙RAN(Radio Access Network)」事業の促進も含まれている。「宇宙RAN」が実現すれば、災害対応、離島やへき地へのサービス、飛行機や船舶などの通信環境の飛躍的改善が期待できるという。

宇宙RANシステム構成

宇宙RANシステム構成

今後は通信技術の開発のみならず、HAPSの機体開発や、HAPSの運用に向けた標準化と制度化への働きかけも行い、HAPSによるネットワークサービスの商用化に向けたビジネスモデルに関する検討も行う。さらに、HAPS、衛星、地上局の連携による「宇宙RAN」事業を促進し、NTTの技術を活用したネットワーク構築の実証実験を視野に入れた協力体制も構築してゆくとしている。

高専生による自主的な超小型人工衛星開発を目指す「第1回全国高専宇宙コンテスト」開催

高専生による自主的な超小型人工衛星開発を目指す「第1回全国高専宇宙コンテスト」を開催

国立高等専門学校機構は1月10日、高専生が人工衛星を使った宇宙ミッションのアイデアを競う「第1回全国高専宇宙コンテスト」を開催した(新居浜工業高等専門学校が主管校。一般参加は不可)。高専の「ものづくり教育」の一環として、学生が主体的に開発に参画する仕組み作りを目指すものだ。優れたアイデアは、今後打ち上げが予定されている高専開発による超小型衛星「KOSEN衛星」のミッションテーマとして検討されることになる。

KOSEN-1

高専では、「KOSEN-1」という超小型衛星を2021年11月にイプシロン5号機で打ち上げている。これは、高知高専、群馬高専、徳山高専、岐阜高専、香川高専、米子高専、明石高専、新居浜高専、鹿児島高専、苫小牧高専の10高専が共同開発した木星電波観測技術実証衛星。JAXA革新的衛星技術実証2号機に搭載される実証テーマに採択され、高専生が中心となり2年半かけて開発した。現在は、米子高専、群馬高専、高知高専、徳山高専、新居浜高専、岐阜高専の6校が、今年打ち上げ予定の「KOSEN-2」の開発を進めている。こちらは、JAXA革新的技術実証3号機に搭載される実証テーマに選定されたものだ。

KOSEN-Xシミュレーター

このコンテストでは、参加者に「KOSEN-1」と同等のコンピューター、センサー、カメラを備えた「KOSEN-Xシミュレーター」が渡され、考案したアイデアの実証実験が行えるようになっている。自由に使えるミッション用のスペースも確保されているため、実際に軌道を巡る衛星を想定した実験が行える。審査には、JAXAの研究者は技術者も加わり、アイデアと検証実験の双方から勝者が選出されている。

14年に及ぶ開発期間を経てジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打上げ成功、太陽電池パネルも展開

14年に及ぶ開発期間を経てジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打上げ成功、太陽電池パネルも展開

alex-mit via Getty Images

12月25日、NASAはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を打ち上げました。14年におよぶ開発期間、JWSTと呼ばれるようになる前のコンセプト段階を含めると25年もの歳月をかけて製作された次世代宇宙望遠鏡が、ようやく宇宙へと旅経ちました。

JSWTは、地球から150万kmほど離れた、地球と太陽のラグランジュ点(L2)に近い太陽の軌道を周回する予定です。機体は打ち上げのために折りたたまれた状態から、太陽光発電のパネルを展開し、通常運用形態へと変化します。機体には「これまでにない解像度」の高感度赤外線検出器を備えた4つの科学機器を搭載しており、反射鏡を形成する18ものセグメントの背面には、曲率を調整するための小さなモーターが備えられています。

試運転は6か月におよびますが、その試運転の最後には、最初の観測画像を地上に送信してくる予定です。配信します。

NASA長官のビル・ネルソン氏は「まだ非常に多くのことが動いており、それらが完璧に機能しなければならない。しかし大きな報酬を得るには大きなリスクがあることを私たちは知っている」と打ち上げに際して述べました。

JWSTは幅6.5mの巨大なミラーや4つの超高感度観測機器により、これまで以上に遠くの(言い換えれば時間をさかのぼった昔の)宇宙の観測が可能になるはずです。重要なのは135億年以上も前に起こったビッグバン直後から最初に現れ始めた頃の天体を観測すること。このごく初期の宇宙の天体では核反応により生命に必要不可欠な炭素、窒素、酸素、リン、硫黄といった重元素が作られたとされ、その痕跡をさぐります。

また、もうひとつの大きな目標は遠方の惑星の大気を調査することです。これは、これらの惑星が生命が存在可能か、居住できるかどうかを研究者が評価するのに役立ちます。

また機体はマイナス233℃という著しい低温環境で機能しなければなりません。この非常に低い温度になることで、この望遠鏡が機能するために必要な赤外線の波長で機体が(赤外光で)光らなくなり、非常に遠くから届いた赤外線を高感度にとらえることを可能にします。

なお、記事執筆時点ではすでにJWSTは太陽光パネルの展開を完了しており、電源状況は良好、6つのリアクションホイールも正常に機能して太陽に対する姿勢制御も正しく実行されているとのことです。

(Source:NASA(1)(2)Engadget日本版より転載)

国際宇宙ステーションで高校や学習塾が科学実験、SpaceXのFalcon 9でJAMSS実験装置Kirara 3号機を本日打ち上げ

国際宇宙ステーションで高校や学習塾が科学実験、SpaceXのFalcon 9・ドラゴン補給船でJAMSS実験装置Kirara 3号機打ち上げ

国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」の運用・利用支援などを行う有人宇宙システム(JAMSS。ジャムス)は米国時間12月21日、SpaceXのドラゴン補給船に宇宙工場モデル「Kirara」3号機を搭載しFalcon 9ロケットで打ち上げる(CRS-24・SpX-24ミッション。記事掲載時点では打ち上げ成功)。Kiraraは主に、創薬分野で利用される高品質タンパク質結晶生成を宇宙で行うサービスのための実験装置として、複数の企業や団体からの宇宙実験を請け負っているのだが、今回新たに「Kiraraシェアサービス」を開始し、初めての試みとして、日本国内の学校や学習塾から募った宇宙教育ミッションも行うことになっている。

今回の打ち上げに参加する団体は、東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部、欧州コンフォーカルサイエンス、静岡大学電子工学研究所、米国のBayer、ハンガリーのInnoStudio、フランスのInstitut Laue-Langevin、スペインのCSISとIACT、そして教育関連では、茨進、日本旅行(ミライ塾)、柳川高等学校、東京都立小石川中等教育学校、みどりの学園義務教育学校、Nikkei宇宙プロジェクト。

なかでも、市進教育グループの茨進では、JAMSSと共同でISSでの宇宙実験教育を実施する予定となっており、その材料の準備を子どもたちが行った。柳商学園柳川高等高校は、高校主催による宇宙でのタンパク質結晶生成実験を行う。みどりの学園義務教育学校は、持続可能な社会の実現に向けて学んだ成果であるデータやメッセージをSDカードに納めて宇宙に打ち上げる。

Kirara 3号機を載せたSpaceXのFalcon 9は、米国時間12月21日にケネディー宇宙センターから打ち上げられ、翌22日午前4時半ごろ(米国東部標準時間)にISSにドッキングする予定。

JAXAが13年ぶりの宇宙飛行士候補者募集の応募受け付けを本日開始、学歴は問わず

JAXAが13年ぶりの宇宙飛行士候補者募集の応募受け付けを本日開始、学歴は問わず

以前お伝えしたとおり、JAXAは13年ぶりとなる宇宙飛行士候補者の募集の受け付けを12月20日正午から開始した。今回は、月面有人探査ミッションへの参加も予定されている。募集要項は以前に比べて大幅に緩和され、学歴も問われない。

選抜は、書類選考、第0次選抜から第3次選抜まで行われる。その中では、英語、一般教養、STEM(理工系)分野の試験、小論文、適正検査、医学検査、面接、資質特性検査などの審査が行われる。JAXAが宇宙飛行士に求める人物像は、国際共同事業で多様性を尊重しつつリーダーシップがとれる人、極限環境でも柔軟な思考と着眼点で適時的確な判断ができる人、ミッションで得た経験を人々に伝える発信力のある人。

選抜で評価されるポイントは、明確な目的意識と達成意欲、任務と訓練に耐えうる健康状態、STEM分野の知識と論理的思考力、英語力、実務経験から得られた専門性、緊急事態にも的確に対処できるミッション遂行能力、環境や技術の変化に適用できる身体能力、精神的適応性、強靱性、未経験の知識や技量を速やかに習得できる能力などとなっている。

予定されている宇宙活動には、ISSでのシステム操作や保全・実験研究・船外活動、月周回ステーション「ゲートウェイ」での操作保全・実験研究・船外活動・月面での滞在・実験研究・船外活動などが含まれる。

カシオ計算機とJAXA、月面基地建設に向け高精度位置測位システムpicalicoによる位置測位の実験を開始

月面基地イメージ ©JAXA

申し込みには、エントリーシートの入力と健康診断書の提出が必要となる。

募集および選抜の実施概要

  • 採用人数:若干名
  • 受付期間:2021年12月20日から2022年3月4日まで
  • 選抜結果発表:2023年2月ごろ

12月1日に行われたオンライン説明会の様子は、こちらから見ることができる。

詳細はこちらを。

 

JAXA認定宇宙ベンチャー天地人、EC・欧州宇宙機関主催の衛星データ国際コンテストにおいて農業関連部門で優勝

JAXAが認定する宇宙ベンチャー天地人は、EC(欧州委員会)とESA(欧州宇宙機関)が主催するビジネスアイデアのコンテスト「Copernicus Masters」のうち、ドイツの農業団体BayWa(バイバ)とともに実施した「BayWa Smart Farming Challenge 2021」において、アジアのスタートアップで初めて優勝を飾った。

Copernicus Mastersの主催者であるCopernicus(コペルニクス)は、ESAが中心となって実施されている地球観測プログラム。Copernicus Mastersには9つの部門があり、BayWa Smart Farming Challenge 2021はそのひとつ。それぞれの優勝者の中から総合賞「コペルニクス・マスターズ」が選出される。

BayWaの課題は、牧草管理、農業および園芸における初期の作物病害の推定、園芸における収量予測の3つ。これに対して天地人は、「衛星データとAIを使って土地の利用を最適化するソリューション」を提案した。審査では、革新性、衛星データ活用サービスを実際に使用するエンドユーザーにとっての付加価値の有無、技術的な実現可能性、市場での実行可能性が評価された。

優勝した天地人には、特典としてBayWaとの協働の機会が与えられたほか、Copernicus Masters総合賞のファイナリストとしての権利が与えられた。総合賞の特典は、ESAのビジネス育成センターからの支援や、協賛企業からのビジネスサポート。さらに賞金と衛星データが贈られることになっている。

天地人は、今回の機会を活用してソリューション開発とグローバルでの販売の強化を目指し、気候変動に対応した農業や土地の特徴にあった農業の実践、CO2排出量削減に向けての取り組みなどを後押しするという。

ワンチップ顕微観察技術MID活用、人工衛星に搭載可能な小型バイオ実験環境開発でIDDKとElevationSpaceが協業


顕微観察装置の研究開発・製造・販売を行うIDDKは11月30日、同社のワンチップ顕微観察技術「MID」を活用した人工衛星に搭載可能なバイオ実験環境の開発を発表した。これは、小型宇宙船を開発するElevationSpaceが2023年に打ち上げを予定している人工衛星への搭載を目指しており、両社はそのための協業を開始した。

IDDKの小型バイオ実験環境「Micro Bio Space LAB」は、微生物や細胞の培養観察を人工衛星内で行うためのもの。MIDを利用することで、培養と観察のための装置を最小化できるという。

搭載する衛星は、「国際宇宙ステーションに代わるプラットフォーム」としてElevationSpaceが開発している100kg級の小型人工衛星「ELS-R100」。東北大学発の宇宙スタートアップであるElevationSpaceは、東北大学で数多くの小型人工衛星を作ってきた知見にもとづき、開発を進めている。

 

スペースデブリ・宇宙ごみ問題に取り組むアストロスケールが約124億円のシリーズF調達、累計調達額約334億円を達成

スペースデブリ問題に取り組むアストロスケールが約124億円のシリーズF調達、累計調達額約334億円を達成

持続可能な宇宙環境を目指し、スペースデブリ(宇宙ごみ。デブリ)除去サービスを含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングス(アストロスケール)は11月25日、シリーズFラウンドにおいて、第三者割当増資による約124億円の資金調達を発表した。過去最大額の調達額という。また6回目となる今回の資金調達により、累計調達額は約334億円となった。

調達した資金により、グローバルに開発するミッションとサービスを躍進させる。安全で費用対効果の高い軌道上サービスに関わる技術開発、日本、英国、米国における量産に向けた自社施設の拡張など、グローバルでの成長が可能になるとしている。

引受先は、日本のTHE FUND投資事業有限責任組合(THE FUND)、日本グロースキャピタル投資法人などをはじめ、英国のセラフィム・スペースインベストメント・トラスト(Seraphim)、フランスDNCAファイナンス傘下の DNCAインベストメント・ビヨンド・グローバル・リーダーズを含む海外投資家グループなど。詳細は以下の通り(50音順)。

  • DNCAインベストメント・ビヨンド・グローバル・リーダーズ(DNCA Invest Beyound Global Leaders)
  • EEI4号イノベーション&インパクト投資事業有限責任組合
  • THE FUND投資事業有限責任組合
  • アクサ生命保険
  • イノベーション・エンジンが運営する3ファンド(IEファスト&エクセレント投資事業有限責任組合、イノベーション・エンジンNew Space投資事業有限責任組合、イノベーション・エンジンPOC第2号投資事業有限責任組合)
  • オプス
  • セラフィム・スペースインベストメント・トラスト(Seraphim Space Investment Trust plc)
  • ソラリス ESG マスターファンド(Solaris ESG Master Fund LP)
  • 千葉道場2号投資事業有限責任組合
  • 日本グロースキャピタル投資法人
  • プレリュード・ストラクチャード・オルタナティブズ・マスターファンド(Prelude Structured Alternatives Master Fund, LP)
  • ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(Yamauchi-No.10 Family Office)
  • ワイズ・インベストメント(Y’s Investment Pte. Ltd.)

アストロスケールは、宇宙機の安全航行の確保を目指し、次世代へ持続可能な軌道を継承するため、デブリ除去サービスの開発に取り組む世界初の民間企業。2013年の創業以来、軌道上で増加し続けるデブリの低減・除去策として、今後打ち上がる人工衛星が寿命を迎えた際や恒久故障の際に除去を行うEOL(End of Life)サービスや、既存デブリを除去するためのADR(Active Debris Removal)サービス、稼働衛星の寿命延命措置(LEX。Life EXtension)、宇宙空間上での宇宙状況把握(ISSA。In Situ Space Situational Awareness)、軌道上サービスの実現を目指し技術開発を進めてきた。

また、長期に渡り安全で持続可能な宇宙環境を目指すため、技術開発に加え、ビジネスモデルの確立、複数の民間企業や団体、行政機関と協働し、規範やベストプラクティスの策定に努めている。

同社は2021年8月、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」(エルサディー。End-of-Life Services by Astroscale – demonstration)の実証において、模擬デブリの再捕獲に成功。現在は、2021年内実施予定となっている次のフェーズとして、捕獲機(サービサー)の自律制御機能を用いた「自動捕獲」に向けて準備を進めている。

日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証プロジェクト(CRD2プロジェクト。CRD2はCommercial Removal of Debris Demonstrationの略称)フェーズⅠの契約相手方として選定されている、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」(アドラスジェー。Active Debris Removal by Astroscale-Japan)の組立作業を2022年前半に開始予定。英国においては、英国宇宙庁による軌道上衛星2機の除去研究プログラムにアストロスケールが選定され、2024年の商用化に向けてEOLサービスの機能充足に努めているそうだ。また、米国・イスラエルのチームはLEXIの開発マイルストーンを順調に達成し、主要な試験を実施している。

JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

現在、日本の宇宙飛行士7名の平均年齢は51歳。今のままでは月周回ステーション「ゲートウェイ」の搭乗が開始される2025年には、定年退職のために人数は4人となり、月面活動が本格化する2030年には2人に減る。そこでJAXAでは、月面探査などの新たなミッションに備えて、宇宙飛行士を若干名募集することになった。だが今回は、これまでと応募資格が大きく緩和された。

JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

申し込みには、エントリーシートの入力と健康診断書の提出が必要となる。

募集および選抜の実施概要

  • 採用人数:若干名
  • 募集開始:2021年11月19日
  • 受付期間:2021年12月20日から2022年3月4日まで
  • 選抜結果発表:2023年2月ごろ

応募資格

  • 2021年度末(2022年3月末)の時点で3年以上の実務経験を有すること。ただし、修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の実務経験とみなす
  • 以下の医学的特性を有すること
    身長:149.5〜190.5cm
    視力、遠距離視力:両眼とも矯正視力1.0以上
    色覚:正常(石原式による)
    聴力:正常(背後2メートルの距離で普通の会話可能)

JAXAが宇宙飛行士に求める人物像は要約するとこうなる。

  • 国際共同事業において多様性を尊重しつつ協調性とリーダーシップを発揮できる人
  • 国際宇宙探査ミッションに備えて、適応能力があり、極限環境でも柔軟な思考と着眼点で適時的確な判断ができる人
  • ミッションで得た経験を世界中の人々と共有する表現力や発信力があり、人類の持続的な発展に貢献できる人。

選抜において評価されるポイントは次の8つ。

  • 宇宙飛行士の職務に対して、明確な目的意識と達成意欲の強さ
  • 宇宙飛行士に求められる任務・訓練に耐えうる健康状態
  • STEM分野の知識や論理的思考力、円滑な意思の疎通が図れる英語能力とともに、教育や実務経験等の中で取り組んできたことにおける専門性
  • ミッション遂行能力(自己管理、コミュニケーション、状況認識、リーダーシップ、問題解決、チームワーク、マルチタスクなど)とともに、緊急事態にも迅速かつ的確に対処する能力
  • 業務環境、技術、社会の急速な進歩や変化に適用する身体能力、精神心理的適応性、強靭性を有し、未経験の知識や技量を速やかに習得する能力、未経験の作業に知識や技量を柔軟に活用して対応する能力
  • 日本人としての誇りを持ち、人文科学や社会科学分野を含む広範な素養と知識を有し、異文化、伝統、価値観に敬意を払う国際的なチームの一員にふさわしい態度
  • 自らの体験や成果などを外部に伝える豊かな表現力と発信力
  • 国内外で求められる高いコンプライアンス意識

今回の宇宙飛行士候補者募集に向けて、JAXAでは一般から意見を募った。そこでは、学歴、専門性を問わないでほしい、女性枠を設けてほしい、任期制やクロスアポイントメントなど働き方を多様化してほしい、選考過程を透明化してほしい、落選者への対応がほしいといった意見が寄せられ、これらを反映しつつ、募集の方針は次のように決められた。

  • 学歴、専門は問わない。泳力、自動車運転免許証などは応募資格から除外
  • 募集人数が少ないので女性枠は設けず、女性応募奨励のための広報関連施策を行う
  • 働き方の多様性は、訓練の従事割合がほぼ100%、海外での訓練もあり難しい
  • 選考過程の透明性は、個人情報保護などを考慮しつつ、可能なものは積極的に公開する
  • 落選者へのフィードバックを検討する

JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

選抜は、書類選考、第0次選抜から第3次選抜まで行われる。その中では、英語、一般教養、STEM(理工系)分野の試験、小論文、適正検査、医学検査、面接、資質特性検査など数々の審査が行われる。JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

選抜後の予定

  • JAXA入社、基礎訓練開始:2023年4月
  • JAXA宇宙飛行士の認定: 2024年度末ごろ(2025年3月ごろ)

選抜された宇宙飛行士候補者は、次の流れで訓練を行うようになる。

  • 国内を中心に宇宙飛行士候補者訓練を受け、宇宙飛行士に必要となる科学や技術の知識、ISS「きぼう」システムの概要などを学ぶ。英語、ロシア語も習得する
  • 候補者訓練の修了後、これらの訓練結果の評価によりJAXA宇宙飛行士に認定される
  • ISS計画に参加する日本、米国、ロシア、欧州、カナダの宇宙機関にてISSの各システムとその操作技術などを学ぶ
  • ISS搭乗が決定すれば、ミッション遂行に必要なISS操作手順、実験操作手順などの訓練と、有人輸送機の操作訓練などを行う
  • 米国が提案する国際宇宙探査(アルテミス計画)、有人輸送機(米国新型宇宙船)、ゲートウェイに関連した訓練を行う

宇宙飛行士として予定されている宇宙活動は、以下のようなものだ。

  • 米国商業宇宙船などへの搭乗、 ISSでの滞在(長期)、ISSおよ「きぼう」システムの操作保全、実験研究、船外活動
  • 米国新型宇宙船への搭乗、ゲートウェイでの滞在(短期)、操作保全、実験研究、船外活動
  • 月面着陸船への搭乗、月面での滞在(短期)、月面での実験研究、月面での船外活動

募集説明会が、「JAXA公式YouTubeチャンネル」において、2021年12月1日18:00〜20:20(予定)に行われる(ライブ配信後はアーカイブ配信)。
JAXAが宇宙飛行士候補者の募集を開始、応募資格を大幅に緩和

本田技研工業がeVTOL、アバターロボット、宇宙技術に向けた計画を発表

本田技研工業は9月下旬、電動垂直離着陸機(eVTOL)、二足歩行ロボット、宇宙技術などの新規事業分野におけるイノベーション計画を発表した。

本田技研工業(HMC)のイノベーション部門である株式会社本田技術研究所(Honda R&D)が中心となり「モビリティの可能性を3次元、さらには時間や空間の制約を受けない4次元、そして最終的には宇宙へと広げて、人々に新たな価値をもたらすテクノロジーへの既成概念にとらわれない研究」を行なっていくという。

まるでSF小説のような話である。こういったイノベーション計画は結局うまく行かずに終わることも多々あるが、説明会で同社は過去73年間にわたって開発し続けてきた燃焼、電動化、制御、ロボティクスなどのコア技術が、これまでのモビリティニーズと大きく異なる未来の目的に適応し、いかに進化を遂げることができるかを論証したのである。

ハイブリッドeVTOLとそれに対応するモビリティ・エコシステム

画像クレジット:本田技研工業株式会社

eVTOLとヘリコプターの違いは、前者がバッテリーからの電力で駆動する独立したモーターを持つ複数のプロペラを備えているのに対し、後者は巨大で騒がしいローターを上部に備えていることである。つまりeVTOLは通常、より安全で静か、そしてクリーンであることになる。

世界中で開発されているeVTOLのほとんどがオール電化であるのに対し、HMCは「自社の電動化技術を活用し、ガスタービンハイブリッドのパワーユニットを搭載したHonda eVTOLを開発する」ことを目標としている。この分野での技術開発を進めていくという計画意図は4月の記者会見で初めて発表されたが、その中でHMCは2050年までに製品を100%EVにするという目標も掲げている。

HMCのコーポレートコミュニケーション担当マネージャーであるMarcos Frommer(マルコス・フロマー)氏はプレスブリーフィングの中で、全電動式のeVTOLは質量あたりのバッテリー容量の関係で航続距離が非常に短いため、新型車両のほとんどのユースケースが都市間移動やシャトル便などの近距離飛行に限られると説明している。2024年までの商業化計画を発表したばかりのJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)でさえ、これまでで最も長いeVTOLのテスト飛行は1回の充電で約150マイル(約241km)だったという。

「当社の市場調査結果によると、eVTOL機での移動における最大のニーズは、航続距離が250マイル(約402km)程度の長距離の都市間移動です」とフロマー氏。「自動車の電動化もあって、ホンダはリチウムイオン電池の研究開発に力を入れています。しかし、現在のリチウムイオン電池をベースに進歩しても、容量あたりのエネルギー密度は今後20年間で数倍程度にしかならないと予想されています。そのため、さらなる軽量化が求められる空のモビリティでは電池だけで長距離を実現するのは難しいと考えています」。

フロマー氏によると、将来的にバッテリーがさらに進化すれば、HMCはガスタービン発電機を取り外してeVTOLをオール電化にすることも可能だという。

ホンダはコアテクノロジーを活用しながら新分野へ取り組み、挑み続けている(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

同社はeVTOLを核に、地上のモビリティ製品と連携した新しい「モビリティ・エコシステム」を構築したいと考えているという。同社の説明会ではアニメーションを使った次の例が発表された。ケープコッドに住むビジネスエグゼクティブが、1つのアプリを使ってハイブリッドeVTOLを予約。ニューヨークのオフィスまでは空路でわずか2時間の距離だ。このアプリはホンダの自律走行車に接続されており、離陸のためのモビリティーハブに向かう間には今日の天気を教えてくれるだろう。着陸すると自律走行のシャトルがビッグアップルで待機していて、オフィスに連れて行ってくれる。仕事が終わり、悠々と帰宅すれば、家族と一緒に自宅のテラスでディナーを楽しむことができるだろう。

「モデルベース・システム・エンジニアリング(MBSE)の手法を用いて、従来のものづくり企業から、システムやサービスの設計・商品化も行う新しい企業へと変革するために挑んでいます。予約システムのインフラ、航空管制、運航、自動車などの既存のモビリティー製品など、さまざまな要素からなる1つの大きなシステムを完成させてこそ、お客様に新たな価値をお届けすることができるのです。これらの要素をすべて弊社だけでまかなうことは不可能であり、多くの企業や政府機関とのコラボレーションが必要になるでしょう」とフロマー氏は話している。

HMCは2023年に試作機による技術検証を行い、2025年にハイブリッド実証機の飛行試験を行うことを予定している。商業化の判断はそれからだ。HMCがそこから進み続けることを決めた場合、2030年までに認証を取得し、その次の10年でローンチできるようにしたいと考えている。同社がTechCrunchに話してくれたところによると、商業化が実現した場合、一度に4人以上の乗客を乗せることができるeVTOLの価格は民間旅客機のビジネスクラスよりも低くなることが予想されている。

「商用化の可能性については、まだ詳細を議論中です。しかし、すべてのお客様が民間旅客機のビジネスクラスよりも安い価格で当社のeVTOL機を利用できるようになるよう努力しています」とフロマー氏は話している。2040年までにはeVTOLが日常化するとHMCは予想しており、それまでに市場規模は約2690億ドル(29兆8800億円)になると予測している。

ホンダのロボット「Asimo」で時空を超えた世界へ

ホンダのアバター・ロボット・レンダリングは、医師が遠隔で患者を助けることを可能にする(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

ユーザーが実際にその場にいなくてもタスクを実行したり物事を体験したりできるという、第二の自分を持つことを可能にする、ホンダによるアバターロボットコンセプトの「Asimo」。ユーザーはVRヘッドセットと、手の動きを正確に反映させることができる触覚グローブを装着することで、アバターを接続して遠隔操作することができる。

「私たちはこれを、2Dや3Dのモビリティを超え、時間と空間を超越した4Dモビリティと位置づけています」とフロマー氏。

Asimoは、世界で通用するような外科医がいない発展途上国では高いニーズを得るであろう遠隔手術や、人が住めない場所や人が到達するのが困難な場所にアバター版の人間を送る宇宙探査などの用途を想定している。

「アバターロボット実現の核となるのが、弊社の強みであるロボット技術を活かして開発された多指ロボットハンドと、ホンダ独自のAI支援の遠隔操作機能です。多指ハンドを使って人間用に設計されたツールを使いこなすことができ、AIによってサポートされた直感的なユーザー操作に基づいて複雑な作業を迅速かつ正確に行うことができるアバターロボットを目指しました」と同社は話している。

トヨタ自動車にもテレプレゼンスでコントロールできる同様の二足歩行アバターロボットT-HR3があり、テスラも最近人型ロボットの計画を発表している(テスラのロボットは遠隔操作技術をベースにはしていないようだが)。もしホンダがAsimoの計画を進めるならば、操作を容易にするためにも、ロボットの学習のためにも、遠隔操作の利用は理に適っている。ロボットに動作を直接行わせるというのは、ロボットを訓練する上で最良の方法なのかもしれない。

同社は2030年代にはAsimoを実用化したいと考えており、2024年3月期末までにテストを実施したいと考えている。

宇宙技術の研究・開発を強化する

循環型の再生可能エネルギーシステム(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

同社はさらに宇宙技術分野、特に月面開発の研究開発を加速する計画も発表した。その中で少し触れたのが、同社が以前発表した循環型再生可能エネルギーシステムだ。6月、本田技術研究所と宇宙航空研究開発機構はこのシステムの共同事業化調査を発表した。月面上の基地や惑星探査機に酸素、水素、電気を供給し、人間が長期間にわたって宇宙で生活できるようにすることを目的としたシステムについてである。このシステムは、ホンダの既存の燃料電池技術と高差圧水電解技術を活用したものだという。

同社は宇宙飛行士が宇宙に飛び出す際のリスクを最小限にするために、月面で遠隔操作のロボットを使うこと、さらには地球からバーチャルで月を探索できるようにするということも検討している。月面用ロボットには、アバターロボットで開発中の多指ハンド技術や、AI支援の遠隔操作技術に加え、ホンダが衝突被害軽減のために使用しているトルク制御技術が搭載される予定だ。

同社はまた、再利用可能なロケットの製造に向けて、流体や燃焼、誘導、制御などのコア技術を役立てたいと考えている。

「このようなロケットを使って低軌道の小型衛星を打ち上げることができれば、コネクテッドサービスをはじめとするさまざまなサービスにコア技術を進化させることが期待できます」とフロマー氏はいう。「これらのサービスはすべて、ホンダの技術と互換性を持つことになるでしょう」。

フロマー氏によると、同社はロケット製造を夢見る「若いエンジニア」たちに、2019年末に研究開発を開始する許可を与えたという。ホンダは宇宙に関するいずれの取り組みについても、それ以上の具体的な内容を明らかにしていない。

画像クレジット: Honda Motor Company

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

NASAが女性初の月面歩行を実現する宇宙飛行士を描くARコミック公開、次世代人材の獲得に向けた取り組み

NASAが女性初の月面歩行を実現する宇宙飛行士を描くARコミックを公開、次世代人材の獲得に向けた取り組み
米国では9月25日をコミック本を祝う日”Nationlal Comic Book Day”としてイベントなどが行われていましたが、これに合わせてNASAは、デジタル・インタラクティブ・ノベル「First Woman: NASA’s Promise for Humanity」を公開しました。これは月面探査をする女性宇宙飛行士キャリー・ロドリゲスを描いた架空の物語で、アルテミス計画において、女性で、なおかつ有色人種として、初の月面歩行を実現するという歴史的偉業を達成するというあらすじ。

作品は40ページのコミック版では月への宇宙旅行、着陸、月面探査に使われるNASAの技術が紹介されていて、ブラウザーで読んだり、PDFでダウンロードもできます。また音声バージョンもSoundCloudなどで聴くことが可能です。

そしてモバイルアプリで提供されるデジタル版(Android版iOS版)では、拡張現実(AR)要素を盛り込んだインタラクティブな体験が提供され、読者は実物大であったり3DでOrion宇宙船や月面探索などができるようになります。そのほかにもゲームや動画をプレイまたは視聴したり条件を満たしてバッジを取得したりして楽しめるようになっています。

作品は次の飛行士になる世代に宇宙への興味を持ってもらうことを目的としたもので、NASA宇宙技術ミッション部門のコミュニケーション・ディレクター、デレク・ワン氏は「このグラフィック・ノベルとデジタル・エコシステムは、これまでにない刺激的な方法でNASAの仕事を知っていただくために制作しました。魅力的で親しみやすいコンテンツは幅広い年齢層の宇宙ファンから、STEM教育の新しい方法を探している熱心な教育者まで、誰にでも楽しんでいただける内容になっています」と述べています。

子供向け、と言ってしまえばそれまでかもしれませんが、コンテンツにはNASAの長期的な計画もわかりやすく記されているとのことなので、興味があれば見てみるのも良さそうです(ただしすべて英語です)。なお、NASAはこのコンテンツのスペイン語版も提供する予定とのこと。スペイン語のほうが得意ならそちらをお待ち下さい。

(Source:NASA(1)(2)Engadget日本版より転載)

NASAが宇宙空間でゲノム編集技術「CRISPR」実施に成功、微重力下でのDNA損傷修復メカニズム研究

ASAが宇宙空間でのゲノム編集技術「CRISPR」実施に成功、微重力下におけるDNA損傷の修復メカニズムを研究する方法を開発

Sebastian Kraves and NASA

NASAの宇宙飛行士クリスティーナ・コック氏は、CRISPR-Cas9と呼ばれる遺伝子編集を宇宙空間で行うことに初めて成功しました。

この実験では、ISS内で培養した酵母の細胞のDNAに、二本鎖切断と呼ばれる特に有害なDNA損傷を生じさせ、放射線などによる非特異的な損傷では得られない、微重力状態におけるより詳細なDNA修復メカニズムを観察しました。コック飛行士は2020年2月に地上へ帰還しており、実験もそれ以前に完了していたものの、その結果が出るのについ最近までかかったとのこと。

重力のない、またはほとんどない場所での長期間の生活は、様々な場面で生命活動に変化をもたらす可能性があります。とくに地磁気による保護のない宇宙空間では飛行士は常に宇宙線(地球外の宇宙空間からの放射線で、生物へ大きな影響をもたらす重粒子線を多く含む)に晒されることになり、それによるDNAへの影響は避けられません。

そのため、この実験を足がかりに宇宙空間でのDNA修復にまつわるさらに多くの実験研究への道が開かれ、十分な知見が蓄積されれば、将来の有人火星探査やさらに深宇宙への有人探査が現実的なものになるかもしれません。

今回の研究は、宇宙でCRISPR-Cas9によるゲノム編集に成功した初めての例であり、生きた細胞に外部からの遺伝物質を取り込ませる形質転換に成功した初めての例でもあります。そして将来の研究で、電離放射線によって引き起こされる複雑なDNA損傷をよりよく模倣してさらに研究を重ねられるようになることが期待されます。人類が火星やその先へと向かうのに、CRISPR-Cas9が重要な役割を担うことになるかもしれません。

(Source:EurekAlertEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:バイオテック
タグ:医療(用語)宇宙(用語)宇宙開発(用語)CRISPR(用語)健康 / 健康管理 / ヘルスケア(用語)DNA / 遺伝子(用語)NASA(組織)

超新星爆発の可能性が調査されていたオリオン座ベテルギウスの減光現象は「一時的な温度低下と塵の雲」との研究報告

超新星爆発の可能性が調査されていたオリオン座ベテルギウスの減光現象は「一時的な温度低下と塵の雲」との研究報告

ESO/M. Montargès et al

2019年末、天空で最も明るい星の1つであるベテルギウスが数か月間にわたって暗くなったとき、一部の天文学者はそれが超新星爆発の徴候ではないかと述べました。しかし、その後この赤く光る星は元の明るさに戻っています。

ではなぜ、当時この”The Great Dimming”と呼ばれる減光現象が発生したのか。その理由についての研究結果が報告されています。

ベルギーのルーベン・カトリック大学の宇宙物理学者エミリー・キャノン氏は、チリにあるVery Large Telescope(VLT)を使った観測結果から、原因はほぼ確実に地球とベテルギウスの間に巨大な塵の雲がかかったからだったと結論づけています。

研究チームは偶然にも減光が発生する数か月前の2019年1月にこの星の画像を撮影しており、その画像と減光が始まってからの2019年12月、2020年1月の3月に撮影した画像を比較することができました。

研究者らは、減光はベテルギウスの表面で一様ではなく、その南半球に暗い斑点が集中していたと報告しています。これは一時的また局所的にベテルギウスの表面温度が低下したために起こった減光現象だと推測されました。

一方で別の研究者らは、我々の住む星とベテルギウスの間に塵の雲が入ったため、夜空の月に雲がかかるようにその光が遮られた可能性を考えました。

そして天体物理学者のMiguel Montargès氏は「最も自然な結論は、両方の事象が起こったということです」と述べました。

現在のチームの仮説では、2019年後半にベテルギウスの南半球表面に一時的なコールドパッチが形成され、その冷却効果で一帯が暗くなったと考えられています。さらに、このコールドパッチによって星の表面から放出されたガスが冷えたことで塵の粒子が形成され、星の光がさらに遮られることになったと考えられます。

ただ、この報告に対して懐疑的な研究者もいます。

独マックス・プランク天体物理学研究所のThavisha Dharmawardena氏は、減光の際に塵の痕跡を探したものの、見つけることはできなかったとして「塵の証拠が得られるまで議論は続くだろう」と述べています。この意見に対してMontargès氏は「塵が見えなかったという人はおそらく誤りで、彼らが手にしているデータでは塵を見ることができないだけだ」と反論しました。

超新星爆発現象を見たいと思った人には残念かもしれませんが、今回の現象はベテルギウスが寿命を迎えようとしていることを示すものではなさそうです。

ではそれはいつ起こるのか?との問にMontargès氏は「それは今日ではないでしょう」と述べつつ「毎日、その日に近づいていることは間違いありません。しかしそれは今日でも明日でもなく、われわれが生きている間でもないでしょう」と付け加えました。

天文学的な時間でいえば”もうすぐ”でも、われわれ人間の尺度ではそれが数万年、数十万年だったりする可能性は大いにあります。

(Source:Nature。Via ScienceNewsEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:宇宙
タグ:宇宙(用語)天文学(用語)中性子星(用語)ブラックホール(用語)

JAXAが有人与圧ローバー実現に向け変形型月面ロボットによる月面データ取得の実施決定、タカラトミー・ソニー・同志社大と共同開発

JAXAが「有人与圧ローバー」実現に向け変形型月面ロボットによる月面データ取得の実施を決定、タカラトミー・ソニー・同志社大と共同開発

変形型月面ロボット(左:変形前、右:変形後)

JAXAは5月27日、月面での人の移動に使われる「有人与圧ローバー」の実現に向け、月面でのデータ取得を行うと発表した。これには、JAXA、タカラトミー、ソニー、同志社大学と共同開発する変形型月面ロボットが使われ、月面投入はispace(アイスペース)が2022年に打ち上げを予定している月着陸船が使われる。

JAXAは、2019年から有人与圧ローバーの概念検討を行っており、自動運転技術や走行技術の詳細を検討するためには月面の画像データなどが必要だと判断した。そこでispaceの月着陸船で変形型月面ロボット1機を月面に送り込み、レゴリス(月面の砂)の挙動や画像データを月着陸船経由で地上に送ることを決めた。取得したデータは、有人与圧ローバーの自己位置推定アルゴリズムの評価、走行性能へのレゴリスの影響評価などに用いられる。ispaceの月着陸船は、変形型月面ロボットを月に送り込みデータ通信を行わせる目的で、競争入札により選定され2021年4月に契約を締結したもの。

ispaceの月着陸船

変形型月面ロボットは、2016年に実施された第1回JAXA宇宙探査イノベーションハブ(Tansax)の研究提案公募でタカラトミーによって提案された重量約250gの自走型の超小型ロボット。月着陸船には、直径約8cmの球状になって搭載され、月面に展開された後に走行用の形状に変形して活動を行う。

2016年よりJAXAとタカラトミーが筐体の共同研究を開始し、2019年にソニー、2021年に同志社大学が参加した。タカラトミーと同志社大学の筐体の小型化技術、ソニーによるSPRESENSEを使った制御技術、JAXAの宇宙環境下での開発技術と知見がそれぞれ生かされている。

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カテゴリー:宇宙
タグ:ispace(企業)宇宙(用語)SPRESENSE(製品・サービス)Sony / ソニー(企業)JAXA / 宇宙航空研究開発機構(組織)タカラトミー(企業)同志社大学(組織)日本(国・地域)

「宇宙ビッグデータ米」が2021年中に販売予定、宇宙領域の天地人・農業IoTの笑農和・米卸の神明が栽培着手

「宇宙ビッグデータ米」が2021年中に販売予定、宇宙領域の天地人・農業IoTの笑農和・米卸の神明が栽培着手

JAXA認定の宇宙領域スタートアップ「天地人」は4月6日、スマート水田サービス「paditch」(パディッチ)を提供する農業ITスタートアップ笑農和(エノワ)、米卸大手の神明と協業し、「宇宙ビッグデータ米」の栽培に着手すると発表した。

現在日本の農業は、生産者の高齢化にともない農業就業人口は減少傾向にあり、今後の供給力が懸念されている。天地人と神明と笑農和の3社は、「米が足りなくなる」という共通の危機感を持っているという。そこで3社は、将来的なコメの生産増につながる農業施策として、宇宙の技術を活用した農業を確立するプロジェクト「宇宙ビッグデータ米」を立ち上げ、栽培に着手するとした。

同プロジェクトは3社の強みを活かしており、以下の特徴を備えるとしている。

  • 地球観測衛星のデータを活用した天地人の土地評価エンジン「天地人コンパス」を採用。収穫量が増える圃場(ほじょう。農産物を栽培する場所)や、よりおいしく育つ可能性のある圃場を見つける
  • スマホで水管理を自動化できるpaditchを活用し、適正な水温・水量を維持することで、よりおいしい米を多く栽培する
  • 神明の直営店「米処 穂」で販売予定

宇宙ビッグデータ米の目的のひとつは、「気候変動に対応したブランド米をつくる」ことという。そのため、同タイミング同地域で「天地人コンパス」を使い見つけた圃場にpaditchなどテクノロジーを活用する方式と、従来方式とで栽培を行い、食味や収量などの比較を行う予定としている。

また近年、地球温暖化によって「高温障害」が多発しており、米の外観品質の劣化と食味の低下が懸念されているという。この問題に関しては、圃場選びや水管理で回避できると考えており、今回の栽培方法が有効かを実証する。

天地人は、JAXA職員と農業IoT分野に知見のある開発者が設立した宇宙領域スタートアップ。天地人コンパスを使い、衛星データからビニールハウス内の作物に対する日射量を推定するプロジェクトや、キウイフルーツなどの作物の新規圃場の検討など、農業に関わるプロジェクトを実施している。

神明は、「私たちはお米を通じて、素晴らしい日本の水田、文化を守り、おいしさと幸せを創造して、人々の明るい食生活に貢献します。」の企業理念のもと、基幹事業である米穀事業に加え、無菌包装米飯・炊飯米などの加工食品の製造販売、水産品や青果流通への参入、外食事業の展開など、食に関わる多彩なビジネスを展開している。

笑農和は、「IT農業を通じて笑顔の人の和を創り社会に貢献する」を企業理念に掲げ、全国でスマート農業機器の販売と農業コンサルティングを展開。稲作工程中で最も時間と労力を使う「水管理」工程に着目し、スマホで水管理が行えるるpaditchシリーズを販売している。

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カテゴリー:フードテック
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宇宙で活躍するロボット労働力の供給を目指す日本のGITAIが18億円の資金調達を完了

日本の宇宙ロボットスタートアップ企業GITAI(ギタイ)はシリーズBラウンドとして総額18億円の資金調達を完了したと発表した。今回の調達で得た資金は雇用に充てられる他、同社のロボット技術が宇宙空間における衛星サービス業務で有効であることを示すための、軌道上実証ミッションに向けた開発と実験に使われる。このミッションは2023年に実施される予定だ。

GITAIは特に米国で人員を増強し、米国市場進出によるビジネス拡大も目指している。

「日本市場では順調に進んでおり、我々はすでにいくつかの日本企業からミッションを請け負っていますが、米国市場にはまだ進出していません」と、GITAIの創業者でCEOを務める中ノ瀬翔氏は、インタビューで説明している。「そのため、まずは下請けとして、米国の民間宇宙企業からミッションを受注したいと考えています。私たちは特に軌道上でのサービスに関心があり、米国の軌道サービスプロバイダーに汎用ロボットのソリューションを提供したいと考えています」。

中ノ瀬氏によると、GITAIは軌道上の人工衛星にハードウェアを取り付けることができるロボットを開発した経験が豊富で、既存の人工衛星や衛星コンステレーションに新たな機能を付加するアップグレードを施したり、電池を交換して人工衛星の寿命を延ばしたり、人工衛星が故障したときに修理したりするのに役立つ可能性があるとのこと。

しかし、GITAIが注目しているのは、宇宙という真空における船外活動だけではない。同社は国際宇宙ステーションに初めて常設された商業用商業エアロックモジュール「Bishop(ビショップ)」を使って、NanoRacks(ナノラック)社と共同でロボットによる汎用作業遂行技術実証も行っている。

GITAIが開発した「S1」は、地球上の産業用ロボットのようなアーム型ロボットで、制御盤の操作やケーブルの交換など、さまざまな能力を披露している。

長期的には、軌道上だけでなく月や火星にも基地やコロニーを建設することを支援できるロボット労働力を作ることが、GITAIの目標だ。NASAは月の地表や月の軌道上にも恒久的な研究拠点を構築する計画を立てており、最終的には火星に到達することを目指している。SpaceX(スペースエックス)やBlue Origin(ブルーオリジン)のような民間企業は、商業活動を視野に入れ、火星に恒久的なコロニーを建設したり、人間を収容する大規模な宇宙空間のハビタットを作り上げることにも目を向けている。ゆえに、低コストで効率的なロボット労働力の必要性は、特に人間の生命が危険な環境において、大いに高まる可能性があると、中ノ瀬氏は考えているという。

中ノ瀬氏は母親を亡くした後、実際にGITAIを起ち上げたと筆者に話してくれた。この不幸な死は、ロボットの介入があれば回避できたと彼は確信しているという。中ノ瀬氏は人間の能力を拡張・増強できるロボットの開発に着手し、この技術が商業的な観点から最も有用で必要とされているアプリケーションは何かを研究した。その結果、宇宙こそが新しいロボット工学スタートアップにとって最良の長期的な好機になると中ノ瀬氏は結論づけ、GITAIが誕生した。

今回の資金調達は、SPARX Innovation for the Future Co. Ltd(スパークス・イノベーション・フォー・フューチャー株式会社)が主導し、DCIベンチャー成長支援投資事業有限責任組合、第一生命保険株式会社、EP-GB投資事業有限責任組合(エプソンのベンチャー投資部門)からも出資を受けている。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:GITAI資金調達宇宙

画像クレジット:GITAI

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)