定額映画鑑賞サービスSinemiaの急成長と苦情、そして集団訴訟

Sinemiaが初めて私たちの目にとまったとき、同社はうまいことMoviePassの悪評の波に乗っていた。その最大のライバルが歴史的な崩壊とも言える最悪の状況にあったため、SinemiaはMoviePassに代わる信頼性の高い定額映画鑑賞サービスという称号に甘んじていた。

昨年7月、MoviePassのメルトダウンが最高潮に達していた時期に、私たちはSinemiaのCEOであるRifat Oguz氏から、同じ轍を踏まないための方策を聞いている。「無制限にチケットを提供しないことです。9.99ドルで2枚に限定し、しかし、より柔軟なオプションや機能を持たせます。我々はMoviePassのような急成長はできないかも知れませんが、より持続的に成長を続けられると思います」と彼は、双方の会社の違いを得意げに比較して答えた

もうひとつ、SinemiaとMoviePassの大きな相違点として、Sinemiaは株式公開をしなかったことがある。そのため、この数年間、Sinemiaが奮闘してきたことは、ほとんど外部に知らせていない。だが、完全にではない。このソーシャルメディアの時代では、そうはいかない。先週掲載した記事で私が伝えたように、Sinemiaの自社サイトで公開される話はどんなに小さなものであれ、Twitterでの洪水のような苦情の総攻撃を受ける。

一見しただけでも、広範にわたる批判が長々と掲載されている。SinemiaのTwitter対応部門は残業してまでこれらに対処しようとしているのは明らかだが、これほど大量の苦情は、私の記者歴のなかでも見たことがない。

苦情の内容は、主に次の3つに分類されるが、重複するものもある。

  1. 知らされていない料金
  2. アカウント停止されても返金がない
  3. アプリの広範な問題

先週初め、彼らのサービスに関する現在進行中の問題について、Oruz氏から話を聞いた。先週ラスベガスで開かれたSinemiaConに駆けつける直前の会議と会議の間に無理矢理時間を空けてもらっての短時間の取材だった。

「CEOとして言えるのは、私たちはまだ勉強中だということです」と彼は控えめな口調で言った。「私たちは、これから学んでいくのだと思います」。

前にお伝えしたとおり、Sinemiaは「2つの新しい消費者向けのサービス・ウェブサイト」を立ち上げるという広報資料を公開した。それは、企業がよく電子メールで自慢げに発表するといったものとは様子が違う。むしろ、大量の批判的な意見によって、Sinemiaは、非常に口うるさい怒った登録利用者への対応策を、よく目立つ方法で積極的に公開せざるを得なくなったことが見てとれる。

それは、新しい月額15ドルのAlways Unlimited(常に無制限)プランの発表と、「詐欺行為やサービスの不正利用」によるアカウント停止という3月に実行された強行策を説明する長々とした「アカウント停止に関するメディア発表」を反映している。

MoviePassも以前行っているが、Sinemiaは、利用規約に違反した者やシステムを悪用する者のアカウントを一斉に停止する行動に出た。その週に発表された声明では、アカウント停止の理由を、以下のように示している。

  • 想定された目的の他に、Sinemiaのカードまたはカードレスを認可されない形で使用し、不正な金融活動を招いた。たとえばこれを使えば、映画館で映画チケットではなく商品を購入できる。
  • 同じデバイス上で複数のSinemiaアカウントを使った。
  • 映画の前または後に映画館にチェックインしなかった。
  • 同じ映画を3回以上観た。
  • 同一の人間が3つ以上のSinemiaアカウントを作った。
  • 一人のSinemia会員権で他人にチケットを買った。購入したチケットの他人への転売の他に、自分のチケットを友人や家族に分け与えることも含まれる。
  • 位置情報を操作してチケットを不正に入手した。たとえば、電話機のGPSデータを改ざんするなど。
  • 詐欺または悪用と判断される正当な疑いがあった。

先月、この解約に対する批判が急激に増加したが、実は同サービスへの苦情はもっと前から続いている。2月、ペンシルベニア州の法律事務所Chimicles Schwartz Kriner & Donaldson-Smithは、デラウエアでクラスアクション(集団訴訟)を起こした(進行中のMoviePassによる特許訴訟とは別の話)。現在はロサンゼルスとトルコに拠点を移しているが、Sinemiaはもともとペンシルベニアで設立されている。

50ページにおよぶ訴状には、直裁にこう書かれている。「Sinemiaのサービスを利用して登録利用者が映画館に行った際に、非公開の、説明のない、予期しない手数料を、Sinemiaは消費者にふっかける」

Sinemiaに対する集団訴訟の弁護士であり原告の一人であるBenjamin F. Johns氏は、同社は、現在および過去のSinemia登録利用者から2000件以上の苦情を受け取っていると、TechCrunchに話した。

「私たちは訴訟戦略を大幅に透明化していくつもりです。私たちは、同じ欠陥事業により同様の被害を被ったすべてのSinemia消費者で構成される類型を認定し、できるだけ早く陪審員の前に示したいのです」と、TechCrunchに向けた声明でJohns氏は書いている。「私たちのクライアントも、数千人の同様の人たちも、見逃せない体験をしています。それを法廷で話す機会を待ち望んでいます」

2000件という数は多いのかどうかを尋ねると、Oguz氏は手短にこう答えた。「いえ、私たちのユーザーベースからすれば小さな数です」。公開会社ではないため、Sinemiaにはそうした数字を公表する義務はない。彼もはっきりとした数は示さなかった。ただ、「この15カ月間、毎月ほぼ50パーセントの伸び率を示しています」とだけ話した。

Oguzも、Sinemiaのアプリに関する利用者からの苦情の増加を認めている。それは、サービスに関する他の現在進行形の問題と同様、全域に及ぶものだ。中でも、最も多く見かけるのが、料金の二重取り、エラーメッセージ、アプリに頻繁に表示される「メンテナンスのため停止中」というメッセージだ。

利用者によると、こうした問題は、「キャプテン・マーベル」や「アス」といった人気タイトルのチケットを買おうとするとよく発生するという。Oguz氏は先日IndieWireのインタビューに応えているが、同誌は彼について「ときには(中略)異論を唱える」、さらにいくつかの苦情を読み聞かせると「驚いた表情を見せた」と書いている。

私たちの会話は、最後まで、IndieWireのインタビューのような喧嘩腰になることはなく、それどころかOguz氏は、Sinemiaのアプリに問題があることを認めた。アプリの問題が「非常に広範におよぶ」という前提に同意して、彼は「そうだね」と答えている。

Sinemiaが2つの独立したサービス用ウェブサイトを立ち上げ、アプリの問題への対処とアカウント停止を扱うことにしたのはそのためだと、彼は説明している。「私たちは真剣に受け止めています」と彼は主張した。「すべての意見に目を通しています。昨日や今日、生まれた会社ではありません。設立から5年が経っています。否定的なコメントを、とても真剣にとらえています」。

少なくとも、係争中の訴訟とTwitterやRedditの足の踏み場もないほどの利用者からの苦情が、同社の動きに影響している。Sinemiaがどれほど、またどのように不満を抱える利用者に近づいて対処していくかは、これからの問題だ。だがMoviePassがそうであったように、これほど多くの悪評が立ってしまうとこれから名を成そうとしていた会社に消えることのない傷跡が残り、そのイメージを拭い去ることは難しくなる。言うまでもなく、その後には怒れる利用者も残される。

Oguzの意見は、Ted Farmsworth氏の話と重なる。彼はMoviePassの親会社であるHelios and MathesonのCEOだ。彼は先日のインタビューで、同社のサービスは自身の成長の犠牲になったと語っている。サービスが急成長し、従業員の手が追いつかなかったのだという。

同じようなことをOguz氏は私たちに話した。「私たちの利用者数の伸びは予想を超えています。とくに去年の8月からは、あれほど多く、あれほど早く伸びるとは思ってもみませんでした。成長に従い、私たちは自分自身を改善し、長続きできる道を探っています」

これだけの成長についてゆくことは、かなりの苦労があったはずだが、この会社の最大の挑戦はまだ先にある。それは、不満を抱える数千人のファンを、そしてできれば法廷を、最悪の時期は過ぎたと説得することだ。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

Spotifyの遅すぎる日本ローンチ、先行サービスに追いつくことができるか

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音楽ストリーミングサービスSpotifyがついに日本でも利用できるようになる。本日、スポティファイジャパンは記者会見を行い、SpotifyのファウンダーでCEOのダニエル・エク氏はSpotifyの日本ローンチを発表した。Spotifyのウェブサイトではサービスの受付を開始し、徐々にユーザーを受け入れていくという。

改めて紹介すると、Spotifyは2006年にスウェーデンで創業し、2008年10月より音楽配信サービスを展開している。現在60カ国で展開し、アクティブユーザーは全世界で1億人以上のユーザーだ。その内有料会員は4000万人以上という。日本でも数年前からローンチ間近と伝えられながら、なかなか実現せず、ようやく本日の正式ローンチに至った。

SpotifyのファウンダーでCEOのダニエル・エク氏

会見に登壇したエク氏は「日本にはとてもユニークな文化があります。世界中のアーティストと日本をつなぎ、そして日本のアーティストを世界中の聴衆とつなげられることを嬉しく思います」とSpotifyのローンチについてコメントした。

Spotifyの日本版のサービスでは国内、海外の楽曲合わせて4000万以上の楽曲を提供する。Spotifyはモバイル、タブレット、パソコンのいずれからでも利用できるが、今回新たにPlayStation®4(またはPlayStation®3)からも楽曲を視聴できるようになった。

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Spotifyのデモの様子。多種多様なプレイリストが並ぶ

Spotifyの最大の特徴は、ユーザーにぴったりの楽曲を提案する機能が充実している点だ。ジャンルごとに多様なプレイリストを用意していて、利用可能なプレイリストは20億本以上あるという。日本では、「Best of J-ROCK」や「トウキョウ・スーパー・ヒッツ」など、日本の音楽業界に精通するエキスパートが選んだプレイリストも用意している。もちろん、ユーザーは自分で好みの曲を集めたプレイリストを作成することができ、友人と簡単にLINEやSNSでプレイリストを共有することが可能だ。

Spotifyの人気機能は、ユーザーの視聴履歴に基づいてパーソナライズされる2つのプレイリスト「Discover Weekly」と「Release Radar」だ。Discover Weeklyはユーザーの好みの楽曲をキュレートするプレイリストで、毎週月曜日に更新される。4000万人以上がこのプレイリストを視聴しているとSpotifyは言う。一方のRelease Radarは、毎週金曜日に更新され、ユーザーの好みに合う新リリースの楽曲をキュレートする。

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日本版のSpotifyでは世界に先駆け、歌詞機能を展開するとSpotifyは言う。日本ではカラオケが人気で、歌詞を見ながら楽曲を楽しむ文化がある。Spotifyはそういったユーザーのニーズに合わせて歌詞機能を開発したという。この他にもランニング時にユーザーの走っているペースに合わせて楽曲が聴ける機能やゲーム音楽も充実している。

気になる料金体系だがSpotifyは、無料プラン「Spotify Free」と月額980円(税込)の有料プラン「Spotify Premium」を用意している。無料プランは広告モデルだが、最新のトップチャートやプレイリストの視聴などSpotifyの基本的な機能を利用することができる。

Spotify Premiumには広告はなく、楽曲をダウンロードする機能でネット環境のないところでも音楽を楽しめたり、高音質(320kbps)の楽曲を聴いたりできるのが特徴だ。また、「Spotify Connect」を使用することで車内での視聴も可能になる。Spotify Premiumは30日間無料で試すことができる。

また、今回の会見では、アマゾンジャパンでバイスプレジデント、Kindle事業本部統括事業本部長を務めた玉木一郎氏が2016年10月1日付で、スポティファイジャパンの代表取締役に就任することを発表している。

日本でSpotifyをローンチするのに4年の準備期間がかかったとSpotifyは話していた。だが、その準備期間の間に、複数の国内プレイヤーとグローバルに展開する音楽ストリーミングサービスが日本でローンチを果たしている。国内プレイヤーには、サイバーエージェントとエイベックス・デジタルとの共同出資による音楽配信サービス「AWA(アワ)」やコミュニケーションアプリ「LINE」が展開する「LINE MUSIC」が筆頭にあがる。日本でサービスを展開する世界的なプレイヤーには、Apple MusicGoogle Play Musicがある。AppleとGoogleに関しては、iOSとAndroidのプラットフォームを生かしたサービス展開ができるという大きな強みがある。国内で展開する音楽配信サービスのダウンロード数/会員数及び料金プランについて、TechCrunch Japan編集部で以下のようにまとめたので、参考にしてほしい。

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日本でローンチ済みの主要な音楽配信サービスの比較表

先行ローンチすることが、どのくらい音楽配信サービスにとって重要な要素となるかはまだ定かではない。だが、今使っているサービスを気に入って、プレイリストなどをカスタマイズしているユーザーは、新たに別のサービスに登録して、またゼロから自分好みの曲を集めたりするのを手間に感じるということは十分に考えられる。

Spotifyの日本参入は1年近く遅れを取っている上、比較すると価格もさほど他のサービスと変わらない。有料会員数でSpotifyは世界のトップを走るものの、Spotifyが今後他の先行サービスとの遅れをどのように取り戻せるかに注目したい。