人工沈香の開発につながる「沈香」の香り成分を生み出す重要な酵素を世界で初めて発見

人工沈香の開発につながる沈香の香り成分を生み出す重要な酵素を世界で初めて発見

富山大学は1月17日、数が激減している高級香木、「沈香」(じんこう)の香り成分を生み出す酵素の解明に、世界で初めて成功したと発表した。沈香の香り成分がどのようにして植物の中で組み立てられるかを明らかにしたこの発見が、香り成分を生産する人工沈香の栽培につながるという。これは、東京大学大学院薬学系研究科北京中医薬大学北京大学との共同研究によるもの。

沈香の香り成分は、ジンチョウゲ科ジンコウ属の牙香樹、沈香樹、沈香木から生み出され、香料としてはもちろん、精神作用を持つ生薬としても珍重されている。しかしそれは、細菌の感染や摂食生物の脅威にさらされたときにのみ生産され、長時間そのような状態に置かれることで十分に蓄積されるというものだ。その木があっても、こうした条件が整わなければ香り成分は得られないため、希少性が高い。人工的にストレスを与える試みもなされているが、なかなかコストに見合わない。稀少な故に密栽も絶えず、さらに数を減らしているのが現状だ。

研究グループは、牙香樹の培養細胞にストレスを与え、香り成分と相関して発現する酵素遺伝子を発見した。そこから遺伝子技術を用いてその遺伝子が牙香樹の香り成分の基になる化合物を生み出すことを突き止め、沈香の香り成分の生産に関わる酵素を明らかにできた。

この酵素がわかったことから、牙香樹などの植物にストレスを与えたときの酵素遺伝子の発現を詳細にモニタリングすることで、香り成分の生産と蓄積が予想できるようになるという。この酵素遺伝子が発現しやすいストレス条件を解明すれば、香り成分を多く含む人工沈香の栽培も可能になると、研究グループは期待している。

富山大学、乾電池1本で発光する高輝度で低電圧な有機ELを開発

富山大学、乾電池1本分の電圧約1.5Vで発光する高輝度で低電圧な有機ELを開発

富山大学分子科学研究所は、乾電池1本分の起電力でディスプレイ並みの明るさで光る世界最小電圧の有機ELを開発したと発表した。これにより市販の有機EL製品の駆動電圧を大幅に低減でき、省エネルギー化につながる可能性がある。

有機ELは、PCやスマートフォンなどの高画質な画像を映し出すディスプレイとしてだけでなく、面発光光源でもあり、柔軟な被膜への製膜も容易ということで次世代照明としても期待されているが、駆動電圧が高い。600nm程度のオレンジ色の光をPCのディスプレイと同等の明るさ(100cd/m2。100カンデラ毎平方メートル)で点灯させるには、およを4.5Vの電圧(乾電池3本分)が必要となる。これに対して伊澤誠一郎助教らによる研究グループは、乾電池1本分のおよそ1.5Vでその明るさを得ることに成功した。

画像左(a):界面でのアップコンバージョン過程を利用した有機ELの構造。画像右(b):新たに開発した有機ELに用いた分子の構造

画像左(a):界面でのアップコンバージョン過程を利用した有機ELの構造。画像右(b):新たに開発した有機ELに用いた分子の構造

研究グループが開発した方式は、2種類の有機半導体材料(発光層と電子輸送層)を重ね合わせたその境界でアップコンバージョン(電子と正孔が結合した励起子が衝突して高エネルギーの励起子となって発光する過程)を起こさせるというもの。ちなみに従来の方式は、発光層を電子輸送層と正孔輸送層で挟んでアップコンバージョンさせている。富山大学の方式では、さらに電子輸送層に結晶性の高いペリレンジイミドを使いて界面での有機分子同士の相互作用をコントロールし、発光層にペリレン蛍光体を加えて発光を促進させるといった工夫で、従来方式に比べて約70倍の発光効率を実現させた。

画像左(a):有機ELデバイスの発光輝度-電圧特性。画像右(b):乾電池1本で高輝度発光を実現した写真

画像左(a):有機ELデバイスの発光輝度-電圧特性。画像右(b):乾電池1本で高輝度発光を実現した写真

研究グループでは、発光プロセスの変換効率のさらなる向上、駆動電圧の低減と発光効率の「高いレベルでの両立」を目指すと話している。