NICT、カメラ1台で動作や表情も再現可能な自分のデジタルツイン・3Dアバターを構築する技術「REXR」開発

NICT、カメラ1台で動作や表情も再現可能な自分のデジタルツイン・3Dアバターを構築する技術「REXR」開発

細やかな表情の変化を様々な方向から再現した3Dアバター

情報通信研究機構(NICT)は3月14日、たった1台のカメラの画像から自分のデジタルツインとなる3Dアバターをモデリングし、細かい表情や動作も三次元的にリアルに表現できる技術「REXR」(レクサー。Realistic and Expressive 3D avatar)を開発したと発表した。メタバースなどでのコミュニケーションで、アバター同士の深い相互理解が実現する可能性がある。同研究は、NICT ユニバーサルコミュニケーション研究所 先進的リアリティ技術総合研究室のMichal Joachimczak氏、劉珠允氏、安藤広志氏によるもの。

メタバースやMR(複合現実)で自分の分身となる3Dアバターは、現状ではあらかじめ用意されたCGキャラクターを使用することが多く、微妙な表情や動作の表現は難しい。自分自身のリアルな3Dモデルを作ろうとすれば、何台ものカメラやセンサーを使って体中をキャプチャーするといった大がかりなシステムが必要となる。NICTは、複数のAIモジュールを組み合わせることで、それをたった1台のカメラで可能にした。

まずは、カメラの前で1回転した画像からリアルな全身モデルを構築する。モデルができれば、後はカメラの前で動くことで、その表情や姿勢が推定されてモデルに反映される。時間ごとに変化する動作や表情が、3Dアバターに三次元的に再現され、どの方向からでも見られるようになる。

コミュニケーションの最中にわずかに顔に生じる表情の変化「微表情」(micro-expressions)や動作を忠実に再現できるため、アバターを通しての「深い信頼関係の構築やシビアなビジネス交渉」もリモートで可能になるとNICTは話す。今後は3Dアバターの三次元形状の正確さや動きの滑らかさといった精度の向上と、リアルタイム対応を可能にする技術開発を進めてゆくとのことだ。この技術の活用、実証実験、普及の際の倫理的、法的、社会的課題については、超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム(URCF)のXR遠隔コミュニケーションWGなどと連携して取り組むとしている。

DNAナノチューブのレール上を命令どおりに走る分子輸送システムを開発、生物を模した情報処理システムの研究に革新

Y字型のDNAナノチューブ上で2種類のナノマシンが「荷物」を仕分けている様子を描いた模式図

Y字型のDNAナノチューブ上で2種類のナノマシンが「荷物」を仕分けている様子を描いた模式図

情報通信研究機構(NICT。指宿良太氏、古田健也氏)未来ICT研究所は3月11日、兵庫県立大学と共同で、DNAナノチューブのレール上をプログラムどおりに走るナノマシンを開発したと発表した。これにより、レールに命令を埋め込むことで、ナノメートル(1mmの100万分の1)サイズの「荷物」、つまり分子を仕分ける分子輸送システムが実現した。

分子を自在に制御するナノマシンの研究により、DNAを極小の建築材料として望みの構造物が作れるDNAテクノロジーが発展したものの、その構造物の上を自律的に動けるナノマシンの開発は遅れていた。生物の体内では、細胞内に張り巡らされた「細胞骨格繊維」をレールとして生命活動に必要な物質を輸送している。このシステムを制御可能な形で細胞から取り出すことができれば、生物由来の分子で構成された計算機や、生体内で働く分子ロボットといった画期的な応用につながるのだが、細胞骨格繊維の制御が難しく、実現には至っていない。

また、ナノサイズのマシンの制御にも課題があった。微小なマシンは分子の熱運動による激しいノイズにさらされるため、外部から命令を与えるには、逐一その熱ノイズを大きく超えるエネルギーを加える必要がある。

ただ、生物が本来備えているナノマシンの中には、熱ノイズの20倍ほどの小さなエネルギーで自律的に動ける「生物分子モーター」がある。

そこで同研究グループは、まず細胞骨格繊維の代わりに、制御しやすいDNAをレールとして、ナノマシンを自律的に走らせることを考えた。DNAなら、安定していて、一塩基単位で編集が可能であり、デジタル情報を埋め込むことができ、精緻な三次元構造体を構築できるという利点がある。そして研究グループは、生物分子モーターである「ダイニン」に「DNA結合タンパク質」をつなぎ合わせてDNAに結合して自走するナノマシンを作成。ガラス基板の上に敷設したレールに沿って「DNA塩基配列で書かれた命令」からなる方向や速度などのプログラムのとおりに、ナノマシンを動かすことに成功した。さらにこの技術を使い、DNAナノチューブの分岐点のどちらに進むかをナノマシンごとに制御して「荷物」を自動的に仕分けさせたり、反対に「荷物」を1カ所に集めたりする分子輸送システムを構築できた。

ヒト細胞質ダイニンの微小管結合ドメインをDNA結合タンパク質と取り替えることによる新規分子モーターの構築図

ヒト細胞質ダイニンの微小管結合ドメインをDNA結合タンパク質と取り替えることによる新規分子モーターの構築図

DNAの二重らせん構造(上)と、10本の二重らせん構造が束化したDNAナノチューブ(下)の模式図

DNAの二重らせん構造(上)と、10本の二重らせん構造が束化したDNAナノチューブ(下)の模式図

左:2種類の積み荷を持つトラックが1つの道路に合流または分岐する様子を描いた模式図。中央:Y字型のDNAレールを蛍光顕微鏡で撮影した画像と、2種類のナノマシンがそのレール上で1つのレールへと荷物を集める、または分岐する様子。右:荷物を持った2種類のナノマシンが、合流点または分岐点でどの程度効率よく仕事をしているかを示したグラフ

左:2種類の積み荷を持つトラックが1つの道路に合流または分岐する様子を描いた模式図。中央:Y字型のDNAレールを蛍光顕微鏡で撮影した画像と、2種類のナノマシンがそのレール上で1つのレールへと荷物を集める、または分岐する様子。右:荷物を持った2種類のナノマシンが、合流点または分岐点でどの程度効率よく仕事をしているかを示したグラフ

この技術は、電子機器にくらべて省エネであり、膨大な組み合わせを高速に処理できる生物の情報処理システムを応用した次世代情報処理システムの基盤となり得る。しかし、生物が持つ高機能で高効率な天然のナノマシンの動作メカニズムはわかっていない。研究グループは、人工的な分子モーターを数多く作り機能を比較することで、「設計原理に関する情報を帰納的に抽出する」という方法をとった。つまり「作って理解する」というアプローチだ。この研究成果により、「生物が使っている未知の情報処理システムを再構成して理解する研究や、生物分子モーターで一種のチューリングマシンを構成するような研究が可能になり、次世代の情報処理システムを目指した研究にブレークスルーをもたらす可能性がある」と研究グループは期待している。

横浜国立大学とゼロゼロワン、家庭用ルーターなどIoT機器のマルウェア検査サービス「am I infected?」を無料提供開始

横浜国立大学とゼロゼロワン、家庭用ルーターなどIoT機器のマルウェア検査サービス「am I infected?」を無料提供開始

横浜国立大学ゼロゼロワンは2月24日、家庭用ルーターやスマート家電を始めとしたIoT機器のマルウェア検査サービス「am I infected?」(アム・アイ・インフェクテッド)の提供を開始したと発表した。費用は無料で、オプションなどによる追加料金は発生しない。

両者は、同サービスの提供により、脆弱なIoT機器の根本原因の解決や効果的な注意喚起手法などに向けて、さらなる研究開発に活かすとしている。今後もサイバーセキュリティの研究を通じて、安全・安心な社会の実現に貢献する。

「am I infected?」は、家庭用ルーターやスマート家電などIoT機器がマルウェアに感染していないか、脆弱な状態で利用していないかを利用者自身で検査・対策できる無料サービス。

専用サイトにおいて、検査結果を送信するメールアドレスの入力と、検査を実施する環境に関するアンケートに回答することで、同ウェブサイトにアクセスした際に利用しているIPアドレスに対して検査を実施する。

検査結果は、入力したメールアドレス宛てに検査結果ページへのリンクが送付される。万が一、マルウェアへの感染が疑われる場合は同ページの推奨対策を参考に利用者自身で対策を行う。

横浜国立大学とゼロゼロワン、家庭用ルーターなどIoT機器のマルウェア検査サービス「am I infected?」を無料提供開始

安全な状態の表示例

マルウェア感染が疑われる際の表示例

マルウェア感染が疑われる際の表示例

同サービスは、横浜国立大学 情報・物理セキュリティ研究拠点が運用しているハニーポットのほか、ゼロゼロワンが開発・提供するIoT検索エンジン「Karma」(カルマ)のデータ、情報通信研究機構(NICT。エヌアイシーティー)が開発・運用するサイバー攻撃観測・分析システム「NICTER」(ニクター)のデータを利用している。

横浜国立大学 情報・物理セキュリティ研究拠点とゼロゼロワンは、2021年6月より横浜国立大学内外のセキュリティスキャンに関する共同研究を行っており、今回のサービスは学外のIPアドレスに対するセキュリティスキャンの成果を活用しているという。

また横浜国立大学は、NICTが2021年4月に創設した産学官連携拠点「CYNEX」(サイネックス。Cybersecurity Nexus)に参画しており、CYNEXのサブプロジェクト「Co-Nexus S」(Security Operation & Sharing)よりNICTERの観測データの提供を受けている。

横浜国立大学 情報・物理セキュリティ研究拠点では、サイバー攻撃の実観測、分析に基づき、対策を導出する研究を行っている。IoT機器のウェブインターフェースを模倣したハニーポットと、Telnetと呼ばれる脆弱なサービスを動作させたハニーポットを運用しており、IoT機器の脆弱性を利用した攻撃や、IoT機器に感染するマルウェアを収集しているそうだ。

同ハニーポットによりサイバー攻撃をひきつけ、詳細に観測する受動的観測や攻撃の対象となる脆弱なシステムを探索する能動的観測により、これらの状況を把握し、独自の分析により、そのメカニズムを明らかにすることで、効果的な対策を導出するという。また、これまでIoTにおけるサイバー攻撃やマルウェア感染の蔓延、超大規模サービス妨害攻撃の観測、分析を行い、その観測・分析結果を多数の公的機関・民間企業・研究コミュニティに提供している。

ゼロゼロワンは、IoT機器開発事業者向けに設計段階におけるセキュリティ面での不安解消や想定外の脅威を作らないための支援を行うとともに、IoT機器を安全・安心に利用してもらうための啓蒙活動を行う会社。

公開情報を情報源とするOSINT(オシント。Open Source INTelligence)を含む様々な情報を可視化する検索エンジンであるKarmaと、より安全な製品開発のためのコンサルティングサービスを事業の柱としている。

NICTのホログラムプリント技術を応用、多人数がフォトリアルな画像を裸眼立体視できる透明ARディスプレイ開発

NICTのホログラムプリント技術を応用、多人数がフォトリアルな画像を裸眼立体視できる透明ARディスプレイ開発

透明ARディスプレイ(左)とモデル本人(右)

情報通信研究機構(NICT)は1月31日、ホログラフィックフィルム1枚と複数のプロジェクターのみで構成される簡便な透明ARディスプレイで、フォトリアルな顔の3D表示を実現させたと発表した。これはNICTのホログラムプリント技術を応用したシステムで、3Dメガネを使わず裸眼で3D画像を見ることができる。

NICTは、2016年にすでに透明スクリーンに3D画像を投影する技術を開発している。コンピューターで設計した光の波面をホログラムとして記録できるNICT独自のホログラムプリンター「HOPTEC」で光学スクリーンを製作し、大型のプロジェクターで映像を投影するというシステムだったが、今回はそれよりもずっと簡素な構造になった。

ホログラムプリント技術(HOPTEC)

ホログラムプリント技術(HOPTEC)。NICTが開発している、計算機合成ホログラムを光学的に再生し、再生された波面をホログラム記録材料に物体光としてタイリング記録するホログラム露光技術。HOPTECにより、デジタルに設計した光学機能をホログラフィック光学素子として透明なフィルムにプリントできる

透明AR(Augmented Reality)ディスプレイシステム

透明AR(Augmented Reality)ディスプレイシステム

透明ARディスプレイは、対角35cm、水平視野角60度、垂直視野角10度というもので、3Dメガネなどを用いることなく、多人数が裸眼で立体映像を見ることができる。投影は、安価な小型プロジェクターを30台を使って行われ、フルカラーでの表示が可能。投影される画像は、凸版印刷が所有する高精度の人体測定が可能な装置「ライトステージ」(南カリフォルニア大学開発)で作られた。

高精細な顔計測データから成る映像を透明ARディスプレイ上に3D表示した様子

高精細な顔計測データから成る映像を透明ARディスプレイ上に3D表示した様子

このNICTと凸版印刷の共同研究は、NICTが3D投影技術を、凸版印刷が人体の高精細な計測によって生み出されるデジタルコンテンツを提供するという形で今後も進められる。そもそも、「3Dコンテンツを使用した新しいコミュニケーションの可能性」を目指して行われてきた研究だが、デジタルツインや仮想キャラクターといった使い方だけでなく、「人体を3D表示させた手術トレーニングや手術支援」など、医療をはじめとする様々な分野での適用を進めてゆくという。さらに、3Dコンテンツの高精細化、システムの簡素化、柔軟性を高め、CAD、BIM、点群データなど各種3Dデータに対応させることにより、建設や教育分野にも貢献できる技術開発を目指すとしている。

情報通信研究機構(NICT)が世界最高性能の分解能15センチの航空機搭載用合成開口レーダーを開発、技術実証に成功

情報通信研究機構(NICT)が世界最高性能の分解能15センチの合成開口レーダーを開発、技術実証に成功

情報通信研究機構(NICT)は、分解能15cmの航空機搭載用の合成開口レーダー「Pi-SAR X3」(パイサー・エックススリー)を開発し、実証実験に成功した。2008年に開発した「Pi-SAR2」の分解能は30cmだったので、その2倍の性能となる。高精細画像が得られるようになり、自然災害時の被災状況のより詳細な把握や、効果的な救助活動や復旧作業に貢献できるという。

合成開口レーダー(SAR)とは、航空機や人工衛星などに搭載し、移動することで仮想的にレーダー直径(開口面)を大きくする仕組みのレーダーのこと。電磁波を送受信し、主に地表の観測に使われている。NICTの合成開口レーダーでは、X帯の電波(8〜12GHz)を使用しているが、Pi-SAR X3ではそのうち、従来の2倍となる9.2〜10.2GHzの帯域を使用。帯域幅を拡大することで、分解能を向上させた。また、観測データの記録装置は、従来比で書き込み速度は10倍、容量は8倍となった。2021年12月に能登半島上空で初めて行った試験観測では、田んぼに残されたトラクターの轍(わだち)もはっきりと写し出され、その高い性能が示されている。

2021年12月にPi-SAR X3で観測された輪島市近郊の画像と白枠内(田圃)の拡大図。拡大左図:15cm分解能、拡大右図:30cm分解能(Pi-SAR2相当)。Pi-SAR X3は、Pi-SAR2では計測困難だった田圃内の轍(わだち)を鮮明に観測することに成功。地震などで発生する地表面の変化をこれまで以上に詳細に観測可能となった

2021年12月にPi-SAR X3で観測された輪島市近郊の画像と白枠内(田圃)の拡大図。拡大左図:15cm分解能、拡大右図:30cm分解能(Pi-SAR2相当)。Pi-SAR X3は、Pi-SAR2では計測困難だった田圃内の轍(わだち)を鮮明に観測することに成功。地震などで発生する地表面の変化をこれまで以上に詳細に観測可能となった

今後はシステムの最適化による性能の向上を目指し、2022年度からは、地震などの自然災害のモニタリング、土地利用、森林破壊、海洋油汚染、海洋波浪、平時の火口観測などの環境モニタリングに関する技術の高度化を実施する予定とのこと。

宇宙で発生した電磁波が地上に伝わる5万キロにおよぶ「通り道」が世界で初めて解明される

「電磁波の通り道」を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

「電磁波の通り道」を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

金沢大学理工研究域電子情報通信学系松田昇也准教授らからなる国際研究チームは12月10日、複数の科学衛星と地上観測拠点で同時観測された電磁波とプラズマ粒子データなどから、電磁波の通り道の存在を世界で初めて突き止め、電磁波が地上へ伝わる仕組みを解明したと発表した

地球周辺の宇宙空間では、自然発生した電磁波が地球を取り巻く放射線帯を形成したりオーロラを光らせるなどの物理現象を引き起こしているが、1つの衛星や観測地点からの観測では、電磁波の伝搬経路全体を三次元的に捉えることができなかった。そこで研究グループは、日本のジオスペース探査衛星「あらせ」、アメリカの科学衛星「Van Allen Probes」、そして日本が世界に展開する地上観測拠点「PWING 誘導磁力計ネットワーク」とカナダが北米に展開する「CARISMA 誘導磁力計ネットワーク」を連携させて、同時に観測を行った。

それにより、宇宙空間の特定の場所で電磁波(イオン波)が生まれ、その一部だけが宇宙の遠く離れた場所や地上に届いていることがわかり、そのおよそ5万キロの旅の途中で宇宙のプラズマ環境変動を引き起こし、やがて地上に到達していることを解明した。

宇宙空間には冷たいプラズマが存在し、それが電磁波によって温められると、地上の大気の寒暖の変化のように、宇宙の環境が変化する。特に大規模な太陽フレアによる宇宙嵐が起きると大量の電磁波が発生し、人工衛星の故障、宇宙飛行士の放射線被曝、地上の送電網の障害など、多くの影響をもたらす。電磁波の通り道がわかれば、プラズマ環境変化が様々な場所で同時に発生する仕組みもわかる。

イオン波を4つの拠点で同時に捉えた観測結果

だがそれを解明するには、イオン波が発生している時間帯の、2つの科学衛星と2つの地上観測拠点の位置関係が大変に重要になる。研究グループは、そのタイミングを予測しつつイオン波の観測を続けたところ、2019年4月18日に4つの拠点でのイオン波の同時観測が達成され、同一のイオン波が地磁気赤道から地上に伝搬する「電磁波の通り道」が同定された。それによると、イオン波は5万キロの距離を移動するが、経路の断面はその1/1000ほどと小さい、細長いストロー状であり、広い宇宙空間で、きわめて局所的に伝搬経路が形成されていることもわかった。

あらせ、Van Allen Probesの衛星軌道と地上観測拠点の位置関係

「電磁波の通り道」が解明され、電磁波がどこで発生し、どう伝わるかがわかったことで、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上が期待されるという。同研究グループは「地球以外の惑星でも電磁波が発生し伝わっていく仕組みを解明し、宇宙環境変動の網羅的な理解と普遍性の解明へと歩みを進めていきたい」と話している。

この研究には、金沢大学の他、名古屋大学、東北大学、コロラド大学、ミネソタ大学、JAXA宇宙科学研究所、京都大学、九州工業大学、ロスアラモス国立研究所、ニューハンプシャー大学、情報通信研究機構、国立極地研究所、アルバータ大学などが参加している。

情報通信研究機構が生活環境における携帯電話基地局からの電波曝露レベルを大規模測定、上昇傾向ながら低いレベルと判明

情報通信研究機構が生活環境における携帯電話基地局からの電波曝露レベルを大規模測定、上昇傾向ながら低いレベルと判明

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、この10年間の市街地・郊外・地下街の携帯電話基地局などからの電波強度を調査し、その変動傾向を明らかにした。約10年前と比較したところ、同一地域における電波曝露レベルは上昇傾向にあるが、国が定めた電波防護指針よりも十分に低いレベルであることがわかった。

日本では、携帯電話や無線LANなどの電波は、電波防護指針に基づいて人体に悪影響がない範囲で利用されているが、目に見えない電波への健康不安は残る。そこでNICTでは、2019年度に生活環境における電波曝露レベルの大規模な想定を開始した。市街地・郊外・地下街の500以上の地点で定点測定しているほか、携帯型測定器や測定器搭載自動車などを使った広域測定も組み合わせている。電波曝露レベルの情報を広く共有することが狙いだ。

NICTは、500箇所以上に接地した測定装置「電界プローブ」からのデータを統計処理し、地域の差異や過去の測定結果から変動などを解析した。地域別では、市街地が郊外よりも電波曝露レベルが高く(4倍程度)、この傾向は約10年間変わっていない。地下街は、郊外よりもやや高い結果となった。また市街地と郊外では、10年前と比べて電波曝露レベルは約3倍に上昇しており、地下街においては約100倍も上昇していた。これは、10年前は未整備だった地下街での携帯電話サービスが改善されたためだとNICTでは考えている。

電波曝露レベルの地域ごとのカラーマップ

情報通信研究機構が生活環境における携帯電話基地局からの電波曝露レベルを大規模測定、上昇傾向ながら低いレベルと判明

市街地・郊外・地下街の電波ばく露レベルの統計分布

全体に上昇しているとはいえ、電波防護指針からは、中央値で1万分の1以下と十分に低いレベルであった。またこのレベルは、海外の最近の測定結果と比較しても15分の1と低かった。

この調査結果は5Gサービスが始まる前のものであるため、これから5Gが本格的に普及するようになったときに電波曝露レベルがどう変化するかを知るための参照データになるという。今後は、少なくとも2040年までは測定を継続し、結果を公表するとしている。

情報通信研究機構が生活環境における携帯電話基地局からの電波曝露レベルを大規模測定、上昇傾向ながら低いレベルと判明

市街地・郊外・地下街における電波防護指針値と電波ばく露レベルの比

凸版印刷・NICT・QunaSys・QunaSys・ISARAが量子セキュアクラウド技術の確立で連携

凸版印刷・NICT・QunaSys・QunaSys・ISARAが量子セキュアクラウド技術の確立で連携

凸版印刷情報通信研究機構(NICT)QunaSysISARAは10月19日、高度な情報処理と安全なデータ流通・保管・利活用を可能とする量子セキュアクラウド技術の確立に向け4社連携を開始すると発表した。

量子セキュアクラウド技術の開発を4社連携のもと推進し、2022年度中に社会実装に向けたソフトウェアの実証実験を開始する。また、2025年に限定的な実用化を、2030年にサービス化を目指す。

量子コンピューティング技術とは、量子力学的な現象を持つ量子ビットを用いた計算処理技術であり、高い計算処理能力を有する次世代コンピューティング技術として期待されている。

量子セキュアクラウド技術は、量子暗号技術と秘密分散技術を融合し、データの安全な流通・保管・利活用を可能とするクラウド技術。量子セキュアクラウド技術の確立により、改ざん・解読が不可能な高いセキュリティ性を担保するだけでなく、例えば、医療、新素材、製造、金融分野で蓄積された個人情報や企業情報など秘匿性の高いデータの収集・分析・処理・利用を可能とする。

具体的な連携内容としては、システム設計や仕様検討、最新の量子暗号技術の実装、秘密分散技術を利用したバックアップやデータ保管の実装、耐量子-公開鍵暗号によるデジタル署名の開発などにより、データ保管・交換基盤および耐量子-公開鍵認証基盤となる量子セキュアクラウド技術を確立する。

またNICTは、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)において、量子ICTフォーラム/量子鍵配送技術推進委員会やITU-T(国際電気通信連合/電気通信標準化部門)、ISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議)やETSI(欧州電気通信標準化機関)などの国際標準化組織へ、2022年度までにネットワーク要件、ネットワークアーキテクチャ、ネットワークセキュリティ要件、および鍵管理、量子暗号モジュールの評価・検定に関する提案を行い、国際標準化を推進。凸版印刷はICカードに関する知見を活かし、NICTをサポートする。

4社の役割

  • 凸版印刷: ICカードの開発・製造事業を通し培ってきた、暗号技術・認証技術・不正アクセス防止技術など、ICカードのセキュリティ技術に関する知見を活用。ICカードへの耐量子-公開鍵暗号の適用および量子セキュアクラウド技術の利用拡大に向けた導入支援、秘匿性の高い情報の安全なバックアップやデータ流通サービス、ソリューションの提供などに向けて取り組む
  • NICT: 内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用したSociety5.0 実現化技術」の一環として、東京QKD(量子鍵配送)ネットワークなどを活用し、量子セキュアクラウド技術の研究を実施。これまでに量子暗号、秘密分散および次世代の耐量子-公開鍵認証基盤を搭載した、保健医療用の長期セキュアデータ保管・交換システム「H-LINCOS」(Healthcare long-term integrity and confidentiality protection system)を開発。これら知見と経験を活かし、H-LINCOSやさらに高度な計算エンジンを搭載した量子セキュアクラウド技術の確立とその国際標準化を目指して取り組む
  • QunaSys: 量子コンピューター向けアルゴリズムおよび量子コンピューターを活用した量子化学計算ソフトウェア「QunaSys Qamuy」の開発を通し、量子コンピューティング技術を蓄積。その知見と経験を活かし、量子セキュアクラウド技術を活用した材料開発のサービス提供、またユーザー視点での量子セキュアクラウド技術の構築に貢献する
  • ISARA: 長年にわたるサイバーセキュリティ技術の蓄積をもとに、現在のコンピューティングエコシステムを量子の時代まで守り続ける、アジャイルな暗号技術と耐量子セキュリティソリューション事業の世界的リーダー。また、NICTと構築した「H-LINCOS」では、保健医療分野のための耐量子-公開鍵認証方式を開発。これらの暗号実装技術と公開鍵認証技術をアジャイル方式で開発してきたノウハウを活かし、量子セキュアクラウド技術の国際標準化に準拠する耐量子セキュリティソリューション開発を目指す

関連記事
名古屋大発スタートアップAcompanyが暗号化したままの計算処理が可能なMPC秘密計算エンジンを独自開発
EAGLYSが東芝と協業検討、リアルタイムビッグデータ分析にセキュリティ・秘密計算を適用へ
量子コンピュータ対応の暗号化セキュリティ技術を擁するPQShieldが7.5億万円調達
日本の量子コンピュータ系スタートアップQunaSysが2.8億円調達、量子化学計算を軸に研究開発加速へ

カテゴリー: セキュリティ
タグ: ISARAQunaSys情報通信研究機構(NICT)凸版印刷 / TOPPAN量子暗号量子コンピュータ日本