ロシアでテック企業が販売を停止するなか、スマホやクラウドサービスなどのビジネスへの影響は?

ロシアがウクライナを攻撃して以来、ここ数週間で、さまざまな業界の企業とともに、多くのテック企業がロシアでの営業を停止していることを耳にした。これは幅広い反響を呼んでおり、企業がロシアで通常どおりビジネスを続けることはできないというメッセージであることは明らかだが、これらの行動は、営業を停止した企業に実際にどのような経済的影響を与えるのだろうか?

IDCが今週初めに発表したレポートで指摘したように、ウクライナが攻撃を受けており、ロシアに制裁が適用されているため、その地域で事業を行うテクノロジー企業に何らかの影響を与えることは必至だ。

「紛争によってウクライナの事業活動は停止しており、ロシア経済は欧米の制裁の初期の影響を受けている。2022年には現地市場の需要は2桁の縮小し、両国の技術支出に強く影響するだろう」と、同社は書いている。

しかし、純粋な数字で見ると、ロシアとウクライナを合わせても、大国ではあるものの、世界の技術支出全体に占める割合はそれほど大きくはない。実際、IDCの報告によると、この2カ国を合わせても、ヨーロッパの技術支出の5.5%、世界の技術支出のわずか1%を占めるに過ぎない。

Canalys(カナリス)は、ロシアでの販売を停止していないテック企業は、停止するようにプレッシャーを受けていると述べている。「Accenture(アクセンチュア)、Apple(アップル)、Cisco(シスコ)、Dell(デル)、HP、HPE、Oracle(オラクル)、SAP、TSMC(半導体)などが、ロシアとの関係を断つ(あらゆるセクターの)国際企業のリストに名を連ねている。そうしない企業は、世界の情勢にますますそぐわなくなる」と、同社は今月初めに発表した報告書の中で述べている。

Canalysによると、ロシアはヨーロッパのスマートフォン市場の20%、PC市場の8%を占めている。AppleはロシアのPC市場の17%を占め、Lenovo(レノボ)とリードを分け合っている。HPは15%でわずかに及ばない。

画像クレジット:Canalys

Canalysによると、この数字はこれらの企業の売上高全体の約2%に相当する。市場をリードする3社ともロシアでの販売を停止している。中国企業であるレノボが、その決定を覆すよう中国政府から圧力を受けているとの報道は注目に値する。

スマートフォンについては、中国のスマートフォンメーカーのXiaomi(シャオミ)が31%で市場をリードし、Samsung(サムスン)が27%で続き、Appleは11%で3位に大きく後退している。

画像クレジット:Canalys

これは、Apple全体の売上高の2%、Samsungの4%を占めている。Apple、Samsungともにロシアでの販売を停止している。

Canalysは、ロシアがこの問題を解決するために、中国の技術に目を向ける可能性があると推測している。「西側諸国が技術輸入に制裁を加えているため、ロシアは(制裁に反対すると表明している)中国にもっと目を向けると予想される。特にロシア政府は、西側ブランドを置き換え、主要技術へのアクセスを維持しようと急いでいる。欧米の貿易禁止措置の犠牲となったHuawei(ファーウェイ)などの中国ベンダーが勝者となる可能性が高い」と、同社は書いている。

しかし、Lenovoの状況が示すように、欧米の顧客と大きな取引をしている中国企業にとっては、より複雑な状況になっている。

Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)の3大クラウドベンダーはどうだろう。クラウド市場を調査するSynergy Research(シナジーリサーチ)の主席アナリストであるJohn Dinsdale(ジョン・ディンズデール)氏は、ロシアがこれらの企業のビジネス全体の1%に満たないことを指摘している。

「AWS、Microsoft Azure、Google Cloudの観点からすれば、ロシアの顧客を切り離してもほとんど影響はないでしょう」と、彼はいう。

しかし、それらの顧客にとっては、やはり痛みをともなう可能性がある。「もちろん、切り離されるかもしれない顧客にとっては、その影響は非常に意味のあるものになるかもしれません。ロシアは特に発展した市場ではありませんが、クラウドベースの業務に大きく移行した企業にとって、その後に軌道修正するのは大変なことです」と、同氏は述べた。

CanalysのアナリストBlake Murray(ブレイク・マレー)氏もこれに同意していますが、スマートフォンやPCと同様に、制裁によって窮地に立たされた顧客が中国のクラウド大手に目を向ける可能性もあると述べている。「全体として、ロシアの企業はYandex(ヤンデックス)のようなロシアのCSPや、国内にデータセンターを持つ中国のプロバイダーに軸足を移すと予想されます。また、Officeのようなソフトウェアをロシアで登録された同等品に置き換えることも検討されるでしょう」と述べている。

それは簡単なことではない。しかし、マレー氏によると、ロシア国内の多くの組織が、少なくともこの方向で移行作業を始めているとのことだ。

SaaS企業への影響も気になる。ディンズデール氏は、SaaS市場はより細分化される傾向にあり、国内にもより多くの選択肢があると述べている。とはいえ「ロシアは、世界のSaaS売上高の1%未満しか占めていない小さな市場です。MicrosoftとSalesforce(セールスフォース)の両社にとって、ロシアはSaaSビジネスの1%未満に過ぎません」。

最後に、インターネットバックボーンプロバイダーがロシアから撤退すると報じられており、Cogent(コジェント)とLumen(ルーメン)が今週、事業を停止することを発表した。

「我々が提供するビジネスサービスは、我々の物理的存在と同様に極めて小規模で、非常に限定的なものです」と、Lumenは声明で述べた。「しかし、我々はこの地域でのビジネスを直ちに停止する措置をとっています」。

Cogentは公式声明を出していないが、ロシアでの事業を停止していることは広く報道されている。どのような影響があるかは不明だが、Cogentのネットワークマップを見る限り、ロシアにデータセンターはないようだ。

それでも、インターネットアクセスが遮断されることは、国外のニュースを得ようとする人々や、ビジネスを行おうとする企業にとって、深刻な影響を及ぼす可能性がある。ディンズデール氏が指摘するように、インターネットに接続できなければ、どんなクラウドサービスにもアクセスできないので、深刻な影響を及ぼす可能性がある。

画像クレジット:kynny / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Yuta Kaminishi)

ウクライナ、APIスタートアップ、スタートアップの評価額

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

みなさん、こんにちは!このメールのために残しておいた話題があったのだが、予定がずれ込んでしまったので、それは数日後にご紹介する。ということで、本日の分に少し余裕が出たのは良い点だ。

では、ウクライナに対するテック業界の反応、APIスタートアップ、スタートアップの評価額について話すことにしよう。おもしろい内容だと思う。

勇気を見せるテック業界

ロシアがウクライナに侵攻したとき、世界はその泥沼に関わろうとしないのではないかと心配していた。しかし幸いなことに、事態はほぼその逆の様相を見せている。そしてさらに、テック業界が立ち上がった。

しかも、滑稽で悲劇的な今回の侵略に対する、ポジショニングや言葉だけの対応ではなく、ビジネスに影響を与えるような対応だ。Microsoft(マイクロソフト)などがロシアでの販売を中止したり、Airbnb(エアビーアンドビー)が撤退したり、大小さまざまなハイテク企業が騒ぎ立てていたりしていることには、励まされる。

その行動の積み重ねは、どのような結果になるのだろうか?その答はまだわからないが、ロシアも同じように、国民が実際に何が起こっているのかを把握するために利用するかもしれない国内のソーシャルサービスを禁止している。そのため、ロシア国内外からの技術製品・サービスのブラックアウトが起きているのだ。ロシアが、地理的にも経済的にも世界のどれほどの地域と関わっているかを考えると、私たちは実験的な状況を見ていることになる。

おそらく、このテック業界の動きは、より大きな国際的制裁の推進を補完するものとなるだろう。しかしこうした動きは、軍事力を行使して小国を壊滅させようと考えている他の国に対しても、そのような侵略行動への反応は国民国家からだけ起こされるものではないことを示していて、好戦的な国家に少しばかり冷水を浴びせる役目を果たしているかもしれない。

テック業界が、独裁的な帝国主義と手を切りつつあるというニュースを、この先も聞き続けられることを期待したい。

APIスタートアップ

やれやれ。今週は、GGVの新しいAPIスタートアップインデックスについての記事を書いた。それはGGVの新しいプロジェクトだが、好感が持てた。簡単に言えば、GGVは、クールな非公開APIスタートアップのデータベースのようなものを構築しているのだ。当然、VC(GGV)はAPIの話題の中心にいたいので、この取り組みはリサーチプロジェクトであると同時に、ある種のコンテンツマーケティングでもある。

しかし、約8392社のAPIスタートアップ、または自身のモデルに強力なAPIコンポーネントを持つスタートアップを、リストアップする良いきっかけになっている。そして、さらに多くのスタートアップが追加され続けている。そのようなスタートアップの1つがHighnote(ハイノート)だ。同社は他社がカード発行サービスを自社製品に組み込めるようなAPIを開発している。

私は、先の記事を書く際にすべてのリンクを探すために腱鞘炎を患ってしまったので、記事で紹介したAPIスタートアップに新しい名前を追加するつもりはなかったのが、Highnoteの特性の一部が私の目を引いた。同社のウェブサイトでは、同社のサービスを利用することで、カード発行の迅速な立ち上げが可能になると説明されている。そう、それこそが、APIによって提供されるサービスのポイントであり、(問題ではなく)製品が必要とされる場所での複雑さを取り除いた簡潔さを提供するのだ、

そう、そして2日間かけて企業ベンチャーの世界を掘り下げているうちに、ここには似たような部分があることに気が付いた。Airbase(エアベース)がAmex Venturesから資金を調達し、同社のソフトウェアをAmexの顧客に提供する契約を結んだ際、Amexの関心の1つは、基本的に市場投入までの時間だった。Airbaseがすでに作り上げていたものを独自に開発するよりも、提携・出資した方がより迅速に進めることができたからだ。

どこかで聞いたような話では?ある意味、APIスタートアップは、あらゆる企業がこれまで以上に迅速に製品を生み出しテストすることを可能にしている。これは、作るべきか買うべきかの議論を、これまで以上に迅速かつ明確に進められるようになったということも意味する。つまり、中小企業にとってのAPI製品は、既存企業にとってのコーポレートベンチャーキャピタルということだろうか?まあそんな部分もあるということで!

週末に考えたことだが、気になったので共有しよう思った。

みんながやられた

締めくくりは、悪いニュースだ。SaaSの成長率は、中堅企業でも1桁台まで圧縮されてしまった。このことが意味するのは、スタートアップが2桁の収益(ARRなど)伸び率を目標とするならば、ほぼすべての同業他社よりも速く成長しなければならないことを意味する。新型コロナウイルス(COVID-19)の時にソフトウェア会社が得た利益を、株式市場は基本的に失ってしまったのだ。評価額の観点からは、以前もしくはより悪化している。

ARRの100倍に達するリッチラウンドを調達できたスタートアップのみなさん、ご健闘を。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

ウクライナ情報変革副大臣インタビュー「IT軍団と29億円相当の暗号資産による寄付」について語る

事態が憂慮すべき展開を続ける中、ウクライナは地上戦の枠を超えてロシアへの抵抗を強めている。インターネットを活用してロシアの攻撃に対抗し、ロシアの権力の中枢を積極的に攻撃し、何か支援をしたいと考える人たちからの(資金援助を含む)支援を集め、デジタル戦線で戦っているのだ。ロシアが常時警戒態勢から全面攻撃態勢に移行したことに驚いた人もいるかもしれないが、早期警戒の兆候をすでに認識していた人たちにとってはそのようなことはない。

ウクライナ時間3月1日のインタビューで、Oleksandr (Alex) Bornyakov(オレクサンドル[アレックス]ボルニャコフ)情報変革(Information Transformation)担当副大臣は「戦争は4日前に始まったわけではありません」と語った。「8年間続いているのです。ロシアはずっと攻撃していました」。

ウクライナの積極的なデジタルキャンペーンは、すでに大きな成果をあげ始めている。ボルニャコフ氏によると、2月28日の時点で、世界中からさまざまなオンライン寄付によって1億ドル(約115億6000万円)が集まったという。このうち2500万ドル(約28億9000万円)は、ウクライナ当局が共同管理しているアカウントや、官民パートナーシップでネットワークを運用しているアカウントへの暗号資産寄付によるものだ。その半分以上は、ウクライナのレジスタンスを支援するための物資にすでに費やされているという。

ウクライナ情報変革担当ボルニャコフ副大臣

ボルニャコフ氏は、以前から国のデジタル戦略の最前線に携わってきた。

先週まではそれが意味していたものは、同国のDiia City(ウクライナのITセクター向け仮想組織)イニシアチブの運営だった。それは、より多くの外国のテック企業がウクライナに進出して事業を展開することを奨励する大規模な計画、大きな優遇税制やその他の優遇措置で取引を有利なものとすることで、ウクライナのエコシステムでより多くのスタートアップが成長することを奨励することなどだった。

だが今週の時点でのボルコニャフ氏の仕事は、レジスタンス活動を支援するために暗号資産で資金を調達するという同国の大きな動きを管理すること、他のデジタル活動家の草の根活動を管理して連携させること、そして戦闘が激化する中で、コミュニケーションのための不測事態対応計画を考えることだ。

それぞれの領域で開発がどんどん進んでいる。彼にインタビューしたときには、ロシアがテレビ塔を爆破したというニュースが流れていた。ハイテク企業は、コンテンツやサービスの遮断を発表し続け、より多くの人々が逃げ惑い、戦い、銃撃戦に巻き込まれていたのだ。

ボルニャコフ氏本人は、いまでもウクライナに安全にとどまっていることは認めたが、正確な居場所は明かさず、取材に協力したアシスタントもまた別の場所にある防空壕からその作業を行った。またうまくいくコミュニケーションチャンネルを見つけるまでには、複数の経路を試す必要があった。これらがいつまで続くのかはわからない。私たちはみんな、この事態に終止符が打たれ、ウクライナが自立して強くなることを望んでいる。

物事が急速に進展している中で、私たちはボルニャコフ氏に話を聞き、いわゆるIT軍団の台頭、ウクライナのサイバーセキュリティ、ウクライナが取っている暗号資産への賭けなど、より大きなデジタル化の動きの中で、現在どのような状況にあるかを聞き出すことができた。その内容は、大局的に見れば、これから起こることに備えるだけでなく、冷静さを保ち、前進し、プレッシャーの中で繁栄さえできるかもしれないものだ。以下、そのインタビューと対談の内容を、長過ぎる部分を割愛し簡単に編集したものを掲載する。

TechCrunch:お時間をいただき、ありがとうございました。いま現地は極めて混沌とした状況だと思います。まず、どちらから通話をなさっているのでしょうか?まだキエフですか、それともどこか別の場所でしょうか?

オレクサンドル・ボルニャコフ氏:ウクライナにいますが、キエフではありません。大変なできごとですが、今のところ無事です。しかし多くのウクライナ人は無事ではありません。

了解しました。質問に入ります。魅力的なのはレジスタンス活動のデジタル化ですね。まず、IT軍団について質問させてください。IT軍団は、草の根のクラウドソース型ハッカー集団で、ロシアの多くのサイトをダウンさせ、大混乱を引き起こしている団体ですね。副首相でデジタルトランスフォーメーション担当大臣のFederov(フョードロフ)氏がそれを支持してTwitterで宣伝しました。Telegram(テレグラム)内のグループには、現在約27万人以上のメンバーがいます。これは政府とどんな関係があるのでしょうか?

彼らは副首相の呼びかけに応じただけのボランティアです。彼らのことはよく知りません。そして、個人レベルで調整を行うリーダーみたいな人もいません。とにかく大きなグループなのです。そして、そこには個人だけでない関係者が含まれていると思っています。組織も参加しているのです。ロシアですら「(IT軍団)が持っている力は、この世界でアメリカ、中国、ロシアの3カ国しか持っていないものに匹敵する」と言ったそうです。つまり、彼らの力を合わせれば、最大の国家的サイバー防衛グループに匹敵するのです。

相手を倒した数ではという意味ですよね?

ええ、どれだけの被害を及ぼせるかという意味ですね。

彼らがどこにエネルギーを注ぎ込むのかに対して、何らかの調整は行っているのでしょうか?

特定の人やグループと1対1のレベルでコミュニケーションをとっているわけではなく、グループ内にタスクを投入すれば、彼らがそれを実行するという流れです。その数分後には、いくつかのインフラがダウンします。私たちが依頼したら、どんなインフラでも破壊してしまうのです。

ロシアが、ウクライナと利害関係のあるものを地上とサイバースペース両方で最大限激烈な方法で攻撃しようとしていことを考えると、IT軍団は対象を攻撃する活動以外にも何か関与しているのでしょうか。

戦争は4日前に始まったわけではありません。8年間続いているのです。ロシアはその間、ずっと攻撃を続けていました。つまり、インターネット上のサイバーセキュリティレベルでということですが。そのような中で、私たちは非常に高度なサイバー防衛システムを開発してきました。だから、もしかしたら……そうですね、ロシアは私たちを攻撃しようとしていたのかもしれません。しかし、成功はできませんでした。サイバーディフェンスは、まったく別の人たちが担当しています。防衛のためには、制限されたシステムにアクセスできるようにする必要がありますが、誰にでもアクセスさせるわけにはいきませんし、IT軍団は公開グループですので誰が参加しているのかはわかりません。なので、守備側は完全に別の人たちの肩にかかっているのです。

IT軍団に関するより大きな戦略をお持ちですか?

まあ、このインタビューは公開されるものですから、戦略についてはあまり話せません。でも、ヒントのようなものはお答えできます。私たちは何年もの間、ずっとネットで攻撃を受けていました。それでも決して反撃はしませんでした。私たちは自分たちを守るだけだったのです。なので、インフラが攻撃され、カードや行政サービスが使えなくなったときに、私たちがどのような気持ちになったのかを、今回初めて伝えることができたわけです。ということで、これが答です。

IT軍団とその連携について、もう1つお聞きします。私にとって興味深いのは、彼らの規模と影響を示すことで、公に知られることが彼らにとって有利に働くという点です。しかし、Telegramはそれほど安全ではないという主張や、検閲される可能性があるという主張、そしてロシアがそれをコントロールしているという主張など、他の側面も考慮する必要があります。これらはどの程度、気になさっていますか?

まあ、実際にはメッセンジャーを使い分けています。でも、Telegramは……(笑)、Telegramとしての利用は多いですね。でも同時に、実のところほとんど全部のメッセージングアプリを使っています。個人的な好みはありません。私たちのチームの他のメンバーも、さまざまなメッセージングアプリを使ってコミュニケーションをとっています。この観点で私たちを打ち負かすのは本当に難しいでしょう。

他のコミュニケーションチャネルはどうでしょう。持ちこたえられていますか?

接続は維持できています。影響を受けた電子機器はまだありません。基地の1つが攻撃されましたが、大都市の中の1つに過ぎません。まだ他にたくさんありますので。おそらく、彼らはこの先接続を撹乱しようとすると思います。彼らが最初にそれをしなかったのは、事態を簡単なものだと思っていたからでしょう。単に街に侵入して、中央広場に集って、祝杯をあげるだけだと思っていたのです。だから、そもそもインフラには一切手をつけていなかったのです。しかし、やっとロシア人は自分たちがここでは歓迎されていないことに気づいたのです。彼らは領土を占領しつつあります。そしてほぼ1週間経って、彼らは我々のインフラを破壊し始め、民間の施設を攻撃し、民間人を殺し始めました。

イーロン・マスク氏のStarlink(スターリンク)の拡張は、通信計画にどのように関わってくるのでしょうか?

いいですか、そうした計画についてはお話できません。でもまあ、バックアップには何段階もあって……もちろんまだ計画だけですが。とはいえ、もし不測の事態に備えていなければ、私たちはとっくの昔にやられていたはずです。彼らがサイバー空間でどれだけ攻撃を仕掛けてきたか、ご存知ないでしょう。ということで、私たちのインフラは動いているし大丈夫です。サーバーを叩けば落ちるというものではありません。

発信なさっている国際的なメッセージの中には、他の人たちに自分たちでできることをして欲しいと訴えるという点で、とても効果的で直接的なものがあります。最近の例では、ICANNにロシアのトップレベル国別ドメイン名を「永久的または一時的に取り消す」こと、DNSを停止させること、そしてTLS証明書を失効させることなど、あらゆることを要請しています。これらの妥当性についてはどのようにお考えでしょうか。そして彼らから返事はあったでしょうか?

ICANNからの返事はありません。彼らがどのようなアクションを起こすのか、起こすべきなのかはよくわかりません。しかし、組織、あるいは人々が共通の人道的価値観を共有しているならば、ここで立ち上がらなければ、影響を受けるのは世界であることは間違いないでしょう。事態はこのまま終息しません。プーチンは完全にいかれていますし、さらなる追い打ちをかけてくるでしょう。彼のこの10年間の活動を見れば、限界に挑戦していることがわかります。そして、彼は「力による会話」を理解していると思います。ですから私の立場は、とにかく全力で反撃することです。そうでなければ、考えたくはありませんが、もしかしたら最終的には核兵器まで行ってしまうかもしれません。しかし、彼の国は、問題を解決するには戦争以外の方法があることを感じなければなりません。

そこで一部の団体や草の根レベルで国際協力を呼びかけているわけですね。サイバー防衛に関しても、米国や他の国々と連携しているのでしょうか?

たくさんの連携が取れていると思います。

(彼は他国の支援を高く評価し、特に米国と英国に感謝を述べたが、具体的な内容には触れようとしなかった)

暗号資産について少しお話させてください。ウクライナはこの週末、ウォレットのアドレスをツイートし、さまざまな暗号資産が莫大に流れ込んでいるようです。そのウォレットをウクライナ政府のために、あるいはウクライナ政府に代わって実際に運用しているのは誰なのでしょうか。

そうですね、私たちが運用しているファンドは、ウクライナの暗号資産取引所が運営しているものです。つまり、これは官民合同のパートナーシップのようなものです。より迅速な対応を行えるように、このたび、ある取引所と提携したところです。誰も手を出せないように、資産がしっかり確保できるようにする必要があります。もちろん、高速交換、高速送金も必要です。政府だけが関わっているわけではないのですが、私たちがアカウントを管理してます。そのほとんどがマルチ署名のアカウントです。つまり、それを使おうと思ったら、少なくとも3人くらいの署名をもらわなければなりません。

(ボルニャコフ氏はそのうちの1人だが、すべての口座の署名者ではない)

Kuna(クナ)はあなたが取引をしている取引所です。これが、暗号資産取引所との間の提携で、暗号資産を実際の通貨に交換するのを支援しているということですか。

はい。ほぼ、その通りです。

了解です。また、みなさんはどの暗号資産を扱い、どの通貨に交換しているのでしょうか?

主にBitcoin(ビットコイン)、Ethereum(イーサリアム)、Tether(テザー)を扱っていますが、Polkadot(ポルカドット)で500万ドル(約5億8000万円)という巨額の寄付をいただきました。他の暗号資産での寄付を希望される方も多いので、暗号ウォレットを追加中です。交換先の通貨としては、米ドルとユーロが多いと思います。

Airdrop(エアドロップ)が承認されました。寄付権利確定は明日3月3日、キエフ時間(UTC/GMT+2)の午後6時に行われる予定です。(日本時間では3月4日午前1時)
報酬は追って配布!

ウクライナの暗号資産寄付キャンペーンに関する続報は、@FedorovMykhailoをフォローして下さい。

(訳注:Airdropとは暗号資産の無償配布のこと。暗号資産による寄付に対してウクライナが WORLD という暗号資産を無償配布することを事前に表明していた)

【編集部注】日本時間3月3日の夜、上記のAirDropが中止されたことをフョードロフ氏自身が発表した。

検討の結果、airdropを中止することにしました。ウクライナの反撃に協力を申し出る人は日々増えています。その代わり、ウクライナ軍を支援するためのNFTをまもなく発表する予定です。私たちは、FT(代替可能なトークン。ex.普通の暗号資産トークンなど)を発行する予定はありません。

もう寄付金は使われているのでしょうか?それとも、まだ使わずに待っているのでしょうか?

半分はすでに何かの機材に使われています。具体的に何をとは言えませんが、今日も大きな買い物が行われました。活用しています。防衛省とも連携しているので、Kunaと私たちだけでなく、防衛省も巻き込んでの活動です。ですから、基本的には私たちがニーズを理解して、彼らがロジスティクスを助けてくれるのです。これが終わったら、みなさんに完全な透明性のある報告をするつもりです(別途Kunaから聞いたところでは、機材の購入にはドローンやその他の補助的な機材も含まれているとのことである)。

関連記事:ウクライナへの暗号資産による寄付金、政府基金の使われ方

これまでにどれだけの資金が使われたのでしょうか。また、これまでにどれくらいの寄付金が集まったのでしょうか。

これまでに約2500万ドル(約29億円)の資金が集まり、1400万ドル(約16億2000万円)ほど使ったと思います。

なぜ、暗号資産を使わないルートではなく、暗号資産による寄付を選んだのでしょうか?資金調達のルートはたくさんあります。

さて、みなさんはご存じないかもしれませんが、ウクライナ国立銀行は、これに先立って、最初に大規模な国家的キャンペーンを行っています、こちらは、ほとんど通常の通貨とカードで資金調達をしています。ということで作業は並行しています。暗号資産だけではありません。ファンドは沢山あるのです。人道支援に重点を置いているものもあれば、軍事だけに重点を置いているものもあります。政府業務をサポートするために存在するものもあります。つまり、正確には知りませんが、さまざまな機関の力を合わせると、1億ドル(約115億7000万円)ほど調達できたと思います。

余談になりますが、副大臣が担当されたテックシティプロジェクト「Diia City」についてお聞きしたいのですが。今は少し後回しになっているようですね。

この時点では、そう、後回しになっています。このプロジェクトに関しては比較的すばらしいスタートを切ることができました。巨大企業や国際的な企業など、何百もの企業が参入していましたが、残念ながらロシアの侵攻によって、これがご破算になってしまいました。延期ということにしておきたいと思います。しかし現在は、企業はほとんどの人員を避難させているところです。

ウクライナに残って仕事を続けている人もいますが、多くの人が去ってしまいました。とても残念なことです。

私もそう思います。本当に、信じられないようなことが起きてしまったんです。私たちの領土でこのような悲劇が起こるとは、想像もしていませんでした。でも、いずれは再建します。そしてもちろん、現状を打開できると思っています。しかしその道のりはとても険しいものでしょう。

画像クレジット:Pierre Crom/Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:sako)

ロシア侵攻でウクライナ市民は暗号化メッセンジャー、オフライン地図、ツイッターを積極利用

ウクライナの人々はロシアによる侵攻を受けて、オフラインで使える地図アプリや暗号化されている通信アプリに目を向けている。侵攻により、数百万の人々が家を離れ、抗戦するか近隣諸国に逃れている。アプリストア分析企業Apptopiaのデータによると、ここ数日、ウクライナの人々はTwitterやストリーミングラジオアプリなど、最新のニュースや情報を入手できるさまざまなコミュニケーションアプリやオフライン地図などをダウンロードしている。

現在、同国のiOS App Storeでは、プライベートメッセンジャーのSignal、メッセージングアプリのTelegram、Twitter、オフラインメッセンジャーのZelloやBridgefyがトップ5にランクインしている。その他トップ10にはWhatsApp、そしてオフライン地図アプリのMaps.Meが入っている。Maps.MeはGoogle Mapsよりも6つ上にランクインしていて、Google Mapsは現在、リアルタイムの交通状況(セキュリティリスクとされる情報)の提供を停止している。そしてSpaceXのStarlinkアプリが入っていて、Elon Musk(イーロン・マスク)氏が衛星インターネットサービスが現在ウクライナで利用できるようになっていると発表してから39ランクアップした(もちろん、このサービスが必要とされる場所で実際にどの程度利用可能であるかは、今後のアプリの順位に反映されるかもしれない)。

関連記事:グーグル、ウクライナでGoogleマップのリアルタイム交通状況ツールを無効に

メッセージングアプリの上位に入っているものの中で、より多く採用されたアプリがいくつかある。

2022年2月24日のロシアの侵攻開始から2月27日までの間、Telegramの新規インストール数はApp StoreとGoogle Play合計で5万4200回とトップで、1月の同時期から25%増加した。一方、オフラインメッセージングアプリのBridgefyは、新規インストール数の増加率が最も高く、1月同時期にわずか591回だったダウンロードが、ここ数日で2万8550回と、前月比で4730.8%増という大幅な伸びを記録した。

同じくトランシーバーアプリのZelloは、1月24~27日のダウンロード1万2540回から、2月24~27日は2万4990回へと99.3%増加した。Signalの増加率は20.6%と控えめだが、1月の同期間のインストールは3万9780回、ここ数日では4万7990回とかなり強力な採用を誇っている。

もちろん、セキュリティに関しては、すべてのメッセージングアプリが同じように作られているわけではない。

Signalは最も安全なアプリで、エンド・ツー・エンドの暗号化を提供し、アカウント作成日以降のデータは収集されない。一方、Telegramはデフォルトではエンド・ツー・エンドの暗号化を提供していないが、ユーザーが暗号化された「秘密のチャット」機能を手動で有効にすることができる。ただし、TelegramはSignalの創業者Moxie Marlinspike(モクシー・マーリンスパイク)氏から、主張するほど安全ではないとの批判を受けており、その主張は長年にわたり他のセキュリティ研究者や暗号技術者などによっても支持されている

マーリンスパイク氏は最近Twitterで、Telegramが安全でないことをウクライナの人々に再び注意喚起し、Telegramはデフォルトで、誰もがこれまでに送受信したすべてのメッセージのプレーンテキストのコピーを持つクラウドデータベースになっているとツイートしている。

トランシーバーアプリのZelloは、1対1およびグループでの会話をエンド・ツー・エンドで暗号化しているとされているが、同社が2020年にセキュリティ侵害に直面していたことは注目に値する。Bluetoothとメッシュネットワークのルーティングに依存する人気の抗議アプリBridgefyも、過去数年にわたり数々のセキュリティ問題に直面してきた。このアプリは香港、インド、イラン、レバノン、ジンバブエ、米国での抗議活動の際に利用者が急増したが、2020年には深刻な脆弱性が見つかり、「プライバシー災害」と呼ばれることになった。

その後、エンド・ツー・エンドの暗号化のサポートを展開したものの、2021年にアプリを分析した暗号技術者は、それらの修正が不十分であることを発見した

メッセンジャー以外のアプリで、ここ数日ウクライナで急増しているのは、ストリーミングラジオとTwitterのアプリだ。

通常、TwitterはiOSのNewsカテゴリで1位だが、総合順位は90位から130位程度に落ち着いている。しかし、2月27日時点で、ウクライナのiOS App Store総合チャートでは前日から2ランクアップして4位、Google Playでは15ランクアップして28位となった。2月27日にTwitterはiOSとAndroidで約7000回ダウンロードされ、これは1日のダウンロード数としては過去最多だ。

画像クレジット:Apptopia ウクライナのアプリストア 2022年2月27日

ストリーミングラジオアプリのRadios UkraineとSimple RadioはApp Storeでも順位を上げ、現在それぞれ19位と21位につけている(Facebookが20位で、その間に入っている)。

Google Playのウクライナのトップチャートは、少し様子が違う。

Signal、Bridgefy、Telegram、Zelloもトップ5に入っているが、エンド・ツー・エンドの暗号化を提供するAndroid専用のピア・ツー・ピアメッセンジャーBriarもランクインしている。オフライン地図アプリのMaps.Meは11位、Two Wayとシンプルな名前の別の双方向トランシーバーアプリは15位で、WhatsAppがそれに続く。

ウクライナのGoogle Playストア、2022年2月27日(画像クレジット:Apptopia)

両アプリストアとも、多くのゲームがトップチャートにランクインしている。家族が急場しのぎの防空壕に隠れたり、安全な場所まで長距離移動する間に、子どもたちを楽しませるためにダウンロードされたようだ。

世界の他の場所では、ロシア・ウクライナ戦争が他のアプリをチャート上位に押し上げている、とApptopiaは指摘する。

米国では、ニュースアプリのCNNとFox Newsがここ数日で急上昇し、ワシントンポストでは、国家間の緊張が高まる中、2月19日の侵攻に先立って1日のインストール数が過去最高(1万5000回)を記録した。

画像クレジット:Apptopia 米国ユーザーのニュースアプリダウンロード数

そして今、ロシアがニュースやソーシャルメディアへのアクセスを遮断したことで、VPNアプリの需要が高まっている。Apptopiaの調べによると、ロシアが国内でFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアアプリへのアクセスを制限し始めた後、VPNアプリのトップ5は1日のダウンロード数が大幅に増加し、ユーザーは通常よりも1日に数万回多くVPNアプリをダウンロードした。しかし、ロシアの人々は、VPNが必ずしもセキュリティに優れているわけではないことに注意する必要がある。VPNプロバイダーは、インターネットトラフィックをISP(インターネットサービスプロバイダー)以外の誰かにルーティングするだけなので、セキュリティは、VPNプロバイダーをどれだけ信頼できるかに左右される。

急増するVPNアプリのダウンロード(画像クレジット:Apptopia)

画像クレジット:Anna Fedorenko / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

暗号資産の寄付、ウクライナはどう活用するか

ウクライナ政府の公式Twitterアカウントは現地時間2月26日、2つの暗号資産ウォレットアドレス(ビットコインウォレットアドレスとイーサリアムウォレットアドレス)を共有した。「ウクライナの人々とともに立ち上がろう。現在、暗号資産による寄付を受付中。ビットコイン、イーサリアム、USDT」と@Ukraineは書いている。

しかし、これらのウォレットを誰が所有し、運用しているのかを確かめることは難しい。公開アドレスは、文字と数字の羅列にすぎないからだ。ウォレットの所有権を譲渡することは可能なので、厳密には誰のものでもない。

このようなツイートに対する最初の論理的な反応は、細心の注意を払って行動すべき、だ。これらのウォレットが政府のメンバー、政府機関、政府に代わって非公式に暗号資産の寄付を促進している政府外部の人物、または政府のメンバーのふりをしている人物によって運営されているかどうかは不明だ。

しかし、ウクライナ政府がこれらのウォレットアドレスで受け取った資金を管理している可能性は、低いというよりも高いと思われる理由がいくつかある。まず、このツイートは削除されておらず、つまり@Ukraineが悪用されている可能性はおそらく排除される。もし誰かがアカウントを乗っ取ったのであれば、政府の公式アカウントを運営している人たちは比較的早くこのツイートを削除しているはずだ。

次に、ウクライナの副首相兼デジタル変革大臣であるMykhailo Fedorov(ムィハーイロ・フョードロフ)氏をはじめとして、他の人々がこれらのウォレットアドレスを共有した。「ウクライナの人々とともに立ちあがろう。暗号資産の寄付を受付中」とフョードロフ氏は書いている

3つ目は、ウクライナのデジタル変革省の広報担当者が、@Ukraineのツイートが本物であることを確認したことだ。「これらのアカウントは国のもので、特別な暗号資産基金を作りました」と電子メールで筆者に述べた。

そして、多くの人がすでにこれらのアドレスに暗号資産を送っている。この点では、ブロックチェーンエクスプローラーに公開アドレスを入力するだけで、入出金取引のリストを見ることができるので、把握するのは簡単だ。

本稿執筆時点では、Etherscanでイーサリアムウォレットに約6800件の入金があったことが確認できる。同様に、ビットコインのウォレットアドレスに関連する取引は7000件超ある。

人々は153BTCと2230ETHを送り、現在それぞれ629万ドル(約7億2200万円)と627万ドル(約7億2000万円)の価値がある。また、一部の寄付者はUSDTやUSDCといったイーサリアムベースの暗号資産を送った。

暗号資産コミュニティの一部のメンバーも、独自の資金調達活動を開始したことは注目に値する。Michael Silberling(マイケル・シルバーリング)氏はDune Analyticsにダッシュボードをつくり、@Ukraineが支援するイーサリアムウォレットアドレスだけでなく、他のコミュニティ主導のプロジェクトに対する暗号資産寄付も追跡している。

取引に関しては、キエフに拠点を置く暗号資産取引所であるKunaに、すでに多額のETHが送金されている。

「Kuna.ioはウクライナの資金調達に技術的なサポートを提供しています」と、Kunaの広報担当者は電子メールで筆者に語った。「すべての資金は安全で、要請に応じて政府に送られています」。

Kunaの創業者Michael Chobanian(マイケル・チョバニアン)氏は主にTelegramで発信してきたが、最近自分のTwitterアカウントを作り、寄付の詳細を共有した(Kunaのチームは、このアカウントが正規のものであることをメールで確認した)。

チョバニアン氏は、資金調達活動の進捗状況の共有を始めた。

まだ未解決の懸念がいくつかある。暗号資産はどの通貨と交換されるのか? そして、これらの資金はどのように使われるのか?

TechCrunchはウクライナ政府に資金に関するより詳細な情報を求めている。また、Kunaのチョバニアン氏にも連絡を取ったが、執筆時点では返答がない。

つまり、この話題については、もっとフォローする余地がある。しかし、暗号資産ウォレットのアドレスが書かれた1つのツイートが、いかに数時間のうちに世界中から寄付者が集まる大規模な資金調達キャンペーンになったかは、すでに興味深いものだ。

画像クレジット:Ismail Ferdous / Bloomberg / Getty Images

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nariko Mizoguchi

ウクライナ発の顔交換アプリ「Reface」が反戦プッシュ通知を追加

a16zが出資するウクライナ発の合成メディアアプリReface(リフェイス)は、世界中に抱える約2億人ものユーザーにロシアのウクライナ侵攻を知らせるプッシュ通知を追加し、アプリで作成した顔交換動画に透かしを入れるなど、人々に#StandWithUkraineを呼びかけている。

アプリで作成されたすべての動画には現在、ウクライナ国旗と#StandWithUkraineのハッシュタグの透かしが入る。

また、今回のアップデート後にアプリを開くと、キエフで避難する市民の画像が表示され、画像はロシアがウクライナを攻撃した「証拠」だとするキャプションが表示される。

メッセージはまた「戦争を止める」ために、ロシアを国際銀行決済システムSWIFTから排除するよう求めている。

Refaceによると、アプリの別の次期アップデートでは、すべてのユーザーに「ウクライナでの戦争に反対する声明を出す」よう促すという。

Refaceはまた、ウクライナをサポートできるリソースをユーザーに案内している。

画像クレジット:Reface

Refaceは2月最後の週末から反戦キャンペーンを開始し、これまでに900万通のメッセージが送信され、そのうち200万通はロシアのユーザーに届けられたという。

ユーザーの自撮り写真を有名人のビデオクリップにマッピングすることで、現実をファンタジーに変え、消費者に数秒間の想像上の楽しみを与えてきたこのアプリにとって、これは超現実的な展開だ。

しかし、Refaceの従業員がロシアの侵攻を直接体験していることから、チームは、この状況に対する世界的な認識を高め、人々に抗議を促すために何かする必要があると判断した。

画像クレジット:Reface

ウクライナからTechCrunchにメッセージを寄せたRefaceのCEOで共同創業者のDima Shvets(ディマ・シュヴェッツ)氏は、次のように語っている。「Refaceは大規模な情報キャンペーンを開始し、すべてのロシア人ユーザーにプッシュ通知を送り、我々の都市におけるロシアの攻撃の証拠を示し、ウクライナとともに立ち上がり、抗議行動に出るよう人々に呼びかけました。さらに、世界中のユーザーに対して、ウクライナを支援するためのアプリ内メッセージを追加し、現在、当社のアプリで作られたすべてのビデオには、#standwithukraineとウクライナ国旗の透かしが入っています」。

「我々はこのキャンペーンがいかに危険なものであるかを理解し、すべてのリスクを負っています。すでに多くの星1つのレビューや、真実を見る準備ができていなかった人たちからの報告を受けています」とも付け加えた。

Refaceは、ロシアにいる550万人のユーザーを対象に、抗議を促すプッシュ通知と、ウクライナ国内の戦争映像のスライドショー(焼け落ちた建物や爆撃を受けた建物、避難しようとする市民の写真など)へのリンクを送信する。

ロシアで展開されているスライドショーに添えられたキャプションには、次のように書かれている。「ロシアの顔に泥を塗れ」「一緒に戦争を止められる」「通りを埋め尽くせ」「我々が反対していることを世界に示せ」。

Refaceの広報担当者は「最初の目標は、ロシア人に本当の情報を広め、独立したメディアや信頼に値する情報源にアクセスできないロシアの人々に抗議を促すことです」と語った。

「リスクを理解し、そのすべてを負っていますが、それは我々の自由のために支払う小さな代償です。そして、App StoreとGoogle Playが我々をサポートすることを願っています」。

ロシア政府がロシアの主要メディアを支配しているため、ロシア国民は日常的に国家のプロパガンダにさらされている。例えば、ウクライナへの侵攻は「特別軍事作戦」であり、戦争行為や理不尽な侵略ではない、というプーチン大統領の主張などだ。

つまり、プーチン大統領の軍が隣国ウクライナを陸・空・海から砲撃し始めて以来、多くの一般ロシア人はウクライナ国内の映像を見たことがないことを意味する。

ロシア政府はまた、外国の主要ソーシャルメディアプラットフォームによって、プロパガンダの発信が制限されるのを防ごうと動いている。

同政府は2月25日、Facebook(フェイスブック)へのアクセスを一部制限すると発表した。明らかに、ソーシャルメディアプラットフォームがロシア政府とつながりのあるメディアに対して事実確認のラベルを貼ったことに対する報復だ。

関連記事:ロシア、国内でのフェイスブックへのアクセスを部分的に制限すると発表

ロシアのウクライナ侵攻を非難する立場を取ることで、Refaceはロシアのインターネット規制機関Roskomnadzorから同様の措置を受ける危険性がある。Roskomnadzorは、例えば、Apple(アップル)や Google(グーグル)のモバイルストアからRefaceアプリを排除するよう働きかけるかもしれない。

地下鉄に避難しているウクライナに残ったRefaceのスタッフ(画像クレジット:Reface)

ハイテク大手2社は9月、ロシア国家からの圧力に屈し、獄中のロシア政府批判者Alexei Navalny(アレクセイ・ナヴァルニー)氏の組織が作成した戦術的投票アプリをストアから削除した。

Roskomnadzorは、Smart Votingアプリを削除しないなら罰金を科すと脅した。

Roskomnadzorは以前にも、ロシア国民がローカルのアクセス制限を回避することを困難にしようと、VPNアプリを標的にしたことがある。

しかし、ロシアの情報形成のためのサイバー活動は、アクセス制限をはるかに超えて広がっている。Refaceに反戦メッセージが追加されて以来、突然星1つのレビューが殺到したのは、ロシア政府の支援を受けた偽情報屋が、反ウクライナ政策の一環として、アプリの評判を落として利用意欲を低下させようとする協調行動である可能性が少なくともある。

また、このほど新たな制裁を発表したEUは、悪名高いロシアのトロール工場(別名:インターネットリサーチ機関)とロシアの独裁者の出資者であるYevgeny Prigozhin(エフゲニー・プリゴジン)を、制裁対象の団体と個人の拡大リストに追加したことも注目される。

しかしRefaceは、反戦メッセージを公開して以来、同社のアプリに対する否定的なレビューが、ロシア政府への協調行動かどうかを判断するのは難しいと述べた(もちろん、もともと純粋な娯楽アプリであるRefaceが、反戦メッセージを送るという決定を下して、一部のユーザーを単に困らせたということは十分にあり得るし、おそらくかなりあり得ることだ)。

否定的な反応を受け、Refaceは「ウクライナの現状について世界に情報を提供し続ける」ことができるよう、人々に「App StoreとGoogle Play Storeでの評価を高く保つ」ことへの協力を呼びかけている。

つまり、アプリの評価さえも、サイバー戦争のプロパガンダの戦場として流用することができるようだ。

Refaceのチームが直面している現場の状況について尋ねると、チームのスタッフの多くは現在紛争地帯で仕事をしており、スタッフのほとんどがまだウクライナにいる、とRefaceは話した。ただし、12月以降、出国したり、海外でリモートワークをしている人もいるという。

男性の社員は、侵攻以来、政府の規制により国外に出ることができない。

Refaceの広報担当者はウクライナにいるスタッフについて、多くのスタッフはより安全な場所を求めてウクライナ西部に移動し、他のスタッフはキエフに留まって「防空壕から情報的・技術的に支援」していると話した。

また、自主的に国防軍に参加した人もいるという。

「チームは分裂を余儀なくされたものの、これほどまでに団結したことはありません」と広報担当者は語り、こう付け加えた。「私たちは勇敢で強く、ロシアの侵略者に滅ぼされることはないでしょう。しかし、世界からの全面的な支援なしには、この戦争を止めることはできません」。

ウクライナでの戦争中の別のReface従業員の仕事場(画像クレジット:Reface)

Refaceは世界の指導者たちに対して、ロシアに対してより厳しい制裁を科すとともに、ウクライナへの支援(武器など)を強化するよう求めている。

SWIFTに関しては、EUの首脳は禁止措置をめぐって揺れているように見えたが、2月25日、EUは他の多くの措置とともに、ロシアの銀行市場の70%を排除する制裁措置に合意した(ロイターより)。

EU委員長は週末に、ロシアの国営メディアであるロシア・トゥデイ(RT)とスプートニク(およびその子会社)に対し「前例のない」さらなる措置を講じると発表した

声明の中でEUのUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)委員長は、ロシア政府の「メディア・マシンは…プーチンの戦争を正当化し、我々の連合に分裂をもたらすために、もはや嘘を流すことはできないだろう」と述べ、EUは「欧州におけるロシアの有害な情報操作を禁止するツールを開発中」だと付け加えた。

EUが何を意図しているのか、禁止令が実際にどのように機能するのか、テレビ局だけでなく、そのコンテンツをホストしているオンラインプラットフォーム(YouTubeなど)にも適用されるのか、あるいは、穴だらけの(誤)情報時代にロシアのプロパガンダマシンを阻止するという話に本当に意味があるのか、正確にはわからないが、EUが試みたいと言っているという事実は注目される。

デジタル政策の立案において、EUの議員たちは往々にして言論統制と非難される可能性のある措置を提案することに非常に慎重だ。しかし、プーチンはEUの議員たちにその一線を越えさせてしまったようだ。

画像クレジット:Alain Pitton / NurPhoto / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

ツイッターがロシア国営メディアにリンクするツイートを特別にマーク、リーチの制限狙い

Twitter(ツイッター)は米国時間2月28日、ロシア政府がウクライナへの侵攻を続けていることを踏まえ、ロシア政府と結びついた偽情報の拡散を防ぐための新たな措置を発表した。

同社は、ロシア政府とつながりを持つメディアからのリンクを含むツイートに、その関連性を示すラベルを追加することを開始する。このラベルにはオレンジ色の感嘆符が付き、Twitterユーザーに「stay informed(情報に注意 / 情報源を知りましょうという意)」と警告している。

Twitterはまた、これらのニュース組織が幅広いオーディエンスにリーチする能力を弱めるため、プラットフォーム上でロシア国営メディアの可視性を低下させることを開始する予定だ。

ロシア政府とつながりのあるツイートに対する変更は、直ちに展開される。Twitterによると、今後数週間のうちに、他の「政府系メディアアカウント」についても同様のラベルを追加する予定だという。

「ロシアのウクライナ侵攻に関して、人々がTwitterで信頼できる情報を探している中、当社は自分たちの役割を理解し、真剣に受け止めています」とTwitterのサイトインテグリティ責任者であるYoel Roth(ヨエル・ロス)氏はツイートで述べている。「我々の製品は、あなたが見ているコンテンツの背後に誰がいるのか、そして彼らの動機や意図が何であるかを簡単に理解できるようにするべきです」とも。

Twitterは2年前に国営メディアのアカウントにラベルを付け始めたが、これらのタグはアカウントのプロフィールページに表示され、ツイート自体のラベルほどには目につかない。

同社は政府系メディアのアカウントによる広告を許可していない。これは、中国政府とつながりのある多数のアカウントが香港での抗議デモに関するプロパガンダを拡散したことを受けて、2019年に実施した変更だ。

ロス氏は、ロシアのウクライナ侵攻が始まった数日前から、ロシア政府系のメディアにリンクするツイートが1日4万5千件以上見られるようになったと付け加えた。同氏はこの新しいラベルを、Twitter上の会話に「有用なコンテキストを加える」方法であり、グローバルな選挙やパンデミックに関するツイートで同社が行っている取り組みと一致するもの、と位置付けた。

関連記事:ウクライナがロシアにハッキングで対抗する「IT部隊」を募集し反撃、テックリーダーにも参加を呼びかけ

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Den Nakano)

ウクライナがロシアにハッキングで対抗する「IT部隊」を募集し反撃、テックリーダーにも参加を呼びかけ

ウクライナがロシアの一方的な侵攻に対抗するために現地の一般市民を動員し武器を与える中、ウクライナ国外で力になりたい人々は、バーチャルワールドでの戦いに参加するよう要請されている。G7(米国時間2月27日に日本も参加)が結集して国際銀行システムのSWIFTからロシアの銀行を締め出そうとしている一方で、ウクライナ政府はデベロッパーたちに向けて、具体的なサイバー攻撃の任務を負ったIT部隊への参加を募るキャンペーンを行っている。政府はテック企業のリーダーにも、それぞれの役割を果たすよう名指しで呼びかけている。

IT Army of Ukraine(ウクライナIT部隊)」は26日に発表され、すでに同部隊のメインTelegram(テレグラム)チャンネルに集まった18万4000近いユーザーは(人数は伸び続けており、本稿執筆時点で1万人近く増えている)、アカウントを使って特定目的のプロジェクトを複数立ち上げ、ロシアのサイト、ロシアのスパイ、ロシアと共謀して行動する人々を封鎖し、ウクライナに住む人たちを動員して自分たちにできる行動をするよう呼びかけている。(Telegramを使っていない人たちのためのGmailアドレス、itarmyura@gmail.com も用意されている。TechCrunchはこのアドレスに連絡を取り、主催者がプロジェクトの詳細について話してくれるよう尋ねている)。

そしてその効果は現れているようだ。ロシア最大級の銀行であるSberbank(ズベルバンク)のAPIを封鎖するためのチャンネルの呼びかけがすでに実行に移されたようで、サイトは現在オフラインになっている。同様に、ベラルーシの公式情報ポリシーサイトも、対応するチャンネルで呼びかけがあったあと、オフラインになったと報告されている。彼らのとっている単純なアプローチは、Anonymous(アノニマス)をはじめとする活動家ハッカーグループが特定のターゲットを攻撃する際に用いているものと類似している。

「信じられないサイバー攻撃がロシアの政府サービス・ポータル、官邸、議会、チャンネル1、航空宇宙、鉄道などのサイトを襲った」と、ロシアメディアを引用して同部隊は指摘した。「『50を超えるDDosアタックが1テラバイト以上の容量を飲み込んだ』誰のしわざ:)?なんと悲しい事故でしょう」。

この取り組みは口コミで広がっているだけでなく、政府担当者もリンクをツイートして支援している。(ただし、政府が実際に背後にいるかどうかはわからない)。

「私たちはIT部隊を作っています。私たちはデジタル人材を必要としています」とウクライナの副首相兼デジタル変革相、Mykhailo Fedorov(ミハイロ・フェドロフ)氏がTwitterで呼びかけた。「誰にでも任務があります。私たちはサイパー前線で戦い続けます。最初の任務はサイバー専門家のためのチャンネルに書いてあります」。

フェドロフ氏はTwitterで言葉を無駄にしていない。同氏はMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏とElon Musk(イーロン・マスク)氏も指名して、それぞれのプラットフォームと既存の製品を使ってプロジェクトを支援するべく、ロシアでのFacebookへのアクセスを禁止し、ユーザーがデータをバックアップできるようにStarlink(スターリング)のアクセスをウクライナに拡大するよう呼びかけた。しかし、Facebookの行動は少々遅れているようだ(広告は禁止されたが、今のところアクセスは禁止されていない)。

フェドロフ氏は、NFT(非代替性トークン)などのバーチャル商品の取引に使われているDMarket(ディーマーケット)が、ロシアとベラルーシのユーザーのアカウントを凍結したこともとり上げて称賛した。それらのアカウントの資金は対ウクライナ攻撃に使われる可能性があったからだ。

この国の暗号資産プラットフォームに対する立ち位置は概してかなり積極的であり、ウクライナ公式Twitterアカウントは26日、Bitcoin(ビットコイン)、Ethereum(イーサリアム)、およびTether (テザー、USDT)による寄付を受け付けるためのアドレスを公表した。多くの人々はアカウントがハックされたものだと思ったが、現在このツイートはピン留めされており、真剣であると思われる。しかし、寄付された資金がどのように集められ、どのように使われるのかは明確にされていない。

一連の出来事は、テクノロジーの動きの速さと、そこへの依存性の高さを物語っている。これを銀行間ネットワークSWIFTの閉鎖と対比すると興味深い。「swift(迅速)」の名前とは裏腹に、この制裁の動きはあまり速くない。なぜなら効果を得るためには各国が名乗りを上げるだけでなく、メンバーの金融機関(SWIFTには200カ国にわたる1万1000社の銀行その他の金融機関が加入している)もスイッチを切る必要があるからだ。

「SWIFTは中立的国際協力機構であり、200か国、1万1000以上の機関からなる共同体の総合的利益のために運営されています。国や個人を制裁するあらゆる決定は、適格な政府機関および適用される立法機関に委ねられています。ベルギー法の下に法人化されている私たちの義務は、EUおよびベルギーの関連規則を遵守することです」とSWIFTがTechCrunchに提供した声明で述べた。「私たちは欧州委員会、フランス、ドイツ、イタリア、英国、カナダ、米国の指導者による、ロシアの銀行に対して近々新たな規制実施を言明した共同声明を認識しています。私たちは欧州当局と協力して、新たな規制の対象となる実体の詳細を理解し、法律を遵守する準備を進めています」。

誤解のないようにいっておくが、SWIFTのアクセスを失うことは一大事であり、ロシアとロシア企業から商品売買のための取引機会を奪うものだ。しかし、この種の封鎖が最後に実施されたのはイランに対するもので、最大の効果を得るまで数年を要した。

「SWIFTを禁止されたりそこから排除されることは確実な影響があります、なぜならポイント・ツー・ポイント・ネットワークに関して、代替手段は多くないからです」とフィンテックコンサルタント会社、Firebrand Research(ファイアブランド・リサーチ)のアナリストファウンダー、Virginie O’Shea(バージニー・ オーシェイ)氏がTechCrunchに語った。彼女は、ロシアはかつてロシア国内銀行ネットワークを独自に構築しようとしたが、現時点で海外へは拡大していないことを指摘した。「SWIFTのような仕組みを作るには多くの時間と手続きが必要です」。

イランのときと同様、他国にも莫大な影響がありガスなどのエネルギー製品をロシアに依存している国々は特にそうだ。SWIFT決議の実施に時間がかかる理由の1つがそれだ。「石油とガスの視点で考えれば、これらのサービスへの支払いを妨げているのであり、ロシアだけでなく取引国にも影響を与えることになるのです」。

画像クレジット:Anadolu Agency / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ロシアのウクライナ侵攻へのテック業界各社の対応

2月24日、ロシアは数カ月におよぶ国境での軍備増強を経て、隣国ウクライナへの侵攻を開始した。

インターネットトラフィックの氾濫とデータ消去マルウェアによる、ウクライナ政府機関を標的としたサイバー攻撃に始まり、その後、地上、海上、空からの侵攻を開始した。ウクライナの報道機関もサイバー攻撃による障害を報告しており、ウクライナ政府はこのサイバー攻撃はモスクワと「明確な関連」があると指摘している

米国、欧州連合、NATOの同盟国は侵攻を激しく非難し、ロシアに広範で前例のない金融・外交制裁を科そうとしている。この制裁は地域全体のビジネス、貿易、金融に影響を及ぼすと思われる。

侵攻の影響は、ウクライナのテックエコシステム全体にも及んでいることは間違いない。ウクライナには、何百ものスタートアップやテック大企業だけでなく、世界最大のテクノロジーブランドの研究開発オフィスもある。

今後数時間、数日の間に現地の状況が急速に変化する中、TechCrunchはこの紛争がテックやスタートアップのコミュニティにどう及ぶのか、ニュースや分析を提供し続ける予定だ。

ある大手テック企業の役員は、従業員の安全のために社名を伏せるよう要請しつつ、ウクライナにいる全スタッフを避難させる方法を検討している最中であることをTechCrunchに認めた。現在、全空域が立ち入り禁止になっており、公共交通機関もほとんど機能していないことが事態を困難にしている。現在の計画では、ハンガリーかポーランドのどちらかに国境を越えてスタッフを移動させる方法を考えている。

こうした状況は、ウクライナのスタートアップにも大きな経済的影響を与えそうだ。

PDFや電子メール、その他の生産性ツールを手がけているReaddleは、ウクライナで最も有名な自己資金で起業したスタートアップの1社だ。南部の都市オデッサを拠点とする同社の広報兼マネージングディレクターのDenys Zhadanov(デニス・ジャダノフ)氏は、現在処理しなければならない緊急事態が多すぎると述べ、この記事のための電話インタビューをキャンセルした。しかし、ジャダノフ氏はテキストメッセージでTechCrunchに語った。

「我々は少し前に事業継続計画を立て、今それを実行しています。Readdleのすべての製品とサービスは稼働しており、現時点ではチームの避難は行われていません」。

ジャダノフ氏は、Readdleが11カ国で従業員を抱える国際的な企業に成長したことを指摘した。チームの「大部分」は、今もウクライナを拠点にしているという。

「ウクライナには、優秀なエンジニアやデザイナーなど、技術系のプロフェッショナルが集まっています」とも付け加えた。「多くのテック企業のCEOが、ウクライナに留まることを意図的に選択しました。彼らの多くは、この国とその人々を助けるために、援助や寄付をしています」。

ウクライナでは、さらに多くの国産スタートアップが、その影響を感じている。家庭用無線セキュリティのAjax、AIベースの文法・文章作成エンジンGrammarly、顔交換アプリのReface、ペットカメラシステムのPetcube、販売・マーケティングインテリジェンスのスタートアップPeople AI、語学個別指導マーケットプレイスのPreplyなどだ。これらの企業は、世界最大級のVCのいくつかから資金を調達しており、今回の事態でそうした関係にどのような影響が出るのか、また出るのかが1つの疑問点だ。

Macのソフトウェアやユーティリティを開発するソフトウェア会社のMacPawは、本社はキエフにあるものの、インフラはAmazon Web Servicesでホストされており、物理的にはウクライナ国外にあるとブログへの投稿で明らかにした。同社の決済処理会社Paddleは英国に拠点を置いており、ユーザーにとって「何も変化はない」見込みだ。「現時点で、我々は強く、団結し、ウクライナの主権と領土保全を守る準備ができています」とMacPawはTechCrunchへの電子メールで述べた。

ウクライナに進出しているある企業は、現地の状況が急速に変化していることを理由に、TechCrunchとの会話を報道されることを拒否した。

スタートアップだけでなく、研究開発部門を国外に置いているテック大企業や、コンテンツから広告販売まで、より地域に密着したサービスを提供しているチームもある。

GoogleのYouTubeやByteDanceのTikTokのような消費者向けのプラットフォームを持つ企業にとっては、偽情報や、逆の検閲にどのように利用されているか、あるいは誤用されているか、またその種のトラフィックをどう処理しているかが問われることになる。その上で、サービス全体がどのように維持されているのか、制裁やインターネットサービスの中断によって停止するリスクはないのかも問われる。TechCrunchはAmazon、Apple、ByteDance、Facebook、Google、Meta、Snapにコメントを求めた。詳細が分かり次第、更新する。なお、Microsoftはコメントを却下した。

その他、伝える点がいくつかある。

Googleでは、その様子からして、グローバルサービスの研究開発と現地でのオペレーションを担当する約200人がウクライナで働いているようだ。同社は長年にわたり、ロシアにおけるYouTubeをめぐる検閲で多くの問題に直面してきたが、今のところウクライナではそのようなことはない。

2016年からウクライナで事業を展開し、9都市に進出しているUberは、同国内での事業を一時停止した。Uberはキエフ在住の従業員とその近親者に、ウクライナの他の地域や他国への一時的かつ自主的な移転を提案した。ギグワーキングのドライバーと彼らがサービスを提供するライダーにとって、Uberのアドバイスは家にいることだ。

「私たちは、Uberの乗客、ドライバー、従業員の安全を守るためにできる限りのことをすることに引き続き注力しています。「部門横断的なチームが状況を注意深く監視しており、安全が確認され次第、サービスを再開する予定です」とUberはTechCrunchに述べた。

Lyftもウクライナを拠点とする従業員に対して予防策を講じている。ロイター通信によると、Lyftは緊急物資や避難のための金銭的支援に加え、休暇も提供する予定だという。Lyftはウクライナに約60人の従業員を抱えているとされ、2021年12月のブログでは、同年4月に開設したキエフオフィスを拡張する計画があると書いている。Lyftの広報担当者はすぐにはコメントしなかった。

TikTokとその親会社のByteDanceは通常、国別の従業員数を公表していないため、ウクライナに何人いるかは不明だ。しかし、彼らは非常に人気のあるアプリを持っている。同国では2021年に30%のリーチがあったと推定され、前年の2倍となった。TechCrunchは2021年、TikTokがアレクセイ・ナワリヌイ氏を中心とした反プーチン活動をめぐる重要な戦場となった様子を紹介した

関連記事:ナワリヌイ氏が混ぜっ返すロシアの政治戦争にTikTokも台頭

TikTokの広報担当者は、TechCrunchに提供した声明の中で「当社のコミュニティと従業員の安全は最優先事項です」と述べた。「当社は、有害な誤情報を含むコンテンツを削除するなど、当社のプラットフォームの安全を脅かすコンテンツや動きに対して行動を起こし、状況が進展するなかで監視を続け、リソースを投入していきます」。

Facebookの安全保障ポリシー責任者Nathaniel Gleicher(ナサニエル・グレイチャー)氏は、ロシアのウクライナ侵攻に対応してプラットフォームが取る行動についてツイートした。グレイチャー氏によると、Facebookはネイティブスピーカーによる特別作戦センターを設置し「状況を注意深く監視し、可能な限り迅速に行動する」ことにしているという。また、同プラットフォームは、ユーザーが自分のアカウントをロックできる機能をウクライナに展開し、ユーザーの友人でない人は、プロフィール写真のダウンロードや共有、タイムライン上の投稿の閲覧ができないようにした。これは、Facebookが8月にアフガニスタンでユーザーを保護しようとしたときに使ったのと同じ戦略だ。Metaはまた、アフガニスタンのユーザーの「友達」リストの表示と検索機能を一時的に削除し、アカウント保護に関する指示を表示するポップアップの警告をInstagramで展開した。今のところ、この2つの措置はウクライナのアカウントには採用されていない。

Twitterはウクライナのユーザーに対し、多要素認証の使用やツイートの位置情報の無効化など、オンラインアカウントを保護するよう警告している。24時間前にTwitterが、侵攻前のロシアの軍事活動に関する詳細を共有しているアカウントを誤って停止したことを認めた時とは打って変わった事態になっている。

関連記事:ツイッター、ロシアの軍事的脅威に関するオープンソース情報を共有するアカウントを復活

また、インターネット大手CloudflareのCEO、Matthew Prince(マシュー・プリンス)氏は、データセンターが侵害された場合に顧客のデータと通信を保護する取り組みの一環として、侵攻開始の数時間後に「ウクライナのサーバーからすべてのCloudflare顧客の暗号資料を削除した」と述べた。同社は2016年にキエフのデータセンターを開設しており、同社のステータスページによると、現在も稼働している。Cloudflareは、組織や政府機関にコンテンツ配信とネットワークセキュリティを提供している。

画像クレジット:Daniel Leal / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、Ingrid Lunden、Carly Page、Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

ウクライナ紛争が米国のサイバーセキュリティを脅かす理由

TechCrunch Global Affairs Project(テッククランチ・グローバル・アフェアーズ・プロジェクト)は、ますます関係が深まるテック業界と国際政治との関係を検証する。

ロシア軍が再びウクライナ侵攻の構えを見せる中、ここ数日どうすれば紛争の拡大を避けられるかに注目が集まっている。最近の(おそらく今後も)ウクライナにおけるサイバー攻撃の激化は、残念ながら最終的にこの衝突がデジタル領域に深刻な影響を与えることを示唆している。そして地上侵攻と異なり、デジタル紛争地域は米国まで拡大する可能性がある、と米国政府は警告した。長年にわたるロシアによるサイバー監視と「環境の準備」は、今後数週間数カ月のうちに、米国民間セクターに対する重大かつ破壊的ともいえる攻撃に発展するおそれがある。

このレベルの脆弱性を容認できないと感じるなら、それは正しい。しかし、どうしてこうなってしまったのか? また、大惨事を回避するために必要な行動は何なのか?まず、ウラジミール・プーチン大統領が、彼の長年にわたるロシアのビジョン達成のために、21世紀の技術的手法をどのように実験してきたかを理解することが重要だ。

サイバープロローグとしての過去

ロシアの動機は実に平凡だ。2005年4月、プーチン氏はソビエト連邦の崩壊を「世紀最大の地政学的大惨事」であり「ロシア国民にとって【略】紛れもない悲劇」であると評した。以来、この核となる信念が多くのロシアの行動の指針となった。残念なことに、現在。ヨーロッパでは戦場の太鼓が高らかに鳴り響き、プーチン氏はロシアの周辺地域を正式な支配下へと力で取り戻し、想定する西側の侵攻に対抗しようとしている。

ロシアがウクライナに対する攻撃を強め(ヨーロッパにおける存在感を高める)時期に今を選んだ理由はいくつも考えられるが、サイバーのような分野における能力の非対称性が、自分たちに有利な結果をもたらすさまざまな手段を彼らに与えることは間違いない。

ロシアの地政学的位置は、人口基盤の弱体化と悲惨な経済的状況と相まって、国際舞台で再び存在を示す方法を探そうとする彼らの統率力を後押しする。ロシアの指導者たちは、まともな方法で競争できないことを知っている。そのため、より容易な手段に目を向け、その結果、恐ろしく強力で効果的な非対称的ツールを手に入れた。彼らの誤情報作戦は、ここ米国で以前から存在していた社会的亀裂を大いに助長し、ロシアの通常の諜報活動への対応におけるこの国の政治分断を悪化させた。実際、ロシア政府は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとときとしてそれにともなう内乱に気をそらされている西側に、つけ入る機会を見出している可能性が高い。

しかしプーチン氏の長年にわたる非対称的手段の採用は、ロシアが何年にもわたりこの瞬間のために準備してきたことを意味している。こうした行動には馴染みがある。ソビエト時代の古い手段と道具は、21世紀のデジタル・ツールと脆弱性の操作によって新たな姿へと変わった。そして近年、この国はウクライナ、リビア、中央アフリカ共和国、シリア、その他の紛争地域を、自らの情報活動とサイバー機能破壊の実験台として利用している。

神経質になったロシア

今日ロシア当局は、さまざまな技術を駆使した「積極的対策」を施して、基本的民主主義機構を混乱させ、デマを流布し、非合法化しようとしている。ロシアがウクライナに送り込んでいる傭兵や秘密諜報員は、海外のハイブリッド戦場で技を磨き、否定可能な誘導工作と攻撃的サイバー活動を巧みにおりまぜた策略と物理的行動の組み合わせを用いている。

サイバースペースにおいて、ロシアは当時前例のなかった2007年のエストニアに対するサイバー攻撃や、その後のウクライナのライフラインや官庁、銀行、ジャーナリストらを標的とし、今も市場最も犠牲の大きいサーバー攻撃へと発展した、 NotPetya(ノットペトヤ)型サイバー攻撃を実行してきた。ロシアの諜報機関が米国の重要インフラストラクチャーシステムをハッキングした事例もこれまでに何度かあるが、これまでのところ重大な物理的あるい有害な影響や行動は見られていない(ウクライナやAndy Greenberg[アンディ・グリーンバーグ]氏の著書「Sandworm」に出てくるような事例とは異なる)。彼らは米国と同盟国の反応を試し、逃げ切れることを確認したのち、ウクライナをどうするかを議論するNATO諸国に対してさらに圧をかけている。

要するに、ロシアは偵察を終え、いざというとき米国などの国々に対して使いたくなるツール群を事前配備した可能性が高い。その日は近々やってくるかもしれない

ヨーロッパの戦争が米国ネットワークに命中するとき

ロシアがウクライナ侵攻を強めるにつれ、米国は「壊滅的」経済報復を行うと脅している。これは、ますます危険で暴力的になる解決方法に対する「escalatory ladder(エスカレーションラダー、国が敵国を抑制するために系統的に体制を強化する方法)」の一環だ。あまり口にされないことだが、ロシアのサイバー能力は、彼らなりの抑止政策の試みだとも言える。ロシアがここ数年行っているこうした予備的活動は、さまざまなサイバーエッグが孵化し、ここ米国で親鳥になることを可能にする。

米国政府は、ロシアが米国による厳格になりうる制裁措置に対抗して、この国の民間産業を攻撃する可能性があることを、明確かつ広く警告している。ロシア当事者のこの分野における巧妙さを踏まえると、そうした大胆な攻撃をすぐに実行する可能性は極めて低い。ときとしてずさんで不正確(NotPetyaのように)であるにせよ、彼らの能力をもってすれば、サプライチェーン攻撃やその他の間接的で追究困難な方法によってこの国の重要インフラストラクチャーや民間産業に介入することは十分考えられる。それまでの間にも、企業やサービス提供者は、深刻な被害やシステムダウンに直面する恐れがある。過去の事例は厄介な程度だったかもしれないが、プーチン氏と彼のとりまきが長年の計画を追求し続ければ、近いうちに経済にずっと大きな悪影響を及ぼす可能性がある。

ロシアが侵攻の強化を続けるのをやめ、出口を見つけて一連のシナリオが回避される、という希望も残っている。我々はどの事象も決して起きないことを望むべきだ。ただし、実際これは現時点ですでに期限を過ぎていることだが、産業界は自らを守るための適切な手順を踏み、今まさに起きるであろう攻撃に備える、多要素認証、ネットワークのセグメント化、バックアップの維持、危機対応計画、そして真に必要とする人々以外によるアクセスの拒否をさらに強化すべきだ。

編集部注:本稿の執筆者Philip Reiner(フィリップ・レイナー)氏は、技術者と国家安全保障立法者の橋渡しを担う国際的非営利団体、Institute for Security and Technology(IST)の共同ファウンダー。同氏は以前、国家安全保障会議でオバマ大統領政権に従事し、国防総省の政策担当国防次官室の文官を務めた。

画像クレジット:Mikhail Metzel / Getty Images

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(文:Philip Reiner、翻訳:Nob Takahashi / facebook

中国との関係は競争ではない、戦争だ。書評「The Wires of War: Technology and the Global Struggle for Power」

ここしばらく、自由市場経済に取り組んでいるように見えた中国だったが、2021年、その幻想は完全に打ち砕かれた。3年前、憲法から自らの任期の制限を撤廃した習近平(シュウ・キンペイ)国家主席は、自国のハイテク企業の権限を突然奪い、今までよりも厳しいメディア検閲を行うように指示した(任期制限の撤廃については、当時NPR[旧称ナショナル・パブリック・ラジオ]が指摘したように、中国はいずれにせよ「何千年もの間、絶対君主によって支配されてきた」国であり、任期制限は1980年代に初めて導入されたものも、短期間の実験的なものであった)。

ブルッキングス研究所の中国戦略イニシアチブ共同議長であり、スタンフォード大学サイバーポリシーセンターの元シニアアドバイザー、Google(グーグル)の元ニュースポリシーリード、さらには米国大統領選挙運動中に米国運輸長官のPete Buttigieg(ピート・ブティジェッジ)氏の顧問を務めたJacob Helberg(ジェイコブ・ヘルバーグ)氏は、米国、特にシリコンバレーは、習近平国家主席の権力の強化にもっと注意を払う必要があると指摘している。ヘルバーグ氏は「The Wires of War:Technology and the Global Struggle for Power(戦争への引き金:テクノロジーと世界的権力闘争)」と題された新著の中で、中国の「テクノ全体主義」体制が中国国民(本の中では「最初の犠牲者(first victims)」と表現されている)に与える影響、そしてインターネットのソフトウェア / ハードウェアをさらにコントロールしようとしている中国の取り組みが、なぜ米国やその他の民主主義諸国にとって、確かに現存し、急速に拡大する危機なのかを説明している。

ヘルバーグ氏は、米国の民間企業と米国政府が一体となって抜本的な対策を講じなければ、2020年中国政府からサイバー攻撃という脅しを受けたと推測され、2000万人規模の都市で停電が発生したインドと同じことが米国でも起こると話す。現地時間10月13日、TechCrunchはヘルバーグ氏にチャットによる取材を申し込んだ。以下は要約であるが、興味があれば詳細をこちらで確認して欲しい。

TC(TechCrunch):あなたは、2016年の米国大統領選挙の直前に、Googleでグローバルなニュースポリシーを扱う職に就いていますね。当時、ロシアとその疑惑のキャンペーンに注目が集まっていたことを考えると、米露関係についての本ではなかったことに驚きました。

JH(ジェイコブ・ヘルバーグ):この「グレー」の戦争には、実際には2つの戦線があります。まず、人々が見るものをコントロールするというフロントエンドのソフトウェアの戦線です。ここにはさまざまなプレイヤーが存在しますが、ロシアは他国への干渉という領域で最初に動きを見せた国の1つです。そして、物理的なインターネットとその物理的なインフラに焦点を当てたバックエンドのハードウェアの戦線があります。本書が主に中国に焦点を当てることになった理由の1つは、この戦争で最も決定的な要素は、物理的なインターネットインフラをコントロールすることにあるからです。インターネットのインフラを支配すれば、その上で動くあらゆるものをコントロールしたり、危害を加えたりすることができます。バックエンドをコントロールすれば、フロントエンドも併せてコントロールすることが可能です。だからこそ、私たちはバックエンドにもっと注意を払うべきなのです。

バックエンドとは、携帯電話、衛星、光ファイバーケーブル、5Gネットワーク、人工知能などですね?

人工知能もソフトウェアとハードウェアの組み合わせなので興味深いところですが、基本的には光ファイバーケーブル、5G衛星、低軌道衛星などです。

この本では、中国が2020年インドをサイバー攻撃したとされる事件が早速取り上げられています。この事件では、列車や株式市場が停止し、病院は非常用発電機に頼らざるを得なくなりました。米国にも、私たちが中国による攻撃だとは気づかなかったサイバー攻撃があったのでしょうか?

グレーゾーン戦争の特徴、つまり米国政府がこれほどまでに新たなグレーゾーン戦術に力を注いでいる理由の1つは、(攻撃者の)帰属(アトリビューション)を明らかにすることが非常に難しいという点にあります。米国では民間企業がインターネットの多くを運営しています。中国とは異なり、米国の民間企業は政府から完全に分離されています。このような民営化されたシステムにより、民間企業には、市場的にも法的にも、サイバーセキュリティ侵害を過少に報告する一定の動機が存在します。サイバーセキュリティ侵害を受けた企業は、被害者であると同時に、場合によっては過失と見做され責任を問われる可能性もあります。そのため、企業はサイバーセキュリティ侵害の報告に非常に慎重になることがあります。

また、(攻撃者の)帰属を明らかにすることが非常に難しい場合もあります。米国でもインドと同様のサイバー攻撃が行われた可能性がないわけではありません。米国もかなりの規模のサイバー攻撃を受けていることは事実であり、多くの情報機関が米国のエネルギーグリッドが無傷でいられるかどうかを懸念しています。人事管理局がハッキングされたことは明白ですが、これも重要な問題です。というのも、中国は現在、極秘情報にアクセスできる多くの政府職員のリストを持っているということになるからです。サイバー攻撃は数え上げるときりがありません。

あなたはインドのハッキングは米国への警告だったと考えていますね?

インドへのハッキングが歴史的に重要な意味をもつのは、もしこのグレーゾーン戦争が激化すれば、独立戦争以来初めて、米国が他国の攻撃者によって物理的に破壊されるような戦争になる可能性がある、という最初のシグナル(危険信号)だったからです。内戦だった南北戦争や9.11を除けば、外国勢力が実際に米国に上陸して大量破壊を行ったことはありませんでした。しかしながら、今回のインドへのサイバー攻撃を考えると、中国との関係が悪化した場合には(米国内の)原子力発電所の安全性を確認しなければならない、というシナリオも考えられますね。

こういった脅威に私たちはどのように対応すべきですか?米国政府は、米国内にインフラを構築しようとしているHuawei(ファーウェイ)に対し、非常に強い姿勢で臨んでいます。あなたは、Zoom(ズーム)のような企業には多くの中国人従業員が在籍し、中国の諜報機関に(米国の情報が)さらされる可能性があると指摘していますね。どこで線引きをすべきですか?(これらの問題に対応しながら)企業の権利を保護するには、政府はどうすれば良いでしょうか?

特に中国が台湾に侵攻するリスクが迫る中、これは私たちが現在直面している危機的局面における非常に重要な問題です。私は米国政府が対米外国投資委員会(CFIUS)の枠組みを構築することを強く支持しています。現在、米国政府には国家安全保障を理由として外国からのインバウンド投資を審査し、(危機を)阻止することができる枠組みがあります。この考え方の基本に則り、アウトバウンド投資にも同じ枠組みを適用すると良いでしょう。米国政府が国家安全保障に基づき、米国から米国外への投資、特に中国への投資を審査する手段をもつ、ということです。ここまでの話からもわかるように、米国企業が中国に何十億、何千億ドル(日本円では何千億円、何十兆円)もの資金を投入すれば、時として深刻な問題を引き起こす可能性があります。

中国に進出し続ける企業がもつ経済的なインセンティブ(動機)を考慮すると、アウトバウンド投資への枠組みはどの程度現実的だと思われますか?

私の提案に類似した、アウトバウンド投資への枠組みを目指す法案がすでに議会で検討されています。ですから、このアイデアが実現する日もそう遠くはないと思います。この問題が差し迫ったものになり、議会で優先的に審議され、大統領に署名してもらうために必要な支持を得られるのはいつなのか、という点については、実際の危機というきっかけが必要なのかもしれません。(私たちがこれまで観てきたように)残念ながら、ワシントンでは実際に危機が起こって初めて多くのことが決定されるからです。

米国の銃規制のように、イエスでもありノーでもある、ということですね。あなたが、米国vs中国の競争であるというアイデアを捨て、この問題を(戦争として)提起したことは興味深いと思います。(米国、中国間には)これまでルールがあったかのように見えたとしても、実際には相互で守るべきルールが存在しない、ということですね?

競争には負けても良いという意味が内包されます。競争には、勝つか負けるかという余裕があるからです。商業的にはドイツや日本と常に競争していますが、トヨタがゼネラルモーターズよりも多くの車を販売していても、実際にはそれほど大きな問題ではありません。それが市場であり、お互いが守るべきルールに基づいて、同じ土俵で活動しているからです。一方、現在の中国との関係において「戦争」という言葉がはるかに正確で適切な表現である理由は、これが政治的闘争であり、その結果が私たちの社会システムの政治的な存続に関わるからです。また、これは「戦争」なので、これに打ち勝つために優先順位を上げ、十分な決意と緊急性をもって対処する必要がある、ということが理解しやすくなるというのもその理由です。

もう1つの理由は、戦争であれば、結果を出すために短期的なコストを負担することもできるという点にあります。第二次世界大戦では、ゼネラルモーターズが戦車や飛行機を製造し、国中が動員されました。Apple(アップル)に空母を作れとは言いませんが、私たちはサプライチェーンを中国から中国国外に移動する際にかかる短期的コストを真剣に考え始める必要があります。多額の費用がかかり、手間もかかる難しい問題ですが、サプライチェーンが利用できなくなることで生じる潜在的なコストは莫大です。手遅れになる前に労力やエネルギー、時間を費やして移動を実現する価値があります。その方がコストもかかりません。

あなたは本の中で、このように国家安全保障を目的として経済外交を中断すれば、冷戦時代に戻ると指摘したうえで、アウトバウンド投資へのCFIUSプログラムの適用と、すべてのサプライチェーンを中国国外に移すことを提案しています。民間企業が中国を切り捨てるために、あるいは巨大な市場機会としての中国への関心を減らすために、他にどのようなインセンティブが必要だとお考えですか?

過去に成功したプログラムの多くは、要は「アメとムチ」です。私は中国への機密性の高い投資を行う投資家や企業に一定の罰則を適用する一方で、米国や民主主義にリスクを及ぼさない他国との取引などの行動にインセンティブを与えるという組み合わせであれば、おそらく成功し、経済界の共感を得ることができると思います。

米国が戦争をしているのは権威主義的な中国政府であって、中国の人々ではないという違いを指摘していますね。大変残念なことに、この指摘が伝わっていない人もいるようです。

「グレーゾーン戦争」について語るとき、さらに中国との問題について国家的な議論をするときには「これは中国国民や中国文化に対するものではなく、中国の政治体制や中国共産党に対するものだ」と繰り返す価値はあると思います。

中国との関係において、私たちが正しいことをしているとする理由の1つは、最初の犠牲者、つまり中国共産党によって最も苦しんでいる人々が中国国民であるという事実です。三等国民として扱われているウイグル人やチベット人、政治的反体制派の人々も中国国民であることを忘れてはいけません。また、中国国営のニュースメディアは「中国に対して強硬な態度をとることは中国に対する人種差別である」というストーリーを流布しようとすることが多々あります。これも覚えておく必要があります。

画像クレジット:Simon & Schuster

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)