農作物の生育状態を高速・定量的に測定するフェノタイピング用ローバー開発、設計などをオープンソースとして公開

農作物の生育状態を高速に定量的に測定するフェノタイピング用ローバー開発、設計とソフトをオープンソースとして公開

東京大学などによる研究グループは3月10日、植物の形態的、生理的な性質(表現型:フェノタイプ)を観測する自走式装置「高速フェノタイピングローバー」を開発し、その設計をオープンソース・ハードウェアとして公開したと発表した。

近年、地球規模の気候変動や有機農法の拡大などを受け、作物の品種や栽培方法を改良するニーズが増えているという。そのためには、まず農作物などの植物の生育状態を精密・大量に測定する表現型測定(フェノタイピング)が必要となるのだが、これまで人の手と目で行われており、大変に非効率なために、IT技術を活用した効率化が求められてきた。

またすでに、ドローンや大型クレーンを使って作物を撮影し測定を行うシステムは存在するものの、一般に広い農場を対象としており、日本の畑のように狭い場所での導入は難しい。そこで、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構(郭威特任准教授)、京都大学チューリッヒ大学横浜市立大学による共同研究グループは、場所や条件を選ばずに導入できる地上走行型のローバーを開発した。

この「高速フェノタイピングローバー」は、四輪で走行しながら大量の写真を撮影する。その画像を解析することで、さまざまな表現型を取得でき、応用目的は多岐にわたるという。地上の近距離から撮影するため、ドローンの画像よりも細部まで確認できる。また、ドローンの風圧で果実が落下したり、植物があおられてしまうといった心配もない。ただ、起伏が激しい場所や水田などではドローンのほうが優れているため、このシステムとドローンを組み合わせてデータの質を最大化するのがよいとしている。

また、リアルタイムで画像処理ができる小型コンピューターを搭載し、地上に設置した目印を頼りに畝に沿って移動できる走行アシスト機能も備わっているため、GPSに依存しない。建物に隣接していたり、電波が妨げられる場所でも問題なく使える。

試験運用で撮影した画像から、小麦の出穂の様子を測定

試験運用で撮影した画像から、小麦の出穂の様子を測定

研究グループは、京都大学の小麦の圃場で実験を行ったところ、多数の系統の生育状態を撮影し、深層学習モデルで画像を解析して、小麦が出穂する様子の定量的な測定に成功した。また、日本の畑でよく見られる、道路から水路などをまたいで畑に入るための持ち運び式のスロープでの移動が可能であることも確認できた。

開発した高速フェノタイピングローバーの3D図面。自由に回転や拡大、改変できるデータファイルを論文で公開した

開発した高速フェノタイピングローバーの3D図面。自由に回転や拡大、改変できるデータファイルを論文で公開した

この「高速フェノタイピングローバー」は、様々な条件や用途に合わせて組み立てたり改良したりできるように、市販のパーツのみで作られていて、3D図面、パーツリスト、ソフトウェアなどは論文中においてオープンソース・ハードウェアとして公開されている(GitHub)。

月面で宇宙飛行士が乗る車両の設計チームをノースロップ・グラマンがリード

航空宇宙最大手企業のNorthrop Grumman(ノースロップ・グラマン)は、AVL、Intuitive Machines(インテュイティブ・マシンズ)、Lunar Outpost(ルナ・アウトポスト)、Michelin(ミシュラン)を含むチームを率いて、Artemis(アルテミス)計画の宇宙飛行士が月面で移動するための車両を設計する。このLunar Terrain Vehicle(月面地形車、LTV)は、まだ人類が一度も訪れたことのない月の南極地域における探査の重要な鍵となる。

ノースロップは、各システムの統合と宇宙機の設計を担当する。チームの他の企業は、LTVの設計に重要な幅広い能力を持っており、それぞれの得意分野に注力する。AVLは自動車のパワートレインや先進運転支援・自動運転システムの開発・試験を行っており、Intuitive Machinesは自社の「Nova-D(ノヴァD)」宇宙船でペイロード輸送の経験がある。Lunar Outpostは地球外の地表を走る無人探査機の開発に取り組んでいる。フランスの多国籍企業であるミシュランは過去に月面探査車のタイヤをNASAと共同開発した実績がある。

チームはほぼ間違いなく、近々NASAから通達される提案要求の一部として、NASAに設計を提出することになるだろう。これはNASAがHuman Landing System(有人着陸システム)契約の下で、月着陸機の開発をてがける企業を選定した際に用いたプロセスと同様だ。NASAはまだLTVの提案依頼書を発表していないが、ノースロップ・グラマンでは来年初めになるのではないかと予想していると、広報担当者はTechCrunchに語った。

しかし、契約募集がまだ発表されていないにもかかわらず、同宇宙機関はすでに車両の開発に影響を与える要求を開示し始めている。NASAは、このプロジェクトに関連する文書の中で、落札者に求めるものとして、月面で最大20kmの距離を充電なしで移動できること、長い月の夜に耐えられる可能性があること、最低でも800kgの輸送能力があること、などの詳細を示している。

NASAの発表によると、この月面車の打ち上げは2027年頃の打ち上げを想定しているとのこと。つまりこれは、アルテミス計画が始動してから月に送られることを示唆している。NASAの代表者は先日、人類を数十年ぶりに月に送ることを目的とした同プログラムの最初の有人ミッションが、2025年に延期されることを認めた

画像クレジット:Northrop Grumman

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASAがアルテミス計画の月着陸機コンセプト開発でSpaceXやBlue Originなど5社と契約

NASAは、Artemis(アルテミス)計画の一環として、着陸機のコンセプトを開発する総額1億4600万ドル(約160億円)の契約を、SpaceX(スペースX)、Blue Origin(ブルーオリジン)、(ダイネティックス)を含む5社と締結した。

その内訳は、Blue Originに2650万ドル(約29億円)、Dyneticsに4080万ドル(44億6000万円)、Lockheed Martin(ロッキード・マーチン)に3520万ドル(約38億5000万円)、Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)に3480万ドル(約38億円)、SpaceXに940万ドル(約10億3000万円)となっている。提案書を提出したBlue Ridge Nebula Starlines(ブルー・リッジ・ネビュラ・スターライン)とCook & Chevalier Enterprises(クック・アンド・シュヴァリエ・エンタープライゼス)の2社のみが契約を獲得できなかった。

契約は、NextSTEP-2(Next Space Technologies for Exploration Partnerships、次世代宇宙探査技術パートナーシップ)のAppendix N(Sustainable Human Landing System Studies and Risk Reduction、持続可能な有人着陸システムの研究とリスク低減)に基づいて締結されたものだ。2021年7月初旬に発表された募集要項によると、この契約の目的は「コンセプトの研究、持続可能な有人着陸システムの運用コンセプト(地上および飛行)の開発、およびリスク低減活動のために、潜在的な商業パートナーと協働する」となっている。

これは実際には、選定された企業が着陸機の設計コンセプトを開発し、部品の試験を行い、性能や安全性などを評価することを意味する。

この契約は、2021年4月にNASAがSpaceXのみに与えた有人着陸システムの契約とは別のものだ。そちらの契約については、Blue OriginとDyneticsの両社が政府の監視機関に異議を唱え、後にBlue OriginはNASAを相手取った訴訟で反論しており、それは現在も継続中だ。

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しかし、今回の選定結果は、今後10年間の着陸機開発契約に影響を与えることになるだろう。NASAは声明で「これらの企業が行う仕事は、将来的にNASAが求める月周回軌道から月面までの定期的な宇宙飛行士の移動手段を提供するための戦略と要件の形成に、最終的に役立つことになるでしょう」と述べている。

Blue Originの提案は、Lockheed MartinとNorthrop Grumman、そしてDraper(ドレイパー)を含む、Blue Originが「ナショナルチーム」と呼ぶグループからのものだ(Lockheed社とNorthrop社は、Appendix Nの下で個別にも契約を獲得している)。

「この契約において、我らがナショナルチームは将来の持続可能な着陸機のコンセプトに貢献する重要な研究とリスク低減活動を行います」と、Blue Originの広報担当者はTechCrunchに説明している。「また、私たちはこの取り組みにおいて、他の複数の企業や全国のNASAフィールドセンターと密接に連携していきます」。

2020年に承認されたアルテミス計画は、アポロの時代以来となる人類の月面再訪だけでなく、2020年代後半までにそのような旅を定期的に行えるようにするという多くの目的がある。さらにNASAは、月に留まらず、火星にも人類を送り込む惑星間探査にまで拡げることを目指している。

「NASAの重要なパートナーとして、また商業的パートナーシップがいかに効果的に機能するかを示す好例として、Northrop Grummanは有人宇宙探査における実績を築き上げていきます」と、Northrop Grummanの民間商業衛星担当VPを務めるSteve Krein(スティーブ・クライン)氏は声明の中で述べている。「当社は、月への再訪と火星に人類を送るというNASAの野心的な目標を達成するために、Blue Originとナショナルチームとのパートナーシップを継続していきます」。

画像クレジット:Getty/Walter Myers/Stocktrek Images / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)