伊藤忠が自社社員向け乗り合いシャトルサービスを提供へ、NY発ライドシェアViaの技術を活用

伊藤忠商事は9月24日、Via Mobility Japanを通じて、Via Transportationが提供するテクノロジーを活用した、同社社員向けのオンデマンド型乗合サービス「BlueVia」(ブルー・ヴィア)を10月から開始することを発表した。サービスは2020年7月31日までの実施が予定されており、10台の乗り合い用自動車を使う計画だ。

Viaは、一般的なハイヤー・タクシー配車サービスとは異なり、複数人の乗客を最適なルートで複数の目的地まで送り届けるオンデマンド型乗合サービスを提供している、2012年設立の米国・ニューヨーク拠点のスタートアップ。すでに世界約80都市、地方自治体、バス会社、タクシー会社、交通オペレーター、企業、大学などで導入されており、日本では2018年8月に森ビルと森ビル社員向けに同様の実証実験を実施済みだ。

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伊藤忠は今回、タクシー大手の日本交通の協力のもとでVia社のテクノロジーを活用し、伊藤忠の東京本社に勤務する社員を対象に勤務時間内の移動にオンデマンド型乗合サービスを提供する。同社は「社員の移動時間短縮による効率化やコストの削減をはかり『働き方改革』の一環としてより高い生産性の実現を目指す」としている。

ビジネスパーソンが商談や会議で移動する際、社用車やタクシー、電車、バスなどの移動手段が考えられるが、社用車やタクシーは利用する人数や頻度が高いとコスト高になる。一方、電車やバスはコストは低いものの、最寄りの駅や停留所から遠い場所への徒歩移動については、社員の労働時間をそのぶん削ることになり生産性を低下させる。今回の乗り合いサービスは、社用車感覚で複数人が複数の目的地に辿り着く移動手段として有望かもしれない。

伊藤忠は2019年4月に、米国のVia Transportationへ投資、日本法人のVia Mobility Japanへの戦略的事業投資を実施済みだ。そのほかモビリティ領域では、2018年8月に新興EV(電気自動車)メーカーの奇点汽車、EV商用車のレンタル・メンテナンスサービスの地上鉄の中国企業2社、P2P(個人間)カーシェアリングプラットフォーム事業を展開する英国のHiyacarなどに出資している。今回の社員向け乗り合いシャトルの提供は、Via Mobility Japanへの戦略的事業投資事業の成果物の1つとなる。

耳の可処分時間を獲りに行く図書館タクシーのチャレンジ

IMG_0342.JPGオトバンク日本交通は10月26日、タクシー内でオーディオブックを楽しめる「本のない図書館タクシー」の試験サービスを発表した。発表会には、オトバンクの久保田裕也社長(写真中央)と日本交通のメディア開発部でエグゼクティブプロデューサーを務める金 高恩氏(写真右)が登壇した。本日26日から専用ウェブサイトで乗車予約を受け付け、10月29日〜11月11日の期間限定で運行する。もちろん予約なしでの乗車も可能だ。

営業エリアは都内23区と三鷹市、武蔵野市。日本交通の金氏によると「試験サービス期間中は3台の図書館タクシーがこのエリアを走る。その内の1台はドライバーが書店員の衣装で出迎えてくれる特別仕様(ラッキータクシー仕様)になっている」とのこと(写真左)。

IMG_9179.JPGまた乗車すると「本のない図書館タクシー利用カード」がもれなくプレゼントされる。このカードには1000ポイント(1000円相当)のオーディオブックの利用クーポンが付いている。乗車時に気になったオーディオブックなどをあとで購入する際に利用できる。

専用ウェブサイトからは、乗車地と降車地、利用時刻などを入力して予約する仕組み。専用ウェブサイトから申し込んだ場合は抽選となるが、迎車料金やタクシー代は無料となる。予約なしでの乗車は通常のタクシー利用と同じで、タクシー代は自己負担だ。

オトバンクの久保田社長によると「タクシーの平均乗車時間は18分程度で、この時間に合わせたオーディオブックを30作品ほど用意した」とのこと。そのため各オーディオブックは最初から内容を読まれるものではなく、ダイジェスト版になっているものが多い。

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図書館タクシー内部には、オーディオブック専用タブレットが1台と特製クッションが2つ置かれている。乗客は、ドライバーからタブレットを受け取り、好きなオーディオブックを選んで再生すればいい。オーディオブックの音声は専用タブレットのスピーカーからの出力となる。

テレビやスマホなど視覚中心の可処分時間の奪い合いは激化しているが、「タクシー内のスキマ時間に耳の可処分時間を獲りにいきたい」と久保田氏。オーディオブックは2017年上期と比べると2018年上期には会員数が3倍に伸びており、年内に50万人を突破する勢いだという。「読書離れが叫ばれいる現在、オーディオブックをきっかけに読書を楽しむ人を増やしたい」とのことだ。

タクシーで「コンプレックス商材NG」な動画広告、日本交通とフリークアウトが新会社設立で

フリークアウトの本田謙社長(左)と日本交通の川鍋一朗会長(右)

フリークアウトの本田謙社長(左)と日本交通の川鍋一朗会長(右)

タクシーの広告といえば、消費者のコンプレックスに訴求するリーフレットを思い浮かべる人は多そう。例えば、飲むだけで痩せたり薄毛が治ることを謳うチラシ。僕も「ハゲの99%が治るって本当?」といったコピーに釣られ、手に取ったことはある。

いわゆる「コンプレックス商材」ではなく、大手のブランド広告を獲得しようと、都内タクシー最大手の日本交通がデジタルサイネージ事業に乗り出した。東京都心のタクシー100台にタブレット端末を設置し、全国規模で商品やサービスを展開する「ナショナルクライアント」の動画広告を配信する。

翌年に日本交通のタクシー3500台、2020年までに全国のタクシー5万台への導入を見込む。全国のタクシー会社に対してはタブレットを無償配布し、広告収益を分配することで普及を図る。

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大手ブランド広告を取り込む

日本交通とフリークアウトが合弁会社「株式会社IRIS」を設立し、動画広告商品「Tokyo Prime」を開発。都心でタクシーを利用する高所得者向けの「プレミアムメディア」という位置づけで、フリークアウトの顧客である航空会社や飲料メーカー、トイレタリー企業などを中心に販売していく。

デジタルサイネージは前部座席背面にタッチパネル対応の10インチタブレットを設置。乗客が運転手に行き先を告げてメーターが稼働した時点(つまり、もっともアテンションが集まるタイミングらしい)で、最長3分の動画広告を流す。丸の内や六本木のタウン情報なども提供する。

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僕も試してみたが、座って一息ついたタイミングで動画が流れると目を奪われる。見たくない場合はタブレットを操作して動画を消すことも可能だ

日本交通によれば、都内のタクシー平均乗車時間は18分間。その間に動画広告を流すことで、企業のブランドを深く浸透させられるとアピールする。

日本交通の川鍋一朗会長は、「都心のタクシー利用者は可処分所得が高く、繰り返し乗車するのが特徴。これまではこうした高所得者層へのマーケティングに注力できていなかった」と語る。

合弁会社のIRISでは広告掲載基準を厳格化。「コンプレックス商材」「ギャンブル」「美容整形」などの広告を掲載不可とし、大手のブランド広告を取り込む狙いだ。

デジタルサイネージ参入を支えた格安MVNO

ビーコンを使った「Physical Web(フィジカルウェブ)」にも対応し、車内で視聴した動画に関連するURLをスマートフォンにプッシュ通知する。この機能はスマホのGoogle Chromeで「フィジカルウェブ」とBluetoothを有効にしている場合のみ有効だ。

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タブレットはインターネット常時接続で、データ通信にはIoT向けの格安MVNOサービス「SORACOM Air」を採用した。通信料金が安い深夜に動画をダウンロードしたり、昼間はAPI経由で帯域制限するなどして、通信料を1台につき月額1000円以下に抑える。

このように低コストで運用できるサービスがあったことが、デジタルサイネージに参入できた要因でもあるようだ。

タクシーならではのターゲティング

日本交通とフリークアウトは今年1月、位置情報と連動するマーケティング事業で提携。日本交通子会社のJapanTaxiが提供する配車アプリ「全国タクシー」の位置情報を、フリークアウトの広告配信に活用する取り組みを始めていた。

フリークアウトにとって、デジタルサイネージは初の事業領域となる。本田謙社長は「今から行く場所がわかれば、乗車中に目的地に関連する広告が配信しやすくなる」と、タクシーならではのターゲティングに期待を寄せる。

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「全国タクシー」の位置情報をもとに、特定エリアにいる訴求したいターゲット層のみに対して、即座にオンライン上で広告を配信できる

フリークアウトは、広告主が広告を配信したいユーザー層を定義し、必要な広告枠をリアルタイム入札で買えるDSP(デマンドサイドプラットフォーム)を手がける。広告主は購買データや性別年齢、興味などでユーザーを絞り込めるが、これらに「今から行く場所」が加われば、より効果的な広告が打てるというわけだ。

ただし、「乗車時に目的地がわかる」というのは、配車アプリで降車地点を指定した場合に限られる。今後は、乗車時に運転手に目的地を伝える際、タブレットの音声認識で目的地を推定することも視野に入れている。

2020年までに多言語化、売上高100億円へ

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富士キメラ総研の予測によれば、2020年の国内デジタルサイネージ交通広告の市場規模は800億円。IRISは2020年までに全国5万台に導入し、売上高100億円を見込んでいる。インバウンド需要に向けて、デジタルサイネージの多言語化や決済対応も進める。

IRISは日本交通子会社のJapanTaxiが51%、フリークアウトが49%を出資。代表取締役には、JapanTaxi CMOの金高恩氏とフリークアウト経営企画室長の溝口浩二氏が就任した。

「LINE TAXI」エリア大幅拡大、地方普及のボトルネックは手数料か


1月6日に東京先行でスタートした「LINE TAXI」がいよいよ全国展開する。2月25日に北海道や神奈川県、大阪府、福岡県など22都道府県に拡大し、順次対象エリアを増やす。都内は簡単に流しのタクシーを捕まえられるだけに、地方でどれだけ利用できるかが注目される。ただ、本格的に全国普及するには「手数料の壁」を乗り越える必要がありそうだ。

クレジットカードよりも「それなりに高い」手数料

LINE TAXIは、全国タクシー配車アプリを展開する日本交通と提携し、同社が保有する一部のタクシーをLINEで呼び出せるサービス。先行で開始した東京では、2回以上サービスを利用したユーザーは全体の34%、3回以上は15%超と、まずまずのリピート率だったそうだ。ユーザー数は非公表だが、日本交通の川鍋一朗社長は「我々の配車アプリではリーチできない若年層に届いている」と手応えを感じているようだ。

全国タクシー配車アプリは129社・約2万3000台のタクシーを配車しているが、全国展開を開始したLINE TAXIでは、これらがいきなり配車対象となるわけではない。理由は、タクシー会社がLINEに支払う「手数料」だ。

LINE TAXI経由でタクシーを呼び出した場合、タクシー会社がLINE Payの決済手数料を負担することになる。つまり、LINE TAXIで配車可能な台数を増やすには、全国のタクシー会社に手数料の条件をのんでもらう必要があるわけだ。手数料は非公表だが、川鍋氏は「クレジットカード手数料と比べると、それなりに高い金額」といい、「地方のタクシー会社が導入する一番のボトルネックになる」と続ける。

タクシー会社からすると、一番実入りがあるのは現金払い。地方都市でクレジットカード決済に対応していないタクシーが多いのは、「利益が減る」という企業論理のためだが、川鍋氏は「コスト削減でもなんでもなく、お客様の利便性を下げているだけ」と指摘。全国タクシー配車アプリを導入するタクシー会社には、「多少お金がかかっても本業で取り返せと啓蒙していく」と語る。LINEの出澤剛COOも「全国で開かれるタクシー会社の会合に出席して、LINE TAXIの導入を呼びかける」と意気込んでいる。

悲願のクーポンで利用に弾み

一筋縄ではいかなそうなLINE TAXIの全国展開だが、ユーザー獲得手段としては「飛び道具」を用意しているようだ。LINEの公式ブログでは、LINE TAXI用のクーポンを配信することをほのめかしている

タクシー会社にとって、タクシー料金の割引クーポンを発行するのは禁じ手とされている。タクシー会社が従う道路運送法10条(運賃又は料金の割戻しの禁止)の違反行為に該当するためだ。

一方、頻繁に数千円オフのクーポンを発行しているUberは、タクシーを自前で保有せず、「旅行業者」としてタクシー会社とユーザーをマッチングしている。このため、国土交通省によれば道路運送法には抵触しないのだという。

日本交通単体では認可されなかった“悲願”の割引クーポン発行だが、国土交通省はLINEが主体となるサービスであれば問題がないとの見解を示している。LINEはクーポン配布を計画中とのことだが、実現すれば、タクシー会社単体で運営する配車アプリとの差別化につながるし、いまだに東京限定のUberよりも存在感を示せそうだ。

LINEの出澤剛氏(左)と日本交通の川鍋一朗氏