国立がん研究センターが8K腹腔鏡手術システムによる遠隔手術支援の有用性を確認

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国立がん研究センターは11月2日、8K映像システムを使った腹腔鏡手術のリアルタイム映像を送受信して手術指導を行う世界初の実証事件により、その医学的有用性が確認されたことを発表した。また、遠隔支援(指導)により外科医の内視鏡技術が向上し、手術時間が短縮されることも確認できた。

これは、日本医療研究開発機構(AMED)「8K等高精細映像データ利活用研究事業」の支援による、国立がん研究センターとNHKエンジニアリングシステムなどによる共同研究。実験では、NHKエンジニアリングシステムと池上通信機が共同開発した小型の8K内視鏡カメラと、オリンパスが開発した8K腹腔鏡手術システムが使われた。手術室を想定した千葉県の実験サイトで、動物の直腸切除手術を行い、その様子を光ファイバーや5Gなどによるブロードバンドで京都府の京阪奈オープンイノベーションセンターに送信。外科医3名で手術を行ったが、遠隔支援がある場合とない場合との手術技術の改善度を評価した。

超高精細映像の「本物に迫る立体感」で、遠隔地でも手術状況を詳細に把握でき、質の高い手術支援が提供できたことで、外科医の内視鏡技術が向上し、手術時間が短縮された。また、映像伝送においては、転送レート80Mbps、遅延時間約600ミリ秒を達成し、十分な性能を確認できた。

これにより、少数の医師での治療が可能になり、若手育成、外科医の偏在の解消などが期待される。今後は、外科医を1名減らした場合の評価、「4K8K高度映像配信システム」への手術映像のアーカイブの開発などを進め、近い将来の社会実装に向けた具体的な計画を策定するとのことだ。

新型コロナウイルスを検出するバイオセンサーを東海大学・豊橋技術科学大学・中部大学・デンソーが共同開発

新型コロナウイルスを検出するバイオセンサーを東海大学・豊橋技術科学大学・中部大学・デンソーが開発

東海大学・豊橋技術科学大学・中部大学デンソーは、日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと、新型コロナウイルス検査機器の開発に取り組んでおり、新しい仕組みのバイオセンサーを開発し、新型コロナウイルスの検出に成功したと発表した。今後は、感染症の早期診断に貢献することを目指し、実用化に向けた開発を加速する。

感染症の拡大および医療のひっ迫を防ぐには、感染症の早期診断、早期隔離によるウイルス拡散の未然防止が重要とされる。しかし現在、新型コロナウイルス感染症の診断には、PCR検査・抗原検査などが利用される一方、それら検査では検出したウイルスの感染力の有無を示す「ウイルスの感染性」が評価できないことが課題となっている。

また、PCR検査はウイルスの検出感度は高いものの前処理など医療従事者への負荷が大きく、抗原検査は簡便な検査であるが検出精度にバラツキがあるなどの課題があり、「ウイルスの感染性」を評価する高感度かつ簡便な検出方法の開発が求められている。

東海大学、豊橋技術科学大学、中部大学、デンソーが共同開発を進めているバイオセンサーは、「ウイルスの感染性」を高感度かつ迅速に定量検出する臨床検査機器としての活用を目指したもの。PCR検査や抗原検査とは異なり、感染のきっかけとなるウイルス表面のスパイクタンパク質を、半導体センサーとアプタマー(人工的に合成した核酸分子。特定の物質に結合する性質を備える)で検出することが可能という。

この技術は世界で初めてものとしており、今回同手法を用いて新型コロナウイルスを高感度で検出することに成功した。

新型コロナウイルスを検出するバイオセンサーを東海大学・豊橋技術科学大学・中部大学・デンソーが開発

新型コロナウイルス検出イメージ

半導体センサーは、ウイルス量を電気信号で定量的に計測できるため、高い精度での感染状況の把握や、治療の有効性の確認などへの活用が期待できるという。また、アプタマーはサイズが小さく、さまざまなタンパク質と選択的に結合する性質を持つとともに、設計が容易であり短期間での量産も可能であることから、未知のウイルスの検出に応用することも可能としている。

3大学とデンソーは、同バイオセンサーが、新型コロナウイルスの感染性が把握できることに加えて、PCR検査と同等レベルのウイルス検出感度を持ち、抗原検査と同等レベルの簡便な検査となることを目指し、さらに基礎技術を固めていくとともに、実用化に向けた開発を加速する。

各機関の役割およびコメント

  • 東海大学:感染制御と検査の専門医の立場から、感度・特異度に優れ、感染性の有無がわかる操作が簡便かつ迅速な検査機器の開発を切望している。世界に誇る技術力で開発された検査機器についてニーズに対応する仕様と性能、信頼性と精度の確保を目指す
  • 豊橋技術科学大学:ウイルス量を電気信号に変換できる半導体センサーを製作して、同プロジェクトに提供。半導体技術を使うと、米粒大のセンサーにより、1種類のウイルスだけではなく、症状が極めて似て区別がつきにくい場合でも1回の検査で区別できるようになる
  • 中部大学:半導体センサーの性能を評価するため、様々な種類のウイルスを準備し提供。同バイオセンサーは、従来のPCR検査だけでは把握できない「感染力を有するウイルス」を短時間で検出できる技術。体内に入ったウイルスが増殖の真っただ中なのか、終息に向かっているかなどの現状認識が可能になれば、隔離解除のタイミングが明確になり、安心した社会復帰の実現が期待できる
  • デンソー:快適な車室内空間を作るための先行研究の1つとして行っていた、様々なウイルスやバイオマーカー検出の研究開発の中で得た知見を生かし、より感度高く半導体センサーでウイルスを検出するためのバイオ技術を提供。これまで培ってきたバイオと半導体技術を生かし、実用化を目指した開発を加速する