核融合炉の心臓部(ブランケット)において900度で機能する液体金属の合成に成功、腐食に耐える構造材も発見

核融合炉の心臓部(ブランケット)において900度で機能する液体金属の合成に成功、腐食に耐える構造材も発見

高純度リチウム鉛合金合成装置(量子科学技術研究開発機構との共同研究)

東京工業大学は2月24日、核融合炉の心臓部であるブランケットの冷却に使用する革新的な液体金属、リチウム鉛合金の大量合成に成功し、さらにその摂氏900度に達する液体金属に耐えられる構造材の候補物質としてクロムアルミニウム酸化物分散強化合金の発見にも成功したことを発表した。

ブランケットとは、核融合炉の中で超高温なプラズマを、文字どおり「毛布」のように包み込む装置のこと。核融合反応で発生する中性子の遮蔽、燃料となる三重水素の増殖、冷却を目的としている。冷却に使われる冷却液は、発電タービンを回して電気を起こす。日本で開発されている原型炉では、摂氏約300度の高圧水で熱を取り出す方式が採られている。これを900度近い高温で使える素材に置き換えることができれば、より高効率化が期待でき、さらにその高温を利用して水から水素を作り出すことも可能となる。そのため、世界各国では液体金属の研究が進められているが、ほとんどは摂氏600度以下の温度域に留まっている。そこで、東京工業大学(近藤正聡准教授、畑山奨大学院生・研究当時)、横浜国立大学(大野直子准教授)、量子科学技術研究開発機構(野澤貴史氏)からなる研究グループは、摂氏900度で機能する液体金属と、その腐食性に耐えられる構造材の研究に取り組んだ。

液体金属は、純度によって性質や腐食性が大きく変化するため、高純度でなければならない。研究グループは、リチウムと鉛を混ぜ合わせた液体リチウム鉛合金の合成を試みたのだが、水の半分の密度のリチウムと、水の約10倍の密度の鉛を均一に混ぜるのは大変に困難だった。そこで開発したのが、蒸したジャガイモをつぶす器具から着想を得たというマッシュポテト式攪拌法を応用したものだった。原料を摂氏350度という低温で一気に攪拌し、減圧環境で混合することで、水分などの不純物を昇温脱離させて高純度のリチウム鉛合金を合成する。今回の試験では、鉛が84%、リチウムが16%のリチウム鉛合金10kgの合成に成功した。鉄、クロム、ニッケル、マンガンといった金属不純物を、これまでの研究に比べて大幅に抑制できたうえ、中性子を吸収して放射性物質を生産してしまうビスマスの濃度や、構造材料の腐食を促進してしまう溶在窒素の濃度も従来の1/10に抑えることができた。

摂氏900度の液体リチウム鉛合金を冷却剤として使う「液体増殖ブランケット」の構造体には、高温下でも腐食しない材質が求められる。研究グループは、一般的に使われる耐食性構造材316Lオーステナイト鋼、耐高温材料シリコンカーバイド、鉄クロムアルミニウム(FeCrAl)酸化物分散強化合金、FeCrAI合金APMTを、摂氏600度、750度、900度で耐食性の調査を行ったところ、750度まではどれもほぼ変化がなかったものの、900度になると、腐食しないのはFeCrAl酸化物分散強化合金のみとなった。さらに調べると、FeCrAI酸化物分散強化合金は、酸化皮膜を形成しながら液体金属から身を守っていることが明らかになった。さらに、この酸化皮膜は人間の皮膚のように破壊されても再生が可能であるため、優れた耐食性を保つことができるという。

今回の成果により、「日本国内のみならず、液体増殖ブランケットの開発を進めている欧州や中国、インドを中心として世界中の液体金属研究が一層活発になり、実現へ向けた課題の解決が加速されると期待できる」という。また研究グループは、これは「水素製造機能を備える核融合炉のような革新的エネルギーシステムの成立を促進するものであり、ゼロカーボンエネルギーに基づくカーボンニュートラル社会の実現に大きく寄与する」としている。

精神疾患者向けカウンセリングAI実現のための大規模対話データベース構築に関する産官学共同研究プロジェクト

精神疾患者向けカウンセリングAI実現のための大規模対話データベース構築に関する産官学共同研究プロジェクト

精神障害者や発達障害者の教育・就労支援を行うフロンティアリンクは1月26日、日本初となる実際のカウンセリングの臨床データに基づいた大規模な対話データベースを構築し、「カウンセリングAI実現に向けたカウンセラーの効果的なコミュニケーションのパターン解析」を行うプロジェクトを開始すると発表した。これは、国立精神・神経医療研究センター東京工業大学との共同研究。また、国立精神・神経医療研究センター倫理審査の承認を得たものという(承認日:2021年11月15日、承認番号:B2021-084)。

日本では、100万人を超えるひきこもり者、400万人を超える精神障害者があり、その数は糖尿病やがんの患者数を上回るという。しかし、精神疾患の専門機関への相談は敷居が高いと感じる人が多く、カウンセリングを受けたことのない人が全体の94%に上っている(中小企業基盤整備機構。2019)。「潜在的には相談ニーズがあっても実際の相談行為に至らないというケースが多い」ということだ。

そうした潜在的相談ニーズをすくいあげるツールとして、AIがある。すでに音声アシスタントやホテルの受け付けなどで利用されている会話型AIを使うことで、相談の敷居が下げられる。場所や時間の制約も受けない。また、精神疾患者には外出が不安だったり、対人交流ができない人の場合、バーチャルのほうが自己開示しやすいという研究報告もある。

ただ、カウンセリングAIの開発には基盤となるデータベースが必要となる。研究の進んだ海外では、電子学術データベースを擁する出版社「Alexander Street Press」が体系的に整理された4000ものカウンセリングセッションの逐語データをオープンソース化するなど、対話型のAIカウンセリングシステムの発展に寄与しているが、日本では先行研究に使用できるデータが少なく、学生のロールプレイによる模擬データであったりするため、ユーザーの話を傾聴し、話を「深める」システムの発達について課題がある状況という。

そこでフロンティアリンクは、産官学共同で、実際のカウンセリングの臨床データに基づく大規模な対話データベースを構築し、このプロジェクトを開始した。ここでは、経験豊富なカウンセラーのカウンセリングデータを、600セッション収集することを目指す。また、自然言語処理、言語学、情報システム、精神医学、臨床心理学の専門家が、カウンセラーの効果的な発話の分析を行うとしている。

このプロジェクトで期待される効果には、精神疾患の重篤化を防ぐ早期発見、早期介入によるメンタルヘルスの増進のみならず、専門家の雇用促進、専門機関のネットワークの拡充、気軽に相談できる風土の促進が挙げられている。カウンセリングAIにより気軽に相談できる環境が整えば、それを通してユーザーを専門機関につなげるネットワーク作りも可能になるということだ。

画像クレジット:Volodymyr Hryshchenko on Unsplash

大阪大学が昆虫用VRシステムを用いて生物が匂いの発生源を探る行動を解明、効率的な探索には複数感覚の情報統合が必要

大阪大学が昆虫用VRシステムを用いて生物が匂いの発生源を探る行動を解明、効率的な探索には複数感覚の情報統合が必要

大阪大学は12月15日、生物が匂いの発生源「匂い源」を効率的に探索するためには、複数の感覚の情報統合が必要であることを、世界で初めて解明したことを発表した。この行動解析は、ガス漏れ探索機や人命救助ロボットへの応用が期待されるという。

生物は、生存に欠かせない匂い源の探索に風や視覚情報を使っていることは前から知られていたが、その情報が、どのような状況化でどのように行動に反映されているかは未解明だった。そこで、大阪大学大学院基礎工学研究科大学院生の山田真由氏らによる研究グループは、匂い、風、光を同時に連続的に提示できる昆虫用VRシステムを開発し、カイコガの雄が雌を探す様子を観察した。すると、匂い情報と風の情報は歩行と回転の速度調整に、視覚情報は姿勢制御に寄与していることがわかった。

さらに研究グループは、生物学的データからモデルを構築し、シミュレーションにより機能評価を行ったところ、これまでに提案されていた匂い源探索モデルよりも高い探索成功率が示された。また、生物と同様の探索軌跡が発現されることも認められた。

研究グループでは、このVRシステムを他の生物にも応用することで「生物の生存戦略についての知見が深まる」としている。同時に、ガス漏れ源探索ロボットや人命救助ロボットといった工学分野への応用も期待されるとのことだ。

同研究は、大阪大学大学院基礎工学研究科大学院生の山田真由氏、大橋ひろ乃特任研究員、細田耕教授、志垣俊介助教、東京工業大学工学院システム制御系の倉林大輔教授らによるもの。

マーカー不要、動く物体にもプロジェクションマッピングが可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

今回新たに開発した高速RGB+IRプロジェクター。46×28cmとコンパクト

今回新たに開発した高速RGB+IRプロジェクター。46×28cmとコンパクト

科学技術振興機構は12月2日、マーカーがいらず、動くものにも投影可能なプロジェクションマッピング用高速プロジェクターを開発したと発表した。これは、24bitカラー(RGB)と、目に見えない8bitの赤外線(IR)をそれぞれ同時に投影し、空間センシングと映像の投影を同時に行うというもの。これにより、マーカーを必要としないダイナミックプロジェクションマッピング(DPM)が可能になった。

これは、東京工業大学渡辺義浩准教授東京エレクトロンデバイスの湯浅剛氏、フラウンホーファー応用光学精密機械工学研究所のUwe Lippmann(ウーヴェ・リップマン)氏、ViALUXのPetra Aswendt(ペトロ・アシュエンド)氏からなる日本とドイツの国際産学連携チームによる共同研究。およそ1000fpsという非常に高いフレームレートでRGB方式の24bitカラー画像と、IRによる8bitの不可視画像をそれぞれ同時に制御し、さらに独自開発の光学系システムにより、両画像の同軸位置合わせを行うことで、IR画像を投影し空間センシングしながら、リアルタイムでそれに合わせた画像の投影が行える。

建物などの立体構造物に映像を投影するプロジェクションマッピングでは、対象物の形状を捉え、自然に見えるように映像をその形状に合わせて加工し、投影する必要がある。特に対象物が動いている場合、カメラで対象物の位置や形状を認識し、それに合う形と陰影を持たせた映像をリアルタイムで生成し、相手の位置に合わせて投影することになる。そのため、動く対象物と映像のズレが人の目では感知できないほどの高速で同期させなければならない。これまで、それを実現させるためには、対象物を平面にしたり、対象物にマーカーを取り付ける必要があった。

同研究チームは、3Dセンシングの基本的な手法である、プロジェクターとカメラを組み合わせたシステムを構築し、プロジェクターで空間に投影された既知パターンの反射像をカメラで捉えることにより、マーカーを使わずに空間情報を取得できるようにした。これまで、この手法を用いたダイナミックプロジェクションマッピングでは、センシング用投影とディスプレイ用投影を同時に高速処理しようとすると干渉し合ってしまうという問題があったのだが、同チームはセンシングを目に見えないIRで行うことで、これを克服した。

マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

今回のプロジェクターによる画像投影を行ったトルソー(上)。トルソーにRGB画像とIR画像を同時に投影し、RGB画像のみを撮影したもの(中)。IR画像のみを感知するカメラで撮影したもの(下)

これを実現したのは、縦横に並べた1024×768個の微小な鏡の角度を個別に制御して投影画像を変化させるテキサス・インスツルメンツの「DLP」という技術を用いた投影装置「デジタルマイクロミラーデバイス」だ。RGBとIRの照明光学系を分離して、デジタルマイクロミラーデバイスの反射後に像を統合することで、コンパクトで高輝度の投影が可能になった。

マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

RGB+IR画像を高速で同時に投影するプロジェクターの光学系システム

また、ダイナミックプロジェクションマッピングで重要な処理の高速化においては、デジタルマイクロミラーデバイスの制御と光源の変調を高精度に連携させることで、最大925fpsという高いフレームレートを実現させ、さらに映像データの転送を高速化して、コンピューターからプロジェクターへの映像転送から投影までを、わずか数ミリ秒で行えるようにした。

マーカー不要、動く物体にも最大925fpsでプロジェクションマッピング可能な高速プロジェクターを東京工業大学らが開発

RGB画像とIR画像を、同プロジェクターを用いてスクリーン上に925fpsで投影している様子。右側のモニター上には、RGB画像のみを捉えるカメラで撮影した投影像(モニター内右)と、IR画像のみを捉えるカメラで撮影した投影像(モニター内左)が表示されている。スクリーンには2種類の画像を投影しているが、IR画像は人間には見えないことから、この不可視の投影像を空間センシングに利用できる

研究チームは、この技術の応用分野として、エンターテインメント、アート、広告といったビジネス分野、拡張現実分野の他、作業支援や医療支援などの幅広い社会実装に着手してゆくとのことだ。

横浜国立大学が測距と振動検出が同時に可能な新方式LiDARを開発

横浜国立大学が測距と振動検出が同時に可能な新方式LiDARを開発横浜国立大学は10月25日、従来の光測定方式では難しかった、長距離の測距と振動分布の検出を同時に行える新しい「相関領域LiDAR(ライダー)」を開発したことを発表した。将来的には、空気中の粒子の運動や空気の流れを可視化し、感染症対策に貢献できるとしている。

横浜国立大学理工学部4年生の清住空樹氏と水野洋輔准教授は、東京工業大学の中村健太郎教授、芝浦工業大学の李ひよん助教授らとの共同研究で、光相関制御型の新方式LiDARを開発した。LiDARとは、レーザー光などの光を使って物の検知や測距を行う装置のこと。光相関制御型とは、光の干渉を利用したシステムであることを示している。

自動車部品や構造物の異常検知では、一般に、光測定を利用した振動検出技術が使われている。なかでも、ドップラー効果を利用したレーザードップラー振動計が主流とのこと。しかし、この装置は振動検出が主目的であるため測定範囲が短く、測距や高速で測定点の切り替えが難しい。そこで、長距離の測距も可能な振動検出技術を備えたセンサーの登場が待ち望まれていた。

通常のLiDARは、照射した光が対象物で跳ね返る反射光を分析して距離などを割り出すが、同研究チームは、反射光に参照光を当て、そこで生じる干渉を利用する方式をとった。レーザー光に周波数変調を加えると、光の干渉が強くなる「相関ピーク」が形成される。ここを測定点とすることで、様々な情報が得られる。相関ピークと重なった場所が振動していれば、その周波数や振動波形がわかるという。

相関ピーク、つまり測定点は、レーザー光の変調で制御できるため、複数の測定対象が広範囲に分布していても、変調でレーザー光に沿って測定点を移動(掃引)させれば測定が可能となる。実験により、48cmの範囲内の測距も、ほぼ正確に行えることがわかった。また、30kHzで振動する振動発生装置を測定したところ、30kHzの周波数が検出できた。

この相関領域LiDARを使うことで、将来的には空気の流れが可視化して、部屋の換気の状態やマスクの周りの乱流などが測定できようになると、研究チームは話している。さらに、人の脈拍、呼吸、心臓の微細振動、鼓動などの生体信号を非接触で測定できるようになるとのことだ。

自分の声で音声合成できる「CoeFont CLOUD」で多彩な感情表現が可能に

自分の声で音声合成できる「CoeFont CLOUD」で多彩な感情表現が可能に

東京工業大学発のAI音声合成スタートアップYellston(エールストン)は9月16日、自分や著名人の声を「フォント」化して音声合成ができるプラットフォーム「CoeFont Cloud」(コエフォント・クラウド)に、喜びや怒りなどの感情表現機能を追加したと発表した。

現在は、男性バーチャルキャラクターであるアベルーニに感情機能を実装。通常の声に加えて、喜怒哀楽の4種類の声のフォント(CoeFont)があり、それぞれの感情のこもったテキスト読み上げをしてくれる。これらのCoeFontを組み合わることで、表現豊かな音声合成を作ることができる。同様に、女性バーチャルキャラクターのアリアルにも感情のCoeFontをリリース。アリアルの感情CoeFontは、同社が提供するウェブ音声合成サービス「CoeFont Studio」でも、週替わりで一部公開している。

今後は、一般ユーザーも感情を込めた自分の声を収録することで、自分の感情CoeFontが作れる感情追加機能をリリースする予定とのことだ。

高度医療ロボのリバーフィールドが30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧駆動手術支援ロボの上市加速

高度医療ロボのリバーフィールドが約30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧精密駆動手術支援ロボの上市加速

高度医療ロボット各種の開発を手がけるリバーフィールドは9月10日、第三者割当増資による総額約30億円の資金調達を発表した。引受先は、東レエンジニアリング、第一生命保険、MEDIPAL Innovation投資事業有限責任組合(SBIインベストメント)をはじめ、事業会社、ベンチャーキャピタルなど。調達した資金により、同社独自の空気圧精密制御技術を用いた手術支援ロボットの上市を加速させる。

執刀医に鉗子先端にかかる力をリアルタイムで伝える力覚提示が可能な手術支援ロボットの上市を2023年1月に予定。またその他、次世代内視鏡把持ロボット、眼科用ロボットを2022年中に順次上市していく計画としている。

2014年5月設立のリバーフィールドは、大学で培ってきた技術を活かした医療ロボットを開発している大学発スタートアップ。東京大学大学院 情報理工学系研究科教授の川嶋健嗣氏が創業者代表および会長、また東京工業大学准教授の只野耕太郎氏が代表取締役社長を務めている。

同社は、2003年から東京工業大学において手術支援ロボットの研究をスタート。当時、低侵襲外科手術支援用ロボットは優れたシステムである一方、操作を視覚に頼っており、触った感覚が操作者に伝わらないとの声が挙がっていたことから、空気圧システムによる精密駆動技術を手術支援ロボットに適用することでニーズに応えられると考えたという。

その後、先に挙げた力覚フィードバック実現のニーズと、研究室で有していた空気圧の計測制御技術のシーズを合わせ、空気圧駆動の手術支援ロボットを研究試作として完成させた。これらの研究成果を研究として終わらせず、社会・医療現場に実際に役立てたいとの思いから同社を起業したという。

声を失った声帯摘出者のCoeFont CLOUD利用が無料に、自分のAI音声による会話を支援

声を失った声帯摘出者のCoeFont CLOUD利用が無料に、自分のAI音声による会話を支援

東京工業大学発のAI音声合成スタートアップYellstone(エールストン)は9月9日、自分の声を取り込んで音声合成が行えるサービス「CoeFont CLOUD」を、声帯摘出によって声を失った人たちに無料提供すると発表した。これを利用すれば、スマホやパソコンで文章を入力するだけで、自分の声で会話ができるようになる。

申し込みは、「CoeFont CLOUD 声帯摘出者向けプラン申請フォーム」から行える。

AI音声合成プラットフォーム「CoeFont CLOUD」では、自分の声を収録すれば、それが音声合成用の声のフォント「CoeFont」(コエフォント)に変換され、自分の合成音声でテキストの読み上げが行えるようになる。自分の「CoeFont」はクラウド上で公開でき、他のユーザーがそれを利用すれば作成者に収益が還元される仕組みもある。APIを使ってアプリやウェブサイトに組み込むことも可能。

Yellsotneでは、CoeFont CLOUDの場合これまで料金500円・最短15分の収録としていたが、今後は、声帯摘出を行った人は無料で使えるようになる。

テレビのニュース番組では、声帯摘出を行い「CoeFont CLOUD」利用している人のインタビューが放送された。その人は「CoeFontに出会えて、本当に救われました。今まで全く縁のなかったAI技術の進歩と素晴らしさに本当に驚いています」と話していたという。

実は、こうした使われ方は当初は想定していなかった。Yellstone創業者で代表取締役の早川尚吾氏は、こう話す。

「声帯摘出者の方が利用するという、自分が考えていなかった使われ方に最初は驚きました。実際に会話で使っていただいている動画を見ると、自分が作ったものが人の役に立っているということがこんなにも嬉しいのかと思いました」

「CoeFont Cloud」と小学館が協働し声優・森川智之さんの音声フォントを採用したAI音声合成オーディブックの試聴版公開

「CoeFont Cloud」と小学館が協働し声優・森川智之さんの音声フォントを採用したAI音声合成オーディブックの試聴版公開

東京工業大学発のAI音声合成スタートアップYellstone(エールストン)は9月7日、人の声をフォント化して音声合成を行うプラットフォーム「CoeFont Cloud」(コエフォント・クラウド)を利用し、小学館と協働でAI音声合成オーディブックの試聴版を作成したと発表した。

第1弾は、「鬼滅の刃」産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)役やトム・クルーズの吹き替えで知られる声優・森川智之さんの合成音声によるオーディオブック「なぜ”ブブカ”はスポーツでもビジネスでも成功し続けるのか」(小学館:セルゲイ・ブブカ著)。特設ページにおいて、期間限定で一部を無料公開している。「CoeFont Cloud」と小学館が協働し声優・森川智之さんの音声フォントを採用したAI音声合成オーディブックの試聴版公開

CoeFont Cloudは、最短15分の収録で、その人の声を音声合成用の「フォント」に変換し、それを使ってテキストの読み上げが行えるというサービスを行っている。今回は、森川智之さんが約2時間かけて収録した音声からAI音声合成を行い、「なぜ”ブブカ”はスポーツでもビジネスでも成功し続けるのか」の第1章のオーディオブック試聴版(約31分)を完成させた。

Yellstoneは、2021年4月に、デジタルキャラクターや著名人の声でテキストの読み上げができる「CoeFont Studio」をリリースした。リリース3日目にして5万人のユーザー数を獲得した。CoeFont Cloudはそれを発展させて、自分の声のフォントを作って読み上げができるようにしたサービスだ。

森川智之さんは、今回の試みについて「……この技術革新が不安な影も落とすのではと感じる方も多いのではないでしょうか。人工知能は黙っていても学習していきます。技術の進歩は日進月歩です。それならば、誰もが参加でき、その進歩の礎となり、みんなが見守りながらオープンスタイルで育てていくAIの音声合成」というYellstonの考え方に賛同したとのこと。

さらに、「私の音声サンプルによるAI音声合成は、まだまだ発展途上、点数を付ければ45点。細部にわたる表現力が課題で、100点には遠く及びません。しかし、これに皆さんが参加することによって、AIが学習を重ねていけば、より理想とする表現に近づくことは間違いありません」と述べている。

500円・約15分間の収録で自分の声によるAI音声合成を可能にする「CoeFont CLOUD」が先行公開を開始

500円・約15分間の収録で自分の声によるAI音声合成を可能にする「CoeFont CLOUD」が先行公開を開始

東京工業大学2年生で19歳の早川尚吾氏が設立し、社長を務めるAI音声合成スタートアップYellston(エールストン)は7月19日、1回の料金500円で約15分間の収録を行えば、AIが自分の声を音声合成用の声のフォント「CoeFont」(コエフォント)に変換してくれるサービス「CoeFont CLOUD」の先行リリース開始を発表した。

2020年11月設立のYellstonは、「CoeFont Studio」(コエフォントスタジオ)を2021年4月にリリースした。デジタルキャラクターや著名人の声でテキストの読み上げをさせることができるサービスだ。リリースから3日で5万人のユーザー数を獲得、月間ユーザー数は20万人に達したという。凪白みとのイラストで、浅木ゆめみが声を提供しているAllial(アリアル)とMillial(ミリアル)という双子キャラクターの声は無料で試すことができ、すでに二次創作などに多く利用されているそうだ。

CoeFont Cloudは、それを自分の声で行えるというもの。自分の声のフォントを公開できるが、「CoeFont Official」を利用すれば、気象予報士の森田正光、野球解説の藪恵壹などの著名人や声優の声フォントを自分の作品に使うこともできる。公開された声は、利用された場合に文字数に応じて本人に料金が支払われる。

このサービスの特徴は、文脈からアクセントを予測し、深層学習で自然な音声合成を行うところにある。ウェブサービスなので利用環境を選ばず、アクセントや速度の編集などすべてがウェブ上で行える。公開範囲は設定によって限定が可能。テキストを読み上げた音声はダウンロードして、オーディオブックや動画のナレーションなどに利用できる。さらに、APIが提供されるので、アプリに組み込んでコメントを読み上げるなどの活用が可能になる。自分の声が悪用される心配があるが、放送禁止用語や汚い言葉は合成できないように配慮されている。

音声作品の制作のみならず、声帯の切除手術を予定しているガン患者が、事前に自分のCoeFontを作っておき、後にそれを使って会話をするという利用法も、すでに実施されているという。

「CoeFont Cloud」は現在、先行体験期間中。先行利用には「CoeFont CLOUD先行利用申請」での申請が必要で、Yellstonが利用できる人を選考する仕組みになっている。

今後も、より自然に、精度の高い音声合成を目指して、これからも研究を重ねてゆくとのことだ。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Yellston(企業)音読(用語)合成音声(用語)ディープラーニング / 深層学習(用語)東京工業大学(組織)日本(国・地域)

LayerX Labsと東京工業大学とのEthereum 2.0関連共同研究がインターネットアーキテクチャ最優秀研究賞を受賞

LayerX Labsと東京工業大学とのEthereum 2.0関連共同研究がインターネットアーキテクチャ最優秀研究賞を受賞

すべての経済活動のデジタル化を推進するLayerX(レイヤーエックス)は6月21日、研究開発組織LayerX Labs(レイヤーエックス・ラボ)と東京工業大学情報理工学院の首藤研究室との共同研究に関する学術論文「Saving attackのブロックチェーンコンセンサスに対する影響」が、電子情報通信学会インターネットアーキテクチャ研究会の「インターネットアーキテクチャ最優秀研究賞」を受賞したと発表した。

2018年に創設されたLayerXは、ブロックチェーン技術で業務や生産をはじめとした経済活動の摩擦を解消し、「この国の課題である生産性向上」の実現を目指している。2021年1月には、請求書の受け取りから会計、支払い処理までを自動化するクラウド型経理DX支援システム「LayerX インボイス」をリリースした。

LayerX Labsは、「デジタル通貨」「スマートシティ」「パブリックブロックチェーン」をテーマに、行政、各国の中央銀行、大学、民間企業と連係しブロックチェーンなどの技術の実用化に向けた研究開発を行う組織として、2020年8月に設立された。

今回、インターネットアーキテクチャ最優秀研究賞を受賞した研究は、ブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムに関するもの。「Ethereumの次期バージョンであるEthereum 2.0におけるコンセンサスアルゴリズムに対する攻撃やその緩和手法の分析・評価」が行われている。首藤研究室が開発するパブリックブロックチェーンのシミュレーター「SimBlock」と、LayerX執行役員兼LayerX Labs所長の中村龍矢氏が提案し、Ethereum 2.0の仕様に採用された研究とが結びついたものだという。

東京工業大学情報理工学院、首藤一幸准教授は、「ブロックチェーンが示した価値のインターネットという可能性、そして、まずはDeFi(分散金融)として始まったDAO(自律分散組織)という人類社会の未来。それらを産み、育んでいるEthereumを主な対象とした、学術らしい強固な貢献」と自負している。

論文の詳細:

タイトル: Saving attackのブロックチェーンコンセンサスに対する影響
著者: 大月 魁(東工大)・中村 龍矢(LayerX)・首藤 一幸(東工大)
掲載誌情報: 電子情報通信学会 技術研究報告, Vol.120, No.381, IA2020-37, pp.15-22

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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:Ethereum / イーサリアム(製品・サービス)Ethereum 2.0DAO / 自律分散型組織(用語)電子情報通信学会 / IEICE(組織)DeFi / 分散型金融(用語)東京工業大学(組織)LayerX(企業)LayerX Labs日本(国・地域)

「日本版StartX」目指す東大1stROUNDが東京工業大など4大学共催の国内初インキュベーションプログラムに

スタンフォード大学の卒業生が運営するStartXをご存知だろうか。これまで700社以上のスタートアップを生み出したこの非営利アクセラレータプログラムは、同大学出身者からなる強力なスタートアップエコシステムの形成に寄与している。

このStartXの「日本版」を目指し誕生した、東京大学協創プラットフォーム(東大IPC)主催のインキュベーションプログラム「1stROUND」は、新たに筑波大学、東京医科歯科大学、東京工業大学の参画を発表。国内初の4大学共催のインキュベーションプログラムとして始動する。

「株を取得しない」インキュベーションプログラム

1stROUNDは、ベンチャー起業を目指す上記4大学の学生や卒業生を主な対象として、最大1000万円の資金援助と事業開発環境を6カ月間提供するインキュベーションプログラムだ。その目標は、設立後間もないベンチャーの「最初の資金調達(ファーストラウンド)」の達成までをサポートするということ。実際に、1stROUNDの採択企業34社のうち90%が、VCからの資金調達に成功しているという。

1stROUNDの大きな特徴は、最大1000万円の資金提供をするにも関わらず「株を取得しない」ということだろう。これは、採択したベンチャーが後に大成功を収めることになったとしても、1stROUONDとしては直接的な利益を享受しないことを意味する。また同プログラムには、パートナー企業としてトヨタ自動車、日本生命、三井不動産など業界を代表する大企業が名を連ねているが、これらの企業も「無償」で同プログラムに資金を提供している。

画像クレジット:東大IPC

一見したところ「1stROUNDには投資家として参加するインセンティブがないのでは」と考えてしまうが、東大IPCやパートナー企業にも大きなメリットが存在する。それをわかりやすく示す例が、2020年4月に設立されたアーバンエックステクノロジーズだ。スマートフォンカメラを活用して道路の損傷箇所を検知するシステムを開発していた同社は、1stROUNDに応募して採択された企業の1社である。

当時、創業約5カ月にすぎなかったアーバンエックスに起こったことは、1stROUNDのパートナー企業である三井住友海上火災保険との戦略的提携だった。日本最大級の損害保険会社である同社は「ドラレコ型保険」を展開しており、約300万台のドライブレコーダーを保有する。これにアーバンエックスのAI画像分析技術を搭載することで、ドラレコ付き自動車が日本全国の道路を点検できるようになった。同プログラムを創設した水本尚宏氏は「1stROUNDのネットワークがなければ、まず実現し得なかったことだと思います」と話す。

その後、アーバンエックスはVCからの資金調達を成功させるが、そのリード投資家となったのは東大IPCの「AOI(アオイ)1号ファンド」だった。同ファンドは、1stROUNDと同じく水本氏が2020年に設立し、パートナーとして運営している。つまり、1stROUNDでは採択したベンチャーの株を取得することはないものの、のちにAOIファンドで出資を行い株を取得することができるので、東大IPCとしても将来的に利益を確保することが可能になる。

1stROUNDで支援を受けるベンチャーは、無償での資金提供に加えて大企業とのネットワーク支援を受けられる。一方でパートナー企業は「誰の手にもついていない」ベンチャー企業の情報収集や、戦略的提携の可能性がある。そして、東大IPCにとっても後のファンド投資につながる可能性がある。1stROUNDは、三者にとってメリットがある見事な仕組みといえるだろう。

画像クレジット:東大IPC

AOI 1号ファンドは240億円超に増資

これまで主に東大の学生や卒業生などを対象として運営してきた1stROUNDは、今後東京工業大学・筑波大学・東京医科歯科大学を含めた4大学に門戸を広げる。また、企業の一事業や部門を新法人として独立させる「カーブアウト」を主に扱うAOIファンドも、設立時の28億円から241億円への増資を発表し、さらに勢いに乗りそうだ。

1stROUND、AOIファンドの運営を行う水本氏はこう語る。「私達は『ファンドとしてきちんとリターンを出す』ことを目指しています。当たり前と思われるかもしれませんが、上から『儲からない案件をやれ』と言われがちな官民ファンドは、この基本的な部分が緩みがちなのです。しかし私は、1stROUNDのプレシードや、AOIファンドのカーブアウトといった、一般的に難しいとされる分野で成果を出したい。『こういう投資が儲かる』ことを証明し、民間VCや企業が参入してきた結果、エコシステムが大きくなると思うからです。私たちが民間VCと同じくらい、もしくはそれ以上にきちんと儲けることが、ゆくゆくは日本のためになると信じています」。

成功事例に乏しい分野にあえて挑戦し、国益に資することを目標とする東大IPC。数年後、ここから世界を驚かせるベンチャーがいったい何社出てくるか、楽しみだ。

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ソフトバンクらが次世代電池研究開発においてリチウム金属負極を用いた質量エネルギー密度450Wh/kg級の実証に成功

ソフトバンクとEnpower Greentechが次世代電池開発に向けた質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功

開発した要素技術を用いた電池の試作品

ソフトバンクと米スタートアップEnpower Greentechは3月15日、次世代電池の研究開発において、リチウム金属負極を用いた質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功したと発表した。また、リチウム金属電池の長寿命化の要素技術の開発成功も明らかにした。

両社は、IoT機器や携帯電話基地局などでの活用を想定した、質量エネルギー密度(Wh/kg)が高く、また軽量かつ容量が大きい次世代電池を見据えた材料技術の共同研究を行う契約を2020年3月に締結し、4月から共同研究開発を実施。また今回開発した要素技術には、リチウム金属表面にデンドライトの発生を抑制する極薄(10nm以下)コーティング膜技術や、高い電池電圧と高いクーロン効率(充放電効率)を両立した電解液などもあるという。

デンドライトは、電池の充放電を繰り返した際に生じるリチウム金属の針状結晶のこと。これが成長し続けると、正極と負極の短絡を引き起こし、発火などの原因となる。クーロン効率(充放電効率)は充電時の充電容量に対する放電時の放電容量の比。クーロン効率が高いほど充電容量を無駄なく放電に使用でき、寿命が長い電池となる。

リチウム金属負極は負極材料として注目される一方、短期間で電池容量が減少するという課題を抱えていた

現在、デバイスの進化から電池の高容量化が望まれているものの、既存の電池材料(黒鉛など)では達成は厳しく、リチウム金属負極などの次世代材料が求められているという。

ただしリチウム金属電池の課題として、リチウム金属負極と電解液の反応に由来するサイクル寿命の短さが挙げられる。充放電に伴うデンドライトの発生によって、短期間で電池容量が減少するという課題があったという。リチウム金属は還元力が強く電解液が分解されてしまい、リチウム金属表面に不均一な不動態被膜が形成されることで、短絡の原因にもなるデンドライト生成を促してしまう。

ソフトバンクが次世代電池の研究開発・早期実用化の推進に向け「ソフトバンク次世代電池Lab.」を設立

そこで、ソフトバンクとEnpower Greentechは、デンドライトの発生抑制技術のひとつ「リチウム金属表面の無機コーティング技術」に注目。

リチウム金属表面を例えばイオン伝導材料などでコーティングすることで電解液との直接接触を遮断。安定した固体電解質界面(SEI)膜を形成するというアプローチを実施したそうだ。

リチウム金属負極と電解液の反応を抑制するためには、リチウム金属表面への電解液の接触を減らし、電解液の分解を抑制する必要がある。先に挙げたイオン伝導材料などをコーティングすることで、電解液がリチウム金属表面に接触することを防ぎ、リチウムイオンを均一に拡散させることを可能にする。これにより、デンドライトの発生を抑制し、リチウム金属電池の長寿命化が期待できるとした。

ソフトバンクが次世代電池の研究開発・早期実用化の推進に向け「ソフトバンク次世代電池Lab.」を設立

また今回、無機物を極薄(10nm以下)でコーティングしたリチウム金属電極を用いて、コイン型リチウム対称セル(ラボ測定用電池)で連続500時間経過しても、非常に低い過電圧を維持し続けている充放電データを得られたという。今後この技術を450Wh/kg級電池に適用し、電池のさらなる長寿命化を目指す(実験データなどの詳細。PDF)。

  1. ソフトバンクとEnpower Greentechが次世代電池開発に向けた質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功

  2. ソフトバンクとEnpower Greentechが次世代電池開発に向けた質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功

ソーラーパネル搭載の成層圏通信プラットフォームの長時間駆動への道筋

今回、共同開発に成功した材料技術を用いることで達成が期待できる質量エネルギー密度450Wh/kg級電池は、現在のリチウムイオン電池に比べ、質量エネルギー密度が約2倍となるという。この電池は、さまざまなIoT機器や携帯電話基地局だけでなく、ソフトバンク子会社HAPSモバイルが地上約20kmの成層圏で飛行させる、ソーラーパネル搭載の成層圏通信プラットフォーム(HAPS)向け無人航空機「Sunglider」への装用による長時間駆動も期待できるとしている。

Enpower Greentechは、全固体電池を含む次世代電池の研究開発と事業化に取り組んでいる米国のスタートアップ企業。日本においては、東京工業大学発スタートアップEnpower Japan(エンパワージャパン)として研究拠点を構えている。同社は、2015年から高容量電極材料や固体電解質材料などの材料技術開発に着手しているという。さらに2017年10月からは、テキサス大学オースティン校教授であり、ノーベル化学賞を受賞したJohn B. Goodenough(ジョン・B・グッドイナフ)教授の研究グループと全固体電池用材料技術の共同研究を実施している。

世界中の様々な次世代電池の評価・検証を行う施設「ソフトバンク次世代電池Lab.」

また同日ソフトバンクは、質量エネルギー密度(Wh/kg)が高く軽量で安全な次世代電池の研究開発および早期実用化の推進に向けて、世界中の様々な次世代電池の評価・検証を行う施設「ソフトバンク次世代電池Lab.」(ソフトバンク次世代電池ラボ)を、2021年6月に設立すると発表した。

ソフトバンク次世代電池Lab.は、環境試験器の世界トップメーカーであり、安全性・環境評価に優れた設備・ノウハウがあるエスペックの「バッテリー安全認証センター」内に設立。

今後は充放電設備の増強、モジュール・電池パックの大型評価設備の導入や、安全性試験・低温低気圧など、地上から上空までの特殊な環境試験においてエスペックと連携することを検討している。

「ソフトバンク次世代電池Lab.」のあるエスペック宇都宮テクノコンプレックス「バッテリー安全認証センター」外観

現在ソフトバンクは、質量エネルギー密度が高く軽量で安全な次世代電池について、IoT機器などの既存のデバイスやHAPS(High Altitude Platform Station、成層圏通信プラットフォーム)をはじめとする次世代通信システムなどへの導入を見据え、研究開発を推進している。また、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、高性能な電池が必要不可欠と考えているという。

次世代電池の開発については、世界のさまざまな電池メーカーが技術検証を実施しているものの、メーカーごとに技術評価環境・検証基準が異なり、同一環境下での性能差の分析・技術課題の特定が難しいという課題がある。ソフトバンクは、これらの課題を解決し、次世代電池の早期実現のため、ソフトバンク次世代電池Lab.を設立する。

今後ラボにおいて、世界中のメーカーのセルを同一環境下で評価・比較することで、性能差の分析・技術課題の早期特定を実現する。また各メーカーに検証結果をフィードバックすることで、次世代電池の開発加速を目指すという。

さらに同ラボでは、共同研究先と開発した要素技術の検証も行う予定。検証により得られたノウハウを参画メーカーと共有することで、次世代電池開発のベースアップに貢献する。すでに世界中の電池メーカー15社の次世代電池の検証を予定しており、今後さらに開発パートナーを拡大していく。

これらの活動を通しソフトバンク次世代電池Lab.は、次世代電池の開発促進を支援するプラットフォームになることを目指す。

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