東芝が量子暗号通信システム事業を2020年度第4四半期から開始、2035年度に市場の約1/4獲得目指す

東芝が量子暗号通信システム事業を2020年度第4四半期から順次開始

東芝は10月19日、国内外での量子暗号通信(QKD。Quantum Key Distribution)システムのプラットフォーム提供およびシステムインテグレーション事業を2020年度第4四半期から順次開始すると発表した。

東芝は、これまで20年以上の歳月をかけて量子暗号通信の技術開発に取り組み、世界トップクラスの成果と実績を蓄積。量子鍵配送サービスをいち早く提供することで、2035年度に全世界で約200億ドル(約2.1兆円)と見込まれる量子鍵配送サービス市場の約1/4(2030年度で約30億ドル・約3150億円)を獲得し、量子暗号通信業界のリーディングカンパニーを目指す。

国内事業では、東芝デジタルソリューションズが実運用環境下における複数拠点間の量子暗号通信実証事業を情報通信研究機構(NICT)より受注。2020年度第4四半期に量子暗号通信システムを納入し、2021年4月に実証事業を開始予定。同社は、これまで量子暗号通信の様々な実証実験を進めているが、量子暗号通信システムインテグレーション事業としては同案件が日本初の案件となる。

海外事業では、英国政府研究開発機関において量子暗号通信を実用化する、BT Group plc.との共同実証試験を9月16日から開始済み。また米国では、Quantum XchangeとともにVerizon Communications Inc.が9月3日に公表した量子暗号通信トライアルに参加している。

東芝は、2021年度以降、英国・米国のほかに、欧州、アジアの主要国でも現地事業パートナーとともに量子暗号通信システム事業を推進する予定。

量子暗号通信事業を推進するため、東芝は2種類の量子鍵配送プラットフォームを開発。ひとつはデータ通信用光ファイバーを共有する「多重化用途向け」プラットフォーム、もうひとつは鍵配送の速度と距離を最大化した「長距離用途向け」プラットフォーム。同社は今後、国内外で量子鍵配送ネットワークを構築し、金融機関を中心とした顧客向け量子鍵配送サービスを2025年度までに本格的に開始する予定。

本格的なサービスの開始に先立ち、英国ケンブリッジに製造拠点を置き、2020年度第3四半期より特定ユーザー向けのサービス提供を開始する。

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カテゴリー: セキュリティ
タグ: 東芝量子暗号量子コンピュータ日本

EAGLYSが東芝と協業検討、リアルタイムビッグデータ分析にセキュリティ・秘密計算を適用へ

秘密計算 EAGLYS 暗号化 ビッグデータ 準同型暗号

秘密計算技術のEAGLYS(イーグリス)は7月13日、東芝が新規事業創出を目指し開催した「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM 2020」において、協業検討企業として選抜されたと発表した。

EAGLYSは、秘密計算技術で常時暗号化したデータ操作が可能なデータベース向けプロキシソフトウェア「DataArmor Gate DB」と、東芝のIoT・ビッグデータに適したデータベース「GridDB」との製品連携の実証を重ね、ビッグデータのリアルタイム分析における高セキュリティ・秘密計算機能の実現と価値創出に向け協業検討を進めるという。

Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM 2020は、東芝グループが持つローカル5G、IoT、ビッグデータ、画像認識などの技術を活用し、共に新規事業の創出や協業検討を行うプログラム。EAGLYSは、プログラム採択企業として2020年9月25日の成果発表会までに実証実験を重ねて検討をブラッシュアップ、より本格的なビジネスソリューションとしての事業化を目指す。

秘密計算技術とは、データを暗号化したまま復号することなく任意のデータ処理ができる暗号技術の総称。ゼロトラスト時代のデータセキュリティには、ネットワークなどの境界に依存したセキュリティ対策ではなく、「データそのもの」を守るアプローチが求められ、それを実現する基盤技術として期待されている。

秘密計算 EAGLYS 暗号化 ビッグデータ 準同型暗号

EAGLYSの秘密計算技術は、格子暗号をベースとする準同型暗号を採用。暗号処理に伴う計算量の増加が準同型暗号実用化の課題となっていたが、IEEEをはじめ各種国際学会に採択された同社秘密計算エンジン「CapsuleFlow」(カプセルフロー)関連の研究成果によって、大幅な高速化と省メモリー化を達成。業界に先駆けて準同型暗号の実用化に成功した。

DataArmor Gate DBは、EAGLYSが開発・提供するセキュアコンピューティング・プラットフォーム「DataArmor」シリーズのデータベース向けの高機能暗号プロキシーソフトウェア。このソフトウェアでは、データを暗号化したまま透過的に検索・集計クエリなどのデータベース操作が可能。データベース側に鍵をもたない設計により、通信中・保管中・処理中(検索・集計などのクエリ)を常時暗号化し、セキュリティレベルの向上と高パフォーマンスを両立している。

また、プロキシー型で提供しているため、データベースの種別に依存しない連携が行える。同製品にはデータを暗号化したまま計算可能な秘密計算機能も搭載しており、IoTなどセンシングデータの計算処理などのユースケースにも適用可能。

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東芝の半導体事業売却、2兆円でBainと合意――コンソーシアムにはAppleも参加、WDは反発

東芝はパソコンやスマートフォンに大量に使われているNANDメモリーの供給者として世界第2位だ。東芝はその将来を決定する重要な要素である半導体チップ事業をめぐる長い物語が終わらせるために大きな一歩を踏み出した。東芝はチップ事業を2兆円(約180億ドル)で売却することでBain Capitalをリーダーとするコンソーシアムと正式に合意した(リンク先はPDF)。 このグループにはAppleも加わっている。

今月初め、東芝の取締役会はアメリカの有力投資ファンドKKR(Kohlberg Kravis Roberts)と日本の公的ファンド2社による買収提案を拒否し、Bainグループを売却先とする基本路線が決定されていた。 今回東芝の取締役会は正式に契約締結に合意した。

Toshibaは原子力関連事業を展開していたWestinghouse事業部が破産したことによる巨額の損失をカバーするため、TMC(Toshiba Memory Corporation 東芝メモリ株式会社)の売却先を熱心に探してきた。損失の穴埋めができない場合、来年、東芝は東京証券取引所への上場を廃止されるおそれがあったからだ。

今回の決定は単に東芝にとってばかりでなく、広くテクノロジー業界一般にとって大きな意味がある。AppleはライバルのSamsungが東芝を巡る問題から利益を得ることを恐れていた。Samsungは世界のシェア40%を占め、メモリーチップでは世界最大の企業となっている。AppleはSamsungの市場支配を許さないために巨額の資金を用意した。報道によればBainはAppleに70億ドルの出資を求めたという。

TMCの売却自体は早くも今年の1月には話題となっていた。しかしGoogle、Amazon、Foxconnなどの有名企業を含む多数の応札者が現れたため、決定にはかなりの時間がかかることとなった。

東芝はBain Capitalをリーダーとするコンソーシアム、PangeaにTMCを売却するが、TMCは東芝の子会社として事業運営を続けることとなる。PangeaコンソーシアムにはBainに加えて、日本の光学機器メーカーHoya、韓国系半導体メーカーのSK Hynix、アメリカからはApple、Kingston、Seagate、Dellがそれぞれ出資する。

東芝本体も3505億円(31億ドル)を再投資する。Bain Capitalが2120億円(18億ドル)、Hoyaが270億円(2億4000万ドル)、SK Hynixが3950億円(35億ドル)、アメリカ企業が合計で4155億円(37億ドル)をそれぞれ出資する。〔PDFによればコンソーシアムはこのほか6000億円を銀行等から借り入れる〕。

コンソーシアムは東芝とHoyaに50%を超える議決権を与えることで合意した。これは日本政府による規制をクリアするための対策だ。また韓国の半導体企業であるSK HynixはTMCの競争力に影響を与える各種知財へのアクセスをファイアウォールで遮断されることになる。

ただし、東芝とコンソーシアムの間で正式な合意がなされたものの、これで売却が決着したわけではない。

まず日本の独占禁止法、証券取引法に基づく承認を得る必要があるし、東芝とWD(Western Digital)の間では訴訟が続いている。

グループのSanDisk事業部を通じてTMCと提携関係にあったWDは、ライバルの半導体メーカーおよびクライアント企業がTMCを所有することはWDの「競争力に悪影響を及ぼす」としている。当初WDはTMC事業の売却に対する拒否権を要求した。後にKKRと組んでTMCの買収を提案したが、不成功に終わっている。東芝とWDはNANDメモリーを製造する3つ合弁事業の処理を巡って法的な争いを続けているが、コンソーシアム側では(法的決着が)「どうであろうと買収は続行される」としている。

東芝では2018年3月までに買収が完了することを望んでいる。これは日本では4月から新事業年度が始まるからだ。東芝としては東京証券取引所から上場廃止の処分を受ける可能性はできる限り排除したいということだろう。

画像: Wiennat Mongkulmann/Flickr UNDER A CC BY-SA 2.0 LICENSE (IMAGE HAS BEEN MODIFIED)

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+