Palantirの上場申請書の一部がリーク、2019年の損失は約612億円で政府依存率上昇

Palantirが米証券取引委員会に 非公開で株式上場のためのS-1申請書を提出したのは7月上旬だった。ここにきて株主の一人がTechCrunch に申請書のスクリーンショットを送ってくれた。これによって重要な数字のいくつかを知ることができた。申請書提出以来、実は我々も耳を澄ましてきたがこのリーク以前には何の噂も聞こえてこなかった。

通年収入と損益

8月20日付の S 1申請書の草稿のスクリーンショットによればPalantir2019会計年度の総収入はおよそ7億4200万ドル(約785億円)だった(Palantirの会計年度は暦年)。総収入は2018年の5億9500万ドル(約629億円)に比べておよそ25%のアップとなっている。これは確かに成長ではあるものの、急成長著しいSaaS分野としては、例えば最近上場したDatadogの例と比べてさして印象的なものではない。

Palantirは何年にもわたって総収入10億ドル達成が間近だと報道されてきただけに、この数字には失望させられる。非公開企業が財務状況について発表することはあまりないとはいえ、今回我々が入手した数字はこれまでの報道やリーク、噂などに比べてはるかに小さい。

しかし本当に驚かされるのは決算の一番下の行、損益を示すいわゆるボトムラインだ。 スクリーンショットによればPalantirは2019年度の純損失として5.8億ドルを計上している。これは2018年度の損失とほぼ同額だ。ただし同社は2018年の収入対損失の率を97%としていたのに対し今回の損失率は78%と改善されている。

同社が5億7900万ドル(約612億円)もの赤字を出していた事実はこれまでなぜ何十億ドルもの資金を調達しなければならなかったかを説明するものだ。同時にPalantirが損益分岐点を超えて安定した経営に達するまでの道のりがまだ相当に長いことを予想させる。

2019年の同社の粗利益は2018年に比べて16%高く、およそ5億ドル(約529億円)だった。同社の資質の最大のものはセールスとマーケティングであり両面とも4億5000万ドル(約476億円)程度で、2019年では総収入の61%を占めていた。

2020年の上半期は改善傾向

2020年に状況はやや改善された。2020年の最初の6か月でPalantirは4億8100万ドル(約509億円)の収入を得た。 これは昨年同期比で49%のアップだ。さらに重要な点だが、Palantirはセールスとマーケティングなどの営業費用に加えて研究、開発、一般管理費などの支出レベルを昨年なみに抑える努力を続けている。

Palantirはf2020年上半期に収入が増加したにも関わらず支出を前年と同程度に抑えた。 営業費用と収入の比率でいえば、2019年上半期には157%だったところ、2020年の同期では107%に低下している。

とはいえ創業17年の会社にしては絶対的な数値として依然として高い水準だ 。

政府契約への依存は率、額ともアップ

今回のリークで特に興味深い点の1つは同社が政府契約に一体どれほど依存しているのか、また契約先の多様化の成果が上がっているのか、正確に判断できるチャンスが訪れたことだ。同社は以前から政府契約に依存した会社と見られていたが近年、民間市場への進出の努力を始めていた。

TechCrunchが入手したスクリーンショットには、2019年の上半期収入の内訳と2020年の上半期を比較したデータが含まれていた。これによると、昨年2019年の上半期の政府契約は収入の45%で1億4600万ドル(約154億円) 、民間部門は55%の1億7700万ドル(約187億円)だった。これにに対し今年上半期は、政府契約が53.5%で2億5800万ドル(約273億円)、民間契約ぶんは46.5%で2億2400万ドル(約237億円)だった。つまり政府部門からの収入は76%増加したが民間市場からの収入は27%しか増加していない。

このことは政府契約への依存度を減らしているという同社のこれまでの言明と矛盾する。同社の政府契約からの収入は実額でも総収入に対する比率でもアップしている。これは従来から同社が鉄壁としていた政府部門を別にした民間部門において十分な競争力を持っているのかどうかについて疑念を生じさせるものだ。

さらに興味ある点は、巨額のセールスおよびマーケティング費用を支出しているにもかかわらず、収入増加のほとんどが2020年の新規クライアントからではなく、2019末現在に契約していたクライアントから来ていることだ。政府部門についてみると、1億1200万ドル(約118億円)の収入増のうち91%にあたる1億200万ドル(約107億円)は既存の契約者から来ている。また民間部門についても4700万ドル(約50億円)のアップのうち同じく91%の4300万ドル(約45億円)が既存ユーザーからのものだ。

簡単に言えばPalantirは既存ユーザーに強く依存しておりその中でも政府部門への依存が強い。成長を目指すにあたってもこうしたユーザーが頼りということになる。

Palantirの財務に関する数字は広く出回っているとはいえ、S-1申請書が公開される日時はまだ不明だ。 しかしこれまで予想されていたよりは早い時期に公開されるらしい。

我々はPalantirに取材したが、広報担当者はコメントを避けた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

中国のコーヒーチェーンLuckin CoffeeがNASDAQから上場廃止を要求されていると判明

息をつく暇もないとはこのことだ。

スキャンダルの渦中にある中国のコーヒーチェーンLuckin Coffee(瑞幸咖啡)が、上場している米国の証券取引所から退場を求められていたことがわかった。米国時間6月23日付で米国証券取引委員会に提出された報告書に書かれている。

Luckin Coffeeの報告によれば、同社はNASDAQから次のような書面の送付を受けていた。

「この通知は【略】Luckin Coffeeが2019年12月31日を終期とする期間についての20-F様式による報告を提出しなかったことを示す追加書面である【略】同社がNASDAQへの上場を廃止すべきことを示す追加証拠であり【略】同社が5月中旬に公開した本委員会が送付した2通の通知に追加される(証拠である)」。

NASDAQは「送付した通知はいずれもLickin Coffeeが開示した情報が上場を維持するために不十分なものであることを示すものだ」と付け加えている。

Luckinの目覚ましい躍進とあっという間の墜落は、太陽に近づき過ぎて死んだイカロスの神話を思わせるほど劇的だった。中国を拠点とする同社は2019年4月に株式公開の意図を明らかにし(未訳記事)、大型上場で6億5100万ドル(約700億円)を得た(未訳記事)。当初はウォールストリートの証券会社も同社の米国市場参入を歓迎していた(未訳記事)。

しかし運命は逆転を始める。上場申請の約1年後、Luckinは収入と支出を数億ドル(数百億円)以上水増ししていた可能性があることを公表した。しかし2020年4月には「Luckin Coffeeが320億円の不正会計疑惑で内部調査を開始」と報じられることとなった。

NASDAQがLuckinに市場から出て行けと言い出したのは驚きではない。

不正会計の公表で株価が80%近く暴落した後、一部のユーザーがLuckinに殺到した(未訳記事)。これは経営の行き詰まりで、貯めていた割引ポイントやクーポンの価値がなくなることを恐れたためだ。ところが同社は、SECに対する経営報告の提出にあたってちょうどいいスケープゴートを発見した。新型コロナウイルス(COVID-19)だ。

社内トラブルの言い訳に世界的パンデミックを使った興味深い例として LuckinのSEC報告書は「新型コロナウイルスの流行により、財務諸表の準備が遅延し、以前に開示した内部調査も停止されたため当社は年次報告書を提出できなかった」と主張した。

ドラマはなお進行中だ。中国の有力なビジネスメディアのCaixin(財新)は、Luckinの会長であるLu Zhengyao(陸正耀)氏は同社の会計の実態に対する調査を妨害しているとして取締役会の一新を図っていると報じた。 陸氏は取締役会に会計を正常化するための特別委員会を設置するよう求めているという。

責任がなかったなら詐欺ではない。しかしドイツのフィンテック企業であるWirecardでは21億ドル(約2240億円)が行方不明となり、TechCrumchも報じたとおり、前CEOが逮捕されたばかりだ

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

有力クラウドサービス「Cloudflare」が株式上場を申請

Cloudflareがついに株式上場を申請した。同社は数多くのサイトやサービスがインターネット上で円滑に運営されるために欠かせないクラウド・プラットフォームを提供する有力企業の一つだ。Cloudflareは最近上場が近いという噂が出ていた。また匿名掲示板の8chを排除したことで少なからぬ賛否の議論の的となっていた。

Cloudflareがデビューしたのは2010年に我々が開催したTechCrunch Battlefieldのステージだった。今回、米証券取引委員会に提出されたS-1申請書によれば、暫定企業価値を1億ドルとしているが、実際に株式市場で取引されるようになれば時価総額は数十億ドルとなるのは間違いない。

Cloudflareはウェブサイトやモバイルアプリを誰もが容易に作動させるために欠かせないサービスだ。同社の使命は高速かつダウンタイムなし、あるい最小限のダウンタイムで各種のサービスを動かすことだ。

最近同社が匿名掲示板の8chや人種的偏見を煽ると批判されたDaily Stormerなどのメディアに対するサービスを停止したことで、.激しい政治的論争のただ中に置かれていた。

実際、Cloudflareは8chanは上場にあたってのリスクとS-1申請書で述べている。

経営状態についていえば、他の初期段階のテクノロジースタートアップの例にもれず、 Cloudflareも赤字企業だ。ただしその赤字の率、額はさほど大きなものではなく、成長速度は強い印象を与えるものだ。

証券取引委員会に提出した申請書で同社は次のように述べている。

当社の成長は著しいものがあり、収入は2016年の8480万ドル、2017年には1億3490万ドル、2018年には1億9270万ドルへと拡大した。これはそれぞれ 59%、43%のアップ率に相当する。積極的に投資を続ける中で、純損失の計上は 2016年に1730万ドル、2017年に1070万ドル、2018年に8720万ドルとなっている。今年6月を終期とする上半期の収入は前年同期の8710万ドルから1億2920万ドルへと48%アップしている。純損失は2018年上半期が3250万ドル、2019年上半期が368 0万ドルだった。

Cloudflareは政府による規制と民間企業の動向の双方から影響を受ける立場にある。申請書で詳細に説明されているリスク要因には米中の貿易摩擦が与える可能性のあるネガティブな影響が詳しく検討されている。

クラウドサービスでは今年4月にFastlyがNASDAQに上場を決めている。ただし市場でのパフォーマンスは同社(と投資家)が望むほどの成績を上げていない

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Cloudflareがこれまでに調達した資金の総額は3億3200万ドルで、 投資家にはFranklin Templeton Investments、Fidelity、 Union Square Ventures,、New Enterprise Associates、Pelion Venture Partners、Venrockなどが含まれる。Business Insiderによれば、同社の最後の資金調達ラウンドにおける会社評価額は32億ドルだったという。

同社はNYSE(ニューヨーク証券取引所)に上場され、ティッカーシンボルはNETとなる予定だ。上場株式引受証券会社にはGoldman Sachs、Morgan Stanley、JP Morgan、Jefferies、Wells Fargo Securities、RBC Capital Marketsが含まれる。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

Lyftの上場初日株価は9%アップで引ける

米国時間3月29日に有力配車サービスのLyftがNASDAQに上場した。これを祝って天井からピンクの紙吹雪が共同ファウンダー、Logan Green氏とJohn Zimmer氏の上に舞い落ちた。公募売出価格設定は上出来だったようで、Lyftが設定した1株72ドルを21%も上回る$87.24ドルで初値がついた。初終値は若干下げて78.29ドルとなった。

Lyftは上場の直前、木曜日に23億ドルの資金を調達していた。今回の上場でLyftの時価総額は240億ドル前後となった。 公開前の会社評価額は151億ドルだったので上場で約1.6倍にアップしたことになる。株価売上高倍率は11倍だ。

Lyftの共同ファウンダーはBloomberg TVで国際展開、自動運転車、新しい自動車の所有形態、自動車保険などを含めて会社の長期目標について語った。Green氏はEmily Chang記者に対してこう述べている。

我々のビジネスは極めて利益率の高いものになると確信している。1兆2000億ドルという巨大な自動車市場は1世代に一度という変革期を迎えている。自動車は所有するものからサービスを利用するものに変わりつつある。我々はこのトレンドの先頭にあって驚異的な前進を遂げている。

Green氏とJohn Zimmer誌の共同ファウンダー2人は、同社の最大の市場であるロサンゼルスを上場の舞台に選んだ。Zimmer氏はこう述べている。

我々はLyftのコミュニティー全体の利益となるような形で大きなビジネスを作り上げることができると実証したい。上場の鐘を鳴らしたとき、Lyftのドライバーもその喜びを分かちあった。Lyftは株式をボーナスとしてドライバーに分配しているからだ。

画像:Mario Tama / Staff / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

フードデリバリーのPostmatesが非公開で上場申請、今年はユニコーンのIPOラッシュ

先ごろ1億ドルのプレIPOラウンドを実行したフードデリバリーのPostmatesがSEC(証券取引委員会)に非公開で上場申請書類を提出していたことが明らかになった。これはBloombergがまず報道し、その後Postmates自身がブログで確認した。

18億5000万ドルの時価総額を目標に上場が行われる予定だが、これは先月1億ドルの資金調達を行ったときの評価額だ。PostmatesはSpark Capital、Founders Fund、Uncork Capital、Slow Venturesなどのベンチャーキャピタルから総額で6億8100万ドルの資金を調達している。

創立8年になるPostmatesは上場幹事としてJPMorgan Chase、Bank of Americaと話し合いを行っているという。

Postmatesはフードデリバリー市場でUber Eats、DoorDashなど何社かの有力なライバルと激しい競争を繰り広げている。同社は毎月500万件の配達を実行しており、2018年のフードデリバリーでは12億ドル分の料理を宅配して4億ドルの収入を得たと報じられている

現在、Postmatesは世界の550以上の都市で事業を展開している。最近ではさらに5000万の潜在的顧客を有する100都市を追加し、事業の拡大を図っている。

これでPostmatesも2019年に上場を計画している多数のユニコーン(評価額10億ドル以上のスタートアップ)のクラブに仲間入りした。2018年末にLyftとUberも公開で上場申請を行っている。TechCrunchはSlackが非公開で上場を申請していることを報じたばかりだ。

画像:Postmates

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ソフトバンク東証1部上場、終値ベースでは6兆強の時価総額にダウン

ソフトバンクグループの通信子会社ソフトバンクが12月19日、東京証券取引所第1部に上場した。初値は1463円、終値は1282円と公開価格の1500円を下回る価格で、初日の取引を終えることとなった。初値ベースでは7兆35億円と7兆を超える時価総額だったが、終値ベースでは6兆1370億円となっている。とはいえ、ソフトバンクグループが調達した資金は初値ベースで約2兆6000億円と、国内では過去最大規模の金額となった。

ソフトバンク代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮内譲氏は、15時30分から行われた上場記者会見でまず、12月6日に起こった通信障害について謝罪。「事象発生を重く受け止め、再発防止策の徹底を図る。サービスの安定的な運用に取り組む」と述べた。

その後、これまでの事業展開について「PCのインターネット回線、携帯電話、スマートフォン、そしてIoTやAIと、パラダイムシフトを経ながら会社自体を大きくしてきた。厳しい環境にあった日本テレコム、Vodafone、ウィルコム、eアクセスなどを束ねて再生してきた」と説明。「逆境に強い」と自社を評価した上で、「我々自身がより自分自身を強化し、事業基盤を拡大して革新的なサービスを提供してきた」と述べている。

今後の施策では「Beyond Carrier戦略」の推進に言及。「スマホ契約数の拡大、オペレーションの効率化、付加価値の提供と、5Gを含めたネットワークを使った新しい事業を通信事業としてやっていく。と同時に、その上での新しい事業をビジョンファンドが投資する先とも連携しながら、日本に最も合う事業を新規事業として取り入れ、これから事業を大きく増やす」と話していた。

新しい取り組みでは、PayPayについて、まずセキュリティコード入力回数の上限が設けられていなかったことによるクレジットカードの不正利用について謝罪。「改良は完了している」と説明した。12月4日から実施された100億円キャンペーンについて「名称認知、サービス理解、利用意向でもトップを獲得。日本のQR決済を広げるチャンスとみている」と述べた。

2月に日本上陸を果たしたWeWorkについても「11カ月で8拠点を展開。これは世界でも最速のスピードで、大変受け入れられている。今後も力を入れて、コミュニティをベースにした働き方の環境を一気に広めたい」と話した。

さらにトヨタとの提携で実施するモビリティサービスMONETについては、年度内の事業開始を予定している、とあらためて述べ、「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)をはじめ、“アズ・ア・サービス”で展開するものは、確実にネットワークプラットフォームを使う。我々にとって親和性の高いビジネスができる」としている。

ソフトバンクは上場にともない、決算情報を発表(PDF)。2019年3月期の売上高は3兆7000億円、純利益は4200億円と、前期を4.8%上回る利益が見込まれている(国際会計基準)。2019年3月期の配当については、連結配当性向85%の2分の1程度を目安に金額を決定する方針だという。

また、12月6日に起こった通信障害の詳細と対策については、代表取締役 副社長執行役員 兼 CTOの宮川潤一氏が説明を行った。

11カ国同時に発生した通信障害の原因は既報の通り、LTE交換機のソフトウェア不具合(証明書の有効期限切れ)であるとし、暫定的な対策として、商用設備における証明書の「有効期限」総点検、ラボ試験による将来の日付での動作確認実行、旧ソフトウェアによる緊急立ち上げ手順の時間短縮かを図ると説明。

また、恒久的には証明書の確認・更新を可能とするソフトウェアの切り替え、システムアーキテクチャの見直し、交換機のマルチベンダー化による対策を実施すると述べた。

IT企業トップ5の時価総額合計はいよいよ3兆ドル

(編集部)この記事の寄稿者はAlex Wilhelm

Alex WilhelmはCrunchbase Newsの編集長、TechCrunchのベンチャーキャピタル・ニュース専門のポッドキャストEquityの共同ホスト。 これまでの投稿:

Google Financeのデータによれば、今日(米国時間7/20)、テクノロジー企業のトップ5の時価総額の合計が3兆ドル〔336兆円〕を超えた。市場のテクノロジー・ブームは新たな段階に入ったと言えそうだ。

2000年のドットコム・バブルを象徴したのがNasdaq指数が5000を記録したことだった。New York Timesによれば、テクノロジー企業のビッグ5の時価総額が今や3兆ドルに達したことは、この分野が湧きたち、あらゆる面で新記録が生まれていることの表れだという。

現在の株式市場はテクノロジー市場といってもいい。まずはいくつかの数字を確認し、ここまで来た経緯を振り返ってみよう。

3兆ドルを超えて上昇中

Google Financeの数値をベースにCrunchBase Newsが作成したスプレッドシートによれば、ビッグ5(Apple、Alphabet、Amazon、Facebook、Microsoft)の時価総額合計は3.03兆ドルとなった。Yahoo Financeのデータでは3.002兆ドルだった。

なおWolfram Alpha(これについては後述)では2.978兆ドルという結果を出した。多少の誤差はあるものの全体として3兆ドルかそれ以上という点に間違いないようだ。

この額に達するまでにビッグ5はかなり波乱に満ちた経過をたどってきた。直近52週の最安値と比較すると、現在の株価の上昇率は以下のとおりだ。

  • Apple: 56.63%
  • Amazon: 44.61%
  • Facebook: 44.55%
  • Microsoft: 39.54%
  • Alphabet: 33.45%

52週の最高値と比較するとAppleは3.59%安、.Alphabetは0.24 %安となっているが、全体としてテクノロジー企業の株価が新たな水域に入ったことは間違いない。

さてここに問題はあるだろうか?

影響を考える

冒頭で述べたように、新記録というのはなんらかの頂点を表すことが多い。つまり普通でない事態だ。そしてテクノロジー分野ではこれが起きている。

私は5月にブログでこの点について書いたが、引用してみる。

ビッグ5は急速に13桁〔兆〕の領域に近づいている。テクノロジー企業のトップが現在のマーケットの勢いに乗って記録を更新するなら、あらなNasdaq
5000となるかもしれない。2000年のテクノロジーバブルのとき、この指数はある種の心理的なハードルとして意識されるようになった。テクノロジー・ビジネスが復調してNasdaq 5000が全く過去のものとなったは比較的最近だ。

それからわずか3ヶ月で1兆ドルは実現した。

もちろんテクノロジー企業にはネガティブなニュースもあった。これまで絶好調をうたわれてきた企業が閉鎖されたり、 大規模なレイオフを実施sたりしている。Theranosは危機が続いている。株式を上場したユニコーン・スタートアップの一部は、Blue Apronは苦戦している。しかし全体としてみればテクノロジー市場は好調だ。【略】

ここで。ビッグ5の時価総額の推移のWolfram Alphaのチャートをお目にかけよう。ご覧のように最近一度1兆ドル近くまで行ったが、実際に到達したのは今回が初めてだ。

とりあえずは良いニュース

私がテクノロジー・ビジネスについてCrunchbase Newsで書いてきた記事は非公開企業とそれに対するベンチャー投資に関するものが主だったが、公開企業に動向はこの市場全般を理解する上でも大いに参考になると思う。【略】

非公開企業の会社評価額と上場企業の時価総額はますます乖離していく傾向だ。このため上場に踏み切るユニコーン・スタートアップの数は予想より少なくなるだろう。また上場のためには会社評価額引き下げる必要も出てくるかもしれない。市場が過熱ぎみのときに上場するのは有利だが、これは同時に市場が乱高下したときに多大の損害を被る可能性があることも示している。

時価総額合計1兆ドルという事態は、説明も簡単でしないし今後の予想も難しいが、ビッグ5にとっては大きなマイルストーンとなったのは間違いない。

われわれCrunchbase Newsでは今後もビック5の動向を追っていく。当面、利食い売りが入るまでに株価がどこまで上がるか注目だ。

イラスト: Li-Anne Dias

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

25〜35%の値上がり幅が理想?――公募価格の考え方

【編集部注】執筆者のAlex WilhelmはCrunchbase Newsの編集長で、VCに関するTechCrunchのポッドキャストEquityの共同司会者でもある。

IPOという観点では、2017年は2016年を上回っている。

昨年の今頃は、まだScureWorksとAcacia Communicationsの2社しかIPOを果たしていなかったが、今年は既に(どんな会社をテック企業と考えるかによるが)少なくとも10社が上場した。その中には、SnapClouderaOktaなどが含まれている。

IPOの数が増えただけでなく、上場直後の株価も大きな伸びを見せていることから、”机にお金を置いてきてしまった”という類の話を耳にすることも多くなった。これはどういう意味かというと、初日の取引で株価が急騰した企業は、理論上は公募価格をもっと高く設定できたはずだということだ。つまり、IPO直後の株価の急騰(IPOポップ)は値付けミスだという主張だ。

実際にそう考えている人は多かれ少なかれいる。

しかし、最近IPOを果たした2社の株価が、数週間前の業績発表後に大きく動いたのを受けて、私たちはこの問題に関する記事を公開した。その中でも触れた通り、小さなバブルのように上昇した株価も、業績が投資家の予測に届かないとわかるやいなや、すぐに下がってしまったのだ。

それでは、IPO直後の株価の上がり具合を予測するのは難しく、公募価格の値決めには芸術と科学の両方が必要だとすると、どうやってどの企業のIPOは上手くいって、どの企業は公募価格の設定を誤ってしまったと判断すればいいのだろうか?

ゴルディロックスと3社のIPO

先週のEquityでは、IPOとM&Aを専門とする弁護士のRick Klineが、IPOポップや彼のIPOに対する考え方について説明してくれた。彼は持論を展開する上で、AtlassianやHortonworks、Snap、Boxといった企業のIPOに触れている。

文章を読むより話を聞く方が好きな人は、こちらのリンク先に飛んで、4:20から彼がこの点について3分ほど話しているのを聞いてみてほしい。今聞いている音楽を止めたくない人は、以下に彼の考えをまとめたのでこちらを参照してほしい。

  • 25〜35%のIPOポップが「理想的」
  • 50%近い値上がり幅だと「机の上にお金を置いてきた」可能性がある

(さらにKlineは、これが絶対的な答えではないと注意を促し、金融業界にいる人の中には35%という上がり幅は大きすぎると考えている人もいると語っている)

また上記の数字は、ある不確定要素を前提にしている。その不確定要素とは、誰も取引初日の終値を予測することができないということだ。

しかしKlineは、もしも初日の終値を予測できたとしても、株価の上がり幅は小さければ小さいほど良いと言っているわけではない。むしろ、企業は「25〜35%」を少し下回るくらいを狙うだろうと彼は話す。”ポップ”としてのインパクトは弱くなるが、それでもかなりの値上がり幅だ。

全ての議論の前提として、彼はIPOポップは良いことだと考えている。しかし「値上がり幅=調達し損ねた金額」だとすれば、なぜ企業はもっと公募価格を高く設定しないのだろうか?

メディアが求める情報

大抵のことがそうであるように、この問題は見た目よりも複雑なのだ。Klineによれば、ポップのための余白を残した価格設定をすることで、公募価格を高くし過ぎて株価が上場後に下がるというリスクを抑えられるほか、IPOポップが発生すれば、その企業の上場が重要事項であるかのようにメディアが取り上げてくれるという。

この点について、Klineは「IPOポップを起こすことで、その企業(の上場)に関して良い噂が広がることになります」と話している。

経験則からも彼の言っていることは正しいように思える。以下のようにヘッドラインを飾りたいと思わない企業はいないだろう。

しかしメディアへの影響という意味では、IPOポップはポジティブな現象を引き起こすだけでなく、ネガティブなことが起きるのを避けるのにも効果がある。

「もしも取引初日の値上がり幅が大したことなければ、IPOのニュースを追っている記者はネガティブなことを書きがちですからね」と彼は言う。

IPOへのメディアの影響について尋ねると、Klineは「(IPOに対する)市場の見方に影響を与える」可能性があると答えた。そのせいで「IPOのニュースをポジティブなものにするため、値上がり幅が大きくなるように公募価格を設定する」企業もいるようだ。

つまり、私たちのようなメディアもある程度この問題の責任を負っていると言える。

控えめなIPOポップ

最後に、例えば値上がり率が1桁台といった、控えめなIPOポップを経験した企業について尋ねた。

恐らくその理由は、公募価格の設定が「挑戦的」過ぎたか、「幅広い投資家の興味や支援を引き出す」ことができなかったからだとKlineは話すが、どちらもハッキリとしたメッセージとは言いづらい。実際に彼も、中にはできるだけ多くの現金を獲得するために、値上がり幅を小さくしようとする企業も存在すると話していた。

それでは、株価が公募価格を下回った場合はどうなのかというと、これは全く別の話になる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter