誰でも緑の指に、植物の種類や日当たりなどに合わせた栽培のアドバイスをくれるアプリ「Greg」

パンデミックによる閉じこもり生活が始まる以前から、すでに勢いづいていた観葉植物業界。1年間の隔離生活を経た今、屋内ガーデンのように生い茂ったリビングルームがあちこちで見られるようになっている。

機械学習を用いて植物の世話の手助けをするアプリ「Greg」(グレッグ)は、5月下旬540万ドル(約6億円)のシード資金を獲得したことを発表した。今回のラウンドはIndex(インデックス)がリードし、First Round Capital(ファーストラウンド・キャピタル)が参加している他、Tinder(ティンダー)の前CEO であるElie Seidman(エリー・セイドマン)氏、植物配達サービスThe Sill(ザ・シル)の創業者Eliza Blank(エリザ・ブランク)氏、60万人のフォロワーを持つ「プラントスタグラマー」Darryl Cheng(ダリル・チェン)氏などの専門的なエンジェル投資家やアドバイザーによって支えられている。現在、Gregのリモートチームには11名のメンバーが在籍しており、今後はブランド責任者の他Androidのシニアエンジニアを含む少なくとも5名のエンジニアを採用する予定だ(今のところ同アプリはiOSでのみ提供されている)。

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Gregは主に植物に水をやるタイミングを教えてくれるというアプリである。植物によってこのタイミングはそれぞれ異なるため、毎週のリマインダー設定をすれば良いというわけにはいかない。Gregは植物の種類、地理的な位置、日当たり、窓からの距離など、それぞれの植物に合わせてアドバイスをしてくれる。これにより誰もが簡単にどんな状況下でも植物を繁殖させることができる。また、アプリにはディスカバーフィードが組み込まれており、ユーザーは「Keanu Leaves」や「Michelle Branch」(セレブと植物の名を掛け合わせたジョーク)などと名付けられた植物の写真を共有することもできる。

画像クレジット:Greg

 

CEOで共同設立者、エンジニアのAlex Ross(アレックス・ロス)氏にとって植物の手入れは単なるパンデミック中の趣味ではない。Greg の背後にある企業、Gregarious, Inc.(グレガリアス・インク)は公益法人として設立された会社である。法的拘束力のある公式声明の中で、同社は地球の生態系にプラスの効果をもたらすことを約束しており(「またはマイナスの効果の軽減」が気候変動における現状である)、設立趣意書には「植物への理解を深めるための独自の技術と研究の開発」「地球の健康を守る団体としての活動」「あらゆる生物の繁栄のための機会の創出」という3つの目標が掲げられている。

「植物は地球の仕組みを理解する上で非常に優れた手段です。これがGregを始めた大きな理由です。今後10年、20年の間に社会としてより正しい判断を下すためには、より多くの人が生態系の仕組み、植物の仕組み、そして食料システムの仕組みを理解する必要があると考えています」とロス氏は話す。

これはロス氏にとって初めてのミッション志向的起業ではない。ロス氏はTinderのエンジニアリング・ディレクターとしてTrust & Safetyチームを立ち上げ、出会い系アプリのユーザーを悪用から守る役割を担っていた。その際に同氏は、消費者向けのモバイルアプリがオーディエンスを獲得する可能性を見出していたのだ。

「実はTinderは、信頼性と安全性を備えた製品として最先端を走っていました」とロス氏は振り返る。「私はTinderの中でも公共のために確実に役に立てる部分に取り組みたかったのです。そして今(Gregでは)公共の利益こそが核心となっています」。

2020年10月にアプリストアで一般公開されて以来、Gregは5万人の月間アクティブユーザーを生み出してきた。こういった植物愛好家たちがこれまでに4000種類の植物35万点を登録し、200万回以上のやりとりが行われている。このアプリの手法は、国際連合食糧農業機関が作物の水使用量を推定するためのアルゴリズムに基づいている。写真を撮ったり、植物に水をやったり、さらには水やりのアドバイスを読み流したりするすべてのやりとりが同社のAIをスマートにする。より多くのデータを解釈すればするほど、GregのAIは植物を育てるための最も効果的で効率的な方法を学んでいくのである。

「数年以内に国際連合食糧農業機関のアルゴリズムにお返しとして貢献し、発展途上国の農家がそのアルゴリズムを利用してより高収量の農産物を栽培し、自国の食糧システムに役立てることができるようにしたいと考えています。こういったことこそが、私たちが公益法人としてスタートした理由です」とロス氏はいう。

ロス氏によると、同社が直面している最大の課題はまだ人々に知られていないことだという。そこでHouse Plant Shop(ハウスプラント・ショップ)やAmerican Plant Exchange(アメリカン・プラント・エクスチェンジ)などの植物販売店と提携し、定額制の「Super Greg」のプロモーションコードを提供することにした。購読者は月額6.50ドル(約715円)、年契約の月額2.50ドル(約275円)、または生涯アクセス権の49.99ドル(約5500円)を支払うことでGregに無制限に植物を登録することができる。無料版では5つの植物しか追加できないため、観葉植物に目覚めてしまった人には物足りないかもしれない。

「これはユーザー獲得の大きなきっかけにつながっています」とロス氏は話す。このアプリを使えば植物の変わりやすい生態系をより深く理解することができるようになる。「Coinbaseが人々を暗号の世界へと導くように、Gregは人々を植物の世界に導くための大切な役割を担うことができると考えています」。

画像クレジット:Greg

同氏はまた、 GregのモデルをWaze(ウェイズ)のようなアプリに例えている。より多くのユーザーが交通パターンを報告すればするほど、その地域の他のドライバーにますます利益をもたらすことができるというものだ。同様にGregが植物の健康状況をより深く把握することで、同社はそのデータを使って環境に優しいミッションを果たすことができるのだ。同社は最終的には、既存のどんなテクノロジーよりも植物の仕組みを理解することのできる「極めてスケールアウトしたプラットフォーム」を構築したいと考えている。

それまでの間、未だ続く世界のロックダウンにともない、Gregは小規模ながらもユーザーに恩恵を与え続けていくことだろう。

「客観的に見ても植物は精神衛生上とても良いものです。一度植物のある生活をした人が、植物のない生活に戻るという例は聞いたことがありません」とロス氏はいう。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Greg植物資金調達園芸アプリ機械学習

画像クレジット:Greg

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

宇宙で気候変動に強いワイン用ブドウの木を育てるSpace Cargo Unlimited

宇宙の商業化では、安価な小型衛星にどんな新しいセンサーを載せるかが話題になるが、製造や生産に役立つ微小重力の恩恵を研究も外せない。ヨーロッパのスタートアップSpace Cargo Unlimited(スペース・カーゴ・アンリミテッド)は、微小重力の利点を収益性のある地上でのベンチャーに活かす事業を進めているが、このほど、世界的なワインの種苗企業Mercier(メルシエ)と組んで、宇宙の利点を活かした丈夫なワイン用ブドウの栽培を行うと発表した。

Space Cargo Unlimitedは、微小重力がワインに与える影響について、すでにいくつか実験を行ってきた。2019年には国際宇宙ステーション(ISS)に赤ワインを1箱送っている。ワインは、ほぼ0Gに近い環境で丸12カ月間寝かされてから、2020年、地上に戻ってきた。現在、同スタートアップは宇宙でのバイオテックに特化した子会社Space Biology Unlimited(スペース・バイオロジー・アンリミテッド)を立ち上げ、Mercierと共同で栽培地の気候変動に強いワイン用ブドウの新しい品種の開発に乗り出した。

Space Cargo Unlimitedはボルドーのケースだけでなく、320本のブドウの茎(基本的に新芽の成長によって生まれたかブドウのコア構造)も宇宙に打ち上げている。同社はつい先日、SpaceX(スペースエックス)の貨物船でISSから帰還した茎を受け取ったところだ。送られた茎の半数はメルロー種で、もう半数がカベルネ・ソーヴィニヨン種だが、MercireのCEOであるGuillaume Mercier(ギョーム・メルシエ)氏は声明の中で「前代未聞の生物学的変化」が見られたと語っている。これらは現在クローン培養され、「急速に温暖化が進む地球」での発育において優位性が示されるかが調べられていると彼は話す。

バッテリーの生産から積層製造、基礎的な化学および医療用製造に至るあらゆるものが、微小重力環境で試されている。微小重力には、最もわかりやすい例として、重力による物理的な緊張が軽減されることで地上では困難な複雑な構造体の製造が可能になるという効果がある。その特異な環境では、放射パターンが地上と大きく異なることもあり、有機構造体の成長と発達に予想外の変化が引き起こされる。地上で自然に発生するものではないが、再現することで有用な結果が引き出せることもある。

ISSを利用した微小重力の効果に関する研究は、何年も前から行われている。しかし、宇宙へのアクセスが安価になり機会も増えたことで、それまでは費用やスケジュールの折り合いが付かず手が出せなかった多くの企業やスタートアップにも、ずっと現実的な商業利用の道が開かれた。Space Cargo Unlimitedは、この成長分野で収益が上げられる大変に有利な位置にある企業だといえる。

カテゴリー:宇宙
タグ:Space Cargo UnlimitedMercier植物ワインISS

画像クレジット:Space Cargo Unlimited

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(文:Darrell Etherington、翻訳:金井哲夫)

MITが植物を実験室で植物の組織を培養する方法を開発、最終的には林業や農業の代わりに木材や野菜を生産

企業や研究者が実験室で肉を育てることにアプローチしているように、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者は、植物の組織を実験室で育てる新しい方法を開発した。このプロセスは実験室環境で木材や繊維を生産することが可能で、研究者たちはすでにジニアの葉から採取した細胞を使って単純な構造体を成長させることで、このプロセスがどのように機能するかを実証している。

この研究はまだ非常に初期の段階にあるが、実験室で栽培した植物材料の潜在的な応用は大きく、農業と建築材料の両方の可能性を含んでいる。伝統的な農業は畜産に比べれば生態系へのダメージは少ないが、それでも大きな影響とコストがかかり、維持するためには多くの資源を必要とする。もちろん、小さな環境の変化でも作物の収量に大きな影響を与えることはいうまでもない。

一方、林業は環境への悪影響がより顕著だ。今回の研究者たちの研究成果を利用して、最終的には拡張性と効率性を備えた方法で建設や製造に使用する実験用木材を生産する方法が開発できれば、林業が世界的に与える影響を減らすという点で大きな可能性がある。たとえば木製テーブルを直接成長させるように、最終的には植物由来の素材を特定の形状に成長させることで、研究室が製造の一部を担うこともできると、研究チームは考えている。

研究者たちの道のりは、まだ先が長い。彼らは非常に小規模な規模でしか材料を育てておらず、最終的に異なる特性を持つ植物由来の材料を育てる方法を見つけることが、課題の1つになると考えている。また、効率を上げるためには大きな壁を克服する必要があり、研究者たちはこれらの解決策に取り組んでいる。

研究室で栽培された肉はまだ黎明期にあるが、研究室で栽培された植物材料はさらに初期の段階にある。しかし、そこに到達するまでには長い時間がかかるとしても、非常に大きな可能性を秘めている。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:MIT植物農業林業

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:塚本直樹 / Twitter