YouTubeのコメントに関する研究でユーザーを過激化させる証拠が見つかる

バルセロナで開催されているACM FAT 2020カンファレンスにおいて、1月27日、YouTubeのプラットフォームは、ユーザーを極右思想に晒して過激化させる役割を果たしているとの見解が示された。

スイス連邦工学大学ローザンヌ校とブラジルのミナス・ジェライス連邦大学の研究者たちが行った調査で、極右コンテンツの中でも中庸なものにコメントするなどしたユーザーが、過激な極右コンテンツに誘導される証拠が見つかった。

2018年3月、社会学者のZeynep Tufekci(ゼイネップ・フィクサイ)氏は、YouTubeは過激化エンジンであるという、今では広く知られるようになった論文をニューヨーク・タイムズに寄稿した。その続報として、ジャーナリストのKevin Roose(ケビン・ルース)氏は、Caleb Cain(カレブ・ケイン)氏の個人的な体験をもとに説得力のある記事を掲載した。彼はYouTubeの「オルタナ右翼の巣穴」にはまったと書いている。しかし、カンファレンスで論文を発表した研究者のManoel Horta Ribeiro(マノエル・ホルタ・リベイロ)氏は、そうした逸話を実証する審査可能な証拠を握れるかどうかを確かめたかったと話している。

Auditing radicalization pathways on YouTube」(YouTubeにおける過激化過程の審査)と題された彼らの論文には、一部の右傾化したYouTubeコミュニティーが、過激な右翼思想への入口となっていることの証拠の痕跡が、コメントや再生回数などに残っていないかを大規模に調査した結果が、詳しく解説されている。

それによると彼らは、動画をメディア、新右翼、インテレクチャル・ダークウェブ(IDW)、オルタナ右翼の4つのタイプに大きく分類し、349のチャンネルに投稿された33万925本の動画を分析。そしてユーザーのコメントを、過激化を「十分に」代表するものとした(彼らのデータセットには7200万件のコメントが含まれている)。

この発見は、新右翼やIDWのYouTubeコンテンツにコメントを書き始めたユーザーが、徐々に過激な極右コンテンツにコメントを書くようになるというパイプライン効果が、長年にわたって存在していたことを示唆している。

「メディア」コンテンツを視ている人と、オルタナ右翼のコンテンツを視ている人が重複する割合は非常に低い。

「コメントを書いたユーザーの相当数が、初めは温和な内容のコンテンツにのみコメントしていたが、過激なコンテンツにコメントするよう計画的に移行させられた」と論文は訴えている。「この発見が、YouTube上でユーザーをこまで、そして今でも過激化させている活動の重大な証拠を示しており、こうしたコミュニティーの活動の分析結果が[中略]IDWや新右翼のコンテンツが人気になっていることと過激なコンテンツとが抱き合わせになっているとの説と矛盾しないことを私たちは突き止めた。[中略]こうした移動現象は数年間にわたって一環しているのみならず、その絶対数においても深刻であることを私たちは示した」

研究者たちは、YouTubeで「新右翼」の政治学を視ていたユーザーを、もっとも過激な極右思想にエンゲージさせるよう導くメカニズムそのものの解明には至らなかったが、「おすすめ」データへのアクセスを制限するなど、最前線で試みられている重要な対策をいくつか紹介している。だがこの研究では、アカウントのパーソナライゼーション(YouTubeのおすすめに影響する可能性がある)については考慮されていない。

しかし、パーソナライゼーションをいじらなくても、「大きなメディアチャンネルの中にある過激なコンテンツにユーザーを導く道筋を探し出すことは可能だ」と彼らは言っている。

カンファレンスの論文発表後に行われた質疑応答で、Horta Ribeiro(ホルタ・リベリオ)氏は、研究が確認した過激化効果が、外部のサイトと関わりなくYouTube内部で起きていることの、つまり当人たちは最初から過激だった(そのため過激思想に強い関心を抱いた)という理由は排除して、YouTubeはそのものが活発な過激化パイプラインだという考え方に基づく証拠には、何が挙げられるかを尋ねられた。

YouTubeが責められるべきだとは言い切れないと、彼は認めている。しかし、それらのコミュニティーのホストとしての責任はYouTubeもあるとも指摘した。

「私たちは、ユーザーが過激化する証拠の痕跡を確かに発見しています。ではなぜ、YouTubeは責任ある対応をしないのかと疑問に思われるでしょう。その答えはおそらく、それらのコミュニティーの多くがYouTubeの中に存在していて、さらに、YouTubeで多くのコンテンツを公開しているからとなります。だからこそ、YouTubeは非常に深く関わっているのです」とリベリオ氏は答えた。

「そのため過激化はYouTubeの、あるいはおすすめのシステムのせいだと非難し、同プラットフォームに責任を負わせるのは大変に難しいことを、私もある程度は理解しています。何か別のものが、過激化を引き起こしていることもあり得ます。そうした意味において、私たちの分析結果は、ユーザーが温和なチャンネルから過激なチャンネルに移っていくプロセスが存在することを示しています。そして、過激なコンテンツと無縁だった人たちが、それに関わるようになっていることから、確かな証拠も存在します。とはいえ、明確な因果関係を示して、YouTubeは責任を取れと責めることはできません」

我々はこの研究に関するコメントをYouTubeに求めたが、回答はない。

YouTubeは近年、ヘイトスピーチ、ターゲットを絞った嫌がらせ、過激化のリスクに対する政治または一般からの圧力が増す中、特定の極右コンテンツ過激主義者のコンテンツへの対応を厳しくしている。

また同社は、悪意ある陰謀論や偽科学など、一般的なコンテンツのガイドラインから外れた、有害と思しき不愉快な特定タイプのコンテンツに対して、アルゴリズムによる増幅を低減させる実験も行っている。

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(翻訳:金井哲夫)

反極右集会イベントを削除したFacebookの怪事件

ワシントンD.C.に住む活動家やオーガナイザーたちは、反対抗議集会のイベントを削除したFacebookの判断に異議を唱えている。この集会を呼びかけたのは、2017年に死傷者まで出したバージニア州シャーロッツビルの集会を計画した白人至上主義者ジェイソン・ケスラー(Jason Kessler)だ。

Facebookは、「No Unite The Right 2 – DC」(DCの右翼の結束を止めろ2)イベントを、そのなかのアカウントのひとつがFacebookが呼ぶところの「不正な行動との連携」を示しているとして削除した。同社はこの活動を「自らの正体や活動の目的を隠して他の人々を欺く目的で、人または組織がアカウントのネットワークを作るもの」と特定している。

あなたが参加しようとしている、または興味を持っているイベントは削除されました。ページは「No Unite The Right 2 – DC」という偽のアカウントで立ち上げられています。他のイベント主催者には通告されています。

 

論争の中心となっているFacebookページは「Resisters」(反政府主義者)という名称だった。このページは、ユーザーを欺くために偽のアカウントを準備する「bad actors」(大根役者)によって作られたとFacebookが特定したことを、TechCrunchは確認している。最終的にFacebookがUnite The Right 2 – DCの削除に踏み切ったのは、Resistersページとのやりとりや関与があることが判明し、そのページは最初から不正に作られていると判断したからだ。

Facebookは同社のブログ記事にこう書いている。

Resistersページも、8月10日から12日の抗議のためのFacebookイベントを立ち上げ、実在する支持者のリストを掲載している。……Registersページの偽の管理者は、このイベントを協賛している5つの不正なページとつながっている。

同社はまた、よく知られているInternet Research Agency(IRA)のアカウントも反抗議イベントに管理者として加わっていることも確認している。しかし、ここが管理者となっていたのは7分間だけだった(IRAは、ロシアの情報機関とつながりのあるプーチン支持者が立ち上げた「コンテンツ工場」であるとの疑いで、アメリカの情報当局の調査も入っている)。その上、IRAのアカウントは、2017年にResistersが主催したFacebookイベントをシェアしているとも指摘している。

ここで物事は、さらにややっこしくなる。このFacebookが削除したイベントは、いくつかの実在するワシントンD.C.の活動家グループに引き継がれた。これには、Smash Racism DC(民族主義を潰せ DC)、Black Lives Matter DC(黒人の命は大切だ DC)、Black Lives Matter Charlottesville(黒人の命は大切だ シャーロッツビル)、その他の地元グループが含まれ、「Shut It Down DC」(止めよう DC)という名のもとに連合している。彼らの行動や計画は、No Unite The Right 2 DCイベントから引き継がれたものではなく、たまたま合致しただけのことだ。それ以来、連合はFacebookイベント名を「Hate Not Welcome: No Unite The Right 2」(憎悪はお断り:右翼の結束を止めろ)と変更した。

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「BLMと数多くのグループが中心となり、ワシントンD.C.の本当の脅威に対抗するための結束を行っています。ロシアのための団体ではありません。私たちの愛する人たち、コミュニティー、地元の街を、制服を着た、または平服のファシストから守るために、この活動を行っています」

「そこで私たちは、新しいFacebookイベントを作りましたが、本当の結束は、近所の人たちと話し合うことで築かれます。そしてそれが、ワシントンD.C.での本当の抗議運動になります。それはジョージ・ソロスでも、ロシアでもありません。我々自身です」

TechCrunchは、ワシントンD.C.を拠点に活動する人たちに話を聞いたが、そのなかの一人、Shut It Down DCにも属するワシントンD.C.の活動家Andrew Batcherは、地元のオーガナイザーの連合が、ひとつのイベントとアカウントで結ばれて、Facebookから不正だと目を付けられる仕組みを明らかにしてくれた。

「それは、この問題に興味を持つ、たくさんのグループの草の根の集まりでした」とBatcherは話す。「たくさんのグループが、去年、シャーロッツビルに向かいました。シャーロッツビルは、ワシントンD.C.から南へわずか2時間の街です」

彼の説明では、それらのグループはケスラー自身が主催したイベントに惹きつけられたのであって、オーガナイザーたちが出会ったFacebookイベントではなかったとのことだ。

「組織化を始めたころ、私たちはFacebookページを作ろうと話し合ったのですが、それはすでに作られていたのです」とBatcherは言う。「大きなイベントが数多く開催されるワシントンD.C.では、よくあることです」

「私たちは、そのイベントの共同主催者に加えてもらい、私たちの情報も掲載して欲しいと要請しました」とBatcher。それには、動画による運動への参加呼びかけや、写真や、イベントの詳細など、いろいろなコンテンツがあった。「そして、却下されたのは、すべて私たちのものでした」

最初にプレースホルダーのページを作ったあと、Resistersのページは「まったく介在しなくなった」とBatcherは言う。「それによって、私たちはまるでロシアの駒であるかのように扱われました。私たちは、そうではありませんし、私たちがこれを準備してきた活動です」

彼やその他の左翼の活動家たちは、一般大衆と積み重ねてきた努力が台無しにされ、悪くすれば、ピザゲート事件のように、実際の暴力事件にまで発展しかねない陰謀説まで現れるのではないかと危惧している。

Facebookは、合法的なNo Unite The Right 2 – DCのオーガナイザーに、次のメッセージを送ったと話している。

まだ電話でのお話はできていませんが、今朝早く、あなたが共同主催者に名を連ねている「No Unite Righte 2 – DC」Facebookイベントを削除した旨をお伝えしたく存じます。理由は、そのイベントを立ち上げたページのひとつに、不正なアカウントを作り不正な活動の調整に関わっていたことでFacebookから削除されたResistersが含まれていたからです。

あなたが驚かれ、憤慨されているであろうことは理解しています。私たちは、これがあなたや、あなたのページには関係がないことを示す関連情報をお届けし、ご理解いただけるよう連絡差し上げた次第です。本日、この後より、このイベントに興味を示されたおよそ2600名のユーザーと、すでに参加をされている600名以上のユーザーに、イベントの削除に関する情報の提供を開始します。他のイベントの設定に関してご質問があれば、私たちの公的な連絡手段を用いて、喜んでご説明いたします。

Batcherによれば、Shut It Down DCのイベントのオーガナイザーをしていた人たちには、ほとんどなんの連絡もなく、一部の人が「2行」のメールを受け取っただけだという。

あなたが主催者になっているFacebookイベントについてご説明したく存じます。 より詳しい説明をお望みの場合は、( )までお電話をください。

 

Facebookが、オーガナイザーにほとんど連絡をすることなく、さっさとイベントを削除してしまったことで、グループは意気消沈してしまった。TechCrunchとのインタビューでは、彼も他のオーガナイザーたちも、Facebookに対する根深い不信感を示し、その行動を決断させた証拠となる情報をもっと多く見せて欲しいと望んでいる。ワシントンD.C.の複数のグループとつながっている一人のオーがナイザーなどは、疑わしい協調活動のためにVPN(プライベート仮想ネットワーク)が使われないよう、Facebookは、活動家の結束する意欲をくじこうとしているのではないかと疑っている。こうした心配があることを伝えると、Facebookは、同社の規定では、VPNの利用や一般的なプライバシー保護対策を行ったからといって、アカウントやページを削除する理由にはならないと説明している。

「何か悪いことをしたアカウントがあれば、そのアカウントは排除されます。それを、このすべての合法的な活動にまで押し広げて適用するべきではないと私は考えます」とBatcherは言う。「私たちが求めるのは、公的な謝罪であり、私たちは実在する人間であり、実際に活動を行っていることを世間に知らせることです」。さらに彼は、現実に協力し合ってイベントをまとめた人たちに与える損害に関して、Facebookには考慮する様子が見られないとも話している。

この不信感は、右翼左翼の双方に影響を与えた。右翼の側の、Facebookがコンテンツの検閲を行っているという心配は、アメリカ議会の公聴会でも持ち上がり、その主張を示す証拠はほとんどないまま、多くの右翼ユーザーの間に広がっている。左翼側は、Black Lives Matterの支持者からLGBTQコミュニティーに属するすべての人たちに影響を与えた不注意による検閲がときどき行われるグレーな歴史がFacebookにはあると考えている。こうした状況では、その通報ツールを悪用して、狙った相手に嫌がらせをするFacebookユーザーも現れるが、Facebookは、そうした問題に対処するポリシーの変更に消極的だ。

Facebookはまた、おおっぴらな嫌がらせや、民族主義的コンテンツの問題への対応も遅く、つい最近は、白人至上主義を禁止する一方で白人民族主義を許すという内部方針を批判されている。そして、これら2つの人為的な区別と広く知られるようになる考え方が生まれた。こうした災難は、Facebookだけの問題ではない。悪意のあるすべての人たちにとって、Facebookというプラットフォームは絶好の環境となった。

反抗議活動のオーガナイザーは、その後、新しいFacebookイベントを立ち上げ、活動を継続しようとしているが、状況はまったく落ち着かず、この世界最大のソーシャル・プラットフォームによる介入の強化に対する疑念は消えない。今回の新事実と、2017年の問題では、ソーシャルメディアによる影響合戦の新しい形、つまり偽アカウントが現実の普通の人たちの活動を悪用するという「混合型」には、まったく油断がならないことがわかった。

いわゆる「大根役者」は、合法的な動機につけいり、混乱を引き起こし、すべてを懐疑的にしてしまう。そうした活動が明るみに出たとしても、これはアメリカの政治情勢にさらなる不和と疑念を植えつけようと考えるあらゆる人間にとって、必勝方程式となる。それ以外の人たちには、勝ち目はなさそうだ。

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(翻訳:金井哲夫)