車いすユーザーや運動障害を持つ人々の自立歩行を支援する外骨格ロボットメーカー「Wandercraft」

Wandercraft(ワンダークラフト)は2012年、車いすユーザーのモビリティを向上させることを目指して設立された。同社のソリューションは、ロボットエクソスケルトン(外骨格)によってもたらされ、着用者にロボットの助けを借りて歩く能力を提供できる。2019年、パリに拠点をおく同社は、12の自由度を持ち、歩行アルゴリズムに依存してユーザーの足取りを決定する自己バランス外骨格「Atalante」を発表した。

米国時間1月19日、同社は、これまでに調達した3050万ドル(約34億8000万円)の倍以上となる4500万ドル(約51億3500万円)のシリーズCをクローズしたと発表した。今回のラウンドは、既存の投資家であるBpifranceに加え、米国を拠点とするQuadrant Managementが主導した。特にQuadrantの参加は、WandercraftがAtalanteを欧州だけでなく、米国にも展開することになるという点で注目される。

同社のMatthieu Masselin(マチュー・マセリン)CEOは、リリースの中で次のように述べている。「当社の開発プログラムを進めるために、米国と欧州から世界トップクラスの投資家を引きつけることができ、非常に興奮しています。患者、医療関係者、ディープテックコミュニティの支援を得て、Wandercraftのチームは、リハビリケアを向上させる独自の技術を生み出しました。近い将来、車いすに乗っている人々が自立性を取り戻し、日々の健康を向上させることを可能にするでしょう」。

米国には、ReWalk Robotics、Ekso、SuitX、Sarcosなど、名の知れた外骨格企業で市場が混雑しており、これらの企業はこれまでに多額の資金を調達し、注目度の高いパートナーシップを発表している。しかし、Wandercraftが他と異なる点のひとつは、競合他社の多くが力仕事をする労働者や軍事用途を対象としているのに対し、ユーザーのモビリティーを重視していることだ。

この場合それは、病院やその他の医療機関との提携の可能性を意味する。

画像クレジット:Wandercraft

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

音楽を利用して脳卒中患者の歩行能力を改善させるMedRhythms

MedRhythms(メドリズムス)は、神経系の損傷や病気を患った人の歩行能力を測定し、改善することを目的としたデジタル治療プラットフォームの開発を進めるために、2500万ドル(約27億4000万円)の資金をシリーズBラウンドで調達した。

このラウンドは、Morningside Ventures(モーニングサイド・ベンチャーズ)とAdvantage Capital(アドバンテージ・キャピタル)が共同で主導し、以前から出資していたWerth Family Investment Associates(ワース・ファミリー・インベストメント・アソシエイツ)も参加。メイン州ポートランドを拠点とする同社は、これまでに3100万ドル(約34億円)の資金を獲得している。

共同設立者でCEOのBrian Harris(ブライアン・ハリス)氏は、ボストンのSpaulding Rehabilitation Hospital(スパルディング・リハビリテーション病院)で神経学的音楽療法の研究者として、脳卒中患者や脳の障害を持つ人々に音楽を使った治療を行っていた。そこでハリス氏は、患者やその家族から、病院外で同様の治療を受けるにはどうしたらよいかという質問を受けるようになった。適切な代替手段が見当たらなかったため、2016年にハリス氏は起業家のOwen McCarthy(オーウェン・マッカーシー)氏とともにMedRhythmsを起ち上げた。

同社のプラットフォームは、センサー、音楽、ソフトウェア、そして「リズミカルな聴覚刺激」という根拠に基づく介入を用いて、運動を制御する神経回路に働きかける。この技術は、脳の聴覚システムと運動システムが外部のリズミカルな手がかりに同期して結合するという神経学的プロセス「エントレインメント(引き込み現象)」を利用することで、時間の経過とともに歩行機能の改善をもたらす。

「音楽ほど脳を活性化させる刺激は他にありません」とハリス氏はいう。「音楽に夢中になっている時には、神経可塑性が新しい結合を作り、古い結合を強化することを助けます。神経可塑性によって私たちは新しいことを学び、脳に障害がある人は回復することができるのです」。

MedRhythmsの製品サイクル(画像クレジット:MedRhythms)

1年前、MedRhythmsのデジタル治療製品は、脳卒中による慢性的な歩行障害を治療するとして、米国食品医薬品局(FDA)からBreakthrough Device(ブレイクスルー・デバイス)指定を受けた。これは、パーキンソン病、急性脳卒中、多発性硬化症などの神経疾患の治療に、音楽を使用することに注目している同社のパイプラインにおける最初の製品でもある。そのために、同社はMassachusetts General Hospital(マサチューセッツ総合病院)と、ニューロイメージング(脳機能イメージング)の研究を行っている。

ハリス氏は、今回のシリーズBで調達した資金を、製品の市場投入やチームと治療パイプラインの拡張に充てたいと考えている。同社ではこの技術を商業化し、臨床試験を開始するために、FDAへの申請を準備しているところだ。

Morningsideの投資パートナーであるStephen Bruso(スティーヴン・ブルーソ)氏は、MedRhythmsのチームを1年前から知っていたと語っている。デジタルヘルス分野に積極的に取り組んでいるMorningsideは、それ以来、MedRhythmsに注目していたという。

新型コロナウイルスは、ヘルスケアの提供の仕方を根本的に変えた。これまでの病院や診療所で治療を受けるという形は、強固だが変化に抵抗するものだったと、ブルーソ氏はいう。しかし、新型コロナウイルス感染流行によって在宅での遠隔医療を余儀なくされ、それはまた、医療業界に革新をもたらすことになった。在宅療法は、患者のコンプライアンスと回復の両方において改善の余地があるとブルーソ氏は期待しており、MedRhythmsは治療を家庭に移行させるという最近の風潮を利用している。

この2〜3カ月の間に、Morningsideが興味をそそられたのは、医薬品以外の方法で脳に影響を与えるという発想だった。

「音楽的な介入によって神経学的な変化や改善を促すというMedRhythmsのやり方には説得力があります」と、ブルーソ氏はいう。「感情的な記憶は音楽と結びついていることがあります。音楽によって薬を飲むよりも豊かな体験ができる。そのためにこの会社は存在しているのです」。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:MedRhythms資金調達歩行音楽遠隔医療

画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images

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(文:Christine Hall、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ホンダから誕生したベンチャー企業Ashiraseが視覚障がい者向けの先進的歩行支援システムを公開

学術誌「Investigative Ophthalmology and Visual Science(眼科学および視覚学の研究)」に掲載された2020年のデータによると、世界では2億2500万人が中程度または重度の視覚障がいを患っていると推定され、4910万人が失明しているという。Honda(ホンダ)の新事業創出プログラムから誕生した日本のスタートアップは、視覚障がい者が世界をより簡単に、より安全にナビゲートできるようになることを望んでいる。

ホンダのビジネス創造プログラム「IGNITION(イグニッション)」から生まれた最初のベンチャー企業として6月にデビューした株式会社Ashirase(あしらせ)は、米国時間7月28日、視覚障がい者向けシューズイン型ナビゲーションシステムの詳細を公開した。「あしらせ」と名付けられたこのシステムは、スマートフォンのナビゲーションアプリと連動し、足に振動を与えることで歩く方向を知らせ、視覚障がい者の日常生活における自立を支援することを目的としている。Ashiraseはこのシステムを2022年10月までに製品化したいと考えている。

ホンダは、同社の従業員が持つ独創的な技術、アイデア、デザインを形にし、社会課題の解決や同社の既存事業を超えることを目的として、2017年にIGNITIONを起ち上げた。AshiraseのCEOである千野歩氏は、2008年からホンダでEVのモーター制御や自動運転システムの研究開発に携わってきた。千野氏の経歴は、このナビゲーションシステムの技術にも表れており、同氏によれば、自動車用の先進運転支援システムや自動運転システムから着想を得たという。

「共通する視点には、例えば、センサー情報の活用方法などが挙げられます」と、千野氏はTechCrunchの取材に語った。「私たちは、センサーフュージョン技術、つまり異なるセンサーからの情報を組み合わせる技術を使っています。私自身、その分野の経験があるので、それが役に立ちました。加えて、自動運転技術と重なる点もあります。というのも、私たちが安全な歩行というものを考えていたとき、自動運転の技術がコンセプトの発想につながったからです」。

「Ashirase」とは日本語の「足」と「知らせ」を意味する。その名が表す通り、アプリ内で設定したルートに基づき、靴に装着したデバイスが振動することで、直進、右左折、停止といった情報をユーザーに知らせ、ナビゲーションを行う。デバイスには加速度センサー、ジャイロセンサー、方位センサーで構成されたモーションセンサーが内蔵されており、ユーザーがどのように歩いているかを把握することができる。

外出時には、衛星測位システムによる位置情報と、足の動作データをもとに、ユーザーの現在位置を特定し、誘導情報を生成する。Ashiraseのアプリは、Googleマップなどさまざまな地図ベンダーと接続されており、異なる地図で得られる異なった情報に適応するように、デバイスを切り替えることができると千野氏はいう。例えば、ある地図では封鎖されている道路についての情報が更新されている場合などには、その情報を無線で送ることができるので便利だ。

「将来的には、屋外環境のセンサーを利用して、地図そのものを生成する機能を開発したいと考えていますが、それは5年くらい先の話になるでしょう」と、千野氏は語った。

バイブレータは足の神経層に沿って配置されており、振動を感じやすいように設計されている。直進を指示する時は、靴の前方に備わるバイブレーターが振動する。左右に曲がる場所に来たら、靴の左右に配置されたバイブレーターが曲がる方向を知らせる。

このような直感的なナビゲーションにより、歩行者は常にルート確認しなければならない心理的負担から解放され、より安全でストレスの少ない歩行が可能になると、Ashiraseは述べている。

また、例えば横断歩道などのように、デバイスが前方の障害物を警告することができない場所でも、ユーザーは聴覚による周囲の安全確認により集中できる。

「今後は、視覚障がい者のように障害物を認識する手立てを持たない全盲のユーザーに向けた技術的なアップデートも考えています」と、千野氏はいう。「今のところ、このデバイスは視覚障がい者の歩行を想定して設計されています」。

ショッピングモールなどの屋内では、衛星測位システムの電波が届かず、ユーザーが位置を特定できる地図もない。これを解決するために、同社ではWiFiやBluetoothを使って測位し、店内の他の機器や携帯電話と接続して、視覚障がい者の位置を特定することを計画しているという。

Ashiraseでは公共交通機関との連携も検討しており、次の停留所に到着したことやその近くにいることを、ユーザーに知らせることができるようにしたい、と千野氏は語っている。

どんな靴にも取り付けられるこの小さなデバイスには、たくさんの技術が詰め込まれている。千野氏によれば、さまざまな種類、形、サイズの靴に柔軟にフィットするようにデザインされており、1日に3時間の使用なら週に1回の充電で済むという。

Ashiraseは、2021年の10月か11月にベータ版をリリースしてテストとデータ収集を行い、2022年10月までに量産を開始したいと考えている。製品版には、まだ価格は明らかになっていないがユーザーに直接販売するモデルの他、月額2000~3000円程度のサブスクリプションモデルも用意される見込みだ。

市場投入までには、すでに調達した資金を含めて、2億円ほど必要になると千野氏は考えている。同社はこれまでに、一度のエクイティ投資ラウンドと、いくつかのノンエクイティ投資ラウンドで、総額7000万円の資金を調達しているという。

ホンダは投資家の1人として同社に関わり、事業をサポートし、フォローしていくものの、Ashiraseは独立した会社として上場することを目指している。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:HondaAshirase視覚歩行

画像クレジット:Ashirase

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)