宇宙ステーションの運用ギャップ回避のためにNASAがBlue Origin、Nanoracks、Northrop Grummanと450億円以上の契約を締結

NASAは、2030年までに国際宇宙ステーション(ISS)を商用ステーションに置き換える予定であることを公式に(かつ静かに)認めてからわずか2日後に、今度は民間ステーションの計画のさらなる推進のために、3社と4億ドル(約450億円)以上の契約を結んだ。

NASAと商用低軌道(LEO)目的地プログラムの下で契約を結んだ3社は以下のとおりだ。

  • Nanoracks(ナノラックス)、1億6000万ドル(約180億5000万円)
  • Blue Origin(ブルーオリジン)、1億3000万ドル(約146億7000万円)
  • Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)、1億2560万ドル(約141億7000万円)

NASA商用宇宙飛行のディレクターであるPhil McAlister(フィル・マカリスター)氏は米国時間12月2日に、NASAは合計11件の提案書を受けとったと語った。彼は、選択された3つの提案には、多様な技術的概念と、ロジスティックならびに打ち上げロケットのオプションが提供されていると付け加えた。「この多様性は、NASAの戦略の成功の可能性を高めるだけでなく、高度なイノベーションにもつながります。それは、宇宙に対するほとんどの商用の取り組みの中で重要なのです」と彼はいう。

3社はすでに、提案に関わるいくつかの詳細を発表している。Blue Originは、そのステーションコンセプトを「Orbital Reef(オービタル・リーフ)」と呼び、Boeing(ボーイング)やSierra Space(シエラ・スペース)、その他と共同で設計している。チームは、2027年にステーションを打ち上げたいと述べている。一方Nanoracksは、親会社のVoyager Space(ボイジャースペース)ならびに航空宇宙業界の雄Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)と共同で開発中のステーションを「Starlab(スターラボ)」と呼んでいる。Northropはステーションの提案に派手な名前を付けていなかったが、Dynetics(ダイネティクス)と協力して、Cygnus(シグナス)宇宙船をベースにしたモジュラー設計を提供しようとしている。

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NASAがISSの廃止と新しいステーションの導入の間にギャップがないようにしようとしている中で、今回の重要な契約は2フェーズプロセスの最初のフェーズに相当する。NASAは、議会ならびに最近の監察総監室の報告書の両方で、LEOにおける経済的繁栄の全体的な成功は、このギャップを回避することにかかっていると繰り返し強調してきた。

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画像クレジット:Blue Origin

NASAは報告書の中で「ISSが廃止された後に、低軌道(LEO)に居住可能な商用目的地がない場合、NASAは、月と火星への長期にわたる人間の探査ミッションに必要な、微小重力健康研究と技術実証を実施できなくなり、それらのミッションのリスクが高まったり遅延したりするだろう」と述べている。

この潜在的なシナリオを回避するために、NASAは、1つ以上の商用LEO「目的地」(ステーションと呼ばれることもある)を2028年までに運用可能にすることを提案した。これによって2030年に引退する予定のISSと2年間の並行運用期間が生じる。その報告書はそのタイムラインを達成できる可能性についての疑問は投げかけているものの、今回の3社とNASAの幹部はそれぞれ、ステーションの運用ギャップを回避できることに自信を持っていた。

「商用貨物便が打ち上げられてから10年経った今でも、人びとは商用航路の堅牢性とアイデアと柔軟性に疑問を抱いています」とNanoracks CEOのJeffrey Manber(ジェフリー・マンバー)氏は述べている。「確かに、今後の課題は残っています、【略】しかし私たちには堅牢性があり、一緒に取り組んでいるプロバイダーが多数います。これは、リスクの軽減を進め、商用航路に複数のプロバイダーを配置するためのまさに正しい方法なのです」。

この最初の一連の契約は、2025年まで続くと予想される設計や作業を各企業が遂行するのに役立つだろう。

NASAは、2026年の開始を目標とするプログラムの第2フェーズでは、このグループの企業または他の参加企業から人間が使用するステーションを1つ以上認定し、最終的には軌道上サービスを購入しステーションを利用する多くの顧客の1つになる予定だ。NASAは声明の中で、これにより、人間を再び月に送り、最終的には有人宇宙飛行を火星に送り込むことを目的とするArtemis(アルテミス)計画に集中できるようになると述べている。

今回のフェーズにいないことで目立っているのはAxiom Space(アキソム・スペース)だ、同社はISSに取り付けるためのモジュール(自社のステーションとして自己軌道を回り分離する)を打ち上げるための別契約を獲得しているが、今回のプログラムには参加しなかったことを明かしている。

もちろん、大きな問題は、これらのステーションの最終コストがどれだけになるか、そしてNASAが最終的に全体のコストのどれ位を支払うかということだ。マカリスター氏は、NASAが「入札の方々がこれらの活動への財政的貢献を最大化することを奨励しています」と述べ、現在NASA以外の投資が約60%を占め、NASAの貢献は40%未満であると述べた。しかし、3社とNASAは、ステーションの設計、立ち上げ、運用にどれだけの資本の投下が必要なのかと予想しているのかという点はあまり語ろうとしなかった。

画像クレジット:Nanoracks

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(文: Aria Alamalhodaei、翻訳:sako)

NASA、2030年までに国際宇宙ステーションを民間に置き換える意図を詳述

NASAのOffice of Audits(内部監査室)は、国際宇宙ステーション(ISS)が退役した後、ISSを1つまたは複数の商業宇宙ステーションに置き換えるというNASAの取り組みについて、詳細な報告書を作成した。ISSの運用終了は2024年に予定されているにもかかわらず、すべて2030年まで延長されることを示している。つまりそれが、軌道上で人間が滞在するための科学施設を民間企業に引き継ぐことができる時期であると、NASAでは想定しているようだ。

今回の監査では、基本的に現在のISSの維持・運用コストを詳細に説明するとともに、人間が長期間宇宙に滞在するための実験場となる研究施設や、月面における恒久的な駐留の確立や火星探査を含む深宇宙探査の鍵となる技術を開発・実証するための施設が、今後も必要不可欠であると考えている理由を説明している。

結論として、NASAは2028年までに商業宇宙ステーションの運用を開始し、予想されるISSの退役・離脱の前に2年間のオーバーラップ期間を設けたいと考えている。しかし、このスケジュールには明らかなリスクがある。NASAによれば、それは「市場の需要が限られていること、資金が不足していること、コスト見積もりが信頼できないこと、まだ要求条件が進化し続けていること」などだ。

一方、良いニュースも報告されている。それは最近、多くの企業が軌道上の商業ステーションの開発に興味を持っているようだということだ。Nanoracks(ナノラックス)とその親会社であるVoyager Space(ボイジャー・スペース)、そしてLockheed Martin(ロッキード・マーチン)のパートナーシップは、2027年までに商業宇宙ステーションを製造し、運用開始することを目指している。Blue Origin(ブルーオリジン)はSierra Space(シエラ・スペース)とBoeing(ボーイング)とともに、遅くとも2030年までにOrbital Reef(オービタル・リーフ)と名付けられたステーションを打ち上げたいと望んでいる。Axiom Space(アクシオム・スペース)では、退役前のISSに取り付けるモジュールを打ち上げ、それを2028年までにISSから分離させ、独自のステーションとして自力で軌道に乗せるという計画をすでに進めている

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グーグラーが宇宙をマネタイズ、Axiom Spaceの民間宇宙ステーションが提供するさまざまなサービス

NASA Office of Auditsによる報告書の全文は以下で読むことができる。

画像クレジット:Axiom Space

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

グーグラーが宇宙をマネタイズ、Axiom Spaceの民間宇宙ステーションが提供するさまざまなサービス

次期国際宇宙ステーションを建設するAxiom Space(アクシオム・スペース)は、2021年初めに10億ドル(約1148億6000万円)規模の評価を受けた後、Google(グーグル)出身のTejpaul Bhatia(テジポール・バティア)氏を同社初のCRO(最高収益責任者)に採用した。同氏は宇宙エコシステムの成長と収益化を担うことになる。

2017年、バティア氏はCiti Ventures(シティ・ベンチャーズ)でエグゼクティブ・イン・レジデンスを務めていた際にAxiomを紹介され、同社がNASAとの1億4000万ドル(約159億円)の契約を獲得した後の2020年にエンジェル投資家として投資。その後7月、リーダーシップチームの一員として参加することになった。

Axiom SpaceのCRO(最高収益責任者)であるTejpaul Bhatia(テジポール・バティア)氏(画像クレジット:Axiom Space)

しかし、宇宙分野におけるパイオニアはAxiomだけではない。NASAとの契約金4億ドル(約454億円)をめぐって、宇宙空間に進出しようと目論む宇宙ベンチャー企業のゴールドラッシュは始まっている。

十数社のコントラクターがこの競争への参加を表明しており、2021年10月には2社が発表された。10月22日には、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)がVoyager Space(ボイジャー・スペース)およびNanoracks(ナノラックス)と提携して2027年までに宇宙ステーション「Starlab」を打ち上げるという入札を行っており、また10月25日には、Blue Origin(ブルーオリジン)がSierra Space(シエラ・スペース)およびBoeing(ボーイング)と提携して、2025年から2030年の間に宇宙ステーション「Orbital Reef」を打ち上げるという計画をJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏が発表している。

Axiomの役割はというと、2028年に退役する予定のISSからシームレスに移行するために、ISSに増築を行いながら段階的にAxiom Stationを建設するという計画をNASAが承認している。

最初のモジュールである「Hub 1」は2024年にドッキングする予定で、研究施設と4人のクルーのための居住区があり、タッチスクリーンの通信パネルと大きな窓が設置される予定だ。2025年には同様の設備を備えた2番目のモジュール「Hub 2」が計画されている。2026年には微小重力実験室の建設が続くという。そして2027年には、太陽電池アレイを搭載したパワータワーが3つのモジュールに取り付けられ、ISSのキャパシティを2倍にするAxiom Stationが形成される。2028年にはAxiom Stationが切り離され、自己軌道に乗り始めるという計画である。

WeWorkの地球外リトリート施設や研究機関の研究ハブとして機能するだけでなく、小国が独自の宇宙プログラムを立ち上げるための手段になる巨大な工業施設を今後7~10年の間に地球低軌道上に建設するという野望について、TechCrunchはバティア氏に話を伺った。

これが同氏の考える、Googleの戦略を見習った最後のフロンティアをマネタイズする方法だ。

Axiom Stationのタイムライン(画像クレジット:Axiom Space)

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Axiom Spaceは、国際宇宙ステーションの元マネージャーであるMichael Suffredini(マイケル・スフレディーニ)氏とIntuitive Machines(インテュイティブ・マシンズ)の共同創業者であるKam Ghaffarian(カム・ガファリアン)氏によって2016年に設立された。2月にはC5 Capital(C5キャピタル)が主導する1億3000万ドル(約147億7000万円)のシリーズBラウンドをクローズし、リードインベスターであるBlue Originの元社長Rob Meyerson(ロブ・マイヤーソン)氏が取締役に就任。これまでに総額1億5000万ドル(約170億4000万円)を調達している。同社はヒューストンに本社を置き、300人以上の従業員を擁している。

Axiomの主な収入源は、ISSでの短期滞在向けのエンド・ツー・エンドのミッションプロバイダーとなることによるものだ。つまり宇宙飛行士訓練とSpaceX(スペースエックス)による往復輸送(食料、水、酸素、通信、データ、電源などの必需品を含む)をパッケージ化し、7~10日間のオールインクルーシブ滞在を民間に販売するというわけだ。また、ISSの微小重力実験室で行う実験のためのリサーチミッションを販売する他、コンテンツやメディアのスポンサーシップの販売にいたってはすでに開始されている。

2022年には2つのミッションが予定されている。NASAの元宇宙飛行士でAxiomの副社長であるMichael López-Alegria(マイケル・ロペス=アレグリア)氏が、2月21日に予定されている最初のミッション「Ax1」を指揮し、投資家のLarry Connor(ラリー・コナー)氏、Mark Pathy(マーク・パシー)氏、Eytan Stibbe(エイタン・スティッベ)氏がクルーを務めるという。ワシントン・ポスト紙は、チケット価格を乗客1人当たり5500万ドル(約62億5000万円)と報じている。

2つ目のミッション「Ax2」は2022年後半に計画されており、宇宙滞在時間の米国最長記録を持つNASAの引退宇宙飛行士Peggy Whitson(ペギー・ウィットソン)氏と、米国の投資家でレーシングカーのドライバーおよびパイロットでもあるJohn Shoffner(ジョン・ショフナー)氏が参加する予定だ。まだ2つの席が空いているはずだが、Elon Musk(イーロン・マスク)氏とともに2億ドル(約227億1000万円)のユニバーサル映画を製作中で、NASAからも飛行すると噂されているTom Cruise(トム・クルーズ)氏がこのフライトに参加するのか否かは、Axiomは明らかにしていない。

3回目と4回目のミッションは2023年に計画されており、いずれかのミッションにはDiscovery Channel(ディスカバリーチャンネル)の競争型リアリティテレビ番組「Who Wants To Be An Astronaut?」の優勝者が参加する予定だ。

この分野におけるAxiomの競合他社には、1998年にBOLD Capital(ボールドキャピタル)のPeter Diamandis(ピーター・ディアマンディス)氏が共同設立したSpace Adventures(スペース・アドベンチャーズ)がある。同社はこれまでに、Cirque du Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)の共同創設者であるGuy Laliberté(ギー・ラリベルテ)氏を含む7人の民間人を、ロシアの宇宙機関Roscosmos(ロスコスモス)を通じてISSに輸送してきた。2023年に予定されている同社2回目のISSへのミッションは宇宙遊泳だ。SpaceNews(スペースニュース)によると、同社は2021年後半にSpaceXによる軌道旅行を計画していたものの、需要の少なさのためにキャンセルされている。

億万長者のRichard Branson(リチャード・ブランソン)氏、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏、Elon Musk(イーロン・マスク)氏が、スタートレックのWilliam Shatner(ウィリアム・シャトナー)氏などの民間人を宇宙の果てまで連れて行くという話がここ数カ月湧いていたが、実際市場はチケット代を払える人に限られている。

幸いなことに、億万長者らはAxiomのターゲットではない。

  1. Render-Axiom-Station

    画像クレジット:Axiom Space
  2. Axiom-Station-rendering-2

    画像クレジット:Axiom Space
  3. Axiom-Station-rendering

    画像クレジット:Axiom Space
  4. Axiom-featured

    画像クレジット:Axiom Space

 

 

スカイシティへようこそ

ネオン輝く天空のビルの周りをスペースカーが疾走するThe Jetsons(宇宙家族ジェットソン)のようにはいかないかもしれないが、2024年にAxiomが最初の居住施設をISSにドッキングさせるとき、事態はかなりおもしろくなるだろう。

バティア氏によるとAxiomは今後ISSの容量制限を受けなくなるため、さらに多くの部屋や研究施設を建設することができ、より多くのミッションを提供できるようになるという。Axiomは需要に応じて、BoeingのStarlinerを含む、SpaceXのような他のロケットプロバイダーとの協力も承認さえおりれば考慮したいと考えている。

バティア氏は2024年が収益成長の重要な変曲点になると考えている。

「Axiomステーションが稼働し始めれば、企業や機関、政府が物理的スぺースやデジタルスペースをカスタムメイドで構築、購入、リースできるハイブリッドモデルになるでしょう」と同氏。

「私たちの物理的スペースのクールな点は、ラボ、データセンター、居住スペースなどのモジュールが、レゴのように切り離され飛び回り、再構築できるということです」。

しかしバティア氏は、アプリで部屋を予約できるような宇宙ホテルなどとは決して呼ばれたくないようだ。Axiom Stationは独自の宇宙プログラムを構築しようとしている政府から、微小重力実験室やコロケーション製造施設を必要としている企業や機関まで、さまざまな顧客を想定した巨大な産業用宇宙施設であると同氏は考えている。

「私たちは食料、水、酸素、生命維持システム、帯域幅、データ、インサイト、エッジコンピューティング、通信、電力など、あらゆる企業、機関、政府が軌道上で運営するために必要なものが完備された物理的スペースを提供します」と同氏。

「さらにエキサイティングなことに、iPhoneのセンサーを使ってアプリケーションを開発するのと同じように、開発者が船上のセンサーやその他の機器を使ってビジネスを構築することができる、インフラストラクチャ・アズ・ア・サービスとして販売するデジタルプラットフォームを提供することもできます」。

Axiomのクルーステーション・クォーターのレンダリング画像(画像クレジット:Axiom Space)

Axiom StationのOSをサードパーティが開発できるようなソフトウェア開発キットを実際に制作するかどうかは不明だが、バティア氏はAxiom Stationのセンサーの用途として、スペースデブリや地球の気候のモニタリングが考えられると話している。

またバティア氏は、宇宙開発の予算がある国とまだ予算がない国の両方の市場を想定している。

「私たちの目標は、ISSが寿命を迎えたときに、すべての人のための完全なサービスと機能を備えたプライベートステーションを提供してギャップが生じないようにすることです。ある国の予算が数十億ドルであろうと、その数分の一であろうと、私たちはその国のニーズに合ったソリューションを作ることができるでしょう」。

NASA、ESA(欧州宇宙機関)、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、Canadian Space Agency(カナダ宇宙庁)、Roscosmosが、ISSの後継機として年間20億ドル(約2256億7000万円)から30億ドル(約3385億5000万円)の収益をAxiom Stationに移すことをバティア氏は期待している。Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)のレポートによると、商業宇宙部門は2020年に3500億ドル(約39兆4683億円)、2040年には1兆ドル(約112兆7370億円)になると予想されており、Axiomとしては長期的にこの数千億ドル規模の市場にサービスを提供できるようになりたいと考えている。

グーグラーの出番

シリアルアントレプレナー、投資家、そしてGoogle Cloud(グーグルクラウド)のスタートアップエコシステムの構築に貢献した技術者として、バティア氏は宇宙経済にはベンチャーキャピタルの考え方が必要だと伝えている。

「最高収益責任者である私の使命は、今後7年から10年の間にビジネス、産業、市場が飛躍的に成長するための発射台となる超成長ビジネスプラットフォームを構築することです。これは、政府の税金で運営されてきたこれまでの宇宙産業とはまったく異なるモデルであり、民間企業の方がこれを達成するのにはるかに適しています」。

バティア氏はStarlabやOrbital Reefとの競争を歓迎すると同時に、Axiomがこれらの数年先を行っていると同氏は確信を持っている。

イタリア、トリノのThales Alenia(TASI)の工場でAxiom Hub 1を製作中(画像クレジット:Axiom Space)

「仕事を始めて100日ちょっとですが、このプロジェクトが理屈上の話だけではないことがわかりました。金属が曲げられ、人々が集まり、契約が結ばれています。最初のモジュールはすでにイタリアのThales Alenia(タレス・アレーニア)の工場で建設中です。これはサイエンスフィクションではなく、実際に起こっていることなのです」。

また当分の間、収益性については心配する必要がないという。

「資金調達は非常に重要です。私たちは世界で最も価値のある5つの企業(Facebook、Apple、Amazon、Microsoft、Google)が創業時に赤字で運営していたことをモデルにしています。できるだけ多くの株主価値を創造し、必要不可欠なインフラを構築するために資本を得て、安全性に焦点を当てながらスピード感を持って革新していくというのが計画です」。

編集部注:本記事の執筆者Martine Paris(マルティーヌ・パリ)氏はフリーランスの技術レポーターとして、宇宙、電気自動車、気候変動対策、ロボット、AI、コンシューマーテック、eコマース、ストリーミング、ゲーム、ベンチャーキャピタル、スタートアップカルチャーなどを取材している。

画像クレジット:Axiom Space

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(文:Martine Paris、翻訳:Dragonfly)

東京の宇宙ベンチャーGITAIが国際宇宙ステーション内で自律型ロボットアームの技術実証に成功

東京の宇宙ベンチャー企業であるGITAI Japan(ギタイジャパン)は、日本時間の2021年10月13日から10月17日にかけて、国際宇宙ステーション(ISS)内で行われた自律型ロボットアームの技術実証に成功した。これは、同社が宇宙でサービスとしてのロボット技術を提供する準備に向けた重要なマイルストーンとなる。

「GITAI宇宙用自律ロボットS1」と呼ばれるこのロボットアームは今回、ケーブルやスイッチの操作と、構造物やパネルの組み立てという2つの作業を行った。これらの作業は、一般的にクルーが行う作業だが、宇宙におけるさまざまな活動で汎用的に使用することができる。今回の実証が成功したことで、NASAはGITAIロボットの「技術成熟度(Technology readiness levels、TRL)」をTRL7に引き上げた。TRLは全部で9段階まであり、GITAIがロボットを商業化するには、すべてのTRLを満たすことが重要になる。

この技術実証は、宇宙企業であるNanoracks(ナノラックス)の「Bishop(ビショップ)」エアロック内で行われた。Bishopエアロックは、ステーションの外装に取り付けられた世界初(かつ唯一)の商用エアロック・モジュールだ。Nanoracksは今回、打ち上げ機会の提供、軌道上での運用管理、データのダウンリンクも担当。同社は先週、Voyager Space(ボイジャー・スペース)およびLockheed Martin(ロッキード・マーティン)と共同で完全民間の商業宇宙ステーションを起ち上げる計画を発表している。

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GITAI宇宙用自律ロボットS1は、8月末に実施された23回目の商業補給サービスミッションで、SpaceX(スペースX)の「Cargo Dragon(カーゴ・ドラゴン)」カプセルに搭載されて軌道へ輸送された。日本のスタートアップ企業であるGITAIは、軌道上での宇宙船の整備や建設・製造作業など、宇宙における一般的な作業を行うためのロボットを開発している。次のステップは、ISSの外で、GITAIロボットの試験を行うことだ。

「今回の実証の成功は、GITAIロボットが、汎用性があり、器用で、比較的安全(人間の生命を脅かすリスクが少ない)で、安価な労働力を求める宇宙機関や商業宇宙企業のソリューションになり得ることを証明するものです」と、NASAは技術実証の最新情報を更新し「このオプションの提供は、宇宙の商業化という目標達成を促進させることになります」と述べている。

しかし、GITAIは単にロボットアームを作ることだけを目指しているわけではない。同社の長期的なビジョンでは、ロボットは月や火星の表面にスペースコロニーを建設するための重要なツールになると考えている。このようなロボットによる労働力は、地球外の環境で人間が生存できるようになるのを加速させるために役立つ可能性が高い。2021年3月、同社は総額18億円のシリーズB資金調達を完了し、2023年に予定されている軌道上船外技術実証に向け、人件費と開発費に投じている。

先週行われた技術実証の映像はこちら

画像クレジット:Gitai

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ブルーオリジン、ボーイングなどがシエラスペースとの民間商業宇宙ステーション建造を発表

軌道上の不動産ラッシュがついに始まる。Sierra Space(シエラ・スペース)が、民間宇宙ステーション打ち上げ計画のさらなる詳細を発表した。Blue Origin(ブルーオリジン)とBoeing(ボーイング)がこのチームに加わり、2020年代の後半に宇宙ステーションを軌道に送り込む計画だという。

「Orbital Reef(オービタル・リーフ)」と名付けられたこの計画中のステーションには、Redwire Space(レッドワイヤー・スペース)、Genesis Engineering(ジェネシス・エンジニアリング)、Arizona State University(アリゾナ州立大学)の技術やサービスも含まれる予定だ。これは商業宇宙ステーションの計画としては3番目に発表されたもので、数日前にはVoyager Space(ボイジャー・スペース)、Nanoracks(ナノラックス)、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)の3社が、2027年に打ち上げを予定している商業宇宙ステーションの計画を発表したばかりだ。そしてもう1件、Axiom Space(アクシオム・スペース)も商業宇宙ステーションを計画している。

Sierra Spaceが最初に商業宇宙ステーションの計画を発表したのは、2021年4月のこと。その背景には、間もなく閉鎖される国際宇宙ステーション(ISS)の代わりになるものを求めて、民間企業の声が高まっているという状況がある。Sierra Nevada Corporation(シエラ・ネヴァダ・コーポレーション)の一部門である同社は、Orbital Reefに使用される大型で膨張式の「LIFE(Large Integrated Flexible Environment、大型で統合された柔軟性の高い環境)」と呼ばれる居住区の開発を進めている。今回の最新ニュースは、先に発表されたこの計画に基づくものだ。

Orbital Reefは「地球外多目的ビジネスパーク」として運営されることになると、Blue Originの先進開発プログラム担当シニアVPであるBrent Sherwood(ブレント・シャーウッド)氏は、米国時間10月25日に開催されたメディア向け発表会イベントで語った。この宇宙ステーションは、科学研究、製造、メディア、エンターテインメント、観光など、さまざまな商業目的に利用することができると、シャーウッド氏は考えている。Orbital Reefは完全運用が始まれば最高10人が滞在可能で、その内部容積は現在のISSの約90%になる見込みだという。

Blue Originはコアモジュール、ユーティリティ・システム、そして重要な点として、同社の重量級打ち上げシステムである「New Glenn(ニューグレン)」大型ロケットを提供する。Boeingは、宇宙ステーションの運用と科学モジュールを担当し、人間を宇宙ステーションへ往復させるStarliner (スターライナー)を提供する。Redwire社は、微小重力研究技術と宇宙空間における製造、ペイロードの運用と展開可能な建造物を提供する。

メリーランド州に本拠を置くGenesis Engineeringは、日常業務や観光を目的とした1人用の宇宙船を開発し、アリゾナ州立大学は大学コンソーシアムを率いて研究助言サービスを提供する。

「微小重力環境は、科学的・商業的な発見のためのまったく新しい場を提供します」と、Redwireの民間宇宙・渉外担当エグゼクティブVPであるMike Gold(マイク・ゴールド)氏は述べている。「微小重力を利用した研究・開発・製造を習得した国や企業が、将来の世界経済のリーダーになると、我々は確信しています」。

しかし、このステーションのコストがどの程度になる見込みであるかは、あまり明らかになっていない。各社の役員は、プロジェクトに投入する資本や全体の投資額について、具体的に述べようとはしなかった。シャーウッド氏は「ご質問の件は、我々のビジネスケースの一部であり、具体的な数字を申し上げるつもりはありません」と語った。

NASAは、Commercial Low Earth Orbit Destinations(商業的地球低軌道目的地開発)プロジェクトの一環として、初期の宇宙ステーション計画の提案に対し、最大4億ドル(約456億円)を投資することを計画しているが、この資金は複数の提案に分配されるため、1つのステーションを開発して打ち上げる費用全体の中では、ほんの一部にしかならないと思われる。NASAは先月、これらの資金の一部を獲得しようとする企業から「およそ1ダースほどの提案」を受け取ったと、CNBCに語っている。

もう1つ、まだ明らかになっていない重要なパズルのピースは、Blue Originの「New Glenn」、Boeingの「Starliner」、Sierra Spaceの「Dream Chaser(ドリーム・チェイサー)」という各社が開発しているスペースプレーンの打ち上げ能力だ。これらの機体で宇宙に到達したものはまだ1つもないが、Boeingは2022年前半にStarlinerの打ち上げテストを行うことを目指している。Blue Originは同年の第4四半期にNew Glennの打ち上げを予定しており、Sierra SpaceはDream Chaserを使ってISSへ向かう7回のミッションをNASAと契約している。

画像クレジット:Blue Origin

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

民間宇宙ステーション「Starlab」は地球低軌道経済の到来を予感させる

民間宇宙ステーションの時代が正式に到来する。Nanoracks(ナノラックス)、Voyager Space(ボイジャー・スペース)、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)の3社は先日、2027年に商用ステーションを起ち上げる計画を発表した。しかし、これは新しい宇宙経済を発展させるための次の論理的ステップに過ぎないと、各社は述べている。

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「過去10年間は宇宙へのアクセスを構築する時代でしたが、次の10年は宇宙に行き先を構築する時代になります。それが、この業界における我々の重要な命題の1つです」と、VoyagerのDylan Taylor(ディラン・テイラー)CEOは述べている。

米国が初めて打ち上げた宇宙ステーション「Skylab(スカイラブ)」に敬意を表して「Starlab(スターラブ)」と名付けられたこの新しい宇宙ステーションは、膨張式の居住モジュール、ドッキングノード、ロボットアームを備えたものになる。3社は官公庁と民間企業の両方からの強い需要を見込んでいるものの、NanoracksのJeffrey Manber(ジェフリー・マンバー)CEOは「Starlabの中核は科学です」と強調した。

Starlabは最終的には観光客も受け入れることができるが、観光を第一に考えたプロジェクトではないと、マンバー氏は付け加えた。「宇宙観光旅行は話題になりますが、持続可能なビジネスモデルを構築するためには、それ以上のものが必要です」と、同氏はいう。

3社は、NASAの「Commercial Low Earth Orbit Destinations(商業的地球低軌道目的地開発)」プロジェクトへの入札として、Starlabを同宇宙局に提出した。このプロジェクトでは、宇宙ステーションを開発する民間企業に最大で4億ドル(約454億円)の契約が割り当てられる。

このようなプロジェクトには莫大な公共投資が必要となるものだが、この資金提供は、特に国際宇宙ステーションの離脱が間近に迫っていることを考慮すると、NASAが地球低軌道における存在感を維持することに関心があると世界に示す意味でも重要であると、テイラー氏は述べている。

マンバー氏も同様の意見を述べている。「私たちは宇宙ステーションの空白期間を作りたくありません」と語る同氏は「業界や社会の誰もが、米国が低軌道に宇宙ステーションを持たない期間があってはならないことを理解しています」と続けた。

しかしながら、全体的には民間の資金が鍵となる。そこでVoyager社の出番だ。2021年、Nanoracksの過半数の株式を取得した同社は、プロジェクトの資金調達と資本配分を監督することになる。

「現実的には、米国議会から十分な資金を得ることはできません」と、マンバー氏はいう。「そんな時代は終わりました。これは商業的なプロジェクトです」。

LEO(地球低軌道)経済の将来については、企業や公的機関が設計の標準化と競争力の維持をどのように両立させるかなど、未だ不明な点が多い。

テイラー氏は、いくつかの重要な技術を標準化するには、コンソーシアムを起ち上げる方法が有効であると提案している。NASAからの投資も居住システムの共通化に役立つだろうと、Lockheed Martinの民間宇宙部門VPであるLisa Callahan(リサ・キャラハン)氏は、TechCrunchによるインタビューの中で語っている。

「NASAは顧客として、宇宙輸送におけるこの並外れた革命を解き放ちました」と、マンバー氏は語る。「NASAがカーゴで成功したように、商用クルーで成功したように、宇宙に興味を持つ市場があれば、小規模な民間宇宙ステーションにも同じようなことが起こると予想できます」。

画像クレジット:Nanoracks

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)