天文、気象学に多大な功績を残したアレシボ電波望遠鏡が57年間の活躍を終え解体へ、「007 ゴールデンアイ」にも登場

プエルトリコに建設され、57年間、学会に計り知れない功績を残し、大衆文化においてもその地位を確立したあの有名なアレシボ電波望遠鏡は、ここ数カ月の間に修復不可能なダメージを受け、解体されることになった(Science記事)。

この巨大な天文台は1963年に完成するや、即座に世界中の天文学者や大気科学者の強力なツールとしての地位を固めた。その巨大な望遠鏡は前例のないサイズと建築構造を誇り、宇宙観測の新たな可能性を切り開いた(さらに宇宙に向けて発信も行なった。これはどの望遠鏡群でも真似できるというものではない)。

アレシボ電波望遠鏡は無数の研究者やプロジェクトに利用されてきたが、米国政府からの資金援助を受けていたため、少なくともその一部は一般公募枠として実施されている。アレシボを通じて得られた信号は、水星から遠く離れたパルサーに到るまで、私たちの天体への理解を深めてくれた。

地球外知的生命体の探索では、この電波望遠鏡から近くの星団に、少なくとも我々と同じような何らかの生命が存在すると期待される遠い宇宙に向けて、紛れもなく人工的なものだとわかるよう構成されたメッセージを高出力で発信したことはよく知られている。これを実行した団体は、同天文台で収集された数年分のデータを解析し、同じように向うからも知的生命の存在を示すパターンが送られてきてはいないかを解析していた。

大衆文化の中でアレシボ人気が頂点に達したのは、なんと言っても1995年のジェームズ・ボンドの映画「007 ゴールデンアイ」の舞台になったときだろう。また、この映画を題材にしたNINTENDO64のゲームも大ヒットした。クライマックスでジェームズ・ボンドとその敵がパラボラアンテナの上数十メートルの場所にぶら下がるシーンは、目に焼き付いている。

残念なことに、アレシボは基礎が老朽化し、一部の部品は管理者が交換を試みようにも費用がかさみすぎて困難という状態が続いていた。それでもいくつもの嵐や地震にも耐えてきたのだが、数カ月前に12本あるうちの2本のケーブルが切れて望遠鏡を直撃し、パラボラ本体が破損してしまった。この他のケーブルも同様に危うい状態にあることが推測される。もしそうなら、危険と修復費用は増大する。

それを受けて、米国立科学財団(NSF)を代表してアレシボを管理しているセントラル・フロリダ大学の委員会は、合理的な唯一の道は安全に解体する以外にはないと判断した。

「簡単な決断ではありませんでした」と、NSFのSean Jones(ショーン・ジョーンズ)氏は米国時間11月19日の記者会見で話した。「この(科学)コミュニティーとプエルトリコにとって、アレシボがどれほど重要なものかを、私たちはよく知っています」。

同施設の解体に関する具体的な計画はまだ示されていないが、その場所の安全性を考えるに、これ以上の事故を起こさないためにも、早急に行う必要がある。

アレシボを失うことで生じた穴は大きい。その機能をそのまま引き継げる天文台は、世界中のどこにもない。だがいまやアレシボは、規模の面でも感度の面でも世界一というわけではない。アレシボが運用を開始してからの60年間に、多くの後継施設が建設されている。中国は2020年の初めに、直径500メートルの球面電波望遠鏡を公開した。これが世界の天文学者にとって、非常に重要な施設になることは間違いない。

あの有名な望遠鏡は間もなく姿を消すが、アレシボ天文台は研究施設として存続することがNSFのアレシボ計画責任者のSpace.comの記事の中で示唆している。「鉄とケーブルで作られたこの建造物の廃止を検討しています」と彼は話す。「この天文台で働く人たちは、今後もそこで観測し学びたいという情熱を持っています。それがアレシボの本来の精神であり魂です。精神や魂は望遠鏡にあるのではなく、人の中にあるのです」。

カテゴリー:宇宙
タグ:天文学気象学

画像クレジット:Ralph Morse / Contributor / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)