SPACE WALKERが5.5億円の資金調達、サブオービタルスペースプレーンの開発や複合材事業の体制強化

SPACE WALKERが5.5億円の資金調達、サブオービタルスペースプレーンの開発や複合材事業の体制強化

SPACE WALKER(スペースウォーカー)は3月31日、シードラウンドとして、コンバーティブル・エクイティおよび社債などによる5億5000万円の資金調達を2022年3月に完了したと発表した。引受先は個人投資家など。累計資金調達金額は12.16億円となった。

調達した資金により、サブオービタルスペースプレーン(有翼式再使用型ロケット)の技術実証、商用機開発、および新たに立ち上げた複合材事業への設備投資、これらに伴う人員強化、広告宣伝費などの運転資金などにあて、さらなる事業拡大を目指す。

スペースウォーカーは、誰でも飛行機に乗るように自由に地球と宇宙を往来する未来を目指し、持続可能な宇宙輸送手段を提供するために、サブオービタルスペースプレーンの研究・開発を行っている東京理科大学発スタートアップ。

また、2021年7月には複合材事業も立ち上げている。同社が宇宙開発において培われた軽量な複合材製容器は、宇宙のみならず、陸海空にまたがる脱炭素化社会に向けた水素サプライチェーン・プラットフォームの構築において、特に重要な要素である水素の貯蔵容器としても注目されているという。

Verdagyの新技術がCO2を排出しない水素製造を加速させる

水素製造の先駆者であるVerdagy(ベルダジー、Verdeは「緑」、agyは「エネルギー」を意味する)は、エネルギー分野の戦略的投資家たちから2500万ドル(約29億円)を調達した。この資金は、複雑で環境に優しいとはいえない水素製造プロセスを、空気中に有害物質を排出しない工業的に拡張可能なソリューションに置き換えるために使用される。

工業用水素を製造する最も一般的な方法(米国で製造される水素の90%以上)は、水蒸気メタン改質(SMR)だ。つまり、メタンガス(CH4)に高圧の水蒸気(H2O)を吹き付けると、化学の神様が働いて大量の水素(ナイス!)とCO2を作り出してくれる。気候変動に関する知識があれば、CO2の排出は避けるべきものであることはご存知だろう。Toyota Mirai(トヨタ・ミライ)Honda Clarity(ホンダ・クラリティ)Hyundai Nexo(ヒュンダイ・ネクソ)のようなしゃれたクルマを、テールパイプからCO2の代わりに水を滴らせながら夕日に向かって走らせれば、独善的な気分になるのも無理はない。しかし、問題はある。その水素がどこから来たのかを知らなければ、CO2はクルマのテールパイプから捨てられる代わりに、どこかの大きな工場で排出されていることに気づいていない可能性があるということだ。おっと、それは困った。もちろん、CO2を回収して再利用する方法もあるが、そもそもCO2を出さない方が望ましいはずだ。そう、やはりそう思うだろう。

もう1つの主な水素の製造方法は、水の分子を分解することだ。水、つまり、H2Oは2つの水素と1つの酸素からできている。もし、この2つの原子を説得して、酸素(高校の生物化学では、酸素は良いものと習っただろう)と水素に平和的に別れさせることができれば、すばらしいことではないだろうか?ひと言でいえば、それがベルダジーのやろうとしていることだ。大型の電解槽に太陽光や風力などの再生可能エネルギーを(理想的に)接続すれば、大量の水素を作り出すことができる。水素燃料電池車のドライバーが「ドヤ顔」をするという、前述の生物学的害悪を除けば、副産物は排出されない。よりクリーンな環境にするという名目のもとであれば、筆者はその危険性を許容してもいい。

同社のイノベーションの核心は、アルカリ水電解(AWE)とプロトン交換膜(PEM)の電気分解プロセスの長所を取り入れながら、それぞれの固有の短所を排除することにある。ベルダジーは、高電流密度と広いダイナミックレンジでの動作を可能とする非常に大きな有効面積のセルを活用した、膜ベースの新しいアプローチを生み出した。それは、セルが最大効率の動作レンジを持ち、もしも大量の電気が余った場合(例えば、ソーラーアレイの発電量が産業用途や電力網で吸収できる量を超えてしまった場合など)、電気分解セルに電気を流して大量の水素を生成し、それを使用したり貯蔵したりすることができるというものだ。

アルカリ水電解(AWE)などでは隔膜を使用しており、使用できる電流密度には物理的な限界がある。当社が行っているセルと似たような素材や構造があるかもしれないが、その場合は隔膜によって高い電流密度での動作が制限される。(プロトン交換膜)PEMは、セルが使用できる有効領域が限られている」とベルダジーのCEOである(マーティ・ニーズ)氏は同社が特許出願している技術の概要を説明する。そして「当社のセルは非常に大きく、当社の技術を再現することは非常に困難だ。セルは単一要素構造をしており、陽極と陰極、そして中央に膜がある。セルの内部構造は、特許出願中の独自のものだ。セルが実際にどのように熱を放散し、気体や液体を循環させ、どのようにセル内の循環フローを管理するか、これが他社との違いだ」と同氏は語る。

支援の申し出が殺到し、2500万ドル(約29億円)を調達した今回のラウンドは、TDK Ventures(TDKベンチャー)主導のもと、多くの投資家が参加した。その中には、2021年ベルダジーがスピンアウトしたChemetry(ケメトリー)にも出資していたKhosla Ventures(コースラ・ベンチャー)も含まれる。その他の投資家としては、石油・ガス大手のShell Ventures(シェル・ベンチャー)、エネルギー・気候変動対策投資会社のDoral Energy-Tech Ventures(ドラルエナジー・テックベンチャー)、シンガポール政府系投資会社のTemasek(テマセク)、資材商品大手のBHP(ビー・エイチ・ピー)、石油・ガス・建設・農業大手のMexichem(メキシケム)の前身であるOrbia(オルビア)などがあり、さらに多くの投資家がいるが、そのうちの何社かはTechCrunchへの掲載を控えた。

ベルダジーがスピンアウトを発表してからわずか数カ月で、これほど豪華な戦略的投資家を集めて2500万ドル(約29億円)の資金を調達できたのは、同社が行っていることの重大さとチームの質の高さを物語っている。同社の新CEOであるマーティ・ニーズ氏は、Ballard Power Systems(バラード・パワー・システムズ、PEM燃料電池を製造)の取締役、および家庭用太陽光発電のパイオニアであるSunPower(サンパワー)のCOOを9年間務め、さらにアルミニウムとシリコンのリサイクル会社であるNuvosil(ヌボシル)の創業者であるなど、すばらしい経歴を誇る。

「TDK」は元々、東京電気化学工業株式会社(Tokyo Electric Chemical Industry Co., Ltd.)の日本名の頭文字をとったものだ。TDKベンチャーズの投資ディレクター、Anil Achyuta(アニル・アチュータ)氏は「(ベルダジーのような)電気化学系の企業に投資しないで、何に投資するのか」とジョークを交えて話す。「当社のビジョンは、TDK株式会社の将来の道筋を示す企業に投資することだ。そして、電気分解、特にグリーン水素のための電気分解は、社内で戦略的に推し進めている重要な分野の1つだ。TDKは世界中に110以上の工場を持っており、それぞれの工場を脱炭素化するだけでも、当社のカーボンフットプリントを減らすことができるため、非常にエキサイティングなことだ。これらの大きな石油化学工場施設や工業用化学施設の脱炭素化を考えるということは、世界の未来に投資するということだ」と同氏は語る。

水素燃料電池車に関する筆者のつまらないジョークはさておき、同社は主に、大規模な工業団地の一部として石油精製、肥料製造、食品加工、金属合金の製造など大規模な水素アプリケーションのために、水素を産業用に使用することを重点に置いているという。水素をオンプレミスで(少なくとも短いパイプラインで供給できる距離で)製造することは、これらすべての産業にとってメリットがある。そしてベルダジーは、現在のほとんどのソリューションよりも小さなカーボンフットプリントとはるかに環境に優しいテクノロジーで水素を製造することを約束している。

画像クレジット:Verdagy

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

「脱炭素」でさらに注目が集まる気候テック、IoT、AI、SaaS活用でさまざまな企業、サービスが誕生

遂に、本格的なClimate Tech(気候テック)のブームが到来したといえるだろう。

その背景には、世界規模の脱炭素の風潮がある。筆者は職業上、関連トピックをフォローしていたため、「カーボンニュートラル(CN)」や「ESG」といった単語は以前から聞き慣れたものだったが、最近では、テレビやTwitterといったメディアでも、関連用語を目にするようになっている。我々の日常生活においても、脱炭素に考慮した生活スタイルが浸透しつつある。

Climate Techは脱炭素のプレイヤーとして大いに期待されている。Climate Techとは、地球温暖化を軽減するためにCO2を含む温室効果ガスを削減する技術やそのビジネスを指している。PwCのレポートによると、Climate Techへのグローバル投資は2013年から2021年H1にかけて総額2220億ドル(約25兆5514億円)2020年H2から2021年H1の期間では839億ドル(約9兆6417億円)となり、過去8年間の4割弱を占めた。VC含む巨額投資マネーがClimate Techに流れている。

画像クレジット:PwC

2012年のClean TechブームVS近年のClimate Techブーム

なお、こういった技術分野のブームは、2006年から2011年にかけてもシリコンバレーに存在していた。

12年前、類似技術領域は「Clean Tech」の名称で呼ばれていた。このClean Techは、優れた性能を低コストで実現し、環境への影響を大幅に低減または排除する製品やプロセスと定義されている。一方、近年のClimate Techは環境への影響低減から一歩踏み込んで、「地球温暖化」という具体的な危機に対処する技術を指している。その背景には次々と国内外の政府や大企業が期限付きカーボンニュートラルを表明した経緯がある。つまりClean TechとClimate Techの本気度合いが大きく異なっている。

また、10年前と比べて、Climate Techに呼水効果をもたらす気候変動特化型機関が増えている。Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が設立したBreakthrough EnergyやAmazon設立のClimate Pledge Fund、その他ESGに特化したファンド、インパクト投資を行う金融機関、そして日本企業含むCVCが例として挙げられる。

この呼水効果の影響が各案件の投資額の増加にも表れている。2021年のグローバルベンチャー資金調達では過去最高で6430億ドル(約73兆8700億円)を記録し、そのうち半分はメガディールと呼ばれる1億ドル(約114億9000万円)超の案件であった。実際、1件の額が膨れ上がった理由としては、VCによるアーリーやシード段階での投資意欲が増加し、資金調達額やバリュエーションが上昇したこともある。Holon IQのレポートによると、2021年末時点でClimate Techのユニコーンは45件、メガラウンドは61件だった。昨年11月に上場したEVベンチャーRivianのバリュエーションは665億ドル(約7兆6400億円)となり、株式市場を揺るがせた。2012年のClean Tech投資件数・規模は10年前のものより拡大した。

また、今回のブームでは技術面でIoT、AI、SaaSといったソフトウェア技術がClimate Tech領域に進出している。エネルギー分野だと巨額な設備投資額が必要なディープテック系が主流と思われがちだが、今ではアプリを通じて脱炭素に貢献するスタートアップも続出している。

Climate Techにはエネルギー需要側・供給側、そしてその中の技術分野など様々な側面がある。本記事では筆者が注目している直近でVCやCVC資金が集中した3つのエネルギー領域をご紹介したい。

Climate Tech領域カテゴリマップ(画像クレジット:Scrum Studios)

二酸化炭素回収・貯留・利用(CCUS)

CCUSはその名の通り、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留を指し、火力発電や工場などの排気ガスに含まれているCO2を分離・回収・有効利用する技術を指す。「脱炭素」という意味で直接的な効果をもたらすという点から、元々は石油・ガス業界による投資が多かったものの、今は製造業など他業種も投資検討するようになった。

CB Insightsの報告によると、2020年8月〜2021年8月のCCUS技術への投資は6億8700万ドル(約789億円)、前年比で3倍以上 になると想定されている。下図の通り、そのCCUS技術の中に大きく6つの分野があるが、うち4つにかかる主要スタートアップを挙げる。

画像クレジット:CB Insights

1.炭素利用(Carbon Utilization)

従来セメント製造とSolidia製造方法(画像クレジット:Solidia Technologies

画像クレジット:Solidia Technologies

炭素利用とは、回収したカーボン(炭素)を有効利用する技術である。主な利用対象の1つ目に合成燃料が挙げられる。英国のLanzaTechは一酸化炭素、二酸化炭素、水素を含むガスに、微生物を用いて発酵させ、エタノールなどの化学品を作り出し、燃料にする。同社は全日本航空(ANA)と協業し、エタノールを用いてバイオジェット燃料の開発もしている。米国のTwelveもジェット燃料を含め、自動車部品や洗濯用洗剤など、石油化学製品に活用されている。

他にも、世界の二酸化炭素排出量の5〜7%を占めているコンクリートへの炭素利用もある。例えば、米Solidia Technologiesは水の代わりに二酸化炭素を吸収させ、コンクリートを硬化させる。Forteraは石灰岩のみでセメントを生成することで、CO2を60%削減させ、コストも従来生産方法より10%低く抑えることを可能にしている。

2.クリーン製造

全体の製造過程のける大量のCO2排出量を削減する目的としてH2 Green Steelが挙げられる。同社はグリーンな鉄鋼製造を実践することで、1トン辺りのCO2排出量を95%削減することを可能にしており、Mercedes Benzとも協業している。

3.カーボンオフセット・炭素市場

他の場所で実施した温室効果ガスの排出削減・吸収を購入することによって、炭素排出の埋め合わせを可能にする、「カーボンオフセット」。こちらも、CCUSの技術領域に入ってきており、前述のソフトウェア技術を駆使して注目を浴びているのはPachama。世界中の森林再生プロジェクトをオンラインの炭素市場に持ち込み、機械学習を用いて森林による吸収量を把握し、検証済みのオフセットを購入することを可能にしている。AmazonやSoftbankとすでに提携している。

4.排出量トラッキング・管理

トラッキング・管理の領域でもソフトウェアが大活躍している。大企業によるScope 1〜3のCO2排出量の開示が求められる中、カーボンフットプリントの算出・可視化をクラウド開発・ソリューション提供を行う企業が増えている。グローバル大手には、既に大手PEや銀行グループが導入している米Persefoniがあり、2021年10月にClimate Tech SaaSベンチャーとして最大級のシリーズB調達を成し遂げている。国内でも、CO2算出、削減管理、TCFDなどの国際基準の報告形式に対応したアウトプットも提供する、zeroboardが2021年に設立され、注目を浴びている。その他にも、フランスのSweepや日本のbooost technologiesも参入している。

水素製造

画像クレジット:Sunfire

水素技術もClimate Techでの注目領域である。日本では、グリーン成長戦略に水素が重点分野として掲げられている上、官民連携して水素サプライチェーンの構築に注力している。

CB Insightsによると2021年8月時点のグローバル水素投資合計は前年比4倍弱の6億9400万ドル(約797億円)だった。その中で、水素バリューチェーン上、川上に位置する「製造」、そして川下に位置する「利用」に企業が集中している。今回は前者のうち、スタートアップ例を挙げたい。

前述の資金調達額の半分ほどがこの過程に充てられていた。水素は水などから抽出されるべきもので、様々な方法で実施可能である。その中で、注目しているスタートアップ数社を挙げる。1社目は高温で電気分解技術を開発するドイツのSunfire。再エネ電力、水蒸気、回収したCO2などから、再生可能な水素(e-fuel)、水素、そして一酸化炭素の混合合成ガスを生成している。CCUSの要素もあることから、製油所から自動車会社、航空会社など、幅広いセクターにおいて応用されている。

次に、食品廃棄物や再生可能エネルギーから水素製造(Waste-to-Energy)を実践するElectro-Active Technologiesがある。特許取得済みの微生物及び電気化学的プロセスを用いて、効率的に有機廃棄物を電子と陽子に分解し、水素を製造する方法は、水の電気分解よりも2倍以上効率的に水素製造を可能にする。他にも、水素分離膜を用いるSygyzy、電極を用いた水分解を開発するH2Pro、バイオマスや廃棄物から水素製造を行うSGH2なども挙げられる。

エネルギーマネジメント

エネルギーマネジメントとは、住宅、工場、ビルなど、建物や施設におけるエネルギー状況を把握し、効率的にエネルギー使用を改善していく方法である。主にBEMS(Building Energy Management System)やHEMS(Home Energy Management System)といった名称が知られており、日本でも普及しているが、本記事では注目したい事例を挙げる。

1.工業利用

フランスのMetronは工場などの施設内の機械の稼働状況や温度、湿度、生産量のデータを集約し、AIが工場の各種設備の最適運用パターンをアドバイスし、工場のエネルギー消費を最適化している。すでに日本でも、NTT グループが同社と事業提携し、工場の生産ラインのコスト最適化を実現し、省エネ・コスト削減に貢献している。他にも、分散型エネルギープラットフォームと卸売市場と連携するVoltusや、工場の設計段階からエネルギー使用を最適化するSkyven Technologiesも注目されている。

2.住宅・商業施設利用

Cove.toolの建築設計最適化を行うソフトウェア(画像クレジット:Cove.tool

商業施設は世界のGHG排出量の4番目に多く貢献しているとされている。その中でcove.toolは建築家が同社のプラットフォームに建築物の詳細を入力すると、空調設備、建築材料、再エネ(太陽光発電など)の最適化方法を提案することを可能にしている。2021年12月のシリーズBラウンドには、俳優のRobert Downey Jr.(ロバート・ダウニーJr.)も参加した。

また、BlocPowerは学校や老朽化した中型規模のビルのエネルギー性能を管理・分析している。省エネ型冷暖房設備のアップグレードも支援する。空調シェア世界一のダイキン工業ともパートナーシップを結んでおり、同社のサービスを利用した企業に向けて設備更新の際のソリューション提供をしている。

3.プラント・設備効率化

また、エネルギーマネジメントには再生可能エネルギー設備などの最適化を図るものもある。例えば、LeapはEV、蓄電池、大型冷蔵設備などといったDERをクラウド上で管理するVPPオペレーターである。DERを束ね、同社のSaaSプラットフォームを通じて卸売市場に入札することを可能にしている。2021年11月、日本のClimate tech企業ENECHANGEがファンドを通じて同社に出資をした。

他にも、風力発電設備の効率化を行うIoT会社WindEsco、水力発電設備の効率化を図るHydrogridも、設備レベルでエネマネを実施している。

ここで紹介した複数事例は、Climate Tech全般のほんの一部である。

10年前から技術の進歩により、ハードのみならず、ソフト面でのイノベーション促進を通じてCNに向けて更なる加速化に期待したい。

編集部注:本稿の執筆者は島田弓芙子(Yuko Shimada)。日本企業と海外スタートアップの新規事業創出を手がけるスクラムスタジオで、脱炭素・サステナビリティのプログラムを担当。それ以前は、デロイトにて再エネや電力のアドバイザリー事業、ムーディーズにて国内電力・自動車・商社の格付分析業務に従事。ジョージタウン大学卒、コロンビア大学大学院修了。

水素の力で家庭の暖房を脱炭素化するModern Electronが約34.7億円を調達

地球上のエネルギーの多くが熱を生み出すために使われているが、実際はそれだけでなく、莫大な量のエネルギーが無駄に使われ、またCO2などの副産物が大気中に放出されている。こういった状況を変えるため、家庭やビル内で排出量を回収してクリーンな水素を生成するという新たなシステムを開発したのがModern Electron(モダンエレクトロン)だ。今回同社はシリーズBで3000万ドル(約34億7000万円)を調達しており、この資金を使ってその名を世に広める計画である。

住宅やマンション、オフィスなどの暖房には天然ガスを使うのが一般的だ。ガスを燃やすと、熱、二酸化炭素、水が発生するというとてもシンプルなプロセスで、熱はそのまま使用され、その他のものは捨てられていくという仕組みである。

しかし、Modern Electronの共同創業者兼CEOであるTony Pan(トニー・パン)によると、これはとても便利な方法ではあるものの、理想的ではない(確かに石油や石炭に比べればはるかにましなのだが)。

「熱を得るためだけに燃料を燃やすというのは、物理学的に見ても非常に無駄が多いシステムです。天然ガスや石炭、バイオ燃料を発電所で燃やすとしたら、まず電気を作るはずです。電気は熱の約4倍の価値があるからです。しかしなぜそうしないかというと、発電所の技術を商業施設や住宅のレベルまで縮小することができないからです。この損失は100年前から知られていました。熱と電気を生み出すことができれば、それは世紀の発明と言えるでしょう」。

2つの新しい技術を組み合わせることで、パン氏はその世紀の発明を実現したいと考えている。

1つ目の技術は熱電変換器と呼ばれるもので、シアトル地区を拠点とするModern Electronが初めに取り組んだものである。ソーダ缶ほどの大きさで、火炉で発生した熱を電気に変える、コンパクトかつ効率的な変換器だという。

もう1つは、デビューを目前に現在もまだ開発中の「Modern Electron Reserve(モダンエレクトロンリザーブ)」と呼ばれるもので、大部分がCH4(メタン)である天然ガスを、燃やすのではなく固体の炭素(黒鉛)と水素ガスに還元するというものだ。ガスが炉に送られて燃やされると熱とエネルギーに変換され、その後黒鉛は回収されて廃棄または再利用されるという仕組みである。

画像クレジット:Modern Electron

私もそうだったのだが、ここに複数の変換やプロセスを導入すると、熱力学的にシステム全体の効率に重大な影響を及ぼすのではないかと疑う読者もいるかもしれない。

「もちろんコストがかからないという訳ではありません」とパン氏。「CO2を大気中に放出しないために、その発熱反応(ガスを燃やすこと)を起こさせません。しかし、それを熱と電力に使えば、電力は熱よりも価値が高いため経済的には互角になります。つまり、余分なコストを補助することができるのです」。

実際、ユーザーにとってガスの使用量が増えることはない。通常なら他の形で家から出ていたエネルギーがシステムに残り、電力需要を簡単にカバーできるのである。

この反応で生成される炭素については、ちょっとした発想の転換が必要だ。現在の暖房システムは魔法のようなもので、スイッチを入れれば家が暖まり、請求書が届く。ところがModern Electronの技術を搭載したシステムを使っていると、毎日1〜2kgの黒鉛(純粋な炭素の粉)が出てくることになる(約1リットル、ちりとり1杯分)。

黒鉛の山。そう、あなたの炉からこれが毎日放出されるのである(画像クレジット:Modern Electron)

こんなものを捨てなきゃいけないのは気持ち悪い、とお思いだろうか。しかし実際、すでに我々は毎日これを大気中に放出しているのである。パン氏はこれを「空の巨大なゴミ捨て場」と呼ぶが、我々は最初からずっと、この炭素を空気中に捨てていたのである。同社の開発により、自分の二酸化炭素排出量をより簡単に見ることができるようになったというだけだ(ただしこぼさないように注意が必要)。

この純粋な炭素の粉は鉛筆の削りカスのようなもので、いわゆる毒性はない。固形物のため、たとえどこかのゴミ捨て場に置かれていたとしても、数百年、数千年の間炭素を有効に封じ込めることが可能だ。さらに、オフィスや病院のように多くの熱を使う施設では、十分な量の炭素固形物が生産されるため、回収に便利な場所に置いてそれを利用できる産業に売ることもできるようになるだろう。

Modern Electronは暖房と電気システム全体を置き換えようとしているわけではない。例えば熱をほとんど必要としない夏場の民家では、それに応じて発電量も少なくなるとパン氏は指摘する(送電網の柔軟性を確保するために電気システムを多少変更する必要があるが、全面的な変更ではないという)。

画像クレジット:Modern Electron

使用する熱の脱炭素化というのが同社の目的であり、一から構築するのではなく既存のHVAC(冷暖房空調設備)業者と統合したいと同社は考えている。熱電変換器は容積を増やすことなくすぐに取り付けられ、ガスから水素への変換器も他の小型機器のサイズ感と何ら変わらない。家庭だけでなく、ガスを大量に消費するほどの規模でありながらも大規模な産業インフラやBloom(ブルーム)のような燃料電池技術を利用するほどではない建物にも脱炭素化の大きなチャンスがあるとパン氏は話している。例えば熱需要の高い中規模の産業や、蒸気生産業もそれに該当するだろう。

EUでは新たにできる炉やボイラーに対する水素対応が義務付けられることとなったため、タイミングは良い(古い炉も比較的簡単に変換できる)。しかし、天然ガスからの切り替えに必要な規模の水素経済が世界的に実現する兆しは未だない。その場で変換作業ができ、損失はほとんどなくメリットも大きいため、この技術が無数の建物に熱を送るための新たなデフォルトになる日がいつか来るかもしれない。スタートアップとしては出だしも好調で、だからこそ同社は継続的な投資を得ることができたのだろう。

3000万ドルのBラウンドでは、Google X(グーグルエックス)の元責任者であるTom Chi(トム・チー)氏が共同設立したファンドのAt One Ventures(アットワン・ベンチャーズ)をはじめ、Extantia(エクスタンティア)、Starlight Ventures(スターライト・ベンチャーズ)、Valo Ventures(ヴァロ・ベンチャーズ)、Irongrey(アイロングレイ)、Wieland Group(ウィーランド・グループ)などが新たに参加している。また、以前からの投資家であるBill Gates(ビル・ゲイツ)氏(財団ではなく個人)とMetaPlanet(メタプラネット)も投資を継続・拡大している。

今回の資金は製品開発の継続の他、大手HVAC企業とのパイロットテストに使われる予定で、来年には運用が開始されているはずだとパン氏は話している。また、特にシアトル地域では人材を募集していると同氏は付け加えている。

もしModern Electronの技術が主流になり、石油や石炭からの脱却が進めば、天然ガスがよりクリーンで実行可能な(そしてすでに世界的に大きな存在感を示している)太陽光や風力などの再生可能エネルギーの補完物になる日が来るのかもしれない。

画像クレジット:Modern Electron

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

お手頃な新技術でクリーンな水素製造を目指すDibiGasが約4.2億円調達

多くの産業プロセスの中心である水素は、将来主要なエネルギーエコシステムに組み込まれる可能性を有している。しかしながら、水素を分離・貯蔵するプロセスは、エネルギーロスが多く、コストも高い。今回シードラウンドで360万ドル(約4億2000万円)を調達したDiviGas(デヴィガス)は、既存の方法を凌駕する新しい技術でクリーンな水素製造ビジネスを実現し、新たなグリーン経済を推し進めようとしている。

一般的に、水素はクリーンで非常に便利な元素と考えられているが、その製造には多くの「クリーンではない」産業プロセスが関わっている。例えば、石油精製やプラスチック製造の過程ではさまざまな炭化水素や混合ガス、化学物質が排出され、そういった排出物から水素を分離するためにはさらなる処理とエネルギーが必要である。

化学反応よりもクリーンでシンプルな方法として、水素分離膜やフィルターを使って、水素ガスや二酸化炭素ガスを他の物質から分離する方法がある。しかしながら、これらの分離膜やフィルターは高温では機能せず、低圧で分離して得られたガスの一部は再加圧する必要があり(コストがかかる)、分離膜自体も一般的な酸性ガスの存在下では急速に劣化する。

水素製造産業はとてつもなく大きいが、現在のところ高価でエネルギー消費の多い選択肢と、安価で限定的な選択肢しかない。シンガポールにあるSOSV(エスオーエスブイ)のインキュベーターであるHAXでお互いを知ることとなったDiviGasの創業者2人は、このような弱点を持たない第3の選択肢を提供しようとしている。

同社はオングストローム(ナノメートルの10分の1)スケールの新しい「中空糸高分子膜」を設計したと主張する。原子サイズ(1オングストローム程度)のフィルターを設計したという意味ではない。このサイズの機能的特徴が、望ましい高度に分離された結果を生み出すことができるのだ。この場合は、ガスにわずかに異なる圧力をかけることで水素ガスと二酸化炭素ガスを分け(ダイバート)、分離(アイソレーション)することができる。

画像クレジット:DiviGas

同社の水素分離膜技術では、膨大な数の繊維を束ねてチューブを作り、そこにガスを送り込むだけ。化学反応は必要としない。他の分離膜とは異なり、この新しい分離膜は150度以下の高温でも機能する。硫黄と塩素の混合ガスに含まれる一般的な酸性化合物にも耐性があり、腐食性の高い、処理されていないガスを劣化することなく処理できる。また、分離された物質の純度に影響する選択性、対応できる圧力に影響する透過性という基本的な性能では、従来の分離膜と同等以上の性能を持つ。

DiviGasの技術は既存の分離膜技術と原理的には同じなので、最小限の作業でDiviGasの水素分離膜を導入できる。また、同社の水素分離膜で使用する繊維の製造は簡単ではないが、ことさらに特殊なものではなく、既存のプロセスが多く利用されている。共同創業者かつCTO(最高技術責任者)であり、新素材の生みの親でもあるAli Naderi(アリ・ナデリ)氏が説明するように、新素材はさまざまな最先端の技術革新の成果であり、その結果として製造も難しくない。

ナデリ氏はメールで次のように説明する。「二層構造の中空糸膜の開発では、経済性を確保するために、選択層(=外層)に使用する高価な機能性材料をできるだけ少なくして、機械的支持層(=内層)には市販されている安価なポリマーを使用しました。この膜は、標準的な紡糸ラインをカスタマイズして使うことで、同程度の価格で商業的に製造することができます」。

画像クレジット:DiviGas

共同創業者でCEOのAndre Lorenceau(アンドレ・ロレンソー)氏によると、よりシンプルでクリーンな水素と二酸化炭素の製造が可能であろうという同社の見通しは、業界関係者から非常に高い評価を受けているという。

「この製品を数千万個提供できるのはいつごろか、という問い合わせがきています。今回の資金調達ラウンドは、問い合わせに応えるためのものです」とロレンソー氏。

今回の資金は、メルボルンにパイロットスケールの工場を建設するために使用され、工場は2022年3月には稼働を開始する予定である。現在のところ、デモ用のユニット(分離膜に使用する繊維の束)を1つ作るのに数カ月かかっているが、クライアントによっては数百、数千のユニットを定期的に必要とするケースも想定される。1週間で製造できるようになれば、より大規模なデモを行ったり、小さな施設で実際に運用したりすることが可能になる。そうすれば、実際の注文を確保して、さらにその収益を本格的な製造プロセスに充当できるようになるだろう。

「今は(従来の分離膜の)2〜3倍の価格ですが、クライアントは気にしていません」とロレンソー氏(数量が増えれば価格は下がるだろう)。「『私が知っている技術、私が知っている製造工程、それをこの価格で提供してくれるなら最高だ』といってくれます。まだ販売していないのに、そういってくれるクライアントが大勢います」。

競合他社が動きの遅い企業や停滞しているスタートアップ企業ばかりなので、クライアントがせっつくのはそのせいだろう、とロレンソー氏は続ける。

「製材の大企業では専門の部署があり、(水素製造技術の)改善を行っていますが、時代遅れです。次世代のソフトウェア技術を構築するのがコンピュータサイエンスの旧態依然の博士たちではないのと同じ理由です。常に次世代の「ヘンなもの」にチャレンジする必要があります」「(停滞している)スタートアップも、目まぐるしく移り変わるベンチャーキャピタルの世界に慣れていない研究者たちです。優れた研究成果があっても、製造しようとすると手のひらサイズのものを作るのに10億ドル(約1100億円)もかかります。「製造可能性を考慮して……」と口ではいいますが、まったく考慮していません。だから私たちはこのようなスタートアップや大企業を追い抜くことができるのです」。

今回の360万ドルのラウンドは、Energy Revolution Ventures(エナジーレボリューションベンチャーズ)とドイツの工業用フィルターメーカーであるMann + Hummel(マンウントフンメル)が共同で主導した。ラウンドには、Entrepreneur First(アントレプレナーファースト)、Union Square Ventures(ユニオンスクエアベンチャーズ)のAlbert Wenger(アルベルト・ウェンガー)氏、SOSV/HAX、Amasia VC(アメイジアブイシー)、Volta Energy Technologies(ボルタエナジーテクノロジーズ)、Climate Capital(クライメイトキャピタル)の他、数名の個人投資家が参加した。

画像クレジット:Shutterstock

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

燃料補給なしで地球の裏側まで飛行する水素エンジン搭載機を設計者は目指す

カーボンフリーの輸送手段を開発する上で、最も困難なものの1つが飛行機だ。電気飛行機の実用化には、バッテリーの高性能化と軽量化が必要となる。また、水素を動力に利用する飛行も可能であり、ある研究グループは、そんな航空機がどんな形になるかを描いてみせた。

Aerospace Technology Institute(ATI)が英国政府の事業として行っているFlyZeroプロジェクトは、液体水素を動力とする中型航空機のコンセプトを発表した。乗客279名のその飛行機は、ロンドン-サンフランシスコ間やロンドン-オークランド(ニュージーランド)間を燃料補給の必要なく、ノンストップでフライトする。翼長54mでターボファンエンジンを2基搭載、「速度と快適性は現在の航空機と同じ」だが、炭素排出量がゼロだ。

ATIによると、このコンセプト機は胴体後部に低温燃料タンクがあり、水素をマイナス250度で保存する。胴体前方の2つの小さな「チーク」タンク(側面タンク)が、燃料使用時に機のバランスを保つ。

しかし、商用水素飛行機が実用化されるまでには、まだあと数年はかかる。燃料補給のためのインフラはないが、水素は高価であり、ケロシン系の燃料に比べて機上での保存は難しい。しかし、このタイプの飛行機は、決して夢で終わるものではない。

ATIの予想によると、2030年代の半ばには効率の良い水素飛行機が現在の飛行機よりも経済的な選択肢になる。それは他の産業でも水素の採用が増えるからだ。需要が増え、価格は下がる。

FlyZeroプロジェクトは2022年初頭に詳細を公表する計画だ。それには地域航空用のナローボディ機とミッドサイズ(中型機)、経済的および市場的見通し、必要とされる技術のロードマップ、持続可能性の評価、などについてのものだ。。

編集者注:本記事の初出はEndgadget。執筆者のKris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Aerospace Technology Institute

原文へ

(文:Kris Holt、翻訳:Hiroshi Iwatani)

水素ガス用次世代複合材高圧タンクの開発でSPACE WALKERがエア・ウォーターおよびエア・ウォーター北海道と基本合意

水素ガス用次世代複合材高圧タンクの開発でSPACE WALKERがエア・ウォーターおよびエア・ウォーター北海道と基本合意

持続可能な宇宙輸送手段として有翼式スペースプレーンの開発を進めるスペースウォーカーは、9月15日、産業ガス、医療、物流、化学と幅広い分野で水と空気に関わる事業を展開するエア・ウォーターおよびエア・ウォーター北海道と、水素ガス運搬用の次世代型複合材高圧タンク開発のための基本合意締結を発表した。

今回の合意が目指すのは、タイプ4、タイプ5と呼ばれる金属を使わない軽量な高圧水素タンクの技術開発。地上での水素ガスの輸送と水素ステーションなどの供給施設での使用を想定した新しいタンクを開発するのが目的だ。エア・ウォーターは1970年代からロケット開発に携わっており、高圧ガスの製造、運搬、貯蔵に関して豊富な知見を有している。

次世代複合材高圧タンク・タイプ4

次世代複合材高圧タンク・タイプ5

 

水素ガス用次世代複合材高圧タンクの開発でSPACE WALKERがエア・ウォーターおよびエア・ウォーター北海道と基本合意スペースウォーカーとエア・ウォーター、エア・ウォーター北海道とは、2020年9月にスペースウォーカーのスペースプレーン運用(燃料調達、バイオ液化メタンのロケット燃料利用に関する実証、射場の地上設備)に関する基本協定を締結し、北海道大樹町でのスペースプレーン打ち上げを目指しつつ、宇宙開発を通じた地域の発展に貢献するとしている。こうした宇宙技術開発の一方で、脱炭素社会の実現に向けた技術開発にも注力する意味で、今回の合意となった。

それに先立ちスペースウォーカーは、今年7月に次世代複合材高圧タンクの技術を持ち、宇宙開発で協力関係にあったCoMReD(コムリード)を吸収合併し、体制を固めている。金属を使わないタイプ4、タイプ5の容器で「耐久性、長寿命化と軽量化の両立を極限まで追求します」とスペースウォーカーは話しているが、同時にこれは「ロケット開発でもっとも重要となる軽量化の技術のひとつ」であり「宇宙と地球のデュアルユースが可能な次世代の複合材高圧タンク」とのことで、地上と宇宙と両方の展開が期待される。

現代自動車グループが2028年までに全商用車に水素燃料電池モデルを投入へ

Hyundai Motor Group(現代自動車グループ)は持続可能性のための最優先エネルギーソリューションとして水素を支持している。今後数年内に展開する新しい燃料電池システムで、韓国の自動車メーカーである現代自動車グループは2028年までに同社の全商用車に水素燃料電池バージョンを提供すると明らかにした。

同グループは米国時間9月7日、同社のHydrogen Waveカンファレンスのライブストリームで水素を活用した未来戦略を発表した。同グループの代表取締役副社長で燃料電池センター責任者のSaehoon Kim(セフン・キム)氏は、2030年までにEV(電気自動車)バッテリーに匹敵するコスト競争力を獲得するのが目標だ、と述べた。

同社はまた、高性能で後輪駆動の水素スポーツカーVision FKの詳細も明らかにした。Vision FKは停止した状態から時速100kmに達するまで4秒もかからない500kWの燃料電池システムを搭載し、航続距離は600kmだ。生産開始時期については明らかにしなかった。

大半の自動車メーカーが乗用車EVと商用車EVの展開を始めているが、水素タイプはまだニッチなマーケットだ。しかし欧州、中国、米国が野心的な二酸化炭素排出削減目標を設定したのに伴い、成長中のマーケットでもある。トヨタ自動車、BMW 、Daimler(ダイムラー)も程度の差こそあれ、EVの開発を続けながら燃料電池テクノロジーを受け入れ始めた。この点において、現代自動車の水素への傾倒はEVへの傾倒を阻んでいない。現在のような気候状況では、あらゆるソリューションが必要だ。最高の燃料が選ばれるといい。

イベントでキム氏はまた、2023年に2種の水素燃料電池パワートレインを立ち上げる、と発表した。同社は2040年までに水素を主流にしたいと考えている。現代自動車の水素燃料スタックの第3世代は、乗用車向けが出力100 kW、商用車向けは200kWとなる。

現代自動車、Kia(起亜自動車)、Genesis(ジェネシス)を傘下にもつ現代自動車グループは現在、燃料電池バス「Elec City Fuel Cellバス」を展開していて、韓国で115台が走っている。また燃料電池トラック「Xcient Hyundai」も展開中で、こちらは45台が2020年スイスで導入された。

現代自動車は燃料電池SUVの「NEXO」を誇っていて、水素で駆動する多目的車両モデルとともに次のモデルを2023年に投入する計画だ。同社はミュンヘンで開催中のIAAモビリティカンファレンスで、大型の燃料電池で走るSUVを2025年以降に発売し、2030年までにさらに4種の商用車を投入する、とも発表した。同社は緊急車両や船舶、貨物トラック、トラム、フォークリフト、その他にも産業で使用される車両など異なるユースケース向けに燃料電池テクノロジーを提供することを目指している。

「燃料電池は水素のメリットをさまざまな分野の世界中の人に届けることができる実証済みのテクノロジーです」とキム氏は述べた。「基本的に燃料電池はエンジンのような発電機です。電気を蓄えるバッテリーとは異なります。燃料電池システムは発電する燃料電池スタック、水素供給システム、空気供給システム、熱管理システムで構成されます。水素と酸素を合わせることで発電し、内燃機関車両のエンジンと似ていますが、二酸化炭素を排出しません」。

同氏は続けて、燃料電池システムが化学反応を通じてエネルギーを生み出し、受動的にエネルギーを蓄えるだけのバッテリーと違って水素燃料が供給される限りエネルギーを生み出し続ける、とも説明した。現代自動車は生産、貯蔵、燃料電池テクノロジー、インフラなど、水素分野で成功するために必要なエコシステムの構築に取り組んでいる、と述べた。インフラの多くは、水を酸素と「グリーン」な水素に分解するためのクリーンパワーを生み出すのに必要な再生可能エネルギーを生産する太陽光と風力の発電施設となる。

独自のR&Dに加えて、現代自動車グループはH2Proのような水素スタートアップにすでに投資していて、政府が協力的で再生可能エネルギーリソースが豊富な国でグリーンな水素インフラを確立する計画も発表している。

この分野における取り組みの多くは、2040年までに二酸化炭素排出レベルを2019年の75%以下に削減し、2045年までにカーボンニュートラルになるという発表に続くものだ。現代自動車グループは全車両の30%が2030年までにゼロエミッションになり、全車両の80%が2040年までにバッテリー電気自動車と燃料電池車になると見込んでいる。

関連記事
電動セミトラックメーカーのNikolaがボッシュと水素燃料電池モジュールの製造で提携
電動航空機用水素燃料電池システムの開発でHyPointとPiaseckiが提携
ジャガー・ランドローバーがディフェンダーベースの水素燃料電池EVを開発へ
画像クレジット:Hyundai Motor Group

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

電動セミトラックメーカーのNikolaがボッシュと水素燃料電池モジュールの製造で提携

苦境に陥っている電動トラック開発会社のNikola Corp.(ニコラ)は、Bosch(ボッシュ)と水素燃料電池モジュールに関する新たな契約を結んだ。このモジュールは、Nikolaが開発した水素を燃料とする2台のセミトラック、短距離用の「Nikola Tre(ニコラ・トレ)と長距離用スリーパー「Nikola Two(ニコラ・トゥー)」の動力源として使用される。

「今回の発表は、ボッシュとの数年にわたる協力関係の結果です」と、NikolaのMark Russell(マーク・ラッセル)CEOは声明の中で述べている。「現存する最良の選択肢を徹底的に分析した結果、ボッシュとこの戦略的な関係を結ぶことができたことを、私たちは誇りに思います」。

このニュースは、これまで必ずしも順調ではなかった両社の関係に明るい兆しをもたらすものだ。2019年にボッシュは、この水素トラックの新興企業に少なくとも1億ドル(約110億円)を投資したが、翌年には保有する株式を減らしている。ボッシュは2020年、Nikolaの欧州事業に燃料電池を供給することも発表している。

Nikolaは、今回の提携の金銭的条件や燃料電池システムの生産規模に関する詳細を明らかにしなかった。Nikolaはアリゾナ州クーリッジにある同社の施設で、ボッシュからライセンスを受けた水素燃料電池のパワーモジュールを組み立てる。ボッシュはNikolaに、燃料電池スタックや電動エアコンプレッサー、コントロールユニットなどのキーコンポーネントと併せて、完全に組み立て済みのパワーモジュールも供給すると、米国時間9月2日に発表された声明で同社は述べている。パワーモジュールの組み立てをサポートするために、Nikolaは2023年までにアリゾナ州の施設を5万平方フィート(約4650平方メートル)拡張し、最大で50人の従業員を新たに雇用すると述べている。また、このトラックメーカーは、フェニックス近郊にある本社のエンジニアリングおよびテスト施設の拡張も計画している。

Nikolaの広報担当者によると、この新しい契約は、燃料電池システムおよびコンポーネントに関する他社との関係に影響を与えるものではないとのこと。その中には、2020年11月に発表したGeneral Motors(ゼネラルモーターズ)のHydrotec「ハイドロテック」燃料電池システムに関する拘束力のないMOU(了解覚書)も含まれる。

Nikolaは2020年6月、特別買収目的会社であるVectoIQ Acquisition Corp.(ベクトIQ・アクイジション)との合併により上場を果たした。今月初め、同社は投資家に対し、年内に計画している電動セミトラックの生産台数の見通しを、50~100台から25~50台に減らすと発表したが、同社の幹部は、すでに5台のアルファ版と9台のベータ版を含む14台の試作車を製作したと述べている。

一方、Nikolaの元CEOで創業者のTrevor Milton(トレバー・ミルトン)氏は、証券詐欺と投資家を欺いた罪で裁かれるまで、同氏が所有するユタ州の牧場に居むことを刑事裁判所に約束している。

関連記事:Nikolaが電動セミトラックの納車見通しを下方修正、バラ色とはいえない予測は収益面でも続く
画像クレジット:Nikola Corp.

原文へ

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とARPChem(人工光合成化学プロセス技術研究組合)は8月26日、100m2規模の「太陽光受光型光触媒水分解パネル反応器」と「水素・酸素ガス分離モジュール」を連結した光触媒反応システムを開発。世界初の実証実験に成功したことを発表した。この実験結果は8月25日公開の英科学誌「Nature」オンライン速報版に掲載されている

これは、2019年8月から1年以上にわたって実施された自然太陽光下での光触媒パネル反応システムの実証実験。水を分解して水素と酸素の混合気体を生成し、そこから高純度のソーラー水素を分離・回収するというもの。ソーラー水素とは、太陽光で水を分解して水素を製造する技術のことで、クリーンで持続可能性のあるエネルギーとして注目されている。今回の実験では、ソーラー水素製造を大規模化しても安全性や効率性が保たれることが実証され、実用化とさらなる大規模化への道筋が見えてきた。

このプロジェクトは、NEDOとARPChemが、東京大学、富士フィルム、TOTO、三菱ケミカル、信州大学、明治大学との協力のもとに進めてきたもので、光触媒パネル反応器の開発、分離膜の開発、合成触媒の開発という3つのテーマで構成されている。

人工光合成プロジェクトの概要(今回の成果は「光触媒開発」のテーマ)

  • 光触媒開発:太陽光エネルギーを利用した水分解で水素と酸素を製造する光触媒およびモジュールの開発
  • 分離膜開発:発生した水素と酸素の混合気体から水素を分離する分離膜およびモジュールの開発
  • 合成触媒開発:水から製造する水素と発電所や工場などから排出する二酸化炭素を原料としてC2~C4オレフィンを目的別に合成する触媒およびプロセス技術の開発

光触媒パネル反応器の実証

光触媒パネル反応器は、ひとつのモジュールが3m2。透明なガラス板の下に、25cm角のチタン酸ストロンチウム光触媒シートが並べられている。ガラスと光触媒シートとの間には0.1mmの隙間があり、そこに水を流し込むことで反応が起きる。そこで発生した水素と酸素の気泡がスムーズに流れ、気泡の滞留によって光が散乱しないようにすることが重要となるが、このシステムでは、光の散乱の影響はほとんどなかった。

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

光触媒パネル反応器の基本単位(写真左)と紫外光照射時の水分解反応時の様子(写真右)

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

3m2規模の光触媒パネル反応器(左)と100m2規模の光触媒パネル反応器から生成した水素と酸素の混合気体(右)

このシステムでは紫外光のみに反応するが、量子収率(光子ひとつが反応を起こす割合)がほぼ100%と高効率を示した。また実験室では、水分解の活性が、初期の8割以上を2カ月以上維持できた。これは、日本の屋外条件では約1年の耐久度に相当する。この光触媒シートは、光触媒を基板にスプレーするだけで簡単に作れるとのこと。

疑似太陽光を昼夜連続照射したときの活性の時間変化

混合気体からのソーラー水素の分離

光触媒パネル反応器で発生した水素と酸素の混合気は、ガス分離モジュールに送られる。そこでは、水素は分離膜を通過し、酸素は通過できずに残留する。今回の実験では、開発中の分離膜ではなく、市販のポリイミド中空糸分離幕を使用したが、擬似実験では、1日分離を行った結果、混合気は、水素濃度約94%の透過ガスと酸素濃度約60%の残留ガスに分離でき、水素の回収率は天候、季節に関わらず73%を達成した。

100m2規模の光触媒パネル反応器に接続されたガス分離モジュールの性能

合成触媒

合成触媒は、水分解で作り出した水素を、工場や発電所から排出された二酸化炭素と反応させて、C2からC4オレフィン(高分子化合物)を目的別に合成するというもの。これはプラスティックの原料として利用される。

光触媒パネル反応システムの安全性試験

ソーラー水素の製造では、非常に燃えやすい水素の管理が課題になるが、1年以上にわたるこの屋外実験では、1度も自然着火や爆発は起きなかった。また、爆発リスクの確認のために、光触媒パネル反応システムの混合気体が存在する場所に意図的に火を点けてみたが、光触媒パネル反応器、ガス捕集用配管、中空糸分離膜を含むガス分離モジュールともに破損は確認できなかったという。

今後は、このシステムの社会実装を目指して、光触媒を可視光に対応させて太陽光エネルギーの変換効率を5〜10%に引き上げ、低コスト化、さらなる大規模化、ガス分離システムの性能とエネルギー効率の向上を目指すとしている。

太陽光を凝縮し1000度以上の状態を生み出すHeliogen、水素の無炭素生成にも応用

太陽の光は偉大なるエネルギー源だが、卵が焼けるほど熱いことは滅多にないし、鋼鉄を溶かすなんて、なおさら難しい。そこでHeliogenは、ハイテクを駆使する凝縮ソーラー技術で、そんな状態を変えようとしている。同社はこのほど1億ドル(約111億円)ほどの資金を調達して、温度が摂氏1000度に達する太陽炉を作り、協力企業の鉱山や精錬所でテストしようとしている。

TechCrunchは2019年の同社のデビュー時にHeliogenを取り上げたことがあり、その記事の細部は、今でも同社における技術の中核部だ。たくさんの鏡の集合をコンピュータービジョンの技術を使って細やかにコントロールすることで、それらは太陽光を反射、凝集して摂氏1000度以上の温度になる。これまで存在したソーラーコンセントレーターの2倍近い能力だ。創業者のBill Gross(ビル・グロス)氏は当時「殺人光線のようなものだ」と説明した。

この温度であれば、鉱業や精錬業など、いろいろな用途で化石燃料やその他のレガシーシステムに代わることができる。Heliogenのコンセントレーターを使うと、日中は太陽光を利用し、夜だけ別の熱源を使えばよい。燃料費を節約できるだけでなく、グリーンな未来に近づく。

この2つのゴールがあるため現在、電力や都市ガスなどの公共事業や大手鉱業企業、製鉄企業などが同社の投資家になっている。HeliogenはPrime Movers Labのリードで2500万ドル(約27億7000万円)のA-2を調達したが、もうすぐもっと大きな8300万ドル(約91億8000万円)の、彼らの用語でいう「橋を延長するラウンド」が控えている。それには鉱山業のArcelorMittalやEdison International、Ocgrow Ventures、A.T. Gekkoなどが参加する。

資金は、Heliogenが「Sunlight Refinery(太陽光の精錬)」と呼ぶ技術開発の継続と、実用規模での現場稼働展開に使われる。同社は「設計とコストの改良を常時行い、効率アップと費用低減を図っている」と声明で述べている。

パイロットサイトの1つが、近くカリフォルニア州ボロンに作られる。そこにはRio Tintoのホウ砂採掘場があり、正規工程の一環としてHeliogenが使われると2021年3月の合意書にある。もう1つのArcelorMittalとの合意書では「いくつかの同社製鉄工場でHeliogenの製品のポテンシャルを評価する」となっている。それらの場所は、米国、MENA(中東北アフリカ)、アジア太平洋地区が計画されている。

鉱業や精錬所以外では、この技術は炭素排出量ゼロで水素を生成することにも利用できる。次世代の燃料供給のための実際に機能する水素インフラストラクチャーの構築に向けて、大きな一歩になるだろう。というのも、現在の水素技術では化石燃料への依存をゼロにできないからだ。それに、無料かつ無炭素で得られる高熱は、その他の産業の工程にとっても有利だろう。

「我々は最も炭素集約度の高い人間活動に取り組むプロジェクトを増やし、地球上のすべての人のためにエネルギーの価格と排出量を下げるという目標に向けて取り組むための資源を与えられています」と、グロス氏はラウンドを発表するリリースで述べた。「私たちの使命を追求し、ポスト炭素経済の実現を可能にする世界的な技術を提供することを可能にしてくれた投資家に感謝します」。

関連記事
希少生物が戻り農作物も育つ日本初の「植生回復」も実現する太陽光発電所の生態系リデザイン事業開始
有機太陽電池をプリント、周囲の光をエネルギーに変えるDracula Technologiesの技術
ガジェット用フレキシブル太陽電池のExegerが41.7億円を調達、搭載ヘルメットとワイヤレスヘッドフォンが発売予定

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Heliogen太陽光水素炭素排出量資金調達

画像クレジット:Heliogen

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ジャガー・ランドローバーがディフェンダーベースの水素燃料電池EVを開発へ

Jaguar Land Rover(JLR、ジャガー・ランドローバー)は、新型SUVであるDefender(ディフェンダー)をベースにした水素燃料電池車の開発を進めており、2022年にはプロトタイプのテストを開始する予定だ。

Project Zeus(プロジェクト・ゼウス)という名のこのプロトタイプ計画は、2036年までにエグゾーストパイプからの排出ガスをゼロにするというJLRの大きな目標の一部だ。またJLRは、2039年までにサプライチェーン、製品、事業全体での炭素排出量をゼロにすることを約束している。

Project Zeusは、英国政府が出資するAdvanced Propulsion Center(英国の低排出技術推進機構)からも一部資金提供を受けている。また、AVL、Delta Motorsport(デルタ・モータースポーツ)、Marelli Automotive Systems(マレリ・オートモーティブ・システム)、UK Battery Industrialization Center(UKバッテリー・インダストリアライゼーション・センター)とも協力して、プロトタイプの開発を進めている。このテストプログラムは、ランドローバーの顧客が期待する性能や能力(牽引やオフロードなど)を満たす水素パワートレインを、どうすれば開発することができるかを技術者が検討できるようにすることを目的としている。

燃料電池は、水素と酸素を組み合わせて、燃焼することなく電気を作ることができる。この水素から発生した電気は、電気モーターの電力として使われる。一部の自動車メーカーや研究者、政策担当者たちは、水素を燃料とするFCEV(燃料電池車)は、短時間で燃料を補給でき、エネルギー密度が高く、寒冷時にも航続距離が短くならないという特徴から、この技術を支持している。この組み合わせが実現するのは、より長い距離を移動できるEV(電気自動車)だ。

FCEVとも呼ばれる燃料電池車は、燃料補給所(水素ステーション)が少ないこともあり、現在はほとんど市場に出回っていない。トヨタのMIRAI(ミライ)はその少ない例の1つだ。

だが国際エネルギー機関(IEA)のデータや自動車メーカーたちの最近の取り組みを見ると、この状況は変わりつつあるのかもしれない。2021年5月、BMWのOliver Zipse(オリバー・ジプシー)会長は、2022年には水素燃料電池を搭載したX5 SUVを少数生産する予定であると述べている。

世界のFCEVの台数は、2019年には前年の約2倍となる2万5210台になったことがIEAの最新データで明らかになった。2019年には落ち込みがあったものの、販売台数では米国がずっとトップで、それに中国、日本、韓国が続いている。

日本は、2025年までに20万台のFCEVを路上で走らせることを目標としており、インフラ面でもリードしている。日本は2019年の時点で113カ所の水素ステーションを設置しており、これは米国の約2倍の数だ。

ジャガー・ランドローバーの水素・燃料電池部門責任者のRalph Clague(ラルフ・クラグ)氏は、声明の中で次のように述べている「私たちは、水素が輸送業界全体の将来のパワートレイン構成において、果たすべき役割を知っています。また、バッテリー式電気自動車とともに、ジャガー・ランドローバーのワールドクラスの車両ラインアップにふさわしい能力と要件を備えた、エグゾーストパイプ排出ゼロのソリューションを提供していきます」。

関連記事
ジャガー・ランドローバーが都市型のライドシェア用電気自動車を発表、2021年の試験運用を目指す
パナソニックが世界で初めて純水素型燃料電池を活用したRE100化ソリューションの実証実験を開始
トヨタ自動車とENEOSが協力し実験都市「Woven City」における水素エネルギーの利活用ついて検討開始

カテゴリー:モビリティ
タグ:Jaguar Land RoverEV水素燃料電池水素

画像クレジット:Jaguar Land Rover

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:sako)

水素貯蔵・発電システムをディーゼル発電機の代わりに、オーストラリア国立科学機関の技術をEnduaが実用化

水素を利用する発電機は、従来のディーゼル燃料発電機に代わる環境に優しい発電機だ。しかし、その多くは太陽光や水力、風力に頼っており、いつでも利用できるとは限らない。ブリスベンに拠点を置くEndua(エンドゥア)は、電気分解によってより多量の水素を生成し、それを長期貯蔵することで、水素を利用する発電機をもっと使いやすくしようとしている。Enduaの技術は、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)によって開発されたもので、CSIROが設立したベンチャーファンドのMain Sequence(メイン・シーケンス)とオーストラリア最大の燃料会社であるAmpol(アンポル)によって商業化される。

Main Sequenceのベンチャーサイエンスモデルは、まず世界的な課題を特定し、次にその課題を解決できる技術、チーム、投資家を集めてスタートアップを起ち上げるというものだ。このプログラムを通じて設立されたEnduaの最高経営責任者には、電気自動車用充電器メーカーのTritium(トリチウム)の創業者であるPaul Sernia(ポール・セルニア)氏が就任し、Main SequenceのパートナーであるMartin Duursma(マーティン・ダースマ)氏とともに、CSIROで開発された水素発電・貯蔵技術の商業化に取り組んでいる。アンポルはEnduaの産業パートナーとしての役割を担うことになる。

関連記事:EV急速充電開発のオーストラリアのTritiumが約1310億円の評価額でSPAC上場へ

Enduaは、Main Sequence、CSIRO、アンポルから500万豪ドル(約4億2000万円)の出資を受けている。同社はまずオーストラリアで事業を展開し、それから他の国々へ拡大していく計画だ。

セルニア氏によれば、Enduaは「再生可能エネルギーへの移行が直面している最大の問題の1つである、再生可能エネルギーをいかにして大量に、長期間にわたって貯蔵するかという問題を解決するために設立された」という。

Enduaのモジュール式パワーバンクは、1パックあたり最大150キロワットの電気を出力できる。さまざまなユースケースに合わせて拡張することが可能で、ディーゼル燃料で稼働する発電機の代わりとして機能する。蓄電池は通常、停電時などに備えたバックアップとしての役割を果たすが、Enduaが目指しているのは、大量に貯蔵できる再生可能エネルギーを提供することで、送電網から切り離されたインフラや、電気が届いていない地域コミュニティが自立した電源を持てるようにすることだ。

「水素の電気分解技術はかなり前から存在していますが、商業市場の期待に応え、既存のエネルギー源と比較になるほどコスト効率を高めるには、まだ長い道のりがあります」と、セルニア氏は語る。「我々がCSIROと共同で開発した技術なら、化石燃料と比べてもコストを抑え、信頼性が高く、遠隔地でも容易に維持できるようになります」。

このスタートアップは、産業界の顧客に焦点を当てた後、小規模な企業や住宅にも手を広げていくことを計画している。「最大の好機の1つは、地域社会や鉱山、遠隔地のインフラなど、これまであまり取り組まれることがなかったディーゼル発電機のユーザーです」と、セルニア氏はいう。「農業分野では、Enduaのソリューションは、掘削機や灌漑用ポンプなどの機器の電源として使用できます」。また、同社のパワーバンクは、太陽光や風力などの既存の再生可能エネルギーシステムに接続することができ、ユーザーは経済的な切り替えが可能であると、同氏は付け加えた。電気分解のプロセスには水が欠かせないが、必要な量はわずかだ。

「電池は出力を調整しながら少しずつ電力を供給できる優れた方法であり、全体的なエネルギー移行計画を補完するものです。しかし私たちは、地域社会や遠隔地のインフラが、信頼できる再生可能エネルギーをいつでも利用できるように、大量かつ長期間にわたって貯蔵できる再生可能エネルギーの供給に注力しています」と、セルニア氏はTechCrunchの取材に語った。

アンポルは、同社のFuture Energy and Decarbonisation Strategy(未来のエネルギーと脱炭素化戦略)の一環として、Enduaと協力している。同社はEnduaの技術をテストして商品化し、その8万社にものぼるB2B顧客に提供する予定だ。ますば年間20万トンの二酸化炭素を排出しているオフグリッドのディーゼル発電機市場に焦点を当てている。

アンポルのマネージングディレクター兼CEOであるMatthew Halliday(マシュー・ハリデイ)氏は「Enduaと関わりを持てることに興奮しています。これは、エネルギー移行を後押しする新しいエネルギーソリューションを発見・開発することによって、顧客価値提案を拡大するという当社のコミットメントの一環です」と、プレスリリースで述べている。

関連記事
イスラエルAquarius Enginesが軽量単純構造の水素エンジンを開発か
パナソニックが世界で初めて純水素型燃料電池を活用したRE100化ソリューションの実証実験を開始
トヨタ自動車とENEOSが協力し実験都市「Woven City」における水素エネルギーの利活用ついて検討開始
EV急速充電開発のオーストラリアのTritiumが約1310億円の評価額でSPAC上場へ

カテゴリー:EnviroTech
タグ:水素電力オーストラリアEnduaAmpolエネルギーエネルギー貯蔵

画像クレジット:Andrew Merry / Getty Images

原文へ

(文:Catherine Shu、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

パナソニックが世界で初めて純水素型燃料電池を活用したRE100化ソリューションの実証実験を開始

パナソニックは5月24日、純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた自家発電によるRE100化ソリューションの実証に取り組むと発表した。工場の稼働電力のための自家発電燃料として水素を本格的に採り入れた実証実験としては、世界初の試みとなる。

RE100(Renewable Energy 100%)とは、事業活動の自然エネルギー100%化を推進する国際イニシアティブ。これに加盟するパナソニックは、滋賀県草津市で家庭用燃料電池エネファームを生産する同社工場に、500kWの純水素型燃料電池、約570kWの太陽電池を組み合わせた自家発電設備と、余剰電力を蓄える約1.1MWh(メガワット時)のリチウムイオン蓄電池を備えた大規模な実証施設を設置し、同工場の製造部門の全使用電力をこれでまかなうことにしている。また、これら3つの電池を連携させた最適な電力需給に関する技術開発と検証も行う。

一般に、RE100の実現方法には自家発電と外部調達の2つがあるが、外部調達の主力となるグリーン電力の購入も環境価格証明書の活用も価格が不安定などの短所がある。また自家発電の主力である太陽光発電も、事業に必要な電力を生み出すためには広大な敷地を必要とすることや、天候に左右されるという短所がある。そこでパナソニックは、3つの電池を組み合わせることで、工場の屋上などの限られたスペースでも、高効率で安定的に電力を供給できる方式を考案した。蓄電池を含めることで、需要に応じた適切なパワーマネージメントが可能になり、工場の非稼働日にも発電量を無駄にしないで済む。

この実証でパナソニックは、純水素型燃料電池の運用を含めたエネルギーマネージメントに関するノウハウの蓄積と実績構築、そして事業活動に必要な再生可能電力を自家発電でまかなう「RE100ソリューション」の事業化を目指す。

今回使用する水素は、再生可能エネルギー由来のグリーン水素ではないものの、ゆくゆくは環境価値証書の活用を含む再生可能エネルギーにて生成された水素を使用し、RE100に対応してゆく予定だ。

関連記事
トヨタ自動車とENEOSが協力し実験都市「Woven City」における水素エネルギーの利活用ついて検討開始
ボルボとダイムラートラックが長距離トラック向け水素燃料電池生産で提携、合弁会社Cellcentric設立
部品サプライヤーBoschが環境規制が強まる中、合成燃料と水素燃料電池に活路を見いだす
日本初、アーティストの発電所から再エネ電気が買える「アーティスト電力」をみんな電力が始動
アップルが世界中の製造パートナー110社以上が製品製造に利用する電力を100%再生可能エネルギーに変更と発表
新技術で天然ガスから水素を生産するC-Zeroがビル・ゲイツ氏の気候テック基金から資金を調達
日立が設備・サービスごとの再生可能エネルギー使用状況をスマートメーターとブロックチェーンで見える化
パナソニックがTesla Gigafactoryの生産ラインを刷新、密度5%増、コバルト使用量減の新型バッテリーを製造へ

カテゴリー:EnviroTech
タグ:SDGs(用語)カーボンニュートラル(用語)環境問題(用語)再生可能エネルギー(用語)水素(用語)燃料電池(用語)Panasonic / パナソニック(企業)日本(国・地域)

ボルボとダイムラーが長距離トラック向け水素燃料電池生産で提携

ライバル同士であるVolvo AB(ボルボAB)とDaimler Truck(ダイムラートラック)が長距離トラック向けの水素燃料電池の生産でタッグを組む。共同生産は開発コストを下げて生産量を押し上げる、と両社は話している。Cellcentric(セルセントリック)という合弁会社は、2025年までに水素燃料電池の「ギガファクトリー」レベルの大規模生産を欧州で行うことを目指す。

両社は合弁会社を通じて燃料電池生産でチームを組むが、トラック生産の他の部分は別のままだ。今後建設されるギガファクトリーの立地場所は来年発表される。工場の生産能力についても明らかにしなかった。

Volvo ABとDaimler Trucksは「ギガファクトリー」という野心剥き出しの言葉を使ったが(工場の大規模な生産能力を表現する、Teslaによって普及した言葉だ)、幹部は目標にいくつかの注意事項を加えた。欧州の水素経済は、欧州連合が充電ステーションや他のインフラのコストをさらに削減したりインフラに投資したりすることにつながる政策的枠組みをつくるかどうかに少なからず左右される、と幹部は記者会見で述べた。言い換えると、水素に投資しようとしているDaimlerやVolvoのようなメーカーは「鶏と卵、どちらが先か」的な問題に直面している。燃料電池の生産をアップするのは、充電ステーション、水素を輸送するパイプライン、そして生産するための再生可能エネルギーリソースを含む水素ネットワークの構築と並行して進められた場合のみ理にかなう。

「長期的に、これは他の全てと同様、ビジネス主導の取り組みでなければなりません」とVolvoのCTO、Lars Stenqvist(ラース・ステンクヴィスト)氏はTechCrunchに語った。「しかしまず第1段階では、政治家からのサポートがなければなりません」

他の欧州トラックメーカーと共に2社は、欧州中に水素充電ステーションを2025年までに約300カ所、2030年までに約1000カ所展開することを求めている。

2社は炭素税や二酸化炭素ニュートラルテクノロジーに対するインセンティブ、あるいはエミッション取引システムのような政策が、化石燃料に対してコスト競争力を持てるようにするのに役立つかもしれない、と示唆した。大型トラックは水素需要においてはわずか10%を占めるにすぎず、残りは製鋼業や化学工業のような産業によって使用される、とも同氏は指摘した。これは、他の分野も水素支持の政策を推進することが大いにありえることを意味する。

新しい合弁会社にとって最大の課題の1つは、水素を電気に変える際の非効率性の低減だ。「それは車両のエネルギー効率を改善するための、トラックにおけるエンジニアリングの中核です」と同氏は話した。「我々の産業のエンジニアのDNAに常にあったものです。エネルギー効率は電動化の世界ではさらに重要になるでしょう」。費用対効果の良いディーゼル代替にするために、水素のコストは1キロあたり3〜4ドルの範囲に収まる必要がある、と同氏は推定した。

Volvoはまたバッテリー電動テクノロジーにも投資していて、再生可能なバイオ燃料で動く内燃エンジン(ICE)を潜在的ユースケースとみていると話した。同氏は、将来においてICEを有望視しているとこのほど語ったBosch(ボッシュ)の役員に賛成している。「私はまた、長期的には内燃エンジンにも可能性があると信じていて、内燃エンジンが終わりを迎える、あるいはなくなる日がくるとは思いません」と述べた。

「政治サイドからテクノロジーを禁止するのは完全に間違いだと私は思います。政治家は禁止すべきではなく、テクノロジーを承認すべきでもありません。彼らは方向性を示し、何を成し遂げたいかについて語るべきです。その後、テクニカルなソリューションを考え出すのは我々エンジニア次第です」。

カテゴリー:
タグ:

画像クレジット: Volvo

[原文へ]

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

水素燃料電池飛行機へのZeroAviaの野望は技術的な課題が残るが大志は今なお空のように高い

2020年9月、ZeroAvia(ゼロアビア)の6人乗り航空機が英国クランフィールド空港から離陸して8分間の飛行を終えた時、同社は、商用サイズの航空機で史上初の水素燃料電池飛行を行うという「非常に大きな偉業」を成し遂げたと断言した。

この航空機はPiper Malibu(パイパーマリブ)プロペラ機を改造して作られており、同社によると、水素を燃料とする航空機の中では世界最大のものである。「水素燃料電池を使用して飛行する実験的な航空機はいくつかあったが、この機体の大きさからすると、完全にゼロエミッションの航空機に有償旅客を乗せる時代が目前に迫っている」と、ゼロアビアのCEOであるVal Miftakhov(ヴァル・ミフタコフ)氏は付け加えた。

しかし、水素を燃料としているといっても、実際にはどのような状況なのだろうか。乗客の搭乗はどの程度現実味を帯びているのだろうか。

ミフタコフ氏は飛行直後の記者会見で「今回の構成では、動力をすべて水素から供給しているわけではなく、バッテリーと水素燃料電池を組み合わせている。しかし、水素だけで飛行することも可能な組み合わせ方だ」と述べた。

ミフタコフ氏のコメントはすべてを物語っているわけではない。TechCrunchの調査では、今回の画期的なフライトに必要な動力の大半がバッテリーから供給されたこと、そしてゼロアビアの長距離飛行や新しい航空機で今後もバッテリーが大きな役割を果たすことがわかった。また、マリブは技術的には辛うじて旅客機と言えるかもしれないが、大型の水素タンクやその他の機器を収容するために、5つの座席のうち4席を撤去しなければならなかったのも事実だ。

ゼロアビアは、ピックアップトラックでの航空機部品のテストから始めたが、4年も経たないうちに英国政府の支援を得るまでになり、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏やBill Gates(ビル・ゲイツ)氏、そして先週にはBritish Airways(ブリティッシュエアウェイズ)などからも投資を呼び込んだ。現在の問題は、ゼロアビアが主張している軌道を進み続け、本当に航空業界を変革できるかどうかだ。

離陸

航空機が排出する炭素の量は、現在、人類の炭素排出量の2.5%を占めているが、2050年までには地球のカーボンバジェット(炭素予算)の4分の1にまで拡大する可能性がある。バイオ燃料は、その生産によって木や食用作物が消費し尽くされる可能性があり、バッテリーは重すぎるため短距離飛行にしか使用できない。それに対し、水素は太陽光や風力を使用して生成でき、大きな動力を生み出すことができる。

燃料電池は水素と空気中の酸素を効率的に反応させて結合させるもので、生成されるのは電気、熱、水だけである。ただし、既存の航空機に燃料電池をすぐに搭載できるかというと、話はそう単純ではない。燃料電池は重くて複雑であり、水素には大型の貯蔵庫が必要だ。このようにスタートアップが解決しなければならない技術的な課題は多い。

ロシア生まれのミフタコフ氏は、1997年に物理学博士号の取得を目指して勉強するために渡米した。いくつかの会社を設立して、Google(グーグル)で勤務した後、2012年に、BMW 3シリーズ用の電気変換キットを製造するeMotorWerks(EMW、eモーターワークス)を設立した。

しかし2013年、BMWは同社の商標を侵害しているとしてEMWを非難した。ミフタコフ氏はEMWのロゴとマーケティング資料を変更すること、そしてBMWとの提携を示唆しないことに同意した。ミフタコフ氏はまた、BMWオーナーからの需要が落ち込んでいることにも気づいていた。

EMWはその後、充電器とスマートエネルギー管理プラットフォームの提供にビジネスの軸を移した。この新しい方向性はうまくいき、2017年にはイタリアのエネルギー会社Enel(エネル)がEMWを推定1億5000万ドル(約162億円)で買収した。しかしミフタコフ氏はここでも法的問題に直面した。

EMWのVPであるGeorge Betak(ジョージ・ベタック)氏はミフタコフ氏に対して2件の民事訴訟を起こし、ミフタコフ氏が特許からベタック氏の名前を除外したり、報酬を渡さなかったり、さらにベタック氏が自分の知的財産権をEMWに譲渡したように見せかけるために文書を偽造したりした、などと主張した。後にベタック氏は請求を一部取り下げ、2020年夏にこの訴訟は穏便な和解に至った。

2017年にEMWを売却してから数週間後、ミフタコフ氏は「ゼロエミッション航空」という目標を掲げ、カリフォルニア州サンカルロスでゼロアビアを法人化した。ミフタコフ氏は、既存の航空機の電気化への関心がBMWのドライバーよりも高い航空業界に期待していた。

第1段階:バッテリー

ゼロアビアが初めて公の場に登場したのは、2018年10月、サンノゼの南西80キロメートルにあるホリスター空港だった。ミフタコフ氏は、1969年型エルカミーノの荷台にプロペラ、電気モーター、バッテリーを据え付け、電気を動力として75ノット(時速140キロメートル)まで加速させた。

12月にゼロアビアは6人乗りのプロペラ機であるPiper PA-46 Matrix(パイパーPA-64マトリックス)を購入した。このプロペラ機は後に英国で使用することになる航空機と非常によく似ている。ミフタコフ氏のチームは、モーターと約75キロワット時のリチウムイオンバッテリーをこれに搭載した。このバッテリーは、テスラのエントリーレベルのモデルYとほぼ同じ性能である。

2019年2月、FAAがゼロアビアに実験的耐空証明書を発行した2日後、電気だけを動力とするパイパーが初飛行に成功した。また、4月中旬には最高速度と最大出力で飛行していた。これで水素にアップグレードする準備は整った。

輸入記録によると、3月にゼロアビアは炭素繊維製水素タンクをドイツから取り寄せている。マトリックスの左翼にタンクを搭載した写真が1枚存在するが、ゼロアビアは飛行している動画を公開したことがない。何か不具合が起こっていたのだ。

ゼロアビアのR&Dディレクターが、パイパーオーナー向けのフォーラムに次のようなメッセージを投稿したのは7月のことだ。「大事に扱ってきたマトリックスの翼が破損しました。損傷が激しく、交換しなければなりません。すぐにでも部品取り用に販売される『適切な航空機』をご存知の方はいませんか」。

ミフタコフ氏は、今までこの損傷について明言してこなかったが、今回、ゼロアビアが航空機に手を加えている最中にこの損傷が発生したことを認めた。この損傷の後、その航空機は飛行しておらず、ゼロアビアはシリコンバレーにおけるスタートアップとしての活動を終えようとしていた。

英国に移る

ミフタコフ氏は、ゼロアビアの米国での飛行テストを中断し、英国に目を向けた。英国のBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)首相が「新たなグリーン産業革命」に期待しているからだ。

2019年9月、英国政府が支援する企業であるAerospace Technology Institute(航空宇宙技術研究所)(ATI)は、ゼロアビアが主導するプロジェクト「HyFlyer(ハイフライヤー)」に268万ポンド(約4億100万円)を出資した。ミフタコフ氏は、水素燃料電池を搭載し、飛行可能距離が450キロメートルを超えるパイパーを1年以内に完成させると約束した。出資金は、燃料電池メーカーのIntelligent Energy(インテリジェントエナジー)および水素燃料供給技術を提供するEuropean Marine Energy Centre(EMEC、ヨーロッパ海洋エネルギーセンター)との間で分配されることになっていた。

当時EMECの水素マネージャーだったRichard Ainsworth(リチャード・エインズワース)氏は「ゼロアビアは、電動パワートレインを航空機に組み込むというコンセプトをすでに実現しており、電力はバッテリーではなく水素で供給したいと考えていた。それがハイフライヤープロジェクトの中核となる目的だった」と述べている。

ATIのCEOであるGary Elliott(ゲイリー・エリオット)氏はTechCrunchに対し、ATIにとって「本当に重要」だったのは、ゼロアビアがバッテリーシステムではなく燃料電池を採用していたことだと述べ「成功の可能性を最大限に高めるには、投資を広く印象づける必要がある」と語った。

ゼロアビアはクランフィールドを拠点とし、2020年2月に、損傷したマトリックスと似た6人乗りのPiper Malibu(パイパーマリブ)を購入した。同社は6月までにマリブにバッテリーを取り付けて飛行したが、政府は安心材料をさらに求めていた。TechCrunchが情報公開請求によって入手したメールに対し、ある政府関係者は「ATIの懸念を確認し、それに対して我々ができることを検討したいと考えている」と書いた。

インテリジェントエナジーのCTOであるChris Dudfield(クリス・ダッドフィールド)氏はTechCrunchに対し、ハイフライヤープログラムは順調に進んでいるが、同社の大型燃料電池が飛行機に搭載されるのは何年も先のことであり、同氏はゼロアビアの飛行機を見たことさえもないと語った。

ゼロアビアは、インテリジェントエナジーとの提携により、英国政府から資金を確保しやすくなったが、マリブの動力の確保は進まず、燃料電池の供給会社を早急に見つける必要があった。

第2段階:燃料電池

ゼロアビアは8月、政府関係者に「現在、水素燃料による初の飛行に向けて準備を進めている」と文書で伝え、国務長官を招待した。

ミフタコフ氏によると、ゼロアビアのデモ飛行では、航空機としては過去最大となる250キロワットの水素燃料電池パワートレインが使用された。これはパイパーが通常使用している内燃機関と匹敵する出力であり、飛行において出力を最も必要とする段階(離陸)においても十分な余力が残る数値である。

ゼロアビアは燃料電池の供給会社を明かしておらず、250キロワットのうちどの程度が燃料電池から供給されたのかも詳しく説明していない。

しかし、デモ飛行の翌日、PowerCell(パワーセル)というスウェーデンの企業が、プレスリリースで、同社のMS-100燃料電池が「パワートレインに不可欠な部品」だったことを発表した。

MS-100の最大出力はわずか100キロワットであり、残りの150キロワットの供給源は不明である。つまり、離陸に必要な電力の大部分は、パイパーのバッテリーから供給されたとしか考えられない。

ミフタコフ氏は、TechCrunchのインタビューにおいて、9月のフライトではパイパーが燃料電池だけで離陸できなかったことを認めた。同氏によると、飛行機のバッテリーはデモ飛行中ずっと使用されていた可能性が高く「航空機に予備的な余力」を供給した。

燃料電池車でも、バッテリーを使用して、出力変化を安定させたり一時的に出力を高めたりするものは多い。しかし、いくつかのメーカーは、動力源について高い透明性を持たせている。飛行機に関していうと、離陸時にバッテリーを利用する上での問題点の1つは、離陸時に使用したバッテリーを着陸まで積載し続けなければならないことだ。

Universal Hydrogen(ユニバーサルハイドロジェン)は、別の航空機向けに2000キロワットの燃料電池パワートレインを共同開発している企業である。同社のCEO、Paul Eremenko(ポール・エレメンコ)氏は「水素燃料電池航空機の基本的な課題は重量だ。バッテリーはフルスロットル時のみに使用されるものであり、これをいかに小さくするかが軽量化の鍵になる」と述べている。

2月、ゼロアビアのVPであるSergey Kiselev(セルゲイ・キセレフ)氏は、バッテリーを完全になくすことが同社の目標だと語った。また、Royal Aeronautical Society(王立航空協会)に対し「離陸時の余力を確保するためにバッテリーを利用することは可能だ。しかし、航空機に複数の種類の駆動力や動力貯蔵システムを使用するとなると、認証の取得が著しく困難になるだろう」と話した。

今回、ゼロアビアは、出力の大部分をバッテリーから供給することで、投資家や英国政府から注目を集めたデモ飛行を成功させることができた。しかし、これにより、有償顧客を乗せた初飛行が遅くなる可能性がある。

排熱の問題

熱を排出する装置がなければ、燃料電池は通常、過熱を防ぐために空冷または水冷の複雑なシステムが必要になる。

「これこそが鍵となる知的財産であり、単に燃料電池とモーターを購入して接続するだけではうまくいかない理由なのです」とエレメンコ氏はいう。

ケルンにあるGerman Aerospace Center(ドイツ航空宇宙センター)では、2012年から水素燃料電池航空機を飛ばしている。特注設計された現在の航空機HY4は、4人の乗客を載せて最大で720キロメートル飛行できる。65キロワットの燃料電池には、冷却用の通風を確保するために、空気力学的に最適化された大きな流路を利用した水冷システムが搭載されている(写真を参照)。

画像クレジット:DLR

100キロワットの同様のシステムでは、通常、HY4のものより長く、3割ほど大きい冷却用インテークが必要になるが、ゼロアビアのパイパーマリブには追加の冷却用インテークがまったくない。

「離陸時の対気速度や巡航速度に対して、開口部が小さすぎるように見えます」というのは、ゼロアビアと共通する取引企業があることを理由に匿名でコメントを述べた航空燃料電池エンジニアである。

「熱交換器の配置や設定を試す必要はありましたが、熱を処理するために航空機の形状を再設計する必要はありませんでした」とミフタコフ氏は反論した。また同氏は、飛行中に燃料電池は85〜100キロワットの出力を供給していたと主張した。

ゼロアビアは、TechCrunchのインタビューに答えた後、パイパーの燃料電池が地上試験中に最大70キロワットの出力を供給している様子を示すビデオを公開した。地上試験中の70キロワットは、飛行中であればさらに高出力になる。

もちろん長距離飛行での実証は必要だが、ゼロアビアは、他のエンジニアを何年も悩ませてきた排熱問題を解決したのかもしれない。

次の飛行機:規模と性能の拡大

9月には、Robert Courts(ロバート・コート)航空大臣がクランフィールドでデモ飛行を見学し、飛行後に「ここ数十年間の航空業界で最も歴史的な瞬間の1つであり、ゼロアビアの大きな成果だ」と語った。タイム誌は、2020年の最大の発明の1つとしてゼロアビアの技術を挙げた。

ハイフライヤーの長距離飛行はまだこれからだというのに、12月、英国政府はハイフライヤー2を発表した。これは1230万ポンド(約18億4000万円)のプロジェクトであり、ゼロアビアが大型の航空機に600キロワットの水素電気パワートレインを提供するというものだ。ゼロアビアは、19人乗りの飛行機を2023年に商業化することで合意している(現在は2024年に変更されている)。

同日、ゼロアビアは2130万ドル(約23億円)のシリーズAの投資家陣営を発表した。これには、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏のBreakthrough Ventures Fund(ブレイクスルーベンチャーズファンド)、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏のAmazon Climate Pledge Fund(アマゾン気候誓約基金)、Ecosystem Integrity Fund(エコシステムインテグリティファンド)、Horizon Ventures(ホライゾンベンチャーズ)、Shell Ventures(シェルベンチャーズ)、Summa Equity(スマエクイティ)が参加している。3月下旬には、これらの投資家からさらに2340万ドル(約25億3000万円)の資金を調達することを発表した。これにはAmazonは参加していないが、英国航空が参加している。

ミフタコフ氏によると、マリブはこれまで約10回のテスト飛行を終えているが、新型コロナウイルス感染症のため、英国での長距離飛行は2021年後半に延期されたという。また、ハイフライヤー2については、当初はバッテリーと燃料電池を半分ずつ使用する予定だが「認定取得可能な最終飛行形態では、600キロワットすべてを燃料電池でまかなう」とのことだ。

19人乗りの航空機から始まり、2026年には50人乗り、2030年には100人乗りと、約束した航空機を完成させることが、ゼロアビアにとって厳しい挑戦となることは間違いない。

水素燃料電池トラックの公開デモを誇張し、株価の暴落やSECによる調査を招いたスタートアップであるNikola(ニコラ)のせいで、水素燃料電池にはいまだに胡散臭いイメージがある。ゼロアビアのような野心的なスタートアップにとって最良の選択肢は、投資家や、持続可能な空の旅の可能性に期待している人たちの期待を弱めることになっても、現在の技術と今後の課題について透明性を高めることだ。

ポール・エレメンコ氏は「ゼロアビアの成功を切に願っている。我々のビジネスモデルは非常に相補的であり、力を合わせれば、水素航空機を実現するためのバリューチェーンを築くことができると考えている」と述べている。

関連記事
トヨタ出資の電動航空機メーカーJoby AviationもSPAC経由で上場か
電気自動車メーカーNikolaに対する空売りのクレームを米証券取引委員会が調査中

カテゴリー:モビリティ
タグ:ZeroAvia飛行機水素バッテリーゼロエミッションイギリス炭素燃料電池

画像クレジット:

原文へ

(文:Mark Harris、翻訳:Dragonfly)

航空業界の水素燃料電池普及を目指すUniversal HydrogenがシリーズAで約22億円調達

脱炭素化に向けた競争がアースデイ(4月22日)に加速した。ロサンゼルスに本拠を置き、民間航空機用の水素貯蔵ソリューションと変換キットの開発を目指すUniversal Hydrogen(ユニバーサル・ハイドロジェン)というスタートアップ企業が、シリーズA投資ラウンドで2050万ドル(約22億1200万円)を調達したと発表したのだ。

同社創業者でCEOを務めるPaul Eremenko(ポール・エレメンコ)氏は、TechCrunchによるインタビューに「水素は航空業界にとって、パリ協定の目標を達成し、地球温暖化防止に貢献するための唯一の手段です」と語った。「私たちは、航空用のエンド・ツー・エンドの水素バリューチェーンを、2025年までに構築するつもりです」。

今回の投資ラウンドは、Playground Global(プレイグランド・グローバル)が主導し、Fortescue Future Industries(フォーテスキュー・フューチャー・インダストリーズ)、Cootue(クートゥー)、Global Founders Capital(グローバル・ファウンダーズ・キャピタル)、Plug Power(プラグ・パワー)、Airbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)、Toyota AI Ventures(トヨタAIベンチャーズ)、双日株式会社、Future Shape(フューチャー・シェイプ)などの投資家シンジケートが参加した。

  1. AltRendering2-copy

    700マイルまでのリージョナルフライトが可能なターボプロップ機
  2. Universal-Hydrogen-Module

    「グリーン水素」を輸送するための軽量モジュール式カプセル
  3. Universal-Hydrogen-Conops

Universal Hydrogenの最初の製品は、水素燃料電池を搭載した航空機に、再生可能エネルギーで製造された「グリーン水素」を輸送する軽量なモジュール式カプセルになる。このカプセルは最終的に、VTOL(垂直離着陸機)エアタクシーから長距離用の単通路機まで、さまざまなサイズの航空機に対応する予定だ。

「現在の民生用電池のように、航空機のクラスごとに互換性を持たせたいと考えています」と、エレメンコ氏は語る。

このカプセルの市場を立ち上げるため、Universal Hydrogenは、40~60人乗りのターボプロップ機を改造して、700マイル(約1127キロメートル)までのリージョナルフライトが可能な飛行機を自身で開発している。この取り組みは、シード投資家で水素と燃料電池を供給するPlug Power(プラグ・パワー)と、電動航空機用モーターを開発するmagniX(マグニックス)との共同で行われている。

エレメンコ氏は、2025年までに50席以上の大型機で乗客を乗せて飛行させ、最終的にはリージョナル航空会社が自社の航空機を改造するためのキットを製造したいと考えている。

「Boeing(ボーイング)とAirbus(エアバス)が2030年代初頭に製造する航空機を決定する前に、水素の認証と乗客の受け入れにおけるリスクの顕在化を回避するため、2、3年はサービスを提供したいと考えています」と、エレメンコ氏はいう。「少なくとも両社のどちらかが水素航空機を作らなければ、航空業界は気候変動対策の目標を達成できないでしょう」。

水素に賭けているのはUniversal Hydrogenだけではない。英国のZeroAvia(ゼロアヴィア)は、より野心的なスケジュールで独自の燃料電池リージョナル航空機を開発しており、エアバスは水素航空機のコンセプトに取り組んでいる。

エレメンコ氏は、シンプルで安全な水素ロジスティックスのネットワークを構築すれば、新たに参入する企業を呼び込むことになるのではないかと期待している。

「Nespresso(ネスプレッソ)システムのようなものです。私たちがまず、最初にコーヒーメーカーを作らなければ、私たちのカプセル技術に誰も興味を持ちません。しかし、私たちはコーヒーメーカーの製造をビジネスにしたいと思っているわけではありません。私たちのカプセルを使って、他の人たちにコーヒーを作ってもらいたいのです」。

Universal Hydrogenは、今回のシリーズAラウンドで調達した資金を使って、現在12人のチームを40人程度まで拡大し、技術開発を加速させたいと考えている。

Plug Powerの水素燃料電池とMagniXのモーターを搭載したUniversal Hydrogenの航空用パワートレインの30kW縮小デモンストレーション。

関連記事:

カテゴリー:モビリティ
タグ:Universal Hydrogen水素燃料電池資金調達飛行機脱炭素

画像クレジット:Universal Hydrogen

原文へ

(文:Mark Harris、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

部品サプライヤーBoschが環境規制が強まる中、合成燃料と水素燃料電池に活路を見いだす

Bosch(ボッシュ)の経営幹部は米国時間4月22日、2025年までに内燃機関を禁止するというEUが提案した規制について、議員たちはそうした禁止が雇用にもたらす影響についての議論を「避けている」と批判した。

同社は新規事業、特に燃料電池事業で雇用を創出していると報告し、こうした雇用の90%超を内部でまかなっていると述べたが、電動輸送革命のすべてあるいは大半は雇用に影響するとも指摘した。格好の例として、ディーゼルのパワートレインシステムを作るのに従業員10人を要し、そしてガソリンのシステムでは3人を要するが、電動パワートレインの場合1人だけだと記者団に語った。

その代わり、Boschは電動化とともに再生可能な合成燃料と水素燃料電池に活路を見出している。水素から作られる再生可能な合成燃料は水素燃料電池とは異なるテクノロジーだ。燃料電池は電気を生み出すのに水素を使い、一方で水素由来の電池は改造された内燃機関(ICE)の中で燃焼する。

「もし再生可能な水素と二酸化炭素由来の合成燃料が道路交通で使用禁止のままであれば、機会は失われます」とBoschのCEOであるVolkmar Denner(フォルクマル・デナー)氏は述べた。

「気候変動に関する活動は内燃機関の終わりではありません。化石燃料の終わりなのです。電動モビリティと地球に優しい充電パワーが道路交通をカーボンニュートラルにし、再生可能燃料も同様です」。

電動ソリューションには、特に大型車を動かすという点で限界もある、とデナー氏は述べた。Boschは2021年4月初め、テストトラック70台の燃料電池パワートレインを作るために中国の自動車メーカーQingling Motors(慶鈴汽車)と合弁会社を設立した。

水素燃料電池と合成燃料に関するBoschの自信はバッテリー電動モビリティから除外されていない。自動車・産業部品の世界最大のサプライヤーの1社である同社は、社の電動モビリティ事業が約40%成長していると述べ、電動パワートレインの部品の年間売上高は2025年までに5倍の50億ユーロ(約6488億円)に増えると予想している。

しかしながらBoschは今後3年間で燃料電池パワートレインにも6億ユーロ(約778億円)投資するという「オプションを保留にしておく」と述べた。

「究極的には欧州は水素経済なしに気候中立を達成することはできないでしょう」とデナー氏は話した。

Boschは2021年も続いている世界的な半導体不足の影響を免れていない。取締役のStefan Asenkerschbaumer(シュテファン・アーセンケルシュバウマー)氏は、半導体不足が2021年「予測されていた回復を抑制する」リスクがあると警告した。台湾の半導体メーカーの幹部は2021年4月初めに、状況は2022年まで続くかもしれない、と投資家らに伝えた

関連記事:Google、Intel、Dell、GMなどテックと自動車業界のCEOたちが世界的なチップ供給不足問題で米政府と討議

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Bosch気候変動電気自動車水素燃料電池

画像クレジット:Krisztian Bocsi/Bloomberg / Getty Images

原文へ

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

Hyzon Motorsは水素燃料電池車への意欲に米国の2つの工場を追加

水素自動車の動力源として極めて重要な部品とともに燃料電池の生産を予定しているHyzon Motors(ハイゾン・モーターズ)は、米国の2つの工場で商用規模の国内生産を開始する。

水素を動力源とするトラックとバスのメーカーであるHyzon Motorsは、すでにシカゴのボーリングブルック郊外に2万8000平方フィート(約2600平方メートル)の施設を借り受けており、さらに8万平方フィート(約7400平方メートル)を追加して拡張する予定だ。シカゴ工場では、2021年第4四半期からの生産開始が期待されている。この発表が行われたのは、Decarbonization Plus Acquisition Corporation (ディカーボナイゼーション・プラス・アクイジション・コーポレーション)と評価額21億ドル(約2240億円)で合併し公開企業になるという発表から、ちょうど3週間後のことであり、ニューヨーク州モンロー郡の7万8000平方フィート(約7250平方メートル)の工場を改修する計画の発表から1週間と少しのことだった。

Hyzonは、20年近い経験を持つが新しい会社だ。2020年3月に、2003年から燃料電池の商用製品を開発しているシンガポールのHorizon Fuel Cell Technologies(ホライゾン・フュエル・セル・テクノロジーズ)から独立する形で創設された。2021年2月には、2026年までに1500台の燃料電池トラックをニュージーランドに走らせることを目標に、ニュージーランド企業Hiringa Energy(ハイリンガ・エナジー)と提携。現在は、北米の燃料電池自動車市場に視点を定めている。ただし米国内では水素燃料ネットワークが未整備なため、同社は「基地に帰る」ビジネスモデルで運用できる大型車両をターゲットにしている。

米国内に工場を設けるHyzonの決断は、注目に値する。なぜなら、米国での燃料電池素材の生産はヨーロッパやアジアに大きく引き離されているからだ。また米国では全国的に、海外で見られるような水素の補給所や基盤ネットワークが欠落している。

「水素は、ドイツやオランダなどの地域ではずっと身近です」とHyzonのCEOであるCraig Knight(クレイグ・ナイト)氏はTechCrunchのインタビューに答えた。「現代の米国でガソリンを補給するのと同じように、クルマを停めて補給できる民間の水素ステーションがいくつもあります。(米国が)そうなるまで、それほど時間はかからないでしょうが、それまでは、基地に戻る運用モデルを採用している顧客に的を絞ることで、水素ステーションネットワークの依存度を限定できます。それなら、水素インフラ1つで、特定地域の数十台から、さらには数百台の車両に対応できます」。

米国で生産されている水素は、天然ガスから作られる、いわゆる「グレー水素」だ。現在は、再生可能エネルギーによる電気分解で作られる「グリーン水素」を目指す企業が増えているが、Hyzonはその両方を使う予定だ。燃料電池の生産をどれほど拡大するかの判断は、水素の生産量にかかっている。

シカゴの工場では、膜 / 電極接合体(MEA)の設計、開発、生産が行われる。これは、電力を生み出すために欠かせない、電気化学反応を起こすための燃料電池の部品だ。同社ではこの新工場で、年間1万2000台の燃料電池トラック生産に十分な量のMEAを作ることにしている。

完成したMEAは、先日発表された燃料電池スタックとシステムを組み立てるモンロー郡の工場に送られ、部品が燃料電池の完成品に組み上げられる。そこから燃料電池は、提携トラックメーカーに送られ、商用大型車両に組み込まれることになる。同社の米国での主な提携先には、Berkshire Hathaway(バークシャー・ハザウェイ)の子会社Fontaine Modification(フォンティーン・モディフィケーション)がある。

水素燃料電池技術は、大型車両に使用事例を見いだしている。トラック輸送会社は、どれだけの重量を運べるか、どれだけの頻度で運べるかによって収益が変わることが多い。そのため、充電に時間がかかったり、バッテリーで積載量が減らされるといった心配のない燃料電池が、フリートの脱炭素化を目指す企業には魅力的な選択視となるのだ。

Hyzonは、水素燃料電池の導入によるプラスのネットワーク効果と規模の経済と、充電池導入の限界費用の増加を見据えている。小型車向けの燃料電池市場への参入計画について同社は何も発表していないが、水素燃料電池の価値提案に関しては強気を保っている。

「私たちは、ある時点で、充電式電気自動車の限界費用が増加し始めると考えています。なぜなら、送電網、貯蔵所の規模、充電インフラの建設能力などに関連するインフラの制限にぶち当たるからです」とナイト氏。「使用率が非常に高くなった場合、充電式電気自動車には規模の不経済が付きまとうことになりますと、私たちは信じます。小型車もいずれは水素で走るようになるでしょう。私たちのモデルでは、そこに完全に依存しているわけではありませんが、そう私たちは信じています」

Hyzonは、2021年5月末か6月の頭にNASDAQでの上場を予定している。ティカーシンボルはHYZNとなる予定。

関連記事:テスラのライバルで時価総額3兆円のNikola、水素電池搭載ピックアップトラックの予約を受け付け

カテゴリー:モビリティ
タグ:Hyzon Motors燃料電池水素

画像クレジット:Hyzon Motors

原文へ

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:金井哲夫)

サーゲイ・ブリン氏が開発中の災害救助用大型飛行船は水素燃料電池動力

Googleの共同ファウンダー、サーゲイ・ブリン(Sergey Brin)氏が開発している飛行船は世界最大の移動体用水素燃料電池を動力とする計画だ。渡洋飛行が可能で、各地に援助物資を運ぶことができるという。

ブリン氏のステルスモードの飛行船メーカー、LTA Research and Explorationは災害救援を当面の目的とする記録破りの巨大飛行船を建造中だ。動力はこれも記録破りの規模の水素燃料電池だ。

同社はカリフォルニア州マウンテンビューとオハイオ州アクロンに拠点を置き、公表している求人情報によれば、LTAは1.5メガワットの水素推進システムを搭載した飛行船によって人道的支援を行うと同時に、ロジスティクスに革命を起こしたいと考えているという。求人のための職務記述には飛行船の詳しいスペックはないが、太平洋、大西洋を横断するのに十分な能力を必要とするだろう。飛行船のスピードはジェット機よりもはるかに遅いがほとんどあらゆる場所に着陸できる。人道的支援のための物資を運ぶためには理想的だ。

水素燃料電池はリチウムイオン電池よりも軽量でコスト面でも有利となる可能性があるので電気飛行機の同僚として魅力的だ。 ただしこれまでに飛行した最大の水素燃料電池は、昨年9月、ZeroAviaの小型旅客機に搭載された0.25MW(250kW)のシステムだった。 Pathfinder 1(パスファインダー1号)と呼ばれるLTAのバッテリー駆動飛行船の最初の有人プロトタイプは今年中に進空できるものと見られている。FAAの記録によると、Pathfinder 1には12個の電動モーターがあり、定員は14人だ。

現在運航している唯一の旅客飛行船はドイツとスイスで観光ツアーを行っているZeppelin(ツェッペリン)NTだが、Pathfinder 1もこれとほぼ同じサイズになるとみられる。Pathfinder 1は乗客用ゴンドラにZepplein NTに利用されているコンポーネントも使用する。

 
LTA Research and Exploration airship patent
画像: LTA 特許 US 2019/0112023 A1

1937年の悲劇的なHindenburg(ヒンデンブルク)号の事故以来、LTAを含め、ほとんどすべての飛行船は不燃性ヘリウムを揚力ガスとして使用してきた。 60人乗りの地域電気航空機の電源として1.5 MWの燃料電池を開発中のドイツ航空宇宙センターのヨーゼフ・カロ教授によれば、燃料に水素を利用することは適切だという。

Kallo氏は「リチウム電池で200キロの距離を移動できるなら水素を使えば1600キロ近く移動できるはず。飛行船は燃料電池のとって理想的な応用はです」と述べている。

燃料電池は水素と酸素を化合させて水と電気を生成するものだが、従来は重く複雑なシステムだった。さらに航空機に搭載する場合、燃料タンク内の液体水素の安全の確保、生成された水や大量の廃熱の処理などさらに複雑な要素が加わる。

求人の職務記述によれば、LTAの最初の燃料電池はサードパーティ製の0.75MWのシステムで、既存のプロトタイプに後付けされるという。しかし今年中にそこまで実現する可能性は低いようだ。バッテリー駆動の飛行船Pathfinder 3は、まだFAA(連邦航空局)に登録されていない。

 
LTA Research and Exploration airship patent
Image Credits: LTA Research Patent US 2019/0112023 A1

Kallo氏は「機能面でいえば水素燃料電池の利用自体は特に革命的とはいえません。ビジネス的な合理性を無視できる余裕がある人間を見つけるのが最大のチャレンジです。経済的にはたぶんペイしません。サーゲイ・ブリン氏なら十分余裕があるでしょう」と述べた。

ブリン氏は現在、世界第9位の富豪で、純資産額は860億ドル(9兆円)を超えている。LTAのウェブサイトによれば、同社の航空機の当初のユースケースはの使用例は、「災害対応や救援などの人道的活動、特にインフラが未整備ないし破壊されてるなどして飛行機や船によるアクセスが困難な遠隔地での活動」を想定しているという。さらに最終的には、グローバルな貨物・旅客輸送のためのゼロエミッションの新たな航空機分野を切り開くことを目指しすとしている。

LTAは現在すでにチャリティ活動を実施しており、COVID-19パンデミックに対しては緊急対応要員向けに500万枚以上のマスクを生産している。昨年は国連難民高等弁務官事務所に300万ドル近くを寄付している。

LTAはブリン氏の災害救援のための非営利団体、GSD(グローバル・サポート・アンド・ディベロップメント)と密接に連携して活動するものとみられる。GSDの本拠はLTAと同様マウンテンビューにあり、数キロしか離れていない。の過去5年間、多数の自然災害に元軍人を始めとするパラメディックを派遣してきた。GSDは他のNGOに先駆けて現地入りすることを誇りとしており、ブリン氏所有のスーパーヨットを使用することもあった。税務記録によると、ブリン氏はGSDの最大の出資者であり、2019年には少なくとも750万ドル(8.8億円)の寄付をしている。

画像:C Flanigan / Contributor / Getty Images

原文へ

カテゴリー:
タグ:

(文:Mark Harris  翻訳:滑川海彦@Facebook