海洋研究開発機構と鹿児島大、デジカメ撮影による海岸の写真からAIで漂着ごみの被覆面積を高精度に推定する新手法を開発

セマンティック・セグメンテーションを用いた、海岸の写真からの海ごみ検出のイメージ図。写真に対して、ピクセル単位でのクラス分類が行われる。訓練用に2800枚、評価用に700枚の画像データを用いた(写真は山形県提供)

セマンティック・セグメンテーションを用いた、海岸の写真からの海ごみ検出のイメージ図。写真に対して、ピクセル単位でのクラス分類が行われる。訓練用に2800枚、評価用に700枚の画像データを用いた(写真は山形県提供)

海洋研究開発機構鹿児島大学は2月4日、ディープラーニングを用いた画像解析で、デジカメなどで普通に撮影された海岸の写真から、海岸の漂着ゴミを検出する手法を開発したと発表した。

海岸漂着ゴミの実態調査は世界中で行われているが、ゴミの現存量の定量化が行える、汎用性と実用性の面で優れた技術がなかった。人による調査では、経済的負担、時間的制約、さらに範囲も限定されてしまい、精度にも課題があった。ドローンや人工衛星を使う技術も開発されているが、それではコストがかかりすぎる。そこで、海洋研究開発機構の日高弥子臨時研究補助員、松岡大祐副主任研究員と、鹿児島大学の加古真一郎准教授からなる研究グループは、地上においてデジカメなどで簡易的に撮影された画像から、高精度で海洋漂着ゴミの定量化ができる技術の研究に着手した。

ここで採用されたAI技術は、セマンティック・セグメンテーションと呼ばれるもの。ディープラーニングを用いた画像解析技術で、画像内のすべてのピクセルにラベル付けを行い、ピクセルごとに、人工ゴミ、自然ゴミ、砂浜、海、空といったクラスを出力する。そのクラス特有のパターンの学習には、山形県庄内総合支庁から提供された海岸清潔度モニタリング写真3500枚が利用された。そこから正解となるラベルを作成し、AIの訓練や判断の評価を行った。

入力画像、正解ラベルおよびAIによる推定画像の例

入力画像、正解ラベルおよびAIによる推定画像の例

今回の研究では、海岸漂着ゴミを検出した後の画像を、真上から見た構図に変換(射影変換)して、ゴミの被覆面積を推定することも可能であることがわかった。ドローンによる空撮画像から推定した被覆面積と比較したところ、誤差は10%程度だった。

セマンティック・セグメンテーションと射影変換による人工ごみの被覆面積推定結果。海岸漂着ごみ検出後の画像を真上から撮影した構図に射影変換することにより、海岸全体のごみの被覆面積が推定可能であることを示したもの。同手法の精度は、ドローンによる空撮から得られた正解値との比較により検証している

セマンティック・セグメンテーションと射影変換による人工ごみの被覆面積推定結果。海岸漂着ごみ検出後の画像を真上から撮影した構図に射影変換することにより、海岸全体のごみの被覆面積が推定可能であることを示したもの。同手法の精度は、ドローンによる空撮から得られた正解値との比較により検証している

今後は、海岸漂着ゴミの堆積の推定や、プラスチックゴミの個数のカウントもできるように発展させるという。今回の研究から生まれた学習用データセット(The BeachLitter Dataset v2022)は、非商用の研究目的に限って公開される。汎用性の高いシステムなので、多くの人がデータを集め学習させることで、それぞれの地域特有の、目的に合ったAIの開発が可能になり、全世界で活用できるようになるとのことだ。そこで、研究グループは、アマチュア科学者をはじめ多くの人々が参加する市民科学に期待を寄せている。

ごみ拾いSNSアプリ「ピリカ」を使い、プラごみの総量算定に取り組む参加型プロジェクトが開始

九州大学らがごみ拾いSNSアプリ「ピリカ」を使いプラごみの総量算定に取り組む参加型プロジェクトを開始

九州大学は1月28日、街や海岸のプラスチックごみの散乱状況を分析するための参加型プロジェクトを開始すると発表した。ごみ拾いを目的とするSNSアプリ「ピリカ」(Android版iOS版)を利用し、プラスチックごみの画像を収集して、総量・分布・時間変化の追跡などを行う。2022年1月から2025年3月末まで実施される予定だ。

これは、九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦教授、鹿児島大学学術研究院の加古真一郎准教授、海洋研究開発機構(JAMSTEC)付加価値情報創生部門の松岡大祐副主任研究員らからなる研究グループと、ピリカとの共同による研究。参加者は、「ピリカ」のアプリをスマートフォンにインストールし、街や海岸で見つけたプラスチックごみを撮影する。すると、その画像が日時や位置の情報とともに鹿児島大学やJAMSTECに送られ、深層学習を用いて分析される。そこでは、ごみの抽出、ごみの種類(ペットボトル、レジ袋など)や面積が自動判別される。

海に漂流したり海岸に漂着するプラスチックごみの80%は、陸から流出したものだとされているが、どれだけのプラスチックごみが陸から海に移動しているかを知るのは難しい。そこで研究グループは、このプロジェクトを通してプラスチックごみの総量や時間変化による移動の様子を推測しようしている。研究グループは、「地域社会の皆さん一人ひとりが、お手持ちのスマホを利用することで、海洋プラスチック研究に参加するプロジェクト」であり、「参加型で作成したビッグデータによって、研究の大きく前進することを期待しています」と話している。

海洋研究開発機構とトリマティス、海中の光ワイヤレス通信で距離100メートル超×1Gbpsの通信速度を達成

海洋研究開発機構とトリマティス、海中の光ワイヤレス通信で距離100メートル超×1Gbpsの通信速度を達成

海洋研究開発機構(JAMSTEC)は1月26日、深海域での高速光ワイヤレス通信の試験を実施し、100mを超える距離で1Gbpsの通信速度を達成したと発表した。これは、光高速制御などのハードウェア技術開発ベンチャー、トリマティスと共同で行われている海中ワイヤレス通信研究の成果だ。海中でも地上と変わらない速度で通信が可能となり、世界でも類を見ない(2021年12月12日時点)この通信速度が、この分野のパラダイムシフトを招くと期待されている。

海中での通信は、現在は音響通信が一般的だが、その通信速度は数Kから数十Kbpsと非常に遅い。近年ではレーザー光を用いた光通信が注目され、さかんに研究が行われているものの、速度は今のところ数Mbpsクラスの実績(実用化)に留まっている。

JAMSTECは、2008年からレーザー光の海中伝搬統制に関する基礎研究を開始した。さらに海中レーザー通信技術の基礎を確立する研究を開始し、海中環境がレーザー光の伝搬特性や通信品質に与える影響を精査、その原理や条件を明らかにする基礎研究を進め、通信方式の検証を行ってきた。そして2019年からはその成果である海中光学技術にトリマティスの高速光通信技術と光制御技術を合体し、1Gbpsの光ワイヤレス通信試験機を完成させた。

1Gbps光ワイヤレス通信試験機

1Gbps光ワイヤレス通信試験機

試験は、2021年11月27日から29日にかけて相模湾で行われた。実験装置は、無人探査機「かいこう」のランチャーから1Gbpsに変調したパルスレーザー光を送信し、ビークルで受信するというもの。ランチャーとビークルの間を10mずつ離してゆき、通信の成否(誤りのない試験フレームの受信数)、受光強度、伝搬場の環境パラメーターを計測した。その結果、100mを超える距離でも良好な受信が確認された。このときの水深は900m。ランチャーの深度は約699.5m、ビークルの深度は802.9mだった。

この技術を用いることで、海中や海底で計測される様々な状態や現象をリアルタイムで取得できるようになるため、海底資源開発、地震や津波などの防災技術に貢献できる。また、海中移動体や海底構造物といった多様なプラットフォーム間の情報伝達や情報共有がリアルタイムで成立する、ワイヤレス海底センサーネットワークの構築も可能となる。

今後は、光ワイヤレス通信リンクを確立するために必要となる光軸制御やシステムの統合化、小型化、さらには通信品質を担保する符号化アルゴリズムに取り組むとしている。