レジ袋禁止は裏目に?研究で判明した規制実施後の意図せぬ結果

プラスチック製レジ袋は悪だ。スーパーマーケットでの利用を禁止すれば、問題は解決する、そうではないのか?そうだろう?違うの?よくあることだが、この話にはもう少し続きがあるようだ。ジョージア大学の研究者たちは、レジ袋の提供を禁止することは、意図しなかった結果をもたらす可能性があると指摘している。

新しい分析によると、レジ袋禁止政策は、善意から始まったとしても、結局は逆効果になる可能性があるそうだ。その問題とは、食料品店のレジ袋は使い捨て製品だと思われているが、小さなゴミ箱のライナーとして(短い)第二の人生を歩むことが多いということである。レジ袋がないと、人々は代わりのものを探す。つまりそれは、小さなプラスチック製のゴミ袋を買うことを意味する、と研究者たちは指摘している。

ジョージア大学Warnell School of Forestry and Natural Resources(森林天然資源学部)のポスドク研究員であるYu-Kai Huang(ホァン・ユカイ)博士はこう述べている。「研究から、レジ袋の使用に対する需要があることはわかっており、これらの政策が実施されれば、一部の袋がなくなったり、入手がより高価になることもわかっています。そこで、こうした政策が全体的にポリ袋の使用量を減らす効果があるのか確かめたかったのです」。

これまでの研究では、袋の使用禁止がプラスチックの消費に与える影響については調べられていたが、有料化とレジ袋の使用禁止の複合的な効果については調べられていなかった。環境エコノミストであるホァン氏は、住民の所得水準や地域の人口密度など、地域社会で発生するゴミの量に影響を与える変数も考慮しながら、どちらの政策の効果も算出する新しい方法を用いた。

研究チームは、スーパーのレジ袋が多くの家庭で二次利用されていることに着目し、レジ袋の禁止や有料化が実施されている郡と、そのような政策がない郡でレジ袋の売り上げを測定し、比較した。調査の結果、レジ袋に関する政策を実施しているカリフォルニア州のコミュニティでは、4ガロンのゴミ袋の売り上げが55%増の75%、8ガロンのゴミ袋の売り上げが87%増の110%になったことが判明した。これらの結果は、より小さなプラスチック製ゴミ袋の売り上げが増加したという以前の調査結果とも一致している。政策が実施された後、小さいサイズのゴミ袋の売上は急増したが、13ガロンのより大きいゴミ袋(米国では台所のゴミ箱によくあるサイズ)の売上はほぼ横ばいで推移している。

研究者たちは論文の中で「規制実施前は、持ち帰り用のレジ袋が、同じようなサイズのゴミ袋の代わりに使われていた」と書いている。「規制が施行された後、消費者のプラスチック製ゴミ袋の需要は、規制されたレジ袋から規制されていないゴミ袋に切り替わったのである」。

ポリ袋を入れてある平均的な引き出しから判断できるとすれば、ほとんどの家庭はゴミ袋の必要性よりもはるかに多くの使い捨て袋を使用しているので、 レジ袋の有料化や使用禁止は、最終的にはプラスだといえるのではないだろうか。しかしこの研究は、どんなに良い計画を立てても、意図しない結果を招くことがあるということを思い出させてくれる興味深いものだ。これは他の分野でもそうだが、気候変動政策においても真理であるように思われる。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Den Nakano)

酵素ベースの独自技術でプラスチック汚染の終結を目指す豪Samsara Eco

世界中で使用されるプラスチックの量は、2040年までに倍増すると予想されている。そのほとんどが廃棄される際には埋立地に送られ、リサイクルされるのはわずか13%に過ぎない。CIEL(国際環境法センター)によると、プラスチックの生産と焼却は、2050年まで毎年2.8ギガトンの二酸化炭素を発生させる可能性があるという。

世界的なプラスチック汚染をなくすために、オーストラリアの環境技術スタートアップ企業であるSamsara Eco(サムサラ・エコ)は、プラスチック(ポリマー)を分解して、その分子構成要素(モノマー)に分解する酵素ベースの技術を開発した。この技術を活用すれば、再び(何度も)新品のプラスチックに作り直したり、より価値のある商品にアップサイクルすることが可能になるとSamsara Ecoの創業者でCEOのPaul Riley(ポール・ライリー)氏は語る。

Samsaraの技術によって、プラスチックはもはや化石燃料や植物(どちらも環境に大きな影響を与える)から作られる必要はなくなり、埋立地や海に行き着くこともなくなると、ライリー氏はいう。

「この研究の動機となったのは、環境、特に炭素排出とプラスチック廃棄物に関する懸念と、我々の酵素工学に対する愛着です。これを製造技術に適用することで、地球規模の問題を解決し、システムを変え、真の循環経済を生み出すことができます」と、ライリー氏はインタビューで語っている。

今回、600万ドル(約7億3000万円)の資金を調達したSamsaraは、2022年末に最初のリサイクル工場を建設し、2023年に本格的な生産を開始する予定だ。

同社の投資家には、Clean Energy Finance Corporation(クリーン・エナジー・ファイナンス・コーポレーション)や、シドニーに拠点を置くスーパーマーケット大手Woolworths(ウールワース)のベンチャーキャピタルファンドで以前から出資していたW23、そしてMain Sequence(メイン・シーケンス)が含まれる。

「このプロセスでプラスチック1トンをリサイクルするごとに、推定3トンの二酸化炭素排出量が削減されることになります」と、ライリー氏は語っている。

酵素を使ってプラスチックを分解する企業は他にも世界中にあるが、Samsaraは異なるプロセスと酵素を使っていると主張する。ライリー氏の説明によると、他のほとんどの酵素プロセスは12時間以上かかるのに対し、同社は1時間でプラスチックの完全な解重合を行うことができるという。

「現在のリサイクルの方法は、単純に非効率的で、私たちが現在直面しているプラスチック汚染の危機に対応するには不十分です」と、ライリー氏は声明で述べている。「新しいプラスチックを作るために化石燃料を採掘したり、実際にリサイクルされるのは9%だけという現在のリサイクル方法に頼るのではなく、私たちはすでに存在するプラスチックを、無限にリサイクルすることができるのです」。

他の代替リサイクルソリューションとは異なり、Samsaraのプロセスは室温で行われ、真にカーボンニュートラルで、持続可能な方法で運用されていると、ライリー氏は同社の声明で述べている。

ライリー氏がTechCrunchに語ったところによると、Samsaraはさらなる資金調達も視野に入れており、年間2万トンの廃棄プラスチックをリサイクルする最初の商業規模の生産を行うために、2022年後半にはオーストラリアや海外の投資家から約5000万ドル(約6億1000万円)の資金を調達することを目指しているという。

Samsaraの潜在的な顧客は、小売業者、FMCG(Fast-Moving Consumer、日用消費財)ブランド、リサイクル業者など、基本的にプラスチックに関わるすべての人であると、ライリー氏は述べている。

同社はWoolworthsグループと提携しており、Samsaraが最初にリサイクルする5000トンの再生プラスチックを、Woolworthsは自社ブランド商品のパッケージに使用すると約束し、2022年末までにその在庫を確保することを目指している。さらにSamsaraは、Tennis Australia(テニス・オーストラリア)とも提携し、全豪オープンで使用されたペットボトル5000本をリサイクルすることになっている。

2021年に設立されたこのスタートアップ企業は、科学者やエンジニア、そしてキャンベラにあるオーストラリア国立大学の研究者を中心に、13人のチームで構成されている。

「私たちの長期的なビジョンは、当社の技術力を拡張して、ポリエステルやナイロンでできた衣服のような他の石油由来のプラスチック製品を無限にリサイクルし、二度と化石燃料を使用して新しいプラスチックを作らないようにすることです」とライリー氏は語る。

画像クレジット:Samsara Eco

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(文:Kate Park、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米証券取引委員会が企業に気候変動に関する目標や温室効果ガス排出量の開示を義務づける新規則を提案

米証券取引委員会(SEC)が提案した新しい規則は、上場企業に自社が排出する温室効果ガスの開示を義務づける。これはバイデン政権が、気候変動リスクを特定し、2030年までに排出量を52%も削減するという目標を達成するための取り組みの一部だ。SECの3人の民主党委員はこの提案を承認したが、共和党委員のHester M. Peirce(ヘスター・M・パース)氏は反対票を投じた

「私は本日の提案を喜んで支持します。なぜなら、この案が採用されたら、投資家が投資判断をする際に、一貫性があり、比較可能で、意思決定に有用な情報を提供できるようになり、そして上場企業にも一貫性があり、明確な報告義務を与えることになるからです」と、SECのGary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)委員長は述べている。

この新規則の下では、企業は気候変動リスクが自社の事業や戦略にどのような影響を与えるかを説明しなければならなくなる。企業が排出するCO2を公表することが求められ、大企業はその数値を独立したコンサルティング会社に確認させる必要がある。また、仕入先や顧客からの間接排出が、自社の気候目標にとって「重要」な場合は、その排出量を開示する必要もある。

さらに、カーボンフットプリントの削減を公約している企業は、その目標を達成するための計画を説明する必要がある。これには植林などのカーボンオフセットの利用も含まれるが、Greenpeace(グリーンピース)が最近の報告書で述べているように、実際の排出量削減の代用にはならないとの批判もある。

SECはすでに自主的な排出量ガイダンスを考慮しているが、新規則はこれを義務化するものだ。Ford(フォード)などの多くの企業はすでに、工場の生産過程における排出ガスから、販売した自動車の燃料消費量まで、排出量データを公開している。しかし「義務化されないとやらない企業もたくさんある」と、気候関連財務情報開示タスクフォースのチーフを務めるMary Schapiro(メアリー・シャピロ)氏は、報告書の発表に先立ち、The Washington Post(ワシントン・ポスト紙)に語っている。

この規則案がSECのウェブサイトで公開された後、一般市民は60日の間にコメントを出すことができる。最終的な規則は数カ月後に投票で採用が決まると、数年かけて段階的に導入されることになりそうだ。これに対し、ウェストバージニア州などの共和党員は、企業団体とともに、近い将来において気候変動は投資家にとって重要な問題ではないとして、法廷で争うことになる可能性がある。

しかしながら、専門家たちは時間が非常に重要であると警告している。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は最近、地球温暖化の影響の多くは「不可逆的」であり、最悪の事態を回避するための時間はわずかしかないとする報告書を発表した。Antonio Guterres(アントニオ・グテーレス)国連事務総長は、この報告書を「気候変動に関するリーダーシップの失敗を痛烈に非難するもの」と呼んだ。

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者のSteve Dent(スティーブ・デント)は、Engadgetの共同編集者。

画像クレジット:Luke Sharrett/Bloomberg / Getty Images

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(文:Steve Dent、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ECチェックアウト時にCO2排出量を計算するAPIで環境配慮アピールを支援するLune

Luneは、CO2排出量計算を公開し、ブランドから顧客がオンラインで何かを購入する際に、より良い情報を提供することを目指す新しいスタートアップだ。LuneのAPIを使い始めると、企業は顧客に料金を支払ってもらい、カーボンニュートラル化プロジェクトの資金を調達することもできるようになる。

Erik Stadigh(エリック・スタディ)氏は、Roberto Bruggemann(ロベルト・ブルッゲマン)氏とLuneを設立する以前は、Luneの400万ドル(約4億7800万円)のシードラウンドをリードしたVCファンドのCraneに勤務していた。さらに、N26共同創業者のMaximilian Tayenthal(マクシミリアン・タイエンタール)氏、Voi共同創業者のFredrik Hjelm(フレドリック・ヒェルム)氏、OysterHRとNexmo共同創業者のTony Jamous(トニー・ジャマス)氏など15人のビジネスエンジェルが同ラウンドに参加した。

「今日のやり方では、企業がサステナビリティレポートを作成しても、ウェブサイト上のどこかに隠れてしまい、読む人はほとんどいません」と、共同創業者のスタディ氏は筆者に語った。

Luneはまず、あなたの企業のカーボンインパクトの測定を支援する。通常そうであるように、それはあくまで推定値だ。「ベストプラクティスのガイドラインに従い、自動化された炭素排出量計算を提供しています」とスタディ氏はいう。

そして、APIを製品に組み込むと、顧客は少し多めにお金を払ってカーボンオフセットプロジェクトに貢献することを選択できるようになる。「当社は、世界中のカーボンオフセット開発者と提携しています」と同氏。

また、LuneはTrueLayerのような決済会社とも直接連携している。チェックアウトの際、顧客はカーボンオフセットプロジェクトに貢献できる「グリーンな支払い方法」を選ぶことができるのだ。

マーチャント側から見ると、Luneの顧客はそれらのプロジェクトのためにお金を払うか、顧客に余分な手数料を払わせるかを選ぶことができる。Luneはすでに他の決済パートナーと話を進めており、今後より多くの決済システムを提供する予定だ。

Luneは計算回数に応じて課金され、またカーボンオフセット取引の際にもわずかながら手数料をとっている。LuneのAPIを使えば、どんな企業でも気候変動に配慮した企業に変身させることができると、このスタートアップは考えている。

何かを購入することを検討しているとき、CO2排出量を削減するためには、その製品を購入しないことが最善の方法であると多くの人がいうだろう。しかし、どうしても購入を避けられない場合、顧客が他と比べて特定の会社を選ぶ判断材料になるかもしれない。

画像クレジット:Lune

画像クレジット:Lune

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(文:Romain Dillet、翻訳:Den Nakano)

テスラ取締役のキンバル・マスク氏、同社がビットコインを購入した際の環境影響について「無知だった」と発言

Tesla(テスラ)のCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏の弟で、同社取締役のKimbal Musk(キンバル・マスク)氏は、イーサリアム会議のステージ上でのTechCrunchとのインタビューで、Teslaが2021年に暗号資産のBitcoinを15億ドル(約1725億円)分購入し、この通貨で同社の車両を購入できるようにする予定だと発表したとき、同社は環境への影響について「非常に無知だった」と述べた。

「Bitcoinに投資したとき、我々ちはとても無知でした。環境への影響も知らず、文字通り何も知らず、良い価値の貯蔵庫で、資産を分散させる良い方法のようだ、といった感じでした。もちろん、我々が環境に何をしているかを伝える100万通の、冗談ではなくおそらく100万通のメッセージを受け取るのにそれほど時間はかかりませんでした」と、キンバル・マスク氏は筆者に語った。「もちろん、Teslaは代替エネルギーの未来を創造する会社です。その決断をしたときには、本当に十分な情報がなかったのです」。

キンバル・マスク氏は、TeslaがBitcoinの購入を「必ずしも後悔していない」一方で、ブロックチェーン業界がより環境に優しいインフラに移行できることを望んでおり、自身の慈善団体Big Greenが、さほどエネルギー集約型ではないブロックチェーン上で動作する暗号資産ネイティブのDAOガバナンス構造を採用したことに言及した。

テスラ取締役のキンバル・マスク氏は、イーサリアム2022カンファレンスにおいて、TechCrunchのルーカス・マトニーとのインタビューで慈善活動の将来について議論した(画像クレジット:Jesse Morgan / ETH Denver)

「私は本当に暗号資産の環境への影響には同意しませんが、暗号資産がしていることが大好きです」とキンバル・マスク氏は壇上で語った。「ですので、我々は、環境に影響を与えることなく行う方法を考えなければなりません。それは、この環境への影響を持つという選択肢ではありません」。

Bitcoinを購入するというTeslaの2021年の決定により、暗号資産に大きな追い風が吹いた。しかしその数カ月後、同社がBitcoinをすぐに売却する予定はないが、車両購入の支払いでBitcoinを受け入れないと発表したことで、事態が逆転したのは有名な話だ。

イーロン・マスク氏は2021年5月のツイートの中で「暗号資産はさまざまな面で良いアイデアであり、将来性があると信じていますが、しかしそのために環境を犠牲にするわけにはいきません」と述べている。「TeslaはBitcoinを一切売却せず、マイニングがより持続可能なエネルギーに移行し次第、取引に使用する予定です」。

Bitcoinのマイニングのネットワークがどれだけ再生可能エネルギーに依存しているかについては、まだデータがかなり不足しているが、ネットワークのエネルギー使用がいかに大きいかは明らかだ。Digiconomistのエネルギートラッカーによる試算では、2021年5月のイーロン・マスク氏のツイート以来、Bitcoinの採掘作業の年換算エネルギーの二酸化炭素排出量はほぼ倍増している。同サイトの推定では、Bitcoinのネットワークは、クウェートが1年間に排出するのと同程度の炭素を大気中に排出している。

キンバル・マスク氏は2004年からTeslaの取締役を務めている。

画像クレジット:Kevin Jones / ETH Denver

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(文:Lucas Matney、翻訳:Nariko Mizoguchi

タブレット洗剤のBlueland、使い捨てプラスチック削減促進へ約23億円調達

あなたが家で使っている掃除用洗剤の99%は水だ。そう、家の蛇口から出てくるのと同じものだ。水を運ぶなら自治体の水道システムの方が良いだろうという過激な発想で、Blueland(ブルーランド)は、使い捨てプラスチックを減らし、工場から小売店へ、そして小売店から自宅へと水を輸送する愚かさに歯止めをかけるべく、成功したタブレット型掃除用製品のライン拡大のため、2000万ドル(約23億円)を調達した。

2019年に立ち上げられたこのブランドは、さまざまな掃除用洗剤の市場にタブレット(錠剤)という形態を初めて持ち込んだ。同社の製品は、使い捨てプラスチックを永遠に排除することを約束する。創業以来40件の特許(および出願中の特許)を積み上げ、急速な成長を続けるために品揃えを増やしている。同社は2021年1年間で400%以上成長し、顧客生涯価値(LTV)が80%増加した。これは主に、製品ラインの拡大によるものだ。

今回の2000万ドルの資金調達は、消費者ブランドに特化したベンチャーキャピタルPrelude Growth Partnersがリードした。Bluelandはこれまでに、Justin Timberlake(ジャスティン・ティンバーレイク)氏、Adrian Grenier(エイドリアン・グレニアー)氏、Rent the RunwayのJennifer Fleiss (ジェニファー・フライス)氏、SweetgreenのNicolas Jammet(ニコラス・ジャメット)氏、Thrive MarketのNick Green(ニック・グリーン)氏など、業界関係者や著名人から3500万ドル(約39億円)を調達した。

「事業を始めた頃を振り返ると、共同創業者のジョンと私は、使い捨てのプラスチックパッケージをなくすというミッションに取り組んでいました。実は、それは決して掃除用洗剤に関するものではありませんでした。私たちは、自分たちが始められる可能性のあるカテゴリーや形態を幅広く検討しました。当時は懐疑的な意見が多かったですね」とBluelandの共同創業者でCEOのSarah Paiji Yoo(サラ・パイジ・ユー)は笑う。「20人くらいの投資家に、誰もエコに関心なんてない、人々が地球のために行動を変えることはない、と言われ続けた気がします」。

同社はエコを声高にアピールしている。Bコーポレーション(環境や社会に配慮した事業を行う会社)として認定され、クライメート・ニュートラル認証も受けた。1000万個以上の製品を出荷し、顧客ベースを100万人以上に拡大した企業としては、驚くべき偉業だ。その過程で、すでに10億本のペットボトルが埋め立てられるのを防いだと同社は見積もっている。

「Bluelandの高性能な製品と使い捨てプラスチックの廃止という使命は、掃除用品のカテゴリーで消費者の比類ない支持を得る結果となりました。同社は、この分野で最も急成長しているブランドの1つで、並外れた需要と極めて強いロイヤリティを有しています」とPrelude Growth Partnersの共同創業者でマネージング・パートナーのAlicia Sontag(アリシア・ソンタグ)氏は話す。「サラとジョンがBluelandを象徴的で強力なブランドへと成長させるために協力できることをうれしく思います」。

Bluelandの共同創業者サラ・パイジ・ユー氏とジョン・マスカリ氏(画像クレジット:Blueland)

ここに至るまでに、同社は技術面で大きな投資をしなければならなかった。一般的なCPG(消費者向けパッケージ商品)メーカーは製造委託先を利用し、配合も委託者任せになる。Bluelandは別の道を歩まなければならなかった。自社の仕様に合う製造委託先を見つけることができなかったからだ。

「当初、すべてを自分たちで配合しようと思っていたわけではありませんでしたが、受託製造業者を利用できるほどの余裕はありませんでした。洗浄スプレーの90%は水であることを知り、従来のやり方では意味がないと判断しました。十数社の洗剤メーカーを回りましたが、どこも私たちに頭が3つあるような、バカにしたような目で見ていました」とユー氏は振り返る。「彼らは、タブレットを作る機械を持たず、ほとんどの原料を液体で仕入れるため、私たちが必要とするものを作ることができなかったのです。それがきっかけで、奔走することになりました。製菓メーカーからビタミン剤メーカーまで、あらゆるメーカーと連絡を取り合いました。乾燥した形態で製造するメーカーなら私たちを助けてくれるのではないかと考えたのです。分かったことは、自分たちの手で製品を作らなければならないということでした。共同創業者も私も化学者ではありませんが、世界最大のナチュラルクリーニングブランドの1つであるMethod(メソッド)の配合担当ディレクターを招聘することができました。私たちは、ハンドソープからスプレー式クリーナー、洗濯用洗剤、食器用洗剤まで、さまざまな洗剤にタブレット型をいち早く市場に導入したのです。その結果、すべての製品で使い捨てのプラスチックを使用しない洗剤のトップブランドとなることができました」。

画像クレジット:Blueland

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nariko Mizoguchi

手持ちのモノを売り支払いに充てられる決済プラットフォームTwigが約40.3億円調達、「グリーン」を謳うがそのサステナビリティにはほころびが見える

Z世代と若いミレニアル世代の消費者をターゲットとし、電子マネーアカウントで衣類や電子機器を売って即座に換金できるロンドン本拠のフィンテックTwig(トゥイグ)が3500万ドル(約40億3000万円)のシリーズAラウンドをクローズした。

今回のラウンドを率いたのは、フィンテック投資専門のFasanara Capital(ファサナラキャピタル)で、Twigによると、LVMH、Valentino(バレンチーノ)、Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)の現幹部や旧幹部など、他にも数多くの匿名の戦略投資家たちが参加したという。

Twigは2020年創業の新興スタートアップで2021年7月に英国でサービスを開始したばかりだが、英国内で急速に成長しており(Twigのアプリのダウンロード回数は月間10万回を超えており、iOSのApp Storeでファイナンス関連アプリの第6位にランキングされた)、すでに海外進出に向けて準備を開始している。

Twigは、シリーズAで獲得した資金で、米国(2022年第1四半期)およびEU(第2四半期。まずはイタリア、フランス、ドイツを予定)に進出すると目されている。また、Web3とデジタル収集品の流行に注目して製品の機能拡張も予定している。

現時点では、Twigのアカウントは英国内でのみ使用できる。創業者兼CEOのGeri Cupi(ゲリー・クピ)氏によると、現段階で約25万人のユーザーを確保しているという。

同氏によると、典型的なユーザーは大学を卒業したばかりの22歳の働く女性だ。こうした女性は、おそらくワードローブに着れなくなった衣類が山のようにあり、いつでも売りたいと考えているからだ。

Twigでは、他の金融機関のアカウントに送金すると1ユーロの手数料を請求されるが、Twigアカウント同士の送金では手数料はかからないため、口コミで広がり成長したことが初期段階での急成長を加速させたようだ。

また「your bank of things(モノの銀行)」というマーケティングスローガンを掲げているものの、Twigは実際には銀行ではないことも指摘しておく必要がある。Twigのアカウントは「電子マネーアカウント」だ。このため適用される規制に関して銀行とは大きな違いがある(例えばTwigのアカウントは英国の預金保証制度の対象にはならない)。

正式な銀行ではないため、Twigは新市場でいち早く成長することができる。銀行業務ライセンスを取得する必要がある場合に比べて、提供サービスに適用される規制が軽減されるからだ。クピ氏によると、現時点では性急に正式な銀行になるつもりはないという。

数十年前、インターネットおよびオープンバンキングを背景とするフィンテックブームなど存在しない時代の昔ながらの銀行は、バッグ、文房具、音楽などの無料のおまけをつけることで学校を出たばかりの新社会人に営業して口座を作ってもらっていた。最近のフィンテックスタートアップは、最も魅力的な機能セットを競って提供することで若い年齢層の顧客を捕まえようとしている。

ただし、お金を口座に入れてもらうことが依然として主たる目的であることは間違いない。

とは言え、TwigはB Corp認証を取得申請中だ。B Corp認証は社会的目的と環境への配慮、透明性、説明責任を重視していると認められる企業に与えられる。クピ氏によると、同社は、申請の最終段階にあり、現時点では保留状態だが、第一四半期には完全な認証を受けられる見込みであるといい、ユーザーにブランド品を捨てる代わりに売るよう勧めることでサステナビリティと経済循環性を実現していることを強くPRしている。

Twigのウェブサイトでも、環境への影響を抑えるためにカーボンオフセットの取り組みを行っており、その他のイニシアチブにも参加していることが掲載されている。

要するに、人類が気候災害を回避するには、世界レベルでのCO2排出量、つまりは全体的な消費の削減が必要となる。そこで疑問視されるのが「サステナビリティ」を再販売というコンセプトに無理矢理結びつける主張の信憑性だ。再販売には、すぐに査定してもらって現金が手に入るため、逆に消費量が増すリスクがあるからだ。

現在所有しているモノを売って現金が手に入るなら、一度購入したアイテムを手放さずに長く使う場合に比べて、消費者はお金をどんどん使って新しいモノを買うよう仕向けられる可能性がある。別の言い方をすれば、消費を削減してCO2排出量を削減するつもりなら、循環経済とモノの寿命をセットで考える必要があるということだ。再販売に必要な面倒な手続きが削減されることで消費者がモノを買わなくなるかどうかはわからない。逆にもっとモノを買うようになる可能性もある。

これがTwigの謳うサステナビリティにほころびが見える点の1つだ。

この難題をクピ氏にぶつけたところ、同氏は次のような議論(いくらか循環論法的ではあるが)を展開して巧妙に解決して見せた。「中古品の流動性を高めるというTwigの目的はサステナビリティの向上と消費量削減の推進を実現します。というのは、より多くの中古品が買えるようになるからです。その結果新しいモノに対する需要が減り、より多くのアイテムがこの(より活発な)中古品経済を介して循環するようになる。

「基本的に、当社のビジネスは、消費者が自分が持っている古いアイテムをお金に変えられるようにすることで、その古いアイテムに新しい命を与えるというものです。これによって、少なくとも中古市場の供給が増大します」と同氏はいう。「中古市場の需要はずっと増え続けています。当社が中古市場の供給側だけでやっていけるのは、現在、中古市場には供給の追加を求める大きなニーズがあるからです。消費者が手持ちの中古品を売ってお金を得たとしても、そのお金で別のモノを購入するとは限りません」。

「これは当社のユーザーの行動からわかることですが、Twigに送られてくる資金のうち約42%は新しい経験、つまり旅行や経験主導の活動に使われています。ですから、流動性が向上したからといって、必ずしもモノの消費が増大して環境に悪影響を与えるとは限りません。それがこれまでのユーザーの行動から分かっていることです」。

クピ氏はTwigのビジネスを非常にシンプルな次の宣伝文句に集約させている。「当社は資産をトークン化します」。

「Twigでは、例えばGucci Marmont(グッチ・マーモント)のハンドバッグをプラットフォーム上にアップロードします。そして、アップロードされた資産をトークン化して、その価格を提示します」と同氏は説明する。

「当社の目標はこの仕組を外部でも使えるようにすることです。そこで役に立つのが、ブロックチェーンです。当社は資産の流動性を向上させて、消費者が物理的なモノを売って仮想的なモノを入手し、その仮想的なモノを使って物理的なモノや体験を購入するという行為を簡単に行えるようにします」。

「基本的に、ユーザーが簡単に取引できるようにすることが目的です」。

クピ氏にはブロックチェーンと循環経済に関するバックグラウンドがある。例えば、2018年には、デニムのアップサイクルビジネスをLevi’s Albania(リーバイス・アルバニア)に売却している

Twigのホワイトペーパーによると、よく売れる物理的なモノとしては、Nike(ナイキ)、Gucci(グッチ)Chanel(シャネル)、Hermes(エルメス)、その他の高級品メーカーのブランド品などがあるという。このペーパーには「所有の未来の再定義」と「 循環型ライフスタイルで生活を送るためのパワーをZ世代に付与」という内容が記載されている。

クピ氏によると、Appleの電子機器も中古市場で高値がついているという。同氏は、購入対象中古品に、不要になった衣類だけでなく電子機器も追加したところ、それまで女性が9割以上だったTwigの利用者構成が、女性7割男性3割くらいに変化したと指摘する。

Twigは中古品の再販売に関する手続きを代行する。具体的には、中古品を即座に査定して、Twigがその中古品の購入を承諾するとすぐに現金が手に入るので何でも好きなものを買える(Twigでは極めて詳細な購入対象品リストを用意している)。

Twigまでの配送料は無料なので、Twigのサービスを利用することで、Vinted(ヴィンテッド)Depop(ディポップ)といった中古品マーケットプレイスにアイテムを自分で直接販売する場合に発生する面倒な手続きやリスクは基本的に排除される(ただし、自分で直接販売した場合よりも売値は低くなる)。

Twigの倉庫に到着したアイテムが品質チェックに引っかかると、ユーザーは返送料を請求される(そして、おそらく即金で支払われた代金も全額Twigに返金される)。アイテムが売れなかった場合は、アップサイクルとリサイクルが適切に行われているかどうかが確認され、どちらの方法でも対処できない場合は、慈善団体に寄付される。環境に悪いため、ごみ廃棄場送りにはしない。

クピ氏によると、Twigは現在成長重視フェーズであるため、再販ビジネスで大きな利益を出すことは考えていないという。

提示する買取価格は、動的に変化するさまざまな要因によって変わる。前述のホワイトペーパーによると、Twigは「市場ベースの価格設定アルゴリズム」を使用して、中古市場の100万点を超える商品を分析し「ブランド、アイテムのカテゴリー、市場セグメントに応じた適切な再販価格を提示している」という。

その前提の中核をなすのは、消費者にとっての総所有コストという概念を再販価値の変化に織り込むという考え方だ。これは購入パターンをシフトさせるパワーを秘めている可能性がある(例えば消費者は、環境的なダメージを与える低再販価値のファストファッションではなく、高級ファッションを選択してその価値を長期間に渡って楽しむ選択をするようになるかもしれない)。

Twigは銀行のような機能(Twigの口座を作るとTwigVisaデビットカードが発行され、国内および国際送金を行うことができる)と本業の中古品再販サービスを組み合わせたものというが、ターゲットであるZ世代と若いミレニアル世代向けの宣伝文句だ。こうした世代の若者たちは中古品市場の倹約性とサステナビリティの両方にますます強い関心を寄せている。

Twigがターゲットとする年齢層を見れば、同社のマーケティングが循環経済による環境への配慮に重きを置いている理由がわかる(「Twigは循環経済を簡単に実現し、サステナビリティの高いライフスタイルを選択できるようにします」とグラフィックを多用したレトロ風のウェブサイトは謳っている)。

特にZ世代はサステナビリティ世代と呼ばれ、この世代の若い消費者は「モノを所有することよりも使うことを優先する」とTwigのホワイトペーパーに書かれている。

こうしてみると、銀行の機能を、文字どおり経済的価値を保存する場所ではなく、再販価値の交換所および仲介者として捉え直すことが非常におもしろく見えてくる。消費者は、あらゆるモノを擬似通貨に変えて、所有したいモノややりたいことの支払いに充てることができる(ハイテクによるバーター取引の再発明と言ってもよいだろう)。

しかし、Twigのビジネスにブロックチェーンが深く組み込まれていることを考えると、同社の主張するサステナビリティには別のほころびが見えてくる。

Twigのテクノロジーは最初からブロックチェーンを基盤として構築されているが、同社のウェブサイトのユーザー対面型の説明からそのことに気づくのは難しい。TwigのシリーズAで公開されたプランでは、Z世代向けの環境配慮型マーケティングがまったくうまくいかない危険がある。というのは、PRでは、Twigを「世界初のWeb3対応グリーン・ペイメント・インフラストラクチャー」と称し、その立ち上げに、最近のWeb3ハイプをうまく利用しようとしているからだ。

この来たるべき機能により、ユーザーは、実世界の資産を「トークン化」して「数秒で取引可能にできる」と、リリースノートには書かれており、さらに次のように続く。「Twigを使用すると、デジタルアイテムと物理アイテムをマネタイズして新しい方法で取引できます。このアプローチにより、ユーザーはチェックアウトページで手持ちのアイテムを売って、暗号資産を購入したり、衣類や電子機器を売ってNFTを購入したりできます」。

暗号資産とNFTの取引が「グリーン」に行われることが本当に希望のあることなのかどうかはよく考えてみる必要がある。

結局、暗号資産に使われるエネルギーコストそれ自体、地球に壊滅的な悪影響を与える要因のように見えなくもない。

例えばケンブリッジ大学が2021年行った研究は、1つの暗号資産(ビットコインなど)だけで、アルゼンチン全体の年間エネルギー消費量を超えていることを示している。

2021年3月に実施された別の研究によると、ビットコインはノルウェーと同じ量のエネルギーを消費したとし、ビットコインのCO2排出量はまもなくロンドンの大都市圏全体で生成される排出量に匹敵するようになると予測している。

要するに、ブロックチェーンベースの暗号資産(もちろんトランザクションを承認するためにプルーフ・オブ・ワークを必要とするもの)の悪名高い非効率性は、サステナブルとは程遠いものに思えるということだ。

しかもブロックチェーンはもっとひどいエネルギーの浪費に関わっている。すなわち、NFT(代替不可能なトークン)の台頭である。NFTでは、ブロックチェーンの上にデジタル収集品を取引するレイヤーを追加することで、エネルギー集約的なトランザクションが必要となり、そうしたトランザクションが促進される。

(ファッションやステータスシンボルとしての)NFTをめぐる現在の騒動と そうしたデジタル資産の小売取引、およびエネルギーを燃やして収集品ピクセルをシフトさせることで非常に手っ取り早くお金を作り出すことができるという提案によって、このエネルギーの焚き火にさらなる燃料が注入されている。

2021年、あるデジタルアーティストの分析によって、1つの平均的なNFTは、EUに住んでいる1人の人間の1カ月分の電力消費量に相当するCO2を排出することが示された。以前と同様、ユーザーにトークン化とモノ(または、デジタル収集品)の取引で忙しくするように促す機能を、どのような形であれ「グリーン」に稼働させる方法を思いつくのは難しい。

しかし、クピ氏はこの反論にもひるまない。

第一に、Twigが基盤としているブロックチェーンインフラストラクチャーは他のブロックチェーンよりもエネルギー効率が高いと同氏はいう。

「ブロックチェーン自体はテクノロジーとして環境に悪いわけではありません。ブロックチェーンにはさまざまな応用事例があります」と同氏はいう。「当社の基盤となっているHyperledger Sawtooth(ハイパーレッヂャーソートゥース)というブロックチェーンは、他のソリューションに比べてエネルギー消費量が極めて小さいという特長があります」。

「つまり、当社はエネルギーを大量に消費するソリューションの使用を最小限に抑えたいと考えています」。

また、Twigは内部のエネルギー消費量を計算して、環境への影響を数量化しており、対抗策としてカーボンオフセットの取り組みも行っているという。

さらには、大気圏からCO2を排除するプロジェクトも支援している。

ただし、個々のプロジェクトがどの程度実行可能で信頼できるものかは、まったく別の問題だ。

Twigは自社のエネルギー消費を最小化し、CO2排出量をオフセットしようとしているかもしれないが、それより大きな環境への影響が、二次使用つまり、TwigのユーザーとサプライヤーがTwigを利用した結果として発生する消費、エネルギー使用、CO2排出量によって起こる可能性がある。

こうした関連のある間接的な影響(サステナビリティレポートの用語でScope 3排出量と呼ばれる)を計算することは、企業の直接的なエネルギー使用を内部的に監査するよりもはるかに難しい。とはいえ、Scope 3排出量は企業のCO2排出量の大きな部分を占める傾向があることも確かだ。このため、そうした間接的な取引、排出量、影響をなきものとして片付けてしまうことはできない。

Twigは、カーボンオフセットによって商品の配送にともなうCO2排出量を相殺するなど、明確な姿勢でScope 3排出量対策に取り組んでいる。また、B Corp認証を取得しようという野心も称賛に値する。

しかし、Twigによって拡大も縮小もするかもしれない消費者需要やトレンドに基づいて、最終的に発生するエネルギーコストを予測するのは非常に難しい。

ユーザーに暗号資産を購入し、NFT取引を始めるよう促すことによってエネルギーコストが発生することは間違いない。そして、たとえTwigが中古品の流動性を高めることで、消費者が新品を購入する需要が低下し、新製品の実質生産量を削減することができるとしても、このような大量のエネルギー消費にともなうコストによって環境へのプラスの影響が相殺されてしまう危険がある。

とはいえ、支払いに使用できるものがこのように根本的に見直されると(あらゆるモノで支払いができる。トークン化された価値の世界では、理論上、消費者は実際のお金を使う必要がない)、消費活動の大きなシフトにつながり、循環経済に実際に目立った変化をもたらすことができる。その結果、数十年に渡る資本主義を特徴づける使い捨て消費の悪循環から抜け出すことができる。

別の言い方をすれば、(認証をサポートすることで偽物に対抗できる)ブロックチェーンベースのトークン化と(分散台帳インフラストラクチャによって完全な所有履歴を把握することで実現される)安定度の高い査定のおかげで、モノの再販時の価値をもっと確実に予測できるなら、消費者は、持っているモノを丁寧に扱う気持ちになるかもしれない。モノの寿命が維持されれば高い売値がつくからだ。そうなれば、世界の産業はそもそも現在の半分だけモノを作れば足りるようになり、資源の枯渇によって地球が機能不全に陥る重圧から解放される。

これには確かに一理ある。

あらゆるモノを売って極めて簡単に支払いができるようにすることでお金の価値が重要視されなくなることは、価値、所有、富に対する考え方を修正するために必要な最初の一歩になるかもしれない。

クピ氏は次のように説明する。「現金を使う代わりに、自宅にある不要になったモノを使ってNFTを買うことができます。例えば使わなくなった古いiPhone(アイフォーン)を売ってNFTや暗号資産を買ったり、体験を買うことができます。ニューヨークまでの旅行費用に充てたり、次回の職業教育コースの支払いに充てたりできます。つまり、Twigの目的は、市場の流動性を高めることです。人々が使わなくなった資産を売ることでその資産に新たな第二の命を与えることなのです」。

「当社の信念は、財布にも地球にもやさしい結果をもたらすことです」。

Twigのビジョンは自身を支払いプラットフォームに変えることです。ユーザーや顧客の代わりに物理的なモノを支払い代金に変えるプラットフォームです。

「現時点では、Twigは単なるB2Cプラットフォームに過ぎませんが、ゆくゆくはB2B2Cプラットフォームにしたいと考えています。将来的には、さまざまなプロバイダーの決済ゲートウェイとして接続する予定です」とクピ氏はいい「いくつかの大手小売業者」とTwigのインフラストラクチャへの接続を許可する契約を結んでいると話した(小売業者の名前は明かしていない)。

「当社がやろうとしているのは、要するに、富の定義の再発明です」とクピ氏は付け加え、お金の概念が大きく様変わりしていると説明する。「自分が所有しているものがすべてお金として扱えるとなると、富の見方も変わってきます」。

「富とは、従来の定義では、家や車など、大きな資産の価値です。しかし、たとえばワードローブの価値は通常資産の一部とはみなされません。我々はこれを変えたいのです。すべてのモノに即時の流動性があれば、モノを現金とみなすことができます。現金だろうとGGマーモントのハンドバッグだろうと違いはないのです。ポンドで何かを買いたい場合、現金でもハンドバッグでも使えるのです」。

Twigが普及すれば、決済の未来は今よりずっとビジュアルで物質的なものになる可能性があります。例えばeコマース決済ウインドウに鋳造しておいたNFTをドラッグアンドドロップして中古のiPhoneを購入する。

あるいは、限定版のナイキのシューズを売って、ずっと楽しみにしていた都市滞在型の春休みを取る。

ダイヤモンドで覆われたすばらしい宝石を売って高級不動産を買うといった具合だ。

若い消費者たちはコモディティ化された価値交換可能なモノの世界をすでに違和感なく受け入れているようだが、年配の消費者たちはどうだろう。クピ氏は、ブーマー世代やX世代が大枚をはたいて買ったモノを手放して支払いに充てるという新しいやり方に納得できると考えているのだろうか。

サイン入りの初版本や貴重なビニールのレコードが将来の決済方法の一部に取り込まれることになるだろうか。

「正直、その答えは私にもわかりません」とクピ氏はいう。「現時点では、Twigに対するZ世代の反応は極めて良好です。また、英国のミレニアル世代、我々がターゲットとしている20代の若者たちの反応も上々です。英国外の市場に進出した際には状況は変わるかもしれません」。

画像クレジット:Twig

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

サムスン、廃棄漁網由来のスマホで持続可能性への取り組みを強化

韓国のエレクトロニクスの巨人、Samsung(サムスン)は、ここ数年サステナビリティ(持続可能性)を派手に宣伝し、同社のエコシステムに影響をあたえている。「コーポレートシチズンシップ」などのスローガンや、環境に優しいサプライチェーンや材料、製造の強い推進など、今まで以上にグリーンな世界を強調している。Galaxy for the Planet(地球のためのGalaxy)プロジェクトの一環として、アップサイクルプログラムプラスチック包装の廃止など数多くの取り組みに続いて同社が繰り出す最新の妙技は、捨てられた漁網の再利用による環境保護だ。

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米国時間2月9日のGalaxy新機種発表を前に、同社は新しい材料が製品ラインナップのどこに居場所を見つけるかを垣間見せた。強調したのは、プラスチックの使い捨てをやめることによる効率向上と、再利用材料(特に、消費財再利用材料)や再生紙などの環境に優しい材料の使用をさらに強化することだった。

実際に意味のある影響を与えることを確かめるべく、同社は毎年64万トン廃棄されている漁網に注目した。少なくともこの一部を収集し、再利用することで少しでも海洋をきれいにする取り組みを、会社は誓約した。その結果、捨てられた漁網に絡みつかれていた海洋生物にとって、水辺の環境は少しでも改善されるだろう。

廃棄された網を海に残さないことがどの程度の環境的効果を生むのかは不明だが、マスコミに取り上げられる効果は多少なりともあるだろう(画像クレジット:Samsung)

Samsungは2021年の報告書でこれまでに数多くの善行をなし、一部のパッケージをデザイン変更したことでプラスチック使用を20%削減し、製品に省エネ機構を加え、500万トン近くの「電子廃棄物」を収集し、製造工程廃棄物の95%の再利用を確保していることを主張している。同社は、米国、ヨーロッパ、および中国で100%再生可能エネルギーも実現している。さらに、Carbon Trust Standard(カーボントラスト標準)による、二酸化炭素、水、および非リサイクル材への依存削減などの認証取得も進めている。

海洋プラスチック汚染に対し、環境および「全Galaxyユーザーの生活」に良い影響を与える方法で取り組むことを誓約する、と同社はいう。ということは、Galaxy以外の携帯電話を持っている人の生活は過去とまったく変わらないということか、それは、どうもありがとう。

冗談はさておき、そして岩礁から漁網などのごみを片付けるために数日間潜水服で過ごしたことのある1人として、これはエレクトロニクス巨人による前向きな行動だと私は思う。果たしてこれが、目に見える影響を環境にあたえるかどうかはまだわからない。Samsungは、年間64万トンの漁網のうちどれだけを海洋から取り除こうとしているのかを明らかにしていないが、コミュニケーションと測定が続いていることには希望がもてる。Samsungや他の大手メーカーが互いにグリーン化を競い合い、気候変動に対する理想的な解決策ができるまでに地球を焼け焦げにしないための役割を果たして続けてくれること願うばかりだ。

Samsungの努力に拍手を送る。そして、もしみんなが携帯電話を1年半ではなく3年毎に買い換えるようにすれば、もっと目に見える影響があるはずだ。

画像クレジット:Samsung

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nob Takahashi / facebook

カーボンオフセットに関する評価枠組みとデータを提供するSylveraが約36.4億円を獲得

英国を拠点とするスタートアップのSylvera(シルベラ)は、カーボン・オフセット・プロジェクトに関する説明責任と信頼性を高めることを目的とし、機械学習技術を利用して衛星画像やLiDARなどのさまざまな視覚データを分析する。同社が、昨年5月の580万ドル(約6億6100万円)のシードラウンドに続いて、3200万ドル(約36億4800万円)のシリーズAを迅速に完了させた。

このラウンドは、SylveraのシードラウンドをリードしたIndex Ventures(インデックス・ベンチャーズ)と、ニューヨークに拠点を置くグローバルなプライベートエクイティおよびVC企業Insight Partners(インサイト・パートナーズ)が共同でリードした。また、Salesforce Ventures(セールスフォース・ベンチャーズ)、LocalGlobe(ローカル・グローブ)、および多数のエンジェル投資家もこのラウンドに参加している。

2020年に設立されたこのスタートアップは、現在、合計3950万ドル(約45億円)を調達したことになる。

シリーズAは、チームのさらなる拡大や技術面でのリーダーシップの強化など、さらなる事業拡大のために使用されるとしている。

また、このプラットフォームを拡大し、すべてのオフセットに対応できるようにすることも視野に入れている。

共同設立者兼CEOのAllister Furey(アリスター・フューリー)博士は、「市場は、気候変動に対して世界で最も強力なツールの一つです。しかし、人々が実際に良いことをしているプロジェクトに投資するインセンティブを与え、良い仕事をしているプロジェクト開発者に報いるためには、カーボンオフセットの品質を判断するための信頼できるデータが必要です。」と声明で述べている。

「そのため、私たちはボランタリーカーボン市場(VCM)のための最も正確な評価を構築しているのです。私たちはこの資金を利用して、対象範囲を拡大する予定です。そにれより、わたしたちの評価で、企業のサステナビリティリーダー、炭素取引業者、政策立案者が、カーボン・プロジェクトを評価し投資する際に、明確さと自信と選択肢を持つことができるようになります。こうすることで、何十億ドル(何千億円)もの資金を炭素の削減、隔離、除去に回すことができるのです。」と述べる。

Sylveraは、ウェブアプリとAPIで提供する評価について、顧客数を公表していないが、これまでの顧客は様々な業界にまたがっており、Delta Airlines(デルタ航空)、Cargill(カーギル)、CBL(Xpansivマーケット)、Bain & Company(ベイン・アンド・カンパニー)などが含まれるという。

また、「企業のバイヤー、トレーダー、取引所など、さまざまな顧客がいる」とも述べている。「我々の顧客は通常、ネット・ゼロを約束した大規模な機関であり、市場で最も大きなカーボンクレジットの買い手です」。

Sylveraの評価枠組みは独自のものだが、このスタートアップは、カーボンオフセット・データの信頼できる主要な情報源になるという目標を支えるために、プロジェクトの評価を行う方法の詳細を公表することを約束していると言う(重要なのは、直接的な対立を避けるために、カーボンオフセットそのものを取引しないことだ)。

「カーボン・プロジェクトの独立した、詳細かつ最新の評価」というのは、偽物のオフセットやグリーンウォッシュが横行する業界では立派な目標だが、実際に信頼を得るためには、その方法、データ、アルゴリズムについて、独立した、詳細かつ最新の外部検証が必要であることを主張している。

「私たちは、今後2年以内に、Sylveraを、あらゆる種類のカーボンオフセットに関する最も信頼できる情報源にすることを目指しています」と、同社は述べる。「信頼されるデータソースとなるためには、透明性を確保する必要があります。このため、私たちは、評価の枠組み、モデルの精度評価プロトコル、基盤となるモデルの精度数値を公開する予定です。また、今年後半には、世界中の主要大学のパートナー研究者とともに、先進的なバイオマス推論に関する査読付き学術論文を発表する予定です。」と付け加えている。

Index Ventures(インデックス・ベンチャーズ)のパートナーでSylveraの取締役であるCarlos Gonzalez-Cadenas(カルロス・ゴンザレス・カデナス)氏は、声明の中で今回のシリーズAラウンドについて、「うまく機能するカーボンオフセット市場なしには、世界の炭素排出量を減らすチャンスはないでしょう。カーボン・オフセットには毎年数十億ドル(数千億円)が費やされていますが、透明性や説明責任が欠けており、その結果、信頼も失われています。気候変動の緊急事態に対処するために必要な規模に達するには、信頼が絶対に必要です。独立系データプロバイダーであるSylveraは、世界有数の大企業や政府などからの需要が飛躍的に伸びているのを目の当たりにしています。彼らの仕事がいかに重要であるかを浮き彫りにしており、私たちはSylveraとのパートナーシップを拡大できることに興奮しています。」と語っている。

画像クレジット:Sylvera

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Akihito Mizukoshi)

Mozilla、強い反発を受けて暗号資産による寄付の受付を一時停止

Mozilla Foundationは、多くの人たちからの反発により、暗号資産で寄付を受け取ることを休止する。反対派の中には、Mozilla Projectの創始者もいる。

Firefoxブラウザーの開発を統括している同財団は米国時間1月6日に、暗号資産の環境への影響を議論し、暗号資産による寄付に対するこれまでの方針が「気候に関する同団体の目標に合致しているか」を検討していることを認めた。

財団はツイートのスレッドで「ウェブ技術の分散化は私達が探求すべき重要な分野であり続けるが、暗号資産による寄付に関しては、私たちがその受け入れを始めてから以降、多くのことが変化しました」と述べ、今後その検討過程のアップデートを提供すると約束している。

財団が反発にあい始めたのは、Bitcoin(ビットコイン)といったさまざまな暗号トークンでこの非営利団体に寄付をしようとする人びとを、彼らが歓迎するようになってからだ。

そのツイートに応じてMozillaの創始者であるJamie Zawinski(ジェイミー・ザウィンスキー)氏が、財団の態度に失望感を表明した。彼は「プロジェクトに関わる誰もが、この惑星を灰燼に帰すネズミ講詐欺と提携するこの決定を、心底恥じ入るべきである」と激しい言葉で言った。

このブラウザーのエンジンであるGeckoを創ったPeter Linss(ピーター・リンス)氏も会話に加わり、Mozillaに対し「前の方が良かった」と語った。

メジャーな企業や組織が、環境への懸念でビットコインに反発したり、距離を置いたりすることは、これが初めてではない。2021年5月にはTesla(テスラ)が、車両の代金をビットコインで受け取ることを保留にしたが、それは受け入れを表明してからわずか数カ月後だった。

Elon Musk(イーロン・マスク)氏によると同社は「ビットコインの採掘や取引で化石燃料、特に石炭の使用量が急増していることを心配している」そうだ。数週間後に同氏は、暗号資産の採掘に使われるエネルギーの50%が再生可能エネルギーになったら再びビットコインを受け入れるだろうと述べた。

ビットコインの環境負荷をめぐる疑問は、さまざまなトークンの作られ方と関連がある。ビットコインとイーサリアムは、PoW(プルーフ・オブ・ワーク)と呼ばれる仕組みを利用して自分たちのネットワークを動かし、各通貨の新しいブロックを作り出している。その計算方法は、数年にわたって、ネットワークの成長とともに複雑化する設計であり、そのパズルを解くことに何千ものGPUを昼夜不休で動かす企業の業界を生んでいる。

Cambridge Centre for Alternative Financeの推計によると、ビットコインの採掘は毎年、約148テラワット時のエネルギーを消費している。多くの暗号資産支持者はしかし、そんな所見に反論したり、暗号資産の存在意義を主張したりしている。

数カ月前には、この業界に大きな分裂が出現してきた。批判者たちは、Web3の基本的な価値命題に異議を唱えている。しかしビットコインを支持しているTwitterの創業者Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は、VCたちがWeb3のプロジェクトからほとんど利益を得ていないという説を却下した

このような議論が続く中、多くの企業がWeb3の野心を小さくしている。Discordは11月、暗号資産とNFTの探求に反対する多くの人々の反発を受け、一時停止した。ゲーム会社GSC Game Worldは、複数のゲーマーから強いフィードバックがあったため、発売予定のタイトル「STALKER 2:Heart of Chernobyl」にNFTを搭載する計画を中止している。

画像クレジット:David Tran/Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】地球を救い、利益を上げるために地球の最大の課題に投資する

それを持続可能性と呼ぼうが、ESGまたは気候技術と呼ぼうが構わないが、お金を稼ぎながら良いことをしようとする動きが世界を席巻していることは間違いない。

ブルームバーグによれば、世界の持続可能性への投資資産は、2020年には35兆3000億ドル(約4000兆円)に増加している。これは「世界をより良い場所にする」ことで利益を得ようと管理されている3ドル(約340円)分に対して約1ドル(約110円)分に相当する。

こうした資金がベンチャーキャピタルに流れ込む中で、世界は地球を温暖化の摂氏1.5度以内に保つために、気候関連の最も困難な問題のいくつかを解決しようとしている。PwCのレポートによると、投資家は緊急性を感じているようだ。気候技術への投資が、2013年から2019年の間に、VC全体よりも速いペースで成長している。

関連記事:気候テクノロジーへのVC投資はVC全体の5倍の速さで成長、PwC最新レポート

なお、この記事では「インパクト投資」という用語が、社会的責任投資(SRI)や環境、社会、ガバナンス(ESG)といった他の用語とおおよそ同じ意味で使われていることをお伝えしておく。本質的に「インパクト」とは「世界をより良い場所にする」ことだ。

しかし、そこにはインパクト投資の問題がある。見る人の目に良いものが映っている場合、正確には何が良いものなのだろうか?

例えばフィリップ・モリスは年間7000億本の紙巻たばこを製造していながら、投資家を惹きつけるESG目標を目指して努力している。目眩しの論理、だが要点はおわかりだろう。

Hans Taparia(ハンス・タパリア)氏はこれを美しく説明している

多くの投資家の考えに反して、ほとんどの格付けはESGファクターに関連しているだけで、実際の企業責任とは何の関係も持っていません。代わりに、彼らが測定するのは、ESGファクターによって企業の経済的価値がリスクにさらされる度合いです。例えば格付け会社が、ある会社に対して、その会社の汚染行為が適切に管理されているかその会社の財務価値を脅かさないと見なした場合には、重要な排出源でありながらも高いESGスコアを付与する可能性があります。

手に入るのは測定したものだけだが、公的公正の世界では、その測定がひどい誤解を招く可能性がある。それでも個人投資家たちは、巧みな「ESGファクター」のマーケティング活動を受けて、そのファンドに投資するだろう。

だが、最大のインパクトを与えるために最善の努力をしている本物の投資マネージャーたちもいる。

インパクトを示すために、そうしたマネージャーはIRISなどの標準的な測定フレームワークを採用している。しかし、インパクト測定を適用するのは非常に難しいことで知られている。それらはまた、測定すること自体が非常に難しく、多くは本質的に主観的であり、それらを改善しようとするソリューションと比較して測定するのに費用がかかるのだ。

さらに、肯定的な結果を生み出す複数の要因が存在する可能性があり、それらの結果を改善する際の特定の原因や結果を識別することはしばしば不可能だ。その結果、マネージャーは次善の策に頼ることになる。すなわち行動や実装を測定するのだ。しかし、目立つ指標を変化のための指標ととり違えてしまうことは容易に起こり得る。

例えば遊んでいる子どもたちが回転させることによって、地下水を汲み上げるメリーゴーランド装置のPlayPumps(プレイポンプス)は、その好例だ。PlayPumpsの設置数、それを使用している子どもの割合、もしくは汲み上げられた地下水の量は、コミュニティがポンプのおかげで、きれいな水にアクセスしやすくなっているどうかを必ずしも示していなかった。

これらはそれでも変わらずに財務実績を提供しなければならないファンドマネージャーや企業経営者による発表であることを忘れてはならない。

ドルの価値とは異なり、影響の測定は曖昧で真の基準がないため、投資家が投資ポートフォリオの社会的影響を比較したり、相対的なパフォーマンスを評価したりすることはより困難になる。これにより、パフォーマンスベースの出資をインパクト測定と結び付けることもほぼ不可能になる。

インパクトは具体化するのに時間がかかり、多くの場合、ファンドまたは会社による影響の範囲外にある。四半期ごとを生き抜く金融の世界では、選択を行う必要がある場合には、ドルを最大化することが常に簡単な選択となる。

それでもインパクトが存在できる特別な場所がある。それはマネージャーと企業の間のインセンティブが一致し、特定の測定値はそれほど重要ではなく、測定期間が真の違いを生むのに十分な長さで考えられるような場所だ。

そうした特別場所とは?アーリーステージのベンチャーグループだ。

Creative Venturesでは、インパクトを機会を見るレンズとして使用している。インパクトが大きければ大きいほど、問題も大きくなり、市場機会と経済的利益も大きくなる可能性があることを私たちは理解している。

インパクトは問題がある場所に存在するからだ。高度なインパクト測定に悩まされている世界で、私たちのアプローチは、EVのコストが20%低く、40%遠い場所まで行くことができる世界を想像している。ガンを治せる世界。すべてのデータセンターのエネルギー消費量が半分になる世界。

そして、これらの企業の1つだけが成功しただけでも、世界がはるかに良い場所になるとは思わないだろうか?

編集部注:本稿の執筆者Champ Suthipongchai(シャン・スティポンチャイ)氏は、労働力不足、医療費の増加、気候危機の影響に取り組むスタートアップたちに投資する、ディープテックVCであるCreative Ventures(クリエイティブ・ベンチャーズ)の共同創業者でゼネラルパートナー。

画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images

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(文: Champ Suthipongchai、翻訳:sako)

レストランやフードデリバリーの容器再利用を進めるDispatch Goodsが4.2億円を調達

プラスチック容器は、リサイクル品の受け入れを停止した国が増えているため、世界中の埋め立て地や海に捨てられている。これはとても深刻な問題だ。平均的な米国人は、毎年110ポンド(約50kg)の使い捨てプラスチックを使用・廃棄しているが、米国でリサイクルされているプラスチックはわずか8%だ。

レストランやフードデリバリーサービス、食料品店でもらうクラムシェル型のプラスチック容器はすべてリサイクル可能だと思うかもしれないが、現実としてはすべてのリサイクルセンターでそれらを受け入れられるわけではない。

Dispatch Goodsの再利用可能な容器のコレクション(画像クレジット:Maude Ballinger)

Dispatch Goodsの共同創業者でCEOのLindsey Hoell(リンジー・ホーエル)氏は、プラスチック容器やフリーザーパック、パッケージを回収するという重労働を引き受けるインフラを構築するために、2019年に同社を立ち上げた。容器類ははすべて同社の施設に運び込まれ、洗浄・消毒され、再利用のために再び販売される。レストランやフードデリバリーの顧客も、容器に記載されている番号をテキストで送信して、Dispatch Goodsによる回収を予約したり、容器を返却箱に入れたりすることができる。

会社を設立する前、ホーエル氏は医療関係の仕事をしていたが、カリフォルニアに移住してサーファーになることを夢見ていた。同氏は結局、カリフォルニアに移住し、そこでプラスチック危機を知ることになった。共同創業者のMaia Tekle(マイア・テクル)氏とは、Dispatch Goodsの立ち上げ時にSustainable Ocean Alliance(持続可能な海洋連合)を通じて出会った。当時、テクル氏はCaviarで西海岸のパートナーシップを担当していた。

ホーエル氏はTechCrunchに次のように語った。「リサイクルは人々に良いことをしているように思わせますが、もっと深く掘り下げてみると、流通市場での需要がなければ、必ずしも良いことをしているとは言えません。容器はダウンサイクルしかできませんが、容器を回収して処理する良いインフラがありません」。

Dispatch Goodsはそのインフラの構築に着手し、現在では週に1万〜1万5000個の食品パッケージを回収・処理している。また、DoorDashやImperfect Foodsなどの50社以上の顧客や、Bomberaをはじめとするベイエリアの50のレストランと提携している。ホーエル氏によると、Bomberaは夏にDispatch Goodsを利用し始めてから4000個の容器を交換した。

2021年に合計で約25万個の使い捨てプラスチックを交換したDispatch Goodsは12月6日、370万ドル(約4億2000万円)のシード資金調達を発表した。このラウンドはCongruent Venturesがリードし、Bread and Butter Ventures、Precursor Ventures、Incite Ventures、MCJ、Berkeley SkyDeckが参加した。今回のラウンドによりDispatch Goodsの資金調達総額は470万ドル(約5億3000万円)弱となった、とホーエル氏はTechCrunchに語った。

ホーエル氏とテクル氏は、トラックやフォークリフトの運転を学ぶほどの実践的な創業者だが、2020年9月に700ドル(約8万円)だった月間売上高が5月には2万ドル(約226万円)にまで成長したことを受けて、Dispatch Goodsは後押しを必要としていた。

2人は、チームを成長させ、サンフランシスコのマイクロハブを含む現在の施設を、その地域外で起きている成長やボルチモアの新施設に対応できるようにするために資本を探し求めた。

「このユースケースは以前には存在しなかったので、再利用のための施設をどのようなものにするか戦略化するまでの間、これを最大限活用します」とホーエル氏は話す。「私たちは今、戦略を構築している最中です」。

新たな資金は、地理的拡大、レストランとの提携拡大、新しいパッケージングの可能性の追求などに投資する予定だ。また、現在スタッフは9人だが、年内に3人加える。

Dispatch Goodsは、主にレストランとの提携を進めているが、先月、一般消費者を対象としたパイロットプログラムを開始した。一般消費者からの関心は寄せられたが、最終的な参入障壁を低くするために、企業への販売に徹するとホーエル氏は話す。

ホーエル氏は、成長の指標については具体的に説明しなかったが、収集したアイテムの数と立ち寄った回数を記録していると述べた。事業開始当初は、1回の立ち寄りで約4点のアイテムを回収していたが、現在では平均12点を回収し、立ち寄り回数も3回から9回程度に増加している。

一方、ホーエル氏とテクル氏は、Congruent Venturesの副社長であるChristina O’Conor(クリスティーナ・オコナー)氏を新しい役員会メンバーの1人として迎え入れることを楽しみにしている。

オコナー氏は「ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)運動は急速に拡大しており、持続可能な未来のためには、循環型パッケージングは避けて通れないものだと考えています」と声明で述べた。「リンジーとマイアは、再利用のために設計されたインフラを支える新しいシステムを構築するための熱意、戦略的洞察力、そして情熱を持っていることを証明しました」。

Dispatch Goodsのアドバイザリーチームには、DuContra Venturesの共同創業者で俳優のAdrian Grenier(エイドリアン・グレニアー)氏というスターパワーもある。グレニアー氏は、Dispatch Goodsの活動について「ずっと気になっていました」と語った。実際、同氏はプラスチック容器に反感を持っており、テイクアウトを極力避け、自分で再利用可能な容器を持ち込んだりさえする。

「私たちは、世界を再構築することがいかに困難であるかを知っています。テクノロジーが与えてくれたオンデマンドのライフスタイルに誰もが興奮していますが、どれほどの犠牲を払っているのでしょうか。Dispatch Goodsは、企業の利便性を高め、ビジネスモデルにおけるこの種の転換を可能にする機会を提供します」と同氏は述べた。

画像クレジット:Maude Ballinger / Dispatch Goods co-founders Maia Tekle and Lindsey Hoell

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

AWS、エネルギー業界対象の「AWS Energy Competency Program」を発表、持続可能なエネルギーの未来への移行をナビゲート

Amazon(アマゾン)は米国時間11月30日、エネルギー業界に向けた専門的なソリューションを開発するAWSパートナーを正式に認定する新しいプログラムを発表した。この新しいAWS Energy Competency Program(AWSエナジーコンピテンシープログラム)は、より持続可能なエネルギーの未来への移行をナビゲートしながら、世界中のエネルギー生産者が最新の技術を用いてAWSを搭載したソリューションを構築・実装することを助けることができる技術的専門知識と顧客の成功をすでに実証している専門パートナーを特定するものだ。

現在、多くのAWSパートナーがエネルギー業界と連携し、石油・ガス資産の探査段階から集荷・加工・輸送・管理・保守に至るまでの運用管理や、再生可能・持続可能な分野での運用管理など、AWSテクノロジーの活用を支援している。これらの業界では現在、クラウドコンピューティング、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、機械学習(ML)などのソリューションの導入が加速しているとAmazonはいう。

新しいAWSエネルギーコンピテンシープログラムは、持続可能な再生可能エネルギー資産を含むポートフォリオの開発を支援できるパートナーを含め、世界のエネルギー生産者との連携に関して、特定の専門知識を持つAWSパートナーを業界がよりよく識別できるようにする。

このプログラムは、エネルギー生産者向けの新しいプログラムの開発を支援するためにAWSと協力した32のグローバルパートナーを含んでいる。このグループには、特化したソリューション分野、業界の垂直構造、またはワークロードを支援できるパートナーが含まれている。パートナーは、エネルギー業界特有のベストプラクティスに関連した厳格な技術検証を受けなければならないため、これは現在、AWSパートナーが達成できる最も厳しい指定の1つであると、Amazonは指摘している。

画像クレジット:Amazon

パートナーの1つであるSlalom(スラロム)は、北米のエネルギー企業であるTC Energy(TCエナジー)の4万4000kmにおよぶ天然ガスパイプラインの管理を支援している。TC EnergyはSlalomと協力して、顧客がガスのスケジューリングを最適化できるよう機械学習を利用したビジネスインテリジェンスアプリケーションを開発した。別のパートナーであるAIビデオ分析プロバイダーのUnleash Live(アンリーシュ・ライブ)は、風力発電所、ソーラーパーク、水力発電、天然ガスプロジェクトなどを運営するインダストリアル・エンジニアリング・ソリューション・プロバイダーのWorsley(ウォーズリー)を支援した。Worsleyは、Unleash Liveを利用して、ドローンとコンピュータビジョンを活用して検査を行っている。

その他のパートナーは上流、中流、下流、新エネルギー、基幹業務アプリケーション、ヘルス、安全、環境、データアナリティクスなどのソリューションの提供を支援できるとAmazonは述べている。現在、プログラムへの参加に関心のあるAWSパートナーは、AWS Service Partners(AWSサービスパートナー)とAWS Software Partners(AWSソフトウェアパートナー)の両方の検証チェックリストを見ることができる。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Yuta Kaminishi)

トラッキングと再利用可能な食品容器の最大のネットワークを構築していきたいPyxo

Pyxo(ピクソー)は、フランスのスタートアップ企業で、過去3年間、使い捨てのプラスチック製食品パッケージについて多くのことを考えてきた。同社は、再利用可能な食品用保存容器を簡単かつ低コストで大規模に利用できるようなサービスを提供したいと考えている。

Pyxoのアイデアは、パリのチュイルリー公園で開催された見本市で生まれた。屋台のすぐそばには、ソーダのカップやハンバーガーのクラムシェル容器など、使い捨ての食品パッケージがゴミ箱にあふれていた。

同社はまず、フランスの企業向けケータリングサービス会社であるSodexo(ソデキソ)と協力を開始した。彼らと協力してプラスチックカップを交換し、すべてを再利用できるようにしたのだ。しかし、コロナウイルスの流行やリモートワークへの移行に伴い、Pyxoは他のクライアントを探し始めることとなった。

Foodles(フードレス)Popchef(ポップシェフ)など、冷蔵庫にお弁当やスナックを詰めて提供するフードテック企業との連携を開始した。

しかし、Pyxoの最大の市場機会は、規制の変更からやってきた。2020年7月、フランスの議会は、いくつかの抜本的な変更を伴う廃棄物対策法を可決したのだ。レストランは2023年1月までに、再利用可能な食品容器に切り替えなくてはいけなくなった。

つまり、ファストフードのレストランチェーンでは、紙やプラスチック製のカップ、使い捨てのクラムシェルボックスなどが使えなくなるということだ。Pyxoはすでに、フランスの無名のファーストフードチェーンと協力して、再利用可能なパッケージへの切り替えを支援している。

同社は、再利用可能な食品容器の市場を作り、業界のあらゆる企業を結びつけている。ファストフード店が容器をまとめて購入すると、すべての容器にQRコードやNFCチップが付いてきて、どこにいても追跡できるようになっている。

レストランは清掃を専門業者に委託することができ、その業者がその日の容器を取りに来たときに、きれいな容器を一括して渡すことができる。これらの委託会社は、容器やカップなど、清掃するものを何でもスキャンしてくれる。

それに加えて、客はテイクアウトの食べ物を注文し、再利用可能な容器に入れて持ち帰ることもできる。その場合、アプリを使って最寄りの回収場所を探すこともできる。必ずしも注文したレストランである必要はないのだ。Pyxoでは、ゲーミフィケーションや少額のデポジット制を導入することで、返却のインセンティブを高めることを考えている。

共同創業者でCEOのBenjamin Peri(ベンジャミン・ペリ)は、「私たちのビジョンは、これがインフラ産業になることです」と話してくれた。Pyxoは、電力網のように機能するネットワークを構築していると考えている。将来的には、レストラン、集積所、清掃センターなどが密集したネットワークが形成されると信じている。

ファーストフードチェーンは、1つの顧客が全国に数多くのレストランを持っているため、この業界の起爆剤になるかもしれない。ファーストフードチェーンは、Pyxoがネットワークオペレーターを務めることで、他のアクターにネットワークへの参加を促すことができる。

現在、Pyxoを積極的に利用しているレストランは数軒しかないため、同社はまだ始まったばかりだ。しかし、このスタートアップは、Eurazeo(ユーラゼオ)、FiveSeasons Ventures(ファイブシーズンズ・ベンチャーズ)などから790万ドル(700万ユーロ/約9億円)の資金調達を行っている。

2023年1月1日には、このスタートアップは、レストラン業界だけで2000の販売拠点と連携することを期待している。Pyxoは、今後もフードテック企業や企業のケータリングサービスとの連携も期待しているが、事業の中での割合は小さくなるだろう。本日の資金調達により、同社は70名の従業員を追加採用する予定だ。

画像クレジット:Pyxo

画像クレジット:Pyxo

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(文:Romain Dillet、翻訳:Akihito Mizukoshi)

北極圏にデータセンターを構えて実質無料で冷却、Neu.roはゼロエミッションの機械学習モデル構築ソリューションを発表

企業が機械学習を活用してビジネスをより効率的に運営しようとする動きはますます活発になっているが、機械学習モデルの構築、テスト、稼働には膨大なエネルギーを必要とすることも事実だ。アーリーステージのスタートアップ企業でフルスタックのMLOps(エムエルオプス、機械学習運用基盤)ソリューションを手がけるNeu.ro(ニューロ)は、より環境負荷の少ないグリーンなアプローチに取り組んでいる。

同社は米国時間11月22日、フィンランドのクラウドインフラストラクチャパートナーであるatNorth(アトノース)とともに、ゼロエミッションのAIクラウドソリューションを発表した。

同社によると、atNorthはティア3に適合するISO 27001認定のデータセンターを提供し、そこでNVIDIA(エヌビディア)A100を搭載したDGXおよびHGXシステムを稼働させるという。80MWの電力容量を持つこのデータセンターは、すべて地熱と水力エネルギーで稼働している。さらに、北極圏に位置しているため、実質的に無料で冷却することができ、Neu.roのソリューションを使用して機械学習モデルを構築する顧客に、エネルギー効率の高いソリューションを提供できる。

Neu.roの共同設立者であるMax Prasolov(マックス・プラソロフ)氏によると、この問題を調査した結果、コンピューティングとテレコミュニケーションが世界の総エネルギー消費量の約9%を占めており、この数字は今後10年間で倍増する可能性があることがわかったという。プラソロフ氏らは機械学習モデルの構築がその中でも重要な役割を果たすと考え、自社の二酸化炭素排出量を削減するために、atNorthと提携することを決めた。

「当社ではすべてのオペレーションとすべての実験を、ゼロエミッションのクラウドに移行することに決めました。目標は、クレジットを購入して使用量を埋め合わせることができるカーボンニュートラルではありません。問題は、どうやってゼロエミッションを達成するかです。私たちは、顧客のために機械学習モデルをトレーニングする際に、非常に多くのエネルギーとコンピューティングパワーを費やしていることに気づきました。それこそが、間違いなく、我々が排出している最大のカーボンフットプリントであることを理解したのです」と、プラソロフ氏は述べている。

その一方で、同社はソフトウェアソリューションを通じて、より効率的な方法でモデルを構築する方法を考え出した。これによって必要なエネルギー量を削減し、さらに持続可能なソリューションを提供することが可能になる。

製品自体については、同社は柔軟性のあるクラウドネイティブなサービスを提供しており、そこでツールの一部を提供するものの、企業が自分たちにとって最適と考える方法で補う余地を十分に残している。

「当社のアプローチは、データの取り込みから、モニタリング、説明可能性、パイプラインエンジンなど、構築が必要なツールをすべて1つずつ構築するのではなく、相互運用性を重視しています。まだ構築されていないものを構築し、すでに存在するKubernetes(クバネティス)によるツールのユニバースに接続します」と、同社の共同設立者である Arthur McCallum(アーサー・マッカラム)氏は説明する。

このスタートアップ企業は現在、商用のソリューションを提供しているが、オープンソース版のスタックにも取り組んでおり、まもなく、おそらく年内にはリリースされる見込みだ。同社の目標は、Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)というビッグ3以外の小規模なクラウドベンダーに、クラウドベースのAIソリューションを提供することである。これには世界各地の地域的なベンダーも含まれるだろう。

Neu.roは2019年に創業し、2020年にソリューションの最初のバージョンを公開した。これまでにシード資金として230万ドル(約2億6500万円)を調達しているという。

画像クレジット:a-image / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

LAオートショー2021の高揚感としらけムード

LAオートショーは、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック下で初めて戻ってきた室内自動車ショーだ。ニュースに乏しく、いつも以上にベーパーウェアが多い中、それでも、いくつかのクルマやテクノロジーや企業が、イベントに先立って行われた2日間のプレスデーで目立っていた。

以下に、2021年のロサンゼルスで良くも悪くもTechCrunchの目に止まったクルマとテーマを紹介する。

グリーン&クリーンへと変わるストーリー

画像クレジット:Kirsten Korosec

米国時間11月17日正午前に行われた少数の主要なニュースカンファレンスでは、持続可能性と気候変動が中心テーマだった。そこには企業の偽善的環境配慮と実際の行動が入り混じっていた。

Hyundai(ヒョンデ)とKia(キア)は、環境の認識がいかに大切かを訴える短編動画を流したあと、全電動コンセプトカーとプラグインハイブリッド車を披露した。Fisker(フィスカー)は海洋保護について話した。長年グリーン化に取り組み、国立公園から動物保護まであらゆる活動の支援に多額の資金を投入してきたSubaru(スバル)も、環境保護の支援を継続していくことを強調した。

これは過去においても珍しくなかったことだが、自動車業界全体が二酸化炭素排出量低下に重い腰を上げ、持続可能な生産と調達に革新を起こし、有効な寿命を終えた部品や車両リサイクルと再利用の方法を探求していることは銘記しておくべきだろう。人類の気候変動への影響を減せる時間はあと10年しかないという恐怖の警告は、ショーで行われた複数のプレス会見で言及されていた。

ハリウッドモード

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年特に目立った発表の1つが、Fisker Ocean(フィスカー・オーシャン)の量産間近なバージョンだ。全電動SUVが備える17.1インチ巨大スクリーンは、180度回転可能で、同社が「ハリウッドモード」と呼ぶ横位置のランドスケープモードから縦位置のポートレートモードへ回転できる。

横位置モードでは、Oceanが駐車あるいは充電中に、ゲームをプレイしたりビデオを見たりできる。Fiskerは、このスクリーン回転技術の特許を取得していると述べた。

画像クレジット:Kirsten Korosec

電化、電化、電化

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年のLAオートショー全体のテーマは、(驚くに当たらないが)あらゆるものの電化だ。展示場にはICE(内燃エンジン)駆動の車両が数多く見られたものの、バッテリー電力の世界にいくつもビッグニュースがやってきた。

Nissan(日産)の全電動SUV、Ariya(アリヤ)、Toyota(トヨタ)bz4xと双子車Subaru Solterra(ソルテラ)から、TechCrunchのお気に入りである全電動Porsche(ポルシェ)Sport Turismo(スポーツ・ツーリズモ)セダンの最新モデルとマジックルーフ付きワゴンまで話題は尽きない。

健康被害からあなたを守るテクノロジー

画像クレジット:Kirsten Korosec

現行パンデミックが3年目を迎える中、自動車メーカーは利用者を病気から守る方法を考え始めている。HyundaiがLAオートショーで披露した SUVコンセプトカーSEVEN は、垂直空気循環、抗菌性の銅、紫外線殺菌装置などの機能を提供している。

電動化レストモッドがやってくる

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年のLAオートショーで目についたトレンドの1つが、何台かの古い車体に電動パワートレインを積んだレストモッド(レジストレーション&モディフィケーション)モデルだ。内燃エンジンのような直感的体験を与えることはないかもしれないが、クラシックカーの新しい楽しみ方を提供するものだ。

自動車製造のスタートアップ、Cobera(コベラ)が展示していたC300は、懐かしいShelby Cobraとよく似た外観だ。しかし、ボンネットの中にはV8エンジンに代わってC300を時速0〜62マイル(0〜約99.8km)まで2.7秒で加速すると同社がいう全電動パワートレインが入っている。Cobera C300は、ハンガリーの乗用車とキャンピングカーの製造に特化した会社Composite-Projects(コンポジット・プロジェクト)が設計・製造した。車両のスイッチを入れると、合成されたサウンドが出て、昔のV8に少しだけ似た音が聞こえる。

Electra Meccanica(エレクトラ・メカニカ)は、LAオートショーで三輪自動車Solo(ソロ)(詳しくは下で解説)も発表している会社だが、もう1台、Porsche 356 Speedsterに似た電動車、eRoadsterを披露した。エアコンディショニング、パワーウィンドウ&ロック、最新インフォテイメントシステムなどを備える。

画像クレジット:Kirsten Korosec

新たなパワートレインを搭載したレストモッドを披露したのは比較的無名で小さなメーカーだけではない。Ford(フォード)は11月初旬のSEMAショーに登場した電動化したF-100を持ちこんだ。1978 F-100 Ford Eluminator(フォード・エルミネーター)はFordの電動モーター、E-crate(イークレート)を備えたレストモッド機能で、ユーザーはこれを購入して自分の車両に取りつけられる。

F-100は前輪と後輪に1台ずつモーターを備え、最高出力480馬力、最大トルク634lb-ft(860Nm)を誇る。室内には新型インフォテイメントシステムのスクリーンとデジタル・ダッシュボードがある。

画像クレジット:Kirsten Korosec

三輪車

画像クレジット:Kirsten Korosec

例年、会場には少なくとも数台の三輪自動車が登場するが、2021年はいつもより多かった。Biliti Electric(ビリティ・エレクトリック)が持ってきた電動&ソーラー駆動トゥクトゥクは、Amazon(アマゾン)やWalmart(ウォルマート)が世界の人口密集都市のラストワンマイル配達に使える、と同社は言っている。

同社のGMW Taskmanは、すでにヨーロッパ、アジアの各所で使われていて、これまでに1200万個の荷物を配達し、延べ2000万マイル(3200万km)を走ったとファンダーが言っていた。

画像クレジット:Kirsten Korosec

Electra Meccanica のもう1台、Soloは同社が2016年のこのショーでも披露したsharyou

で、プレスデーにテスト乗車を提供していた。同社によるとSoloは1回の充電で最長100マイル(約161 km)走行可能で、最大出力82馬力、最大トルク140lb-ft(約190N-m)、最高速度は80mph(約128 km/h)。定員1名で荷物スペースを備え、近距離の移動や都市圏での通勤のために作られている。Soloの価格は1万8500ドル(約211万円)で、アリゾナ州メサで製造されている。

Sondors(ソンダーズ)の三輪電気自動車は、3人乗りで航行可能距離は約100マイル(約160km)と同社はいう。このクルマは、100万ドル(約1億1400万円)以上を集めて成功したクラウドファンディングの後に開発されたもので、33 kWhのバッテリーパックを備え、最大出力170馬力、最大トルク323 lb-ft(約438N-m)を発揮する。

Imperium (インペリウム)も三輪電気自動車、Sagitta(サギッタ)を披露した。ショーに登場した三輪乗用車の中では最大で、4人まで乗ることができるスペースをもつ。Sagittaは車両のスペックを発表していないが、2022年中頃から予約を開始すると同社は述べた。

バービー

画像クレジット:Abigail Bassett

ことしのLAオートはには、バービーまで登場した。Mattel(マテル)はBarbie Exra(バービー・エクストラ)カーの実物大バージョンを公開した。2021年式Fiat(フィアット)500のシャシーに載せたファイバーグラスのボディーはキラキラの白い塗装で飾られ、ウィング式ドアと後部にはペット用プールもある。

ソーラーパワー

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年のショーには、興味深いソーラー充電オプションを備えたクルマがいくつかあった。中国のエネルギー会社、SPI参加のPhoenix Motor Inc.(フェニックス・モーター)が発表したピックアップトラック、EF1-Tの収納可能なソーラーピックアップベッカバーは、最大25〜35マイル(約40〜56km)の走行距離を追加できると同社はいう。EF1-TおよびバンバージョンのEF1-Vは、いずれも巨大な車両で、明らかにまだプロトタイプであり、機能や利用形態について顧客の意見を聞いているところだと会社は述べた。

大きな虫のような外観のEF1-Tは、1回の充電で380〜450マイル(約612〜724 km)走行可能で、2025年の発売に向けて予約を受け付けているという。ずいぶんと遠い話だ。

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(文:Abigail Bassett、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】不安定化が進む気候環境における分散型保険の重要性

「一生に一度」のような気象現象が毎年発生するようになっている状況は、経済、政府、地域社会にとってどのような意味を持つだろうか。

世界中でまったく新しい規模の自然災害が見られるようになっている。これまでは、新興経済諸国が誘発的な気候災害の打撃にさらされてきたが、現在では地球のどの地域に住んでいても、気候変動による壊滅的な影響を無視することはできない。

カリフォルニアにおける山火事は、毎年数千人と報告されている大気汚染による死亡者数に拍車をかけている。一方、ドイツでは2021年、記録的な洪水のために数百人が命を失った。このような極端かつ危険な気象条件への準備は、今や私たちすべてにとっての優先事項である。

このような異常気象の増加により浮かび上がる多くの疑問の1つは、誰が費用を負担するのかということだ。AON(エーオン)の報告によると、2021年上半期の自然災害による経済的損失の総額は約930億ドル(約10兆6000億円)と推定されている。2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催され、気候変動がもたらす経済的意味合いは、解決すべき多くの問題の中に重くのしかかっている。

気候変動は世界経済にとって最大のリスク要因であり、2050年までに経済価値全体が10%下落すると予測されている。これまでと同様、マレーシア、タイ、インド、フィリピン、インドネシアといった国々を含む新興経済圏が最も経済的にマイナスの影響を受けるとされており、2050年までに世界経済はGDPの18%を失うことになるという。

気候変動の影響を緩和するための代替アプローチを評価する時期にきている。新興経済国に住む何十億人もの経済的に疎外された人々は、これらの破壊的な影響にどのように対処しているのだろうか。

ブロックチェーンの善用

暗号資産と非代替性トークン(NFT)は、エネルギー消費に関して相応の精査を受けているものの、多くの未解決の領域が依然として注意と解決を必要としている。しかし、これらのユースケースの先に目を向けると、気候変動により不当に影響を受ける人々を保護するために特別に設計された、ブロックチェーンベースのソリューションが現れつつあることが見えてくる。

関連記事:【コラム】暗号資産とエネルギー消費をめぐる議論

ブロックチェーンは、環境再生型農業(リジェネラティブ農業)の促進から意識的な消費の促進まで、すでに建設的な役割を担っている。急成長を遂げている別の領域として、分散型パラメトリック保険が挙げられる。この保険は世界経済フォーラムでも注目されており、異常気象による混乱が一層深刻化している、伝統的にサービスが行き届いていない地域社会にライフラインを提供する手段として認識されている。

分散型パラメトリック保険の優れた点は、そのシンプルさにある。それは、スマート契約を通じて自動的に実行される「if/then(もし〜ならば〜する)」方程式として理解できる。例えば、ある地域で24時間以内に5インチ(127mm)の雨が降った場合、保険加入者である農業者は、合意済みの洪水関連損害賠償契約に従って直ちに支払いを受ける。実にシンプルである。

高額な保険評価プロセスを排除し、これを自動支払いプロセスにおける有意なイノベーションと組み合わせることで、パラメトリック保険は取引コストと請求サイクルを大幅に削減している。パラメトリック保険の請求はネットワーク接続された基本的なスマートフォンを介して行えるため、遠隔地にいる人や、おそらく意外なことに、基本的なテクノロジーにしかアクセスできない人でも、ブロックチェーン方式の保険を利用することができる。

世界的な食物連鎖の保護

気候変動が近い将来、食料価格を上昇させ、多くの人々の特定の食料を購入する能力を損なうことはほぼ確実である。天候リスクに対する作物保護のケースでは、パラメトリック保険により、通常は従来の保険商品にアクセスできない農家に対して追加の保護レイヤーが提供される。

農作物の収穫量の運命は、農家自身の過失ではなく、二酸化炭素排出量の増加と絡み合っている。これは、世界の食料安全保障と小規模農家の雇用保障に重大な脅威をもたらす。5ヘクタール(5万㎡)未満の土地を所有する小規模農家が世界の食料生産の平均50%を担っていることを考えると、世界の食料供給の観点から保護措置を講じることは必要不可欠である。

今日の新興経済諸国においては、2億7000万もの小規模農家が十分な保険に加入しておらず、農業保険を利用できるのはわずか20%である。この数字は、サハラ以南アフリカでは3%にも満たない。

世界の人口は2050年までに100億人近くに達すると予測され、新興経済国の農業者が直面する危機とも相まり、小自作農産業は保護強化に向けた新たなアイデアを切実に必要としている。分散型パラメトリック保険のような、ブロックチェーンを利用したデータ駆動型のイノベーションは、多方面にわたる解決策として機能する。厳しい気象条件に苦しむ人々を救済し、意識的な消費を奨励するとともに、大規模な資本を気候変動適応策に導き、小規模農家と世界規模の食糧生産に利益をもたらす。

ユースケースと投資家の拡大

地球の気候の不安定化が進む中、破壊的な事象を管理し、その影響の規模を縮小する取り組みにおいて、技術的なイノベーションが果たす役割は大きくなっている。

海面上昇により洪水の危険にさらされている人々の保護を強化する必要性については、英国をはじめとする複数の国がすでに報告書を委託している。洪水リスクの評価と保険料の計算方法を再考し、再構築するオポチュニティが生まれているのである。洪水の深さの報告と正確でタイムリーな支払いを行うための十分に根拠のあるデータが、パラメトリック契約を通じて保険会社に備わることになるだろう。

分散型保険は、保険適用の恩恵を受けている人々にとってより包括的であるだけではなく、リスク資本の定義を再定義し得るまったく新しいタイプの投資家にも保険に関するオポチュニティをもたらす。この形態の保険ははるかにオープンであり、従来の市場における高資本投資家の閉鎖的な場所に留まらず、より幅広い投資家グループの関与を可能にする。

さらに、ブロックチェーンはクラウドファンディングと保険の媒体として機能するポテンシャルを有しており、善意の社会的および環境的影響の名の下に交差する。CSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・ガバナンス)への投資意欲は高まっている。

ESGファンドは、2020年に500億ドル(約5兆7000億円)を超える新規資金を獲得した。これは前年の2倍以上である。加えて、米国のESGファンドの数は2020年400近くに増加しており、2019年から30%の伸びとなっている。

今すぐ行動し、後から話そう

世界のリーダーたちがCOP26に集結し、国内および国際レベルで気候変動に取り組むための長期的な戦略とアプローチを決定しようとする中で、世界中の何百万もの人々が、長年にわたる無行動と現実的な変化の遅れがもたらした結果に目下苦しんでいる。

現在、分散型パラメトリック保険などのブロックチェーンソリューションは、気候変動の影響を最も受ける人々への圧力を軽減する上で目に見える進歩を遂げている。結束したグローバルなアプローチへの政治的合意が待たれる一方で、ブロックチェーンは、最も必要としている人々を支援するための、容易に実装できるソリューションを提示しているのである。

編集部注:本記事の執筆者Michiel Berende(ミシエル・ベレンデ)氏はEtheriscのチーフ・インクルーシブ・オフィサー。インクルーシブ保険を通じて、最も金融サービスを必要としている人々に、より良い金融サービスへのアクセスを提供したいと考えている。

画像クレジット:Peter Dazeley / Getty Images

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(文:Michiel Berende、翻訳:Dragonfly)

人工衛星で地表温度データを収集・解析するHydrosatがさらに11.4億円の資金調達

地理空間データのスタートアップであるHydrosat(ハイドロサット)は、地表温度分析製品の商業化を加速するため、シードラウンドで1000万ドル(約11億4000万円)を確保した。

Hydrosatは、赤外線センサーを搭載した人工衛星を使って地表の温度データを収集することを目指している。同社がサブスクデータ分析プロダクトとして販売する予定の温度データでは、水ストレス、山火事の脅威、干ばつに関する理解を深めることができる。カリフォルニア州での記録的な干ばつの年、米国西部で歴史的な火災シーズンが終わる今、その3つが将来も起こると予想することは極めてやさしい。

Hydrosatは、継続的な情報収集を計画している。各衛星が地球上のあらゆる範囲を継続的に監視するため、それぞれの衛星に特定の地域を監視させる必要がないという意味だ。

「環境モニタリングや農林業における多くの利用例で、そのことが非常に有益になっています。我々はデータを、将来のためにライブラリに保存しているため、その日、翌週、翌々年など、いつでも使えるのです」と同社のCEOであるPieter Fossel(ピーター・フォッセル)氏は最近のインタビューで語っている。

6月に500万ドル(約5億7000万円)の資金調達を完了後、またすぐに資金調達を行うことにしたのは「チャンスがあった」からだとフォッセル氏はいう。「我々は、ヨーロッパに拠点を置くすばらしいグループであるOTB Venturesと繋がりをもちました。同社はレーダー衛星のICEYEをはじめ、この分野の先進的な企業に出資してきました」。

「これまで既存の投資家シンジケートから得たサポートもありましたが、それに加え、この新しい投資家と一緒に仕事をする機会に恵まれたのです」とフォッセル氏は付け加えた。

今回の追加資金は、商用のサブスクリプション向けアナリティクス製品の2022年初頭の発売や、同年後半に宇宙サービスプロバイダーのLoft Orbitalと共同で実施する最初の衛星ミッションを十分に検討するために使用される。また、同社は、市場投入までの時間短縮のために従業員を大幅に増やすことできる。

画像クレジット:Hydrosat

同社は、資金調達のニュースと同時に、スイスの多国籍テクノロジー企業であるABBと協力し、宇宙で使う熱赤外機器を製造することを明らかにした。ABBは、これまでにNASA(米航空宇宙局)、カナダ宇宙庁、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)、および民間企業向けにイメージャーやセンサーを製造してきた。ABBが製造した赤外線イメージャーは現在、同名の会社が運営する温室効果ガスの排出量を検出・測定する宇宙機「GHGSat」に搭載されている。

また、Hydrosatは、NASAのランドサットプログラムの熱赤外データの調整を行っているロチェスター工科大学と提携している。同社が政府機関との取引を成功させるには、すでに政府機関と取引実績がある企業や機関との契約の確保が鍵となりそうだ。

Hydrosatは、すでに欧州宇宙機関との契約と、米空軍および国防総省との3つのSBIR(Small Business Innovation Research)契約を獲得した。空軍との契約の一環として、同社はニューメキシコ州の高高度気球に第1世代のイメージャーを搭載し、宇宙との境界まで飛行させた。同社にとって重要な技術的マイルストーンとなった。熱赤外画像を収集し、その処理と調整が正確に行えるようになったからだ。

また、同社は商業分野にも目を向ける。フォッセル氏は、農業や環境分野の企業とすでに契約を結んでいると付け加えたが、詳細は明らかにしなかった。

中期的な目標として、同社は16機の衛星を打ち上げたいと考えている。フォッセル氏によると、衛星群の数は、同社が提供できるデータの頻度ほど重要ではないという。中期目標を理解するには、データ収集の頻度が鍵となる。同社は、地球上のあらゆる場所で毎日熱赤外画像を撮影できるようにしたいと考えている。「それが中期的な目標であり、衛星群の規模は単にそれを実現する手段にすぎません」。

今回の資金調達ラウンドはOTB Venturesがリードし、Freeflow Ventures、Cultivation Capital、Santa Barbara Venture Partners、Expon Capitalも参加した。

画像クレジット:Hydrosat

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

現在の気候問題における文化的な狂気、書評「The Great Derangement」

気候変動は、長年にわたり、人類が解くべき最も奥深く、最も困難な知的パズルだ。複数のシステムのさらにその上で複数のシステムが動いているため、直観的なアイデアを簡単に破滅的な行き詰まりに変えてしまうような創発的な性質がある。1つのアクションに対して複数のリアクションがあり、システムのある部分を改善すると、必ずと言っていいほど他の部分の弱点があぶり出される。

当然のことながら、この課題の及ぶ広さを考えると、地球を理解するために複雑性理論や「システム思考」が重要になってくる。システム思考は、技術者に人気のあるフレームワークでもあり、概してソフトウェアエンジニアリングやテクノロジー製品、そして社会全体にもよく当てはまる。それは、世界の小さな特徴や変化を1つ1つ個別に捉えるのではなく、それらすべての関係性を構築し、一般にはばらばらの現象にしか見えないところにつながりを見出すものだ。

インドの著名な小説家であるAmitav Ghosh(アミタヴ・ゴーシュ)氏は、深遠で魅力的な著書「The Great Derangement(グレート・ディレンジメント、未邦訳)」の中で、鋭い分析力と観察力を発揮し、訪れた各所で直感では理解しがたい人間と地球の相互関係を見抜き、書き綴っている。同氏が2015年にシカゴ大学で行った一連の講義を編集したこの本は、緊張感があり刺激的な思考に溢れ、筆者が近年読んだ本の中でも最高のものの1つだ。

アミタヴ・ゴーシュ著「The Great Derangement:Climate Change and the Unthinkable」/ The University of Chicago Press(シカゴ大学出版局)、2016年、176ページ(画像クレジット:The University of Chicago Press)

ゴーシュ氏の主な論点は、気候危機の状況を説明する上での文化、特に文学的な文化の役割にある。同氏は、それがまったく機能していないことに驚愕し、それがこの本のタイトルである「グレート・ディレンジメント(大いなる狂乱)」につながっている。気候変動は文化に付随して起きるものに他ならず、ストレスにさらされた地球の日常的な危機にますます怯える世界においては、正気の沙汰ではないということだ。実際「気候変動を扱った小説は、正統な文学誌ではほとんど相手にされないといってもいいだろう。テーマとして気候変動について触れているだけで、文学的な小説や短編がSFのジャンルに追いやられてしまうことが多い」と同氏は書いている。

同氏は、気候変動に関連して身に起きたことを語っている。若い頃、都市部を襲った猛烈なサイクロンで九死に一生を得たことがあったのだ。しかし、そのことを思い返しているうちに、同氏は、この死と隣り合わせの経験は、小説の題材には行かせないということに気づいた。あまりにも恣意的で、心の広い読者でさえ陳腐に思える三流ドラマ的なネタだ。同氏自身の生々しい体験、つまり本物のリアルな経験であっても、ほとんど起こりえないことのように思えるため、文芸作品としては書くことができない。

個人単位でみれば、気候変動に起因する大惨事が降りかかる確率は低いが、数多くのサイコロを振った結果の総数と同様に、災害の頻発は保証されているようなものだ。そのことがゴーシュ氏に確率の歴史について熟慮させるきっかけとなった。「確率と現代小説は実は双子のようなもので、ほぼ同じころに、同じ人々の間で、同じような経験を封じ込める器として働くことを運命づけられた同じ星の下に生まれた」と同氏は書いている。何千年にもわたって人類の特徴であった人生の不規則性は、産業時代の幕開けとともに規則化されてきた。人類は、世界の混沌をなんとか抑えた後、自分たちの環境と運命をコントロールし始めた。そのため、近代になると確率はあまり重要ではなくなった。

もちろん、まさにそのようなコントロール志向こそが、現在の気候の崩壊をもたらした。生活の水準を向上させる代わりに、人類に必要な自然の調和を犠牲にしたのだ。サンフランシスコのベイエリアで見られたのどかな自然は、今や干ばつや山火事など、相次ぐ気候の危機によって阻害されている。私たちが織り成すグローバルコミュニティは、現在、サプライチェーンの混乱、旅行のキャンセル、国境の閉鎖、政策の変更などで足元が定まらない。私たちの調和のシステムは、自らと戦うシステムになってしまっている。

ゴーシュ氏が問題だと考えていることの1つは、文化が、地球の力の前に為す術もなく打ち負かされている個人の物語を中心としたものになっていることだ。同氏は、John Updike(ジョン・アップダイク)氏の「individual moral adventure(個人のモラルをめぐる冒険)」という言葉を借りて、特に西洋で作られた現代文学について説明している。私たちはヒーロー、つまり主人公を求めている。直感的に共感でき、挑戦の旅に乗り出し、最終的にその克服に至るまでの苦難を理解できる人物だ。

しかし、気候はシステムであるため、実際のところ個人の行動では歯が立たない。Kim Stanley Robinson(キム・スタンリー・ロビンソン)の「The Ministry for the Future(ミニストリー・フォー・ザ・フューチャー、未邦訳)」のレビューで指摘したように、気候をめぐる変化の基礎となる官僚的な奮闘について読者の関心を引くのはほぼ不可能だ。自分たち全員を除いて悪役はいない。それは、読者や視聴者が小説に期待している筋書きではない。

さらに悪いことに「個人のモラルをめぐる冒険」という物語のニーズは、問題の本質が物語の中心でさえない世界へと私たちを引きずり込んでしまう。ゴーシュ氏は、このような状況を批判し、次のように書いている。「フィクションは目撃し、証言し、そして良心の軌跡を描くような形で、読者の心の中で再構成されるようになる。このようにして、政治においても文学においても、誠実さと信頼性が最大の美徳となる」。その結果、個人や集団の主体性が低下していく。「大統領選挙からオンライン嘆願書まで、あらゆるレベルで公的領域がますます行為遂行的になるにつれ、実際の権力行使に影響を与える能力はますます弱まっていく」と同氏は書いている。

システム思考というと、技術的あるいは科学的な関係だけで切り捨てられがちだが、ゴーシュ氏はその範囲を広げ、文化もその要素にうまく含めている(本書の3つの章は「物語」「歴史」「政治」と題されており、同氏の貢献の対象がうかがえる)。自然の生態系を調べ、中で何が起こっているかを見るだけでは不十分だ。そもそも人間がどのようにこのシステムを考え、結びつけているのかを理解しなければならない。同氏の分析は、すでに深い階層になっている問題に、新たな重要な層を加えるものだ。

では、この文化、権力、政治へ踏み込むには、どうすればよいのだろうか。最終的にゴッシュ氏は、伝統的な宗教指導者が気候変動問題の主導権を握ることが重要だと考えている。同氏は次のように書いている。

宗教的な世界観は、気候変動が既存の統治機関にとって大きな課題としているような制限を受けない。また、国民国家を超え、世代を超え、長期的な責任を認めている。そして、経済主義的な考え方に支配されていないため、現代の国民国家が広く共有する推察力ではおそらく不可能な方法で、直線的ではない変化、つまりカタストロフィーを想像することができる。

ゴーシュ氏は、このスリムな本の中で、他にも多くのテーマに触れているが、同氏の博識で、時に一般とは異なる考え方は、気候問題と未来のガバナンスをめぐる議論や参照すべきポイントの多くをうまく再構成している。優れたシステム思考と同様に、同氏の分析は、最終的には「難しい問題を理解するためのさまざまなレンズ」という総合的なものになる。私たちは幸運にも、この泥沼から抜け出す道を見つけられるかもしれない。

あるいは、そうではないかもしれない。気候に関する議論は何十年も続いているが、私たちは根本的な問題を解決するために、実際のところまだほとんど何もしていないからだ。ゴーシュ氏は、1961年に初めてアジア出身の国連事務総長となった、第3代国連事務総長、U Thant(ウ・タント)氏の言葉を引用している。

夕方から夜にかけて、スモッグに覆われた、私たちが生まれ育った地球の汚染された海に沈んでいく太陽を見ながら、将来、他の惑星に住む宇宙歴史家に私たちのことをこう言われたいと思うかどうか、真剣に自問する必要がある。「天才的な才能と技術を持ってしても、彼らは先見性と空気と食料と水とアイデアを使い果たしてしまった」あるいは「彼らは世界が崩壊するまで策を弄し続けた」と。

その歴史は今まさに刻まれている。目の前に置かれたパズルは確かに厄介だが、理解できないわけでも、解決できないわけでもない。

画像クレジット:Juan Silva / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

環境保護主義のダークサイド、書評「The Ministry for the Future」

Kim Stanley Robinson(キム・スタンリー・ロビンソン)による小説「The Ministry for the Future」は、環境テロリストを称える話ではない。実際、全体にわたってこのテーマを上手く回避しているのだが「未来省」とそれを率いるリーダーシップの今後数十年にわたる活動を描いた本書の中心には、地球を平和で持続可能な未来へと移行させるための要となるダークサイドが描かれている。

飛行機への妨害工作や貨物船の沈没といった出来事が、ニュースの解説として、時には登場人物同士の会話の中で何気なく語られるという、プロットドリヴンの小説としては奇妙な設定である。余談話や噂話で登場する「Children of Kali」と呼ばれるグループは、富裕層の資本家階級に炭素排出量ゼロ世界に向けて屈服させるために、よりダークで暴力的な手法を用いている。

Kim Stanley Robinson / The Ministry for the Future。Hachette 2020年 576ページ(画像クレジット:Hachette Book Group, Inc.)

気候危機が深刻化するにつれ、環境テロリズムというトピックは近年作家からの注目を集め続けている。2019年のピューリッツァー賞フィクション部門を受賞した「The Overstory(オーバーストーリー)」の著者Richard Powers(リチャード・パワーズ)は、5人の異なるキャラクターが最終的に集結し、地球を救うために暴力行為を行い、その影響と向き合っていく様子を描いている。

9.11同時多発テロの後はタブーとなっていた暗いテーマである。とは言っても別に目新しいものではない。1997年に発売されて以来、Square(スクウェア)の主要製品であり続けているファイナルファンタジーVIIは、環境テロリスト集団が魔晄を搾取する神羅カンパニーの陰謀から地球を救おうとする物語である。

しかし、ロビンソンは暴力的な革命がもたらす倫理的問題や、理論的には地球と人間を愛しているにもかかわらず、それらの存在を殺すことが救いになると信じている人々の複雑な感情を描くことはしていない。その代わりに、炭素ゼロの未来に到達するための課題を探求し、途中暴力はそれとなく登場するものの、最終的には人類がそこに到達できることを発見するという広大で思慮に富んだ作品を書きあげている。

スペキュレイティブ・フィクションの作品として「The Ministry for the Future」にはまるで百科事典レベルの思索がふんだんに盛り込まれている。経済学で使われる基準貸付利率から、ブロックチェーン、氷河の動き、中央銀行にまつわる政治、官僚主義の科学、スイスの統治制度、地球のアルベドなど、あらゆることについての議論が展開されている。これはむしろ何十年にもわたる目まぐるしい構想に包まれた非常に包括的な政策メモであり、現実の政策メモよりもはるかに優れたナラティブと言っても言い過ぎではない。

しかしこの小説を読んでいると「仕事とはほとんどが退屈であり、その狭間に純然たる恐怖を経験するものである」という外交関係をはじめとする職業に関する古い格言を思い出す。忘れがたい未来の光景を、深い感情移入と熱意をもって描き出している同作品。冒頭のインドを襲った熱波のシーンは辛辣で痛ましく、いつまでも記憶に残り続ける。ロビンソンは自然のシーンの描写をすると真の腕前を発揮し、南極、スイスアルプス、飛行船からの眺めなどの描写は特に味わい深い。

しかしそれはこの本の4分の1程度に過ぎない。ロビンソンはパリ協定の実施を任務とするある機関の活動を、一般読者にとって魅力的なストーリーに押し上げて推進力のある物語にするという無謀な挑戦をしているのだ。この作品には起伏があり、また未来の超国家的な政府機関とその官僚主義的な動きを描いたMalka Older(マルカ・オールダー)のCentenal Cycleを彷彿とさせるシーンもちらほらと見られる。

オールダーのシリーズにはわかりやすい悪役がいたが、ロビンソンは悪役という存在を用いらないストーリーで挑んでいる。悪役は私たち全員であり、資本主義とシステムであり、惰性と無気力である。政治的官僚の惰性との戦いのカ所に興味を持てるかどうかは、読者が大学院で公共政策を学んだか否かに大きく左右されるだろう。私は学んだ立場だが、それでも全体を掴むのは非常に難しかった。

しかし、気候変動のメカニズムや経済に関する600ページ近い談話があっても、この本に書かれていないことがロビンソンの作品の最も興味深い要素なのである。時には1ページという短い時間で国全体の政治が変わってしまう。ダボス会議に参加し、おそらくChildren of Kaliたちに強制的に監禁されて地球の死と前向きな道筋に関するビデオを見させられた資本家たちが、突然心変わりする。もちろん同作品はスペキュレイティブ・フィクションなのだが「もしもこれが起こったら」という要素が極端に強いのである。もしも中国が突然、開放的で民主化された公平な国になったら?もしもインドが現代のヒンズー教を否定して再生可能な有機農法の社会に戻っていたら?もしも資本家らがすべてを手放したら?

この本には、基本的には人間の行動や特に復讐心についてのストーリーが描かれていない。確かに環境テロリスト集団はドローンを使って公海に散らばる貨物船を沈め、炭素を排出する飛行機を空から撃ち落とすことに成功し、世界中の銀行をハッキングして石油マネーを破壊している。しかし被害を受けた人たちは誰かそれに反応しただろうか?皮肉なことに、Children of Kaliはインドでの熱波の後に結成されたのだから、復讐という言葉は確かに著者の頭の中にあるはずだ。

ロビンソンは良からぬ可能性を明確にし、読者に別の道を示そうと考えているのだろう。しかし当然、その可能性の実現というのはいつだって文字通り実行可能なのである。実行しようと考える人間に打ち勝つことは通常非常に難しいため、問題は実際にその道をどのように打ち破るのかということである。このように、この小説はスペキュレイティブ・フィクションというよりもファンタジーであり、特にジュネーブに集まる政治家がいつか何かを変えてくれるのではと願う世界情勢に敏感な観察者にとっては、一種の現実逃避なのである。

人間の行動に関する洞察がない分、ストーリーはあっという間に迷走する。2020年に出版された「The Ministry for the Future」はこれからの数十年をテーマにしており、中国がこれからの気候変動の議論を変えていくための要になるということが1つのポイントになっている。その過程で、香港が自由と民主主義の砦のような存在になっていく。

小説の終盤ではどのようにして自由を勝ち取ったのかという分析がなされている。「私たち香港人は法の支配のために戦ってきた。1997年から2047年までの間、私たちはずっと戦ってきたのである」。どう戦ってきたのか。「何年もかけて何が有効かを見極め、方法を磨き上げてきた。暴力が成功に導いたことはなく、数字こそが有効だったのだ。私たちが長年そうしてきたのと同様に、帝国主義に対抗するための秘訣を探している方のためにお教えしたい。全人口、あるいはできるだけ多くの人口による非暴力の抵抗。これが有効なのである」。

この本が出版されるのと同時に(編集や出版には通常時間がかかる)、香港の抵抗運動は完全に崩壊した。過去数年間に行われたさまざまな運動抗議には何十万人もの人々が参加したが、信じられないほど短期間で本土政府に完全に取り込まれてしまった。新聞は閉鎖されウェブサイトはブロックされ博物館大学文化施設は奪われてしまった。数字では解決されなかったのだ。非暴力による抵抗は香港中の主催者らによって次々と実行されたが、それでも彼らは完全に敗退したのである。

この本の中核ともいえる不可思議な世界に話を戻そう。私たちは期待すべきポジティブな変化を求めているにも関わらず、この未来の歴史は世界を導くために暴力を厭わない過激なグループに依存しているのである。ロビンソンはユートピアを求めており、またごく自然なユートピアは私たちの手の届くところにあると感じているものの、本文ではそこへの道のりを見つけられていない。「政権は銃口から生まれる」とは有名な言葉だが、これは香港が最近学び直した概念であり、環境問題の議論ではますます一般的になっている。未来省は過去の世界の省庁が使ってきた方策を再利用しているだけであり、それは誰も望んでいない荒廃なのである。

画像クレジット:Michael Endler / EyeEm / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)