ミツバチを飼わずに精密発酵と植物科学で本物のハチミツを生産するMeliBio

MeliBioは、9000年の歴史があるハチミツの生産方法を一変させようとしている。同社の生産方法はハチをいっさい使わず、精密発酵と植物科学を利用する。

ハチミツ企業の役員だったDarko Mandich(ダーコ・マンディッチ)氏と、科学者でアマチュアのシェフでもあるAaron Schaller(アーロン・シャラー)氏は、全世界で100億ドル(約1兆1878億円)のハチミツ市場にサステナビリティを導入することを狙って、2020年にサンフランシスコで同社を立ち上げた。マンディッチ氏によるとこれまでのハチミツ産業は「サプライチェーンと品質管理が破綻している、最も持続可能性を欠く農業分野」だ。

マンディッチ氏の説明によると、彼の着想はWiredの記事でハチを巣箱で飼うやり方は、これまで2万種のハチの野生在来種を断ち、ハチの集団の多様性(ダイバーシティ)を失わせてきたという指摘を読んだときに生まれた。

「食べ物を持続可能にし、もっと栄養豊富にし、ハチたちをはじめ愛すべき動物たちを犠牲にしないようにするために、食品産業を変えたい」とマンディッチ氏はいう。

ただしハチの分野ではすでにBeewiseのような企業が精密なロボットを使って巣箱を自動化したり、またハチの健康管理をするBeeHeroのような企業もある。

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イスラエルのBee-ioは、同社が特許を持つバイオ技術を用いるハチを使わないハチミツ生産方法を追究しているが、しかしマンディッチ氏によるとMeliBioは、ハチを使わずに本物のハチミツを生産する最初の企業だ。製品はニューヨークの4つのレストランでテストを行い好評だった。

MeliBioのハチのいないハチミツ生産方法は、二段階になっている。まず植物科学により、ハチがどのように植物にアクセスして、蜜をつくるために何を得ているのかを理解する。

第2段階では、分子の組成を改良して製品とその大量生産を可能にする。そこに登場するのが、精密発酵だ。この精密発酵が、目的を達成するために役に立つ有機物を特定することで、食べ物にかけるだけでなく、パンなどでオーブンで焼けるようにするなどいろいろな使い方ができるようにする。

同社はこのほど570万ドル(約6億8000万円)のシード資金を調達して、外食産業やB2Bアプリケーションへの市場拡大に努めている。マンディッチ氏によると、すでにMeliBioは30社と提携しており、製品の評価事業に参加しているという。

シードラウンドをリードしたのはAstanor Venturesで、これにSkyview CapitalやXRC Labs、Collaborative Fund、Midnight Venture Partners、Alumni Ventures、Big Idea VenturesそしてHack Venturesらが参加した。

MeliBioのチーム。左からMattie Ellis(マティー・エリス)氏、アーロン・シャラー氏、ダーコ・マンディッチ氏、Benjamin Masons(ベンジャミン・メイソン)氏(画像クレジット:MeliBio)

Astanor VenturesのパートナーであるChristina Ulardic(クリスティーナ・ウラルディック)氏は次のように述べている。「MelBioの、植物科学と精密発酵を結びつけて次世代の食品技術を開発していくアプローチはすばらしい。ハチミツの商業的な生産のサプライチェーンから負担を取り除き、授粉者のダイバーシティを回復することに、ダーコとアーロンは情熱を燃やしている。そんな彼らの最初の製品にはとても感動しました」。

新たな資金は研究開発の継続と、微生物を利用する発酵工程の規模拡大、そして4月に予定している製品の正式な立ち上げに使われる。またマンディッチ氏は、正社員を年内に現在の4名から10名に増やそうとしている。14名の契約社員は現状のままだ。

同社はまだ売上を計上していないが、マンディッチ氏は製品が発売され、大手食品企業やレストランなどとの契約が実現すれば状況も変わると信じている。

次にマンディッチ氏が構想しているのは、市場規模5000億ドル(約59兆3760億円)の原材料市場に進出して、同社の精密発酵技術で未来の市場のマーケットシェアを獲得することだ。

「私たちは科学とオルタナティブな方法を利用して野生在来種のハチの負担を減らしています。ハチミツの需要は伸びていますが、私たちの方法ならハチの生物多様性を保全することができます。米国の企業は世界中からハチミツを輸入していますが、その過程はますます複雑になっており、品質も保証されていません。本物のハチミツでないこともありえます。しかし国内生産ができればサプライチェーンを単純化でき、サプライヤーは国内だけなので、納品の遅れや品質の問題もありません。MeliBioはハチミツを1日3交替、365日の稼働で生産するため、市場の他の製品と価格でも十分競合できるでしょう」とマンディッチ氏はいう。

画像クレジット:MeliBio

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(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

熟成期間が長いハードチーズを動物性原料を使わずに作るBetter Dairyが約25.3億円を調達

Better Dairyが同社のハードチーズ製品の溶け具合をテストする様子(画像クレジット:Better Dairy)

フードテック企業のBetter Dairy(ベターデイリー)は、シリーズAで2200万ドル(約25億3000万円)の資金を確保し、熟成期間の長いハードチーズのテスト段階に向け駒を進めた。

Jevan Nagarajah(ジェヴァン・ナガラジャ)氏が2019年に設立した英国を拠点とする同社は、精密発酵を用いた動物性の原料を使わないチーズを開発するR&D段階を続けている。我々がナガラジャ氏とBetter Dairyと最初に出会ったのは、同社がHappiness Capitalが主導するラウンドで160万ポンド(約2億4600万円)のシード資金を調達した2020年にさかのぼる。

当時、彼は動物を使った酪農が「非常に持続不可能」であり、わずか1リットルの牛乳を生産するために650リットルの水を必要とすることや、そのプロセスの結果、年間17億トン以上のCO2が大気中に放出されていることを説明してくれた。

代わりに、Better Dairyは精密発酵を利用して、従来の乳製品と分子的に同じ製品を製造している、とナガラジャ氏は語った。このプロセスはビールの醸造に似ているが、最終的に得られるのは乳製品だ。

他のフードテック企業がモッツァレラチーズや乳清タンパクのような柔らかいチーズに取り組んでいるのに対し、Better Dailyはより持続可能な方法で、より複雑なプロセスであるハードチーズをターゲットにしている。

画像クレジット:Better Dairy

「ハードチーズには、動物性原料を使わないステーキを作ろうとするのと同じような制限があると考えています」とナガラジャ氏。「製薬業界向けのタンパク質の製造に30年の専門知識を持つ最高科学責任者を含むチームを作ることで、私たちは複雑なことを意識的に行えると気づいたのです」。

Happiness Capitalは、今回はRedAlpineとVorwerkとの共同リードとして、シリーズAを再び主導した。Manta Ray、Acequia Capital、Stray Dog Capitalも今回のラウンドに参加した。

乳製品分野を狙っている企業は、Better Dairyではない。Clara Foods、NotCoClimax FoodsPerfect Dayといった企業が、動物性原料不使用のチーズや乳製品に取り組んでいる。しかしナガラジャ氏は、精密発酵技術の向上を目指した今回の資金調達によって、同社が競合他社に先んじ、この分野でハードチーズを発売する最初のプレーヤーとなることができると考えている。

同社はこの資金によって従業員を8人から35人に増やし、イーストロンドンにある6千平方フィート(約557 m²)の新しい研究所とオフィススペースに投資していくという。

Better Dairyは、食感とさらには熟成について科学的に解明し、すべての構成要素を1つの製品にまとめ、賞味期限を設定できるようにすることを目指している。ナガラジャ氏は、精密発酵プロセスにより、今後18カ月ほどで単位あたりの経済性、つまり同様のクオリティの手作りチーズと同等の価格を達成できると楽観視している。

「当社のサイエンスをアップグレードするには、適切なスペースと設備が必要です」と彼は付け加えた。「動物性原料を使用せず、持続可能であることだけでなく、おいしさも重要です。味が改善すれば、(非動物性の製品を選ぶのは)人々にとって簡単な決断になり、成功の指標となります。正しい方法で製品を作ることにはメリットがあります。でなければ、(植物性製品はまずいと思う観念など)すべてを巻き戻すのに長年かかってしまうかもしれませんから」。

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(文:Christine Hall、翻訳:Den Nakano)

植物由来肉を人工脂肪でおいしく満足できるものにするYali Bio

Yali Bioのチーム。左から3人目がCEOのユーリン・ルー氏(画像クレジット:Yali Bio)

フードテックの企業にとっては人の食習慣を変えることが重要だが、特に代替肉製品の場合は、味も匂いも食感も本物の肉のようでないと多くの人は満足しないため、なかなか難しい。

Yali Bioは、この問題を解決したと称する企業の1つで、同社はそのために、植物由来の食肉や乳製品のための人工脂肪(designer fats)を開発した。同社は現在、代替食肉の味を良くするための顧客特注の脂肪を生産するプラットフォームを作っている。

その加工技術を支えるものは、合成生物学とゲノミクスのツール、およびディープラーニングの技術で、それらによって作られる脂肪は、現在植物性の蛋白質に使われているココナッツなどの油脂よりもサステナブルだ。しかもその味や質感は、動物性脂肪を模倣している、とCEOのYulin Lu(ユーリン・ルー)氏は主張している。

ルー氏とチーフサイエンティストのPeng Xu氏は、カリフォルニアで同社を2021年に創業した。ルー氏はフードテックの前歴があり、Impossible FoodsやEat Justの躍進をこれらの企業の社員として見てきた。Peng氏は合成生物学が専門で、微生物を利用するシステムで脂質を開発してきた。

「明らかに現在は、製品の質と消費者体験が伸び悩みの段階にある。食肉は成功したブランドもあるが、そこから先がない。人びとが好む高級肉はいろいろな種類があるが、その代替製品に共通して欠けているのが製品の質を高める脂肪だ」とルー氏はいう。

彼によると、今はほとんどの植物由来の食肉が、脂肪に代わるものとしてココナッツオイルを使っているらめ、食品企業はどうしても風味添加物を使うことになり、消費者の好みに合わない製品を作っている。しかしYali Bioの技術は、非常に多種類の機能性脂肪を作ることができ「市場の鍵」を開けることができる。それまでその市場は、製品の質と消費者体験に限界があった。

顧客が必要とする脂肪を作れるようになった同社は、今度はそれらの人工的な脂肪を製品中に効率的に利用できる生産システムに取り組んでいる。これまで他社が使っていた方法の中には、動物の細胞や脂肪組織を使うものもある。

しかしYali Bioが採用したのは、微生物を利用する精密発酵という技術だ。独自の技術で微生物の菌株のライブラリを作り、それらをすべてテストした。次の段階は、発酵器の中で菌株を活動させ発酵工程をデモンストレーションするパイロット事業だ。それにより、小規模ないし中規模でも生産できることを証明する。

これらのステップをすべてこなしていくには、資本が少々必要だ。ルー氏はアクセラレーター事業を半年受講し、その間に新しい実験室を作った。そのとき同社はEssential Capitalがリードするシードラウンドで390万ドル(約4億5000万円)を調達した。このラウンドには新旧さまざまな投資家が参加し、それらはThird Kind Venture Capital、S2G Ventures、CRCM Ventures、FTW Ventures、そしてFirst-in Venturesなどだ。エンジェル投資家として、Stephanie Sher(ステファニー・シャー)氏とJohn Goldsmith(ジョン・ゴールドスミス)氏が参加した。Yali Bioのこれまでの総調達額は500万ドル(約5億8000万円)になる。

資金の一部は実験室の建設に投じられるが、他にも、合成生物学の部門や製品開発、パートナー選び、マーケティング、新規雇用などにもお金が必要だ。求める人材は、製品開発や食品科学、発酵などの方面で、年内に約12名が欲しいとのこと。

ルー氏によると、Yali Bioの技術も他の技術と同じく、本番稼働までに時間がかかる。例えば細胞培養を使う方法は7年前に最初の波が興ったが、現在でもパイロット段階の企業が少なくない。それらは、わずかな量の製品をレストランに卸している程度だ。Eat Justのようなスタートアップも、The EVERY Coのような食品メーカーも、今では細胞培養ではなく精密発酵を利用している。

ルー氏はさらに「今のチームでできることには限界があるため、もっと人を増やしてバイオテックの研究開発企業から具体的な製品のある企業に変わっていかなければなりません。精密発酵のデモを行い、他の技術よりも製品やサンプルを速く作ることができることを知ってもらいたい。その他、規制の問題や最終製品の形状、技術の複雑性といった難しいポイントはありますが、2〜3年後には製品を出したい」という。

Essential CapitalのマネージングパートナーEdward Shenderovich(エドワード・シェンデロビッチ)氏によると、代替食品への投資は初めてという投資家が多く、特に合成生物学の食品への応用という新しい技術はまだよく知られていない。

彼によると現在は第四次農業革命の前夜だという。これまでの農業はコスト低減と増産と質の向上を追ってきた。しかし、第四次はバイオの生産技術が引っ張り、サプライチェーンと価値の創造機会に大きな変化が訪れる。

「動物をベースとする農業から、バイオ生産による動物を使わない農業への移行を可能にするものなら、どんなものでも追究する価値があります。Yulinは、植物由来の発酵食品や培養食品の採用に立ちふさがる重要な難問を特定しています。培養肉の多くはタンパク質だけですが、脂肪も欲しい。脂肪は悪者扱いされてきましたが、現在、見直されつつあります」とシェンデロビッチ氏はいう。

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(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

バイオテックのスタートアップShiruが新規資金で植物由来原料の「発酵」を促進

タンパク質生化学者のJasmin Hume(ジャスミン・ヒューム)博士は、代替食料分野に取り組んでいる。テクノロジーを進化させることで、世界の食品産業が動物への依存を減らせる機会があると考えたからだ。


同氏は2019年にShiru(シル)を設立し、その会社では「精密発酵」プロセスを利用してし食品会社向けに植物由来原料を作り出している。その結果は味、食感、多用途性、量産した場合のコスト、いずれにおいても動物由来と同等だとヒューム氏はTechCrunchに語った。

「私が発見し、学んだのは、動物から得ている原料である卵のタンパク質や乳タンパク質が、食品ラベルのおかしな場所に現れているということでした」と彼女は語った。「例えば白い、ふわふわのパンには乳タンパク質が入っています。私たちは多くの食品部門を対象に、それらを持続可能で栄養のある原料に置き換えることが目標です。

食品原料市場と植物由来タンパク質市場は、いずれも安定した成長態勢にある。世界食品原料市場の規模は2022年に4000億ドル(約45兆4136億円)と予測されており、植物由来食品は2030年までに1620億ドル(約18兆3925億円)市場になると考えられている。

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現在、Shiruの商品カタログには、パッケージされた焼き菓子、ソース、バーガー、ヨーグルトなどさまざまな食料製品に添加できる無味無色の材料が6種類載っている。

ヒューム氏らが置き換えを狙っている食料の1つがメチルセルロースで、これは植物タンパク質ベース食品などに使用されているデンプンだ。

「メチルセルロースには植物由来のバーガーとソースにはない結合作用がありますが、ラベルには載せたくない成分です」とヒューム氏は付け加えた。「食品会社はメチルセルロースの問題を抱えていますが、誰も口にしません。この種の成分は置き換えを余儀なくされていて、私たちには置き換えるための原料があります」。

産業界からの需要を見越して、2022年の早くにこれらの原料を企業に提供するために、カリフォルニア州エメリービルのスタートアップは米国時間10月27日、1700万ドル(約19億3000万円)のシリーズAラウンドをS2G Venturesのリードで完了したことを発表した。

ラウンドには、既存出資者のLux Capital、CPT Capital、Y Combinator、およびEmles Venture Partner、新規出資者のThe W Fund、SALT、およびVeronorteが参加した。新たな資金を得て、Shiruのこれまでの総調達額は2000万ドルをわずかに超えた、とヒューム氏は語った。

投資の一環として、S2GのマネージングディレクターであるChuck Templeton(チャック・テンプルトン)氏がShiruの取締役会に加わった。S2Gは、健康食品と持続可能農業に焦点を当てた投資ファンドで、これまでに影響力があり、動物由来製品を置き換える製品をもつ会社に何度も投資してきた。

植物由来食品は進化中であり、新しいバージョンは常に良い味を目指しているが、まだ十分健康的ではない、と彼は言った。その点、Shiruの原料は「味がよい」だけでなく、置き換えようとする対象をしっかりと再現し、かつ健康的だとテンプルトン氏は付け加えた。

さらにテンプルトンは、同社はコスト構造と栄養成分、そして「顧客を喜ばせる」正しいラベリングを理解していると信じていると語った。

「あの会社は製品とタンパク質をすばやく発見し、多用途の原料を市場に提供する方法を知っています」と彼は付け加えた。「これによって彼らは、コスト構造の改善などを精査、継続していく機会を得られます。ヒューム氏のチームは、食品業界が制約を受けないように、そしてラベルと環境をきれいにする最高の原料を見つけられるようにしています」。

2022年までに材料を顧客に提供する計画を踏まえ、Shiruの成分を含む最初の商品が食料品店の並ぶのは、早ければ2023年だろうとヒューム氏は予想している。

同社はまずテクノロジーに集中して取り組み、それが検証されるとヒューム氏は、Shiruのスケーリングと基盤整備を次のフェーズに進めるために、次期ラウンドのベンチャーキャピタルを探し始めた。

彼女は新しい資金を、Shiruの22名の従業員を1年以内に2倍にし、科学、発酵、マーケティング、事業開発の人員を雇用するために使うつもりだ。また同社は、2022年にカリフォルニア州アラメダへ本社を移転し、生産規模の拡大を開始する。

「私たちがやるべき最大の仕事は、食品原料をたくさんつくることです」とヒューム氏はいう。「スケーリングへの挑戦には困難がともなうでしょうが、提携あるいは自社施設の建設によって発酵を工業規模で行うことを目指しています。そうすることで、食品会社がテストするために必要なサンプルを配れるところまで進むことができます。

画像クレジット:Getty Images under a metamorworks license.

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(文:Christine Hall、翻訳:Nob Takahashi / facebook