Amazonの顔認識技術による監視網

ACLU(米国自由人権協会)は我々に、昨年「Amazonの従業員が、同社の顔認識技術を売り込みむために、ICE(米国移民・関税執行局)の担当者と会った」という情報を教えてくれた。Amazonの副社長Brad Huseman(ブラッド・ヒューズマン)氏は後に「政府は最高のテクノロジーを採用すべきだと考えている」と語っている。そして先月には、Amazonが全国の警察と(カメラ付きドアホンである)Ring製品を使った「永続的な監視ネットワーク」の作成で提携したことを、Motherboardが明らかにした

耳タコだろうが、言わせてほしい「一体どうした、Amazon?」と。

Amazonの株主技術系従業員倉庫従業員、そして顧客たちのいずれもが、(顔認識技術の)RekognitionをICEに対して売り込むことへ抗議の声を上げている。特に500人を超えるAmazonの技術系従業員が抗議書簡に署名している。だがAmazonの経営陣はいまのところ、彼らに対して誠意を持って対応して行くようには見えない。

その代わりにAmazonは「Facts on Facial Recognition with Artificial Intelligence(」(人工知能による顔認識の事実)ページで、彼らの技術で唯一問題となるのは偽陽性(本当は違うものを間違って認識してしまうこと)の可能性であると自分自身を擁護している。そして及び腰で中途半端に以下のような提案をしているのだ「公共の安全と法執行のシナリオの中で、Amazon Rekognitionのような技術は、一致の可能性のある対象を絞り込むためにのみ使用されるべきです。顔面認識ソフトウェアは自律的に使用されるべきではありません」。

だが技術的な懸念は、オーランドにおけるRekognitionのパイロットプログラムが中止されたことからも、現実的なものなのである。しかし私は、テック企業たちが、バグを修正したりその技術を意図通りに動作させたりすること以上の部分には、まるで責任を持っていないかのように振る舞う態度に、うんざりしているのだ。その意図そのものが問題であることもあるからだ。

「私は、新技術の悪い使い方に対して、社会が免疫反応を獲得すると考えていますが、そのためには時間がかかるでしょう」とJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏は語っている。今のところそれが現実だ。しかし当然のことながら、社会が免疫反応を獲得していない当面の間、悪用については特に慎重になるべきだ。さらに大切なことは、世界で最も裕福な人物は、新しい技術に対する社会の反応をより良く導いていく際に、自分自身の重要な役割を放棄してはいけないということだ。

問うべきは、Rekognitionの技術的な問題が解決できるかどうかではない。真に問うべきは、社会のあらゆる場所に存在するパノプティコン型(監視されている側はどう監視されているかがわからず監視する側は全方向を監視できるタイプの監獄)監視を可能にするために、政府や法執行機関にRekognitionを販売することが、世界のどの社会にとっても良いことかどうかということなのだ。「現在合法であるならば、大丈夫な筈だ」とか「民主主義制度が私たちを害から守ってくれるから、技術痛の私が将来のことを心配する必要はない」と言う態度は、危険な知的怠惰なのである。

現実には、法律は新技術への対応が非常に遅く、私たちの制度はますます硬化して麻痺している。なにしろシリコンバレーは他の文脈であなたに語りかけるのにあまりにも熱心だからだ。私たちの「免疫反応」を彼らに頼ることは、意図的な過失となる。もちろん、火のような技術は良いことにも悪いことにも使用できる。しかし雨季に比べて危険性の高い季節には、私たちは火に対して遥かに注意深くならなければならない。そしてそれに応じてリスク評価を調整するのだ。テック企業たちが、彼らの生み出すリスクに対する責任を取りたがらないことは、単なる心配のレベルを超えている。

既に触れたように、テック企業に対する、唯一の本当の、少なくともリアルタイムのチェックは企業自身の従業員によって行われるものだ。そのため、AWSの従業員たちが会社のポリシーに反対するのを見ることは心強いことである、だがAmazonが誠意をもって彼らに対応することを拒否するのではないかということが心配される。世界は、ベゾス氏とAmazonが、自社の技術の危険性に関する重要な質問を避けながら、他の部門に手渡してしまうことよりも、ましな対応をしてくれることを期待している。

Facebookには別の危険な物語がつきまとう。今では信じられないかもしれないが、それほど遠くもない昔には、彼らは広く尊敬され、信頼され、愛されてさえいたのだ。AmazonやFacebookのような会社に対する反発は、最初は過激派からのちょっとした難癖のように見える。だが時に、その苦情の小石たちは合わさって、突然軽蔑の地滑りとなって襲いかかるのだ。そうしたテックラッシュ(テクノロジーに対する反発)が、これまでのヒーローを徹底した近代的悪役へと引きずり下ろしてしまう前に、Amazonが光を見出すことを願っておこう。

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(翻訳:sako)

中国のとあるスマートシティ監視システムのデータが公開状態になっていた

何千もの顔認識データが中国の警察記録と照合されていた

スマートシティとは、住民の生活が楽になるようにデザインされるものだ。交通整理を行い、公共交通機関が時間どおりに運行できるようにし、カメラを使って頭上からの見守りを行う。

しかしそのデータが漏洩したときにはどうなるのだろうか?実はそうしたデータベースの1つが、数週間に渡って誰でも中が見られるようになっていた。

セキュリティ研究者のジョン・ウェティントン(John Wethington)氏が、ウェブブラウザからパスワードなしでアクセスできる状態の、あるスマートシティデータベースを見つけたのだ。データを保護するための一環として、彼はデータベースの詳細をTechCrunchに渡した。

これはElasticsearchエンジンを使って構築されたデータベースの1つで、数カ月にわたる何百人もの人びとの顔認識スキャンを含む、GBのデータを格納していた。このデータは、中国のテック大手アリババのクラウド上に置かれていた。アリババが名前を明かさないこの問題の顧客のデータベースからは、アリババのAI駆動クラウドプラットフォームであるCity Brainへの参照がいくつも行われていたが、アリババは後にそのプラットフォームが使われていたことは否定している。

「これはとあるお客さまによって作成され、Alibaba Cloud上でホストされているデータベースプロジェクトです」とアリババの広報担当者は述べた。「お客さま方には、安全なパスワードを設定してデータを保護することを常にお勧めしています」。

「すでにこの事案についてはお客さまにお伝えしましたので、ただちに対処していただけると思います。パブリッククラウドプロバイダーとして、私たち自身はお客さまのデータベースのコンテンツにアクセスする権利はありません」と広報担当者は付け加えた。TechCrunchがアリババに連絡を取った直後に、データベースはオフラインになった。

アリババ自身は、システムの中身を見ることはできないかもしれないが、私たちはそうしてみた。

北京市内のたくさんのスマートシティカメラの場所(画像:外部提供による)

人工知能を利用したスマートシティ技術は、都市の運営方法に関する洞察を提供してくれるものの、顔面認識および監視プロジェクトの利用は、市民の自由を支持する人びとからの厳しい監視下に置かれるようになってきている。だがプライバシーの問題にもかかわらず、スマートシティと監視システムは、中国内やクアラルンプールのような中国外の国、そして程なく西洋にも、徐々に入り込みつつある。

「市民や政府の規制や監督なしに、このようなプラットフォームが米国に持ち込まれたときに、悪用の危険性があることは、容易に想像することが可能です」と語るのはウェティントン氏だ。「企業がFBIのデータセットにアクセスすることは簡単にはできませんが、他の州や地域の犯罪データベースにアクセスして、顧客もしくは敵対者のプロフィールリストを企業独自に作成することは、難しくありません」。

今回のセキュリティの甘いデータベースを使っていた顧客が誰かは、私たちにはわからないが、そのコンテンツはスマートシティシステムがどのように運営されているかについての、滅多に見ることがない知見を提供している。

このシステムが監視しているのは、北京東部の少なくとも2つの小さな住宅コミュニティ周囲の住民たちだ。その中でも最大のものは市の大使館地区として知られるLiangmaqiao(亮馬橋)である。このシステムは、顔認識データを収集するように設計されたカメラを含む、いくつかのデータ収集ポイントによって構成されている。

公開されたデータには、人々がどこに、いつ、どのくらいの時間滞在していたのかを個別に特定し、ある個人の日々の生活を割り出せるだけの詳細なデータが、誰でも(もちろん警察でも)アクセスできるかたちで含まれていた。

顔認識スキャンを含むデータベースの一部(画像:外部提供)

データベースは、人の目や口が開いているかどうか、サングラスをかけているかどうか、マスクをしているかどうか(スモッグが激しいときにはよく見られる)、そしてその人物が微笑んでいるのか、あるいかヒゲを生やしているのか、といったさまざまな顔の詳細情報を扱っていた。

またこのデータベースには、そのフィールドを見る限り、対象のおおよその年齢や「魅力」スコアも含まれていたことがわかる。

しかし、特に中国の複雑な政治状況の中で、このシステムの機能にはより暗い面がみてとれる。

このシステムはまた、顔認識システムを使用して民族を検出し、それらをラベル付けしている。例えば、中国の中心的な民族である「汉族」(漢族)や、北京政府によって迫害を受けている少数民族の「维族」(ウイグル・ムスリム)などだ。

たとえ名前を一致させることはないにしても、民族が警察による容疑者特定に利用される可能性があるならならば、これらのデータは権力の悪用につながりかねない。

国連人権委員会によれば、中国政府は過去1年間に100万人以上のウイグル人を収容所に拘留してきた。それは少数民族グループに対する、北京政府による大規模な弾圧の一部だ。ちょうど先週には、ウイグル人イスラム教徒を追跡するために警察が使用しているアプリの詳細が明らかにされたばかりだ。

また、今回問題になっている顧客のシステムもまた、警察からのデータを取り込み、その情報を用いて関心のある人物や犯罪容疑者を検出していた。このことから顧客は政府関係機関なのではないかと思われる。

顔認識スキャンは、警察からの記録とリアルタイムで照合される(画像:外部提供)

人が検出されるたびに、データベースは日付、時刻、場所、および対応するメモと共に「警告」をトリガーする。TechCrunchが確認したレコードの中には、容疑者の名前とその国民識別カード番号を含んだものもあった。

TechCrunchのリタ・ラオ(Rita Liao)の協力によって翻訳されたとあるレコードには、「公安当局による警戒人物:要員警戒:『名前』『場所』―177台のカメラが対象人物を検出」と記されていた(名前が挙がった公安当局とは、全国の警察を管轄する「公安省」である)。

言い換えれば、そのレコードが示していることは、ある時点であるカメラが、警察の監視リストに合致する人物の顔を検出したということだ。

監視リストのフラグが立てられたレコードの多くには、認識された人物が「麻薬中毒者」または「刑務所から釈放された人物」といった属性が含まれている。

システムはまた、ビル内のアクセス制御の問題や、煙探知機の警報、ならびにカメラがオフラインになった等の機器の故障を、顧客に警告するようにプログラムされている。

この顧客のシステムはまた、中国のネットワーキング技術メーカーであるRenzixingによって開発され地区に配置されたセンサーを用いて、携帯電話やPCなどのWi-Fi電波を発信する機器を監視する能力も備えている。データベースは、ワイヤレスネットワークの範囲内を通過した日時を収集している。Wi-Fiデバイスロギングテーブルにあるフィールドは、システムが携帯ユーザを一意に識別するために使用される、IMEIおよびIMSI番号を収集できることを示唆している。

この顧客のスマートシティシステムは小規模で、センサー、カメラ、データ収集ポイントはわずか数十しかなかったものの、短期間に収集されたデータの量は膨大なものだった。

先週1週間だけでも、データベースのサイズは大きくなっていた。すなわち、まだ積極的にデータを収集していることが示唆されているのだ。

「AIの武器化と濫用は、あらゆる個人のプライバシーとセキュリティにとって、とても現実的な脅威なのです」とウェティントン氏は述べている。「私たちはこの技術を私たちの中に展開することを許す前に、既にどのように他の国や企業によって悪用されているかを、慎重に見極めなければなりません」。

このような顔認識システムが、良いものか悪いものかを決めることは難しい。砂の上には善用と悪用をきれいに分ける本当の線をひくことはできない。顔面および物体認識システムは、逃亡中の犯罪者を発見したり、大規模射撃の前に武器を検出したりすることができる。しかし、毎日見られることの悪影響について心配する人もいる。信号を気軽に無視して道路を横断する歩行者も見逃されなくなるとか。これらのシステムの普及は、市民自由団体に対して、プライバシーの問題を突きつけている。

しかし、これらのシステムが発展し、より強力で広く存在するようになるにつれて、企業はなによりも第一に、その膨大なデータバンクが不用意に漏洩することのないようにしておくべきだろう。


ご提供できるネタをお持ちだろうか? もしあるようならSignalまたはWhatsAppを使って+1 646-755–8849へ安全にネタを送っていただきたい。あるいはPGP電子メールを送っていただくことも可能だ。フィンガープリントは以下のものをお使いを。4D0E92F2 E36A EC51 DAAE 5D97 CB8C 15FA EB6C EEA5

画像クレジット: Getty Images

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(翻訳:sako)

ニューヨーク州の新しい都市計画はディストピアへの第1歩か?

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今週の初め、ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモは、21世紀半ばの完成を目指した橋(とトンネル)に関する記者会見を開催した。知事の野心的で論争の種ともなるその計画は、高速道路の渋滞を削減し、排気ガスの低減をするためにデザインされた、一連の構想である。

この構想はまた、洪水を阻止するトンネル内バリアのデザインと、地震に備えた橋の強化も含んでいる。エネルギー消費を抑えながら、素晴らしい照明のショーを提供するために、橋のLED照明化もリスト上に載せられている。ここではJay Zの音楽に乗せてイメージが示されているが、この壮大な照明はあなたのインスピレーションを促すことだろう:

当然のことながら、構想には数多くの対テロ規制が含まれている。橋やトンネルの「構造上重要な地点」の周りには、カメラとセンサーが配置される。このNew York Crossings Projectという名前のプロジェクトには、車のナンバープレートや人間の顔を認識できる先進的な画像認識テクノロジーが取り込まれるのだ。

そうした地点に展開されたあと、このテクノロジーは空港やその他の交通ハブにも適用されることになるだろう。

人権擁護団体からの反応は予想通り迅速だった。発表の翌日New York Civil Liberties Union(NYCLU)は、計画をマイノリティ・リポートと比較しつつ、知事のクオモをディストピアだと非難している。 以下はNYCLUのスタッフである弁護士のMariko Hiroseが、フィリップ・K・ディックの作品に言及しながら述べたものだ:

知事クオモの計画は、誰が何を知っているかを政府が調査するために使える、巨大なデータベースに、何百万人もの人びとのイメージとデータを格納してしまう可能性がある。罪のない人々、特に技術の不正確さによって誤認識されやすい有色人種が、テロリストとして誤って特定されてしまうという、巨大な危険性もある。私たちは、そのことが意味する深刻なプライバシー上の懸念について何の議論も経ぬまま、マイノリティ・リポートのディストピア世界に1歩近付いたのだ。

出典 The Verge

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(翻訳:Sako)