基礎研究をVC×クラウドファンディングで支援、Beyond Nextがアカデミストと業務資本提携

日本人がノーベル賞を受賞する度に、「日本では基礎研究が軽視されているのではないか」という話が挙がる。歴代の受賞者も講演や会見でこぞって基礎研究の重要性を訴えてきた。2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑氏も受賞発表後、国やメディアなどに幾度も基礎研究への投資を訴える発言を行っている。

こうした基礎研究への支援を、VCとして行おうという取り組みが日本でも現れた。独立系アクセラレーターのBeyond Next Venturesは1月29日、学術系クラウドファンディングサービスを運営するアカデミストと業務資本提携を行い、両社共同で大学などの基礎研究を支援していくことを明らかにした

「このままでは30年先のシーズが育たない」基礎研究軽視への危機感

Beyond Next Venturesは、大学や研究機関発の技術シーズの事業化支援や投資、成長支援に関しては、日本でも有数の経験・実績を持つアクセラレーターだ。2014年8月の創業以来、同社の基幹ファンドであるBNV 1号ファンド2号ファンドを通じて、大学/研究機関発の技術系スタートアップや医療・ライフサイエンス領域のスタートアップの支援を行ってきた。

アクセラレーションプログラム「BRAVE」では、実用化・事業化を目指す技術シーズに対して、知識やノウハウ、人的ネットワークを提供。2019年2月には、東京・日本橋にシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」の開設も予定しており、技術系スタートアップに対して、成長資金だけでなく、環境も含めたさまざまな形での支援を行っている。

また、早稲田大学の公式ファンド運営東海地区5大学の公認ファンド運営にも携わることが決まっている。

アカデミア発スタートアップへの多くの支援を通じて、技術シーズ(種)が生まれる環境をよく知るBeyond Next Ventures。代表取締役社長の伊藤毅氏は、だからこそ基礎研究が軽視されることへの危機感を持つ。

伊藤氏は「最近では大学ファンドなどの大学発スタートアップへの支援、投資も増えている。国の政策的にも大学の先生がビジネスに取り組むことを推奨する環境にある。一方でノーベル賞を受賞するような研究は、すぐに事業化につながるものではない。非常に長い時間をかけて結果がようやく出るものだ」と語り、すぐに実用化ができる技術や研究に資金が偏る現状に、警鐘を鳴らす。

「大学の研究資金でも、国主導の採択プロジェクトでも、アカデミアにビジネスを促す傾向にある。世の中全体が『研究したいならビジネスを先行させよう』という空気になっている。それで、本来なら20年、30年かけて地道に基礎研究するはずだった研究者が、短期成果を目指すことになっている。研究開発に時間を割くべき人がビジネスに時間を取られて、本来やるべきことのための時間がなくなっている」(伊藤氏)

ノーベル賞を受賞した本庶氏の例でいえば、免疫を抑制するタンパク質「PD-1」を1992年に発見したことからはじまる基礎研究が、免疫チェックポイント阻害薬によるがん治療の確立につながっており、今回の受賞対象となった一連の研究には20年以上がかかっている。しかもそれ以前にも本庶氏は、免疫抗体の仕組みについて地道に研究を進め、重要な発見をしているのだ。

基礎研究が軽視されることは「20年30年先のシーズが育たないことにつながる」と伊藤氏は危惧する。こうしてBeyond Next Venturesでは、これまでの技術シーズの事業化支援に加え、長期的視点で基礎研究を支援したいと考え、アカデミストとの連携を決めた。

クラウドファンディングで基礎研究資金を支援

アカデミストが運営する「academist」は、研究費支援のためのクラウドファンディングサービスだ。2014年、研究者が研究アイデアを幅広く伝えることで、研究活動の自由度を広げることを目指して公開された。

今回の提携では、Beyond Next Venturesは基礎研究に対し、academistのプラットフォームを利用して、プロジェクト化してクラウドファンディングに拠出することで、短期的な成果を目的としない支援を行う。研究原資のうちの一部をBeyond Next Venturesが拠出し、残りを賛同するほかの出資者が支援することで、プロジェクトを成立しやすくする。

Beyond Next Venturesからの出資金額は公開されていないが、ファンドとしての投資ではなく会社から出資する形を取る。基礎研究支援事業の第1弾では、大学などから5名程度の若手基礎研究者を募り、研究資金の提供を行う予定だ。

研究の対象領域は定めていないとのこと。伊藤氏は「極論すれば理系でなく、文系でもよい。若手で、やりたいことがあるのに権限がないために研究費などが確保できず、困っている研究者。そしてパッションを持って自分のやりたい研究を突き進められる人を選びたい」と話している。

伊藤氏は「日本のアカデミアの基礎研究力の低下は懸案となっているところ。人口が圧倒的に多いインドや中国では研究者も増える中で、相対的にも日本の研究者の数は減っていく。また労働人口の減少や高齢化、医療費増大などにより、国の財源確保も難しくなる中、研究費の確保も難しくなっていく一方」と研究者を取り巻く環境について説明する。

「国のほかに基礎研究を支援する機関はあるか、といったら、それは民間だ。大企業であっても、基礎研究が衰退すれば、自分たちのビジネスの種はいずれ枯渇する」と伊藤氏は危機感を表す。

Beyond Next VenturesではVCファンドを運営し、アカデミアの技術を世に出すことを事業としているものの、伊藤氏は「基礎研究も大切なことは事実。バランスを取りながら出資していきたい」としている。また「我々が基礎研究支援の取り組みを進めるとアピールすることで、基礎研究支援を手がける仲間を増やしたい」とも話していた。

GEの小さなロボットたちは、ガスタービン検査の大きな課題を解決してくれるかもしれない

稼働中のガスタービンを検査することの困難さを想像して欲しい。高熱であるだけでなく、ブレードは常に回転している。このためカメラを内部に入れてタービンを観察することは極めて困難である。ニューヨークのニスカユナにあるGEグローバル研究センターのチームは、こうした課題を解決するためにデザインされる、小さな実験的ロボットたちに取り組んでいる。

従来エンジニアたちは、内部で回転するタービンブレードの様子を観察するために、タービンシェルに予め開けられた穴に、ボアスコープと呼ばれるカメラを差し込んでいた。しかしこの手法には多くの制限がある。「従来の方法では、各コンポーネントを検査するためにカメラを正しい方向に保ちながら、タービンのすべてのポイントにナビゲートしていくことは困難です」とGEグローバル研究センターのロボットエンジニア、Kori MacdonaldはTechCrunchに対して説明した。

さらに、エンジニアがブレードの保護コーティングの傷などの問題をボアスコープで特定できたとしても、タービンを開かずにそれを修理する方法はない。つまり、タービンを停止し、それを開けて、問題のブレードを見つけて修理を行うことを意味する。この作業には最大12時間ほどの時間が必要で、その間タービンは停止したままだ。

より良い方法を見つける

科学者たちとエンジニアたちのチームがこの問題に取り組み、その「タービン外科医(The Turbine Surgeon)」プロジェクトの一部として幾つかの創造的解決策を見出した。彼らはまず、回転中のブレード間を移動するように設計された小型で柔軟なロボットのプロトタイプを開発し、エンジニアたちが、タービン内部で起きていることのビューを、ボアスコープよりも包括的に取得できるようにした。

彼らが私たちに示したプロトタイプは、PCカードほどの大きさで、きわめて明るいLEDライトと様々な方向を向く小さな高解像度カメラを備えていた。オペレーターは、プロジェクトの一部として開発したソフトウェアを使用して、カメラを操作しながらロボットをブレード間で移動させることができる。このアプローチによって、さまざまな画像を取得し、特定のブレード上の問題をよりよく理解することができるようになる。

このデザインが可能になった理由の一部は、小さなチップで利用できるコンピューティングパワーを伴う各コンポーネントの小型化だ。より効率的なLEDライトと高解像度カメラを組み合わせることで、チームは電池を使い切ることなく完全な検査を行うことができるロボットを作り出すことができた。

問題の再考

携帯電話のアプリ上の仮想ジョイスティックで、Crawlerロボットを制御することができる。写真: Veanne Cao/TechCrunch

これによって、起きていることに関するよりよい観察を行なうことができるようになったが、それでもまだ軽微な修理に対してもタービンを止める必要性に直面していた。この問題を解決するため、さらに同様のロボットが作成されたが、これには小型修理キットが付属していた。ソフトウェアでロボットを制御している人は、遠隔で修理モジュールを開け、破損したコーティングの上にチューブから材料を射出し、修理キットに付属した小さなパドルを使ってそれを滑らかにすることができる。このアプローチによって、ブレード上のコーティングをより積極的にメンテナンスすることが可能になる。

「タービンケースを開かずにタービンのメンテナンスを行うツールを開発することもできます。時間を節約できることは勿論ですが、発見次第修理を行うことができることで、部品に対する更なる損傷を減らすことが可能になります。これは喩えて言えば、歯のエナメル質にちょっとした問題を発見した際に、後で大きな虫歯の穴を治療するのではなく、その場でフッ素化合物を使って治療してしまうことに似ています」とMacdonald氏は説明した。

彼らはまた私たちに、”The Crawler”(這うもの)と呼ばれる小さなロボットを見せた。これはタービンブレードに自身を固定するための磁石のタイヤをはいた、マッチボックスのトラックのようにみえる。他のタービン外科医ロボットたちと同様に、これもLEDライトとカメラを搭載している。しかし回転するタービンの間を移動するようにデザインされた他のロボットたちとは異なり、これはブレードの上を自走するようにデザインされている。

オペレータは、スマートフォンアプリ、または仮想ジョイスティックのように動作するラップトップのアプリケーションを介してロボットを制御し、ブレード 上を移動することができる。修理キットロボットの場合と同様に、このロボットにも修理や他の仕事を行なうためのモジュールを装着することが可能だ。

これらのロボットはまだ試作段階のものに過ぎず、私達にはまだその柔軟な検査や修理を行なうロボットの写真は撮影させてくれなかったが、このプロジェクトはタービン検査の課題に異なる視点を取り入れようとするものだ。ボアスコープは単にこれまでのやり方で、誰もそのアプローチに関して再考することを思いつかなかったのだ ― このチームが検査問題に新しい視点で取り組み始めるまでは。

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(翻訳:Sako)