スペインがスタートアップ法成立へ前進、税制面で優遇や手続きを簡素化

スペイン政府は、スタートアップ法草案の詳細に同意し、議会へ提出した。議会は法案採択の議決に先立ち審議を行う。内容を修正する可能性もある。

閣僚理事会が現地時間12月10日、草案採択を発表した。この草案には、スペインでスタートアップを設立したり、スタートアップに投資したりする際の官僚主義的な障害を取り除くための重要な措置が含まれているという。

また、起業家やデジタル人材にとってスペインをより魅力的な場にするための、ストックオプションやビザの取得に関する改革も含まれている。

スペイン政府はリリースで、今回のパッケージには「ストックオプションのリターン関してEUで最も有利な扱い」が含まれていると述べた。

閣僚らは、ストックオプションの所得に対する非課税枠を、年間1万2000ユーロ(約153万円)から5万ユーロ(約640万円)に引き上げることで合意した。

また、この草案は、株の売却と会社の上場のいずれかの日まで課税を繰り延べると規定している。

その他の注目すべき税制措置としては、法人税および非居住者所得税の4年間の引き下げ(25%から15%へ)がある。これは、大きな障壁への取り組みだ。スタートアップは普通、創業期に売り上げの計上に力を注がないからだ(現行の規則では、一般的な企業と同じ税率が適用される)。

閣僚会議が採択した草案によると、新規 または最近設立された企業への投資に対する控除額の上限も年間6万ユーロ(約768万円)から10万ユーロ(約1280万円)へ引き上げられた。控除率も30%から50%になり「最近設立された」とみなす期間も延長される。

また、この改革は、スペインの創業者が抱えるもう1つの不満、スペインでの起業にかかるコストと官僚的手続きにも対処することになりそうだ。それらのせいで、スペイン国内にオフィスを構えて製品を開発したとしても、ヨーロッパの他の場所で事業を立ち上げる創業者もいる。

今回の法案では、会社設立の手続きが「合理化」され、公証人や登記の費用が不要となり、オンラインで完了できるようになるという。

スタートアップは、オンラインポータルで各種申告を提出し、特典を受けることもできる。

キーボードスタートアップであるThingThingの共同創業者であるOlivier Plante(オリビエ・プランテ)氏は、スペインの高いコストのせいで、2015年に英国でスタートアップを法人化した際、そうせざる得ないと感じたと話す。同社は、スペインにオフィスを構え、Fleksy(キーボードSDK事業)を開発している。

「私たちは3年間、1ユーロも稼げませんでした」と同氏は説明した。「最初の数カ月は、登記簿、株式、銀行、公証人(彼らは寄生虫のようなものです)など、事業の開始に多額の資金が必要でした。スペインでは最大5000ユーロ(約64万円)かかるところ、英国では70ポンド(約1万500円)で済んだのです」。

プランテ氏は、改革パッケージを歓迎している。同氏にとって最も重要な2つの点は、スタートアップの設立手続きを簡素化することと、初期段階での法人税率の引き下げだ。

現在のアプローチは、基本的に「起業家精神を初日から殺すものです」とプランテ氏はいう。あるいは、創業者となりうる人々を、創業するのに十分な資金を蓄えられる立場にある人々に限定しているという。「本当の起業家は、往々にして手段を選ばないものなのです」と指摘する。「そしてスペインでは、根本的に、貧しい人々が豊かになることができません」。

スペインのスタートアップ団体であるスペインスタートアップ協会も、閣僚会議による草案採択を歓迎したが、全文発表後に詳細を確認したいとしている。

また、議会がこの提案をさらに改善することを期待していると述べた。企業がスタートアップとみなされる年数をさらに長くすることや、(草案がそうなっていないとの仮定で)制限する条件を変更する可能性も示唆した(例えば、スタートアップが適格となるために、スタッフの60%がスペイン国内にいる必要がある、売上高がたった500万ユーロ[約6億4000万円]までであるなど)。

同協会は、スタートアップ投資家に対する税控除の拡大については「成功している他のエコシステムと同等になるすばらしいニュースだ」と、非常に高く評価している。

また、この改革案には、起業家精神を刺激するさまざまな施策が盛り込まれている。例えば従業員として別の仕事にも就いている起業家は、社会保障制度へ2回拠出する必要がなくなる(これはブートストラッピングを阻害する要因となる)。また、規制業種では、新しいサービスやMVP(実用最小限の製品)の開発を促進するため、サンドボックスやトライアルライセンスの新設が計画されている。

ただし、具体的な内容が国会でどのように修正されるかは注目だ。

法案可決の時期は、政府関係者がTechCrunchに語ったところによると2022年前半だが、可決期限は同年末までだという。

資金面では、スペイン政府は最大40億ユーロ(約5120億円)の投資目標を掲げている。欧州連合(EU)のコロナウイルス復興資金の活用も含め、スタートアップの成長を促す。

スペインのスタートアップ改革のための10カ年計画については、TechCrunchが2021年初めに行った、スペインの起業家戦略を担当するFrancisco Polo(フランシスコ・ポロ)高等弁務官へのインタビューをチェックして欲しい。

関連記事:スタートアップを経済の推進役に据えるスペインの10年計画

画像クレジット:AntoinePound / Flickr under a CC BY 2.0 license..

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

Z世代が安心して少額寄付を行えるようにするソーシャルメディアWishly

米国時間11月16日、社会的責任に焦点を当て、Z世代の視点から資金調達のあり方を変えることを目指す新しいソーシャルメディアプラットフォームWishly(ウィッシュリー)が、120万ドル(約1億4000万円)を調達したことを発表した。同プラットフォームは、消費者ブランド、慈善活動家、非営利団体の活動が交差する興味深い地点を目指している。その願いは、ソーシャルメディアの力を利用して、社会に貢献することだ。

このアプリは、経験豊富なソーシャルインパクトマーケターであり、非営利団体の資金調達者であり、管理者でもあるJoanne Gonzalez-Forster(ジョアン・ゴンザレス=フォースター)氏とJustine Makoff(ジャスティン・マコフ)氏の2人によって作られた。彼らは、Z世代の楽観主義と利他主義を受け入れ、人びとが団結し世界に真のポジティブな変化をもたらすことができるソーシャルプラットフォームの必要性を感じていた。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やBlack Lives Matter(ブラックライブスマター)への支援が爆発的に増えた2020年初頭、私たちは子どもたちやその友人たちがソーシャルメディアを使って、フォロワーに行動を起こさせたり、自分たちが気にかけている活動に寄付をさせたりしている様子を目の当たりにしました」と、共同創業者でCEOのジョアン・ゴンザレス=フォースター氏は語る。「しかし彼らにとって、非営利団体を見つけて吟味したり、少額の寄付をして友人にも参加を促すような簡単な方法はありませんでした」。

同社は、Pelion Venture Partnersの創業パートナーであり、現在は引退しているJim Dreyfous(ジム・ドレイファス)氏や、ソーシャルインパクト投資家であるJoshua Mailman(ジョシュアメールマン)氏などの、名のあるエンジェル投資家を集めることができた。この2人は、2020年に40万ドル(約4570万円)のプレシードラウンドに投資したあと、現在のシードラウンドに80万ドル(約9140万円)を投資するために他の投資家を連れて戻ってきてくれたのだ。

ゴンザレス=フォースター氏は「Z世代やミレニアル世代の子どもたちが何をしてくれるのか、私たちはとても楽しみにしています。機会はたくさんありますし、世界にはやるべきことがたくさんあります。毎日のように自然災害が起きていますし、たくさんの社会的な動きがあります。私たちは彼らが、つまり今の若い世代が、小さな行動で世界にポジティブな影響を与えることができるようにWishlyを作りました」という。「『慈善家』をGoogle検索しても、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、ウォーレン・バフェットといった人たちの写真は出てきますが、若い人の顔は出てきません。私たちはそれを変えたいのです。さまざまな色や形、そして大きさの若い顔を見たいのです」。

同社のビジネスモデルはシンプルで、プラットフォーム上で調達した資金の5%を得るというものだ。また、Wishlyは、プラットフォームに掲載されるすべての非営利団体をしっかり精査する。

「私たちはIRS(米国国税庁)から、登録されているすべての501c3団体(課税を免除される非営利団体)のリストを入手しており、それらの団体はすでに私たちのプラットフォームに登録されていて、それらの団体向けの寄付を受け付けることができます。ゴンザレス=フォースター氏は「非営利団体がアプリ上でプロフィール掲載を要求したら、それを合図にその団体の審査を始めます」という。「私たちはIRSの検索ツールを使って、彼らがIRSと良好な関係にあるかどうか、つまり3年連続できちんと税金を申告しているかどうかを確認します。また、Charity Navigator(チャリティーナビゲーター)やBetter Business Bureau(ベタービジネスビューロー)をチェックしたり、Googleでその非営利団体に関する詐欺や訴訟、誤解を招くような情報がないかを確認したりします。世の中には悪質なチャリティがたくさんあるのです」。

このアプリは現在、iOSAndroid上で提供されているが、チームによれば、このプロダクトは近日中に予定されているより一般的なローンチまでは、基本的に親しい者向けのステージだという。

画像クレジット:Wishly

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)

英テック業界の有力者2人がマイノリティ起業家を支援するチャリティのため手漕ぎボートで大西洋を横断

英国テック業界の有力者2人が、マイノリティ出身の社会起業家を支援する慈善団体のために大西洋をボートで横断することになった。

Smith & Williamsonの創業者であり、現在は起業家サービスグループの代表を務めるGuy Rigby(ガイ・リグビー)氏と、起業家で投資家でもあるDavid Murray(デビッド・マリー)氏は、英国で1万5000人以上の社会起業家を支援してきたUnLtdのために募金を行う。

両氏はこれまでに、英国のTech Nation、Founders Forum、London Tech Weekから支援を受けて約35万ポンド(約5300万円)の寄付金をUnLtdのために確保している。世界一過酷なボートレースいわれる、Talisker Whisky Atlantic Challenge(タリスカー・アトランティック・チャレンジ)にも参加する彼らの「The Entrepreneur Ship」での募金活動には、こちらから寄付できる。他のテック系団体も、スポンサーとしてぜひ参加していただきたいとのこと。

UnLtdはこれまでに、障がい者が運営するアクセシブルな雇用プラットフォームを構築したPatchwork Hubや、学校スタッフが生徒のメンタルヘルスのニーズを理解して対処するためのアプリを開発したEduKitなどのスタートアップ企業を支援してきた。

過去1年間にUnLtdは662名の社会起業家を支援しており、そのうち42%が黒人、アジア人、少数民族出身者や障がい者だった。

リグビー氏とマレー氏は、2021年12月にスペイン領カナリア諸島のラ・ゴメラ島からスタートしてアンティグア島までの約3000海里(約4800km)の距離を漕ぎ、2022年2月に到達することを目指している。2時間オン、2時間オフのスケジュールで交代しながら、横断レース期間中は24時間体制で個別に漕ぎ続けるという。

画像クレジット:The Entrepreneur Ship

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)